妖鉄界ヤルダバオト

ヨミ
順調に天儀開拓も進んでいるようです。
神霊樹を植樹していけば、開拓範囲も拡大ですでしょう。
これでまた、何とも退屈な日常が……。
……はい? 何者かが襲撃してきたと?
面白くなって参りました。やはりこういう展開の方が好みです。
更新情報(2023/9/14)妖鉄界アナザーエピソード『外典・衆生胤滅』が開幕!遂に始まった天儀開拓計画。 順調に進行しているかと思いきや、調査に陰りが……。 すべての人類が滅び去ったはずの世界で活動する謎のオートマトンたちが、天儀調査隊の前に立ちはだかる! 9月15日には関連オフィシャルシナリオが公開予定です。 |
ストーリーノベル
●人の歴史を明らかにする学問
中央の古代都市。
そして、それを取り囲むように東西南北に築かれた都市。
天儀開拓隊の拠点であるフロントラインは中央の都市に建築され、開拓が進んでいる。
神霊樹の植樹を終えた東西南北の都市も、テレポーターを起動して順次物資が運び込まれている。
天儀開拓隊の活動が本格化する中、シオランはクラーク・グライシンガー教授と共に中央都市の地下へ赴いていた。
<シオラン>
「シオラン君が都市の機能を一部復旧させた事で、閉ざされた部屋が開くようになった。この部屋もその一つだ」
「ふむ。中継用制御室のようじゃな。中央制御室の指示で制御された動力を、ここで調整していたはずじゃ。中央制御室が稼働すれば、全体に動力を行き渡らせる事もできるじゃろう」
シオランによれば、この部屋は動力室から送られてくるエネルギーを担当ブロック内へ行き届かせる役目がある。
中央制御室で大まかな流れを制御して、各ブロックに置かれた中継用制御室でその動力を送り込んでいる。
「そうか」
「で。わざわざワシをここへ連れてきた理由はなんじゃ? まさか、これを見せる為ではあるまい。知っておろう。ワシはマーキングしていた機器の故障が頻発して忙しいんじゃ」
最近、東西南北の都市へ行く際に設置したマーキング用の機械が故障しているという報告が上がっている。更にフロントラインと東西南北の都市の間に中継都市を建設する為の資材も行方不明になる事態が多発している。
砂だらけの天儀に設置されているのだ。故障も想定していたが、ここまで頻発しているのはあまりにおかしい。それに大切な資材が行方不明になるのも不自然だ。
シオランは調査に乗り出そうとしていた矢先に教授へつれて来られたのだ。
「うむ。……私はこれでも考古学が専門の一つだ」
「?」
「考古学というのは、実に地味だ。薄い皮を一つ一つ丁寧に剥がして、過去の真実を探っていく。過去というのは、現在に、そして未来に続いて行く。私は過去の人々のメッセージを読み取るのが仕事だと思っている」
「何を言いたいんじゃ?」
「考古学で誰も成し得なかった事。それは当時を知る人間に話を聞く事だ。何百年、何千前の出来事を知る人間が普通はおらんのだから」
この時点で教授が何を言わんとしているのか、シオランは察する。
沈黙したシオランに対して、教授は一歩詰め寄る。
「幸い、当時を知る人間がいる。シオラン君、古代文明が滅んだ状況をもう少し説明してくれるとありがたい」
「じゃから、激しい環境破壊で……」
「それも理由の一つなんじゃろう。私はファウンデーションやオビーター・トランキルの規模から天儀の人々が宇宙へ退避しているものと考えていた。そして、天儀へ戻る為の研究を続けていた」
「…………」
「しかし、それはおかしい。天儀開拓隊の活動で多くの変異体に遭遇している。つまり、宇宙へ逃れる事を良しとしなかった者達が一定数いるのではないか?」
教授はフロントラインや周辺都市で多数の変異体が目撃されている事に違和感を感じていた。
何故、ここまで多数の変異体が存在するのか。変異体が元人間である以上、彼らは天儀に残っていたと考えるのが自然だ。
