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聖樹界イルダーナフ


???

『死』を氾濫させて世界法則を乱そうなんて、よく考えるねぇ~!
確かにミンスクで埋め尽くされた世界なんて醜すぎるのはそのと~り。
まぁ、動物と自然を破壊しないなら、正直僕にとっては無関係だけど……。
見ている分にはそれなりに滑稽だし、見物させてもらおうかなー。


更新情報(2022/6/21)

聖樹界に出現した新たな魔王と、囚われのロウ。
不死者の存在が少しずつ平和な世界に歪を広げていく中で、咎人たちはロウの救出作戦に入る。
目指すは『バロル信仰』の眠る『オルデナ地下教会』!
アナザーストーリー『黒キ眠リノ園』に纏わる新情報を特設ページにまとめました。
関連シナリオと合わせてお楽しみください。

ストーリーノベル

●『黒騎士』
「いやあ、すっかり世話になってしまって申し訳ない」
 魔王フルフルとの遭遇戦で突然姿を現した『黒騎士』はカッコつけて出てきたわりに咎人たちが思っていたほど強くなくて、瀕死の重傷を負ってしまった。
 帝都ダウバランで保護されたのち治療を受けることになったのだが、聖樹神イルミンスールの治癒魔法もあって既にケロっと完治していた。

<イルミンスール>
「ところで、お茶のお代わりをいただいても? とてもいい香りで、私の好みです」
「ロウがいないとツッコミ役がいなくて困るな。誰かほかの苦労人を捕まえてこいよ」
「いいではありませんか、お父様。お茶というのならお出ししても」
 イルミンスール (mz0084)の言葉にゲルダ・イルミンスール (mz0050)は笑顔を返し、そしてポットからお代わりを注いでやる。
 ゲルダは魔族との和平に向けてダウバランを中心に周辺を旅し、『野良』の魔族を帝都に招くという活動をしていた。しかし、『黒騎士』の保護に合わせ帝都に戻ることになった。
 理由は単純だ。黒騎士の兜の中にあった顔が、知人によく似ていたから。
「ていうかお前はテラスじゃないのか?」

<ゲルダ>
「他の方にもその名前で呼ばれたけれど、私は違うね。あなたが本当にイルミンスールであるのなら、ある程度は予測できると思いますが」
「確かにお前と同じ顔のミンスクがいても何もおかしくはないな」
 ナイトハルト・ロス・テラス (mz0082)は人造生命体。ミンスクという名前のホムンクルスであり、同じような個体をいくつか生産していた。
 そんな量産型の彼らに名前はなかった。「ロス・テラス」とは聖王国を指す名前でもあるが、この言葉は生まれつきではなく、聖王国が発足する際に賜ったものである。
 そういう意味で、同じ顔であっても「ロス・テラス」さんは一人しかいない。
 そして、その一人しかいない当人は、この世界にもう存在していないのだ。
「あなたは、はじまりのミンスク。……どういった理屈で存在しているのかまではわかりませんが、それは間違いありませんね? まさか、あなたも『不死者』として復活を?」
「私も不死者なら、あんな無様に倒れたりはしませんよレディ。色々といじくってはいますが、私はただの人間です。事情を説明すると長いのと、『主人』に止められているもので、あまりペラペラと事情をお話はできないのですが。治療や施しには心から感謝しています」
 咎人曰く『簒奪者でもなさそう』ということで、余計によくわからない。

<黒騎士>
 だが、世界の理が乱れ始めた今の聖樹会では何が起きてもおかしくはないだろう。
「ご馳走様。主は私を心配はしていないだろうけど、そろそろ戻ります。心配はしないくせにほっとくと怒るという大変理不尽な方でいらっしゃるので」
「敵……ではないのですよね?」
「状況によるでしょう。ほら、私ってただの剣ですので」
 ペコリと頭を下げ、黒騎士は去っていった。
 アッサリそれを許したのには理由がある。
「はあ……なんだか騙したようで心苦しいですが」
「逆だろ? こうでもしなきゃあいつを自由にはさせられない。見逃してやってほしいっていうお前の要望に沿うためにやったことじゃないか」
 イルミンスールは気絶していた黒騎士の鎧に種を植えていた。
 その種は一種の発信機のようなもので、位置情報を送り続けてくれる。
 こうして監視下に置いているから、ひとまず釈放という理屈らしい。


