霧像界アンマンド

グスターヴァス
異世界からの来訪者までもが悪魔と対峙するとは……。
やれやれ、まだ私の想像力と言うものは凡人の域を出ませんね。
お差し支えなければ我々「協会」にお力添えを頂けませんでしょうか?
「人の営みを守る」。あなた方も無関心ではないのでは?
更新情報(2023/8/7)霧像界アンマンドのアフターストーリーが公開!ウェストタワー事件を解決し、当面の危機は去った世界。 新たな関わり方としてのハンドアウトノベルと詳細を公開しました。 また、ワールドガイドにも追記されています。 是非ご確認ください。 |
ストーリーノベル
●「協会」の「調査員」
「あっちぃな」
<ジャイルズ・マクミラン>
ジャイルズ・マクミラン(mz0098)はジョージ(mz0140)と共に霧像界アンマンドを見て回っていた。
スイートハート(m0142)とピコ(mz0141)の目論見を阻止し、ウェストタワー事件を解決した咎人たち。
ジャイルズは緑の瞳を保護するためにサングラスを装着していた。異能種の長い耳は髪の毛で隠す。ジョージも強い陽差しには目を白黒させ、同じように色付き眼鏡を掛けて、軽装で管理官に付いていった。
「人間種は認識適合が高い、と言う理由がわかったよ……」
耳を気にするジャイルズを見て、ジョージはしみじみと肯いた。
「まあ、異能の耳くらいならそう言う見た目で色々言われるから隠してるんだろうなくらいで済むんだけどな……剛力種は大変だよ。大体の文化では悪党だしな」
何の変哲もないアメリカの都市だった。ジャイルズはそれを懐かしそうに見ている。
「懐かしいのかい?」
「ああ。お前のとこはどうだった?」
「似ているような気がするけど、皆マザーからの監視に怯えていたからな。こんな晴れ晴れした表情で歩いていなかった」
<ジョージ>
ジョージは、自分の世界の支配コンピューターを「ピコ」とは呼ばなかった。
最後にはやりきった顔で消えていった簒奪者の彼女にはどうしようもなく親しみを覚えてしまって、それ以外にその名前を使う気になれなかったからだ。
「自由って良いな」
「そうだな」
ジャイルズは肯いた。
ひとしきり……と言ってもウェストタワー周辺だが……を見て回り、公園のベンチに座って持って来たランチセットを広げた。サンドイッチと果物だ。霧像界の通貨は天獄界の持ち込みだと、二人が帰った後に消えてしまう。
「そうするとレジ金合わなくてバイトが真っ青になるからやめて差し上げろ」
と言う、現代人接客業経験者咎人からのありがたいお言葉でお弁当持参にしたのだ。
それはさておき、サンドイッチをもぐもぐしながら雑談していると、遠くで長身の男性が歩いているのが見えた。どうやら聖職者の様で、この暑い中黒の法衣を纏っている。
「真面目だね」
「……なあジャイルズ。彼、こちらに来てないか?」
ジョージの言うとおりだった。その男性は真っ直ぐに、二人を目指して歩いてくる。現地の人間であることは間違いない。
やがて、その顔が視認できる距離まで近づいてきて、ジャイルズは目を剥いた。
「グスターヴァス司祭?」
聖樹界ではマウゼル修道会の「伝承者」、人間界ではSGPのメガロリスト、SALFではライセンサー、闇掟界では清貧の司祭、妖鉄界では調停者……彼もまたどこぞの簒奪者並みに類似人物が多い。
うっかり名前を呼んでしまったが、相手は驚いた様子も見せず、
「おや、私の名前をご存知とは。と言うことは、やはりあなた方がウェストタワーの事件を解決した『異世界人』でお間違いありませんでしょうか?」
「……え?」
ジョージは目を瞬かせた。ジャイルズも息を止める。
「お隣、失礼しますね」
グスターヴァスは慇懃に、断った風のことだけ言ってさっさとジャイルズの隣に腰掛けた。
「じゃあ僕はこっちに」
もう一つ声がする。見れば、茶髪の男性がジョージの隣に腰掛けた所だった。
「あれ……!? 君は……!」
C.J.の類似人物である、と言えばこれ以上説明はいらないだろう。どうやら二人に挟まれようだ。
●「悪魔」と「外来種」
