オープニング

　ここは聖樹界「イルダーナフ」。
　ロス・テラス聖王国のとある草原にて。

「おい。いつもの湖畔で休憩しようじゃないか」
　馬車の列の先頭からそんな声がする。
「おう。馬たちにも水を与えんとの」
「ワシらも小腹が減っとるしの」
　たちまち後続から賛同の声が上がる。こうして先頭の馬車は森に向かう道へと逸れた。

　その、森の中の湖には先客がいた。
「あー、気持ちよかった。やっぱりイルダーナフに来たならここで泳がないとね」
　ペチコートのような薄手の布を身にまとった小さな女の子が水にぬれた短い髪の毛をタオルで拭いていた。濡れた肌に残る水滴がキラキラと陽光を跳ねている。
　そこへ先の商隊がやって来た。
　先頭の御者が目を見開く。
「おお……天使が水浴びをしておる……」
「前にもこんなことが……いや、前と同じじゃ！」
　騒ぐ商隊の商人たち。
　もちろん、水浴びをしている少女は来客に気付いている。
　だれ、と振り返って……笑顔を浮かべた。
「あ……あれ？　またここで会ったね。久しぶり」
　少女の正体は、コクリ・コロン(mz0061)。
「おおお……久しぶりに会ったと思えば出会いと同じこの湖畔！」
「やっぱりワシらのコクリちゃんじゃ！」
「元気にしておったか？　女商人どもや傭兵隊どもも会いたがっておったぞ！」
　たちまち馬車から駆け寄って、コクリを中心に人の輪ができた。
「ちょ……ちょっとまって。ボク、水浸しだから。すぐに着替えるから」
　助平商人から抱き着かれまくることはなかったが、着替えの前だったのでさすがに恥じらうコクリ。とにかく大樹の裏へと逃げ込むのだった。

　で、いつもの三角襟とミニスカートの騎士衣装に着替えると、互いに近況を話して盛り上がった。
「ほう。別の世界で背の低い種族とともに森を壊した軍勢を撃退し、また別の世界では大空を舞って水の精霊を解放した、か……」
「まあ、ざっくり言うとそうだね」
　コクリがイルダーナフを離れていた理由である。
「ワシらの方に変わりはないの。コクリちゃんの香水もよう売れとる」
　商人たちはここでコクリと会い、香水の新商品「湖畔の騎士」のイメージを掴んで富裕層に売り込んだ。コクリが「コロン」を名乗っているのも販売戦略の一環だ。

　それはともかく。
「お、そうだ。コクリちゃんもせっかくこっちに来たんだ。久しぶりにワシらと一緒に商売せんか？　もうすぐ大きな町で『石畳のバラ祭り』が開催される
そこでワシらも地方特産品の販売をするんじゃ」
「地方特産品？」
　コクリ、首を傾げる。
「ほれ、コクリちゃんが地方の村を助けた時に喜んでもらった村たちじゃ。お礼に『村の愛称』を教えてもらったろう？」
　よそ者ではなく村の一員、として教えてもらったのである。好意の証だ。
「わ、懐かしいね。それならボクも手伝うよ☆」
「もちろんコクリちゃんたちの香水も売るぞ。合間にバラで飾られた石造りの街並みや噴水公園を楽しむと良い」
「うん、ありがとう」
　こうしてコクリ、「石畳のバラ祭り」で屋台販売を手伝うことになるのだった。