オープニング

　始まりはアイシス領だった。
「新しいロボット番組が見たい～」
「バーンとやってドーンってなってワーッってなるののが見たい～」
「もうこんな説教っぽいのや鬱展開や主人公人格崩壊や登場人物全員死亡なんて見たくない～」
　アイシス様お抱えのちびっ子たちが不満を大合唱していた。アイシス様お付きでちびっ子の世話をしている神官たちは溜息を漏らすばかりである。
「え、ええと……なんでここのちびっ子たちって鬱とか難しい言葉知ってるんだろ？」
　ちょうどその場を通りがかったコクリ・コロン(mz0061)、この有様に汗たら～している。
　なお、なぜそこにいたかというと……
「どうした、コクリ？」
「あ。ガダンさん」
　コクリに絵画を教えている老人男性が近付いて来た。いつもアイシス領の広場でイーゼルを立てているこの老人、ガダンに絵を習いに来ていたのだ。
　で、あのね、と説明するコクリ。
「児童向けロボットモノの新番組、の……仕方ない。アニメでなくともよいか？」
　ガダン、優しくちびっ子たちに問う。
「うん。アニメじゃなくてもいい～」
「よし。それなら何とかしよう」
　わあい、と喜ぶちびっ子たち。
「アニメじゃない！」
「アニメじゃない～♪」
　ちびっ子たち、この喜びようである。

　後日、流刑街のメイド武装喫茶。
「あ～、だれかロボット兵器の実戦画像を撮影してデータ収集に協力してくれる者はおらんかの～」
　常連客の武装教会構成員がわざと聞こえるように呟いている。
　だれに聞かせているかというと……
「……」
　カウンターでは店主の深夜真世(mz0069)がびくっと反応していた。背を向けて皿を拭いているが、おっきなお尻を引き締めるような飛び上がり方だ。
「いつぞやの『浮遊島のエネミーデータ収集にかこつけてゲームを作る』みたいな感じでええんじゃがの～」
　びくびくっ！
　再び敏感な反応を見せる真世。
「あの時はエネミーに似せたセクシー衣装でノリノリで協力していた人がたしかおったはずじゃがの～」
「ちょ……ノリノリで協力してたわけじゃないんだからね！」
　あ。
　真世、ついに向き直ってしまった。
「おお、真世ちゃん。やってくれるか」
「さすがわしらの真世ちゃんじゃ！」
「んあっ！　まだやるとは……」
「実戦舞台は最近サルベージされた砂漠の浮遊島じゃ。まだ調査は進んでおらんが、ロボット姿の大型サンドゴーレムなんかがおるらしい。わしらとしても封魔界などで必要な巨大兵器関連の実戦データが不可欠となっておる」
「ぜひとも真世ちゃんに……」
「ほへ？　私、封魔界に関わってないから」
「いやいや、テストパイロットにそんなの関係あるまい」
「大型兵器の練度が低いってこと！」
　真世がお言い切ったことで議論は止まってしまった。
　――かろん♪
　ここで新たな来客。
「真世さん、こんにちは～。実は折り入って頼みたいことがあって……」
　コクリ・コロンである。絵画の師匠、ガダンも一緒である。
　つまり……
「ちびっ子向けロボット活劇モノの特撮番組を撮影することになってな。ここに来れば広い人脈があるとコクリに聞いたのじゃが」
「そ、それや～」
　ガダンの説明に、一斉に腰を上げる助平構成員たち。
「ちょうど現地は砂漠に台場を築いたところじゃ。そこを砂漠空母に見立てればええじゃろ」
「いいでしょう。砂漠空母の遠景はＣＧ処理で。艦内撮影も流刑街のどこかのビルで撮影ということで」
　慣れているのだろう、すぐにピンと来て打ち合わせを進めるガダン。
　ここで真世が思わず口を突っ込んだ。
「ほへ？　砂漠空母にするの？」
「ふむ。ここを使わせてもらえるなら艦内喫茶店ということで出撃前後のやり取りが手軽に撮影できるが……」
「それはいい。監督、ぜひその方向で」
　ガダンの案に助平親父たちが飛びついた。
「え、ええと……私は空母内喫茶の店員乗組員役で、セットはここ……ま、まあそれなら」
　真世、確定。
「ボクは実戦撮影機の担当で大丈夫だよ。闇掟界で似たようなことは経験済みだし」
　コクリも乗り気だ。
　こうして砂漠空母で水とエネルギーを大量に生み出す水珠（すいじゅ、シリカギア）などの交易をしながら砂の魔物や砂賊と戦う特撮番組の撮影がスタートするのである。
　タイトルは、「砂漠冒険シリカギア」。
「まずは参加者を募って砂漠浮遊島に設置した台場に群がる砂掛鳥の退治からじゃの」
「ついでに乗り込む水珠起動砂漠空母の名前も決めてほしいかの」
　助平親父どもとガダン監督の要望である。