オープニング

　イデアゲートを抜けた長身長髪の男、国近孔雀(mz0124)が周りを見渡し目を輝かせた。
「ここが訓練用に開放する浮遊島、か……」
　目の前には……

　通りを挟んで整然と並ぶ長屋
　遠くには入母屋破風や千鳥破風が施された天守の城
　近くの軒先に吊るされた提灯
　軒下の地面近くに施された犬矢来
　赤毛氈の縁台に野点傘
　屋根の向こうに見える半鐘の付いた火の見櫓
　流れる川に架かる擬宝珠欄干の反り橋

　典型的な「和風」と呼ばれる街並みである。

「なんだか懐かしさを感じるね」
「お、さっそく訓練希望者が来たか。……あんた、なんて名前だい？」
　そうつぶやいた男に、イデアゲートの管理員が声をかけた。
「国近孔雀（クニチカ・クジャク）。孔雀でいいよ」
　孔雀、だんだら模様の羽織を着込んだ背中から振り向いた。
「孔雀ね。ちょうどいい。着てる服もそれっぽいし、しばらくここに居座って管理をやってくんねぇか？　もちろんひと通り見て回った後でいい」
「いいよ。……暇だし、馴染む」
　孔雀、悪戯そうに微笑し請け負った。
「どうした？」
　その様子に首をひねる管理員。
「いや……。ここ、無人だろ？　屋根の上を走ってもいいし城に忍び込む練習をしてもいい。着物の着付を楽しむこともできるし、剣術道場の跡地もあるかもしれない。楽しいな、ってね」
「なるほど。馴染む、ってのはそういうことか。……着物って、孔雀はもう着てるだろ？」
「女物さ。……たしか女形もやってたような気がするしね」
「ま、そういう服飾訓練もできるだろうな」
　女装の方には触れない管理員だった。
「とにかくここの利用者数を確認すればいいね？」
「助かるよ」
　和風の町並みでの訓練場がこうして開放された。