1. 広場
  2. トーク設定
  3. ミッション
  4. キャンペーン
  5. 運営情報
WT12ハイブリッドヘブン バレンタインキャンペーン
はじめに


コルニ

悪いな、急に呼び出して。
大した用じゃないんだが、お前の存在情報について再検査の指示が下ってな……。
目覚めてからこっち、短期間に色々あっただろう?
お前を構成する存在情報――イデア体に影響がないかの検査だ。ま、すぐに終わる。


コルニ

ついでにお前の記録について、こいつに話してもらってもいいか?
ライブラリの司書、キュビィだ。顔くらいは見たことあるだろう。

お忙しいところ恐縮です。司書のキュビィと申します。
あなたのここ数か月の活動について、報告書の提出を命じられました。
なぜって……さあ? 私も知りませんが……。
あなたが最近の事件の中心にいたからではないでしょうか?


キュビィ


コルニ

フッ……だいぶ守護神に目をつけられているようだな。
次期戦闘部隊において、お前を重用しようって噂はけっこう広まっているぞ。
検査も聴取も、新しい戦いを前にした準備みたいなものだろうな。

噂は聞いていますが……そんなに特別な咎人には見えませんね。
少し才能があるくらいでは、どうせすぐにいなくなるのが咎人の世界ですし……。
あ、失礼しました。疑っているわけではありません。
ただ私、自分で記したモノしか信じないタイプでして。


キュビィ

あなたのお話を聞かせてください。
なんでもないような普段の生活でも構いません。
私はただ、記録するだけです。
真実は――『エンブリオ』が判断してくれるでしょうから。


キュビィ

    ■告知・対応お知らせ
    【2021年4月09日】
    ・イラスト発注キャンペーンの当選者にEXP付与を行いました。
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事前シナリオ「覚醒 ~エピローグ~」

事前シナリオとは?

ハイブリッドヘブンでは3月にシナリオ機能の実装を予定しております。
当キャンペーンではシナリオ機能の実装に先んじまして、ハイブリッドヘブンの物語をお楽しみいただく企画となります!

ハイブリッドヘブンのシナリオでは「オープニング」と呼ばれるシナリオごとの状況が公開され、プレイヤーとなる咎人はそれに対してどのような行動を行うのか、「プレイング」と呼ばれる文章にて指示を作成します。
これをゲームマスターが処理し、「リプレイ」と呼ばれるオリジナルノベルを作成。プレイヤーの皆様に公開されます。
事前シナリオでは「オープニング」に対して「プレイング」を作成し、「リプレイ」を返却するまでの一連の流れを先んじてご体験いただけます。

事前シナリオ企画にはどなた様でも無料でご参加いただけます!
3月から本格始動を予定するストーリーの序章となりますので、ぜひこの機会にお友達とお誘いあわせの上、ご参加をお待ちしております!



スケジュール

2月17日:キャンペーンページ公開
2月19日:プレイング入力開始
2月24日:プレイング入力締め切り
3月8日:リプレイ公開



参加方法

事前シナリオには2月19日以降、プレイング入力を行うことで、誰でも無料で参加できます!
参加する際には選択肢から自分がプレイングを書きやすいものをひとつお選びいただきます。
プレイングさえ入力してしまえば、あとは3月8日のリプレイ公開を待つのみと簡単です。

プレイングの入力には専用の掲示板を使用します。
19日に作成される専用のスレッドに、プレイングの内容をご記載ください。

また、プレイング入力期間中は専用の相談掲示板をご利用いただけます。
一緒に行動する仲間を募ったり、雑談をしてみたり……。
他プレイヤーとのコミュニケーションもシナリオの醍醐味です。

事前シナリオは他のプレイヤーと行動を合わせなければならないような難しいものではなく、気軽にお一人様でもご参加いただけます。
どのようにシナリオを楽しむかは千差万別です。
お一人でも、誰かと一緒でも、自分にあったスタイルでお楽しみください!



参加特典

事前シナリオにご参加いただいたキャラクターには、参加特典をプレゼントします!
参加者が増えればプレゼントもグレードアップしますので、ぜひお友達を誘ってご参加ください!

参加者全員プレゼント:
「白夜の紋章(アクセサリ)」
「覚醒の種火×1」
「神威語り×1」


さらに、事前シナリオの参加者50PCごとに「イデア増幅薬×1」をプレゼントに追加します!



諸注意

・事前シナリオは無料でご参加いただけますが、すべてのキャラクターは描写されません。ランダムでチョイスされたPCによりリプレイが作成されます
・リプレイ描写の有無は無関係に、プレイングさえ入力すれば参加特典は受け取れます
・参加特典はキャラクターごとに1回のみ配布されます



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シナリオ情報(3月8日リプレイ公開!)

オープニング

バレンタインデー騒動も一段落しようという矢先、あなたは呼び出しを受けた。
なんでも健康状態のチェックと、これまでの記録の編纂を目的としているらしい。
言われてみると目覚めてからこっち、僅かな間に色々あったような気がする……。

資源世界から回収されたエネルギーを補充し、天獄界は新たな戦いを始めるらしい。
先の戦いで土地神「フレスベルグ」となし崩し的に一戦交えたあなたは、ルーキーながら今や新時代の咎人として注目を集める存在となった。
……なったのである。身に覚えのない方はバレンタインエピックを進めてほしい。
進めなくても「ふーんそうなんだ」と思っていただいて構わない。
重要なのは、あなたに守護神を含め多くの咎人が注目しているということだ。

エンブリオには咎人の存在情報を管理する部署が存在する。
ライブラリと呼ばれるその部署の司書は、名をキュビィという。
彼女はこれまでのあなたの冒険を書にまとめよとの指示を受けている。

あなたはこれまでの出来事について、真摯に回答しても構わない。
あるいは少し大げさに、あることないことを語ってもよい。
「真実はエンブリオが決めること」――キュビィはそう説明する。

新たな冒険を前に、まずはこれまでの冒険を語ろう。
あなたが目覚め、そして歩いてきた物語を――。

選択肢1:咎人の日常(凪池シリルMS)

あなたは自分の日常生活について説明することにした。
咎人が不死の転生者であったとしても、日常生活は存在する。
衣食住について説明するだけでも、それなりの記録になるだろう。

どんな場所で暮らし、どんなものを食べ、何を纏って生きるのか。
場所は咎人が暮らす「流刑街」だろうか。あるいは広場のような人の多いところか。
もしくはお気に入りの「浮遊島」かもしれない。
天獄界エンブリオには、あなたが歩き回れる場所がたくさんある。
常識的な範疇であれば、どこの記憶を語っても構わない。

ひょっとすると、あなたは一人ではないかもしれない。
記憶がなくても知人・友人はできるものだ。
楽しかった思い出があるのなら、それについて語るのもよいだろう。
流刑街で店でも開いているのなら、ついでに宣伝したってかまわない。

望むならこの選択肢では暇をしているNPCを登場させることもできる。
といっても、メインはあなたの物語である。
ついで程度に考えておく方が良いだろう。

選択肢1:リプレイ

●序

「私……流刑街の下層で小さな鳥籠屋を営んでいるの……名前は……『鴉』……」
 今、語るのは魅朱(ma0599)である。
 内容は彼女が営む店について。
 不愛想な黒猫を抱えて、軒先に吊り下げるのだという鳥籠の中に蝋燭を灯し。
 扱う商品は骨董品の鳥籠だという──彼女の店に来る前に、何かを閉じ込め、或いは封じていたのだろう。
 ……人により、様々な見え方、使い方があるのだろうと、魅朱は言う。『少し恐くて不思議な“籠”』と。
 そんな話を。
 魅朱は、変わらぬペースで静かに語り続けたし、キュビィはそれに、短い相槌だけを入れながら淡々と記した。
「形も、言葉も、感情も……もしかしたら命も仕舞えたりしてね……?」
 そんな言葉や。
「青空も……お日様も……好き、だよ……。でも……どうしてかな……気づいたら……薄暗い底へ足が沈んでいたの……」
 店を構える場所について語った、そんな想いも。

 特別な事では無さそうに、咎人たちは話したし、
 特別なものでも無さそうに、キュビィは聞き、綴った。
 ここから描かれるのはそんな、咎人たちの『日常』──

「鳥籠屋『鴉』……どうぞ御贔屓に……」
 魅朱はそう締め括って、籠に灯した灯りを吹き消した。
 静寂。
 暗転。


●ひとりの時間

 今日は時間があるので掃除をしよう、と海(ma0668)は思った。
 さしたる苦労を感じないその作業の中で、ふと、今の部屋を懐かしい過去の光景と重ね合わせる──ぬいぐるみと本とちょっとしたゲームくらいしか持ってなかったあの子の、だが、生活感が強い部屋。
 そんなことを、まだ思い始めたそんなところで片付いた。
 ……ああ。
 自分一人の部屋だ。物が少ない。
 思った以上に潰れなかった時間に一つ息を吐いて。それじゃあと、手慰みに銃の手入れを始めた。
 今まで何度も行ってきたそのうちに、手先が器用になってくれれば良かったのにとそんなことを思いながら、分解整備した部品を──己の輪郭を──組み立て直す。
 少し頭がすっきりして、そこで今日唯一の予定を思い出した。シャツを一着仕立てていたので、それを取りに行くのだ。動作時の塩梅に拘りがあってのオーダーメイド。
 立ち上がり、出かける準備をする。高くつくが、こういうことが、人生では大切なのだろう──ひとりきりなら、猶更に。


 ああ、今日も良く働いたなと、食事を前に一息吐くと共に蓮 蒼馬(ma0362)は実感した。
 いただきます、と手を伸ばし、咀嚼しながら物思いに耽る。
 今日は畑の管理をしていた。以前、アイシス様が残していった種から、薬になりそうな植物の種子をより分けて育てることにしたのだ。
 選んだ種それぞれに適した形で畑を作り。土を耕し、水をやり、時には添え木を作って立てる。戦いとはまた違った意味での格闘に、汗を流して。
「蓮家でも母上や姉上がよく畑仕事をしていたな。作っていたのは専ら毒草だったが」
 自分は見ていただけだったが意外と出来る物だ、と。
 振り返って、思う──今日と、過去とを。
「……命を作るというのも案外悪くない物だな──今まで命を奪うだけの人生だったが」
 食事を続けながら、彼は微笑を零した。心地よい疲労と、様々な想いに。


 鳳神 風峰(ma0057)はとあるその時、ベンチに凭れて、まあゆっくりと過ごしていた。
「まぁ、まったりできる余裕があるだけ記憶の中の過去よりかは楽なのかね……今は」
 ポツリと呟いた。今の怠惰に、生前の己の扱いを思い出す。
 ……今生(?)ではもう少しうまくやろう。例えば、迂闊に仕事に積極的などととられる言動など見せないように。
 だらけた姿勢から、さらに意識して力を抜いて。
「あー……糖分が足んねぇ……」
 さしあたり、今望むのはそんな事だった。そして思い出す、こないだ集めたチョコが余っていた。
 ……そうだ、甘いチョコを齧ろう。二度とブラック思考にならないように──
「辛っ! これカレールゥじゃねぇか! ブラックですらねぇ!」
 そういえばチョコもカレーもこの世界では『燃える水』製なのだった。
 ……まだまだ、こちらの世界に慣れる必要があるということだろう。ぼんやり、あたりに意識をやれば、近くの広場から、喧噪や騒ぎが聞こえてきてはまた静かになる。
 それもここの日常なのだろう。思い、風峰はあくまで遠巻きにそれらに耳を傾けていた。


「いつの世も空と風は変わりなく。そして人の営みも……うん、まあ許容範囲内ですね」
 流刑街から流れてくる喧騒を、上空から漏れ聞きながら、アルティナ(ma0144)は呟いた。
 気の向くままにゆっくりと飛び回る、これが、彼女のこのところの過ごし方だった。
 空を飛び風を感じているだけで心が洗われていく。そう感じながら、当てもなく流れていく。どこまでも自由に──否。
 突如、彼女はあからさまに進行方向を変えた──大陸の端が見えてきた、そこで。
「べ、べつに海に落ちるのが怖いとかじゃないですからね!」
 誰がいるでもなく口にする。脳裏に、不意に掠める記憶がある──空を飛べずに地べたを這いずり回らされていた。
「……」
 何となく、彼女は一度着地していた。休めながら己の羽を見て……美しいと、思う。何処に出しても恥ずかしくない自慢の翼だ。
 ──この翼がただのデッドウェイトとか冗談にもほどがあります。
 深呼吸して、頷いて。そうして、彼女はまた羽ばたいていった。


●出会いの街角

 蓮花 彩羽(ma0631)は、ふわふわとエンブリオの空を漂うように巡っていた。
 草原で綺麗な花の前でほほ笑んだり、地面に寝転んで空を眺めたり……そんな風に過ごす中、流刑街の賑やかな場所にも出る。
「わ、なんだか楽しそうなのですー」
 また何かを見つけて、彼女は降下していく。そこでは鐵夜行(ma0206)が明るく声を張り上げてビラを配っている所だった。
 彩羽は興味の赴くままに近付いて、配られるそれを一枚手に取った。
「ウチの風呂はスゲェんだ! お肌がモッチモチになるから、それを目当てにやってくる人もいるぐらいだぞ!」
 書かれているのは湯屋「剛力の湯」。彩羽は鐵夜行の傍に立ちながら、ふんふんと書かれた内容に目を通す。
「……人気の秘密はスライムだけど」
 と、ぼそっとなにか聞こえた気がして、彩羽は首をかしげながら鐵夜行に視線を戻した。はっとした顔で、鐵夜行は再度声を張り上げる。
「あとは、サウナだな! オレが設定をミスっちまったせいで、とんでもない事になっちまった! もし、入るなら死なない様に無茶はするなよ!」
 ……もはや宣伝する気なのか警告しているのか分かったものではない。しかし、彩羽はといえば「そうなんですかー。なんだかすごいですねー」と、これまたにこやか呑気に対応していた。
 まあ、流刑街の広場である。一癖も二癖もある連中は、なにも彼女らばかりでもないらしい。特攻のような鐵夜行の広告に、逆に興味を持つ者も出てくるようで。
 今日も流刑街の広場には、賑やかに人が交わって行き交っていく。
 そうして。
「あ、あっちのほうから何か美味しそうな匂いがしますー。……お腹、空きましたねぇ」
 そんな中を、彩羽はやはりマイペースに、飛び去っていくのだった。


「機械神 鋼鉄、少し雑味が出てしまっているのだ。残念だが淹れ直しなのだ」
 広場の一角に、フィンダファー(ma0415)の厳しい声が響く。
「我に不可能はなし、雑味を排除する」
 容赦のない言葉にしかし機械神 鋼鉄(ma0128)は感情らしい感情も見せず作業を再開、修正した。
 彼女らは何をしているのか、見るよりも前に嗅覚が理解する。珈琲の用意だ。それもただの珈琲ではない。フィンダファーが厳選し完璧な前準備をした豆や水を準備し、その扱いを丁寧に教示すれば、器材等の準備を万端に用意した鋼鉄が精密に作業する。
 目指すのはさっぱりとお茶のように飲めて胃も荒れない究極の珈琲。
「時間は正確に一分一秒も狂わせません!」
 それだけは自信があると鋼鉄が、今度こそと完成させた珈琲を差し出せば、フィンダファーは一口それを口にして。
「うむ、これなら満足の味なのだ。香り、一口めのインパクト、さらりとした後味、完璧なのだ。満点なのだ」
 頷くと、彼女は善は急げと言わんばかりにファドーグと呼ばれる笛を取り出し、吹き鳴らした。
「珈琲~、珈琲は如何なのだ~、美味しい珈琲なのだ~♪」
 奇妙な歌声と音色。何より、時には懇願してでも道行く人々に珈琲を渡そうとする彼女には、やはり何度か怪訝な視線も向けられる。
 そんな目を向けられれば、フィンダファーは真っ直ぐに見返して、堂々と答えた。
「──価値観の変わる珈琲を提供したいと思っていたのだ」
 と。
 以前珈琲を振舞った時にも大変好評だった。そのことから、彼女は、より多くの人に美味しい珈琲を提供したいと思ったのだ。
 息を呑み、固まる相手。そこに、
「フィン、お客様に出すのは30秒以内でお願いします」
 鋼鉄がそう言えば、訪れた人は反射的にカップを受け取って。
「──美味い」
 ……その声は、その日広場に何度上がっただろうか、


