妖鉄界ヤルダバオト

シオラン
ワシらは、天儀の開拓を着手する。
一度は手放さねばならぬほどに荒廃した地じゃ。
かなり危険な開拓となるじゃろう。
それでもワシらは為さねばならん。
限りある『月』の寿命を伸ばす為にも、な。
更新情報(2023/7/13)妖鉄界アナザーエピソード『外典・衆生胤滅』が開幕!古代文明から続く『包囲』から解き放たれた神無月。 ヤルダバオトの導きにより、アヤカシたちは母なる星への帰還を目指す。 物語の舞台は『天儀』と呼ばれた惑星へ! 7月14日には関連オフィシャルシナリオが公開予定です。 |
ストーリーノベル
●天儀開拓隊
妖鉄界ヤルダバオトで発生した大きな危機は去った。
オービター・トランキルを舞台にした戦いは、多次元世界の侵略という事態を回避。今も多くの氏族が生き残る事ができた。
事件の衝撃で被害も発生したが、戦後に発足した治安維持組織である『六武院』を中心にアヤカシ達も元の生活に戻り始めている。
そんな中、シオランがある計画を発動させる。
――『天儀を取り戻す』。
それはヒトが生活していた場所であり、ヒトが放棄した場所。
多くの者が帰還を夢見た場所でもある。
「ふむ。シオラン君は、天儀の開拓に着手すべきだと言うのだな」
バルベロ洞穴奥にあるシオランの住居にてクラーク・グライシンガー教授が計画に耳を傾ける。
昨今の彼は不夜城の後始末などでマルギオン=デミウルゴス (mz0101)と共に各地を駆け回っているが、研究施設や倉庫は相変わらず住居に置いたままだ。その縁もあって、教授とは変わらず顔を合わせる間柄が続いている。
「そうじゃ。この星も大きくはないし、アヤカシの事を考えれば、天儀を開拓して居住領域を増やす事を検討し始めるべきじゃ。遅きに失すれば、また悲劇が生まれよう」
<シオラン>
「確かに。先の事件も悲劇を回避すべく動いた結果。もう少し早く動けていれば、このような事件は起こらなかっただろうからな」
アヤカシの常識であった『戦国時代』は、開拓者である彼らが限られた土地を奪い合うという構造から発展したものであると考えられている。
狭いところに押し込められていると争いたくなってくるのがアーカーシャと呼ばれた彼らの本質で、それは『やめろ』と言葉で止めても解決しない。
「だが、現在の天儀の状況は分かっているのかね?」
教授が懸念を示したのは、天儀を調査するとしても現在の情報が不足していた点だ。
今の天儀はどういう状況なのか。
アヤカシが生活できる状況なのか。
何らかの生物が生存しているのか。
さらに教授が言葉を付け加える。
「そもそも、どうやって天儀へ赴くつもりかね? 宇宙船を用意しても行くべき座標が分からないのではないかね?」
「では、順を追って説明しよう。まず、天儀へ行く方法じゃ。これは既に存在しておる。座標もオビーター・トランキルから情報を引き出している為、宇宙船での移動は可能じゃ」
シオランは断言する。
しかし、教授に驚く様子は見られない。
「そうか。だが、今回は天儀を開拓するのであろう? 開拓となれば大量の物資と人材が移動する事になる。宇宙船で何度も往復させる気かね?」
天儀の『調査』だけならば宇宙船で少数精鋭も問題ないだろう。
だが、今回は天儀の『開拓』だ。開拓となれば、拠点の設置を含め多くの物資が必要となる。また大規模調査となれば、人員も多く必要となってくる。
宇宙船を何度も往復させるのは非効率だ。大型の宇宙船が幾つも必要になる上、膨大な燃料も消費する事になる。
「その点は心配無用じゃ。『テレポーター』、これを活用する」
シオランによれば天儀の古代文明では、テレポーターと呼ばれる瞬間移動装置を使用していた。
