オープニング
「よし、裏口近くにメイド人形の爆弾を仕掛けたし、最後の爆弾を入り口玄関に仕掛ければ……」
コクリ・コロン(mz0061)が夜明け前の大荒野旅館「ガンハイク」の薄暗いエントランスで花瓶を取り出し飾っていた。まだ魔物に占領されているので静かに、手早く、こっそりと……。
「これでよし」
背後から響く魔物のうめき声にせかされながら作業完了。そのまま外へと脱出した。
「うまくいったか、コクリ」
岩場まで逃げると、そこに隠してあったトラックからゼンゼンが声を掛けた。
「うん。あとはみんなが仕掛けた爆弾を一斉起爆するだけだよ」
コクリ、するりと助手席に収まると小箱を手にした。起爆スイッチである。
「よし、通信エリアまで近付いてすぐ逃げるぞ」
「うん。……もう少し、あとちょっと」
近付くトラック。タイミングを計るコクリ。さすがにガンハイクの魔物も気付いて外に出てきた。
その時!
「エリアに入ったよ。起動!」
コクリ、起爆スイッチを押下した。
――どぉん!
たちまちシャワー室の芳香剤型爆弾が、大食堂の木馬型爆弾が、そしてコクリの仕掛けた爆弾などが一斉に爆発し……
――みしぃ、ばきばき……
爆ぜた一階部分から壊滅し、まるで海に沈むかのように崩れていくのである。
「いやっほぅ!」
その爆発を背景に、運転席のゼンゼンが高ぶる心のまま声を上げて走り去るのだった。
「でも……これでボクたちの故郷が無くなったね」
振り返り寂しそうにこぼすコクリ。
「無くなったならまた作ればいいんだよ。……俺たちの手で、俺たちの新しい故郷を!」
「うん!」
字幕、流れる。
この回の上映時、多くの観客が長く続いたシリーズの完結に大きな拍手を送ったという。
●
時と場所は変わって、ツインフィールズ下町の薄汚れた地下室で。
「ちっくしょう。なんでこんなにヒマなんだ?」
大人になりかけの少年がぶーたれていた。
「仕方ないよ、ヒョーマ。マフィアの仕事を受けてるだけじゃ遅かれ早かれこうなるのは目に見えてたし」
一緒にいる背の高い、これまた大人になりかけの少年が言った。
「んじゃなんで次の手を打ってなかったんだよ、チンシン」
ヒョーマと呼ばれた少年が唇を尖らせチンシンの方を向いた。
「上手く行きすぎてたんだよ。……コクリ、って女の子と組んで暴走マフィアの取り締まりやクリーチャー退治をしていたときが、ね」
この辺りの物語は「狼浪~コクリより緊急連絡」に詳しい。
「あー、あのときね」
「きっちりやったんで儲かったけど、その分無茶するマフィアがいなくなってウチの仕事がなくなったんだよね」
実際には各種事情から干されて仕事が回ってこなくなった、と言ったところだ。
その時だった。
「よう、みんないるか?」
ゼンゼンが入ってきた。
「なんだよ、ゼンゼン。お前はもうリーダーじゃねぇし、俺らと関わっちゃいけない有名映画俳優さんってご身分だろ?」
「相変わらずヒネた奴だな、ヒョーマ。それよみんなを集めて準備しろ。アクション特化の映画俳優団体を立ち上げるぜ。ヒョーマもチンシンもみんなそこの所属だ。出番はピック監督が優先的に使ってくれる。食いっぱぐれはねぇし、これならマフィアに頼らず自分たちで稼げるぞ」
「え?」
明るくまくし立てるゼンゼンに、苦しい台所事情を抱えていたチンシンが前のめりになる。
「おい待てよ、ゼンゼン。お前、この街を捨てるって言ってなかったか? 確か出て行くんじゃなかったのか?」
「ああ、捨てるさ」
感情的ヒョーマに対し、挑戦的に返すゼンゼン。
「こんな街は捨てて、俺たちの新しい居場所を作るんだ。名前は『ピックアクションクラブ(PAC)』。これを育て上げて、マフィアとも対等な立場にする。……俺たちの故郷にするぞ!」
「団体が故郷か。……いいね」
チンシン、乗った。
ヒョーマは……
「俺たちはいいが、レッカやミナミはどうすんだよ」
「女のアクションスターはむしろ強みだぜ? そして当然、針子も必要だろ」
これを聞きヒョーマ、膝を叩いて立ち上がった。
「よし、やろう!」
「問題はピック・トレイル監督の人気次第だけど……」
チンシンの冷静な指摘。