 そうやって。
 意図せずこの世界へとやってきた咎人たちではあるが、こうして声をかけあい、興味に足を運び、新たに縁を結ぶ者たちも多くいる。
 ……そう。
「本当、お姉様は懐かれやすいんですね」
 クレア・サーガスラーフ(ma0750)は、様々な感情が入り混じる声でとうとうそう零していた。
 彼女の視線の先には、その、彼女が「お姉様」と慕う存在ことクラリス・ド・ラプラード(ma00560)がいる。
 町を歩くクラリスを、クレアは護衛のようにその後ろに付きしたがって見届けて。今日その一日だけでも、彼女は様々な人から声をかけられていた。飛びつくように懐いてくるものが居ればクラリスも微笑んで愛で返して。愛着を込めて揶揄ってくるものが居れば望んだのだろう通り可愛らしく狼狽える。
 今だって。
「あら、」
 共に買い物でもしようと一緒に歩いていたコハク(ma0492)が、とある露天の前で足を止めて声を上げる。
「これなんか貴女に似合うんじゃない?」
 軽く屈んで、つ……と一つ摘まみ上げたのは、小さな鈴が付いた小さなネックレスだった。クラリスが、常々『素敵』と思う琥珀のチョイスだ。興味ありげに覗き込むと、コハクはそのまま買い上げてプレゼントだと差し出す。
「これを私に? ありがとう」
「ええ。これでこの鈴の音で貴女が何処にいてもわかるわ」
「えっ、えっ、それってどういう」
「ちょっと……あなたねぇ!?」
 つまりは、こんな調子で過ごしていた。色んな人がクラリスに関わっては、クレアはそれを見守って。度が過ぎると思った時には庇うように割って入る。
 そうやって過ごす、彼女の周りの空気は暖かくて……だから。
 クレアはまた視線を移す。今度目を向けたのは、少し前からついてきている芥=フェアチャイルド(ma0411)だった。クレアの視線に気が付くと、芥の暗く俯きがちな瞳に、一層の警戒が宿る。
「あまり、触られるのは好きじゃない。少し、離れて欲しい」
 先んじて制するように、芥はクレアにそう告げた。クレアは僅かに歩調を落として距離を取りなおす。その眼に浮かぶ人間不信を理解できない訳では無い。だが。
「あら? 寄りすぎたかしら。ごめんなさいね?」
 クラリスがはたと気付いて声を上げる。……そのクラリスは、芥にずっと寄り添うように歩いていたのだから。
 芥の表情が曇る。不快ではなく、自分の感情が定義できずに戸惑うことで。
「……別に良い。クラリスに触られるのは、嫌じゃない」
 そうして芥は、クラリスに向けてはポツリとそう言った。
 芥のような者ですら包んでしまうのだ。彼女の温もりは。懐くものが多いのも道理だろう。
「あたしも懐いた一人ですしね……」
 認めざるを得なくて、クレアは呟く。惹かれないわけがない──独りぼっちだった自分に手を差し伸べてくれた『恩人』。
 自分だけじゃない、きっと、関わる多くの人が感じるのだろう。これを『日常』と言うのだと──知らなかった、或いはもう失ったと思っていた。
 だからクレアは、クラリスとの一日一日を大事にしたいと思うのだ。……たとえ『お姉様』の世界に自分の居場所は居場所は塵もないかもしれなくても。


●また紡がれる縁

 一軒の建物の前で、高柳 京四郎(ma0078)と葛城 武蔵介(ma0505)はカタログを手に話し合っていた。
「俺はこれかな。京四郎はエプロンするの?」
 武蔵介が、制服や作業服が並ぶページ、その中の黒の襟付きベストと黒ズボンを指して言えば、
「食器は陶器の物が良いな、淹れた茶の温度が徐々に伝わるんだ……綺麗な白磁のなんかあればいいんだが」
 食器類が纏められたページでは、京四郎が主導してあれこれを決めていく。
 話す内容はそう、喫茶店を始めるための準備だった。時折に顔を上げて、その予定地となる店舗を見る。いや、その構えはまだ『店舗跡』と呼ぶべきものか。かつては誰かが使っていたのが、そのまま放置されたのか。目の前にあるのは荒れ果ていて、相当に手を入れなければ使えそうにない。
「看板は必要だな……個人的には月をモチーフにした物が望ましい気が」
「月をモチーフにするなら、店内BGMはクラシックが合いそうだな。それとも敢えて尺八とかで渋くするか」
 それでも、ここを店にすることを、二人とも疑う気はないらしい。壁紙はどうだ、テーブルクロスは……と、二人あれこれと話し合う
「ほかに武蔵の方で何か気になる事とか要望があるか?」
「京四郎がどういう店にしたいのか、客にどう感じてほしいのか、そこは方針としてブレずにいてほしいな」
 店主が京四郎で、武蔵介は、腹が減るからと賄い付きで雇われることにしたという関係だ。主導の権利と責任は、京四郎にある。
 その事を改めて認識して……武蔵介はふと、京四郎の顔を見つめていた。
 こびりつくような前世の記憶がある。雇われるのには懲りた筈だった。彼に対して今この立場を自ら選んだのは、何故なのだろう?
「よし、じゃあ……床板の入れ替えからかな」
 京四郎そういって、いざ肉体労働が始まって。疑問はいつしか、流されていく。
 ……その後。
 武蔵介が掃除機を(どうやってか)暴走させて退治する羽目になったりしたのはまあ、愛嬌の範囲だろうか。


「仮初とはいえ、死してまた生を得るとは」
 道行きながら、フィリア・フラテルニテ(ma0193)はしみじみと呟いた。彼女が行くその隣には、氷雨 累(ma0467)が同行している。
 約束があったわけではなく、街を見て回っていたら偶々行き会ったのだった。まあ、これも何かの縁なのだろう、と累は思う事にする。
「生きるとは食べ続ける事です。お腹が空くのは悲しいものです。空腹にお菓子は最高です」
 累が彼女の方を見るその度に、何かしらの駄菓子がその口に放り込まれていた。視線に気付けば、真面目な口調でフィリアは言う──実際存外大事なことかもしれないが。
 道中はさながら、食べ歩き探索道中となっていて、なんだかんだ、累もそのご相伴に預かる形になっていた。
「塁様はお元気ですか? 記憶が不安定になったりしてないです? 帰る家は分かりますか?」
 その最中、何かの折にフィリアは累に声をかける。
 ……何故か、累には構いたくなるのをフィリアは自覚していた。会った時から初対面という気がしないのだ。
 累の方はと言えば、年上の家族が多くいたような気もしていて、彼としても彼女には初対面感は薄い。気もして、というのはつまり、彼女が心配する通り、元の世界での記憶が殆どあやふやという事ではあるのだが。
 そんな風に話しながら歩いて。
「んー、この辺は一回りしましたね」
 とある一角に出て、累が気付いて呟いた。
「思ったよりもペースが早かった……いえ、歩くじゃなくて食べるペースですけど!」
「お金を貯めてご飯を食べ、家に帰って布団で寝る。死んでもこの循環からは解放されませんでしたね。でもお菓子は美味しいので幸せです」
 続けて思わずツッコむ累に、フィリアは相変わらずマイペース。
 気の抜ける相手だが……なんだかんだ、信頼されるタイプだと累は思う。
「では、帰りは僕のお気に入りの所に行きましょう。最後くらいは奢りますよ、楽しかったお話のお礼です」
 そうして、彼らは今日を、そう、締めくくることにしたのだった。


 第五階層の、突き抜けるような空の下、草原を爽やかな風が撫でていく。
 青い空だ──と、アストレイト・ヴォルフ(ma0258)は思った。彼女が見せてくれた空。普段暮らす第三階層のみならず、かつて生きてきたスラム街とは違う。
 広い空だ──と、風花雪乃(ma0597)は思った。彼が照らしてくれる明るい世界。いつも見上げる、部屋の窓枠で切り取られたそれでは無く。
 自然を満喫できる広い草原で、アストレイトは今、漂着して来たバイクを何とか修理できないかと悪戦苦闘の最中だった。
 雪乃は傍で腰掛けて、微笑してそれを見守っている。スカートの膝上には先日演舞のご褒美にと貰ったタコ焼き。また一つと楊枝で刺したところで、手と顔を煤塗れにしたアストレイトがちょうど振り向いて。ついでの振りをして食べさせてあげたら、申し訳なさを見せるくらい彼は旨さに感激してくれた。
 草原で、寝転んでのんびりと。直ぐ側で声をあげて笑う雪乃に、元いたスラムでは夢のようだ、とアストレイトは感じていて。
 機械の音と鳥の声。彼の声。笑う横顔。そんなことが嬉しい。……犯した罪に似合わないほど、と雪乃は感じていた。
 アストレイトはまた起き上がって、壊れたバイクとの格闘を再開する。諦めるつもりは無い。彼女に自分の大好きなメカの面白さを見せたい。直せればちょっといいところも見せられる。
「なあ。こいつが動いたら、お前も連れて行ってもいいかい?」
 また作業の途中で振り向いてアストレイトが言うと、雪乃の笑顔がまた一層、喜びに綻んだ。
「どこまで連れて行ってくれる?」
「目的地はまだわからないけど──お前はずっと一緒に」
 問い合って、答え合って、見つめ合う。
 互いに心惹かれることに。これからはこの人の為に戦うのだとその事に、何の疑問も沸かなかった。
 ──互いに、生前の相手との事は覚えていないのに。
「分かったわ。それと──アストレイト、って呼んでいい?」
「それなら、雪乃って呼んでもいいかってのも、聞かなきゃな?」
 また、ここからでも。当たり前のように。


「はてさて、なんの因果なのかねえ」
 呟いたのは歩夢(ma0694)である。目の前には雀舟 雪(ma0675)と優夜(ma0725)。気が付けば、三人ともにここに居て。三人は、互いに顔を見合わせる。
 ……いや、単に見合わせる、と言うにはその視線の行先に偏りはあった。優夜の方──より正確に言うならその背にある翼の方に。
 優夜自身、この翼には馴染みが無かった。馴染みが無いのに、動かすことに違和感はない。
 多分……ここに来る前の自分には無かったんじゃなかろうかと優夜は考える。目の前の二人の反応を見るにも。
 戸惑いながら見返す優夜に、雪が近づいて言った。
「綺麗な翼ですね。素敵ですよ?」
 不安ならば消せるように、と、雪は優夜の翼に優しく触れて頬ずりする。
「ん。まあ翼なんか生やしちまっても優夜なのは見間違えようが無いしな」
 そうして歩夢も、さして問題でも無い事のように告げて。
 ……そんな二人の反応を、優夜もまた、分かっていたかのように自然に受け入れた。
 これもまた不思議な事ではあるのだが。優夜のの以前の記憶はあやふやだ──それこそ、こんな翼があったかどうか自信が無いというレベルで。
 なのに、確信がある。歩夢と雪、二人の事は覚えている。
 見知らぬ世界で、自分が誰なのかはっきりとはわからない……けれど、この二人が居てくれるなら、きっと大丈夫だと。
 だから。
「3人で暮らさない?」
 優夜は、当たり前のようにそう提案した。
「ね、いいでしょ。雪」
「勿論。優夜がそういうなら決定ですね」
 即答する雪。彼女の中では歩夢に決定権はないらしい。
「え、マジかお前ら……?」
 歩夢からは制止の声が零れる。不服かどうかはともかく理性がそうさせざるを得なかった。……何故って、歩夢はこの中で唯一男性なのだから。
 しかし。
「? 例え私が男で歩夢が女であったとしても、私は三人での暮らしを望みますよ」
 その事を伝えても、雪からは返ってくるのはそんな反応だ。……もし実際そうだったら、その方がどうなんだ、と、歩夢は益々呆れ顔になるが。
「両手に花ね、歩夢」
 揶揄う優夜の声も、気にするつもりは全く感じられず。
 気付いてなかった、ではなく、そんなことは関係ない、が、掛け値なしに二人の本音なのだろう、と分かる。そうなれば。
「ま、嫌ではないけど、な」
 それが、偽ることのない──その必要もない──歩夢の本音ではあった。
 どれほど世界が、状況が変わろうとも。
 歩夢にとって二人は。学び舎を共にした、戦友で。
 雪にとっては、幼馴染の二人が傍にいる、それだけが世界の全て。
 記憶のあやふやな優夜とて例外でなく、三者三様に──この三人でいればきっと何があっても大丈夫だし、退屈しないと信じている。
「じゃあまあまずは家の準備からするか」
 歩夢がそういうと、皆で頷いて。
 三人は、この身知らぬ世界に一歩を踏み出すのだった。


 カラン、とドアベルが揺れて音を立てると、浦戸 真木(ma0321)は振り返り声を上げた。
「いらっしゃいませー。『珈琲Kantate』にようこそ」
 明るい声で客を出迎えると、やってきた二人、瀬織 怜皇(ma0752)とUisca=S=Amhran(ma0753)も笑みを浮かべて会釈を返して、促された席へと行儀よく着席する。
「本日の日替わりは、合挽ハンバーグ80gにのしめじと人参のソテー添え、ハーフサイズのぺペロンチーノのセットです」
 真木が慣れた様子で案内すると、怜皇とUiscaは頷いてメニューを吟味する。結果、ソースを別々にして互いにお勧めの日替わりを頼むことにした。
 注文を確認し、真木が一度厨房へと引っ込んでくと、二人は改めて顔を合わせて微笑み合う。
「……イスカとまた一緒に居れるのは大変喜ばしいですね」
 怜皇が言うと、Uiscaも幸せそうに頷いた。
 暖かでどこか甘い空気が二人の間に流れている──なにせ二人は、生前からの夫婦なのだ。怜皇がこの世界に召喚された直後は記憶もあやふやだったが、Uiscaと再会したことにより、多くの事を思い出している。
 今日は、二人のんびりデートをして流刑街を見て回り、広場を回って、この喫茶店に辿り着いた。
 やがて料理が運ばれてきて、二人ゆっくり食事を開始する。
「イスカ、俺は生前は早くに亡くなったけれど、その後はどうでしたか?」
「レオが死んでから争いとかもあったけれど、おおむね平和だったよ。娘も私が森に引き籠ったあとは、私の跡を継いで巫女の仕事をがんばってくれたし」
 お喋りの内容には生前の事も含まれていた。その様子は語る方も聞く方も穏やかで、今にも過去にも、悔悟や未練は感じられない。意図せぬ転生、見慣れぬ世界においても、今互いがいることが十分だと言うように。
 そうして会話の時折に、真木が水を足したりなどにやってくる。勿論、会話の邪魔をしない適切なタイミングを心掛けてだ。店内に流れるのはアリア。クラシックが中心かと思えば時折ジャズなども流れる。心地よい空間だった。
「ここの料理はとても美味しいですね。イスカはどうですか?」
「うん、おいしいね!」
 また真木がやってきたタイミングで怜皇が尋ね、Uiscaが頷く。
「ありがとう。気に入ってもらえたなら、コーヒーショップなので、食後にでも注文貰えるととっても嬉しいなー♪」
 真木は笑みを浮かべて、そうして、調子よく言った。怜皇とUisca、二人でくすりと笑ってから、ケーキのメニューに手を伸ばす。
 結局、食後のケーキとコーヒーも堪能してから、二人は店を出ていった。美味しい料理と、新たな出会い、その両方に満足しながら。
 そうして真木も、二人を見送った後、次の客を迎えるためにと片付けと準備を開始する──今、この瞬間の自分の日常を、噛みしめながら。


●奇なる遭遇

「今日も一日、目立った成果はございません……か」
 ポツリ呟き、空木(ma0831)は僅かに歩調を落としていた。
 道すがらに食べ物の店舗や露店を見つけては食べ歩く今日の散策。……その中に、自身の失われた記憶の欠片を見出すことは今日もなかった。
「……美味しい食事は、成果でしょうかね」
 慰めのように呟いてみた。美味しいは正義、甘いお菓子は人生だと、彼女は強く信じている。それでいて、料理の才能は持つことは出来なかったが。
 ぼんやりすると、遠く喧騒が聞こえてくる。気になりはしたが、騒ぎの渦中に飛び込もうとは思えなかった。
 怖がりだ。自覚して不安を覚える。こんなことで記憶の手がかりを探すなど出来るのか──浮かぶ想いを払うように、身に着ける鈴を弾いた。微かな優しい音色に、少し精神が安定するのを感じる。
「そこの貴女、どうかしたの?」
 声をかけられたのはそんな時だった。振り向きざまに小さく身を竦め、目を見開いたのは、単純に不意の事に驚いた身体が。
「あ、怖がらせたかしら。ごめんなさいね」
 ララ・アリスベルン(ma0294)はどう思ったのだろう。青白い肌をした天魔種。その見た目に対する自認。だが。
「困ったことがあったら、助けないとね♪」
 その声は、空木にはただ優しいものに思えた。だから。
「……実は、少し道に迷っていまして」
 自分でも驚きつつも、そう伝える──別に誤魔化しだけでもない事実ではあった。
「まあ、それは大変ね。どこへ行きたいの?」
「何処……というと難しいですが」
 なにせ当てもない散策だったのだ。もう少しぶらつきたいので、出来ればこの辺の把握と、分かるところまで出るにはどうしたらいいかが聞ければいいのだけど、というと、あら、お揃いねとララは笑った。彼女も今日の目的は気ままなウインドウショッピングだったらしい。
 ララは空木の注文にうーんと首をかしげて、そしてはっと気付いたように言う。
「そう言えば、交番があったわね♪ そこで聞きましょう」
 ……かくして二人は、風晴 景(ma0340)が詰める交番へとやってきたのだった。
「この街は日々変化するから、把握が大変ですよね」
 景はそう言って、自作の地図を広げ説明してくれる。そう……仕方ないのだ、記憶もないですし、と思わず空木はこくこくと頷く。
 ララはそうして、空木が無事帰り道を把握できたことに満足していた。
「よーし、今日も1日、良い日になりますように、頑張るわ!」
 ララがそう言って、彼女たちは交番を去っていく。
 景もその後、そんなララの意気に押されるように、街を見て歩こうと一度交番を発つのだった。

