オープニング

「敵対しない道は、残されているかもしれません」
「議員？」
　男――ランディ・スタンリッジ議員の呟きに、秘書のエディ・ジャクソン(mz0067)が問いかけた。
「例の少女とコンタクトを取ります。彼女は真実を知りません。知れば、味方になる可能性もあります」
　味方になるなら、血脈はカードになる。
　特にあの怪人相手ならば効果的だ。
「その方向で動きましょうか」
「ああ、それから……よく働いてくれるあなたに、何かお礼をしようと思います」
「…………」
　ランディの言葉を、エディは聞き流す事にした。

●
「……え？」
「ランディ議員があなたとお話したいとの事です」
　ツインフィールズ教会に到着した一台の車。
　その前でファリフは言葉に詰まった。
　突然、教会に一台の車が乗り付け『議員が呼んでいるから乗れ』と言い放ったのだ。
「失礼ですが、ランディ議員が何故この子を？」
　身を案じたシスターアンジェラが、男へ問いかける。
「私では分かりません。私はお連れするようにと命じられただけです」
　男の言葉を聞く限り、偽りは無さそうだ。
　しかし、今になって何の話をしようというのか。
「どうするの、ファリフ？」
「行ってみようと思う。きっと、あの議員はボクも知らない何かを知ってる」
　ファリフは息を飲む。
　創立記念式典で発生したクリーチャーとの繋がり。あれが血脈の力なのか。だとしたら、血脈とは何なのか。おそらく、ランディはそれを知っている。危険があったとしても、赴く意味はある。
「それでは車へお乗り下さい」
「はい……あ、フローズ！」
　ファリフが乗るよりも早く、フローズが後部座席へ乗り込んだ。
　普段は動こうともしないくせに、ここで全力で走るフローズ。ちゃっかり、座席の方に飛び乗って丸くなっている。
　だが、男は気にする素振りもない。
「時間がありません。お早く」
　忙しない男に促され、ファリフはフローズを押し退けて車へ乗った。
　
●
　巨石群タシュンケ。
　ツインフィールズ郊外にあり、複数の巨石で構成されている史跡だ。円形状に配置された巨石が何の為に積まれているのか。未だに解明されていない。一説では宇宙人との交信に使用されたという話もある。ツインフィールズ文化遺産に指定され、観光地として知られている。
　車が到着した際、観光客は一人もいなかった。
　ファリフが車を降りれば、そこには巨石を見守る一人の男が立っていた。
　品の良い雰囲気で、背広が風にはためいている。
　ファリフにも分かる。彼が呼び出した張本人だと。
「お呼びだてして申し訳ない」
　ランディは言葉で謝罪してみせた。
　それに対してファリフは何を言って良いのか分からない。
　ランディという男が、何を考えて何をしようとしているのか。それが分からない限り、彼が正しいのかも理解できないからだ。
「単刀直入に申し上げます。私に協力いただけませんか？」
「え？」
　ファリフは呆気に取られる。
　まさか自分が勧誘されるとは思ってもみなかった。
「町をより良くするのは市民一人一人の義務です。私の手伝いは、その一環になります」
「あの……そもそもなんでボクなんですか？　血脈って奴だからですか？」
「ふむ。あなたは血脈とは何かご存じないのですか？」
「分からないよ。それを聞きにきたんだ」
　ランディは靴を鳴らしながら歩く。
「ツインフィールズ。この町ができたのは、開拓時代。それまでは先住民が聖地として崇められていた場所でした」
「聖地？」
「聖地レイムディアー。この地は先住民の中でも特別な場所です。先住民の指導者が亡くなれば、新たなる指導者候補が聖地を目指します。神であるワカンタンカに願い、指導者となって先住民達を導いていく。それが慣わしでした」
　ファリフはランディが何を言い出しているのかさっぱり分からない。
　何故、開拓時代の話が出るのか。理解できないファリフは話に耳を傾ける。
「それが何なの？」
「ここからが大切なところです。開拓時代になり、欧州から多くの人がきました。聖地を蔑ろにする者達と先住民達の戦い。それはまさに血みどろの争い。結果、戦いは聖地を蔑ろにする者達が勝利しました。彼らは勝利の証として聖地の上にわざわざ町を築きました。それがツインフィールズです」
「！」
「先住民の多くが殺され、レイムディアーに遺体を放置。その上に町を築く。先住民達の多くが怒り、悲しんだ事か」
「それが一体……」
「血脈とは、先住民達の中で指導者となり得る者達の末裔です。血脈の者は聖地へ赴きワカンタンカへ願う事で英式に指導者となれるのです」
　血脈が指導者の末裔である事は理解できた。
　孤児院に住むファリフにとって家族は、教会の人々だ。自分の親が誰だったかなんて知らない。
　急に末裔と言われても困る。
　しかし、同時に疑問が思い浮かぶ。
「待って。指導者になったからって何ができるの？」
「何でも。といっても万能ではありません。願えば町が突然一変しなりはしません。神が指導者の願いを聞き入れて手助けしてくれる程度です。ですが、法案を提出すれば可決されるぐらいの力はあります」
　さらにランディは、『指導者でなくても強く願えば神が助けてくれる程、ワカンタンカは優しい神である事』や先住民の戦いで初戦で指導者が殺された為に神へ願えなかった事を教えてくれた。
　そして、その時になってファリフは気付く。
「まさか、あのニューツインフィールズ計画って……」
「そうです。議会に提出した後に多数派工作していますが、あれは形式。私は聖地へ赴いて『犯罪の一切無い町』をワカンタンカへ願います。新たなる指導者として」
「！」
　ファリフはハナがあの計画が発動されれば、市民の生活が大きく制限されると聞かされていた。
　議会を通すというのは形だけ。指導者になって神に願えば、町を自由に変えられる。
　ファリフが過ごしてきたあの町が、ランディの考え一つで破壊できてしまう。
「そんな……」
「先祖が苦しんだ町ですが、壊さず住みやすい町に変えればいいのです。犯罪のない町に」
　笑顔で微笑むランディ。
　しかし、そこへ思わぬ来訪者が現れる。
「やはり聖地の独占ですか。本当に恐れの知らない者ですね」
「ウェンディゴ！」
　ファリフの視界に飛び込んできたのは、ウェンディゴだった。
　咎人によって倒されたはずなのに。
　だが、ランディに驚いた様子はない。
「過去にしがみ付く亡霊は、あの程度では死にませんか」
「我らが怨念を利用する愚物に理解はできないでしょう」
「言いますね……エディさん」
「はぁ。やっぱり来ますよねぇ。さすがは怪人」
　愚痴りながらエディがトーンフォレストで友愛騎士団を召喚。
　瞬く間に多数の友愛騎士団が姿を見せる。
　対してウェンディゴが手を翳すと地面からクリーチャーが現れる。
　クリーチャーとクリーチャーが対峙する状況の中、ファリフは頭を悩ませる。
「ど、どうすればいいの。これ？」