スイートハートはこの世界に存在する「悪魔」……ひいては「悪いもの」の一つだった。
悪魔は彼だけではないし、この世界での「悪いもの」は「悪魔」だけではない。
そう言うものと日夜ひっそりと戦う存在があった……と言うのは、祈灯具の説明ですでに成されている。
どうやら、グスターヴァスたちがその「存在」だったようである。
我々は「協会(アソシエーション)」に所属している、と彼は説明した。「協会」とは、ウェストタワーで起こったような奇怪な事件を解決するための機関なのだそうだ。部分的には聖樹界のマウゼル修道会に似ているのか。
「ウェストタワー事件も、何か起こっているらしいことはわかっていたのですが……悪魔とはまた違う存在が介入していたと言うことで、慎重を期していたんですよね」
グスターヴァスは淡々と語った。もう一人の方は頬杖を突いて手帳をめくったりしている。
「悪魔だけならなんとかなりますが、異世界からの転移者となれば、万全を期さなくてはなりません。外来種のようにね。あなたたちがどうやら悪魔と敵対しているらしいことはわかっていました。様子を見ている内に、ウェストタワーの悪魔だけが解決していた、と言う訳です」
だが、「協会」……と言うか霧像界の人類にとって、「外来種」と認識している咎人の問題は解決していなかった。
「まるで悪魔の問題だけ解決しにきたみたいでしたね。と言うことは、我々に対して害意はないのではないか……と我々は予測しました。世界を渡る悪魔狩り……その様な存在なのではないか、と」
異世界からの転移そのものはなんとなく察知できる手段があるらしい協会は、それからも様子見でやってくる咎人の来訪には気付いてたらしい。それで今回、グスターヴァスと、まだ名乗っていない茶髪の男が派遣された、と言う訳だったようだ。
「なるほど……」
ジャイルズは唸った。異世界人が認識できる範囲は、と言う但し書きは付くが、彼らは驚くほど正確に咎人のことを把握していた。
「概ね、あなた方の仰る通りです。俺たちは悪魔と戦う事を目的に、この世界に介入していました。厳密には、俺たち以外にも『外来種』がいて、彼らは悪魔を利用してこの世界を滅ぼそうと……していました」
イデアにして管理するだけだから滅ぼすとは言わない、とピコは言った。そうかもしれない。多分、グスターヴァスが信じるような「滅び」ではないだろう。災厄の擬人化が馬に乗って現れることはない。ジャイルズもそう思うから、僅かに言いよどんだ。その瞬間、「CJ」から鋭い視線が飛んでくる。耳ざとい男であるらしい。が、彼は何も言わなかった。
「俺たちの目的は実はそっちの『外来種』だったんです。悪魔はそのついででしかなかった……まあ、奴は俺たちにとっても許しがたいことをしたので撃破へのモチベーションは高かったんですが」
肩を竦めた。「CJ」はすっと視線を外す。
「なるほど……私たちの観測とさほど矛盾しませんね……」
グスターヴァスは肯くと、二人を見た。
「さて、本題はここからです。『もしお差し支えなければ』と言う前置きはつきますが……その『悪魔狩り』、『外来種駆除』のお力を、我々に貸して頂けませんでしょうか?」
「悪魔祓いのバイトをしろってことですか?」
「さすが、話が早い。仰る通りです」
「嫌だと言ったら?」
「それで結構です。ただ……ウェストタワー内部だけで悪魔と『外来種』を相手にし、円満に解決したのは、この世界の人類の存続に対して前向きだからではありませんか?」
「そうですね。仰る通りです。試すようなことを言って申し訳ありません」
ジャイルズは肯いた。
異世界へ引き続き介入する理由と、現地人の理解。それは資源回収や咎人の実戦訓練の場ができることを意味する。当面の脅威は去っている霧像界。依頼の数はそう多くならないだろうが……それでも何かしらの繋がりがあると言うのはプラスになる。
ひとまず、上席の許可があればお力になります、とジャイルズは応じた。グスターヴァスはメモを取り出し、