 巡回する景がとある広めの街路に差し掛かった時、佐藤 桜歌(ma0034)の華やかな声が響き渡ってきた。
「みんなーっ、よっろしくーっ☆ 自称アイドルの佐藤桜歌、今からお友達と路上ライブをやるよっ☆」
 足を止めた人たちが、それぞれに歓声や口笛、拍手などを上げている。
 景はまず、そっと様子を窺った。交番、というが、実の所景が勝手に始めたものだ。添うべき法がある訳でもなく、トラブルがあれば仲裁する、というのが行動指針になる。
 今のところは騒音等の苦情が出るわけでもなく、集まる人たちは皆彼女たちのパフォーマンスを楽しみにしているようだ。
 演者は総勢五名。初めに声を上げた桜歌は、白軍服のようなアイドル衣装に身を包み、華やかなポップスを歌い始めた。
 歌詞に込められるのは夢や希望、明るい前途を感じさせるもの。彼女自身、ここがトップアイドルの第一歩として、いずれは大観客を収容できるステージに立つことを夢見ている。
 そんな彼女の歌とダンスを支えるバックダンサーと楽器演奏。
(……それにしても、どんな品揃えしてるんだかね、駄菓子屋さん。まさかウッドベースまであるなんてさ)
 シェル・イステル(ma0367)は内心で舌を巻く。剛力種に相応しい長身を持つ彼女は、重厚なその楽器を「こっちの方がやりやすいんだよね」と、ギターのようにストラップで肩にかけて掻き鳴らす。
 モルディウス(ma0098)はキーボードを担当。今日の活動を彼女らはガールズバンドwithモルディウスと称した。なぜモルディウスだけ切り抜かれているかと言えば単純、彼が「ガールズ」の枠組みから外れるからだろう。それでもこんな自分を誘って来る奇特な仲間に微力を尽くそうという気持ちの表れか、なんと女装での参加。その特性を最大限に生かしてか、男性的力強さと、女性的しなやかさを併せて魅せつつ、心地よさそうにキィを叩く。
 五人がそれぞれ、とりどりに技術を、個性を発揮する。
 重なり合う歌声と音色。叩きつけられる情熱に、否応なしに魂が揺さぶられる──通行の妨げにならないようにと整理誘導を行っていた景まで、何時しか引き込まれて浸るほどに。
 ボーカルとダンサーが交代すると、曲調も一転しメタルが始まって。
 かと思えば、
「……あ、そこのお母さん。モルディウス殿はちょっとアレだからね。お子様には見せないであげてね」
「シェル嬢、合間に何か失礼なことをお客さんに吹き込んでないかい?」
 そんな掛け合いを挟んでは、観客の笑いを誘う。
「動画投稿サイトにアップもOKだよっ☆」
 盛り上がったところで、桜歌はこれからにも向けたアピールも欠かさない。
 最後まで喝采と熱狂に包まれて、ライブは終わりを告げようとして。熱気の反動のようなクールダウンの空気が、周囲に帯びてきて。

「素晴らしい演奏でライブでしたね!」
 そこに、新たに上がる声があった。
「ということで皆さん、パイはいかがですか!」
 現れたのはシェパーズ(ma0308)である。そして当然の如く、その論理展開についていけるものは彼女以外この場にいなかった。これも仕込み? と観客が視線で問えば、桜歌は勿論首を振る。
 唖然とした雰囲気も何のその、シェパーズは人が集まるこの場をこれ幸いにとパイを配りまくった。何故? 直感と本能が命じるからである。ここまでも、歓談の場に、騒動の場に、煩悶の場にとその他あらゆる場面でパイを配り歩いてきたのだから。
「甘い物、しょっぱい物、食事になる物、邪教の儀式に使えそうな物、いろいろなレシピを仕入れております」
 そして、彼女がそう告げた瞬間。
「あーまーいーもーのーだー……?」
 その言葉に反応するように、通りの向こうから更なる気配が膨れ上がる。
「てことは! そこに! プリンは! あんのかあああ!」
 トイ・ルーマン(ma0629)だった。彼もまた、半ば衝動に支配されたような瞳を滾らせて、一気にシェパーズへと距離を詰めていく。
 このトイであるが、昨今の咎人たちの活動に伴いタコ焼きやチョコの匂いを嗅いでいたら、無性にプリンが食いたくなったのだが──いや、今の話にプリン要素あった?──不幸なことに今日ここに至るまでに通った店、露店どこに行っても、プリンは扱っていないか売り切れだったのだ。
「プリン置いてけ。なぁ、プリン置いてけや」
 とはいえそんな事情はこの場の誰も知る由もないのだから、こんな風に詰め寄られるのは完全にとばっちりではある。が。
「プリンはありません! パイはいかがですか!」
 ここまでプリンを求める相手にあくまで押し切ろうとするのも中々である。
 カッ……! と、二人の間に雷光が見えた気がした。そして、
「うおぉーー! プリンはどこだああああ!」
 トイは走り去っていった。そしてシェパーズは、がっくりと肩を落とす。
「無念です……プリン欲を満たせるパイ……精進いたします」
 あくまでパイなのかそこで。
 精進を誓う彼女に、押し付けられた観客の一人が、「いや、あんたのパイ、美味かったよ……?」などと慰め、それにシェパーズが喜んで、と。
 そうして、ここまでの一連を見届けた──ただ見届けるしかできなかった──景は、天を仰いでポツリと言った。
「……私も分かってきました。この街では、これで十分平和なんだって」
 そう……今日、ここに事件は何も起きていない──ただただカオスがあっただけで。
 これが流刑街。ある程度のことは放っとかないとキリがない。
 確かな慣れを感じながら、景は今後も町の平和に微力を尽くすことを誓い直すのだった。


●締

「私は、サクちゃんと流刑街第3階層に住んでいます」
 月読 結(ma0552)が語るのは、彼女の普段の生活ありのままの事で、インタビューを受けるその場には、その、サクちゃんと呼ぶ大神 朔夜(ma0769)が共にいた。
 彼女らが暮らす家には花壇と家庭菜園。規模は小さく、住人が消費する程度のもの。
 今この場に供されているハーブティも、その家庭菜園で収穫したものだという。
 幼い唇から零れる言葉から見えてくるのは、ありふれた咎人としての日常だ。近所付合いを含めた日常生活をして、時には浮遊島へ出掛けてエネミーと戦う。
「死んだ筈なのに、死ぬ前と同じ様な暮らしをしている……いいえ、しようとしている……」
 そんな風に感じながら、しかし、徐々に当たり前になりつつあることも彼女は自覚しているようだった。
「不思議な感覚です…でも、今ここに『在る』事は……そうですね、幸せです」
 と。ポツリ、微かに笑って結が告げたとき。
「結ちゃ~ん!」
 いきなり、朔夜が感極まった声を上げて彼女を背後からぎゅーっと抱き付いた。
「あぁっ! お嬢の笑顔は今日も可愛い!! たまらんぜっ!!」
「……サクちゃん、苦しい……動けない……」
 これまで、黙々と記録に努めていたキュビィの瞳に初めて別のものが宿った気がした……そう、冷ややかな温度、と言うべき。
「犯罪? ノンノン、俺とお嬢は家族みたいなもんだぜ?」
 臆面もなく言う朔夜にキュビィはただ、視線を向け続けると、朔夜は一つ咳払いをして、表情と居住まいを正した。
「面白れぇよな、俺ら一度死んでるなんてな」
 誤魔化すような言葉だが、しかし滲む想いも見て取れる──死ぬ前より、もしかしたら今の方が平和に暮らしているのかも、なんて。
 そうして朔夜は、不敵に笑みを浮かべて、キュビィに向かって言って見せた。
「とりあえずは、『今』っていうこの時を生き抜くだけさ」
 と。
 キュビィはそれに何か言うことは無かった。ただ少しだけ、何かを探すようにその表情を見つめていた。


 キュビィは、咎人たちの話に対して何か感情や意見を見せることは無かった。
 皆平等に、ただテンポだけは保つよう、相槌だけを入れながら記録して、彼らの話が終われば礼を言って辞す。
 特別なものでも無い。
 ここに至っても、書き留める彼女の想いはそこからさほど動かない。
 だからこそ、その端々に、彼女は探す。
 ──だから、何が違うのか、と。
 幾度となく現れては消えていった泡沫のような咎人たちと、彼らは。

 色々な咎人の姿が、ここにはある──だがやはり『咎人』たちだ。
 ──自覚の有無に多少はあれど、例外なく、魂に何らかの傷を抱える者たち。
 忘却故に。或いはそれが叶わない故に。
 欠落は綻びとして傷口を広げ、やがて消失へと向かわせる。

 それでも……これまでとは違う意志。強固な絆。或いは彼ら自身予期せぬ運命を引き寄せる力。そんなものを。
 ……これを読む誰かは、ここにそれを、見出すのだろうか。
 まだ分からない。
 ただ。
 報告書は、そして彼らの物語は、まだ、続く。これから始まる……──


選択肢2:バレンタインデーの思い出(電気石八生MS)

バレンタインデーはつい先日のことだ。
資源世界「チョコレートプラネット」の冒険も記憶に新しい。
チョコレートもしくはカレーを作ったとか食べたとか、そういう話をするのもいいだろう。

日頃の感謝を込めて、友人や恋人にチョコレートを渡したりもしたかもしれない。
もしくは集めたチョコレートはすべて奉納してしまっただろうか。
大変だったとは思うが、なんにせよ思い出として語るに値するだろう。

熱帯林や砂漠、遺跡を探索し、エネミーと交戦した話も盛り上がりそうだ。
どんな冒険をしたのかは人それぞれ、個性の出るところだろう。
多少、脚色を加えても構わない。冒険譚とは大なり小なりそんなものだ。

そういえば、節分なんてものもあった。
天獄界ではまったく取り上げられなかったが……この選択肢に含むだろうか?

選択肢2:リプレイ

●記録の開始
 キュビィは平らかな表情で咎人たちを促した。
「お集まりいただきありがとうございます。では、こちらへどうぞ」
 咎人たちは今より、彼女へ自分の経験を語る。
 内容は、この世界を統べる守護神三柱が協働して開催したイベント――咎人たちにチョコレートを奉納させ、守護神への信心あるいは熱情を示させるもの――において、彼らがなにを為し、成したものか。
 そうして集められた多彩な物語はキュビィによって記され、三柱へと届けられるのだ。
「最初の方、お願いします」

●遺跡の冒険記
 チョコレートプラネットには、いつ誰が建てたものとも知れぬ遺跡が点在する。
 そこを冒険した者たちは、その記憶をキュビィへ語った。

「すごいですヴィーさん本当にすばらしくてもう興奮です!」
 眼鏡の端をキラっ。よく噛まないなと感心するほどの早口で言い切ったシア・メルクリウス(ma0313)へ、ヴィー・D・ノヴァディエン(ma0236)はちらとも目を向けることなく言い返した。
「きみがうるさいせいで私の集中が切れる」
 サングラスの奥に隠した赤眼へ“力”を灯したヴィーが呪文の詠唱を開始すると同時、シアはスキルをもって彼女のサポートへ入る。示し合わせも言葉の指示もなく、ごく自然にだ。
 そう、ふたりは言葉に依らず、完璧な連携が取れる。どうやら前世からの縁というものがあるらしく、シア曰く「体が憶えてるんです!」とのことだが……きっと腐れ縁に違いない。
 と、それはともあれ。
「秘象の文字よ、虚空に躍れ――風よ」
 ヴィーが中空に描き出した魔法文字からあふれ出す術式。
 彼女がチョコレートプラネットへ来た理由は大きく分けて三つ。神への貢献と未知なるなにかとの出遭い、そしてキャスターとしての力を存分にぶつけられる敵と対するがためだ。
「ほんとにヴィーさんはすごくてすばらしくて興奮します!」
 ヴィーをサポータースキルで支えるばかりでなく、シアは簒奪者の目を引きつけ、攻撃をかわし、時に盾となってヴィーを護る。
 その間に自らを砲台として据えたヴィーは魔法陣を完成させ、簒奪者の核へ撃ち込むのだ。
「――爆ぜよ」
 かくて戦いに勝利した後、シアは傷ついた顔をどやっと決めて、
「どうですかヴィーさん! ワタシだって捨てたもんじゃないでしょう!?」
 対してヴィーは、おもしろくない顔で肩をすくめてみせるのだ。
「憎めないことだけは認めよう。同じほどには面倒だがな」

 “燃える水”ことチョコレートを手にしたケイウス(ma0700)は息をつく。さすがに数々の罠や敵に護られた迷宮の最深部、最高級品である。
 それだけでも十分満足してはいたが、こうなれば十二分に得たいと思ってしまうのは、忘れ果ててしまった前世の記憶によるものか。
 まだ隠し部屋とかあるかも。そう思って探索を再開した彼は再会してしまう。上階で彼に撒かれ、実は執拗に追いかけてきていた敵たちと。
「来いよ、俺の秘められた力、ここに解放するってウソですほんとごめんなさいーっ!」
 脱兎を置き去る勢いで逃げ出したケイウスだったが、追ってくる敵の数はどんどん増えていって。
 朱に彩づく翼で敵の頭上を飛び越え、彼奴らが大渋滞を起こした隙に地上へ抜け出したのだ。
「まぁ、冒険には危険が付き物ってことで」

「あらあら、せめて美しく散りなさい」
 告げたアリス・フェルナティート(ma0710)は次の瞬間、横回転に乗せて得物を振り込み、遺跡にひしめくエネミーの面を撃ち砕く。
 見かけこそ醜悪だが、エネミーもまたこの遺跡と同様にチョコレート製。だからこそアリスは一閃で敵を屠り続けるのだが。
 キリがないわね!
 動き続けたせいで体は火照り、息は荒くなる。しかし敵はいくらでも沸き出してきて……ああ、体が熱い。いや、暑い?
「っ!?」
 足を滑らせかけ、なんとか踏みとどまったはいいが、今度はなにかにまとわりつかれて動かない。
 溶け出していたのだ。戦いにより生まれた熱のせいで床が、壁が、天井が。
 かくてチョコレートに押し包まれた彼女は動きを止められて、あげく一体のチョコレート像と成り果てる。
「ああ、次はもう少しマシなポーズで――」

 冒険を次に生かしてこその忍者です。温故知新、勉強三昧、焼き肉定食です。
 忍者としては豊かすぎる胸の内で唱え、孤影(ma0482)は遺跡の壁を蹴ってふわりと跳んだ。
「忍者参上です!」
 宙で体を捻って鋭く後ろ回し蹴り、エネミーの首をへし折った反動に乗ってさらに半回転。敵を斬って落とす。
「散華するがいいです!」
 床へ降り立つと同時に一転してエネミーの攻撃をやり過ごした彼女は、顎先を摺りつけるほど低く上体を倒し込んで駆ける駆ける駆ける。その中で、逆手に握った刃を右へ左へ閃かせ、
「シュバババーン! 必殺、忍者斬りです!」
 駆け抜けた孤影が足をひとつ踏み鳴らせば、ずるりと崩れ落ちるエネミーども。
「これにて一件落着だといいと思うです」
 感慨を込めてうそぶく彼女だったが、実はこの話、8割方妄想なのだった。

 秋原 真咲(ma0239)は両手を拡げてキュビィへ語ったものだ。
「スサノオ様にチョコとカレーいっぱい奉納したくてがんばった! ま、苦労は特になかったんだけどねー」
 ここからは彼が語った内容へ、真実を足してお伝えしよう。
 遺跡を進む彼は数多のトラップを華麗に回避し(すべてにいちいち引っかかったおかげで、帰り道だけは)悠々クリアした。
 その道中で遭遇したエネミーどもは、磨き上げたスキルと天賦の才をもって殲滅した(他の咎人たちが。ただ、彼が出遭うエネミーはいつも大群だったし、唯一単体だったフレスベルグは超強力で……しばらく彼はフライドチキンすら見たくない気分だ)。
 とまあ、なかなかに不幸でそこそこに自業自得な彼の奮迅は、以下のひと言に集約されていたのだ。
「周囲にドン引きされても呆れられても、ボクは絶対めげなかった!」

 ギルド【Euphoria】。「いつしか」来る戦いに備えて互いの力を合わせることを誓ったメンバーたちは、一丸となってとある遺跡へと挑んでいた。
 遭遇した簒奪者へ敵意がないことを示しつつ、壱子(ma0018)は努めて抑えた声音を投げる。
「ねえ。私の声、聞こえる? 言葉は通じる? できれば乱暴したくないの。アナタたちが何者なのか知りたいだけ」
 それに続き、白花 琥珀(ma0119)もまた笑顔を向けて、
「こんにちは! あの! お話わかるなら右手を挙げてください!」
 ――一行の後衛に位置取るエイリアス(ma0037)が、遭遇の様子を記録していたエゲリア製のカメラ越しに叫んだ。
「散開っ!」
 聞き返すことなく右と左へ跳びすさる壱子と琥珀。
 そのちょうど真ん中へ跳び込んだ簒奪者が得物を空振り、蹈鞴を踏んだ、次の瞬間。
「残念ですが、話が通じるお相手ではないようです!」
 清廉なる気の奥より、ぎちり。鬼気噴き上げた閥 一葉(ma0305)が、簒奪者を袈裟斬った。
 仲間が簒奪者へ語りかける間、ただ立っていただけにしか見えなかった彼女。しかしその体内にはいつでも踏み出せるだけの力が練り上げられていた。そう、この後の先を為すに足るだけの力がだ。
 ――前世の私は戦場を得られぬまま死んだ戦餓鬼。今こそ存分に滾らせていただきましょうか。
 果たして先手を取った一葉を、もちろん他の者も見守ってはいない。
 宙へ飛んだエイリアスのカバーに入った壱子は、顔を上げた簒奪者へ魔法を放って視線を引きつけた。
「アンタたちは誰の指示で動いてるの!? 上の簒奪者? それとも邪神?」
 返る答はなく、壱子は眉根を押し下げる。
 話は通じないのね……だったら!
「みんな後ろは任せて!!」
 覚悟は据えた。これよりは迷うことも惑うこともなく、眼前の敵を撃ち果たすのみだ。
「了解しました!」
 一葉の間合を潰さぬよう前へ出た琥珀が、簒奪者の視界を塞いでさらに攪乱。そして、
「閥さん!」
 スキルと我が身とを併せ使って一葉を支えつつ、簒奪者へ攻撃を加えていく。
 至らぬ身であることは承知していた。それでも守護神や他の咎人、仲間の役に立ちたいと意を決してきた。その上で、
 簒奪者……彼らを楽にしてあげたい。昔の私も、死が救いだったから。
 アタッカーである一葉を軸に琥珀、壱子が簒奪者を押し込んでいく様を、上空からカメラで記録するエイリアス。
 記録を残すことは、ギルドばかりでなく他の咎人の“次”にも役立つはず。だからこそこの記録は持ち帰らなければならない。そのためにも、勝たなければ。
「行きます!」
 カメラを構えたまま急降下、一葉を捕らえようとした簒奪者の鼻面へ蹴りを打ち込んだ彼女はそのまま後方へ飛び抜ける。
 わかってるよ、エイリアスちゃん! 壱子は胸中で応え、のけぞった簒奪者の顎に魔法を撃ち込んだ。
 ガードを崩されたところへ上乗せされた追撃で、簒奪者はさらに体勢を崩す。
 そこへ突っ込んだのは琥珀だ。簒奪者は焦りながら反撃を繰り出すが――大剣を床へ突き込み、棒高跳びの要領で琥珀の肩口を跳び越えた一葉が降り落ちて。
「これで仕舞いといたしましょうか!」
 全体重を乗せた唐竹割りを受けた簒奪者は、彼女の言葉へなにを返すこともないまま倒れ伏したのだった。

