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聖樹界イルダーナフ


オルカ

……ん? ああ、なんだキミか。これかい? 
これはサガルトへいつも渡している報告書だよ。
興味があるなら見ても構わないが……ふむ、そうだな。
ライブラリに登録して、いつでも見られるように頼んでおこう。
確かに色々あったからね。現状の再確認に役立つかもしれないな。


更新情報(2021/06/25)

グランドシナリオ「賢愚なき輪舞」の公開に合わせ、特設ページを公開!
聖樹界イルダーナフでのこれまでの物語をまとめております。
シナリオ中に発覚した新事実など、ワールドガイド以上の設定を開示しております。
必ず読まずともシナリオには参加できますが、より楽しむためにお役立てください!

ストーリーノベル

●傍観者
「ったく、無茶しすぎですよ女王。何回ぶっ倒れるつもりですか?」
「うぅ……面目ありません、タングラム……」
 ゲルダ・イルミンスール(mz0050) はベッドの上で反省する。
 グラジオラスたちが妖精郷から『記憶の書』を手に立ち去って間もなく。
 肉体は限界を迎え、また床に伏せってしまったのだ。
「……ちゃんと咎人に説明した方がいいんじゃないですか? 『イルミンスールの禁』……いくら気を付けてもその力は女王のお身体を蝕むんですから」
「この話はもう決着しているはずですよ? わたくしは世界のすべてを知る生き証人。そうでありながら、すべてを見捨ててきた大罪人。今更自分だけ楽になりたいとは思いませんわ」
「本当にそうですかね? すべてにケリをつけて、自分の命もそこで終わりにしたい……。私には女王が『楽になりたがっている』ように見えますよ」

ゲルダ
 忌憚のない部下の指摘にゲルダは顔をしかめる。
 確かに――楽になりたいのかもしれない。
 長い……気が遠くなるほど、長い時間、ここで世界を傍観してきた。
 生まれた国。滅んだ国。生まれた種族。滅んだ種族……。
 幾人もの王が生まれ、幾つかの戦乱と、幾つかの捻じ曲げられた出来事が歴史を作った。
 その歴史をただマナと共に聖樹に記録するだけに『人形』。それがゲルダの本質だ。

 あの日、異世界の扉が開かれ、『簒奪者』と『咎人』が現れた。
 イルダーナ大陸の半分ほどが魔王軍に奪われる頃には、多くの大小さまざまな国が滅び、それを阻止せんと遠征した聖王国の王子や姫が多く戦死していった。
 ゲルダはそれを、ただ見ていた。
 干渉しようと決めたのは自らの意志だが、そう決断するのがあまりにも遅すぎた。
 もっと早く力を貸していたら――命を賭す覚悟を決めていたなら。
 いや、詮無き事だろう。自分はいつも、なにもかもが遅すぎた。
 闇の神バロルとの闘いの時も……。光の神として彼を見送った時も……。
 世界から神々が立ち去って。聖樹だけが遺された時にも……。
「女王、お顔を失礼するですよ」
「あ……」
 後悔している間に鼻血が出ていたらしい。
 ハンカチで拭きとった血を見せ、タングラムは溜息を零す。
「外と付き合えば、そのうち本当に死にますよ。あなたはそれでよくても、我々アルヴは困ります。だってあなたは、みんなのおばあちゃんなんですからね」
「むむむ……このビジュアルは永久不滅の少女であると自負していますが?」
「どうあがこうが年寄りの冷や水ですよ。養生してください」
 からかうような言葉とは裏腹に御付きの口調は穏やかだった。
 部屋に独りになり、ゲルダは天井を見上げる。
「『まだ』……なのですか? お父様……」


●自由の代償
「お父様。私は――この国を終わらせる王になるのでしょうか」
 我が子を悉くを抹殺された国王は、実年齢よりずっと衰えて見えた。
 リーゼロッテ・ロス・テラス(mz0045) が傍らに立っても、老王は眠り続けている。
「信じていたものが、どんどん崩れていきます。それなのに私の両手は崩れてしまった欠片を集めることに必死で、未来を切り拓く勇気もないのです」
 咎人と出会うまでは、単なる正義感だけで突っ走っていた。
 敗北する可能性すら考えなかった。この剣には大儀があると信じていた。
 でも、それさえも偽りで……。
 本当はただ敵を殺してしまいたいと。復讐心に駆られていたのだと気づいた。
 常識を揺さぶられた時、どこかで心が投げやりになっていたのだ。
「……人の本質は、己の価値が揺らいだ時にこそ証明されるものですね。彼らに気づかされました。私は……まだまだ未熟者です」
 咎人に支えられ、魔王とも対決した。
 魔王エリゴール。またの名を、闇の神バロル。
 神々から世界を『預かっている身』である聖王国にとって、神との闘いは正義を揺らがす重大な問題であった。
 更には敵の中に光の神テラス――聖王国を作った始祖王まで混じっているとすれば、この戦争の大義は根底から覆る。
「預けていた未来を返せ――そう言われている気分です」
 当たり前のことだ。魔族とて、神が作った命。
 森羅万象すべてを神が作り出したというのなら、例外などあるはずはない。
「いや……わかっているんです。もう、『使命』を盾に生きられないのだと」
 何もかもを他人任せにしてきた。
 昔からの決まり事。こうしろと、ああしろと、指図されるままに従ってきた。
 疑わず、ただ日々を繰り返すこと――それが、楽だったから。
「神に従えばこの国は終わるでしょう。しかし神を否定しても、この国は終わります。それはもう聖王国であって聖王国ではない……まったく別のものに、生まれ変わってしまう」
 民が、騎士が、決断を待っているというのなら。
 それを決める罪を背負うのが、王族の――神の末裔の使命だろう。
 わかっている。でも、もう少しだけ迷ってみたい。
 ちゃんと考えて、これしかないんだって、そう思いたい。

 神に従い、滅びを受け入れようというヒト。
 自らの国を取り戻すために、最後まであらがおうとするヒト。
 無力であることを疑わず、無垢なまま命を終えようとするヒト。
 己を変えたいと、世界を変えたいと願い、力を求めたヒト。

「お父様。私は……神を殺したい。自分の力で立って歩きたい。その素晴らしさをみんなに教えたい。そうやって人々を楽園から追い立てようとする私は……悪でしょうか? 誉ある騎士ではなく、自由を渇望する『獣』なのでしょうか?」
 骨と皮だけのしわがれた手を握り、リーゼロッテは目を瞑る。
「私はきっと――最悪の王様ですね」
 脳裏に過るのは、咎人達の姿だ。
 彼らを羨ましく思う。そして、ほんの少しだけ……憎らしくも。
 自由を知らなければ、ヒトは己の不自由を知らずにいられる。
 けれど――鳥はもう、空を知ってしまった。
「姫様! 軍議の時間です!」
「ええ、承知しています」
 扉越しの声に急かされ、リーゼロッテは立ち上がる。
「さようなら、お父様」
 生きて再び会えるかすらわからない。
 父に告げた別れを最後に、寝室に静寂が戻った。

(執筆:ハイブリッドヘブン運営)

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