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人幻界テンペスト


焔城己龍

常夜を解除するかどうかで悩むとは……まったく、贅沢な身分になったものだ。
ここまでやってこられたのは咎人の協力のおかげだ。煉獄を代表し、感謝する。
だが、咎人もいつまでもこの世界に滞在できるわけではない。
俺たちも自分たちの手でこの問題にケリをつける方法を考えなければな。
どうか、あなたたちの知恵も貸してもらえないだろうか?


更新情報(2021/09/24)

グランドシナリオ「夜明けのカデンツァ」が公開予定!
それにあわせ、特設ページを公開しました。
人幻界テンペストでのこれまでの物語をまとめております。
必ず読まずともシナリオには参加できますが、より楽しむためにお役立てください!

ストーリーノベル

 浅草寺の縁側に鮫島兆次 (mz0053)と安達蘭 (mz0052)が並んでいる。

安達蘭
 時間帯はまだ昼過ぎだが、相変わらず常夜の中は薄暗いままだ。
「ふうん……安達よ。つまり俺たち天獄機関は終わるということか」
「そうだな。まあ、良く持った方だろ。いよいよゲームオーバーだ」
 鎖神貴一 (mz0051)が圧倒的な力で東京を支配したあの日……。
 超能力者であることを隠さなくなったあの日……。
 当然のようにわかっていたことだ。鎖神がどんなに特別でも、その支配が永遠に続くわけではないのだと。
 驚きはない。でも心のどこかで漠然とした希望を持っていた。
 あの鎖神貴一という男なら――本当に『楽園』に超能力者たちを導き、この世界にあった超能力者とそうでない者の『溝』を埋めてくれるのではないか、と。
 分かり合えないのなら、許し合えないのなら、キッパリと離れ離れになればいい。
 常夜はその内側も外側も、その実守っていたのだ。
 だが、遅かれ早かれそれも終わる。その夜明けがどんな形になるのかはわからない。
 核ミサイルかもしれないし、鎖神の意志によるものかもしれないし、帳地蔵をすべて破壊し尽くすのかもしれないが――なんにせよ、この馬鹿騒ぎは期間限定だった。
「俺は世界最強の男だ。元々筋トレは好きだったが、いつの間にか最強になってしまった。目指したわけでも、願ったわけでもなく、ただ最強だったのだ」
「はいはい、知ってるよ」
「最強というのは退屈なものでな。だからいつも俺は俺というライバルに挑み続けてきた。俺が最強である限り、俺こそが最強のライバルであることは変わらないからだ」
 ストイックに自分を追い求める鮫島に、いつの間にか子分が増えて行った。

鮫島兆次
 鮫島は世の中の仕組みだとか、他人だとか、そんなことはどうでもいい男だ。
 この世で思い通りになるものなど己の身一つ。いや、それすらも危うい。
 だから自分さえよければそれでいい。『その時』を迎えるとしても、自分が納得できているかどうか――それ以外どうでもよかったのに。
「ふうん……安達よ。どうやら俺は、それなりに天獄機関という組織が気に入っていたらしい。自分の責任は自分で取るが……子分共は何とか助けてやりたいものだ」
「そうだな。天獄機関は、そもそも陰キャの集いみたいなもんだし」
 超能力を持ち、それと付き合う中で人とのつながりが希薄になったものたち。
 だから強い力に憧れたし、その庇護にあれば調子にも乗って、悪さだってする。
 社会の中で抑圧されてきた者たちが、復讐の矛先を誤った方向に向けてしまった。
「本来、東京の制圧なんてできるわけがなかった。だが不幸なことに、鎖神はそれをやってのけてしまった。不可能を可能にした。だからおかしなことになっちまった」
 乗り掛かった舟だ。今更リタイヤしたいなんて思わない。
 天獄機関の一員としてやってきたことは否定できないし、するべきではない。
「よく考えておけよ、鮫島。ここから誰とどう組むかで天獄機関の運命は決まる」
「ふうん……安達よ、今更だな。考えるのはお前の仕事だ」
 串にささった団子を一気に食いちぎり、鮫島は親指を立てる。
「お前の作戦に障害があるのなら、俺がそれを打ち貫く。安達よ、お前はお前の思う通りにするがいい。それが俺や子分たち、そして鎖神の兄貴のためにもなるだろう」
「丸投げじゃねーか馬鹿野郎……」
「おうよ! だが、ただの丸投げではないぞ! 全力全開の――丸投げだッ!!」



「いやー、久しぶりの日本はいいねー! この辺も随分昔に来たことがあるけど、全然変わってな……くもないか。少なくとも鍛治場はなかったかな?」
 浅草寺を見て回りたいというイヴリンに付き添い、焔城己龍 (mz0046)が隣を歩く。
「質問してもいいだろうか」

<イヴリン>
「構わないとも、焔城己龍くん」
「あなたは日本を棄て米国に渡った『最初の超能力者』だと聞いた。どうして日本を出て行こうと考えたのか、それが知りたい」
「なーんだそんなことか。なに、簡単だよ。『居場所』がなかったのさ」
 超能力者はイヴリンよりも前から世界に存在していた。
 彼女が『最初』とされるのは、『目立った超能力者』であることを意味している。
「私の能力は色々あるが、代表的なものはこの肉体の状態回帰だ。即ち、パっと見不老。これは残念ながら人の社会の中ではそれなりに目立ってしまう。なにせ羨まれるしね?」
 その力はイヴリンにも停止することができなかった。
 歳をとらない人間――それは人間社会に当たり前に存在している『時間』という価値基準を崩壊させてしまう。
 人間というのは、時間経過で勝手に死ぬから『許されている』部分も大きいのだ。
「――バケモノに居場所はなかった。日本はこういうのにうるさい。素性を問わず能力だけで評価してくれるような国ではなかったからね」
「SGPは、あなたにとって居場所足りえたのか?」
「難しい質問だなぁ。うーん、まあ、それなりには?」
 SGPとて超能力者を自由にさせているわけではない。
 常夜内で隊員たちが自在に活動しているので誤解しがちだが、それは『常夜の中』だからであって、外の世界でSGPは存在自体秘匿され、日常生活にすら自由はない。
 徹底的に管理され、その力を研究され、軍事転用される。
「虐げられ、差別され、それでも『生きる権利』は得られる。そんな最低限の保証を『居場所』と称してよいのかは、議論の余地があるだろうね」
 イヴリンは足を止め、振り返る。