テレポーターを利用する事で瞬時に目的の場所へ転移できる装置だ。装置自体はオビーター・トランキルを始め、各ファウンデーションに設置されている。
「先の戦いではオビーター・トランキルによって使用を禁止されておった。既にこの使用の禁止は解除されている為、現時点で利用自体は可能じゃ」
「ふむ。つまり、宇宙船で先発隊を送り込み、天儀でテレポーターを起動させて道を作る訳か」
テレポーターは咎人のイデアゲートとよく似ている。
送信側だけではなく受信側の装置も起動しなけえれば往来ができないところなど、まさしくである。
「そうじゃ。天儀の地上には古代文明都市の残骸が残っておる。そこにはおそらくまだ使用できる『テレポーター』が残っているはずじゃ。天儀の都市へ調査隊を送り込み、テレポーターを再起動できれば天儀への転移は容易となるじゃろう」
危険な片道旅行となる。
だが、テレポーターを起動させれば人材の確保は可能だろう。
資材運搬用の大型テレポーターがあるファウンデーションが活用できれば、物資輸送も簡単になる。
咎人には調査隊の護衛として同行依頼を出す予定だ。
しかし、問題はこれだけではない。
「次に天儀の状況について確認させて欲しい。いくら咎人でも天儀へ降り立った途端に死に戻る場所へ行かせる訳にはいかんぞ」
「その懸念はもっともじゃ。天儀はかつてヒトが放棄した場所。推測になるが、環境汚染の影響で砂漠化がかなり進んでいるはずだ」
天儀は環境汚染による砂漠化、荒野化が進んでいるとみられている。
それは教授もファウンデーション23にて悪環境の中で生育する植物の研究が進められていた事で気付いていた。
ファウンデーション23の研究者は既に変異体となっていたが、彼らも天儀への帰還を夢見たのであろう。そしてその導きとなる『種』を残した。
「大気汚染も深刻じゃ。普通に天儀へ降り立てば、汚染によって簡単に命を奪われるじゃろう」
「対策はあるのだろうね、シオラン君」
「うむ。咎人の者達には探査中に着用可能なガスマスクを準備する。じゃが、アヤカシではガスマスクを装着しても生き残る事はできまい。あれはこの世界由来の生命への呪詛じゃからのう」
シオランによれば、咎人はガスマスクを装着する事である程度は天儀で活動できるらしい。
だが、アヤカシはその出自から考えても天儀の汚染に耐えられないという。
咎人が天儀を調査するのか?
もちろん協力はするが、常駐するのは難しい。咎人は何といってもあちこちの世界に移動する。
汚染された環境に耐えられる現地民がいなければ調査は捗らないだろう。その疑問に対して教授は早々に気付く。
「そうか。オートマトンか」
「そうじゃ。ワシやイスルギの代理としてオートマトンの無銘を調査隊に加える。さらにデミウルゴスのライオウも参加してくれる事になっておる」
天儀でアヤカシは活動できないが、オートマトンの無銘なら活動可能だ。
さらに機械の体であるデミウルゴスも天儀で動けるだろう。シオランからの打診にライオウが応じてくれた。調査隊に彼ら二人を参加してもらい、テレポーターの再起動を試みる。
「咎人を調査隊の護衛として同行してもらえば、万一未知なる生物が存在しても対応できるだろうな」
「変異体は間違いなくいるじゃろうな。場合によってはそれ以外の汚染生物も存在すると考えるべきじゃな」
シオランも危険な調査になる事は承知している。
しかも調査地域は大気汚染が酷い砂漠だ。
そこで残されているテレポーターを修理するなどして再起動させる。
口で述べるのは簡単だが、リスクの大きい調査になる。
それでもシオランは天儀の開拓は必須だと断言する。
アヤカシ達の将来の為。
天儀帰還を夢見た者達の為。