●新魔王の影響
「「「魔王サマ! 魔王サマ! 魔王サマ!」」」
 新しい魔王が出現したらしいという噂は、あっという間に広まってしまった。
 正しくは『意図的にダウバランに広めた』というのが正しい。隠しておけばおくほど魔族に不信感を与えることは言うまでもなく、かといってずっと隠し通せる見込みも薄い。

<オルカ>
 ならばきちんと一席設けて話をしようということで、同じ魔族であるサブナックをはじめ蒼薔薇騎士団が情報を与えたのだ。
 結果としてはやはりというか、魔王の復活というまだ不確かな情報を多くの魔族は歓迎し、鬱屈とした街の雰囲気は良くも悪くも明るく変化しつつあった。
「騒いでいるだけで別に暴動が起きているわけではないのは、ハーゲンティのおかげだね」
「ハーゲンティモ、馬鹿デハナイ。ムシロ……ヤツハ賢イ。魔王様ノ残党ヲ率イル以上、不確カナ情報ニ踊ラサレルコトハナイダロウ」
 『口利く種族』を憎む、かつての魔王軍の流れを引く、いわゆる過激派と呼ばれている生き残りたちは、ハーゲンティというオークによって統括されている。
 ハーゲンティはまだ、『新魔王』を認めていない。信用していない。
 彼は確かに過激派で、『口利く種族』を憎み、時が熟せば帝都で暴動を起こしてもおかしくないような危険人物ではあるが、同時に魔王が残した『生き残り』を守りたい、魔族を救いたいという『正義』を持つ男でもある。
 目先の『魔王』という言葉に飛びつこうとする者たちを諫めるハーゲンティがいなければ、とっくに帝都は戦場になっていたかもしれない。
 ……と、オルカ (mz0049)がそんなことを考えていると、まさしく胸中の人物であるハーゲンティがお供の騎士を侍らせてやってくるではないか。
「咎人ヨ。ロウ・ル・ザノスノ探索ハドウナッテイル?」
「大まかな方角までは分かっているので、調査中だ。そう遠くないうちに魔王の拠点を突き止め、ロウの救出作戦が開始されるだろう」
「ソノ作戦、オレモ共ニユク」
 意外、ということもない提案だ。
 ハーゲンティは見極めたいのだろう。新魔王が本物なのかどうかを。
「ソノ魔王ガ、魔王様ヲ騙ル偽物ナラバ、エリゴール様ヘノ冒涜! 決シテ許セン! コノオレガジキジキニ討伐セネバナルマイ!」
「モシモ魔王ガ『本物』ナラバ、ドウスル?」
「貴様ニハ関係ノナイコトダ、サブナック。ソレトモ口利キ共ハ、オレタチヲ『魔王』カラ遠ザケヨウトイウノカ?」
 断ることはできない要求だった。
 ハーゲンティら過激派がどんな態度をとったとしても、和平を目的とする蒼薔薇騎士団は彼らとの対話を諦めることはないし、情報も隠さない。
 そうでなければ、『筋』が通らない。口利く種族を信じてもらうことはできない。
「安心シロ。貴様ラガ正シイノナラ、オレノ斧ハ偽リノ魔王ヲ砕クノミ。真実ヲ確カメルマデ、貴様ラニ刃ヲ向ケルコトハナイ」
「……ああ。信用しているとも」
 本当にハーゲンティは『それまで』は絶対に咎人や蒼薔薇騎士団を攻撃しないだろう。
 そんな暴走に『利』がないことを、彼はきちんと理解している。
 むしろ蒼薔薇騎士団は、ハーゲンティを守らねばならない立場にある。
 万が一にも彼が帝都の外で死んだりしたら、その言い訳を魔族らは聞かない。口利く種族と咎人が結託してハーゲンティを暗殺したと決めつけるだろう。
「……フ。見クビルナ。オレハ、強イ。必ズ役ニ立ツ」
 オルカの心配を見抜くように、ハーゲンティはニヤリと笑った。


