オープニング
ツインフィールズを満たす夜闇の片隅、黄金郷の名をネオンにがなりたてさせる古びた映画館はある。
とはいえ誰ひとり扉をくぐる者はなく、それどころか視えても聴こえてもおらぬように、ただただ行き過ぎていくばかり。
それはそうだ。ここは言わばこの世界と隣接した異界であり、来るべきものがためのみ、扉は開かれるのだから。
されどしかし。
今夜、来るべきものを待たずして扉は開かれんとしていた。
「そうか」
黄金(mz0143)は名の通りの黄金で構築された依代をソファへと埋めたままうなずき、そればかりを告げた。
「はい」
彼女の前にある少年型ゴーレム、アラン・スミシーもまた短に応え、逆立った髪をわずかに揺らす。……コランダムからロードクロサイトへと素材を変えた髪を。
ベニアイトで造られた彼の瞳を見据える黄金の金眼に気遣いや懸念の色はない。だからこそ、今の彼には痛いほど知れるのだ。
「ありがとうございます」
俺の選んだ先を受け容れてくれて。
言外に含めた意が汲み取られたことを彼は疑わなかった。なぜかと問われれば、信じているからと答えるよりあるまい。頭脳ならぬ回路にて思考めいた演算を重ねるゴーレムとしては酷く頼りないことだ。なれどその頼りなさがなんとも誇らしくて、彼はつい薄笑んでしまう。
と、レッドベリルの唇を上向けたアランの様に、黄金はふと笑みを返した。
「己を尽くせ。妾がためならず、誰(だ)がためならず、汝(な)がために」
ああ。この平らかな言の葉は、今まさに行かんとしている己を送り出すもの――残る者が贈る送辞だ。
「人間の敵、全力でやってきます」
答辞を唱えて、踵を返す。
後ろ髪引く万感を振り切り、行こう。母からもらった情を抱き、妹からもらった力を握り込んで、父からもらった勇を振るってかけがえなきものたちと死合う末路へ。
一度として振り返りはしない。二度と帰らぬ己にその資格はあるまいから。
終わらせるために。
終わるために。
前だけを見て行く。
●19時00分
街の一角にある自然公園――といってもさしたる広さはない。自然愛好家が小振りな屋敷が建つほどの土地へ無理矢理に草木を移植しただけの、「いくらか人の手を入れた茂み」に過ぎなかった。
そんな場所へ、しかもこんな中途半端な時間に踏み入ってしまったのはどうしたことか。咎人は首を傾げながら歩を進め、しかして出合うのだ。茂みの中央へ公園と言い張るために空けられた数メートルの芝区域、その片端に立つ少年型ゴーレムと。
「女神様はよく縁って言ってたけど、今までよくわからなくてさ。でも」
アランは言いながら右手へ握り込んだバールを示して、
「やっとわかったんだ」
噛み締めるようにうそぶいた彼の心情を、咎人は正しく察する。なぜなら己もまた噛み締めていたからだ。彼と結んだ縁、その確かな太さを。
「俺は人間の敵を全うするよ。あんたを殺して、その先にいる人間を殺す」
彼が願いを叶えたいなら、別に咎人を待つ必要などなかったはずだ。そうだというのに咎人を待ったはすなわち、彼の誠意というもの。
「お互いやるべきことやろうぜ」
咎人がこのときにすべきは、世を脅かさんとする簒奪者の手先を退治ることだ。務めを果たすべく全力をもって、誠意に応えるべく誠意を尽くして。
「スキルってのは封印させてもらうよ。恨みっこなし、力と力のぶつけ合いってことで」
アランが言葉を切ると同時、咎人は己のアクティブスキルの発現が封じられたことを知覚した。つまり今の己に遣えるものは得物と己の身を繰る戦術、戦場で培ってきた経験則ばかりというわけだ。
果たして咎人はアランと対峙した。
まずは攻めるか受けるか、それとも他の手を打つか。得物へかけた指先に力を流し込みつつ、“人間の敵”へ視線を据える。
成功条件
条件1 | アラン・スミシーを破壊する |
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条件2 | - |
条件3 | - |
大成功条件
条件1 | あなたらしい真っ向勝負を魅せる |
---|---|
条件2 | - |
条件3 | - |
解 説
●依頼
アラン・スミシーを撃破してください。
●シナリオルール
・「一対一の真っ向勝負」をテーマにしたノベル形式シナリオです。
・アクティブスキルは完全に使用不可です(武器は普通に使えます)。ですので攻撃のしかた、防御のしかた、回避のしかたという戦いかたをプレイングし、あなたらしさを押し出してください。
・騎乗物及びアイテムの使用は不可とします、
・意図的に大声をあげる/激しく物音を立てる/自分が茂みに入る/アランを茂みへ送り込む等、空き地を故意に出たり(出したり)人目を引き寄せるようなことをした場合、勝負を穢されたアランは自爆。失敗判定が下され、リプレイは最低文字数をもって終了します。
●戦場の地形
・戦場は便宜上6メートル(3スクエア)四方の空き地となります。茂みは使えません。
・空き地には芝生が敷いてありますが、滑る等々、足場としての不都合はないものとします。
・投げられる石や身を隠せる場所、その他使えるものは存在しません。
●アラン・スミシー
・眼前にお互いを据えた真っ向勝負を希望しています。
・武器はバール(射程1)のみ。
・技術はまだ少し拙いながら、高い攻撃力と防御力を備えています。
・あなたが間合を空けた場合は気力を損ない、闘いへの情熱を失っていきます。そうなるとあっさり倒せる代わりに大成功ができなくなります。
・回避行動は取りません。中頻度であなたの攻撃に合わせてカウンターで反撃してきます。
●備考
・このシナリオは場所とシチュエーションを変え、数本が出される予定です。真っ向勝負以外を望まれる方は続編をお待ちください。
マスターより
みなさまお疲れ様です。電気石八生と申します。
こちらはアラン・スミシーを巡るストーリー、その最終章となっております。
備考に記した通り、場所とシチュエーションを変えた(遠距離戦や武器を遣わない格闘戦など)同内容――アランと一対一で闘う決着シナリオを数本出す予定です。ですのでそちらで彼との決着をつけていただくもよしです。
何卒よろしくお願いいたします。
関連NPC
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- 黄金(mz0143)
- 機械種|女
参加キャラクター
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- リダ・クルツ(ma1076)
- 人間種|男
- リプレイ公開中