オープニング
アース帝国とフェイトや咎人、同盟軍との戦いは幕を閉じ、ベルガルドの世界征服はなくなった。が――、涙の海の底から新たな脅威が現れようとしている封魔界――。
グリズリー鉱山とイストリア公国の間に位置する山に囲まれた国、ディナッハ公国でも変化が訪れていた。
敵だったシャルダンがキュリア・ディケト(mz0137)の手を取ってから、約二週間が経った。
シャルダンは帝国から寝返ったということになるが、今の帝国にシャルダンのことを咎め追及する者はなく、ディナッハ公国としても難民のような扱いで受け入れることになった。
アシストアーマー開発製造企業である、国内最大手の企業ディケト重工CEOがシャルダンの身元引受人となり、当分の間は保護観察下で会社の警備として働く。また、巨神機ウォードス・ハヌマンの熟練パイロットでもある彼は、国の有事の際、必要であればハヌマンで戦うことが義務付けられる。
さらにこの間の戦闘で鹵獲した量産型ウォードスは修理され軍の装備となった訳だが、そのパイロットの育成にも協力してもらう。
これらの条件の下、シャルダンはディナッハ公国の国民として自由を与えられたのだった。
そうなるように尽力したのは、もちろんディケト重工CEOとその一人息子、キュリアだ。
そして今日、シャルダンは警備の初仕事として、雪祭りのメイン会場にいた。
「帝国も寒かったが、ここもやっぱまだ寒いな」
警備の制服に身を包んだシャルダンが、両腕をさする。
金の巻き毛が肩にかかり、青い目は帝国にいた頃より穏やかになっただろうか。こうして見ると立ち姿もすらりとしていて、中々の美男子だ。
「そりゃそうだよ、雪祭りの季節だしね。今日は公王様もいらっしゃる式典があるんだから、きちんと警備してよね」
と言うキュリアの出で立ちはビシッとした正装だ。これまでの経験がそうさせているのか、堂々としているように見える。
事実上帝国の侵攻がなくなったため、今日はこれから開かれる雪祭りのメイン会場を使って、ディナッハ公国の防衛に貢献した人物に名誉勲章が贈られる式典が行われるのだ。
女神の騎士たる咎人達とキュリア、国境警備隊隊長のベイリンが授与者となっており、勲章はフィーラン公王が直々に授与するという、それはもう国が認めたちゃんとした式典なのである。
「あー、俺様に任せろ。滅多なことは起こさせねぇよ」
「今日はベイリンさんも壇上に登る側だし、ちゃんとウチの警備隊長の指示通りにしないと駄目だよ?」
「分かってるよ、俺様の方がお前より年上で何年も軍人やって来たんだぞ? 言われんでも出来るわ! お前は俺様の母親か!」
言い合っている二人の空気は存外軽い。
敵同士でいた時の嫌悪や恨みを越え、今はシャルダンもキュリアにいくらかの感謝の念はあるし、キュリアも彼が意外に話しやすい人物だと気付いたのだ。何か俺様キャラになってるけど、性格が屈折しているからという訳ではなく、素を出した結果そういうキャラになったという感じだったので、ツッコまずに受け入れている。
「ほら、そろそろ咎人達を呼んで来た方がいいんじゃないのか?」
「あ、そうだね。行って来る!」
朗らかに女神の騎士を迎えに行くキュリアを見送ってから、シャルダンは改めて警備の確認のため見回りを始めた。
ずっと望んでいた『貴族の生活』ではないけれど。
弱みを見せたら生き残れないという帝国よりも、気は楽になった気がした。
この国でも貧富の差はあるし、理不尽はある程度存在する。だけど少なくとも、自分が誠意を見せれば誠意が返って来る環境になった。
今まで不遇だったシャルダンにとって、それは何よりも得難いもので。
「悪くない、よな」
シャルダンは自分が微笑んでいることに気付いて、さらに笑みを深くするのだった。
●式典と雪祭り
雪祭りは毎年この時期に行われる、ディナッハ公国において大きなイベントの一つだ。
広大な国立公園の中、大通りの中心がメイン会場となっており、その左右1kmに渡って道の両側に大小様々な雪像がいくつも作られる。屋台やキッチンカーも多く並ぶので、国内だけでなく国外からも人が集まり賑わうイベントなのだ。
メイン会場では毎回人気アーティストのライブや映像を使ったショーなどが行われるのだが、今年は特別に勲章授与式が行われることになった。
会場にはユーフォリア公国の宮殿を模した大雪像がどーんと造られており、その前に設置されたステージも全部雪で造られていて、ライトアップや音響機材の準備でスタッフが駆け回っている。
通りの雪像は毎年、その年国内で流行ったアニメやゲームのキャラクターや有名人などがあったが、今年は巨神機Fu-Xi(フーギ)や魔導アーマースパルトイや、女神の騎士をイメージした雪像なども作られ、バラエティに富んだものとなっていた。
時刻はそろそろ16時。キュリアと咎人達はステージ袖にいた。軍礼服を着たベイリンも一緒だ。
会場には授与式を見るため既に人が大勢集まっている。
「キュリア、緊張してるか? 女神の騎士様達も、構える必要はありません。何も難しいことはありませんから」
ははは、と鷹揚に笑うベイリン。
「そりゃ多少は緊張しますよ~。皆は紹介されたら僕と一緒に壇上に上がって、勲章を受け取ってね」