「これが『協会』の連絡先です。もしお手すきになりましたらご連絡ください。お手伝い頂きたい仕事をご紹介します。ああ、そうだ。日本支部にも、あなたたちに興味を持つ職員がいましてね。もしそちらでもお手伝いできるようでしたら、是非」
ゲート管理官のようなものか。
「では我々はこれで。戻りましょう」
グスターヴァスは「CJ」を促して、立ち上がった。
「あ、待って! 君の名前を教えて。俺はジョージだ。ジョージ・マクミラン。こっちは同僚のジャイルズ」
ジョージが「CJ」を呼び止めた。
「そうだな。どうぞ『審問官』とでも呼んでくれ。僕を嫌ってる奴は皆そう呼ぶ」
「君を好きな人は?」
ジョージが驚いて反射的に尋ねると、「審問官」は目を瞬かせてから笑い出した。
「クラレンスって言うからどうぞクレアとでも」
「行きましょう、クレア」
二人は来た時と同じように、すたすたと立ち去った。
ジャイルズとジョージは天獄界に帰還してからサガルトに報告。引き続き霧像界への介入が決定した。
●その頃「日本支部」
「そう、ありがとう、グスターヴァス。クレアにもよろしく。おやすみ。え? こっちは夜なんだよ。じゃあな、あばよ」
宮前尾咲はそう言って国際電話を切った。
アメリカでよくわからない異変が起きているらしい……と言うことを尾咲も相談を受けて聞いていた。「家屋」の怪談や言い伝えは枚挙に暇がない。日本でも「マヨヒガ」などが有名だろう。
状況を聞きながら尾咲も知恵を絞ったが、どうやら強力な認識阻害が働いていて、アメリカ支部でも状況把握に四苦八苦しているらしい。とは言え、「悪魔」の他に「異世界から渡ってきたらしい外来種の様な存在」が関与しているらしいことはわかった。
外来種。
それは尾咲の興味をそそった。
宮前尾咲は「ページの外の傍観者」を自認している。
かつて、悪霊だのなんだのが見えてしまったが故に、まさしくページの中に真っ黒なインクで一挙一動を記されていた少年は、「協会」と言う居場所を得てページの外に抜け出した。悲喜こもごもの悪魔事件を調査しながら、他者の「物語」を外から眺める。ページの外の傍観者。
だから、彼にとって「外来種」たちは、突然ページに湧いて来たインクの染みだ。
その染みが物語にどう影響するのか……と思うと俄然わくわくしてくる。
尾咲は、「外来種」に接触するというグスターヴァスたちに、日本支部への協力も打診してくれるように頼んだ。
「面白いことが起こると良いなぁ」
彼は事務椅子をくるりと回転させて、口笛を吹いた。
(執筆:三田村 薫)
「あっちぃな」

<ジャイルズ・マクミラン>
スイートハート(m0142)とピコ(mz0141)の目論見を阻止し、ウェストタワー事件を解決した咎人たち。
ジャイルズは緑の瞳を保護するためにサングラスを装着していた。異能種の長い耳は髪の毛で隠す。ジョージも強い陽差しには目を白黒させ、同じように色付き眼鏡を掛けて、軽装で管理官に付いていった。
「人間種は認識適合が高い、と言う理由がわかったよ……」
耳を気にするジャイルズを見て、ジョージはしみじみと肯いた。
「まあ、異能の耳くらいならそう言う見た目で色々言われるから隠してるんだろうなくらいで済むんだけどな……剛力種は大変だよ。大体の文化では悪党だしな」
何の変哲もないアメリカの都市だった。ジャイルズはそれを懐かしそうに見ている。
「懐かしいのかい?」
「ああ。お前のとこはどうだった?」
「似ているような気がするけど、皆マザーからの監視に怯えていたからな。こんな晴れ晴れした表情で歩いていなかった」

<ジョージ>
最後にはやりきった顔で消えていった簒奪者の彼女にはどうしようもなく親しみを覚えてしまって、それ以外にその名前を使う気になれなかったからだ。
「自由って良いな」
「そうだな」
ジャイルズは肯いた。
ひとしきり……と言ってもウェストタワー周辺だが……を見て回り、公園のベンチに座って持って来たランチセットを広げた。サンドイッチと果物だ。霧像界の通貨は天獄界の持ち込みだと、二人が帰った後に消えてしまう。
「そうするとレジ金合わなくてバイトが真っ青になるからやめて差し上げろ」