●星の冒険記
 チョコレートプラネットの冒険スポットは遺跡ばかりではない。
 チョコレートを求めて光届かぬジャングルや果てなき砂漠へ踏み入った者たちは、その記憶を語る。

 ひょろりと細い木々は互いを押し退けあい、あるいは絡み合って痩せた土を奪い合う。そしてゴリラに似たエネミーどもは必死で生きる木々を無造作にへし折りつつ、フリッツ・レーバ(ma0316)へ襲い来るのだ。
 エンブリオの維持と信奉するエゲリアがためのチョコレート集め。それは咎人なる彼女が担う最優先事項であるのだが、その身の芯に収められた戦士の魂は戦いを眼前に据え、高く燃え立たずにいられない。
 ――咎人同様、エネミーにも生前があるのだろうか。もしかすれば今も、変わり果てた体の内に生前の記憶を持ち合わせているのかも。が、戻す術を知らぬ以上はそれを慮ってやる義理もない。
 私は私に尽くせるものを、ひたむきに尽くそう。
「――あああぁぁぁっっっ!!!!」
 肚の底から押し上げた“力”を鬨の声へ乗せ、フリッツは簒奪者へ重刃を叩き込んだ。

 一方、小振りな羽をはためかせて飛ぶリムナンテス(ma0406)は、ぎしりと押し詰まったジャングルを見下ろし、目をこらす。
 どうやらどこかで戦いが起こっているようだが、降りて確認するつもりはない。
 だってジャングルって湿っててぐちゃぐちゃで、沼なんかもあって……お靴が汚れちゃうでしょ?
 オランジェットをテーマにしたバレンタイン仕様コーデを決めた彼女は空の上、ハート型に結い上げた髪に飾られた面を傾げる。【オシャレ研究会】の一員として、当然の装いであり、注意深さだ。
 そして彼女は再開した。このコーデを完成させるフレグランス、チョコレート香を映すダークフレグランスの素となる“燃える水”探しを。
「でも、ここからじゃどこに燃える水があるかわからなくない?」
 悩みながらも高度は下げずに飛び続けるリムナンテスである。

 乾いた砂を蹴立て、シトロン(ma0285)は蟻によく似たエネミーへと駆ける。
「こんな大きな蟻さん初めて見たよ……うぅ、けっこう気持ち悪い」
 虫型は機敏で固い。普通に戦えば相当な苦戦を強いられるところだが――
 握り込んだ砂をエネミーの顔目がけて投げつけて虚を突いた。もちろんわずかな時間を稼ぐことしかできないが、それで充分だ。
 エネミーが動きを止めた一瞬を利し、シトロンは横合いへ抜ける。エネミーが見失った獲物を探す数瞬の間にも駆け続け、裏へ回り込んだと同時に杖をかざして魔法を撃ち込んで。
 ここへ至るまでの戦闘で、常にキャスターとしての自分をブラッシュアップし続けてきたのだ。もっと戦闘経験を生かし、もっと効果的に術式を組みあげ、もっと速く撃ち出し、もっと正確に貫く。もっと、もっともっともっと。
 倒れ伏したエネミーに万感の目を向け、彼女は先を目ざして歩き出した。

 小さな浮遊島。
 草むらの内に転がる岩のひとつへ腰かけ、メリゼ・リンクス(ma0442)はギターをつま弾いていた。
 祈りを乗せた音色に合わせて歌うは、救うことかなわず消失した世界を鎮める思い。
 死せる世界よ、どうか安らかに――
 と、その歌声に導かれたか、一羽のフレスベルグが彼の傍らへ舞い降り、翼を畳む。
 うなずいたメリゼは音をやわらかく弾ませ、言祝ぎを歌いあげた。フレスベルグよ、その先に幸多からんことを。
 歌い終えた後、つと近づいてきたフレスベルグの首をなぜてやり、彼は笑む。
「ふふ、聴いてくれてありがとうね」
 心地よさげに顔をすり寄せるフレスベルグ。しばしそのぬくもりを味わう彼だったが。
 いつしか集まり来ていた兎や小鳥が方々から顔をのぞかせ、催促するように鳴いた。
「じゃあ、もう少しだけ歌おうか」

 何処とも知れぬ地下洞窟の内、氷鏡 六花(ma0360)はアイシクルワンドをかざして凍気を放つ。
 凄絶にして静やかなる気は簒奪者の肌から内へと染み入り、存在するものか知れぬ骨身を速やかに凍りつかせた。
 襲い来ようとした姿勢をそのままに映す氷像。それを迷うことなくワンドの先で突き砕き、六花は次なる簒奪者へ氷槍を撃ち込んだ。
 簒奪者。邪神の傀儡たる無機質な面を見やれば、生前の自分が戦っていた“愚神”と呼ばれる侵略者を思い出す。
 私は、戦い……ました。初めは、復讐のため。……後には、解放のためと……信じて。
 そんな自分が死してなお戦いの場に在る理由は、戦い続け、殺し続けてきた報いなのだろう。なればこそ、
 私は粛々と、簒奪者を殺し……ます。簒奪者たちの魂を、邪神の呪縛から……解放するために。

 こちらも何処か知れぬ地下奥深く。アメリア・アインホルン(ma0097)はひたすらにツルハシを振り上げ、振り下ろす。
 なぜ、こんなことを思い立ったのかは思い出せない。しかしだ。まさに一寸先すら見えはせぬ純然たる闇の先に、麗しのアイシスへ捧げるに足る最高のチョコレートが在る――それだけは確信していて。
 びきっ。固い岩に跳ね返され、砕けたツルハシを放り出し、アメリアは足下に束ねて転がしてあった新たなツルハシを手に、掘削を再開した。
 と。
 闇を押し退け、彼女の視界を拓く光。
「これはアイシス様の御光……! ああ、アイシス様! 迷える私をお導きくださり、感謝いたします!」
 なにを幻(み)てしまったものかはさておいて。彼女は体感2ヶ月、実際は数日の後、その献身を示すに足る大量のチョコレート塊をトロッコに乗せて地上へ戻るのだ。

●調査拠点の雑記
 チョレートプラネットを探索する咎人たちはその起点、あるいは中継点として、調査拠点なるキャンプを構築した。
 そして方々から多くのチョコレートが集まったこの場所でも、ささやかなドラマが演じられたようで……

 激しい冒険の中で揉まれたチョコレートの中には、奉納物となりえないクズチョコも相当数混じっている。
 キョウ(ma0389)はそんなクズを引き受け、冒険に疲れた咎人へ振る舞う料理として生まれ変わらせることに全力を注いでいた。
「いちばん簡単なのはチョコフォンデュなんだが、それじゃあ面白みないし、なにより持ち歩けないからな」
 周囲に集まった咎人たちへ語りつつ、彼はアルミホイルで拵えた深皿の内へクズチョコを詰め、手製の簡易オーブンの内へ差し入れる。
「いい感じに溶けたら取り出して冷ますだけ。焼きチョコの完成だ」
 と、あらかじめ完成させておいたものを咎人たちへ渡してやりながら、付け加えるのだ。
「焼き加減で食感変わるからな。好みに当たるまで何度も試すといい。砕いたナッツ混ぜるのもいいぜ」

 たくさんのチョコレートを持って調査拠点へ帰り着いた双子、マルト・ファウレン(ma0228)とハルト・ファウレン(ma0227)。その冒険はふたりの希望により割愛するとしてだ。
「ふふ。お互いがんばりましたね、マルト」
 奉納用により分けたチョコレートを見やり、満足気にうなずくハルト。
 そんな彼女を手招き、マルトはうきうきと声音を弾ませた。
「ほらほら、これ全部、ハルト姉さん用の本命チョコだよ!」
 白磁の皿へと盛りつけたチョコレートの山を示し、ハルトの手を取り引き寄せる。
「では、マルト用の本命チョコでもありますね」
 皿を挟んで向き合ったふたりは、それぞれ小振りなチョコレートをつまみ上げ、声を揃えて「「あーん♪」」。
「ハルト姉さん、すごくおいしいよ」
「ふふ、マルトおいしいです」
 人目は一切気にしない。それどころか見せつけながら、互いにチョコレートを食べさせ合う。
 なかなかに、なかなかな光景。人々の注目が集まる中、ハルトはこくりと小首を傾げ、
「あら、私たちがこんなに仲良しなこと、不思議ですか? 双子ですもの、当然でしょう?」
「うん、双子だからね! 当然のことさ」
 マルトもまたうなずき、言い切った。
 え、そういうものか? 疑念を深める人々をよそに、双子はさらに加速する。
「んーっ♪」
 唇の先にくわえたチョコレートを、マルトがハルトへ。
「ん♪」
 次いで、唇の先にくわえたチョコレートを、ハルトがマルトへ。
 いつまでもいつでも、互いの口へと本命チョコを運び合うのだ。
 奉納はさておいて、誰よりバレンタインを堪能する「仲良し」な双子であった。

「カレーがおいしいわー。しかしコレ、食料に変わるとかまじで謎よね? 元の世界にこんなものなかった……なかったわよね? 自信がなくなってきたけど」
 拠点の食事スペースで賑々しくカレーを頬張るナナシ(ma0157)。
 見ただけでは想像できないだろうが、実は彼女、数多の冒険を踏み越えトップクラスの製菓もとい成果をあげた受勲者なのである。
 ……実に様々なことがあった。フレスベルグを相手に苦戦して、いっしょにいた仲間が空から落ちるハプニングを経験したり(彼女曰く、「私もピコピコハンマーなかったら危なかったわー」)、彼女自身も空を駆け巡ってエネミー相手に大立ち回り、簒奪者へ蹴りを決めた上に「ラブリーウィンクでバチコーンしたり!」、燃える水の採掘に邁進したりなんだりかんだり。
「すごく大変だったけど、結果よければすべてよしってことで」

●奉納日の四方山記
 捧げられるチョコレートの数は神への愛の程であり、クラスタの威勢の程。故に奉納日にかける咎人の意気込みも相当なものだった。
 しかしながら、咎人が語ったこの日の出来事、そればかりではないのだ。

 ルクス(ma0773)は咎人の作る長蛇の列を伝って最後尾へと向かう。
 見習いとはいえ私も神官ですから、少しでもお役に立たなければ。
 思い定めたはいいが、彼は声を出すことができなくて――そこで彼は一計を案じたのだ。
 まず【アイシス様へ奉納 最後尾】札を該当者へ手渡し、札の元となったスケッチブックへ書きつけた「奉納がスムーズに行えるよう、ご協力いただけますと幸いです。次の方がいらっしゃいましたらその札をお渡しください」を示して頭を下げる。これをスサノオとエゲリアの列で繰り返し、さらには普段収めている白翼を拡げて注目を集め、神殿を訪れた者たちを列へ誘導していった。
 まさに目の回るような忙しさだったが、音を上げはしない。神と咎人とを繋ぐため力を尽くすことこそ、彼の本懐なのだから。

 自らを怪盗と称するリスティス・オルュクトランサ(ma0088)はひとり、奉納用チョコレートを収めた神殿倉庫に立つ。
 別に奉納物を盗み出そうというつもりはない。ただ、いちばん最初にやらかし、人々の口で語られたいだけで。
 かくてひと月かけて集めたデータを活用、最終奉納日の雑踏に潜んで神殿入りした彼女は、納められたチョコレートを運搬する荷車――数台が存在し、時間によって使われるものが変わる――の底へ身を潜めてここへ辿り着いた。
 さあ、仕上げにチョコレートの山の上へ記念の駄菓子を飾ろう! と思いきや、雪崩れ込んできた屈強な神官たちに縛り上げられて。
 簀巻きにされて引きずられる中、リスティスは誰にともなく言い残すのだ。
「リスティスちんはチョコやハートなんて盗らないさ。狙いはひとつ、明日の一面だよ」

 暗山 影次(ma0609)と華澄・エルシャン(ma0612)は、エゲリアとアイシス、それぞれに奉納を済ませた後、再び合流してふたりきりの茶会を催す。
「列へつくまでの間、ずいぶんとしっかり手を繋いでいましたね。歩きにくくありませんでしたか?」
 影次が華澄のぎこちなさを揶揄していることは明白だ。
 だから華澄は唇を尖らせて、
「いじわるだわ。お茶を淹れているときにそんなことを言うなんて」
 ぎこちなかったのはしかたない。なぜなら手を繋いだのは初めてだったのだから。
 もちろんそれは、目の見えない影次を支えるためであったのだが、こうしていると彼の手のぬくもりばかりが思い出されて……つい笑んでしまった。
 それは影次もまた同じこと。彼女の気づかいがうれしくて、彼女の手のあたたかさが頼もしくて、そして彼女の笑みに匂い立つ喜びがくすぐったくて。ただし笑むのではなく、つい、意地悪をしてしまう。
「そういえば、いつになくゆっくりと歩いてもいましたか。いったいどんな理由です?」
 影次は彼女が用意してくれた菓子をつまみ、指先で正体を確かめる。彼の指を汚さぬよう、しかしバレンタインデーにふさわしいチョコチップを散らしたクッキーだ。ああ、私は本当に幸いですね。
「悪い子にはお茶もお菓子もあげないんだから」
 さすがに怒った華澄だったが、ふと語調を緩め、
「あなたの手を離したくなかったの。心を重ねられたことがうれしくて――袂で手が隠れて誰にも見られないなら恥ずかしくもなかったし」
 影次もまた今度こそ笑みを返し、
「私もあなたと手を繋いで歩くことができて、とてもうれしかったですよ」

 奉納日当日も自分の工房に篭もりきりのネルネ・ルネルネ(ma0286)は独り、作業へ没頭していた。
 ――俺の名前はネルネ・ルネルネ! この手のイベントとは一切無縁の男!! だがしかーしっ! こちとら調合を生業とする者の端くれ! 誰もくれないなら自分で作ればいいじゃない!?
 実に悲しい事実を思念でナレーションしつつ、“秘伝のチョコレートレシピ”に従い鍋代わりの実験用の釜へ入れた材料を混ぜる。そうして黒くとろけたものを、計測匙でちょっとだけすくって舐めてみれば、
「うん、いい感じ」
 このまま固めれば完成なのだが……チョコレートプラネットで拾ってきたよくわからない素材、これを混ぜたらもっとうまくなりそうな気がしなくもなくもない!
 果たしてぶっ込まれた燃える水が起爆し、吹っ飛ばす。チョコレートも工房もネルネも全部全部全部。
「ちくしょーアイシスママの家の子になってやる! イデア増幅薬10000000000個貰ってやるぅー!!!」
 そして彼は星になったのだ。

『なぜ私よりあなたの背が高いのか、納得ができない』
 イルミナ(ma0082)は事あるごとにそう言ってコウ(ma0168)を責める。
 どうにもその部分の記憶が欠けていて定かではないのだが、コウとしてはげんなりため息をつくよりない。
 ただ、前世でも彼女といっしょにいたことだけははっきり憶えているから――それだけに思うのだ。昔、イルミナより背が低かった俺はきっと、そのことを気にしてたんだろうな。だって俺、今ちょっとイルミナに優越感あったりするし。
 む、今私より背が高いことを誇っているな。
 コウの心情を正確に読み取ったイルミナは、無表情の端に微妙な不満をはしらせる。
 どうやらコウは前世より今の身長を気に入っているらしいが、イルミナとしてはおもしろくないのだ。
 ――コウが、目を開けた自分の前にいてくれたことに安堵した。あのときと変わらぬ笑みを見せてくれたことがうれしかった。
 前世と変わらぬ彼がそこにいてくれたから、自分もまた前世と変わることない様を備え、ここに来たのだと、そう思えたからこそ、勝手に背を伸ばした彼に納得できない部分があって……
 まだ納得できていない顔のイルミナ。さすがにそろそろ勘弁してほしいと思ってみて、コウはすぐに思い直した。
 いや、イルミナが俺といっしょにいてくれれば、後はなんだって我慢するし努力もできるさ。背は絶対、低くならねーけどな!
 などと頑なに心を引き締めた、そのときだ。
「これを」
 イルミナが、コウへ小さな包みを差し出した。
 それはもう考えるまでもなく、チョコレート。
「あ、ありがとう」
「う、ああ、うん」
 ふたりは黙り込む。
 互いに素直な思いを伝え合うまで、もうしばらくの時間が必要なのだった。

