篝火騎士（イグナイト）

――――篝火の記憶。

【……本当にやるのか？】

　声、今はグーと呼ばれるようになったソレが言う。
呆れを含んだ疑問に無言の返答を返し、肉体の主、ルーは腰に据えた器具を操作する。

【ハァ……今回だけだぞ】

　猶更呆れを増した声色を隠そうともしないグーを他所に、その器具……ライターの点火装置のような形状の“ベルトのバックル”をかちりと鳴らし、合図する。

「変身ッ！！」

【Let’s Ignition!!!】

　瞬間、火柱のような灼熱のイデアがルーの周囲を包み、その身に纏う防具が可視化されていく。
そして、その様を祝うように響く声。

【Time to Ig,knight!!!】

　火柱が消え、劫火の余熱と火の粉が舞う中に立つのは、刺々しい全身鎧を身に纏ったルー。
篝火騎士（イグナイト）として誂えた新装備を誇らしげに晒しながら、その手に掴むは灼熱を湛える大剣槍。

【……満足か？】

　一連の動作が終わり、グーの声が再度響く。
ルーは満足げに頷いた後、でも……と呟き。

「次は消火版のやつもやりたい」

【やらん！絶対にやらん！！】

　大体、なんで私がベルト音声役なんだ！！
そんな叫びと共に、篝火騎士の夜は更けていく……。