と言う、現代人接客業経験者咎人からのありがたいお言葉でお弁当持参にしたのだ。
それはさておき、サンドイッチをもぐもぐしながら雑談していると、遠くで長身の男性が歩いているのが見えた。どうやら聖職者の様で、この暑い中黒の法衣を纏っている。
「真面目だね」
「……なあジャイルズ。彼、こちらに来てないか?」
ジョージの言うとおりだった。その男性は真っ直ぐに、二人を目指して歩いてくる。現地の人間であることは間違いない。
やがて、その顔が視認できる距離まで近づいてきて、ジャイルズは目を剥いた。
「グスターヴァス司祭?」
聖樹界ではマウゼル修道会の「伝承者」、人間界ではSGPのメガロリスト、SALFではライセンサー、闇掟界では清貧の司祭、妖鉄界では調停者……彼もまたどこぞの簒奪者並みに類似人物が多い。
うっかり名前を呼んでしまったが、相手は驚いた様子も見せず、
「おや、私の名前をご存知とは。と言うことは、やはりあなた方がウェストタワーの事件を解決した『異世界人』でお間違いありませんでしょうか?」
「……え?」
ジョージは目を瞬かせた。ジャイルズも息を止める。
「お隣、失礼しますね」
グスターヴァスは慇懃に、断った風のことだけ言ってさっさとジャイルズの隣に腰掛けた。
「じゃあ僕はこっちに」
もう一つ声がする。見れば、茶髪の男性がジョージの隣に腰掛けた所だった。
「あれ……!? 君は……!」
C.J.の類似人物である、と言えばこれ以上説明はいらないだろう。どうやら二人に挟まれようだ。
●「悪魔」と「外来種」
スイートハートはこの世界に存在する「悪魔」……ひいては「悪いもの」の一つだった。
悪魔は彼だけではないし、この世界での「悪いもの」は「悪魔」だけではない。
そう言うものと日夜ひっそりと戦う存在があった……と言うのは、祈灯具の説明ですでに成されている。
どうやら、グスターヴァスたちがその「存在」だったようである。
我々は「協会(アソシエーション)」に所属している、と彼は説明した。「協会」とは、ウェストタワーで起こったような奇怪な事件を解決するための機関なのだそうだ。部分的には聖樹界のマウゼル修道会に似ているのか。
「ウェストタワー事件も、何か起こっているらしいことはわかっていたのですが……悪魔とはまた違う存在が介入していたと言うことで、慎重を期していたんですよね」
グスターヴァスは淡々と語った。もう一人の方は頬杖を突いて手帳をめくったりしている。
「悪魔だけならなんとかなりますが、異世界からの転移者となれば、万全を期さなくてはなりません。外来種のようにね。あなたたちがどうやら悪魔と敵対しているらしいことはわかっていました。様子を見ている内に、ウェストタワーの悪魔だけが解決していた、と言う訳です」
だが、「協会」……と言うか霧像界の人類にとって、「外来種」と認識している咎人の問題は解決していなかった。
「まるで悪魔の問題だけ解決しにきたみたいでしたね。と言うことは、我々に対して害意はないのではないか……と我々は予測しました。世界を渡る悪魔狩り……その様な存在なのではないか、と」
異世界からの転移そのものはなんとなく察知できる手段があるらしい協会は、それからも様子見でやってくる咎人の来訪には気付いてたらしい。それで今回、グスターヴァスと、まだ名乗っていない茶髪の男が派遣された、と言う訳だったようだ。
「なるほど……」
ジャイルズは唸った。異世界人が認識できる範囲は、と言う但し書きは付くが、彼らは驚くほど正確に咎人のことを把握していた。
「概ね、あなた方の仰る通りです。俺たちは悪魔と戦う事を目的に、この世界に介入していました。厳密には、俺たち以外にも『外来種』がいて、彼らは悪魔を利用してこの世界を滅ぼそうと……していました」
イデアにして管理するだけだから滅ぼすとは言わない、とピコは言った。そうかもしれない。多分、グスターヴァスが信じるような「滅び」ではないだろう。災厄の擬人化が馬に乗って現れることはない。ジャイルズもそう思うから、僅かに言いよどんだ。その瞬間、「CJ」から鋭い視線が飛んでくる。耳ざとい男であるらしい。が、彼は何も言わなかった。