とキュリアが咎人達に段取りを説明する。
ステージ前には、最前列の客がそれ以上近付かないよう警備するシャルダンが見えた。咎人達に気付いた彼が、ふ、と口の端を上げ軽く手を振る。
どうやら順調にやっているようだ、と咎人達にも知れた。
そこでキュリアが改めて、女神の騎士たる咎人達に向き直る。
「あの、女神の騎士の皆には、国の誰もが感謝してるんだ。あなた達のおかげで、この国はアース帝国に侵略されずに済んだ。町を破壊されることもほとんどなかったし、悲しい思いをする人がたくさん出ずに済んだんだ。本当に、本当にありがとう。それに僕個人も、あなた達に助けられてここまで来れた。あなた達と出会えて、本当に良かった」
と、キュリアは良い笑顔で笑った。
最大の脅威がなくなり、この国はもう、女神の騎士に頼らずとも自分達の力で乗り越えることができるだろう。
ディナッハの未来はキュリア達自身が作るべきもの。
咎人はこの国に関わる時期が終わりに来ていることを悟っていた。
やがて16時きっかりになると、司会者がライトアップされたステージに立つ。
「ただいまより、ディナッハ公国名誉勲章授与式を執り行います!」
大きな拍手が起こり、授与式の開催となった。
成功条件
条件1 | 式典で名誉勲章をもらう |
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条件2 | 雪祭りを楽しむ |
条件3 | - |
大成功条件
条件1 | 関わりあったNPCに何か一言かける |
---|---|
条件2 | - |
条件3 | - |
解 説
※勲章をもらい、雪祭りを楽しみましょう!
〈授与式について〉
・もらいたくない人は式典に参加しなくてもOKですが、最低でも誰か一人はもらってください。
・壇上に上がって公王から勲章もらって閉会という、それだけです。リプレイでも尺はそんなに取らず、もらう際に何か一言あればそれを描写する程度です。
〈雪祭りについて〉
・自由に見物していただいてOK。雪像についてはOPを参照してください。
・途中、授与式を見た一般人から「写真撮らせてください」とか「握手してください」とか「サインください」など言われることがあるかも。
・300mごとに屋台やキッチンカーのある場所があります。ありそうなグルメならあることにしていただいてOK。女神の騎士は無料券を配られているので、お好きな物を食べて楽しみましょう。
〈NPCについて〉
・授与式後、キュリアは普段着に着替えて雪祭りを回ります。同行可能ですので、ご希望の方はそういうRPをしてくれて構いません。
・ベイリン隊長も今回は非番ということで、授与式後は軍人っぽい普段着に着替えて雪祭りや屋台を巡っているでしょう。同行可能ですので、ご希望の方はベイリンとのRPをどうぞ。
・シャルダンは授与式後は雪祭り全体の警備をしています。見つけたその場で会話が可能です。
※無理に同行させなくても大丈夫です。三人のうち誰か一人(全員でももちろんOK)にその場でちゃんとした(言いたかったことや励ましなどの)言葉をかけてもらえれば、大成功条件は達成されます。
※リプレイ的には授与式3:雪祭り7くらいの描写になります。
マスターより
こんにちは、久遠由純です。
今回でキュリアがメインとなるディナッハ公国の話は最終回です。
参加してくださった皆様のおかげで、このシナリオを出すことができました。本当に感謝です!
できれば最後までお付き合いしてもらえたら嬉しいです。
雪まつり……ずいぶん昔に行ったことがあります。寒かったけど色んな雪像があってみんな上手に作ってあって、面白かったですねぇ。
その後のラーメン、ごっつ美味い(笑)
まあそんなわけで、よろしくお願いします。
関連NPC
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- キュリア・ディケト(mz0137)
- 人間種|男
参加キャラクター
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- 麻生 遊夜(ma0279)
- 機械種|男
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- シアン(ma0076)
- 人間種|男
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- 高柳 京四郎(ma0078)
- 人間種|男
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- 川澄 静(ma0164)
- 精霊種|女
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- 鈴鳴 響(ma0317)
- 神魔種|女
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- ザウラク=L・M・A(ma0640)
- 機械種|男
- リプレイ公開中