オープニング
(あの子は決して弱くない。なのに二回も……という事は)
咎人が強くなっている。これまでの事を振り返り、バジルナはその答えに辿り着く。
自分は数える程しか交戦していないが、今思えば確かに少しずつ、自分に迫っていた気がする。
「このままじゃ駄目ね。早く手を打たないと……」
活発になっている戦いの中で自分だけが取り残されている気がした。
それは自分の目的の為、動いていたからなのだが、それを言い訳には出来ない。
(とにかくあの子は私よ……ほってはおけない。だからやれる事をしないと)
力があるのに、思考を巡らせるなどナンセンスだと誰かは言った。
そして、力でゴリ押せばいいのだと――確かにそういう考え方もあるだろう。けれど、自分の過去を顧みた時、何かに全てを委ねてしまうのは危険だ。だからありとあらゆる手を打つ。使わないで済むのならそれでいいと思う位に。
「今、立て込んでるんだ! 玄関の札が見えなかったかッ!」
頑固で無骨な体格の男が入って来た客を怒鳴り上げる。
そしてそれが女だと判ると、慌てて塩を手に彼女に投げつける。
「女が入ってくるんじゃねぇ! 鍛冶場が汚れるッ!」
男の言葉とその振る舞いに、しかし女は全く動じていないようだった。おし留めようとする別の刀工達には目もくれず、ズンズンとその男に歩み寄る。
「貴方、妖鉄界では有数の刀鍛冶なんですってね。今すぐに作って欲しいものがあるのだけれど」
彼女が静かに言う。その言い表しようのない気迫に刀工達も安易に言葉を発せない。
ただこの工房の刀匠だけは別だ。
「あぁん、聞いてなかったのか。ここに女はご法度だ。それに礼儀もなってねぇんじゃあ話にならねぇ。悪いが帰ってくれ。まぁ、丁寧に来たところでうちは飛び込みお断りだがなっ」
男がそう言い、もう一度塩を撒く。だが、その時女と目があって、それがまずかった。
吸い込まれるような黄金の瞳に意識が全て支配される。
そうして、今すべき事はこの女の為の究極の品を打つ事だけだと思い込まされる。
「やって、くれるわよね?」
女の言葉にこくりと男が頷く。そして作りかけの刀をあっさり手放す。
「先生っ、どうしッ……」
「貴方達もよ。この人の弟子なら手伝いなさい」
彼女の目は彼らを捉え離さない。
そして言われるがままに彼女の求めるモノの制作を開始した。
●
「おかしい……皆、変だよ」
それに気付いたのは刀工達の食事を任されていた娘だった。
一日や二日の徹夜は今までもあった事だが、それが一週間となると尋常ではない。
しかも用意した料理は一切手が付けられていないのに、連日激しく鉄を叩く音は聞こえているから心配だ。
(中に入りたいけど、入ったら怒られるし……どうしよう)
この鍛冶場のしきたりで女人禁制。
だから刀工達の作業兼住居スペースと炊事場は別の建物になっている。
「うぅ、どうしたらいいんだろう」
こうなれば通りすがりの男性を捕まえて中を見て来て貰おうか。
ちなみになぜ知り合いではないのかと言うと、この付近の男は皆ここの働き手であり、今は皆中の筈だ。
「いーい、これをあの子にちゃんと届けるのよ」
とそこで聞き慣れない声がして、その主を探せば仕上がった大鎌を蒼い馬に託す女の姿がある。
(何で女の人が……それにあの鎌……)
ここでは刀鍛冶と言えど、刃物全般に秀でた腕を持つ事から刀以外も制作していた。そして、女の持つ大鎌にはここで作ったものである印が施されている。
「覗き見とは悪い子ね」
そこでハッとするも首に当てられたナイフの冷たさに、娘は身動きがとれなかった。
「あ、あの、あなたは」
「私の事より貴方よ。何処の子かしら?」
感情を殺した声。それはこちらに何も読ませないという意志表示か。
「助、けて……私、その、あの」
「ねぇ、どういう訳か知らないけど、やめたげたら? その子怖がってるみたいだし、あなたも美人が台無しよ?」
とそこに新たな訪問者。声の先には背の高い女性、いや男性が立っている。
「今日は邪魔が多いわね。面倒事は嫌いなのだけど」
ナイフを娘に当てたまま、女が呟くように言う。
「だったら尚更解放したら? そんな事したっていい事ないわよ~」
ひらひらと手を振り、男は暢気な事だ。しかし、その奥にある強さを女は見逃さない。
「じゃあ取引しましょう。貴方が私の頼みを聞いてくれるなら、この子を解放してあげる。貴方それなりに強いのでしょう?」
咎人程とは言わないまでもこの男、見た目以上のポテンシャルを持っていそうだ。
「んー、まぁ弱くはないわね。後、私も貴方に興味が湧いたわ。だから手伝ってあげてもいいわよ。私を楽しませてくれるなら、少しだけ遊びましょ」
上から目線なのが気になるが、それでもまぁいい。捉えてしまえば、後はどうとでもなる。女はそこで娘を解放し、彼の方に突き飛ばした。娘はそのまま男に礼を言うも、まだ心配事があるのかその場から離れようとしない。
「何やってるの。早く行きなさい」
男が娘を急かす。
「でも……皆がまだ、中に……」
「あら、そうなの? でも大丈夫よ。私がどうにかするから。だから心配しないで」
男が女には聞こえない位の小声でそう言い、娘をこの場から遠ざける。
だが、そんな彼でも相手が簒奪者では分が悪い。
「おしゃべり中のところ悪いけど、私あまり人を信用しないのよね……男は特に」
女がそう言い、瞳を光らせた。それを間近で見てしまった男は刀匠達同様、意識を奪われるも、彼は異質だ。恐怖より好奇心が勝っている。
(嘘、この私が何も出来ないなんて……けど、これはこれで悪くないかも)
この後何が起こるのか、それを考えただけでもワクワクしてしまう。
「貴方、もっと強くなれるわよ? だからこれを」
女から渡された小瓶は明らかに怪しい飲み物だった。
しかし、手がそれを口に運ぶのを自分の意思では止められない。
「やだ……何これ、凄い……」
男が僅かに言葉する。その表情は恍惚としており、明らかにさっきまでとは様子が違って……。
「ッ!?」
それを前にして娘は駆け出した。このままではあの人もきっと。
(とにかく誰か呼ばなきゃ! 全部が駄目になる前にッ!)
