オープニング
「騎士の死亡は2名。負傷者は34名。いずれも回復魔法による治療済み……完勝です、閣下!」
「うむ……」
決戦部隊を率いるローマン・セルジュ・ジュベール卿は、参謀の言葉に無感動に頷くと、戦死者に黙とうを捧げた後、すぐに指揮下の各隊へ伝令を走らせた。
「皆、疲れていることとは思うが、すぐに進発の準備を整えるように。悪いが今はまだ休息を与える訳にはいかん」
……咎人たちの働きにより、オークたちの殲滅と森の制圧は滞りなく上手くいった。浮橋破壊を防ぐという目的を達成し、ほぼ被害も無いまま最大限の戦果を上げることに成功した。
だが、最大の『戦果』は、この場において『殆ど時間を消費しなかった』ということだった。決戦部隊の攻撃目標はあくまでも敵騎兵隊。時間を浪費したらした分だけ、敵にこちらの規模や意図が見抜かれる可能性が高くなってしまう……
……ローマンが命令を達してすぐ、予想していたより早く新たな伝令が返って来た。
「フェルドランス騎士団、進発準備完了。我が隊は全員意気軒昂なり」
「ポワレ騎士団、同じく。先行偵察任務を果たした咎人たちに謝意を表す」
どうやら熟練の精鋭たちは、こちらの意図などとっくにお見通しだったらしい。ローマンは小さく笑うと、すぐに全部隊へ上流渡河点への進軍を命令したのだった。
ザバラール川東岸地域には、その広い範囲に亘って敵軍の斥候が展開していた。決戦部隊はこれに発見されるのを防ぐ為、本隊の周囲に遊牧民たちからなる警戒部隊を配していた。
彼らの指揮を執る聖王国軍騎士エドガール・ノエ・ゼガンは、先の失敗を受け、索敵方法を哨戒線を敷く能動的な方式から、ピケットを隙無く配置する受動的な方式へと変更していた。この方式は哨戒線を設定する方式より索敵範囲が狭くなる(ピケットを隙無く配置するには多数の人員が必要となるからだ)が、哨戒の隙間を抜けて接近されるという『偶然』は起きにくい隊形だった。
そして、それを徹底する為に、エドガールは『聖樹界由来の通信魔法の無線封止』をローマンに進言していた。
「俺は先の奇襲が『偶然』だとは見ていない。そんな都合の良いことがあってたまるか。……恐らく敵は……鉄灰色種どもは、俺と部下たちのやり取りを傍受していたのだ。言葉の意味は分からなくとも、魔力が発せられた地点は測量できる。そして、哨兵を隠密裡に排除しながら、オークたちに背後と側面を突かせたんだ。……そのような真似はさせない。今度こそ──!」
エドガールは、同行する『軍曹』(熟練の咎人。今『草原国解放作戦』における咎人側代表者)に頼んで咎人たち(モブ)を何人か借り受けると、ピケットを形成する遊牧民たちに同行させていた。これは咎人戦力の分散を意味するものだったが、敵に傍受されずにピケット各班とリアルタイムに連絡を取る(通信術式が使用された)には必要なことだった。
「大丈夫なのか? 敵の奇襲は防げるが、だいぶ接近を許すことになるぞ」
「大丈夫だ。我々の右翼方面……西側に広がる『ザバラール川東岸中南部』地域には、ケリト部族がゴブリン狼騎兵(敵軍斥候)の狩り出しを行っているとのことだ。咎人も同行しているというし、彼らの働きに期待しよう」
結果として、ローマンらの決戦部隊は、敵の斥候に見つかることなく、ザバラール川上流域付近まで進出することに成功した。
彼らはそこで、先に上流渡河部隊が切り離していった荷駄隊(輜重隊)と遭遇。その場で最後の補給と、大休止を取ることとなった。
だが、咎人たちには休みが与えられるより先に、『軍曹』を通じて司令部へと呼び出された。
呼び出された先には、天幕も張らずに車座になって干し肉を齧るローマンや、エドガールら幕僚たちの姿があった。
「よく来てくれた」
ローマンは咎人たちに座る様に言うと、当番兵に彼らの分の干し肉を出す様に告げた。
「君ら咎人たちと遊牧民たちの活躍により、ここまでは順調に来られた。斥候にも見つからず、敵は我らの位置を見失っているはずだ。……先に我らがやられた事をまんまやり返している形だな」
ローマンがニヤリとして言うと、幕僚たちが声を上げて笑った。追従というより本気で可笑しかったという風に見えた。久方ぶりに自ら戦場に立ったことで、彼らも騎士の顔へと戻っている。
「だが、それも上流渡河点までだろう。あそこを渡れば、流石に敵の哨兵に気付かれる。我が騎兵の所在は暴かれ、中流渡河点の状況的に(そして、こちらの思惑通りに)敵騎兵がこちらに派遣されることになるだろう…… その際、敵には可能な限り、こちらの情報は伏せておきたい。……だが、その為にはどうしても片付けておきたい問題が残されている。何だか分かるか?」
ローマンの問いに、咎人の一人が「狼煙ですね」と答えた。
「その通り。渡河点南東の森にある狼煙台。ここのゴブリン哨兵により、これまで上流渡河点を渡った部隊に関する情報がゴブリンの本隊や、彼らが共同戦線を張るオークたちへと流された…… 君たちにはこの狼煙台を制圧して欲しいのだ」
それが自分たちを呼び出した理由か── ローマンから本題を切り出された咎人たちは、緊張に身を固くした。この狼煙台には二度に亘って咎人(モブ)たちが派遣され、二度に亘って撃滅されていた。
撃退ではない。撃滅だ。あの森では咎人たちが、二度に亘って全滅している。