●代わりの苦労人
「……我らはどう動くべきなのだ」
 捜索が進み救出作戦が迫るにあたり、蒼薔薇騎士団は幾度となく議論を積み重ねていた。
 ロウを救出したい。やるべきこともある。だが……前回、この中でも精鋭と言える者たちがなすすべもなくやられている、その事実がある。
「あの時は手分けをしていた。一丸となって行動すればもっとやれるはずだ」
「しかし、逆に足手まといにはならないのか。……リーゼロッテ様の為に死者を出すな、命を懸けるのは最後の手段にしろと、ザノス卿も……」
「決して無謀はせず、部隊としての退却時を見極めれば……」
「その退却も、ザノス卿の支援魔法と指揮なしでは容易なことではないぞ?」
「では……咎人や魔族に任せ待っているというのか?」
 作戦に当たり、どれほど積極的に動けるのか。最初の不死者の出現時には、見に回ることも納得した彼らではあるが、いまや全く未知の存在というわけでも無い。いつまでも咎人に頼り切りの状態で良いのか。自分たちのリーダーが危機というその時に。……聖樹戦争も終わり、咎人が作ってくれた未来の可能性をこれからはこの世界の者が切り拓いていく、その為の蒼薔薇騎士団ではないのか。
 寄せ集め、とも言える蒼薔薇騎士団ではあるが、その纏まりに不協和音があるわけではない。ロウの影響力もあって、個性あるそれぞれを互いが尊重している。
……尊重し、平等であるからこそ、お互いに言い分は分かる形で意見が分かれると「最終的な鶴の一声」を発せる者がいないと中々結論が出せないのだ。
 リーダーが不在、とはそういうことだった。無理矢理に話を纏めても、不満や疑問が残っていればいざというときに動きに齟齬が出る不安がある。誰か「彼の言うことならば」と皆を納得させてくれる存在が居れば。あるいは、窮地になったときに柱となれる者が居れば。単純な強さで言えばサブナックなどもいるが、魔族の強さは個体の強さに依るものが大きく性質も攻撃寄り、撤退時の作戦指揮や殿の守りを託せるものではない。
 どのような心づもりで動くのか。いざというときはどうするのか。中々皆で納得できる結論が出ない、そんな中……。
「──失礼いたします」
 彼らの元を、新たに訪れる者がいた。応対に向かった騎士はその姿を確認して、歓声じみた声でその名を呼んだ。
「「「……ジークフリート卿!」」」

