オープニング

やあ、コルニ。具合はどうだい？

まあ、ぼちぼちと言ったところだ。穴を空けた分の仕事はする。

ゆっくりして欲しいのはやまやまなんだけど、そうも言ってられない状況なんだよね……。

でも、そんなコルニを働かせる以上は私たちも頑張るよ！
それで、霧像界では誰に頼めば良いのかな？　スイートハート？

それについてなんだが、まず霧像界はその辺が少々ややこしい。

と言うと……？

まず……霧像界は超常の存在が世界を維持しようとするような動きが見られない。
よって、守護者も接続者も存在しない。

えっ。

えっっっっ。

いや、これは厳密な言い方ではないな。
厳密に言うと、存在はするのかもしれないが表立って登場しないと言うことだ。

ええと……それは要するに、世界法則が世界をほったらかしにしてるとかそういうこと……？

クルハ、お前やっぱり要点は掴むタイプの馬鹿なんだな。

それはもう馬鹿ではなくないか？
俺みたいな本物の馬鹿にもわかるように教えてくれ。

まず、ざっくり言うと、スイートハートも世界法則の一部である可能性がある。

えっ。

えっっっっ。

話が進まないからリアクションせずに聞け。

つまり、元々霧像界の世界法則と言うのは、古き神々とその眷属によって敷かれたルールであったと考えられる。
人間は最初はそれに従っていたが、やがてそのルールから自立した。子供が親の庇護から離れるように。
その結果、霧像界の世界意志は子供を手元に戻そうとするのではなく、自立するに任せた。

これは霧像界の独特なところなんだが、あの世界で生きている人間の総意と言うか無意識的な合意として、「世界は別に救われなくてもいいし、自分たちの判断の結果なら滅んだとしても仕方ない」と思っている節があるんだな。

調査員たちも、あくまでも怪異や異常の解決は場当たり的だ。世界をひっくり返して悪魔を根絶しようとする意志は見られない。

それは悪魔が人間よりも強力な……ああ、そうか……。

世界法則の主たる大精霊的なものはもうとっくにこの世界の運営を知的生命体に任せきりにしていて、介入するつもりがない。
人類はとりあえず場当たり的に問題に対処するにとどまり、別に世界そのものを変えようとは考えていない。
これにより守護者も接続者もいない……。

と言うことで、霧像界の世界武装は恐らく勝手に切り取ってくる、という感じになるだろう。
ただ、そうするにも力の強力な場所に行く必要がある。

でも、世界意志と人間の間にろくな交流がないわけでしょ……？
現地の人はわかるのかな。

ピンポイントで「あそこです」と言うことはないだろうが、ある程度候補くらいは出せるだろう。
あとはこちらで特定する。
お前たちは協会に打診してくれ。

了解だ。

なるほど。つまり早い話、聖地や霊場みたいなところをピックアップしてくれってことだね。

ああ。あとは俺たちでなんとか交信を試みるよ。

大変なことになってるみたいだね。いつも手伝ってもらっているのに、直接手を貸せなくて済まない。

いや、そうでもないんだ。
調査員の力を解析させてもらったおかげで、方々で役に立っているんだよ。

どの場所も信仰の中心であるだけあって甲乙付けがたいんだが、イメージがしやすいと言う意味ではここだ。
ギリシャのオリンピア。

ここで世界意志に呼びかけて見て武装を切り取らせてもらえば良いんだね。

そういうことになる。
ただ一つ問題がある。

何か？

あくまでイデアゲートがあるのはアメリカだけだ。
ギリシャまでは飛行機で行くしかない。

それじゃ、始めるよ。

ああ、頼むよクルハ。

──何だろう。
何かご用かな？　我々のことは忘れてしまったと思っていたんだけれども。