ミニノベル
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Guten Abend, gute’ Nacht――。
子守唄を奏でる30弁オルゴール。
殺風景なコンクリート張りの壁に波打つ静かなメロディは、木製の棚に飾られた幾つものオルゴールやハンドメイドのアクセサリー達へ弾んでは又、揺蕩っていく。そんな空間の中央には、木製天板のテーブルと揃いの椅子。テーブルを飾る控えめな色合いには、月見草が一輪――花瓶代わりのコップで満開を迎えていた。
「揚げ出し豆腐のお味はどう、かし、ら」
新しい小鉢を配膳しながら、草薙胡桃(ma0042)が客に声をかける。“客”と云っても、当人の櫻(mz0036)にその意識があるかどうかは不明だ。櫻は手にしていた猪口を軽く呷ると、漏らした吐息の後へ平素の調子を次ぐ。
「ああ、美味しいよ。とろみがついているからかな、出汁がよく絡んでいるような気がする」
「ふふ、よかった。とろみをつけると冷めにくくなるし、これからの季節にいいかな、と、思って」
「なるほど」
「ええ。それに、ちょうど良い時に寄ってもらえて、助かった、わ。お酒、飲めないのについ買ってしまう、し……料理も作りすぎて、困っていた、の」
「俺は得意先への配達ついでに寄っただけなのだが」
「それでもいいのよ」
「そうかい」
「そうよ? ふふ」
「……全く、お人好しだね。君は」
彼女と彼は、アジアン雑貨『百』の従業員と店主という間柄。彼は時折、猫のようにこうやってふらりと来訪してくる。彼にとって、それは、間柄の延長なのか。それとも只単に、酒が飲めて小腹を満たせると味を占めているからなのだろうか。しかし、後者ならば彼が馴染みにしている酒呑屋『明日葉』で事足りる。ならば――
「(……まあ、寄ってくれるのは素直に嬉しいのよ、ね。出勤日以外ではなかなか会えない、し)」
――と、解を求めたところでこちらの気持ちが変わるわけでもない。どちらにせよ、彼らしい気紛れが働いていることに違いはないだろうから。
「これは鶏肉かい?」
櫻が新しい小鉢から赤いそれを箸で摘まみ上げ、口へ運ぶ。
「ええ、鶏肉のコチュジャン炒めよ。辛さは、足りている、かしら?」
「ああ。酒が進むね」
その言葉の通り、猪口へ注がれてゆく酒の水面を眺めながら、胡桃はアップルグリーンの双眸を緩やかに細めた。柔らかいミルキーホワイトの指先が、木の丸盆をきゅっと胸元へ寄せる。
胡桃にとって料理は趣味の一つだが、自分が食べたいものを作る――というよりかは、誰かの為に作るという思考になりやすいのが現状。だからこそ、自然と作りすぎてしまうのだろう。けれど――
「(……いい、の。これが、私。私の大切な、“日常”なのだか、ら)」
窓から差し込む陽射しが、胡桃の花飾りへ淡く降り注ぐ。
人知れずひっそりと咲く月下美人に込められた彼女の想いは、果たして、叶ったのであろうか。
(執筆:愁水)
Guten Abend, gute’ Nacht――。
子守唄を奏でる30弁オルゴール。
殺風景なコンクリート張りの壁に波打つ静かなメロディは、木製の棚に飾られた幾つものオルゴールやハンドメイドのアクセサリー達へ弾んでは又、揺蕩っていく。そんな空間の中央には、木製天板のテーブルと揃いの椅子。テーブルを飾る控えめな色合いには、月見草が一輪――花瓶代わりのコップで満開を迎えていた。
「揚げ出し豆腐のお味はどう、かし、ら」
新しい小鉢を配膳しながら、草薙胡桃(ma0042)が客に声をかける。“客”と云っても、当人の櫻(mz0036)にその意識があるかどうかは不明だ。櫻は手にしていた猪口を軽く呷ると、漏らした吐息の後へ平素の調子を次ぐ。
「ああ、美味しいよ。とろみがついているからかな、出汁がよく絡んでいるような気がする」
「ふふ、よかった。とろみをつけると冷めにくくなるし、これからの季節にいいかな、と、思って」
「なるほど」
「ええ。それに、ちょうど良い時に寄ってもらえて、助かった、わ。お酒、飲めないのについ買ってしまう、し……料理も作りすぎて、困っていた、の」
「俺は得意先への配達ついでに寄っただけなのだが」
「それでもいいのよ」
「そうかい」
「そうよ? ふふ」
「……全く、お人好しだね。君は」
彼女と彼は、アジアン雑貨『百』の従業員と店主という間柄。彼は時折、猫のようにこうやってふらりと来訪してくる。彼にとって、それは、間柄の延長なのか。それとも只単に、酒が飲めて小腹を満たせると味を占めているからなのだろうか。しかし、後者ならば彼が馴染みにしている酒呑屋『明日葉』で事足りる。ならば――
「(……まあ、寄ってくれるのは素直に嬉しいのよ、ね。出勤日以外ではなかなか会えない、し)」
――と、解を求めたところでこちらの気持ちが変わるわけでもない。どちらにせよ、彼らしい気紛れが働いていることに違いはないだろうから。
「これは鶏肉かい?」
櫻が新しい小鉢から赤いそれを箸で摘まみ上げ、口へ運ぶ。
「ええ、鶏肉のコチュジャン炒めよ。辛さは、足りている、かしら?」
「ああ。酒が進むね」
その言葉の通り、猪口へ注がれてゆく酒の水面を眺めながら、胡桃はアップルグリーンの双眸を緩やかに細めた。柔らかいミルキーホワイトの指先が、木の丸盆をきゅっと胸元へ寄せる。
胡桃にとって料理は趣味の一つだが、自分が食べたいものを作る――というよりかは、誰かの為に作るという思考になりやすいのが現状。だからこそ、自然と作りすぎてしまうのだろう。けれど――
「(……いい、の。これが、私。私の大切な、“日常”なのだか、ら)」
窓から差し込む陽射しが、胡桃の花飾りへ淡く降り注ぐ。
人知れずひっそりと咲く月下美人に込められた彼女の想いは、果たして、叶ったのであろうか。
(執筆:愁水)
関連NPC
-

- 櫻(mz0036)
- 剛力種|男
参加キャラクター
-

- 草薙胡桃(ma0042)
- 神魔種|女