 こちらはひとりチョコレート作りを進めるリアン・シュトライア(ma0029)。
「……ふふ。私も女の子だもの。気になるあの人のために、ちょっと挑戦してみたくなったのよ」
 誰にともなく語り、どんな形に仕上げようかを悩む。丸はつまらないし、三角はありがち。四角はなおさらだ。
「×……はダメねこれ、折れるわ」
 こうなれば、定番中の定番であるハート型にしようか。思いかけた、そのとき。
「あの人の似顔絵とかにしてみる?」
 思いついたはいいが、絵心に自信はないし、そもそもチョコレートでどこまで再現できる?
 と、思考が疑念でぶった斬られた。
 思い出せないのだ。“気になるあの人”の顔が。
 それどころか声もしぐさも性格も、なにもかも。
 大好きだったはずなのに――かけがえない人だったはずなのに――
 手を止めたリアンは、ただただ途方に暮れる。

 前世からの縁で繋がれた同士は、意外なほど多い。水無瀬 遮那(ma0103)と川澄 静(ma0164)もその内のひと組である。
「足りそうか?」
 細かく刻まれた大量のチョコレートを見やり、遮那は静へ問う。
「ええ、義経さまのおかげで充分な量、集められましたよ」
 ここはふたりが住む居館。奉納用ではなく遮那のためのチョコレートを静が拵えたいと言うので、彼らはチョコレートプラネットへ赴き、帰り着いてすぐに台所へ立ったというわけだ。
 なかなかにハードな素材集めの道行を思い出しつつ、遮那は静の背へ声をかけた。
「……なにを手伝えばいい?」
 振り向いた静はやわらかく笑み、かぶりを振る。
「どうぞおくつろぎになられていてください」
 つまりはいい子にして待っていろということだ。
 じりじりしつつも居間で待つことにした遮那。じりじり、じりじり、じりじりじりじり――果たして。
「お待たせしました」
 ついに静が盆を抱えて入ってきた。
「甘いものがお好きな義経さまに、苺ジャム入りの生チョコをご用意いたしました。どうぞお召し上がりください」
「ああ」
 その後、言葉を続けようとした遮那だったが。そっととなりに静が座し、遮って。
「私もご一緒させていただきます」
 どうやら言うまでもなかったようだ。いや、静は遮那の言葉を先回りしてくれた。いっしょに同じものを食べたいという遮那の願いを察して。しかもだ。
「あーん、してさしあげますよ♪」
 その先の望みまでも読んでくれるのだから、至れり尽くせりというものだろう。
 礼を言って静の頭をなぜ、遮那はふと息をついた。
「……こうも察してもらえると、俺はその内に言葉を忘れてしまうかもな」

●記録の終了
 話を聞き終えたキュビィは、聴きながら書き取っていたとは思えぬ美しい書を束ね、うなずいた。
「ありがとうございます。おかげさまでよい記録が取れました」
 咎人たちに目礼して立ち上がり、歩き出す――と、一度足を止めて振り返り、
「奉納に適さないチョコレートの欠片をラッピングしてまとめてあります。テイクアウトのご希望ありましたら、お帰りの際に担当神官へお声がけください」
 そして最初から1ミリも変わらぬ無表情を翻し、今度こそ三柱へ記録と届けるべく歩き出すのだった。


選択肢3:奉納演武(きりんMS)

奉納演武とは、スサノオ管理区画で定期的に開催されている訓練イベントである。
咎人同士が試合によりその力を競い合うものだ。
特設のステージには特殊な力があり、咎人が致命傷を受けないようになっているらしい。
咎人が自由に訓練に使用できる訓練用のステージなどもある。
知り合いと実戦形式の訓練をした者もいるかもしれない。

奉納演武には「祭」というもうひとつの側面がある。
演武の期間中は様々な売店が並び、名物のタコ焼きをはじめ、様々なB級グルメを満喫できる。
演武に出場せずとも、出店者としてこのイベントに関わることも可能だ。
あなたが流刑街で店でもやっているのなら、出張してみるのもよいだろう。

また、咎人の勝敗に対して金を賭けることもできるという。
のめりこみすぎるのは危険だが、贔屓の咎人を応援するのもいいだろう。

ちなみに、勝ち負けを決めることは目的としていない。
勝利者が誰なのか、詳細に語られることはないだろう。
「自分が勝った」「負けた」と言い張っても構わない。
それが真実かどうかは二の次である。

選択肢3:リプレイ

●祭の始まり
 咎人たちが、奉納演武の受付を行いに続々と集まってきている。
 フェリシア(ma0731)、エメラルド・シルフィユ(ma0054)、アリエス(ma0727)、クレア(ma0732)の四人も、それら集団のひとつだった。
 各々自己紹介を済ませると、アリエスがふと、たった今気づいたとばかりにまじまじと他の三人を見回した。

「そういえば、私たち全員女性で統一されていますね」
「あ、本当ですね。凄い偶然です」

 驚いたように、クレアも周囲を見回す。
 むくつけき男性も多い咎人たちの中で、煌びやかな姿の女性が四人。
 少々目立っている。
 そんな中、アリエスは自らに注がれる視線に気づく。

「なにか?」
「いや、なんでもない」

 なんとなくアリエスを見つめていたエメラルドが、かぶりを振る。
 初対面の人物とどこがで会ったような気がする、いわゆる既視感を抱くのは、咎人ならばありえないことではない。

「咎人になる前に会ったことがあるのかもね。まあ、私は生前のこと、あんまり覚えてないけど」

 自分の生前にも興味がなさそうに、フェリシアが肩を竦める。

「……覚えていないものは仕方ないですから、本題に入りましょうか。チーム名決めです」
「そうねぇ。かわいい名前がいいわ」

 冷静な表情で、アリエスが本題を切りだしたとたん、おっとりとした笑みを浮かべて控えめに手をあげたのは、フェリシアだった。

「持ち寄った案がある方はおられますか?」
「ああ。あるぞ」

 クレアの質問に頷いたエメラルドが胸を張った。

「女性咎人家というのはどうだろう」

 自信満々に、エメラルドは案を出す。
 表情がどや顔だった。
 目を合わせ、沈黙するフェリシアたち三人。

「……四人の名前をアナグラムにして、アクエリアスというのはいかがですか?」
「いいわね。かわいいと思うわ」
「なぜスルーする!? 駄目なのか!?」
「……あはは♪」

 エメラルドの発言を聞かなかったことにして発案するアリエスに、真っ先に飛びつくフェリシア。
 笑ってごまかすクレアと、己の案を、三人の満場一致で流されて愕然とするエメラルド。
 フェリシア、エメラルド、クレアの三人が姦しくじゃれあっているのを他所に、アリエスはさっそく受付で登録を済ませた。
 あとは自分たちの試合開始時間になるのを待つだけだ。
 そのとき、ステージの方角から軽快な音楽が大音量で流れてきた。
 同時に、誰かがマイクで声量を増幅して話しているのも聞こえる。

「わ、なにかしら?」
「開会式でもあるのか?」

 びっくりしてステージへの出口がある方角を見るフェリシアの横で、エメラルドも背伸びして、咎人たちの背の向こうに見えるものを見定めようとする。
 やがて咎人たちが音楽やトークに誘われるように、ステージのほうへ歩きだした。

「試合時間まで暇ですし、私たちも行ってみましょうか」
「賛成です。面白そうですしね」

 アリエスの提案に、クレアも頷く。
 クレアの瞳は、隠しきれない好奇心で輝いていた。
 楽器演奏と軽妙なトークで場を盛りあげていたのは、細谷 亜希良(ma0764)と椎名 亜蘭(ma0518)だった。
 亜希良が電気音をリズミカルに奏で、試合開始前の準備期間中の楽しさを煽れば、亜蘭が型破りともいえる喋りでお祭りさながらのワクワク感を観客たちに抱かせていた。

「いやあ、演奏者冥利に尽きるねぇ。これだけの観客が見ている中ライブなんてさ! くぅ~、テンション上がる~!」
「人生のロスタイム、おおいに楽しもうぜぇ! 奉納演武が始まるまで、盛りあげていこうぜ~!」

 音楽を担当している亜希良は、ギャル風の少女だ。
 その横で喋っている、今風のハンサムな若い男性が亜蘭だった。
 音楽と喋りは、観客席やその周辺の出店にまで響いている。
 様々な食べ物が売られている屋台の中には、六道 鈴音(ma0384)や黒鋼(ma0711)が切り盛りしているものも混じっていた。
 鈴音はたこ焼きを、黒鋼は焼きそばと焼き鳥を売っている。
 ふたりとも、下拵えに鉄板の火の管理など、忙しそうに働いている。
 軽快な手つきで次々にたこ焼きがひっくり返されていく様は爽快の一言。
 黒鋼の屋台からもじっくり炙られた焼き鳥から脂がしたたる音が聞こえ、麺を炒める音とソースの匂いがしていて、たまらない。
 実際に、どちらにもひっきりなしに見物客が買い物に訪れていた。

「ゴーレムが動力源の、珍しい焼きそばと焼き鳥はいかがですかー」
「これ、スサノオ神様が出してた屋台なんだけど! どうして私が店主になってるのかな!? 本神様はどこに行ったのよ!」

 屋台の前を行き交う人々に、調理をしながら黒鋼が声をかける一方で、あまりの忙しさに、鈴音は働きながら目をぐるぐるにしていた。
 おそらく事前にスサノオが用意したものだろう、背後に生地の入ったボウルの山が大量に準備されているが、見たくない。

「まあ、スサノオクラスタの一員としては、御心のままにタコヤキを焼くだけなんだけどね! というか、戻ってこないとたこ焼きに色々いれちゃうわよ! チーズとか! アワビとか!」

 スサノオから「いいぞもっとやれ」と鈴音に神託が下った。
 幻聴かもしれない。
 そして、黒鋼は黒鋼で、焼きあがった傍から半分くらい自分で食べている。

「モグ……めっちゃ……モグ……美味しいぜ……モグ……俺が保証する!」

 自分を動力源にして鉄板の火力を維持しているようだが、果たして最後まで持つのかどうか。
 出店を見てまわる咎人たちの中には、レジオール・V=ミシュリエル(ma0715)や天日 すずな(ma0770)も混じっていた。

「たこ焼き……ひとつください」
「まいど!」

 まず最初に、鈴音の屋台でたこ焼きを購入したレジオールは、周囲で楽しそうに食べ歩きをしている咎人たちを見て、驚いた様子だ。
 自分の手元のたこ焼きと、周りの様子をしげしげと見比べながら、おずおずと袋からまだ温かいたこ焼きの容器を出した。
 割り箸を割ってひとつ口に入れて、ふわっとした食感のたこ焼きを噛めば、じゅわっと熱くてトロトロの中身が口内にあふれる。
 こりこりとしたタコの感触も、アクセントとしてよい。

「あふ、あふ。おいひいですね」

 満足そうに目を細め、レジオールはふわトロコリの三重奏を味わいながら歩きだす。

「おっ、ゴーレムがが切り盛りする屋台っちゅうのは面白いな! 焼きそばと焼き鳥ひとつずつ頼むわ!」
「そうだろ、そうだろ! 今用意するから待ってな!」

 黒鋼の屋台では、すずなが焼きそばと焼き鳥を買いこんでいた。
 すでにたこ焼きも購入したようで、レジオールが購入したものと同じ袋を腕にぶら下げている。
 他にもいろいろな屋台で購入した食べ物が入った袋をいくつも手に、楽し気に鼻歌を歌いながら奉納演武の見物場所を見繕いに行く。
 その道中に、さっそく焼き鳥をつまみ食いしていた。

「タレも塩もええなー」

 もぐもぐと口元を動かしながら、にんまり。
 どうやらお気に召したようだ。


●前半戦開始
 やがて開始時間が近くなり、最初に戦う咎人たちが配置につく。
 まず、諸注意が伝えられる。
 試合という形式を取っているものの、あくまで武の競い合いを神々に捧げる趣旨の戦いで、勝敗を決めるものではないこと。
 致命傷は負わないようになっているが、そうでない多少の怪我は負う可能性があること。
 対戦者に敬意を払い、悪意のある戦いはしないこと。
 出場した咎人たちは、全員その宣誓を行った。
 最初に配置についたのは三組。
 アスタ・ラ・ビスタ(ma0080)対、神紅鵺・D・フィンスターニス(ma0620)。
 エーカ(ma0423)対、御黒山 月雲(ma0269)。
 小宮 弦方(ma0102)対、咲良 恋(ma0166)。

「オレの相手はおまえか。不足はねえな」
「今の私がどこまで戦えるのか……試させてもらう」

 ニヤリと笑って睨みつけるアスタを、クールな眼差しで神紅鵺が見返し。

「力試しなの! だから、全力でいくの!」
「その姿勢、嫌いではありませんよ」

 放たれるエーカの気迫を、引かずに真っ向から月雲が受けとめ。

「狙いどおりの組みあわせになりましたね」
「ああ……いざ、勝負……」

 ほほえむ弦方を前に、静かに恋が腰を落として身構え。

「準備はいいか!? それじゃあ前半戦、試合開始だあ~!」

 亜蘭の口から戦闘の始まりが告げられたとたん、観客たちの大歓声と共にステージに流れていた亜希良の演奏が切り替わる。
 荒々しく響く太鼓の音がリズムを取り、その上に、疾走感に乗った三味線の激しい速弾きのメロディが乗っていく。

「さあ、ウチの音楽で皆全力を出し切りなよ!」

 ぎらぎらとした瞳を煌めかせ、熱気で飛び散る汗を拭いもせず、マイクに向けて亜希良も絶叫する。
 戦いの火蓋が、幕を切って落とされた。
 まずステージを沸かしたのは、アスタと神紅鵺の組だった。

「手入ればかりじゃ勿体ねぇ! さぁ出番だぜ、お目見えの時間だ!」

 手放されたアスタのトライアンフの槍が、ひとりでに宙に浮いた。
 空中に滞空してくるくると回転した槍の穂先が、ぴたりと神紅鵺に向けられて静止した瞬間、轟音をあげて地上の神紅鵺めがけて打ち下ろされる。

「甘い!」

 響いた破裂音は、音速を突破した証だ。
 槍の一撃に負けず劣らずの速度で、神紅鵺が地面に放射状の罅を作って姿を消す。

「かわしたか! やるねぇ!」

 空を切った槍を引き戻し、アスタは槍をつかんで肩に担いだ。
 踏んばって衝撃に備える。
 そこへ、間髪入れず上空から神紅鵺がGAT-Wリードの弾幕を降り注がせた。
 今の一瞬で、神紅鵺はさらに上空へ飛びあがっていたのだ。
 しかし弾幕が着弾し続けるそこにアスタはいない。
 神速の反応を見せ、寸前で離脱に成功していた。

「お互い様だろう。私の攻撃も当たっていないのだから」

 銃撃は外れたものの、向けられた神紅鵺の眼差しは、彷徨うことなくアスタを追っている。
 またひとつ、観客席から歓声があがる。
 今度はエーカと月雲の戦いを見ていた者たちだ。
 観客たちの度肝を抜いたのは、高速で組み上げられた大魔法。
 まるで芸術のような緻密さで完成した衝撃波が、月雲の立つ地点を中心に発生する。
 広範囲を覆うそれから、逃げることは至難の業だ。

「うおおおおおおおおおおお!」

 月雲もまた、避けるのではなくトライデントの柄で受けとめることを選択する。
 かかっている圧力のほどを示すかのごとく、月雲の両足を焦点に、地面が割れ目ができて、凄まじい勢いで広がっていった。
 衝撃波を受けとめながら、一歩一歩踏みしめるように月雲はエーカとの距離を詰めていく。

「……辿り着かれる前に、圧し潰すの!」

 エーカは魔法の維持に、いっそうの力を注いだ。
 しかしついに衝撃波がはねのけられた。
 自由の身になった月雲が、打って変わって軽快な動作で間合いを詰め、エーカの膝を狙って穂先を突きだした。
 当たるかと思われた直前、エーカは身を捻りながらデモンズスクエアで穂先を逸らし、一歩間合いに踏みこむと、そのまま杖を回転させてカウンター気味に月雲の顎を打ちあげようとする。
 攻撃後の残身にも迷いがない。

「あぶねぇ! こっちの心得もあるのかよ!」
「接近戦ができないと言った記憶はないの」

 避けた月雲が間合いを取り、両者再び睨みあった。
 ふたつの試合とは一転して、弦方と恋の戦いは静かなものだった。
 両者微動だにせず、睨みあっている。
 痺れを切らせて野次を飛ばす観客もいるが、多くは固唾を飲んで見守っていた。
 それは当然だ。
 見た目とは裏腹に、とても高度な駆け引きが行われていることを、多くの咎人たちは理解していた。

「やりますね」
「……お互い様」

 弦方と恋は、お互いに出足を潰されていた。
 動きだそうと意識するだけで、相手の身体の一部が反応をみせる。
 実際に攻撃に移れば捌かれて見事なカウンターを受けることは想像に難くなく、かといって相手の動きを引きだす誘いにはどちらも乗らず。
 虚実の見極めが、両者とも実に巧みだった。
 とはいえ、武器の射程でいえば弦方に圧倒的に分がある以上、恋は攻撃するためどうしても近接戦闘の間合いに踏みこむ必要がある。
 この勝負、先に手を出したほうが、おそらく負けだ。
 焦れて弦方が矢を射れば、恋はそれを掻い潜って一気に接近し、勝負を有利に持ちこむだろう。
 一度詰めた間合いから逃がしはしない。
 しかし、逆に焦って恋が先に間合いを詰めようとするなら、弦方は的確なタイミングで矢を射て前進を阻みつつ恋を追いたて、無理やり隙を引きずりだして本命の一射に繋げるだろう。
 それこそ、狩猟のように。