シオランは古代文明から生きてきた者としての責任を感じていた。
「分かった。咎人諸君には私からも協力を打診させてもらう。調査隊には私も同行させてもらう。現地で支援は任せてくれ給え」
「うむ。頼りにさせてもらうのじゃ」
こうして天儀開拓は、第一歩を歩み始めた。
しかし、この開拓事業が後に新たなる騒乱の引き金になるとは、この時点で気付けなかった。
(執筆:近藤豊)
妖鉄界ヤルダバオトで発生した大きな危機は去った。
オービター・トランキルを舞台にした戦いは、多次元世界の侵略という事態を回避。今も多くの氏族が生き残る事ができた。
事件の衝撃で被害も発生したが、戦後に発足した治安維持組織である『六武院』を中心にアヤカシ達も元の生活に戻り始めている。
そんな中、シオランがある計画を発動させる。
――『天儀を取り戻す』。
それはヒトが生活していた場所であり、ヒトが放棄した場所。
多くの者が帰還を夢見た場所でもある。
「ふむ。シオラン君は、天儀の開拓に着手すべきだと言うのだな」
バルベロ洞穴奥にあるシオランの住居にてクラーク・グライシンガー教授が計画に耳を傾ける。
昨今の彼は不夜城の後始末などでマルギオン=デミウルゴス (mz0101)と共に各地を駆け回っているが、研究施設や倉庫は相変わらず住居に置いたままだ。その縁もあって、教授とは変わらず顔を合わせる間柄が続いている。
「そうじゃ。この星も大きくはないし、アヤカシの事を考えれば、天儀を開拓して居住領域を増やす事を検討し始めるべきじゃ。遅きに失すれば、また悲劇が生まれよう」

<シオラン>
アヤカシの常識であった『戦国時代』は、開拓者である彼らが限られた土地を奪い合うという構造から発展したものであると考えられている。
狭いところに押し込められていると争いたくなってくるのがアーカーシャと呼ばれた彼らの本質で、それは『やめろ』と言葉で止めても解決しない。
「だが、現在の天儀の状況は分かっているのかね?」
教授が懸念を示したのは、天儀を調査するとしても現在の情報が不足していた点だ。
今の天儀はどういう状況なのか。
アヤカシが生活できる状況なのか。
何らかの生物が生存しているのか。
さらに教授が言葉を付け加える。
「そもそも、どうやって天儀へ赴くつもりかね? 宇宙船を用意しても行くべき座標が分からないのではないかね?」
「では、順を追って説明しよう。まず、天儀へ行く方法じゃ。これは既に存在しておる。座標もオビーター・トランキルから情報を引き出している為、宇宙船での移動は可能じゃ」
シオランは断言する。
しかし、教授に驚く様子は見られない。
「そうか。だが、今回は天儀を開拓するのであろう? 開拓となれば大量の物資と人材が移動する事になる。宇宙船で何度も往復させる気かね?」
天儀の『調査』だけならば宇宙船で少数精鋭も問題ないだろう。
だが、今回は天儀の『開拓』だ。開拓となれば、拠点の設置を含め多くの物資が必要となる。また大規模調査となれば、人員も多く必要となってくる。
宇宙船を何度も往復させるのは非効率だ。大型の宇宙船が幾つも必要になる上、膨大な燃料も消費する事になる。
「その点は心配無用じゃ。『テレポーター』、これを活用する」
シオランによれば天儀の古代文明では、テレポーターと呼ばれる瞬間移動装置を使用していた。
テレポーターを利用する事で瞬時に目的の場所へ転移できる装置だ。装置自体はオビーター・トランキルを始め、各ファウンデーションに設置されている。
「先の戦いではオビーター・トランキルによって使用を禁止されておった。既にこの使用の禁止は解除されている為、現時点で利用自体は可能じゃ」
「ふむ。つまり、宇宙船で先発隊を送り込み、天儀でテレポーターを起動させて道を作る訳か」
