オープニング
髪は短髪で、わずかに後れ毛を垂らしており、頭には笠を被っている。
背は、女性にしては低くも高くもないが、晒しを巻いた風来坊のような出で立ちは、性別をも忘れさせるようである。
三楽は今日も、眠れぬ頭をガシガシとかいた。
もう、何日眠っていないだろう。
この悪夢が、彼女を眠らせなかった。
小雨、小雨、小雨。
お陰で、今回の事件に関わってから、三楽はほとんど眠れていない。
邪神はそれを喜んでいる節がある――。
(それに付き合っている私も、私だ……)
小雨ほど、悲しいことはない。
彼女ほどの強者でも、恐ろしいものはある。
永遠に降り続く長雨。
そう、わずかばかりの雨水が三楽には怖かった。
眺めれば眺むるほど、悪寒が走る。
それが、大雨に至るまでの脅威を知っていたから。
彼女は出羽の山奥の、とある刀鍛冶の家に生まれた娘である。
簒奪者になるべくして生まれた人間だったといえるかもしれない。
(私は父上と同じく、出来損ないだ……)
そう、彼女は人の死に強く惹かれる性質を持っていた。
簒奪者になるまでは、猫一匹殺したことはなかったし、虫一匹殺したことはない。
でも――例えば、それが出来たらどんなに善いことか。
善い? そう、それだ。それは喜なること。
思えば、父親も似たような気質を持っていた。
刀鍛冶が全員そうであるとは、言い切れない。
だが、人を斬るものを造るということは、それにまつわる業が降り積もるということ。
そう、彼女は善悪の天秤というものが、生まれつき振り切っていたのだ。
人を殺したいという苦しみは、成長してから、増して三楽をさいなんだ。
邪神はそれに目をつけた。
簒奪者として生まれ変わったときにはもう、彼女の目は既に彼女ではなく、老成した人斬りのような目をしていた。
●
芝崎家当主・芝崎幻十郎は、庭先を眺めていた。
芝崎幻十郎は、黒い木綿の着流しを着ている。
髪は、薄く椿油で固めてあって、壮年とも青年とも取れる、まだうら若き当主である。
夏日の最中の長雨であった。
蛇の目傘をさして、庭に出ていると、向日葵の花ですら、首を折れるような大雨に、少々嫌気が差した。
確か、昨日から雨は降り続いている。
明日も、雨だろうか?
確か昨日、農家の者が傘を指しながらやって来て、田植えをした田んぼの様子がどうだとか、そのようなことを喧々諤々に口走っており、
「旦那様、この様子だと、五日は続く長雨だす」
と、言っていた。
おそらく、農民にしかわからぬであろう、天気の調子は、流石に下流を流れる、粟藻川を氾濫させるには十分であるように思われた。
彼は、この雨垂れにもかかわらず、草履を履いて、外へ出た。
なにか、奇妙な予感がした。
夜の様に薄暗い、ぬかるみを歩く。
蛇の目に降り注ぐ雨に、顔をしかめながら、歩を進めると、不思議な光景に出くわした。
気がつくと、女が道端に倒れている。
襦袢一枚で、濡れそぼった肌は、てかりを帯びて青い。
そうして、顔を上げてこう言う。
「どうか、聞いてくださいまし。追われているのです。任侠者ような女が……私を捕らえようと」
幻十郎が、眉をひそめると、女は口から黒い瘴気を吐き出した。
「あぁあああぁ……!」
女は、妖怪であることを、おそらく彼は知り得なかったのだろう。
男は、困り果て、女を抱き起こし、家の中へと連れ込み、床に寝かした。
さて、雨は降り続くばかりである。
女の瘴気は日に日に強くなっていくようであった。
咎人達が、この一帯での異常事態に気がついた時、雨は豪雨と化していた。
雨季のような、酷く殴りつけるような雨に、誰もが怯えている。
簒奪者の目的はアメフラシの完全なる荒魂化である。
●
稗田庵仁には、サガルト・ズィキ(mz0003)から言い遣った、言伝があった。
「庵仁さん。今回は少し困難な依頼になるかもしれません。一つ目は、簒奪者の目撃があったこと。それと、荒魂化した妖怪が、長い間住み着いているという武家屋敷があり、おそらく室内での戦闘になるとのこと」
「長い間住み着いている、とは?」
「それが……、言いづらいのですが、匿われているようなのです」
「荒魂化したままですか?」
「そうです」
庵仁は、その家の前まで訪れた。雨が降り続いている。
「もし、失礼いたします!」
出るものはいない。戸口に手をやると、鍵は開いていた。
成功条件
| 条件1 | アメフラシの穢れを払う |
|---|---|
| 条件2 | 月山三楽を撃退する |
| 条件3 | - |
大成功条件
| 条件1 | 幻十郎を三楽に殺させない |
|---|---|
| 条件2 | - |
| 条件3 | - |
解 説
敵は妖怪アメフラシと、簒奪者 月山三楽の二名である。
あなたたちが、家に踏み込んだとき、既に幻十郎は、三楽に首元を掴まれている最中であった。
身を挺してまで彼女をアメフラシを守ろうとした、幻十郎の思いは如何ばかりであろうか。
ふすまで区切られた、十畳間の中央に、幻十郎と三楽。部屋の右隅にアメフラシが潜んでいる。
望みであれば、外に出て戦うことも出来るが、降りしきる雨の中のぬかるんだ戦闘になるだろう。
《敵情報》
●月山三楽(がっさんさんらく)
簒奪者。回避型。
アメフラシを荒魂化した張本人。武器は刀。
幻十郎を率先して殺したいわけではなく、咎人達に関心がある様子。
性格は好戦的。隙あらば殺そうとしてくる。
居合による素早い攻撃が得意で、シールドブレイクされれば、一瞬で脅威になりうる。
追い詰めると、幻十郎を狙い始めるので注意が必要。
●アメフラシ
本来は海にいる軟体動物で、陸に上がると必ず雨が降る、と伝承がある妖怪。
シールドはなく、穢れを直接攻撃できる状態。
三楽の言いなりになっているため、こちらを妨害するために行動する。
射撃とともに、BS「メインアクション封印」を付与する、M攻撃が強力。
Fアクションでは、三楽のライフとシールドを30回復する、「アメフラシの唄」を使用する。
●芝崎幻十郎
一般人のためシールドはない。だが、障害物になりうる。
人であるので、説得が効くが、アメフラシを守りたいという思いが強い様子。
状況はよく飲み込めていない様で、アメフラシが妖怪だとも薄々気づいているが、納得がいかないようだ。
マスターより
梅雨の長雨が終わったあとに、もう台風ですか……という昨今でございますが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。
今回は妖怪アメフラシの戦闘シナリオです。
雨天というのは、人を生きるために必要なもの。しかし時に人を苦しめるもの。
と庵仁和尚談でした。それではそれでは。
関連NPC
-

- サガルト・ズィキ(mz0003)
- 神魔種|男
参加キャラクター
-

- 更級 暁都(ma0383)
- 人間種|男
-

- シアン(ma0076)
- 人間種|男
-

- 小山内・小鳥(ma0062)
- 獣人種|女
-

- 高柳 京四郎(ma0078)
- 人間種|男
-

- ザウラク=L・M・A(ma0640)
- 機械種|男
- リプレイ公開中