「我慢比べですか。受けて立ちましょう」
「……最後は私が勝つ」

 両者の闘志が燃えあがる。
 空想上の弦方がリカーブボウA-specの弦を引き絞り、矢を降り注がせれば、矢の雨の中を、想像でできた恋が駆けぬける。
 数多の弦方が放った矢は何人もの恋を寄せつけず、追いつめた末に射抜いてみせ、また別の無数の恋が、複数の弦方へ到達しスカーレットフレーバーで斬り伏せる。
 これらはすべて、無限ともいえる駆け引きでどちらかが動いた結果もたらされる、未来予知ともいえる予測だ。
 実際には、ふたりとも動いていない。
 じりじりと、牛歩のような歩みで間合いのかけ引きが続いた。


●インターバル
 他にもいくつも試合が行われ、前半戦が終わった。
 小腹を空かせた観客の咎人たちが、再び屋台に集いだす。
 鈴奈と黒鋼も、フル回転で調理をしている。
 
「たこ焼き、ひとつくれる?」
「はい、ただいま!」

 温かい包みが入った袋を受けとり、また鈴奈の屋台とは別の屋台に寄って、ナハイベル・パーガトリー(ma0152)はたこ焼きを買い漁る。

「オーソドックスにソースとマヨネーズもいいけど、出し汁につけるのもいいね」

 食べながらふらふらと歩くナハイベルは、次はわたあめの屋台に引き寄せられていく。

「しょっぱいものの次は、甘いものだよねぇ」

 今度はわたあめをもぐもぐと食べだした。

「……喉、乾いたなぁ」

 また屋台に立ち寄って、きんきんに冷えたラムネを購入する。
 飲みながら歩いていたナハイベルは、月皇 瀬麗夏(ma0234)とすれ違った。
 瀬麗夏は試合を終えたあとのようで、シャワーでも浴びたのか、それとも戦いに全力を尽くして汗をかいたせいなのか、わずかに髪が湿っている。

「いろいろ目移りしてしまいますわね」

 きょとんとした表情で屋台を巡る瀬麗夏の眼差しは、きらきらと好奇心で輝いていた。

「スサノオ神様お墨付きのたこ焼きはいかがですかー!」
「モグ……焼きそばと焼き鳥も美味しいですよ!」

 あちこちから香る、どこか懐かしさを覚える匂いと、景気のよい客寄せの声に引きよせられ、気づけばたこ焼きやら焼きそばやら焼き鳥やら、さらにはじゃがバターやりんご飴など、様々な食べ物を買いこんでいる。

「……買いすぎてしまったかしら」

 大量の袋を手に一瞬後悔が頭を過ぎるものの、試合でたくさん動いて空腹であることも確かなので、気にしないことにして、数々の食べ物を味わい舌鼓を打った。
 奉納演武の見物に集まった咎人たちは、それぞれにとって馴染み深い雰囲気の場所に集まる傾向があるようだ。
 イサラ(ma0832)と白綾(ma0775)は、和風建築物に目を惹かれた共通点もあって自ずと集まり、隣同士に座っていた。

「よっしゃー! 当たったっスー!」
「まあ。私も当たってしまいました」

 ガッと両拳を掲げて快哉をあげるイサラの横で、一見すると判別がつかないほどわずかに目を見張った白綾が、ステージと手元の掛札を見比べている。

「あ、たこ焼きが切れたっス! 駆ってくるっスよ!」
「私もお供いたしましょう」

 試合を見物しているあいだに意気投合したふたりは、連れだって屋台に向かい、それぞれ好きなものを買って観客席に戻った。

「この調子で、優勝まで当たってほしいっスね」
「そうですね」

 感情の起伏が小さく、また表情もほとんど動かない白綾へイサラは振り向き、まじまじと見つめる。

「……笑顔! 笑顔っすよ!」

 自分の頬を引っぱって、イサラはあっけらかんとした笑みの形にする。
 イサラを見つめる白綾の眉間に、皺が寄った。

「……こう、でしょうか」

 白綾の表情に、限りなく無表情に近いが辛うじて笑顔と呼べなくもないかもしれないものが浮かんだ。
 そんなことをしていると、ステージに誰かがあがってくるのが、観客席から見えた。

「ん? なにか始まるっす」
「後半戦には、まだ早いと思いますが」

 試合が行われていないことで暇をしている観客たちの注目が集まる中、ステージの中央に歩み出たのは、綾崎 鈴音(ma0271)だった。
 凛とした雰囲気で佇んでおり、周囲にはどこか清浄な空気が漂っている気さえする。

「ご観覧されていただいている、スサノオ様を初めとする神々の方々。そして、私と同じ咎人である観客の皆さんに、舞いを奉じたく思います。どうかおつきあくださいませ」

 優雅に礼が行われ、始まったのは、いわゆる演舞だ。
 今まで行われてきた対戦形式のものとは違い、相手はいない。
 さらに武そのものに加え、美しさや舞いの技術そのものにも重点が当てられている。
 緩慢ささえ感じられた抜刀から一転、閃く斬撃は袈裟斬り、逆袈裟へと繋がっていき、再び緩やかに行われる前進から反転でまた加速する。
 完璧に緩急をコントロールした動作は、指先の一つひとつにまで神経が行き届いていることを示している。
 呼応して、亜希良が演奏する曲を変えた。
 舞いに合わせて、穏やかな旋律が流れていく。
 いつしか雑音は消えていて、流水を思わせる穏やかさと、焔を思わせる荒々しさが、観客たちをの目を引きつける。

「うんうん、こういうのもいいんじゃないの?」
「かわいい子だねぇ! 声をかけてみたいけど、舞いを邪魔しちゃ悪いから終わるまでガマンだ! 耐えろ、オレ~!」

 余裕をもって演奏する亜希良の横で、亜蘭が上がりそうになるテンションと声の大きさを抑えようと悶えていた。

「これにて、舞いの奉納を終えさせていただきます。ありがとうございました」

 最後に、深々と一礼して鈴音は退場していく。
 ざわめきが戻ってきた。
 ほうと誰かがついたため息は、神のものだったかもしれない。
 ステージから降りた鈴音を出迎えたのは、エティス(ma0304)だった。

「お疲れ様です。すごい綺麗でしたよ。お陰で助かっちゃいました」
「ありがとうございます。褒めていただけると、嬉しくなってしまいますね」

 エティスは救護所がある方角からやってきていた。

「感謝します。お陰で試合観戦ができます」
「どうせなら、一緒に見ませんか?」
「私でよろしければ、ぜひ」

 鈴音の誘いを、エティスが嬉しそうにはにかんで受ける。
 前半戦で試合を終えた者たちに、エティスは今まで甲斐甲斐しく治療を施していたのだ。
 止血の処置など、その動作は的確で、確かな技術があるのは明らかだったが、そこそこ怪我人の数が多く後半戦に間に合わなくなりそうだった。
 そのために、鈴音は各所に根回しをしたうえで、自分も舞いの奉納を行いたかったのもあり、時間を稼くことにしたのである。


●後半戦開始
 再開時刻になった。
 前半戦のときと同じ諸注意が行われ、さらに別の説明がつけ加えられる。
 それは、今度の奉納演武は、一対一ではなく、二対二であるということだ。
 竜胆 咲斗(ma0626)とザウラク=L・M・A(ma0640)のペア。
 藍紗(ma0229)と紅緒(ma0215)のペア。
 この二組が、それぞれ対戦相手である咎人たちのペアと武を競う。

「成功するか、楽しみだ」
「好きに暴れていいぞ。こちらで合わせる」

 咲斗とザウラクは、何やら秘策があるようだ。
 もう一方の組である藍紗と紅緒も、対戦相手のペアに口上を述べた。

「異境より参りし鬼が士、藍紗じゃ。今日は華々しく散るがよい」
「あれ? あたしも格好つけなきゃいけない流れ? ええと……とりあえず、叩きつぶすよ!」

 口上を受け、相対する二組の咎人ペアが、それぞれ身構える。

「準備はいいか!? 前半戦とは一味違う、後半戦の試合開始だあ~!」

 亜蘭の絶叫に合わせ、亜希良が激しい曲調に再び演奏を切り替えた。
 さながら、戦闘BGMのごとく。
 客席から大歓声があがり、音の洪水がステージに押し寄せてくる。
 初撃を取ったのは咲斗だ。
 GAT-Wリードの咆哮と同時に、ばらまかれた弾幕が咎人たちに襲いかかる。

「足が止まったぜ! 行け!」
「了解。……楔を穿つ。広げろ」

 ドラゴンスレイヤーを抜き放ったザウラクが、大重量の武器を持っていることを忘れさせる猛烈な勢いで、咎人たちへ突撃を開始する。
 ミサイルのように、回避行動を取る咎人たちを追尾して離さない。

「個体識別補足完了! 情報修正誤差0.02%! ロックオン情報、共有するぜ!」
「了解。――捕捉情報の同期完了、最適化処理……タイムラグ0.01秒未満。行動に支障なし。崩すぞ」

 からくりは、咲斗とザウラク間で行われた情報のやり取りにあった。
 咲斗の弾幕が咎人たちを分断し、孤立した片方をすかさずザウラクが斬り伏せる。
 それを見た観客席から、わっと歓声があがった。
 ほぼ同時に、もうひとつ歓声があがる。
 藍紗と紅緒も、それぞれの対戦相手である咎人と激しく斬り結んでいた。

「木っ端と散らしてくれよう! 我が刃の一閃、おまえに見切れるか!」

 両手の豪鉄と直刀「篝火」が翻り、無数の軌跡を生む。
 初めは豪鉄の柄打ちによる強打と、直刀「篝火」による真一文字の横斬撃。
 再びの豪鉄による、最短距離を奔る刺突から、返す刀で振りおろされる、直刀「篝火」の唐竹割り。
 四連撃が、一呼吸で放たれた。
 咎人も斬撃を放って抵抗するものの、明らかに藍紗のほうが速い。

「我が刃は、疾風のごとく!」

 気づけば二振りの刃を振りぬいた姿勢で藍紗が咎人の向こう側に佇んでおり、一拍遅れて咎人の全身から鮮血が飛び散った。
 その戦い振りが、肩を並べて戦っていた紅緒の闘志を猛らせる。

「打ち砕く!」

 構えられた防御の上から渾身の力をこめてクラッシュアックスを振りおろし、ステージの床に叩きつけると、咎人の身体を足先で引っかけ、掬うように蹴りあげた。
 蹴り足に咎人が斬りつけてくるも、そんなものでは紅緒を止められない。
 眉を動かさず、余裕さすら窺える目つきで、大きく横薙ぎの予備動作を取る。
 大きく息を吸いこみ、力みを入れた瞬間、両腕の筋肉がみしりと音をたててその質量を膨張させた。

「小さいからって舐めてかかると、痛い目に遭うわよ!」

 藍紗を風と表現するなら、斧を振りまわして突進する紅緒はさながら重戦車。
 咎人を巻きこみ、ステージの床に嵐が過ぎ去ったかのような暴虐の痕を刻んだ。


●祭の終わり
 二対二の奉納演武を見物している観客席は、大盛り上がりだった。
 周りの咎人たちが咲斗とザウラクの連携の良さを褒め称える中、梵天(ma0721)、久志利(ma0369)、フィオナ・レイノルズ(ma0194)の三人が、藍紗と紅緒の戦い振りについて興奮気味に感想を述べ合う。

「す、す、すごいのじゃー! ふたりともすごいのじゃ!」
「ごいがしんでる。こうふんしてる?」

 全身を使っていかに藍紗と紅緒の戦い振りが見事だったか表現しようとする梵天の横で、久志利はたこ焼きを食べるのに夢中であまり試合に集中していなかったため、藍紗と紅緒にではなく梵天の反応に感想を述べた。

「しない理由がないのじゃ! シュバババババに、ドドドドドドド! じゃぞ!」
「ごめんわからない」

 演舞についてはもちろん、ヒートアップしすぎて反復横跳びになっている梵天の動きも、久志利には見ていて面白かった。

「たこ焼きも焼きそばも焼き鳥も、美味しいですね。なんだか懐かしくて、じーんときてしまいました」
「おいしい」

 しみじみとたこ焼きを頬張るフィオナの横で、こくこくと頷きながら久志利も自分のたこ焼きをひとつ口に放った。
 熱々の生地がとろけ、ソースやマヨネーズと混ざりあって口の中で濃厚なハーモニーを奏でた。

「……しふく」
「そうですねぇ」

 気づけば、反復横跳びを止めた梵天が、ほのぼのするふたりをじっと見ていた。
 正確には、ふたりの手元のたこ焼きに視線の焦点が合わされている。

「わしもたべたいのじゃ」
「だめ。あげない」
「なんでじゃ。けちー!」
「だってもうたべおわった」

 久志利が空になった容器を見せる。
 本当に完食していた。

「もう一度、買いに行きましょうか」
「うん」
「わしも行くのじゃ!」

 ほほえましそうに梵天と久志利のやり取りを見ていたフィオナが提案し、三人仲良く食べ物を補充して観戦に戻った。
 それからも、咲斗とザウラク、藍紗と紅緒がそれぞれ活躍するたび、観客席からは何度も歓声があがった。
 その都度梵天が騒ぎ、久志利はマイペースに食事に集中し、フィオナが声援を送る。
 観客席には、まさに祭のような熱気が流れていた。
 楽しい時間はあっという間に過ぎ去るもの。
 やがて、終了の時刻が来る。

「皆、よく頑張った! 選手たちに、盛大なる拍手を頼むぜ~! 全員で、スタンディングオベーションだ!」

 亜蘭の声で観客たちが立ちあがり、それをかき消すほどの拍手を、ステージに集合を始めた奉納演武に出場した咎人たちへ送った。
 やがて拍手が引いていき、最後には亜希良も演奏を止めた。
 最後は、記念撮影で締めくくることになった。
 堺夜(ma0036)が奉納演武の見学中に写真を撮っており、それなら自分もという声が周囲の咎人たちから多数あがったためだ。
 藍紗と紅緒の戦い振りを切りとったベストショットは、梵天、久志利、フィオナの三人に特別よく欲しがられた。

「いやあ、悪くありませんね。自分の撮った写真が喜ばれるというのも」

 出場した咎人本人からの声も、少なくない。

「それじゃあ、皆さん位置について……はい、綺麗に撮れましたよ」

 シャッター音と同時にフラッシュがたかれる。
 まだ奉納演武の熱気が冷めやらぬ中、選手たちと観客たちがひとつのフレームに納まったシーンが、集合写真として切り抜かれた。


選択肢4:パンダくんと解体業務(近藤豊MS)

目覚めたばかりのあなたが真っ先に任された仕事……。
それが暴走する建造物の解体業務であった。
天獄界エンブリオには制御不能に陥っているものがいくつかある。
その中のひとつとして、流刑街の民家が挙げられる。

流刑街は守護神の加護を受けない咎人による独立自治区だ。
誰でも家や店を持つことができるが、土地は無限ではない。
誰かが家を増やすためには、誰かの家を壊す必要がある。

帰らぬ人となった咎人の家は、たまに動き出す。
誰も住まなくなった家ではそういうことがあるらしい。
パンダのようなものが率いる町内会は、そんな家退治のプロだ。

ワンルームから3LDKまで、様々な大きさの家が暴れている。
これらを粉砕して素材を再利用することには意義がある。
あなたもさんざん家を壊したかもしれない。
動く家との闘いは、エンブリオを象徴する物語と言えなくもないだろう。

必然的にこの選択肢にはNPCとしてパンダくんが存在している。
当然、彼はこの物語における脇役にすぎない。

選択肢4:リプレイ

 天獄界エンブリオには奇妙な現象が発生する。
 そのうちの一つが流刑街における民家だ。
 
 そもそも流刑街は守護神の加護を受けない咎人による独立自治区だ。
 誰でも家や店を持つ事ができる。束縛されない故の自由がある。
 しかし、ここでは人々だけが自由ではない。それは命の宿るはずのない家屋にも当てはまる。