「俺たちの目的は実はそっちの『外来種』だったんです。悪魔はそのついででしかなかった……まあ、奴は俺たちにとっても許しがたいことをしたので撃破へのモチベーションは高かったんですが」
肩を竦めた。「CJ」はすっと視線を外す。
「なるほど……私たちの観測とさほど矛盾しませんね……」
グスターヴァスは肯くと、二人を見た。
「さて、本題はここからです。『もしお差し支えなければ』と言う前置きはつきますが……その『悪魔狩り』、『外来種駆除』のお力を、我々に貸して頂けませんでしょうか?」
「悪魔祓いのバイトをしろってことですか?」
「さすが、話が早い。仰る通りです」
「嫌だと言ったら?」
「それで結構です。ただ……ウェストタワー内部だけで悪魔と『外来種』を相手にし、円満に解決したのは、この世界の人類の存続に対して前向きだからではありませんか?」
「そうですね。仰る通りです。試すようなことを言って申し訳ありません」
ジャイルズは肯いた。
異世界へ引き続き介入する理由と、現地人の理解。それは資源回収や咎人の実戦訓練の場ができることを意味する。当面の脅威は去っている霧像界。依頼の数はそう多くならないだろうが……それでも何かしらの繋がりがあると言うのはプラスになる。
ひとまず、上席の許可があればお力になります、とジャイルズは応じた。グスターヴァスはメモを取り出し、
「これが『協会』の連絡先です。もしお手すきになりましたらご連絡ください。お手伝い頂きたい仕事をご紹介します。ああ、そうだ。日本支部にも、あなたたちに興味を持つ職員がいましてね。もしそちらでもお手伝いできるようでしたら、是非」
ゲート管理官のようなものか。
「では我々はこれで。戻りましょう」
グスターヴァスは「CJ」を促して、立ち上がった。
「あ、待って! 君の名前を教えて。俺はジョージだ。ジョージ・マクミラン。こっちは同僚のジャイルズ」
ジョージが「CJ」を呼び止めた。
「そうだな。どうぞ『審問官』とでも呼んでくれ。僕を嫌ってる奴は皆そう呼ぶ」
「君を好きな人は?」
ジョージが驚いて反射的に尋ねると、「審問官」は目を瞬かせてから笑い出した。
「クラレンスって言うからどうぞクレアとでも」
「行きましょう、クレア」
二人は来た時と同じように、すたすたと立ち去った。
ジャイルズとジョージは天獄界に帰還してからサガルトに報告。引き続き霧像界への介入が決定した。
●その頃「日本支部」
「そう、ありがとう、グスターヴァス。クレアにもよろしく。おやすみ。え? こっちは夜なんだよ。じゃあな、あばよ」
宮前尾咲はそう言って国際電話を切った。
アメリカでよくわからない異変が起きているらしい……と言うことを尾咲も相談を受けて聞いていた。「家屋」の怪談や言い伝えは枚挙に暇がない。日本でも「マヨヒガ」などが有名だろう。
状況を聞きながら尾咲も知恵を絞ったが、どうやら強力な認識阻害が働いていて、アメリカ支部でも状況把握に四苦八苦しているらしい。とは言え、「悪魔」の他に「異世界から渡ってきたらしい外来種の様な存在」が関与しているらしいことはわかった。
外来種。
それは尾咲の興味をそそった。
宮前尾咲は「ページの外の傍観者」を自認している。
かつて、悪霊だのなんだのが見えてしまったが故に、まさしくページの中に真っ黒なインクで一挙一動を記されていた少年は、「協会」と言う居場所を得てページの外に抜け出した。悲喜こもごもの悪魔事件を調査しながら、他者の「物語」を外から眺める。ページの外の傍観者。
だから、彼にとって「外来種」たちは、突然ページに湧いて来たインクの染みだ。
その染みが物語にどう影響するのか……と思うと俄然わくわくしてくる。
尾咲は、「外来種」に接触するというグスターヴァスたちに、日本支部への協力も打診してくれるように頼んだ。
「面白いことが起こると良いなぁ」
彼は事務椅子をくるりと回転させて、口笛を吹いた。
(執筆:三田村 薫)