「お前たちには今すぐ飛行能力で東岸へと渡ってもらう。渡河点を渡ると敵に見つかってしまうからな。そして、敵に気付かれぬまま『南東の森』へと入り、狼煙台を制圧して欲しい」
実務的な話は『軍曹』が引き継いだ。
「お前たちも聞いているとは思うが、南東の森は鉄灰色種によって『要塞化』されている。敵は咎人を殺せる威力を持つ大型連弩を多数配備し、しかも、襲撃の度にその銃座・砲座の配置を変える周到さがある。これを攻略するのはお前たちでも難儀な事だとは思うが……この制圧に失敗すれば、決戦部隊は貴重な時間を失い、或いは多くの情報が敵に知られてしまうことになる。この後の決戦を優位に進める為にも……頼むぞ、お前たち」
(OP本文ここまで)
●解説
1.状況と目的
シナリオの背景は本文を参照。
PCは、上流渡河点を渡って決戦に赴かんとする聖王国軍騎兵部隊(通称『決戦部隊』)と行動を共にしている咎人の一人。
部隊の詳細な情報を敵軍に渡さずに済むよう、『南東の森』の『森林要塞』を攻略し、『狼煙台』を制圧してください。
(以下、『解説』へ)
成功条件
条件1 | 周辺の敵を排除し、狼煙台を確保する |
---|---|
条件2 | - |
条件3 | - |
大成功条件
条件1 | なるべく時間を掛けず、敵が南東の森を放棄する程に成功条件達成 |
---|---|
条件2 | - |
条件3 | - |
解 説
(OPから続き)
2.戦場MAP
1マス=3x3sq
1234567890a
A 森森森森▲森▲森森森森
B 森森茂 茂森森
C 森茂 茂森
D ▲茂 ★ 茂森
E 森茂 茂森
F 森 茂森
G 森 △△ 茂森
H 森 △ △ 茂▲
I 森 茂森
J 森茂 森
K 森茂 森
L 森 森
M 森 茂森
N 森 茂森
O 森 △ 茂茂森
P △茂茂△ 茂△△△
Q △△△△ △△△△
R △△△△▼△▼△△△△
S △△ 茂茂△
T 森茂 茂森
U 森茂 森
V 森 森
W 森 森
X 森 ☆☆☆☆☆☆☆ 森
☆=PC初期配置可能マス
★=狼煙台(制圧目標)
・地形系
森=高さ3sqの木々
茂=低木の茂み
△=尖った岩(高さ2sq。遮蔽可能、移動停止不可)
・敵系
▼=大型連弩(地上)×2
地上設置型。多数の強力な矢を速射するタイプ。旋回可能。防盾付き
南側は堀と土塁で防護
射手と装填手2名の計3名(いずれも通常色種)。咎人たちに接近されると一目散に北へ逃げる
▲=大型連弩(樹上)×4
上記の樹上設置型
地上ではなく、高さ3sqの枝の上に渡した板の上に存在
通常色種×2と鉄灰色種×1
?=大型連弩(??)×1
炸裂術式が付与された強力な投げ槍を投射するタイプ。威力は大きいが反動も大きい。
前に目撃したモブ咎人たちが目撃
他
とある状況下で出現
たくさんの通常色種と1割程度の鉄灰色種
大多数は歩兵。少数のシャーマン(攻撃魔法>幻影)
3.NPC
『軍曹』と『副官』
熟練の咎人の先人。レベルは二人の方が上だが、装備性能ではPCが上回る感じ
『軍曹』は格闘系、『副官』は斥候系
マスターより
皆様、あけましておめでとうございます(今頃
いつも解説に浸食されてて一月半遅れての挨拶となりました。柏木雄馬です。
というわけで、柏木聖樹界アフターもの。次週辺りが敵味方騎兵同士の決戦となりそうです。この決戦で勝った方がそれぞれ相手の歩兵部隊にトドメを刺すことになるでしょう。
とは言え、時間の経過はあちらに有利で、今回の結果次第で(そして、次回のOPで)決戦の有利不利が大きく影響を受けますので、皆様の奮戦を願います。
なお、局地戦なので、今回はEXではないです( 柏木分類戦術系。目的達成が最優先となるシナリオです。
それでは皆様、今年もよろしくお願いします(今頃
参加キャラクター
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- 氷雨 累(ma0467)
- 人間種|男
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- 川澄 静(ma0164)
- 精霊種|女
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- 小山内・小鳥(ma0062)
- 獣人種|女
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- 伊吹 瑠那(ma0278)
- 剛力種|女
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- 麻生 遊夜(ma0279)
- 機械種|男
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- フィリア・フラテルニテ(ma0193)
- 神魔種|女
-
- 透夜(ma0306)
- 機械種|男
-
- アナルデール・ウンディーニ(ma0116)
- 人間種|女
-
- マイナ・ミンター(ma0717)
- 人間種|女
-
- マリエル(ma0991)
- 機械種|女
- リプレイ公開中