 ……こと、ジィト(mz0039)は。

<ジィト>
「はぁ!? ロウの奴が攫われたぁ!?」
 少し前の天獄界、オルカから話を聞くなり、そんな声を上げていた。
「まあ、約束だから報告したけどね。妖鉄界でも大変なんだろう? 無理に誘うわけじゃないが……どうしたんだい、そんなに頭抱えて」
 オルカは、ジィトにも協力してもらおうとしてこの話をしたわけではなく、聖樹界の事が気になっているジィトに時々状況を教えてくれと言われていたから伝えただけだ。
「……いや、その、俺……ロウの奴と『もし万が一僕に何かあったら、蒼薔薇騎士団のことを頼めないか』って約束……してて……」
「あー……」
 元々ロウは蒼薔薇騎士団のトップはジークフリートが相応しいと思っていたのだ。そして、蒼薔薇騎士団が組織として安定するにはもうしばらくの時間がかかることも分かっていたのだろう。オルカも、確かに今の蒼薔薇騎士団の元へ彼が向かえば、特に精神面での安定度はかなり変わるだろう、とは思う。
「けど、その時点でもう君は妖鉄界にかなり踏み込んでなかったかい? どうしてそんな安請け合いしたかね……」
「いやだってまだ不死者の存在なんて全然なかったころだぞ!? あん時の聖樹界でロウなら心配ねえ、そんでロウが少しでも安心するならいいかって……まさか巻き込まれるなんて思わねえだろ!?」
 ロウも実際、その時は「過激派の魔族が想定できない手段を取ってくるかもしれない」くらいの危惧で保険だったのだろうが。
 ……まあ、ジィトが「巻き込まれるわけがない」と思って巻き込まれないわけがないだろう、とは、彼を知る一部の咎人なら思うのかもしれない。
「どうするんだい? 実際、『自由騎士』ジークフリートは各地で人々に手を貸していることになっているんだろう? そんなことになっているとは知らなかった、でも済むとは思うけどね」
 ちなみに、その為にたまに不自然じゃない程度に聖樹界のいろんな場所でジークフリートとして人助けに行ってたりはする。というのはさておき。
「……いや、やっぱり約束は約束だ。こうなった以上、不義理は俺がしたくねえ。大体、やっぱ……助けに行きてえよ。俺だって」
 それで、妖鉄界との兼ね合いは大丈夫なのか?
(……まあ、気合でどうにかするしかねえだろ)
 根性論で済ませるのであった。そんなのだからワーカホリックと言われるんだと思うが。

 ということで。
「リオールの方で復興が始まったと聞き、手伝いに行ったのですが、そこで妙な噂があると聞きまして。詳しい話を……そして、私にも手伝えることがあればと思いまして」
 そういうことにした。前にリオールを訪れた咎人たちが少しでも不死者の話をしていてくれたおかげで自然に話を繋げることが出来た。勿論、この為に事前にリオールを訪れて辻褄合わせ済みである。
「ええ。今は是非、卿のお力を頼らせていただけませんか。実は……」
 知ってるけど。騎士が熱心に説明するその話を、さも「詳しいことは今知りました」という顔で「そんなことが……」という演技を完璧にこなしつつジィトは頷く。
 ロウほどの事が出来るかは分からないが、「窮地の柱」とかならやれる事はあるだろう。
 ……結局、咎人に頼っていることにならないか。ジィトは、そうは思わない。彼らはもう、無謀はせずに己がやるべきことを判断し、そして作戦成功のために必要な力となるはずだ。……ただ、歩き出したばかりのこの組織がしっかりその自覚と自信を持てるまで、もう少しだけ支えが必要なだけ。
 好きになった、この世界の為。そして、救える命に手を伸ばせるなら。今一度、もう少し、『ジークフリート』になることにしよう。


●オルデナ地下教会
 ロス・テラス聖王国の建国以降、世界の宗教は『マウゼル教』に統一された。
 しかし、イルダーナフの大地は広い。今は大陸東部の国々がほとんど滅ぶという、文字通りの人類絶滅間際の危機を乗り越え『多様性』はとうに失われたものの、かつては聖王国以外にも多くの国々が存在し、そこには土着の信仰もあったことだろう。
 神のお墨付きである聖王国とその聖王国が広める『マウゼル教』は、世界の創造神たちを信仰し、それらを『正義』として広めた。
 口利く種族、特にミンスクの発祥が古代の聖王国にある以上、その教義はおおむねすべての国で前向きに受け入れられてきたと考えてよい。
 しかし、『全人類が一色に染まる』ということは、どうあってもあり得ない。
 マウゼル教を否定する者もいたし、土地に根差す精霊や龍を信仰する者もいた。そうした信仰が多様であった時代の聖樹界は、今より精霊に近しい環境だった。
 今は秘境に隠れるようにして過ごしている少数種族や精霊、龍。それらを人々がほとんど忘れるほど、聖王国とマウゼル教の支配は強力なものであった。

(オルデナ地下教会……し、知らんッ!!)