「さて、今日も仕事を始めるぞ。オマエら、容赦なくぶっ壊してやれ!」
 流刑街町内会長のパンダくんがハンマーを片手に号令を下す。
 その号令に対して真っ先に動き出したのは、集められた咎人ではない。
 理由不明な怪奇現象で動き始めた家屋達であった。
「頑張れ、パンダくんさん! 頑張れ、みんなっ! ボクも応援するにゃ~!」
 このみ(ma0743)がパンダくん応援団とばかりに声援を送っている。
 このみ自身も動く家を攻撃するつもりだが、今は気になるパンダくんの応援で士気向上を狙いたいところだ。
「あれが、動く家か」
 羽鳴 雪花(ma0345)は迫るワンルームをステップで回避する。同時に拾っておいたドラゴンスレイヤーの切っ先をワンルームへ向けた。
 雪花も話には聞いていたが、動く家を目にするのは初めてだ。
 この流刑街では住人のいなくなった咎人の家が動き出す事があるらしい。
 何故住人がいなくなったのか。それは雪花には分からない。しかし、暴れ回る家を放置する訳にはいかない。
「先人が残したものと思うと、壊すのに思うところがないわけではないが……放置はできんからな」
 雪花も納得した訳ではない。
 家が暴れ回る理由さえ分かれば止める事もできるかもしれないが、その術を持ち合わせていない。
 他人を傷付ける恐れがあるのなら、雪花は全力を持って家を叩くだけだ。
「負けてられないッス! こっちも最初から全開で決めさせてもらうッス!」
 雪花の傍らをクリスティーヌ・ワシントン(ma0021)が駆け抜ける。
 クリスティーヌはパンダくんを強く信奉している。
 既にLOVEを超越したクリスティーヌは、パンダくんの関係を『運命』と称していた。
 愛くるしい外見ながら、大きなハンマーで家を破壊する姿。
 気付けばクリスティーヌもパンダくんが愛用するハンマーを片手に家を破壊して回っていた。
「可憐で超クールな美少女、クリスティーヌ・ワシントン! パンダくんのためにひと肌でもふた肌でも、むしろ着てるもん全部でも脱ぎますぜ!!」
 ワンルームに向かって振り下ろされるクリスティーヌのハンマー。
 それに合わせる形で雪花のドラゴンスレイヤーがワンルームに叩き付けられる。
「あれこれ考える暇があったら、一つでも家をぶっ壊せ。でも、粋って奴を忘れちゃいけねぇぜ」
 飛び出した咎人達の奮闘を見ながら、パンダくんは大きく頷いた。
 

「まるで幽霊屋敷だな。仮に幽霊とやらがいたとして、私にはただの有象無象に過ぎないが」
 伊吹 瑠那(ma0278)は年季の入った柱にドラゴンスレイヤーの一撃を振り下ろす。
 家を支えていた柱が破壊され、上に乗っていた屋根が大きくバランスを崩す。
「マヤ様……もとい瑠那様。そこをお離れ下さい」
 茨木 魅琴(ma0812)は瑠那の後方からアサルトライフルで残る柱に銃弾を集める。
 弾丸が柱を破壊する。同時に屋根の重みを支えきれず、重力に従って屋根は地面へと転がった。
 舞い浮かぶ砂埃。気付けば家は破壊され、ただの瓦礫へ戻ったようだ。
「一つ片付きました。……家が動くとは、あまり心地の良いものではありませんね」
 魅琴が口から本音を覗かせる。
 無理もない。この家も誰かが住んでいたのだ。
 住人がいなくなった家。もしかしたら家が動き出す理由は、いなくなった住人を探しているからなのかもしれない。
 そう考えるだけで魅琴の心は沈んでしまう。
「こうやって暴走してしまった以上新たな買い手を望むのも野暮というものだ。曰く付き物件にわざわざ住もうと願う酔狂者がどれほどいる?」
 瑠那は魅琴にそう言い切った。
 限られた土地の中で家屋を破壊して立て直す事を考えれば、暴走する家屋を放置する余力はない。
 過酷な生存競争を強いられた瑠那からすれば、感傷は腕を鈍らせる要素に過ぎない。
「確かに。今は亡き所有者様はさぞ無念でしょうが、此処は綺麗に無に還して差し上げましょう。破壊から創造が生まれることもあるのですよ」
「ああ。今は一つでも家を破壊する」
 踵を返した瑠那の後を、魅琴は必死に追い掛けた。
 

「そうですか。確かにこれも……家と言えなくもありませんね」
 多数のワンルームを破壊していたチェスター・ハルフォード(ma0535)だったが、突如眼前に現れた家に気圧される。
 瓦屋根で六角形の建物であるが、床張り。障子の奥には仏像らしいき物体が見え隠れしている。
 所謂、日本風寺院にある本堂と呼ばれる大型の家屋である。
 外見を見る限り、ワンルームのようにあっさり破壊とはいかなそうだ。
「俺の得物、こういった大物相手は不向きなんですよね」
 持田 祐希(ma0584)は頭をかきながら、手にしていたナイトメアローグに視線を送る。
 流刑街に身を置く祐希も家の暴走は他人事ではない。しっかり破壊しておかなければ、いずれ自分の居場所が破壊されるとも限らないからだ。
 しかし、刃先の長さを見るだけでは本堂相手に見劣りしてしまう。
 祐希はため息を一つ付くと得物を豪鉄へ持ち替える。
 その様子を見ていたチェスターは祐希へ話し掛ける。
「どうでしょう? ここは一つ、協力しませんか?」
 チェスターは大型の家屋について他の咎人と協力体制を考えていた。
 家が動き出すなど超常現象に他ならず、主人を待つ家の気持ちが存在するなら理解に努めてもいい。
 だが、流刑街では既に日常と化している。それなら新たな咎人の為に、暴れる家屋には退場いただいた方が良い。
 他の咎人と協力できるなら、破壊活動の時間もグッと減らせるはずだ。
「いいじゃない。私も協力させてもらうわ」
 エリートブランドを手にしたカルム・ウィニーバーン(ma0379)が、二人の近くへ歩み寄ってきた。
 カルムも他の咎人と協力して家を破壊する事を考えていたらしく、目の前の本堂へ戦いを挑むのであればチェスターと祐希に協力する以外の選択肢はないだろう。
「助けて貰えるなら大歓迎です。まずは私が……」
「私が前に出るわ。援護をお願い!」
 チェスターが話し終える前にカルムは単身前に出る。
 細けぇ事はいいんだよ。とりあえず殴ってから考える。
 それがカルム・ウィニーバーンの考え方だ。
 その行動の早さにチェスターは一瞬だけ戸惑った。
「え? あ……。まあ、大きいと言っても動きは単調そうです。攻撃を分散しながら柱を狙うとしましょうか」
 クラッシュアックスを片手にチェイニーはカルムと反対方向へ走り出す。
 そしてカルムへ注意を向けている本堂に向けて横から強烈な一撃を振り下ろした。
 柱に食い込む刃。小さな衝撃ではあるが、柱に傷を付ける。
 それに呼応するかのようにカルムもエリートブランドを振り抜いた。
 二方向からの攻撃を前に本堂も屋根の瓦を落として応戦を開始。戦闘は徐々に激しさを増していく。
「こりゃもっと仲間を呼んだ方がいいかもな。あ、俺も加勢します」
 祐希は豪鉄の柄を握り締め、本堂に向かって走り出した。
 

 パンダくん率いる咎人達が多数の家を破壊していく中、咎人達にも様々な事情を抱える者達が現れる。
「どいつもこいつもパンダくん、パンダくん……。
 分かってねぇ。ああ! まったく分かっちゃいねぇ!」
 家屋の破壊音が響く最中、アルティメット・パッカー(ma0337)は一人吼えた。
 ただゴロゴロしながら笹を食っているだけのパンダ野郎に何ができる>
 町内会って組を仕切る事のできるアニマルは、あんな軟弱怠け野郎のパンダなんかじゃねぇ。
 アンデスの厳しい自然の中を生き抜いてきた究極生命体、そう――アルパカこそが最強種なのだ。
「おう。なかなか骨のありそうな奴がいるじゃねぇか」
 パッカーの呼び掛けに応じたのか、パンダくんがひょっこり姿を見せる。
 そこでパッカーは気付く。姿を見せたパンダくんは、ただのパンダじゃない。外見に惑わされてはいけない。その裏には数々の修羅場を潜り抜けた漢の魂があった。
「そこのアルパカの。分かっているよなぁ」
 威圧するパンダくん。
 しかし、パッカーもここで引く訳にはいかない。
 未来の町内会長の座を狙う意味でも、ここは前へ出るしかない。
「フン。パンダはそこでタイヤでも転がして遊んでなァ。俺が、最強アニマルたるアルパカが、全部まとめて粉砕してやるからよォ」
 姿を見せた3LDKに対して間合いを詰めるパッカー。
 3LDKが反応するよりも早く、壁に目掛けて拳の連打を叩き込む。
 壁に数カ所の穴が開き、3LDKは気圧されて動きを止める。
「口だけじゃねぇってところを見せてみな。けど、粋を忘れるんじゃねぇぞ」
 腕を組んでパッカーを見守るパンダくん。
 その背後からそっとパンダくんに触れるALICE(ma0784)。
「おおー。このモフモフ……猫とはひと味違う感触がいいなー」
 ALICEの手の平に伝わる毛並みと温かみ。
 白と黒に覆われた体であるが、生物らしい体温が伝わってくる。
 ALICEにとっては日向にいるかのような感覚だ。
「心地よいー」
「ん? そらそうだろう。自慢の毛並みだからな!」
 毛並みを褒められて満足そうなパンダくんだが、このALICEの行為が他の咎人の注目を集める結果となった。
 実はパンダくんの毛に触りたいと渇望する隠れファンが多数存在していたのだ。
「パンダくんをモフモフするとは羨ま……コホン。何でもありません」
 アドバンスライフルHFでワンルームを撃退していたヒルト・ニーヴェル(ma0404)は、誤魔化すように咳払いをした。
 実は先程から家を破壊しながら時折パンダくんを目線で追い続けていたのだ。
 ヒルトがパンダくんの呼び掛けに応じたのは、他ならぬモフモフを守り抜く為。モフモフを守る事がヒルトにとって最優先事項であり、パンダくんの役に立つなら本望なのだ。
 しかし、戦いの最中である。パンダくんをモフりたい欲求を我慢しながら家を破壊していたのだが、まさかの伏兵が登場したという訳だ。我慢の限界をとっくに通り越していたヒルトはALICEへ注意する。
「そこのあなた。モフモフへの許可なきお触り……NGです!」
「えー。でも、このモフモフを我慢できない-」
「くっ」
 ALICEの言葉はヒルトにとって正論である。
 最高の毛並みを前にどうして我慢しなければならないのか。
 そうだ。休憩を取っても良いのではないか。
 今まで戦ってきた自分に御褒美を――。
「だ、ダメだ。まだ戦いは終わってない」
 頭を振るうヒルト。
 だが、本心ではモフモフ分が枯渇している事は明白。このままではモフモフ欠乏に陥ってしまう。
 葛藤に迷うヒルト。そこへパンダくんが声をかける。
「遠慮するな。ここで癒されて新たな戦いへ赴けばいいだけだ。パンダは基本、おさわりOKだからな!」
「パンダくん……」
 ヒルトはALICEと共にモフモフを満喫し始める。
 その光景を背中で感じながら、パッカーはワンルームに華麗なる連撃を叩き込んでいた。
「パ、パンダめぇ!」
 憎しみの込められた拳が、瞬く間に瓦礫を量産していく。
 

「ここ、通りまーす!」
 廃材の入ったカゴを抱えて走っているのはヴァニラ・レビー(ma0630)。
 咎人達が破壊していった家屋はより分けられてから、再利用は廃棄などの道が待っている。言うなればゴミの分別を行う必要があるのだが、ヴァニラは地面に転がる瓦礫を分別し始めていた。廃材を早めに片付ける事で咎人が足場に不安なく戦う事もできるし、新たなる家を建てるのも迅速になる。
「予想よりも瓦礫が多いなー」
 汗を拭いながら顔を上げたヴァニラ。その瞳には広大とも言うべき流浪街が広がっている。
 円形の地面を幾つも縦に並べたような流浪街。最上層だけに日は当たる物の、他の階層では日が当たらない。もし、日差しがヴァニラを照らし続けていたら、家と戦闘するよりも早く倒れていたかもしれない。それでも広い流浪街に転がる瓦礫を片付けるのは簡単な事ではなかった。
「そこの瓦礫、燃やそうか?」
 ヴァニラにユーグヴェル・ミラ(ma0623)に声をかける。
 思わぬ援軍。ヴァニラは大きく頷いた。
「え、えぇっと、よろしくね。じゃあ、この廃材を燃やして下さーい」
「ああ、いいとも」
 ミラはカゴを受け取るとワンルームに向かって振り返った。
 ――炎はいい。
 原始的な存在と言われながら、本能を惹き付ける魅力。
 だが、それだけではない。今回燃やせるのは、家。人の営みを抱えて生まれた存在であり、長い時間を経て居場所となるもの。人はそこで暮らして、笑って泣いて。時には生まれて死んで……。
 家には人の想いが込められた物が詰まっている。そうしたものが炎に焼かれて灰へと変貌していく。その炎が生み出す揺らめきに、ミラはどうしようもない程惹かれるのだ。美しく、そして愛おしい炎。
 今すぐ目の前の家も最高の美に染め上げて――。
「あ、動いている家からは素材になる物もあるから、全部燃やしたらパンダくんに怒られるよー」
「……え?」
 ヴァニラの言葉にミラは思わず転びそうになった。
 

 流浪街における家と咎人の戦いが続いているが、この光景は今回だけの物ではない。
 既に日常と化している光景であり、家が破壊されて新たな家が建てられる。そして、住人が不在となった家が動き出す。
 この異常な日常について、ある咎人達は後日にこう振り返っている。
 
「生前の世界でも色々なモノと戦ったけど、まさか家と戦うことになるとは思わなかったわ」
 夕姫(ma0199)はカワウソ型機械種の透夜(ma0306)の毛先を指で遊びながら、そう答えた。
 エンブリオへ到着して間もなくだった事もあり、家との戦闘はかなり印象深い思い出だった。
「慣れるとストレス溜まった時とかは、スッキリして楽しいわね。派手にどか~んとか。今もみんな嬉々としてやってるし」
「おがくずに毒があったりとか、暮らしていた人はどうしてたんだろうとツッコミどころ満載だけど、もう慣れたね」
 夕姫の言葉に振り返るように透夜が記憶を付け足した。
 二人の記憶だけでも特異な経験なはずだが、流浪街では日常。家が動き出したならパンダくんと共に家を破壊する。それが当たり前の光景なのだ。
「ただ、家の解体した後は毛が埃っぽくなるのがね。終わった後に手入れが欠かせないよ。
 そう考えるとパンダくんは毎回手入れが大変だったそうなぁ」
「そうでしょうね。普通に家を解体しても砂埃で前が見えないぐらいだもの。それが当たり前の光景なら毎回家と戦うなんて大変よ」
 どうやら家との戦闘は、ただ戦えば良いというものではなさそうだ。
 破壊された家は資材として転用され、廃材はそのまま廃棄される。その分別だけでも大変なのに、武器の手入れや身だしなみを考えれば日常を守るだけでも容易ではない。
「え? 家を破壊するコツ?」
 唐突の問いに夕姫は思案を巡らせる。
 そして浮かんだ答えを満面の笑みで口にした。
「やっぱまずは柱を壊すのが一番ね。家の構造を把握して柱に攻撃を加えていけば、屋根を支えられなくなって崩壊するはずよ」


「んー、植える薬草? ジキタリスにキョウチクトウ、あとは……トリカブトとかかな」
 流浪街の一角で薬草を育てる為に温室を育てようとしていた朧幻(ma0212)。
 動き出した家が破壊されて瓦礫が撤去されたスペースを狙って薬草栽培を始めようとしていた。土地は限られているものの、空いたスペースがあれば温室を建てても怒られる事はない。その事を知った朧幻は薬草学の権威として薬草の育成を決意したという訳だ。
「心配なのは、この温室近くの家が動き出す事なんだよな」
 朧幻の懸念は、まさに流浪街名物の動く家にあった。
 朧幻が建てたのは薬草用の温室であるが、破壊の意図がなくても隣の家が動き出すだけで温室に被害が出てしまう。予め動く家が分かれば対処のしようもあるが、残念ながら事前に動く家を判別する事は不可能だ。そうなれば、家が動き出してから対処する他無い。
「こういうと家が動き出すフラグだったりするんだよね」
 朧幻の言葉に反応するように手前にあったワンルームがゆっくりと移動を開始する。
 朧幻は思わずため息をついた。
「やっぱりね」
「……解体を開始します」
 家の移動を確認したシャルル・ブランレイゼ(ma0230)が、ワンルームの破壊へ動き出す。
 朧幻が取った策はストレートであった。温室の周辺で動き出した家を他の咎人と共に破壊するというものだ。シャルルはその要因として声をかけられた。シャルルにとっても誰かから命令されて家の破壊行動に出たい。
 その結果がこの共闘であった。
「目標捕捉……スフィアバーストによる攻撃開始」
 シャルルは打属性の魔法攻撃であるスフィアバーストを放つ。
 ワンルームに向かってチャージされた魔法力が大きな爆発を引き起こす。家は爆発に巻き込まれ、壁は既に崩壊寸前となっていた。
 シャルルの攻撃で温室は守られたが、これで安心できないのが流浪街である。
 今度は先程のワンルームとは反対側にあった一軒家が動き出した。
「今度はそっちか」
「お。良い爆発であった。我も負けてられないな」
 ニロスニクニェルラクスニトラ(ma0244)はシャルルのスフィアバーストに興味を持ってやってきた。
 朧幻としても温室を守ってくれる者が増えるならありがたい。
「早速あの家を頼む」
「あー、実はな……」
 ニロスニクニェルラクスニトラは朧幻に対してシールドアップを付与する。
「我も先程、爆発の真似ができないか試したのだが、まったくできんかった。仕方なく、大人しく前で戦う者を助けようと思っておったのだ」
「!」
 ニロスニクニェルラクスニトラも派手な攻撃を試したかったのだが、できたのは怪我の治療など後方支援のみ。
 派手な爆発に憧れるものの、できないものはできない。
 問題は、こうしている間にも一軒家が温室に迫っている事である。
「あ、マズイかも」
「新たなる敵、捕捉……スフィアバースト攻撃開始」
 再びシャルルがスフィアバーストを発動。
 一軒家を中心に再び爆発が広がった。温室は何とか防衛できているが、先が思いやられる朧幻であった。
 

