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エリス王国連動


ヴェルナー・ブロスフェルト

エリス王国が危機に対して認識が甘いのは知っていました。
ですが、その甘い認識がリベラ以上の危機を招いています。
今や、敵は誰なのか。誰を助けるべきなのか。
我々は、それを見定めなければなりません。


更新情報(2021/09/22)

エリス王国の新展開に合わせ、特設ページを更新!
ハルク王太子のクーデターにより変化するパンテーラ。
支配と言う名の団結を求め、聖剣ウルフズベインが掲げられる。
激動の連動シナリオに関連したストーリーノベルや解説を更新しました!

ストーリーノベル

●翼狼は天を戴く
「この度は、お招き下さりありがとうございます」
 ジィト(mz0039)が告げた挨拶は、これまでの経験の中で最も緊張したものかもしれない。

ジィト
「御足労、まずは感謝を述べよう」
 威厳に満ちた態度でそう応じるのは……パンテーラ公国王太子ハルク。
 暫くエリスの動向は注意すべきと思ったジィトは、国内の宿に頻繁に逗留し、必要な相手に連絡先として伝えていた。そして……パンテーラの使者が尋ねて来たのだ。「我が王が、咎人との協力体制について貴殿と相談したいと仰っている」と。
 勿論、罠であることは警戒した。一人で行くのは危険だ、とも。だが……「ここで決められないというならそこで結構。互いに結論が出ているならそれで仕舞いだとも王は仰っている」と言われれば……そのままついていくしかなかった。「協力したい」という相手に、「考えさせてくれ」「護衛を付けさせて欲しい」というのは確かに……「信じる気はない」と言っているも同然なのだから、そこで終わりと言えば終わりだ。
 ハルクに気を付けろ、と言われた言葉も頭を過る。だが、侵略に対し気を付けろ、というなら、ここは動向を探らなければいけない場面か。その他にも色々とよく考えた──つもりだった──上で、ジィトは一旦この話を受けることにしたのだ。
 面会場所に案内される。その間、ジィトは周囲の気配に常に気を配っていた。すれ違う一人一人、さり気なく、漏らさず眺める。咎人であるジィトには、邪神の手勢が居れば見れば分かるのだ。その気配を察したら、無礼も何も置いてすっぽかして逃げよう、それが出来るから了承したし、つまりパンテーラに邪神の手勢が潜り込んでいるかを確認出来る好機と判断したのも理由だ。
 だが、王の御前に案内される、その時になっても邪神の気配は何一つなかった。
「冗長な社交辞令などを交わし合うつもりはない。本題だが」
「……はい。咎人との協力体制について話し合いたい、とのことでしたが」
「ああ。認めよう。あれらは強い。……あのまま介入を許し続ければ各国を纏め上げるのが困難になる、そう結論せざるを得ん」
「……各国を纏め上げる……それは、貴国が、ということですか?」
 隠そうともせぬ覇気に、ジィトは思わず問いかける。ハルクはニィ、と嗤ってみせた。
「如何にも。そしてその為にまず──貴様の身柄が必要だ、英雄ジークフリート」
 は? 俺? 意味は分からなかったが一気に膨れ上がる剣呑な気配には即座に反応した。ハルクが抜剣し切りかかってくるのを、ジィトも咄嗟に剣を抜いて防ぐ。切り結ぶ。咎人であるジィトに反応できないほどでは無い。幾度か火花を散らせたのち、ジィトの剣がハルクの剣を弾き飛ばす。
「……あまりこういう方法での説得はしたくありませんが……咎人の方々には、私などよりも強い者が幾らでもいますよ」
 本当に、いやな話の進め方だ。だが……こうなってしまっては、対抗は無駄だと分からせる、それも手だろうかと、ジィトは告げる。
「成程、貴様などより強い──『それは例えば、この位か』?」
 後半の声に、ぞっと背筋に寒気が走った。ハルクが、携えていたもう一本の剣を抜く。ジィトの眼には確かに見えていた。『それはイデア体ではない』、と。