テレポーターは咎人のイデアゲートとよく似ている。
送信側だけではなく受信側の装置も起動しなけえれば往来ができないところなど、まさしくである。
「そうじゃ。天儀の地上には古代文明都市の残骸が残っておる。そこにはおそらくまだ使用できる『テレポーター』が残っているはずじゃ。天儀の都市へ調査隊を送り込み、テレポーターを再起動できれば天儀への転移は容易となるじゃろう」
危険な片道旅行となる。
だが、テレポーターを起動させれば人材の確保は可能だろう。
資材運搬用の大型テレポーターがあるファウンデーションが活用できれば、物資輸送も簡単になる。
咎人には調査隊の護衛として同行依頼を出す予定だ。
しかし、問題はこれだけではない。
「次に天儀の状況について確認させて欲しい。いくら咎人でも天儀へ降り立った途端に死に戻る場所へ行かせる訳にはいかんぞ」
「その懸念はもっともじゃ。天儀はかつてヒトが放棄した場所。推測になるが、環境汚染の影響で砂漠化がかなり進んでいるはずだ」
天儀は環境汚染による砂漠化、荒野化が進んでいるとみられている。
それは教授もファウンデーション23にて悪環境の中で生育する植物の研究が進められていた事で気付いていた。
ファウンデーション23の研究者は既に変異体となっていたが、彼らも天儀への帰還を夢見たのであろう。そしてその導きとなる『種』を残した。
「大気汚染も深刻じゃ。普通に天儀へ降り立てば、汚染によって簡単に命を奪われるじゃろう」
「対策はあるのだろうね、シオラン君」
「うむ。咎人の者達には探査中に着用可能なガスマスクを準備する。じゃが、アヤカシではガスマスクを装着しても生き残る事はできまい。あれはこの世界由来の生命への呪詛じゃからのう」
シオランによれば、咎人はガスマスクを装着する事である程度は天儀で活動できるらしい。
だが、アヤカシはその出自から考えても天儀の汚染に耐えられないという。
咎人が天儀を調査するのか?
もちろん協力はするが、常駐するのは難しい。咎人は何といってもあちこちの世界に移動する。
汚染された環境に耐えられる現地民がいなければ調査は捗らないだろう。その疑問に対して教授は早々に気付く。
「そうか。オートマトンか」
「そうじゃ。ワシやイスルギの代理としてオートマトンの無銘を調査隊に加える。さらにデミウルゴスのライオウも参加してくれる事になっておる」
天儀でアヤカシは活動できないが、オートマトンの無銘なら活動可能だ。
さらに機械の体であるデミウルゴスも天儀で動けるだろう。シオランからの打診にライオウが応じてくれた。調査隊に彼ら二人を参加してもらい、テレポーターの再起動を試みる。
「咎人を調査隊の護衛として同行してもらえば、万一未知なる生物が存在しても対応できるだろうな」
「変異体は間違いなくいるじゃろうな。場合によってはそれ以外の汚染生物も存在すると考えるべきじゃな」
シオランも危険な調査になる事は承知している。
しかも調査地域は大気汚染が酷い砂漠だ。
そこで残されているテレポーターを修理するなどして再起動させる。
口で述べるのは簡単だが、リスクの大きい調査になる。
それでもシオランは天儀の開拓は必須だと断言する。
アヤカシ達の将来の為。
天儀帰還を夢見た者達の為。
シオランは古代文明から生きてきた者としての責任を感じていた。
「分かった。咎人諸君には私からも協力を打診させてもらう。調査隊には私も同行させてもらう。現地で支援は任せてくれ給え」
「うむ。頼りにさせてもらうのじゃ」
こうして天儀開拓は、第一歩を歩み始めた。
しかし、この開拓事業が後に新たなる騒乱の引き金になるとは、この時点で気付けなかった。
(執筆:近藤豊)