「そこは大丈夫。ちょうど短編映画賞の受賞が決まったところだ。……この機会を飛躍にするため、この話がまとまったんだ」
そう。
ピック監督は「大荒野旅館の開拓者たち」という超短編映画の連作でクレセント短編映画祭の最優秀作品賞を受賞したのだ。
「表彰式はもうすぐって話だ。これからみんなでバンバン稼ぐぜ」
威勢よく言うゼンゼンである。
出演した咎人たちにも、受賞と授与式の案内が届くことになる。
成功条件
| 条件1 | 授賞式に出席し、そつなく華やかなひとときを過ごす |
|---|---|
| 条件2 | - |
| 条件3 | - |
大成功条件
| 条件1 | 未来への成長を感じられる雰囲気にする |
|---|---|
| 条件2 | - |
| 条件3 | - |
解 説
ツインフィールズ郊外の牧場兼旅館を舞台にした超短編映画「大荒野旅館の開拓者たち」が短編映画祭の最優秀作品賞「三日月の天使賞」を受賞しました。ピック・トレイル監督や出演者とともに授賞式に出席し、楽しんでください。
【注意】
・このシナリオはこれまで59話に出演したPC24名の功績を称え、最優秀作品賞の副賞をそれぞれ配布する内容です。既存参加者以外には記念アイテムの配布はありません。
※狼浪と銘打った一連のシナリオのフィナーレでもあるので関係者の参加も問題ありません
◆受賞映画祭の概要
映画祭名:クレセント短編映画祭
最優秀作品賞:三日月の天使賞
副賞:三日月の天使像(監督へ授与)、クレセントリング(三日月の銀指輪、主要な出演者へ授与)
映画祭の進行:どこかの大ホールで受賞者のレッドカーペット入場と監督への副賞授与とスピーチ、あとは飲食歓談
◆詳しくは?
・ツインフィールズにたくさんある映画祭のうちの短編映画特化の映画祭での受賞。絶大な権威はないが、ひっそりと歴史を重ねており新人監督や新人俳優発掘に貢献している映画祭
・カーペット行進での様子、ドレスアップ、飲食歓談での映画関係者へのアピール(役者としての売り込みなど)、マスコミの取材対応、とにかく美味しい物を食べる、などを楽しむことができる
・特に、俳優としてこれからどんな映画に出たいか(シナリオは出ないが……)などはキャラの再確認によさそう
◆ピックアクションクラブ(PAC)?
・ゼンゼンが昔のやんちゃ時代の仲間を集めて新設する
・ゼンゼンは渡世人。ヒョーマなどは一般人ですが悪ガキ時代に身のこなしだけは常人以上に身に着けています
・PCも賛同して立ち上げメンバーとして名乗りを上げることが可能
・映画シナリオも手掛ける(そうしないと仕事が無くなる)ので、どんな映画を撮るか話し合いをするのも良い
※記念シナリオなので人数枠に余裕を持たせプレイング期間も長めです
マスターより
ふらっと、瀬川です。
ついに「狼浪」の連作のフィナーレです。直接的には連作レベリングシナリオ「大荒野旅館の開拓者たち」の最終回でもありますが。
「マフィアが幅を利かせて治安がいいとはいえないこんな街なんざ出てってやる!」から始まり、「その街にいろんなしがらみで残っちまったけど、そんなら新たな居場所を自分たちで作っていこう」で終わる物語でございます。その再出発に立ち会い喜びを共有したり新たな息吹を感じたりしてくださいませ。
コクリもジャパンアクションクラ……ごほん、PACの初期メンバーとなりますが、賛同者として名を連ねるだけな感じです。参加者もそんな感じ。
よろしくお願いします。
関連NPC
-

- コクリ・コロン(mz0061)
- 人間種|女
参加キャラクター
-
- 川澄 静(ma0164)
-
- 氷雨 累(ma0467)
-
- 麻生 遊夜(ma0279)
-
- 鈴鳴 響(ma0317)
-
- 相澤 椛(ma0277)
-
- フィリア・フラテルニテ(ma0193)
-
- シアン(ma0076)
-
- ウェンディ・フローレンス(ma0536)
-
- ブルームーン(ma1254)
-
- 鳳・美夕(ma0726)
-
- アティーヤ(ma0735)
-
- フィオナ・アルマイヤー(ma1253)
-
- ロザーリア・アレッサンドリ(ma0458)
- リプレイ公開中