 ……そしてそれが、ジィトの油断だ。自分に脅威になりうるなら、簒奪者かそれ由来の物だろうと。分かるが故にこう考えてしまった。それを確認したら逃げればいい、と。『この世界の人が持ち得るものに、それがあるとは考えなかった』のだ。
 パンテーラについての事前調査資料。そこに書かれた僅かな一行を、ジィトはしかしこの時になって漸く思い出す。
 ──両国の初代国王は【ラタトスクから宝物を下賜された】とされ、今も厚い信仰で知られている。
「聖剣ウルフズベインよ!」
 ハルクが叫ぶ。ジィトは身構えていた。掛け値なしに、本気で全力で防御した。だが、猛烈に、何度も襲い来る暴風に打ちのめされ、イデアの護りを突き破られ、床に叩き伏せられる。
「──……っ!」
 だが、ジィトはそこから素早く判断を切り替えてみせた。なら、当初の予定通りに、だ。シールドが復帰すると、ジィトは即座に出入り口に向かって吶喊した。当然騎士がそこを塞いでいるが、突進して突き飛ばす。警笛が響く。通路の奥から騎士がばらばらと姿を現す。真っ先に道を塞いでくる先頭集団、その一人の移動に合わせて距離を詰めて足止めし、足並みを乱す。簒奪者がいた場合に備えて、神威は逃走する為のものに特化してきたのだ。騎士たち相手ならやり過ごせる……
 だが、そこで。
 また、どこか背筋を震わせるような咆哮が響き渡る。と、共に。
 目の前の騎士が打ち下ろしてくる剣が、いきなり鋭さを増した。
「なっ……!?」
 あっさり負けるほどでは無いが、逃げる事だけに集中しているとやられる。一撃一撃に対応して逃げ足が鈍ると、さらに騎士の数が増えて……そして。
 再び襲い来る暴風に、騎士たちの目の前でジィトは再び床に叩き付けられる。
 瞬く間に数人がかりで、倒れた身体を押さえつけられた。うつぶせになるように床に身体を押し付けられ、やがて、後ろ手に手を回され、両の肘を重ねて手首までを鉄枷でしっかり拘束される。
「ハ、ハルク王太子! これは一体どういうことですか!?」
 そうなれば、今更のようにそんなことを聞くしかもうなかった。
「まず、貴様は人質だ。このウルフズベインと対なる宝物、エリス王家に伝わる腕輪ユーサネイジアを渡してもらうためのな」
 ……は? と、ジィトは思った。
「私に……エリス王家に対して人質になる価値があるとは思えませんが」
 そう、結局のところジィトのこの件に対する最大の油断の理由がこれだ。「自分一人倒したり捕らえたりしたところで何の意味が?」と……『常識的に』考えてしまった。
「はっ! 漸く意見が合ったでは無いか。そう、兵でも国民でもない者の為に国宝を渡し国威を脅かすなど有り得ん判断よ! ……それが分からんから、あの馬鹿王には任せておけんのだろう?」
 そう……エリス国王は『底抜けに』人がいいから、『誰であろうが命であれば』人質になりうる……──
 そして。
「ま、待って……下さい。その国宝を手に入れたその後は……どうなさる、おつもりですか」
 ここに来てジィトはやっと、そうして起こりうる結果、嫌なそれに思い至って……震える声で、ハルクに問う。
「──あの王に戦争の為の兵や兵站など扱わせておけん。腕輪さえそろえば、容易く俺の物に出来るだろうな」
 分かっているではないかと嘲笑い答えるハルクに、ジィトの顔が青ざめる。
「お、お待ちください! 貴方と貴国の力は十分に理解しました! 話し合えば貴方を主導者と認めさせることは……」
「話し合いなどで国同士が纏まる訳がなかろう」
 きっぱり、ハルクは断言した。
「普通に考えればジレンマなのよ。戦わなければ未来は無いが、未来があるならば消耗は別の所に押し付けたい。国交を考えればエリスほど露骨にそれを言って見せる馬鹿はそう居ないはずだが、何処も本音は一緒よ──俺のように、戦いそのものが目的と出来る狂人でも無くばな」
 堂々と。
