オープニング
得体の知れぬ浮遊島。咎人たちは二度の勝利を対価と支払い、島中心部へ向けて踏み出した。
先の敵の奇襲路を辿り、程なく大河へ行き当たった調査団は、その辺(ほとり)で自然のものならざる地下道を発見するのだが――
基地にて報告を受けた調査団本部の幹部陣は即断を避け、待機を命じたのだ。
当然、団員とその護衛役たる咎人たちは一様に意気を下げる。それが敵群の通行路であることは明白だ。遡り行けば仕掛けられる前に仕掛けることができるのではないか。後手後手に回らされ、けして浅くはない傷を負わされてきた彼らである。意趣を返したいと思うことに不思議はあるまい。
しかしながら、幹部陣からすれば逆の可能性を考えずにはいられなかった。道が敵の本拠あるいは重要拠点へ繋がっているのだとすれば、踏み込んだ一歩めがそのまま敵地への侵入となる。地の利がどちらにあるかは言わずもがな、不用意な歩のいくつめをどのように掬われるものかも知れはしないのだから。
それでも、しかし。
どれほど用意を重ねたところで絶対の安心が得られようはずがないことも確かであり、停滞が長引くほど危険度は自動的に高まり行く。
幸い、敵の突撃は盾となって咎人の奮迅で阻まれた。守り抜かれた基地は備えを十分に固められていたし、それによって強者の多くを護衛班に編入させることもできた。つまり、護衛班の戦力は申し分なく充実しているということだ。
前へ進むか後へ退くか。悩むほどに状況が悪化へと陥っていくならば、一歩を踏み出し、道の姿をした未知へと踏み入るべきだ。それこそが自らの使命であればこそに。
と、幹部陣が突き合わせていた額を離し、うなずきあったそのとき。
『ぶっ込み屋さんよりマザーベース! 穴から水出てドロッドロ! 知らないエネミーこんにちはって感じなんでヤってやんよぉ~!!』
調査団に随伴し、基地との通信を繋ぐを担ったオペレーターであるコードネーム“ぶっ込み屋さん”……礼元堂深澪(mz0024)からの緊急連絡が飛び込んできたのである。
端折られた箇所が多いながら内容は伝わった。地下道から噴出した水により、周域の乾土が一気に泥状化。咎人たちが足を取られたところへ新型エネミーが強襲を仕掛けてきたのだと。
水源は考えるまでもなく傍らの河だ。新型が道のどこかに穴を空け、水を引き込んだのだろう。この泥状化を引き起こすと同時、道を潰して閉ざすがため。
●泥濘
戦場へ押し詰まった不協和音、正しく並べられたなら美しい合奏が演じられたろうに。
されど、それを残念に思う咎人はない。理由はシンプルで、ただただ余裕がなかったからだ。
相変わらず不可思議な靄をまとうエネミーはただし、これまで見てきた三種とは大きく異なっていた。人めいた身でありながら四肢の先に水かきさながらの皮膜を備えており、泥上を四つん這いで駆け回るのである。
即座に調査団を後退させた護衛班は任を全うすべく泥濘へと踏み入り、敵を迎え打ったのだが。どろりと蕩けた重き土は彼らの両足をくわえ込み、深みへと引きずり込んでいく。故にこそ散開もままならぬまま大群に押し込まれ、吐きつけられる毒液に灼かれ、爪牙に裂かれるよりなかったのだ。
一方的に打ち据えられ、となりにいたはずの同僚が次々倒れ伏していく。身よりも心を打ち据えられる責め苦に、咎人たちはなけなしの力を奪われていく。自分たちはいつまで持ちこたえられる? あと少し――ほんの少し――
奮い立て。
咎人のひとりが傷ついた体にイデアを燃え立たせた。
この身をひとつの旗印と成し、仲間たちにこの絶体絶命を覆す意気を与える。
ただし、それをするには己を絶望的窮地へ追い込むことと同義だ。敵のただ中に己を立たせ、負けず、退かず、竦まず、偉容をもって同僚の折れかけた心を奮い立たせるとなれば。
上等だ。苦痛も痛苦も苦楚も倒懸も、己ひとりが味わい尽くすばかりで勝利を得られるならば笑って食らいつき、皿まで綺麗に舐めてやる。
さて、選択肢はふたつ。最前線に躍り出、皆を導く旗となるか。戦場の中央へ仁王立ち、皆の心を支える旗となるか。
寸毫で己が行く先を選び取った咎人は、重き泥を蹴立てて敵群へ――その先へと向かう。
成功条件
条件1 | 己が矜持をもって戦い抜く |
---|---|
条件2 | - |
条件3 | - |
大成功条件
条件1 | あなたというPCがもっとも輝く姿を魅せる |
---|---|
条件2 | - |
条件3 | - |
解 説
●依頼
劣勢を覆すため、反撃もしくは心の支えとしての旗印を演じてください。
●シナリオルール
・戦闘をテーマとしたノベル形式シナリオです。
・「導く」と「支える」、どちらを選択するかプレイングに記載してください。
・描写はあなたがそのポジションへつき、武器を“旗”として掲げたところから始まります(決めセリフがあると盛り上がります)。その登場シーンでのみ騎乗物使用可(登場と同時に破壊されます)。
・スキルは基本的に名前を記さず、戦闘内での効果のみを描写します。
・原則として咎人の勝利は確定。敵の全滅を考える必要はありません。
●戦場
・一面が泥状化しています。深さは臑の半ばが埋まる程度で、登場時を除き、戦闘中の移動力が1に固定されます。
・今も地下道から水が噴き出し続けており、徐々に泥濘が深まっていきます。ただしこれは演出として使用され、戦闘には影響を与えないものとします(対処していただいてもOKです)。
●エネミー情報
・靄をまとう半魚人めいた人型(サイズ1/移動力5)。爪牙(射程1)に加え、強酸性の毒液(射程1~5)を使います。
・泥に沈むことなく自由に動くことができます。
・とにかく数で押し込んできます。
●旗印としての役割
・「導く」場合は自らが奮迅して大群を押し返す激戦描写メイン、「支える」場合は同僚を奮迅させるため、殺到する攻撃に耐え抜く様子と心情描写メインとなります。
・どちらを選んでも、あなたがすべきことは旗印として立ち続けることです。強さをもって? 作戦をもって? 心をもって? ぜひプレイングで魅せてください!
★注意
・本シナリオでは「華麗に勝利する」ことはできません。演出的に深刻なダメージを負います。
・深く傷ついたキャラクターをどのように魅せるかがポイントです。
●備考
・あなたの選択が次回の『二の戦記・転』のシチュエーションを変化させます(どちらを選んでも不利益を呼ぶことはありません)。
マスターより
みなさまお疲れ様です。電気石八生と申します。
こちらは『二の戦記・起』の結果をもってシチュエーションが確定いたしました第2話となっております。
どちらを選んでも泥臭い死闘となることは確定していますので、どうか絶対の不利を覆す熱い心を魅せていただきたく。何卒よろしくお願いいたします。
関連NPC
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- 礼元堂深澪(mz0024)
- 人間種|女
参加キャラクター
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- ルー・イグチョク(ma0085)
- 人間種|男
- リプレイ公開中