<ロウ>
 ロウ・ル・ザノス (mz0080)が知らないのも無理はない。
 というか、今の聖王国の人々が知らないのは当然であった。
 聖王国が大陸の西の端っこにある以上は当然だが、東に行くほどその影響力――『網』はザルになっていって、『世界は統一されているだろう』と安堵する。
 少数派ほど生き残れなかった聖樹界の東ぃ~の方に、地下に建造された教会があるなんてこと、魔法騎士の名門ザノス家の嫡子が知ってるわけがない。
(微妙~~にマウゼル教っぽい意匠の建造物でもあるんだよな。つまりマウゼル教が大陸全土に広まった後、土着の信仰と混ざる形で作られた感じ……か?)
 地下遺跡の一室に閉じ込められたロウにできることは考察くらいで、他にはマジで何もやることがない。
 料理とは言えないものの一応食事は出るし、痛めつけられたり命を脅かされたりもしていないが、とにかく石造りの一室から外に出られなかった。
「ロウ! フルフルガ……来タゾ! 本読メェオラァ!」
「うおおお!? 本を投げるんじゃありませぇん!?」
 ハードカバーの頑丈そうな本が、魔王の膂力で投げつけられて石壁に激突する音。
 たぶん人生でそう聞くことないんだろうな~と遠い目になる。
「お前、本が好きなのか嫌いなのかわからんぞ」

<フルフル>
「好キダゾ?」
「じゃあ大事にしろ」
「ダイジッテナンダ?」
「壊さないようにすること」
「ホ~~~ン?」
(まさか駄洒落じゃないよね?)
 ロウは本当に本の読み聞かせの為だけに拿捕されているらしい。
 フルフルは魔王としての役割を果たしている時以外はほとんどこの部屋に籠っていて、ロウに本を読むようにせがんでくる。
 頭はよくないようで、正直理解できているのかは怪しいが、とにかくちゃんと最後まで聞こうという姿勢だけは評価していた。
「お前はなんで本が好きなんだ?」
「ン? ナンデ?」
「理由だ理由。もう何度目だこのやり取り」
「ンー……ンン?」
 フルフルはロウの膝の上に頭を乗せながら「ムムム」と悩む。
「フルフル、コノ世界ブッコワスジャン?」
「そうなの!?」
「ソウダ。デ、ソノアトコノ世界ノコト、覚エテルヤツイナクナル。生キテルヤツダレモイナクナッテ、全部死ンデルジョータイニナル。ダカラ、シリタイ」
 そう。このいかにも間抜けそうな子供は、間違いなく魔王だった。
 言わんとすることはよくわからない――というのも、子供でマヌケであるが故に、難しい質問をしても要領を得ないからだ。
 ただ、この世界を終わらせようとしている。すべての生物を死なせようとしている。
 その2点だけは、ロウにもはっきり伝わっていた。
「フルフル、死ンデタ。ズットズット死ンデタ。死ンデ、生マレカワルノ、デキナカッタ。ア、ウーン……違ウ? 死ンデタ違ウカモシレン。『産マレラレナカッタ』、カモ?」
「産まれ……られなかった?」
「ズット寒クテ暗イトコ、イタ。産マレタカッタケド、ダメダッタカラモウイイ。今ハ世界ヲ壊ス方、ダイジ」
「……産まれられないというのは、どういう感じなんだ?」
 意味はわからないなりに質問してみる。
 フルフルはゆっくりと目を細め、明らかに不機嫌そうに言った。
「ツマンナイ。ナンモナイ。ミテルダケ。ミンナ先ニイッテ、オイテケボリ」
 でも、と続ける。
「『産マレタクナイ』ヤツ、イッパイイタ。産マレルコト、苦シイ。ツライ。世界ガアルト、苦シイ。モウ産マレタクナイッテ、ミンナガイウ。ダカラ、モウ産マレナクスル」
 理解は及ばないが、ゾっとした。
 フルフルのやろうとしていることは間違いなく世界の破滅だ。そしてその方法は『産まれなくする』という抽象的な言葉ではあるものの、『マナの循環による生物の輪廻の否定』であるとロウは薄々感づいていた。
 もしもそれを本当にやろうとしているのなら、コレはこの世界に存在してはいけない。
 圧倒的な――大悪である。
「フルフル産ンデモラッタ。『ママ』ミタイナヒト。フルフル、ズット『ママ』ホシカッタ。ママノタメニ、ガンバッテルゾ」
 膝の上でゴロゴロしたと思えば、魔王はニンマリと笑う。
「イッパイ殺シテ、褒メテモラウ。誰モ苦シクナイ世界ニスル。『ママ』モ幸セニナレル。ソシタラフルフルモ、幸セ!」
 本を胸に抱き、魔王は目を閉じる。
「誰カノ幸セ。ミンナノ幸セ。『騎士』ハ、幸セヲ守ルンダ……」
 目を閉じ、いつの間にかグウグウと獣のようなイビキをかきながら眠り始めた。
 フルフルが『魔法騎士』に憧れていることはわかっていた。だってこいつが持ってくる本ときたら、どれもミンスクの騎士の英雄譚ばかりだから。
 ヒトの姿をした魔族。騎士に憧れた魔王。幸せを願う殺戮者――
「――産まれついての悪。純粋悪……か」
 こいつは殺さなければならない。それは最初の印象から何も変わらない。
 フルフルは純粋だった。
 ただ純粋に、この世界の悪そのものだったのだ。