 ハルクは己の所業が「狂気の沙汰」であると認めてみせた。
「だから俺がやってやる! 未来など投げ捨てて先陣を切り、纏まらぬはずのものを纏め上げてやろうでは無いか! そう『畏怖』によって! 憎まれようが戦ある限り俺を止められはせん! そうして俺が、俺の軍がこの世界に覇を遂げたならば……戦が終わった後で『戦犯』と処刑されようが望むところよ!」
 そう言ってのけるハルクを前に。
 みしり、と、自分が信じてきた物に亀裂が入るのを、ジィトは認めていた。
 ……敵うのか。こんなのに。
 自分みたいな若造の。ただ偶々授かった力で調子に乗っていた、甘っちょろい理想が。
「言ってやる。この事態を招いたのは、エリス王だけの甘さが原因ではないぞ」
 そうだ。分かっている。
 パンテーラも先日の戦いで咎人たちのことを分かってもらえたのかもしれない、なんて甘い考えだということは。
 簒奪者さえいなければ切り抜けられる、なんてすっかり己惚れていたことは……──
 だが。ハルクは、
「先ほどの戦いで見せていた……噂に名高き『陽剣』はどうした」
 分かっていない。何も分かっていないと、突き付ける。
「俺が追い付く前に。騎士たちを纏めて焼き払っていればあのまま逃げられただろうに、何故しなかった」
「な……あ、貴方はじゃあ、そこまで認識していて部下に私を足止めさせたというのですか!?」
 死なせることもあると、分かっていたと。
 変わらず自分を抑え続けている騎士たちを見回す。動揺も主に対する疑念もそこには無かった。
「王は我々に約束なされたのだ。『かのジークフリートの前に立つ自信があるものは出よ。捕えることを見事成し遂げた際には、お前たちを翼狼騎士団へと迎え入れよう』と」
 決意と、忠誠がそこにあった。言われてやっと気付くが……彼らの鎧は、翼狼騎士団の、漆黒のそれでは、無い。
 決死の、しかし勝算のある作戦に納得付くで参加させ、万一裏目に出てもそれで失うのは所詮『二軍』。その考え方を受け入れたくはないが……理解は、出来てしまう。
「明らかに敵対関係にある兵の命を惜しんでどうする。その結果が招くのが、エリスの破滅よ」
「あ……ああ……」
「もう一度言ってやろう。乱世において『皆の命は平等』などという考えの行きつく先は『皆一緒に死ぬ』よ」
 反論……出来、無い。
 ジィトの様子に、ハルクは満足した様子でジィトに更に近づき、屈みこむと、その顎に手を伸ばして上向かせた。
「理解したようだな。一度だけ聞いてやろう、ジークフリート。俺に従属を誓え。俺に切り札を二つとも使わせた、その実力と咄嗟の判断は認めてやる。黙って俺に従え。貴様の全て、俺がもっと上手く使ってやろう」
 理想は砕かれ、心は折れる寸前だった。
 それでもジィトはその言葉に、ただ力なく首を横に振る。
「そうか」
 するり、撫でるようにしてハルクの手がジィトの顎を離れていく。
「では、貴様には予定通り、もう一つの役目を果たしてもらうことにしよう」
 そして。それもまた、言われるまでに気付かなかった間抜けを理解する。人質になるのは、誰でも良い。しかし、誰でも良いなら尚のこと、人質としてもう少し確実性の高い者が幾らでもいるでは無いか。
「貴様には証明になってもらう。咎人に頼る騎士、その実態がいかに無様であるかのな。貴様自身にも理解できる形でな」
 周囲の騎士たちの、異様な、ギラついた気配が高まっていく。ジィトはこれから己の身に起こる命運を察した。
「──やれ」
 厳かに、ハルクが命じる。
 悲鳴をあげそうになる、だが、それは身体に齎される苦痛よりも。
 ──何が、助かるべき命の為に最善を尽くしたい、だ。
 俺のせいで、エリスが危機にさらされる。
 俺のせいで、エリスでたくさんの命が失われる……?
 俺……の、せい、で……

(執筆:凪池シリル

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