オープニング

　ここは聖樹界イルダーナフのとある漁村。
「おはようさん。今日も平和じゃったようじゃの」
　長大な砂浜に足を運んだ漁民が、そこで立哨していた傭兵に声を掛けた。
「おはようございます。無事に朝日を拝めてホッとしてるよ。じゃ、後はよろしく頼む」
　傭兵――香騎士の一員はそう言って掘っ立て小屋から出て漁民と入れ替わった。
「この防御柵ができてから拝む日の出にもすっかり慣れてしもうたが……半魚人が来ないんならもうええんじゃなかろうか？」
「柵の撤去、ですか？　それは……ここでは判断できませんね」
　別れる際にそんな話をする。

　ここはエネミー「半魚人」の上陸した砂浜。
　早期に砂浜に残る足跡を発見したことで傭兵隊「香騎士」が関わることになった。話は前後するが、村はここ数年不漁に見舞われており、とある商人集団が関わって村を漁港から貿易港にする最中だった。その商人集団の持つ傭兵隊が「香騎士」であり、ボスには咎人のコクリ・コロン(mz0061)が祭り上げられている。
　半魚人の発見と撃退にはコクリたち咎人が当たったが、その後の半魚人の見張りは傭兵隊が担っていた。

　話は戻り、引き上げた先の傭兵が商人たちにいまの会話を報告すると。
「ま、そんな話も出てくるころじゃろな」
「あれから半魚人は見掛けんし、避難させた女子供は戻すにいたったが……平和になれば防御柵はいらんし」
　来たか、と言わんばかりの反応だった。
「だったら村人が望んでるんだし、撤去しておさらばでいいんじゃないか？」
　傭兵はそう言うのだが……
「そうはいかん。これから貿易港としてここを拠点に内陸部へ進出し儲けにゃならんからの」
「しかも不漁の原因が半魚人ならこれから豊漁になるのではという見方もされておるが、事はそう簡単ではない」
　よそ者の商人たちが漁村から一定の信用を得ている理由でもある。いわば一時的な運命共同体なのである。
「この先の沖には沈没船の多い謎の海域がある。そこで漁をするものもおらずこの漁村周辺海域が豊漁の恩恵を受けておったとの見方もでてきておる。半魚人が海域の原因なら、ワシらが退治した数で済むはずがない」
　意外と根深い問題だったようだ。
「半魚人のこちらへの移動が何を意味しておるのかでも今後の見通しが変わる。まだ様子見じゃ」
「まあとりあえず、傭兵たちの深夜の哨戒は中止してみるか」
　その日の話はそこまでだった。

　ところが翌日。
「お？」
　未明に漁民たちが傭兵不在の掘っ立て小屋に向かうところだった。
「な、なんじゃ、ありゃあ！」
　朝焼けの波間の遠くに、異変を発見したのである。
　その異変はまさに……
「島……か？　あんなところに島なぞなかったはずじゃぞ！」
　そう。
　一夜にして小島が姿を現していたのである！
「しかもただの島じゃねぇぞ……大木が一本立っておるだけでまるで船のような……」
「あれは……帆船じゃねぇかは？」
「おお、難破船が……何隻も固まっておる！」
　どうやら大樹が根を張り沈んだ船を何隻もつなぎ合わせて島にしているようである。
「こ、こりゃ大変じゃ。皆に知らさんと！」
　慌てて戻る漁民。
　そしてこの報を受けた商人たちは。
「半魚人がおるかもしれん、迂闊に近寄るなよ。……すぐにコクリちゃんたちを呼んで調査に出る」
　この一夜でできた島は「破船島」と名付けられた。
　こうして、交易母艦「セントブルー」に咎人が乗り込み強行偵察することになった。

　一方、破船島もこの動きを察知。
　半魚人――そう。破船島はやはり半魚人の拠点だった――が「セントブルー」迎撃に動き出した。