オープニング
戦いは終わった。侵略者ブライム=デミウルゴスは字の氏族の傘下となり、共に歩む道を選択したのである。
彼らの象徴であった不夜城の処遇も決まり、いよいよ字の氏族は安泰と言えるだろう。
まぁ、細かいことを言えば周囲の氏族がブライムの件に納得するかという問題もあるのだが……マルギオン=デミウルゴスが龍の氏族に組み込まれたという前例もある。しばらくすれば抗議の声も収まってくることだろう。
ハッピーエンド、字の氏族とのエピソードはこれにて終幕……となれば良かったのだが―――
「そんなこと許すわけないわよねぇ?」
遠くから連城を憎々しげに睨みつける一人の女性。
細いメガネを掛けた40歳ほどの外見で、拗らせた教育ママといった印象を受ける。
いかにも意地悪そうな、ヒステリックそうな……見た目だけで性格が悪いと判断できる人物もそういまい。
「あたくしのかわいいかわいい弟分を殺してくれた責任はキッチリ取らせないとね」
彼女の名は簒奪者ベラ。大分前から妖鉄界に潜入しており、機械を自由自在に操っていた簒奪者ギオの姉貴分であるという。
ギオは咎人の力により撃破されすでに消滅している。邪神の領域に帰還せずまだ妖鉄界をうろついているのは、弟分の敵討ちをしなければ帰れないという意志の表れか。
「ギオはいい子だった。機械で遊ぶのが好きで、人をいたぶるのが好きで……あの子がドリルで楽しそうに人の胸に風穴を開けている時なんて、あたくしがときめいちゃうくらいだったわ。それなのに……そんなあたくしのギオを殺すなんて、断じて許せない!」
ちなみにギオはオネエ口調の中年男性といった外見であった。少なくとも『あの子』と呼ばれるような年齢ではなかったし、決して可愛くない言動をしていた。
それでもベラが可愛いと言って憚らないのは、彼女の精神が、愛が歪んでいるせいか?
「うふふ……五行龍、だったかしら? 字の氏族にしか通じない、字の氏族でのみ語られる地方の伝承・昔話。その認知度や解像度が高いほど、あたくしの術も輝くのよ……!」
ベラのメガネがギラリと輝き、その体からは邪悪なオーラが立ち上る。
愛しい弟分の敵を取るため、歪んだ悪意は命を賭ける―――
●純粋な愛
「…………はぁ」
字の氏族の長、アヤメは布団の中で何度目かのため息を吐いた。
夢の中でも逢いたい……そんな恋する乙女丸出しの気持ちで眠りにつき、朝起きたら夢の内容を全く覚えていないことに落胆する。
氏族を統括する者がそんなことでどうすると叱られても仕方ないが、勇気を出して伝えた彼女の告白の返事はまだもらっていない。
長である前に年頃の女の子であるアヤメは、布団を抜け出して身支度を始めた。
ブライム=デミウルゴスとの戦いが終わり、天下統一戦争も終了。幸いにも今回もそこそこ上位の順位で終えられたので、あいも変わらず字の氏族はこの地に留まり字術の研鑽に勤しむことになるだろう。
順風満帆、心配事はそう残っていない。それは喜ぶべきことだったが、仲を深めた咎人たちと会う機会が減るであろうことは彼女の心に影を落としている。
「……わたくしは駄目ね。咎人の皆様を呼ぶような事件が起こるということは、お慕いしたお方や友人と呼べる方々が傷つく可能性も高いということ。それを望んでいるかのような考えをするなんて……浅ましくて自分が嫌になります」
別に世界が隔絶されるわけではないので、咎人はいつだって妖鉄界に来ることができる。今生の別れということはない。
しかし咎人は17歳のアヤメにとって、初めて対等に付き合える友人であり想い人だ。会える頻度が少なくなるというだけで大問題である。
今まで居ないことが当たり前だった異世界の友人たち。そんな彼ら・彼女らと共に過ごした日々は、アヤメを強くしたが弱くもしたのだろう。
咎人は強い。そしてその力を欲している人々は星の数ほど居る。丁度、アヤメ自身が咎人たちに助けられたように。
ならば個人の我儘で咎人たちを引き止めておくことなど、ありえない愚挙ではあるが―――
「アヤメ様、緊急事態でございます。御起床されておられますか?」
「……何事です?」
物思いにふけりながらも身支度を終えたアヤメの元に急報がもたらされる。
障子の外に跪いた伝令係の声色は決して穏やかなものではない。そもそも、長の元に時間を気にせず話を持ってくる時点で尋常ならざる事態なのは明白。
アヤメは障子を開け、報告を受ける。すると朝っぱら目眩のするような……我が耳を疑うような状況が語られた。
字の氏族には『五行龍』と呼ばれるお伽噺、昔話が存在するのだが……それに語られているのと全く同じ外見の龍が五匹現れ、ここ連城に向かっているのだという。
事態を把握した守備隊がいち早く出撃したが圧倒的な力の前に敗走。敵の歩みは止まらず、城下町に迫っているのだとか。
馬鹿な、ありえない。五行龍はあくまで架空の存在で実在などしないはず。しかも五匹纏めて城に向かってくるなど、何かしらの意図や悪意が働いていることは容易に想像できる。
……簒奪者か。不可思議な術を使う咎人の宿敵。彼らならどんなに超常的で信じ難い事象でも起こして来るのだろう。