こうなると次の疑問が浮かぶ。何故、彼らは天儀に残っていたのか。
その疑問を投げかけられたシオランは、半ば諦めたように話し始めた。
「……天儀へ残った者はその道を選んだ者じゃ。最期まで天儀で研究を続けようとしていたのじゃ」
「やはり、天儀の変異体は元研究者と家族か」
「そうじゃ。天儀の環境破壊は一度で発生した訳ではない。利益追求する組織などの影響で環境破壊が進んだ事を懸念した研究者達が、天儀を救う為に最善を尽くしておった。その中には宇宙へ逃れて研究する者もいたが、生まれた星を捨てずに最期まで天儀での研究を選んだ者もおった」
徐々に進む環境破壊を前に、研究者達は研究を続けていた。
中央都市から宇宙へ逃れる者も多かった中、最期まで天儀に根を下ろして最善を尽くす者もいた。
最終的に環境破壊を止める事はできず、現状に至ったようだ。
もちろん、単純に故郷を捨てられなかった者や、逃げることを諦めた者もいるだろうから、天儀で倒された変異体が全員研究者だったとは限らないが……。
「フロントラインがある都市も元は宇宙への玄関口となる空港じゃ。周辺都市も商業施設はあったものの、研究棟やその家族が暮らす居住地区じゃな。学者として事実だけを追求すれば、意見の乖離か。それを受けての災害とみるべきか」
「教授。学術的見地からの意見は尊重するが、ワシは千年前の人間とはいえ、コールドスリープしていた人間だ。ご存じの通り当事者に近い事を忘れておらぬか?」
シオランは敢えて棘のある言い回しをした。
教授は咎人だが、シオランは冷静を装っていても変異体が知り合いだった可能性もある。
研究者としての立場よりも個人の感情が上回る時もある。
知った顔が変異体になったと考えれば、シオランも少なからず負担になっている。
「そうだった。すまん」
「……いや、ワシこそ研究者としてあるまじき発言であった。撤回させてもらう。研究者は事実と証拠のみで意見を口にすべきだ。個人的感情は、研究の妨げになる」
双方が詫びているが、シオランがこのような場で個人的発言を行う事は稀であった。
ファウンデーションやオビーター・トランキルでも見せなかった感情であるが、天儀の研究者とは別の関係があったのかもしれない。
「しかし、そうだとするなら、彼らは……」
「あら。意外と面白味の無い話をされていますね。てっきり、戦争で滅んだとばかり思っていました」
そこへヨミが姿を現す。
<ヨミ>
「ん? ヨミ君。何故ここに?」
「シオランに報告があります」
どうやらヨミはシオランに何らかの報告があって訪れたらしい。
しかし、シオランには身に覚えがない。今、ヨミには何の仕事も頼んでいなかった。
「ワシに何の報告じゃ?」
「ええ。東西南北の都市が何者かに襲撃を受けておりますわ。マーキングに使った機械を破壊したのもその者達でしょう」
驚きの衝撃に二人は、息が詰まる。
最初に口を開いたのは教授だった。
「それは生物なのかね? 天儀は既に死の星になったと思ったが、生きていた者がいたのかね?」
「さあ? 細かいことはわかりませんが、襲撃は複数都市を同時に行われ、既に西の都市は陥落したと報告があります。イスルギが無銘とライオウと共に対処へ動き出しています。ですが、早々に手を打たなければ拠点を失うのではないでしょうか」
心なしかヨミが楽しそうに話している。だが、その内容は衝撃的だ。放置すればせっかく構築した拠点を失う事になる。植樹した神霊樹も心配だ。
「ヨミ、テレポーターは稼働中かね?」
「無銘の話ではそのようです」
「分かった。緊急事態じゃ。咎人に対応を打診しよう」
シオランは状況を打開する為に、再び咎人へ対処を依頼する。
相手は謎の存在。危険は相応にあるが、対応できるのは咎人以外にはいない。
更にシオランはヨミにも助力を嘆願する。
