オープニング

●【ユニア】聖騎士は此処に眠る


　その日、聖騎士が眠る霊廟を二人の簒奪者が訪れた。
　一人は遺骸に用があった。一人は聖騎士に話があった。

『……そこで、なにをしているのですか』

　簒奪者『墓荒らし』にとって、人の墓を暴いて死体を利用するなんて日常の一風景に過ぎない。朝起きて歯を磨くのと一緒。腹を空かせてパンを齧るのと一緒。同じぐらいの気軽さでイルダーナフの墓場を荒らし、易々と死者の騎士団を作り上げた。
　せっかく作ったんだから、どうせなら使ってみたい。使う相手として、近隣の砦――コンスト・ティーノブル――はちょうど良かった。騎士の練度もそれなり、砦の規模もそれなり。ただ力押しするだけでは落ちない、ゲーム的な面白さがあった。
　だから墓荒らしは思った。そろそろネームドキャラを用意して、騎士達を少し驚かせてやりたい。そのためには当然、騎士達が驚く死体を用意しなくてはならない。
　聖騎士『ユリウス・アウグニクス』の遺骸は、騎士達を驚かすネームバリューと実績を兼ね備えていた。だから墓を暴いていた。

『墓荒らし。それがオレのやりたいことだからさ』

　墓荒らしは、極端に運が悪かった。話しかけてきたのが同じ簒奪者だったから何も警戒していなかった。仮に荒らしていたのが他の聖騎士の墓ならば何も起こらなかった。
　よりによって、ユニア・クラウリナの前でユリウスの墓を暴くなど、類稀な運の悪さだった。

『私の……』

『私の？』

　まだ自らの危険に気付かないまま、墓荒らしはシャベルを地面に突き立てる。一堀りで床石を割り、二堀りで土を跳ね上げ。ふぅと一息ついて顔を上げた墓荒らしの視界が、歪んだ。

『づっ……！？』

　異常な量の魔力を、呪文に形成することすらせず叩きつけられた。その事実に、床を幾度となく転がったところで墓荒らしはようやく気付く。誰が、何のために。それすらまだ理解できないまま、墓荒らしは霊廟の床をスコップで強く叩く。

『クソ、咎人か！？　来い、亡霊騎士団ども！！』

　床を掻き割り、亡霊達が身をもたげる。槍持ち達が即座に槍衾を作り上げ、後衛が弓を番え魔術を詠唱する。自らに一撃を加えた何者かに対し、墓荒らしは防壁を作り上げ。

「……え？　簒奪者！？」

『え？』

　霊廟の入口。咎人達が顔を出した。亡霊達が作り上げた防壁とは真反対。無防備な背中側。その意味を掴めず、互いが間の抜けた声を上げた瞬間。

『私のユリウス様に……汚い手で触るなァアアアアアアア！！！』

　亡霊騎士団を弾き飛ばし、もう一度魔力の塊が叩きつけられる。それで墓守はようやく気付いた。
　どうやら自分は、同じ簒奪者に攻撃されているらしい。

『……なんで？』

　思わず溢した言葉は、咎人達が得物を構える音でかき消された。