オープニング

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　無事、イデアゲートを設置するための荷物を主要都市リベラまで運び入れることに成功した３名のゲート管理人とサヴィトゥール(mz0030)とグッチ(mz0037)は、ここまで護衛してくれた咎人達と別れ、咎人部隊『ベゾッフェン』と合流し、今度はイデアゲート設置の許可を貰う為に翻弄されることとなった。
　というのも、最初にヴェルナー・ブロスフェルト(mz0019)がリベラ領主、ベアトリス・リベラにイデアゲート設置の許可を申請したところ――
「敵陣のそばでは駄目なのですか？」
　とそのものズバリ『怪しい部外者の出入りを自由に許すゲートなど領地内に設置したくない』と言い放たれたからだ。
　『この国が魔王軍との最前線戦になる可能性があり、今は戦力が1つでもあった方が良い状況である』という事実を彼らの自尊心を傷付けないよう、ゆっくり丁寧に時間をかけて説明し、最終的に合流したサヴィトゥール達が持参したロス・テラス聖王国のリーゼロッテ・ロス・テラスからの王国印入りの紹介状をを見せたことで、ようやく渋々といった形でイデアゲートの領地内での設置が認められた。
　また、この時たまたまグッチの服装がグラジオラスのコスプレをしていた事が幸いし、「それなら聖マウゼル修道会の敷地内に設置を許可します。この書面を持って願い出なさい」と紹介状を渡されたのだ。
　そして、5人は教えられた通り聖マウゼル修道会、リベラ教区の教会へと向かった。
「はえぇぇぇ……大きいねぇ」
「まぁ、信仰の中心となる建物は総じて大きいものだろう」
　立派な煉瓦造りの教会はまるで小さなお城のようだった。
　教会の主であるという修道院長である初老の女性は穏やかにグッチ達を招き入れてくれた。
「ロス・テラスからの申し出ということならば、断る理由なんてございません。……とはいえ、条件に合うような部屋がございましょうか……」
「いえ、イデアゲートは外でなければなりませんので。敷地内でほぼ使われていないところがあれば一部お貸し願いたいのです」
　こういったゲートに関する交渉などは基本サヴィトゥールが行うため、暇になったグッチは窓の外へと視線を向け時間を潰すことにした。


「あなた達に折り入ってお願いしたいことがあります」
　修道院から出た直後、声を潜めたヴェルナーに声を掛けられるとサヴィトゥールとグッチはベゾッフェンにあてがわれたという詰所の一室へと案内されていた。
「エリス王国……いや。ハンセル砦陥落についてはお二人は何処までご理解いただけていますか？」
　唐突な問いにグッチは困惑してサヴィトゥールを見るが、サヴィトゥールは顎に手をやり、唇を隠すように人差し指と中指をあてると暫し考え、口を開いた。
「何処まで……と問われても、自分達はザガルト様より聞いた以上の内容を知らない」
「そうですか……いいですか？　今からお話しすることは何の証拠も得られていない、私の推論である。……という前置きを踏まえて聞いて下さい。私は内通者の存在を疑っています」
　サヴィトゥールはヴェルナーの眼鏡越しの瞳をジッと見つめ、目を伏せると同時に息を吐いた。
「……根拠は」
「侵略速度がこの数ヶ月で一気に上がっています。もちろん、これには簒奪者……この世界に合わせて言うならば『魔人（フォリアス）』ですね。の、関与がある事は間違いありませんが、こと、このエリス王国の侵略は非常に“計画的”なのです……先日の襲撃を除いては」
　いくつかの街が既に魔族の手に堕ちているエリス王国だが、その多くは手薄な場所、もしくは防御の脆いところから攻め入られているという。
　一方で先日のリベラの襲撃は随分と煩雑だったという。
「これには、何かの“意図”を私は感じました。もちろん、単純に数に圧されて撤退を余儀なくされた街もあったため、魔族の本能的な部分が強化され、弱ったところから突く、という知恵を手に入れた可能性もあります」
「……だが、万が一内通者だった場合、その内通者を潰せば敵の勢いを殺す事が出来るかも知れない……ということか」
　サヴィトゥールの言葉にヴェルナーは満足そうに口角を上げた。
「えぇ。ですから貴方達には広く情報を集めて頂きたいのです」
「情報？　随分と漠然とした言い方だな」
「いえ、情報まで行かずとも、噂程度でも構いません。ハンセル砦が陥落する前後で変わった事は無かったか。何か予兆のような物は無かったか。『良く当たる占い師が凶を引いていた』程度の物でも『渡り鳥が今年は遅かった』等でも構いません。とにかく広く噂話や情報を集めて下さい」
「んー……私はいいけど、サヴィ君はゲート造りの方の仕事があるんじゃないの？」
　グッチが小首を傾げて問えば、ヴェルナーは唇に弧を乗せたままひとつ、ふたつと指を立てた。
「規模と大きさから見て、3人いれば十分だと私は判断しましたが違いますか？」
「……まぁ出来ない訳では無いが……何故自分達に声をかけた？」
　そう問われたヴェルナーは、少しだけ目を見張ってから珍しく言葉を探すような素振りを見せた。
「そう、ですね……何となく貴方とは近い物を感じたのでしょう」
　その顔に浮かぶのは自嘲とも取れる苦笑に近い微笑。
　一方でサヴィトゥールは眉間のしわを深めつつもそれ以上踏み込むことなく、本題に戻った。
「見かけた咎人に協力を頼むのは構わないか？」
「えぇ。その方が良いでしょう。この世界の人々は硬い殻に覆われているような状態です。数を打たねば得られない情報もあるかも知れません。期限は一週間後とします」
「はい！　お買い物とかしたいです！」
　グッチが元気よく挙手し、下ろす動作からそのままヴェルナーの前へ手のひらを差し出してみせた。
「協力者にはこの国で使える硬貨を提供しましょう。あまり高級な物は買えませんが、日用雑貨や一般的な食事ぐらいは出来る金額です。私は別件がありますので留守にしますが、待機している者に話しを通しておきますから、各自詰所まで取りに来るよう伝えて上げて下さい」
「おっとぉ！？　ヴェルナーさん、話しわっかるぅ～♪」
　ニヤッと笑うグッチの横で、サヴィトゥールは深い溜息を吐いた。
「では、宜しく頼みましたよ」
　ヴェルナーは踵を返すと詰所から出て行った。
　その後ろ姿を見てグッチは「ほへ～」と感嘆の声を上げた。
「知的なイケメン軍師って感じ」
「……まぁ、軍関係者だったんだろうな。動きに隙がない」
「え？　サヴィ君、そんなことまで分かっちゃうの？！」
「……わからん。……が、そんな気がした」
　何故そんなことを思ったのか。分からないままヴェルナーの消えた扉から視線を剥がすと、次の瞬間にはどう動くべきかに思考は切り替わっていた。