娘が必死に人の多い町へと走る。そんな彼女を女は追おうとはしなかった。
何故なら、優先すべきは依頼品の完成。
そのナイフはきっと、彼女の相棒になりうる筈だから。
ーー
●NPC情報
男(キャーニ)について
サヴァイ=ヴァル(mz0040)に容姿がそっくりの角の氏族の一人
一応武士に選ばれる程の妖術師だが、お祭り・派手好きで奇行が多い
発明家な一面も持ち、装備品は自作のものらしい
※簒奪者ではありません
成功条件
条件1 | 操られた現地人全員の生存 |
---|---|
条件2 | - |
条件3 | - |
大成功条件
条件1 | 現在制作中のナイフの奪取 |
---|---|
条件2 | - |
条件3 | - |
解 説
どういう訳か妖鉄界に現れたバジルナ
彼女は名匠の許を訪れ、新たな武器を手に入れるべく
彼らを操り強制的に働かせているようです
彼女の発注した武器は現在制作中であり、
出来次第彼女はその場を去ってしまう事でしょう
彼女を強くしない為にも武器の奪取は必要ですが
その為に現地人を犠牲にしていい訳ではありません
操られた現地人を助けつつ、余裕があれば彼女の妨害を成功させましょう
●PC情報
人里離れた場所にある鍛冶屋
刀工達が住み込みで仕事ができる様に衣住の空間も一つの建物にある
住み込み中の刀工の人数は刀匠含め8人
刀工達およびオネェ口調の男・キャーニは石化されている訳ではない
加えて、キャーニは何か飲まされた(飲んだ)ようであり、注意が必要
鍛冶場のある建物は二階建ての土壁で入り口は1つのみ
ただ1階には窓が9つ(内大5、小4)、2階には大きな窓が2つ
大きい窓からなら人一人位なら無理矢理入る事は可能だが、
その先に待ち伏せや罠がある可能性もあるので要注意
鍛冶場内もモノが多く狭い為、大振りな武器や複数人での立ち回りは注意
●PL情報
武器を製作中なのが2名
残りの6名のうち、キャーニと一緒なのは4名
従ってバジルナと共に中にいるのは2名 刀工は一応武装している
キャーニの武器は刀と付け爪(時限型小型爆弾)と腕輪
腕輪は自在に大きさが変わるらしく、円月輪みたいに投げてくる
ローラーのついた靴は移動力高め、行動回数3
バジルナは現在屋内におりショットガンとコンバットナイフを装備
スキルは石化や毒、魅了などのBS系が得意だが、接近戦が出来ない訳ではない
基本、ナイフが仕上がるまで6R
そこから彼女が妖鉄界を離脱するまで4Rの10R勝負を予定
建物外周を警戒しているキャーニ達をどうかして中に入り武器を奪取するか
バジルナが離脱する際外に出てくる必要がある為、その機会を待って叩くか
はたまた班を分け、同時に攻めるかの三択です
マスターより
どうも左右対称ネームマスターの奈華里です
某大人気作品が再編集放送との事ですが、決してその影響でこうなった訳では(汗)
ただ傍から見れば「そうじゃないの?」と思われても仕方がないよなぁ
三択と申しましたが、実はもう一つ強行突破する方法もあります
ただPL良心がそれをさせないかなぁと思ったので省きました
ただ参加者の総意として強硬策に出るのであれば止めはしない
ともあれ、キャーニとのマジ勝負が出来るシナリオとなります
バジルナまで到達するのは大変かもですが、そこは難易度高めという事で
バジルナ討伐ではないので、優先すべきは操られている方々
そう、キャーニも含めて それではご参加の程宜しくお願い致しますm( )m
関連NPC
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- バジルナ・メデュー(mz0070)
- ?|女
参加キャラクター
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- 川澄 静(ma0164)
- 精霊種|女
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- ケイウス(ma0700)
- 神魔種|男
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- 鳳・美夕(ma0726)
- 人間種|女
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- 白花・C・琥珀(ma0119)
- 人間種|女
-
- 葉山 結梨(ma1030)
- 人間種|女
-
- ザウラク=L・M・A(ma0640)
- 機械種|男
- リプレイ公開中