「すまんが、ヨミも一緒に向かってくれんか。敵の強さが分からん以上、万全を期したい」
その言葉を待っていたのだろう。ヨミ表情には笑みが浮かんでいる。
「そうこなくては……如何なる敵がいるのか。想像するだけでも胸が躍ります。……うふふ……うふふふふふ……」
イスルギ達が他の都市で対応中で、手が空いているのはヨミしかいない。
不敵な笑みに一抹の不安が残るシオランであった。
(執筆:近藤豊)
中央の古代都市。
そして、それを取り囲むように東西南北に築かれた都市。
天儀開拓隊の拠点であるフロントラインは中央の都市に建築され、開拓が進んでいる。
神霊樹の植樹を終えた東西南北の都市も、テレポーターを起動して順次物資が運び込まれている。
天儀開拓隊の活動が本格化する中、シオランはクラーク・グライシンガー教授と共に中央都市の地下へ赴いていた。

<シオラン>
「ふむ。中継用制御室のようじゃな。中央制御室の指示で制御された動力を、ここで調整していたはずじゃ。中央制御室が稼働すれば、全体に動力を行き渡らせる事もできるじゃろう」
シオランによれば、この部屋は動力室から送られてくるエネルギーを担当ブロック内へ行き届かせる役目がある。
中央制御室で大まかな流れを制御して、各ブロックに置かれた中継用制御室でその動力を送り込んでいる。
「そうか」
「で。わざわざワシをここへ連れてきた理由はなんじゃ? まさか、これを見せる為ではあるまい。知っておろう。ワシはマーキングしていた機器の故障が頻発して忙しいんじゃ」
最近、東西南北の都市へ行く際に設置したマーキング用の機械が故障しているという報告が上がっている。更にフロントラインと東西南北の都市の間に中継都市を建設する為の資材も行方不明になる事態が多発している。
砂だらけの天儀に設置されているのだ。故障も想定していたが、ここまで頻発しているのはあまりにおかしい。それに大切な資材が行方不明になるのも不自然だ。
シオランは調査に乗り出そうとしていた矢先に教授へつれて来られたのだ。
「うむ。……私はこれでも考古学が専門の一つだ」
「?」
「考古学というのは、実に地味だ。薄い皮を一つ一つ丁寧に剥がして、過去の真実を探っていく。過去というのは、現在に、そして未来に続いて行く。私は過去の人々のメッセージを読み取るのが仕事だと思っている」
「何を言いたいんじゃ?」
「考古学で誰も成し得なかった事。それは当時を知る人間に話を聞く事だ。何百年、何千前の出来事を知る人間が普通はおらんのだから」
この時点で教授が何を言わんとしているのか、シオランは察する。
沈黙したシオランに対して、教授は一歩詰め寄る。
「幸い、当時を知る人間がいる。シオラン君、古代文明が滅んだ状況をもう少し説明してくれるとありがたい」
「じゃから、激しい環境破壊で……」
「それも理由の一つなんじゃろう。私はファウンデーションやオビーター・トランキルの規模から天儀の人々が宇宙へ退避しているものと考えていた。そして、天儀へ戻る為の研究を続けていた」
「…………」
「しかし、それはおかしい。天儀開拓隊の活動で多くの変異体に遭遇している。つまり、宇宙へ逃れる事を良しとしなかった者達が一定数いるのではないか?」
教授はフロントラインや周辺都市で多数の変異体が目撃されている事に違和感を感じていた。
何故、ここまで多数の変異体が存在するのか。変異体が元人間である以上、彼らは天儀に残っていたと考えるのが自然だ。
こうなると次の疑問が浮かぶ。何故、彼らは天儀に残っていたのか。
その疑問を投げかけられたシオランは、半ば諦めたように話し始めた。
「……天儀へ残った者はその道を選んだ者じゃ。最期まで天儀で研究を続けようとしていたのじゃ」
「やはり、天儀の変異体は元研究者と家族か」