●再来
「ふうん。それで黒ちゃんは逃げ帰ってきた、と……」
 魔王という制度、それ自体の理解に時間がかかってしまったが、あのイルミンスールならそういうことをしていてもおかしくはないだろうな、と思い至った。

<???>
 神はヒトではないから、ヒトのような考え方はできないし、『罪悪感』なんて持ち合わせていない。禁忌とはヒトの問題で、神の行いはすべてが『是』であった。
 ただ――それも、『外』を知るまでの話。今はさすがに『ないわー』と感じる。
「それにしても、さすがに地上を死者でいっぱいにしようっていうのはいただけないよね。だって、ミンスクもフォモールも、死んだら醜いのだし。あいつらって野となり花となって自然を潤すから存在を許されているところがあると思うんだけど」
 地べたに四つん這いになった黒騎士を椅子に見立て、主はその上に座っている。
 悠長に茶など嗜み、左右の足を交互にぶらぶらさせ、そのついでに踵で黒騎士の脇腹などをゴッスンゴッスンと叩いていたりもする。
「気持ち悪いってのは厭でしょ。ただそれだけで万死に値するよ」
「畏れながら、狩猟の神よ。今回の漂流(ドリフト)は観光目的のはずでは?」
「そうだよ? それがどうしたの?」
「観光目的で訪れた世界に武力介入はいかがなものかと」
「武力介入? ……アレが? 少しちょっかい出しただけじゃん。それにだね、黒ちゃん。観光地にゴミが落ちていたら拾ってゴミ箱に入れるくらいのことは誰だってするでしょ」
 ゴスッ! ゴスッ! ……黒騎士がうめき声をあげる。
 軽い動作に見えて、行使されている物理現象は鎧を着こんだ騎士を苦しめるほどらしい。
 二人の目の前には、古い墓地があった。
 『過去形』なのは、すでにそこに墓地の痕跡は跡形もなくなっていたからだ。
 まるで天より無数の隕石が降り注いだかのように、大地には小さなクレーターが数えきれないほど生じていて、この地で徘徊していた不死者は一匹残らず殲滅されていた。
「来た時よりも美しく。――僕が気に入っている、異世界の言葉さ」

(執筆:ハイブリッドヘブン運営)

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