焔城己龍
「まあ、これでも待遇はまともになったと思うよ? それもこれも私や過去の超能力者たちが少しずつ積み重ねてきた努力の結果だ。だからこそ私達の絆は血よりも濃い。みんな家族みたいなものさ」
「……すまなかった。俺たちはあなたたちの努力を無為にしてしまった」
「あはははっ! うん、それはそうだね! でもキミたちは自分の身を守る為に必死だっただけだ。そしてそれは、我々も同じことではあるんだけどね」
 煉獄も天獄機関もSGPも、いずれも超能力者という異端で成り立つ組織だ。
 立場も主義主張も属する国家も違えども、彼らの背景には共通するものがある。
 即ち――この世界に生存し続ける、というコト。
「超能力者が異端であり続ける限り、私達は生き残るために他者を傷つけ、利用し、踏みつけにしながら生き永らえていくしかない。それが超能力者問題の本質さ」
「……鎖神のやろうとしたことも同じように思う。確かに超能力者には、『ここではないどこか』……超能力者の存在を許す世界が必要だった」
 己龍も『煉獄』のリーダーとして『常夜』の中にいるから、超能力者であることを許されている。
 力なき者たちに利用される立場にあり、矢面に立つから、彼はヒーローなのだ。
 だが刃を向けるその先にいるのは、異端であっても同じ人間で。
 生きるために、自分という存在を守る為にする戦い――生存競争の中で、敵や味方といった壁が生まれていく。
「鎖神くんは愚かだったねー。あれだけの力がありながら、結局彼は世界を変えられなかった。彼が生み出したものは破壊と憎悪、そして恐怖だけだ。超能力者の待遇は悪くなる一方で、彼は同じ超能力者からもそうでない人々からも、『世界敵(ワールドエネミー)』扱いだ」
「天獄機関。その理念が正しく達成されていたのなら……」
「超能力者の楽園ね。そんなものがもしも作れるのなら、彼は棄てられた者たちの『王』にだってなれただろうさ。もったいないよねぇ~」
 空を見上げ、己龍はIFを夢想する。
 鎖神貴一。あの男がもしも本当に理想を成し遂げていたのなら……。
 こんな方法ではなく、超能力者たちの救世主として君臨していたのなら……。
(……その隣に、俺や頼子がいてやれたのなら……)
 世界は違ったのだろうか?
 奪われる者たちのいない、怯えることのない世界。
 『話せばわかる』という弟の言葉が脳裏をよぎる。
(本当に……すべては遅すぎるのだろうか……?)

 己に問う。お前は本当にやれることをすべてやりきったのか、と。
 想いを言葉にするのが苦手だった。
 『自分』を持てず、社会的正義や倫理に則り行動することをよしとした。
 親友であった男が起こした事件を止められなかった罪……。
 弟さえも巻き込み、死なせてしまったという罰……。
 願いなんてなかった。理想なんて描けない。
 最初から最後まで何もかも人任せで、自分の頭で考えようとしなかった。
 償いの為だけに刀を振るい、望まれるがままにリーダーであろうとした。
 その中でいったいどれだけの選択肢を取りこぼし……。
 可能性を踏みつけにしてきただろうか……。
 できることはいくらでもあったはずだ。
 しかし『可能性』は、『意志』ある者にしか届かない――。

「イヴリン……あなたに感謝を。SGPのリーダーがあなたでよかった」
「えぇ!? いやいや、お礼を言われるのは悪い気はしないけどね……こっちの都合でキミたちを傷つけようとした相手のボスだよ?」
「だが、SGPは人々を捕えようとしただけで、殺戮をしなかった」
「それはそっちも同じでしょ。キミたちは、SGP隊員を殺さなかった」
「目的が違い、立場が違えば争いは避けられない。争うこと……傷つけあうこと。それは俺たちには止められないのかもしれない。だが、その中で折り合いをつけることはできる。学ぶことはできる。それを俺は、咎人に教えられたんだ」
 咎人が呼びかけたから、安達は協力してくれた。
 鮫島とぶつかり合い、全力を尽くしたから、彼は咎人を認めた。
 誰も傷つかず、言葉で分かり合えるのならそれが一番だ。
 けれど、ぶつかりあうことでしかわからないこともある――だから。
「――俺の過去は間違いだらけだと、そう思っていた。実際、俺はあまりにも多くの選択肢を間違えてきた。けれど、だからこそたどり着けた『今』であることも事実だ」
 弟を失った。それは絶対に間違いだった。
 だけど、だからこそ、あいつは大きく成長し――俺を導いてくれる。
「考えてみるよ。錬獄のリーダーでも、鎖神貴一の友でも、あいつの兄貴としてでもなく。俺なりにこの夜を終わらせるための方法を」
「そうかい。でも、答えなんて見つからないかもしれないよ?」
「それでもいいんだ。大切なのは結果じゃない。可能性を絶やさないことだから」
 己龍の言葉に納得したのだろうか。イヴリンはにこやかに微笑む。
 そして己龍の肩を叩き、再び歩き始めるのだった。

(執筆:ハイブリッドヘブン運営)

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