「そうじゃ。天儀の環境破壊は一度で発生した訳ではない。利益追求する組織などの影響で環境破壊が進んだ事を懸念した研究者達が、天儀を救う為に最善を尽くしておった。その中には宇宙へ逃れて研究する者もいたが、生まれた星を捨てずに最期まで天儀での研究を選んだ者もおった」
徐々に進む環境破壊を前に、研究者達は研究を続けていた。
中央都市から宇宙へ逃れる者も多かった中、最期まで天儀に根を下ろして最善を尽くす者もいた。
最終的に環境破壊を止める事はできず、現状に至ったようだ。
もちろん、単純に故郷を捨てられなかった者や、逃げることを諦めた者もいるだろうから、天儀で倒された変異体が全員研究者だったとは限らないが……。
「フロントラインがある都市も元は宇宙への玄関口となる空港じゃ。周辺都市も商業施設はあったものの、研究棟やその家族が暮らす居住地区じゃな。学者として事実だけを追求すれば、意見の乖離か。それを受けての災害とみるべきか」
「教授。学術的見地からの意見は尊重するが、ワシは千年前の人間とはいえ、コールドスリープしていた人間だ。ご存じの通り当事者に近い事を忘れておらぬか?」
シオランは敢えて棘のある言い回しをした。
教授は咎人だが、シオランは冷静を装っていても変異体が知り合いだった可能性もある。
研究者としての立場よりも個人の感情が上回る時もある。
知った顔が変異体になったと考えれば、シオランも少なからず負担になっている。
「そうだった。すまん」
「……いや、ワシこそ研究者としてあるまじき発言であった。撤回させてもらう。研究者は事実と証拠のみで意見を口にすべきだ。個人的感情は、研究の妨げになる」
双方が詫びているが、シオランがこのような場で個人的発言を行う事は稀であった。
ファウンデーションやオビーター・トランキルでも見せなかった感情であるが、天儀の研究者とは別の関係があったのかもしれない。
「しかし、そうだとするなら、彼らは……」
「あら。意外と面白味の無い話をされていますね。てっきり、戦争で滅んだとばかり思っていました」
そこへヨミが姿を現す。

<ヨミ>
「シオランに報告があります」
どうやらヨミはシオランに何らかの報告があって訪れたらしい。
しかし、シオランには身に覚えがない。今、ヨミには何の仕事も頼んでいなかった。
「ワシに何の報告じゃ?」
「ええ。東西南北の都市が何者かに襲撃を受けておりますわ。マーキングに使った機械を破壊したのもその者達でしょう」
驚きの衝撃に二人は、息が詰まる。
最初に口を開いたのは教授だった。
「それは生物なのかね? 天儀は既に死の星になったと思ったが、生きていた者がいたのかね?」
「さあ? 細かいことはわかりませんが、襲撃は複数都市を同時に行われ、既に西の都市は陥落したと報告があります。イスルギが無銘とライオウと共に対処へ動き出しています。ですが、早々に手を打たなければ拠点を失うのではないでしょうか」
心なしかヨミが楽しそうに話している。だが、その内容は衝撃的だ。放置すればせっかく構築した拠点を失う事になる。植樹した神霊樹も心配だ。
「ヨミ、テレポーターは稼働中かね?」
「無銘の話ではそのようです」
「分かった。緊急事態じゃ。咎人に対応を打診しよう」
シオランは状況を打開する為に、再び咎人へ対処を依頼する。
相手は謎の存在。危険は相応にあるが、対応できるのは咎人以外にはいない。
更にシオランはヨミにも助力を嘆願する。
「すまんが、ヨミも一緒に向かってくれんか。敵の強さが分からん以上、万全を期したい」
その言葉を待っていたのだろう。ヨミ表情には笑みが浮かんでいる。
「そうこなくては……如何なる敵がいるのか。想像するだけでも胸が躍ります。……うふふ……うふふふふふ……」
イスルギ達が他の都市で対応中で、手が空いているのはヨミしかいない。
不敵な笑みに一抹の不安が残るシオランであった。
(執筆:近藤豊)