 ――家がただの空虚な『箱』になってしまう事に抵抗している。
 流浪街で発生する動く家に対してバルフォルク(ma0044)はそう推察していた。
 住人を失った家は単なる空き家であるが、土地が限られた流浪街においては邪魔な存在となる。そしてそれはいずれ取り壊される事を意味している。
 不要な存在とされた家。
 もし、家に意志があるのならばその抵抗も理解できる。
「理解できるのは、咎人も似た境遇だからでしょうか」
 バルフォルクがパンダくんの呼びかけで解体作業に参加したのは、その想いがあったからだ。
 バルフォルクは動いた家を破壊して新たに建築物として生まれ変わらせてあげたかった。そうする事で家に宿っていた思いが、新たな建物にも引き継ぐ事ができる。それは一度死を迎えてエンブリオで新たなる生を受けた咎人に通ずるものがある。
「そうかもしれません。だから、私は家の中にある物を大切に預かりたいのです」
 瓦礫の中に埋もれていた人形をレシ・サシェドーズ(ma0378)をそっと拾い上げる。
 レシもまた、破壊される家を前に感情を抱いていた。
 家の破壊も仕事だ。引き受けた以上、全うしなければならない。
 だが、破壊される家には誰かが住んでいた。家は住人の帰りを待ち続け、流浪街での平穏な日々を思い返している。そこには住人が家に残していった品々があったはずだ。レシの手の中にある人形も、きっと前の住人が何らかの思い入れがあったはずだ。
 住人が帰らない理由は分からない。だが、住人を求めるように動き出す家を寂しさのあまり住人を求める存在に見えてしまう。
「寂しさに苦しむ家、ですか。行き場所を見失って苦しむのは咎人も同じです」
「そうですね」
 ポツリと呟くレシ。
 こうしている間にも、一軒の家がゆっくりと動き出した。
 寂しさから平穏な日常を求めて動き出す家。
 また哀れな存在が流浪街に誕生した。
「似た存在であったとしても、誰かが止めてあげなければなりません」
「はい。これも仕事です。破壊させていただきます。
 その後で、ゆっくりと眠れるように祈らせていただきますから……」
 バルフォルクとレシは走り出した。
 彷徨う家が、求めていた平穏な日常を夢見ながら眠れるように。
 

「さぁ、疲れたろう。お汁粉でも食べて一休みするとええ」
 蓬月七夜(ma0081)は疲労困憊の咎人を笑顔で出迎えていた。
 解体作業は肉体労働だ。それも動く家となれば負担は増大。それを慮った七夜は、ささやかながらも炊き出しを行う事にした。
 疲労には甘い物が一番という事で甘いお汁粉を用意。少しでもお汁粉で一息ついてもらえれば、体も心も休まるに違いない。
「はい、これでもう多分治りました。きっと大丈夫かと」
 お汁粉を進める七夜の近くでキャスリン・銀枝(ma0642)はヒールで怪我人を癒していた。
 解体作業に従事する咎人は怪我と隣り合わせだ。家屋に入れば飛び出した釘を引っかけるかもしれないし、タンスの角に足の小指を強打するかもしれない。家屋の中に入っている最中に屋根が崩落してくれば大事だ。キャスリンは炊き出しが行われている場の一角を借りてヒールによる治療にあたっていた。パンダくんの薦めではあったが、炊き出しの場が咎人の休憩所となれば怪我人も集まってくるので治療活動には最適であった。
「ふぅ、結構怪我人が多いですね。でも私にできるのはこれだけですから」
「はい、あんたも」
 キャスリンの前へ七夜はお汁粉の入ったお椀を差し出した。
「え、私のですか?」
「そうじゃよ。お腹が空いているならお餅も焼こうかね」
 七夜はそういうと七輪の上で焼いていた餅を手早くひっくり返す。
 そしてキャスリンへ諭すように呟いた。
「自分にできるのは、これだけ……結構じゃないか。できる事があるっていうのは幸せな事じゃろ。それができない人達がどれ程いるか」
 目的や居場所を失った者。
 七夜は小さな居酒屋でそうした者達を見た事があった。彼等は総じて苦しみながら生きてきた。
 どんな事でも良い。やれる事があるなら、それを懸命に取り組めばいい。
「治療を頑張ったんじゃろう? なら少しぐらい休んでもバチは当たらぬよ」
 餅の入った汁粉をそっと手渡す七夜。
 キャスリンの手の中で汁粉は温かみを放ち続けていた。
 

 東江 武蔵(ma0410)は、流浪街の地にいた。
 記憶ではヒグマとの戦いで瀕死の重傷を負ったはずだが、気付けばこのエンブリオに降り立った。
 一体何故? 武蔵はそんな疑問は抱かない。
 どこにいようとも、成すべき事はたった一つ。
 最強への渇望。己の腕一本で最強の頂を目指す。それこそが武蔵が目指すたった一つの道なのだ。
「押忍! 東江流琉球古武術、東江 武蔵、参る!」
 怒鳴るように名乗りを上げた武蔵は、眼前にいたワンルームへ一足飛びに近づいた。
 ワンルームが逃げるよりも速く、壁に向けて拳の連撃。さらに着地する前に右足から放たれる回し蹴り。ワンルームの壁に大穴が開き、そこから屋内へ武蔵がワンルームへ転がり込む。
 生前であればこのような行為は器物破損で即逮捕だ。しかし、この流浪街においては解体作業の一環。どれだけ暴れ回っても動く家が相手であれば許される。それは制限され続けた武蔵が自由に技を振るう機会が訪れた事を意味していた。
 ドラゴンスレイヤーも持ってはいるが、できるならまずは自らの体で試したい。
 そう考えていた武蔵の意識が一方の壁に引き寄せられる。
「おらっ! おらっ! おらっ! おらおらおらららあ!!」
 武蔵の前にあった壁に大穴が開き、そこから御門(ma0729)が飛び込んできた。
 動く家を見つけて手当たり次第に破壊して回っていた御門は、偶然にも武蔵が破壊しているワンルームに攻撃を仕掛けたようだ。
「はっはー! 家が動くとか意味わかんねーが、こんだけ暴れて怒られないたぁ最高だな!」
「む、同業か」
 起き上がろうとしている御門に武蔵は声をかけた。
 いつの間にかトラブルに巻き込まれた咎人として同じ境遇にある二人だが、傍目からみればその行動原理は大きく乖離している。
「悪いが、こいつは俺の獲物だ。横取りすんなよ」
「俺は修行をしていただけだ」
「解体作業には危険が伴います。油断は禁物ですよ」
 二人の間に割って入るようにアウラ・セラビア(ma0747)が飛び込んできた。
 見れば動く家が庭石のようなものを投げつけているではないか。アウラは二人を守り、庭石を一刀両断に伏す。
「うおっ、あいつら体の一部を投げるのか……ウケんな」
「油断大敵だな」
 見れば、障子が動き出して武蔵に向かって飛来しようとしていた。
「きやがれ! ぶち壊してやんよ!」
「待て、あれは俺を狙っているんだ。俺がぶっこわーす!」
 御門の言葉に続くように武蔵が走り出す。
「危険そうだったら、守らせてもらいますよ」
 アウラがドラゴンスレイヤーを構える。
 偶然ワンルームの中で集った三人は、ワンルームの反撃に正面から迎え撃った。
 

「いのり、背中は任せたよ」
「よーし、澄香。ガンガン行こうね!」
 スミカ(ma0050)と小詩 いのり(ma0150)は背中合わせに声をかけあった。
 周囲には多数のワンルーム。囲まれている? 否、敢えて囲ませたのだ。
 動く家の解体作業はストレス発散にもなる。そう聞いていた二人は、日頃の鬱憤を晴らすべく可能な限り敵を集めて一気に叩くつもりだった。
 そう、これは危機ではない。
 むしろ、殲滅の機会なのだ。
「スミカビーム!」
「あ。ならこっちも負けません」
 手近なワンルームに向けて攻撃を仕掛ける二人。派手な破壊音が周囲に鳴り響く。その音は周囲にいた咎人達を呼び寄せるには十分だった。
「ここにも動く家が……。計画通り一帯の動く家を破壊します」
 灯冥・律(ma0151)がスミカといのりを包囲するワンルーム達の外側から攻撃を開始。
 スカーレットフレーバーが振り下ろされ、迫るワンルームを力で弾き返す。弾かれたワンルームは衝撃を受けながら隣のワンルームへ衝突する。
 数は多いものの、小さなワンルーム相手なら律の斬撃は十分だ。手早く片付ければスミカといのりのいる場所へ辿り着く事もできるだろう。だが、律の瞳に映る家々は、ただの家とは別の物に見えていた。
「家が壊れる……何度見ても慣れません」
 それはスカーレットフレーバーが振るわれる度に、刃を伝わって流れ込む感情。
 今、解体された家には誰かが住んでいたはずだ。そこで過ごした日々は如何なるものだったか。そして、そこに住んでいた者達はどうなったのか――。
 それを考えるだけで律の心が沈んでいく。しかし、これも大切な仕事だ。今を生きる者達がこの流浪街で生きる為には、成さねばならない事なのだ。
「あ、解体が始まってる。あ、えっと。お手伝いします」
 解体されていく家を少し寂しそうに見ていた律の背後からウェン・スタンプ(ma0802)が、怖がりながら姿を見せる。
 自分をコミュ力不足と考えているウェンは、解体作業であれば誰かを手伝えるのではないかと流浪街を訪れた。目的は家の解体であり、咎人同士が過度な連携を行う必要もない。誰かの後方で地味な作業を行うなら、ウェンでもできると考えたのだ。
「よ、よろしく、ね……えへへ……」
 ウェンは精一杯の笑顔を浮かべる。
 しかし、律は眼前のワンルームから自然を外さない。
「手伝って貰えるなら解体に集中して。数が多いから」
 スカーレットフレーバーをを振るいながら叫ぶ律。
 それに対してウェンは体をびくつかせる。
「……え? わ、私!? 私に声を掛けてくれたの……?」
 まさか声をかけてくれるとは思わなかったウェン。
 驚きと衝撃を隠せない。
 そしてそのイベントはそれに留まらない。
「あ、手伝ってくれるの? ストレス発散でも戦って見たら数が多いから助かるかも」
「終わったらサンドイッチを作ってきたので食べましょうね」
 包囲網の中心からスミカといのりが叫ぶ。
「あわわわわ……がっ、がんばりましゅっ」
 まさか三人の人間に声をかけてもらえると思わなかったウェンは、歓喜に打ち震えていた。
 

 流浪街でチェーンソーの回転音が木霊する。
 桃千代(ma0745)の左手に装備されたチェーンソーが一軒家の柱を切断する音だ。機械種である桃千代は言葉を口にせず、黙々と解体に勤しんでいる。動く家ばかりではない。解体が終わっても大型の廃材をチェーンソーで運びやすくする事も忘れない。少々大型で気圧される者もいるかもしれないが、積極敵で真面目な桃千代は周囲の咎人にも好意的に見られている。
「そっちは桃千代さんに任せて、こっちはこっちで始めますか」
 サヴィーノ・パルヴィス(ma0665)は別方向から現れたワンルームに向けてエリートブランドを振るう。
 過去の記憶が曖昧なサヴィーノは、戦いの中に自分らしさを感じ取っていた。
 戦っている自分が一番自分らしい。何故、そうなのかは分からない。
 ただ、そうあるべきだと本能が認めているのだ。
「桃千代さん、そっちは大丈夫ですか?」
 振り返るサヴィーノ。
 流浪街では家が動く為、急に背後を襲われる事もある。チェーンソーで材木を切りながら、桃千代は残った右手でサムズアップ。何の問題もない事を表現したようだ。
「やあ! 僕はオールドブリッジマン。後から失礼するよ」
 オールドブリッジマン(ma0347)はサヴィーノの後方からADV「アドバンスファイア」でワンルームの柱に向けて銃撃を加える。
 後方支援に徹する形で咎人を支援していたオールドブリッジマンは、既に多数の家を解体し続けていた。同時に出没する動く家をチェックしてパンダくんへの報告も忘れていない。情報共有も怠らない態度は堅実そのものだろう。
「支援どうも。でも、感謝している暇はくれなそうだな」
 サヴィーノの視線には、対峙している家とは別に別方向からの家が接近していた。
「待ち伏せ、ではないでしょうね。本当に奇妙な現象です」
 オールドブリッジマンは、アドバンスファイアで迫る敵に牽制を仕掛ける。
 その裏で桃千代も気付いてチェーンソーを回転させながら新手の前へ立ち塞がる。
(劣勢ではないが、囲まれると厄介だ。牽制しながら突破口を探しておこうか)
 オールドブリッジマンもアドバンスファイアで桃千代を後方支援しながら、周囲を冷静に見つめていた。あまり家が集まりすぎれば、対処に苦慮する。三人とも倒される事はないだろうが、万一を考えた脱出ルートだけは確保しておきたい。その前に他の咎人が集まってくれると信じたいところだが。

 一方、この事態をまったく別の角度から見ていた者がいた。
 住人を失った家が壊され、新たなる家が建てられる。
 そして、また住人を失った家がいずれ動き出す。
 住人の喪失がある限り、この戦いは続いて行く。
 戦いが続く限り――サヴィーノはサヴィーノでいる事ができる。
「終わらないんだな、この戦いは」
 サヴィーノは、自嘲的に微笑んだ。
 

「な!?」
 報酬を受け取る段になってカーリン(ma0046)は、衝撃のあまりからだが固まった。
 解体作業でも後方で応援や、治療費を要求しながらも多少値引きして治療行為を行ってきた。それもすべてパンダくんからもらえる報酬が目当てだったからだ。無料奉仕なんてあり得ない。時間の浪費だ。
 しかしいざ仕事が終わってみれば、パンダくんから与えられた報酬は数個の『どんぐり』と『おが屑』であった。
 体を震わせながら、カーリンはパンダくんへ問いかける。
「こ、これは……?」
「ん? 報酬の廃材だぞ。今回はかなりの数を解体できたからな。大盤振る舞いだ! どんぐりはおまけな!」
 満足そうに高笑いするパンダくん。
 実はパンダくんからもらえる報酬は廃材がメインだ。この廃材を売却するものもいるが、大金に変わる事はほとんどない。さらにいえばもらったどんぐりは特別な物ではなく、そのへんで拾えるものに過ぎない。
「そ、そんな……」
「どんぐりはピカピカに磨いておいたからな……って、何を倒れてんだ? おい、誰か! こいつを運んでやってくれ!」
 失われていくカーリンの意識。
 ブラックアウトしていく視界の中で、カーリンが見た物は叫ぶパンダくんと手の中にあるどんぐりだった。


諸注意

・事前シナリオに参加する際には、いずれかの選択肢を選ぶ必要があります
・選択肢の内容とまったくそぐわないプレイングは採用が難しくなります
・リプレイは選択肢ごとに作成されるため、別選択肢のPCと共に描写されることはありません。友人と参加する場合、選択肢をそろえるようにしましょう。
・事前シナリオではステータスを用いた厳密な判定よりも、プレイングの採用を重視した描写を行います。何卒ご了承くださいませ。



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事前シナリオ記念ミッション(2月26日 第2弾追加!)

第1弾 期間:2月19日12時~2月26日12時

事前シナリオに備えてコンクエストやアイテム召喚を行うとオトクになっております!

コンクエスト
  • コンクエストプレイ100時間ごとに EXP+100
    ※ウィークリーのコンクエストミッションとは別にプレゼントされます。
  • コンクエストプレイ200時間で:神威語りを1個プレゼント
  • コンクエストプレイ300時間で:覚醒の種火を1個プレゼント
アイテム召喚
  • アイテム召喚で合計150SC以上消費:ドロップアップ(5個)プレゼント
  • アイテム召喚で合計300SC以上消費:イデア増幅薬3個

第2弾 期間:2月26日12時~3月5日12時

第2弾として新ミッションが登場!
コンクエストをプレイして、更にキャラクターを強化しよう!

コンクエスト
  • コンクエストプレイ100時間ごとに EXP+150
    ※ウィークリーのコンクエストミッションとは別にプレゼントされます。

※報酬はミッションから受け取ることが出来ます。

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シナリオ実装直前! イラスト発注キャンペーン!(2月19日追加!)

期間:2月19日12時~3月8日

キャンペーン期間中に対象商品発注で、全員にもれなくプレゼント!
さらに、対象イラストを発注した方の中から抽選で追加のプレゼントもご用意しております!

新商品「アビリティカットイン」など、
今回はWEBゲームやコミュニケーションで役立つラインナップになっております。
プレゼントとしてEXPが手に入りますので、アビリティ入手などにお役立て下さい!

対象イラストと特典
  • アビリティカットイン ⇒発注で500EXPプレゼント
  • キャラクターアイコン2個 ⇒発注で200EXPプレゼント
  • キャラクターアイコン4個 ⇒発注で400XPプレゼント
  • 更に、期間中に上記3種類いずれかのイラストを発注された方の中から、抽選で3名様に「3000EXP」をプレゼントします!

★イラスト注文はコチラ!

注意事項
・期間中にキャンペーンタグをつけて発注いただき、リクエストが受理された段階で付与対象となります。
・受理されたタイミングがキャンペーン期間終了後だった場合も、付与対象です。
・「購入者全員プレゼント」の特典は、条件を達成した時点で「ミッション」として受け取れます。
・特典の付与はミッションごとに1回ずつ、それぞれ受け取ることができます。

当選者
フィリア・フラテルニテ(ma0193)
藍紗(ma0229)
六道煉龍(ma0646)
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