オープニング

　闇掟界「オルメタ」の都市、ツインフィールズの華は映画である。
「よぉし。次のショートムービー企画を取りつけたぞ！」
　駆け出しの映画監督であるピック・トレイルが嬉々としてレンガ造りの下宿屋に駆けこんできた。
　下宿屋の玄関続きにある応接室では、女性主人のナーナ・ハミングがいた。
「あら、ピックさん。おはようございます。やんちゃっ子のゼンゼンに御用ですね」
「……ナーナさんそれ、わざと言ってるだろ？」
　ナーナが悪戯っぽく言ったところで吹き抜けの上の階からゼンゼンが降りてきた。
「子ども扱いはいい加減やめてくれよ」
　階段を降りながら唇を尖らせるゼンゼン。
「あら。ちゃんと起きてたのね。見直したわ」
「それよりゼンゼン、喜べ。次の映画撮影が決まったぞ。もちろんお前も出演するから準備しておけ」
　微笑しつつコーヒーを準備するナーナ。ピックは興奮しながらまくしたてる。
「またジレサイダーからの依頼かい？」
「別口だ。だから喜んでおる」
　話は端折るが、過去に清涼飲料水メーカーからの出資でショートムービーを数本撮影した。今度は別の依頼で、新人監督の立場からすれば実力を認められた形なので興奮しているのである。
「今度はどんなお話なんですか？」
　ナーナが人数分のコーヒーを淹れながら聞いた。
「撮影スタジオが別の映画でツインフィールズ郊外の荒野に牧場兼旅館のセットを所有しておるんじゃが、遠くの森や荒野にクリーチャーを見かけるようになったんで廃棄しようとしたんじゃ」
「……まさか」
　ゼンゼン、イヤな予感がした。
「そのまさか、じゃ。ちょうどいいんでそこを『開拓最前線の化け物退治の旅館』に位置付けたバトル映画を撮ることになったんじゃ」
「俺、パスね」
「そういうな。自慢の俳優を危険に晒すことなぞするわけなかろう。毎回違った咎人を雇って『化け物退治で旅館に泊まった流れ者』の立場でその回の主役とし、ゼンゼンは毎回出演して咎人たちに絡む『狂言回し』をしてもらう。旅館の女主人としてナーナも出演してほしい」
「え？」
　さすがに引くナーナ。
「安心せい。旅館内部の撮影はここで行う。ゼンゼンには撮影時のワシの護衛を頼みたい。なに、危ないことはせん」
「つっても、護衛が俺だけじゃ心許ないぜ？」
「ゼンゼンだけじゃ緊急事態の人手が不足するし作品のマスコットとしても弱いから……ほれ、暴走マフィア退治で協力してくれた咎人の女の子もレギュラーに呼んでおる。撮影時も同行するから安心じゃ」
　コクリ・コロン(mz0061)のことである。
「ああ。あの子なら信用できるな」
　ゼンゼン、納得した。
「咎人一人で一本の超短編を撮る。出て来るクリーチャーは毎回違うが、回数を重ねて定着を狙う戦略じゃ」
　こうして、「大荒野旅館の開拓者たち」という連作超短編映画がスタートすることになる。