オープニング
和ノ国、東ノ宮は平和そのものだ。
この場合、平和を取り戻した、というべきなのか。この都はずっとそのままだった。そこに暮らす人たちは知ることすらない。危機が迫っていたことを。それを救った英雄たちの事を。それより前からずっと──この世界を見守り続けていた隣人が居ることを。
それは関わった者たちにとって完全に納得のいくものではないかもしれない。それでもその事は、何もあずかり知らぬところでそうなったわけではなかった。
分岐点が示された。その事で悩んだ。そして選択された。その事を経て、この世界の者は皆、そういうものとして受け止めていた。
……知らなければ。苦悩も後ろ髪引かれる想いも味わわなくて済んだかもしれない。
……それでも、知ったからこそ、より良い方が選ばれたのだと、そう信じて。
だから知られざるこれらの事は、知ることになった者の間だけで語り継がれていくのだろう。それもまたいつか失われるのかもしれない、が。
そうして、これからに向けてそれぞれが歩み始めた、この東ノ宮で。
「──本日ご覧いただきますは、戦国の世の物語」
一つの映画が、公開となった。
「誰もが知る英傑は、時流に選ばれた素晴らしき戦の才覚を発揮し──そして、時流にそぐわぬ知られざる心根がありました。そしてそんな世に寄り添う、知られざる存在があった」
初公開のその日、語り手の活動弁士は伊佐美 秀介(mz0156)。
群雄割拠の世、さる地域の一つを統一することになるその武将は、古寺で出会った友人との囲碁の時間を何より愛する、穏やかな青年だった。
静かに暮らしていければそれでいい。皆そのように暮らせれば。彼の願いはしかし時代が許さない。彼の住む地も戦乱へと巻き込まれていき、皮肉にも彼はその中で武将としての才覚を示していく。
……そうして永く続く争いの世に、思い出されることのなくなった彼の『友人』が、変わらぬ世界の住人達たちが、人知れず寄り添っている。
「どうぞ隅々までよくご覧ください。主人公の心情や変遷、そして合戦の華々しい活劇といった見所もそうですが──『知られざる隣人』たちは、思いがけぬところにあちこち登場していますよ。そう、彼らは秘かに、いろんな場所に居るのです」
思わせぶりな声でそう言って、本編が開始となる。
平和な時間、古寺であったどこか不思議な二人の少年と交流を碁を通じて深める青年。
だが戦の足音と共に、勝負も半ばのうちに穏やかな時間は終わりを迎える。
ここからの激動の状況はダイジェスト画像で流され、それと共に主題歌が映画館で生歌で披露されるという手法も取られつつ、戦乱の世が表現されていく。
やがて青年は理解する。護るだけでは、いつまでたっても民に平穏は訪れないと。
「『攻め込もう──私が、全ての戦を終わらせる!』」
画面の中で演じるジィト(mz0039)の表情に、秀介の声が重なる。
心優しい青年が、年を重ね、鬼と恐れられる武将に変わっていく。表情が、声が、その変化を示していく。
その移り変わりの中で、変わらぬ彼の友人は。知られざる隣人たちは。少しずつ出番を失っていく。
やがて地方統一を果たした時、青年だった武将は老域に入っていた。
……独り床に臥せて、虚しくなったような表情を見せる彼が、思わず呟いたのは。
「『碁が、打ちたいなあ……』」
そんな彼のもとに、変わらぬ姿の彼らの友人が姿を表わす。
碁石入れが噴き上がり、碁石が碁盤に降り注いでかつて中断された盤面を並べていく場面は、初見の者は皆度肝を抜かれていた。どうやって撮影したのか、と。
「『ああ……私はただゆっくり、こんな時間が過ごせるようにしたかっただけ、なんだ』」
そう言って、対局を終えた手がぱたりと力を失う。
そして彼の友人がポツリという。
「『お疲れ様。よく頑張ったね』」
と。寂しそうに。
●
「──ということで、我が巌商会の新事業となる映画の初公開が、本日無事完了した。公開終了日まで気は抜けないが、まずは無事にこの日を迎えた事、皆の尽力に感謝する」
宴会の席で、巌 源一郎(mz0158)は手短にそう音頭を取った。
酒や料理が運ばれて来る宴会の席には、この映画に関わった社員や役者の者たちが呼ばれており、その場所に咎人たちも招かれた形だ。
これまでのこと全てについて、じっくり礼を言う場としては適切ではない部分もあるかもしれないが、新たな一歩を踏み出した所を見届けてほしいということらしい。
会場はホテルの宴会場ということで、別室に妖怪たちのための場所も設けているという。
この場には何も知らない東ノ宮の住民たちもいる。そうした者たちの前ではしにくい話はそちらでするのもいいかもしれない。
その別室には勿論、あやこちゃん(mz0157)も居る。
「そうね。あたしたちも概ね以前の通りよ。地下鉄大迷宮はこれからも存在するし、それぞれで人に寄り添っていったり、距離を取ったり、様々に過ごしていくんじゃないかしら」
妖怪たちの状況はそのままだ。時折に穢れによって荒魂となるものが生じることも。
「そうそう、『かたす駅』もそのまま残るらしいわね。管理は火車さんがヨモツノカミ様から任されたらしいわ」
かの神は、その意志がこの国全体へと拡散する前に、妖怪たちにもそのように残していったそうだ。人との在り方に疑問や行き詰まりを感じた妖怪たちが向かう場所になるのだろうか。それがどのような形となっていくのかは、まだ未知数な部分もあるが。
「それからね、藤守神社の管理もおとうちゃんがゆくゆくは手を入れていくらしいわ。映画事業が上手く行ったら、撮影場所にするんですって」
元々財政難で管理がほぼ放棄されている状態だから、そこに出資するという形から巌商会が入り込んでいくのは難しい事ではないだろう。
「ヨモツノカミ様の事も勿論考えているけど……あの神様の事を本気で祀る為の行事や映画となると、半端な予算でやるわけにもいかないだろう、ですって」
そんなこんなで、色んな事が巌商会の映画事業、ひいてはこの第一歩の成功にかかっている、と言える状況のようだ。
……一先ず、咎人たちが関わった事柄の現状としてはこんな感じだろうか。
「皆、改めて……これまでの事、ありがとう。沢山助けてくれて。友達に、なってくれて」