「ショウブを叩き起こしなさい。ブライム=デミウルゴスにも連絡を。城下町に達する前に迎撃します」
「ハッ! そして咎人にも救援要請でございますね?」
「…………」
「アヤメ様?」
「……なんでもありません、そのように。咎人到着までは我ら氏族総出で戦いますのでそのつもりで。お伽噺に殺されましたなどと恥にしかなりません、女子供含めて死力を尽くしなさい」
「御意!」
伝令係が去った後、アヤメは戦闘用の装束に着替え始めた。この戦いが本当の最後になる……そんな予感を抱きながら。
しかし不安はない。恐れもない。何故なら―――
「幼い頃より聞かせられた五行龍の伝説……その龍と戦えるなど、武を嗜む者の誉れですもの―――」
成功条件
条件1 | 簒奪者が作り出した模倣五行龍を3匹撃破する |
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条件2 | - |
条件3 | - |
大成功条件
条件1 | 模倣五行龍を五匹全て撃破する |
---|---|
条件2 | - |
条件3 | - |
解 説
・妖鉄界ヤルダバオトにある、字の氏族の城下町付近が舞台です。
・五行龍と呼ばれるお伽噺の龍が実体化し襲ってきたため、それを撃破するのが目的です。
・敵は城下町や連城に向かって進んでおり、通過を許せば甚大な被害が出るでしょう。
・皆さんの到着前に城下町に住む字の氏族が総出で迎撃に出ますが、足止めで手一杯です。
・ブライム=デミウルゴスも途中から援軍として参戦しますが、さらっとした描写に留められるでしょう。
・五行龍を実体化させ操っているのは簒奪者ベラ。彼女も結構無理をして実体化させていますが、咎人への恨みで限界突破状態のようです。
・実体化している五行龍に意識はなく、ベラの忠実な手駒として使役されています。
・ベラは五行龍とともに堂々と進んでいます。これは彼女の術が自身から遠く離れて虚像を維持できないためです。
・ベラの出す虚像は逸話や伝説が色濃く残る地ほど強力になります。(岡山県で桃太郎の虚像を出すと超強い、みたいな)
・五行龍の編成は以下の通り。全員サイズ4程度の大きさです。
火爪龍熱破(かそうりゅう ねっぱ):火炎を纏った鋭い爪が特徴。四足歩行のサラマンダータイプ。空は飛べないが俊敏。
水牙龍氷雨(すいがりゅう ひさめ):水と氷のエネルギーを宿した牙が特徴。サーペントタイプ。空は飛べないが水を生成し泳ぐように移動できる。
土角龍芭陸(どかくりゅう ばりく):超硬度の一本角と外殻が特徴。ワームタイプ。空は飛べないが地中を移動できる。
木鱗龍森忌(もくりんりゅう しんき):周囲の風景に溶け込み姿を消す鱗が特徴。ワイバーンタイプ。空が飛べる。
金翼龍刃鋼(ごんよくりゅう はがね):抜群の切れ味を誇る6枚の翼が特徴。ドラゴンタイプ。空が飛べる。
マスターより
皆さんこんにちは。設定だけじゃもったいないよなぁ!? と思った西川一純です。(何)
恋の結末も物語の結末も後少し。上手く行けばですが、今回含めて後二話で私のヤルダバオト関連シナリオは一段落します。
過去からの物語を乗り越えるのはいつだって今。ならば掘り起こしてきた五行龍たちをも乗り越えていただきましょう……ということで。
ちなみに、五行龍各種のステータスや能力は一匹でも侮れないレベルに設定してありますので、ご注意を―――
参加キャラクター
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- 不破 雫(ma0276)
- 人間種|女
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- 雪切・刀也(ma0506)
- 剛力種|男
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- 氷雨 累(ma0467)
- 人間種|男
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- 小山内・小鳥(ma0062)
- 獣人種|女
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- アナルデール・ウンディーニ(ma0116)
- 人間種|女
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- フィリア・フラテルニテ(ma0193)
- 神魔種|女
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- 葉山 結梨(ma1030)
- 人間種|女
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- 鈴鳴 響(ma0317)
- 神魔種|女
- プレイング締切間近
- 2023/05/29 10:30