オープニング

●見回りという名の散歩？
「そうだ、蝉でも見てきてくれない？」
　また唐突にゲート管理官のリリィ・サーベラスが言う。
　人幻界で、しばらく常夜に入っていた地域の菖蒲園の見回りとのこと。
　別に本格的に見回りをしてほしいというより、異変がないかということで見てほしいというやんわりもの。
「あ、別に、異変があるって可能性を示唆しているわけじゃないからね」
　人幻界だろうが、天獄界だろうが、何か起こるときは起こるし、気を付けていた方がいいよねという事である。
　色々言い訳するけれども、結局、散歩でもいいし、周辺がどうか見てきて、というふわふわした依頼だった。

　菖蒲園は荒れているけれども、地元の人々の尽力で、徐々に元の姿に戻って――行くはずである。予算が潤沢ということでもなく、生活の基盤に直接関係ないとかで、後回しになっているけれども、ボランティアの力も借りて、来年はきれいに咲くといいなと復旧作業が行われている。今年も咲いていたけれども、まぁ、不具合もちらりほらり見られたのだった。

　現在の状況の植物の勢力図は、猫じゃらしやよくわからないけど160センチ以上はありそうな真っ直ぐに伸びる植物が元気であった。つゆ草やタチアオイなどが咲いているのはかわいいほう……という雰囲気。いわゆる、手入れされている状態ではない。

　公園内にある甘味処の小さな建物があり、そこは販売をしている。
　涼し気な「氷」という旗がひらめいている。
　春先はお善哉やあんみつなどある程度種類があったのだけれども、現在はかき氷と冷やし善哉というラインナップ。時折、どこかの和菓子屋の団子がある程度。
　なお、氷の味付けは古式ゆかしきメロン、イチゴ、レモン、ブルーハワイ。
　あとは、ちょっと頑張った宇治金時。

　公園にいる生き物は、人間以外は、蝉が目立った。地面を見ればアリはいるけれども、セミみたいに鳴かないため、地面を見ないといることを意識しづらい。時々、地面にいるセミに土を盛っていることもあったり、人間が落としたあんこに群がるかもしれない。

　さて、そんな公園で夏のある日を過ごしてほしい。
　おおよそ、午前8時から午後4時くらいである。
　湿度高い。日なたに出れば、干からびそうだ。
　幸いなのは、吹く風は乾燥しているようで、日陰だと涼しいかもしれないということ。
　木にはセミがついている。
　時折、元気よく鳴く。
　なお、夕立はない予報。
　空は青く、入道雲が遠くには見える――。