そうしてあやこちゃんは、あなたたちを見て、そう告げる。
これで、一つの物語が終わるんだなあ、ということを、どうしても滲ませて。
勿論これからも会おうと思えば会える。だけどそれはやはり「これまで」とは違う。
そこから目を逸らすわけにはいかない。
だってこれはずっと「それ」に向き合うまでの物語でもあったのだから。
成功条件
条件1 | 事態が解決したメトレトロで過ごす。 |
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条件2 | - |
条件3 | - |
大成功条件
条件1 | 良い思い出を作る。 |
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条件2 | - |
条件3 | - |
解 説
特異点が安定した懐地界を見て回るエピローグシナリオとなります。
懐地界の特異点は「秩序」として安定しました。よってほぼ「介入以前からの世界」が続いていくこととなります。
よって「今後に向けての課題」的なものも殆どなく、好きに過ごしていただければいい状況となります。
咎人的には完全に任務完了なのですが、このまま帰られては懐地界の皆さんの方に心残りがあるようです。
よければ関わりのあった方は、しっかり彼らに「物語の区切り」をつけてあげてください。
一先ずの交流の場として、封切りとなった妖怪映画の公開記念パーティが巌 源一郎主催で行われます。
ホテルの宴会場で、座敷での宴席となります。
源一郎や、娘の沙都香も参加しています。
大宴会場には映画に関わった役者、スタッフ等がおり、咎人たちも事業に特別に協力してもらった者たちとして招かれています。伊佐美 秀介やジィトも居ます。
実際に、映画に出演した、主題歌の披露や宣伝などに協力した、としても構いません。
また「公開記念パーティ」ですので試写会や初回上演の後になります。映画の内容は見て知っている前提で構いません。
また、妖怪たちやそれを知る者たち用の別室が用意されています。
あやこちゃんや知玄知白は勿論、オフィシャルシナリオに味方として登場した妖怪は登場できます。
源一郎や沙都香、秀介もこちらに顔を出すこともあります。認識適合などが気になる方はこちらの方が気兼ねなく過ごせるでしょう。
その他、単独で東ノ宮や地下鉄大迷宮などを自由に訪れていても構いません。
ここまでの道のりを振り返えり、物語の締め括りとして「あなたのキャラクターのエピローグ」をどうぞご自由に描いてください。
マスターより
ハイブリッドヘブンをお楽しみいただきありがとうございます。運営チームです。
懐地界メトレトロ編となるオフィシャルシナリオはこちらが最終回となります。
今後も継続してシナリオ公開可能なワールドとしてマスターに開放されるものとなりますが、オフィシャル展開は事実上の終了となります。
これまでメトレトロをお楽しみいただきまして、まことにありがとうございました。
関連NPC
参加キャラクター
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- ケイウス(ma0700)
- 神魔種|男
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- シアン(ma0076)
- 人間種|男
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- 白花・C・琥珀(ma0119)
- 人間種|女
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- 天魔(ma0247)
- 神魔種|男
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- 金路(ma1384)
- 獣人種|男
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- マイナ・ミンター(ma0717)
- 人間種|女
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- 更級 暁都(ma0383)
- 人間種|男
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- A(ma1454)
- 妖精種|男
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- 高柳 京四郎(ma0078)
- 人間種|男
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- 鳳・美夕(ma0726)
- 人間種|女
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- 川澄 静(ma0164)
- 精霊種|女
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- マリエル(ma0991)
- 機械種|女
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- シトロン(ma0285)
- 異能種|女
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- 星空 雪花(ma1479)
- 神魔種|女
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- 葛城 武蔵介(ma0505)
- 神魔種|男
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- サヴィーノ・パルヴィス(ma0665)
- 人間種|男
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- 鈴(ma0771)
- 神魔種|女
- リプレイ公開中