オープニング
「……これよりは、デュランダール卿とお呼びすれば?」
「……いや、まあ、お前のやりやすい形にしたらいいが。……当分は」
フェディス (mz0132)とイルギッタ・ブラウリング。
複雑な経緯を持つ兄妹の久方振りの会話は、そんなものから始まるのだった。
●
アース帝国から始まった戦争、その後の『朱キ月』との戦いやらの戦後処理が進む中、フェディスたちの状況はどうなったか。
「……いつまでも『不法占拠』というわけにはいかないだろう」
フェディスは、最初にシュンに、そして住民たちにそう、決意を告げた。
女神教団に、自分の罪とこの村の現状を報告する、と。
敬虔な女神教の信者にとって「土地を違法に占拠すること」というのはそれなりに問題視される。
封魔界は「元々女神の土地だったところを、女神の不在を理由に、女神の騎士だった者たちに割譲しているが、本質的にはこの世界全体が女神の土地である」という宗教観が根付いている。
その土地の領主にとっては「女神から任されている土地」ということで、容易く侵されてはならぬもの、というわけだ。
とはいえ戦時中となれば実際、フェディスの土地のみならず、「女神から託された土地に難民が勝手に居ついてる」というトラブルはあちこちで発生している。
ならば違法状態を長引かせて罪をその分重くし、「緊急時下だったからやむを得ない」という言い抜けも苦しくなるころに発覚、となるよりは、早めに筋を通しておくべきだろう、と。
そうしてフェディスは当初の予定通り、「罪の清算が必要であれば自分一人に」という主張と共に女神教団に出頭した。
……で、どうなったか。
状況を確認に来た教団員に、住民たちはフェディスから受けた恩と情状酌量を滔々と訴え、またその住民たちのモラルも調査に来た者は知ることとなった。
先に言った通り、世界に今難民は大量に発生しており各地で問題が起きている。そこに今、ここに居る住民たちを離散させるような沙汰を取るのが果たして得策か。
検討の結果女神教団は、この土地をこのまま、フェディスを領主とした自治領として認めるよう関係各国に触れを出す形を取った。
土地の管理は勿論、所有する国の法律に依るものではあるが、最初に話した、アルビオンに広く根付いた宗教観によって、女神教団は「土地問題の解決」においては特に強い干渉力を持つ。
各地の領主は「女神から預かった土地である」ということに自負を持つ、ということは逆に言えば、廃村にした、というのは「女神から預かってる土地を管理できてない」という負い目にもなる。咎められこそしないものの、女神教団から「こうやって区画整理をしろ」と言われると逆らい難いわけだ。
まあその他説明しようとすれば色々あるのだが要するに。
フェディスたちの暮らす土地は正式に各国に認められるものとなり、これにより各種機関から復興支援も入ることとなった。罪については、落ち着いてから割賦での賠償、といった形で検討していく、という話し合いもきちんとしたものとして進められていくことになる。
領地に名を付けろ、と言われたフェディスは、少し考えた後に聖剣の名から「デュランダール自治領」とした。この剣は勇者ローランが「自身の力に溺れ、また勇者としての責に囚われすぎたために大切なものを見失った」自戒の為に手元に残したもの、フェディスもまたそれを教訓としていくという決意の表れである。
……そんな形となって。わりあい近い距離にある土地に責任を持つ者同士となったわけで、しこりを放置しておくと後々どんどん面倒になりそうだから、ということで、一度非公式にこうして兄妹で顔を合わせることにしたわけだ。
「まあ、お前からしたら非常にやりにくいだろうし、何なら腹立たしいのも分かるんだが」
「……恨む筋で言うなら、そちらにあることくらい分かっていますよ」
どう言ってやればいいものか、というフェディスに、イルギッタは拗ねたように顔を逸らす。
イルギッタからすれば、フェディスを見ると、負い目……いや、自己嫌悪を強く感じずにはいられない。
いっそ自分たちの土地も立場も奪い取って、はた目にも清々しく復讐でもしてくれればよかったのに。
刻印に惑わされなければ明らかに兄の方が優秀であると露見して立場を追われるという可能性は……自分の空回りでしかなかった立ち回りとは全然無関係な形で霧散してしまって。
依然劣等感を抱いたまま、本来兄がやるべきだった立場を継がねばならない、ということをどう受け止めろというのだ。
「──巨神機は好きか。イルギッタ」
「……はい?」
「天獄界に救援に行ったとき、上空に居た巨神機はお前じゃないのか。兄の欲目かもしれないが……美しい操縦だと、思った」
「……そんなもの、これからどれほど意味があるかもわからないじゃないですか」
急に何の話だ、と戸惑いながらも、浮かぶ羞恥のような想いは先ほどまでとは別の色合いのものに思えて、イルギッタは口ごもる。
「何だろうな、一度、義務感から重ねていた努力から離れてみて、気付いたんだ。神格が無い分、色々なものが人並み以上でなければならないと思う中……剣術だけは、ただ、好きだった。誰かと結果を比べることに拘らずとも。そのことが、俺の中で大きな支えになっていたと、思う」
「……。分かり、ません。私には……」
「まあそうだな。これも人によるか。まあもし役に立てば、くらいのアドバイスだ。……つまりその、お前にも、お前の幸せを見つけてほしいと願っている」
「……」
何も言えなかった。まだどの面下げて妹だと思えばいいか分からないのだから、兄みたいなことしないでほしい。
「……いい加減、本題に入りませんか」
だから、そんな風に話を逸らすしかできなかった。
「ああ。そうだな」
フェディスもそんなイルギッタを受け止めて、そうして互いの近況を軽く確かめて、それぞれの暮らす地へと帰っていった。
●
とまあ、封魔界での後日談としてはこんなところである。
あなたがもし、一度すべてが落ち着いたところで彼らを訪ねてみるというなら、まあそんな近況であるという、そんな話だ。
「……いや、まあ、お前のやりやすい形にしたらいいが。……当分は」
フェディス (mz0132)とイルギッタ・ブラウリング。
複雑な経緯を持つ兄妹の久方振りの会話は、そんなものから始まるのだった。
●
アース帝国から始まった戦争、その後の『朱キ月』との戦いやらの戦後処理が進む中、フェディスたちの状況はどうなったか。
「……いつまでも『不法占拠』というわけにはいかないだろう」
フェディスは、最初にシュンに、そして住民たちにそう、決意を告げた。
女神教団に、自分の罪とこの村の現状を報告する、と。
敬虔な女神教の信者にとって「土地を違法に占拠すること」というのはそれなりに問題視される。
封魔界は「元々女神の土地だったところを、女神の不在を理由に、女神の騎士だった者たちに割譲しているが、本質的にはこの世界全体が女神の土地である」という宗教観が根付いている。
その土地の領主にとっては「女神から任されている土地」ということで、容易く侵されてはならぬもの、というわけだ。
とはいえ戦時中となれば実際、フェディスの土地のみならず、「女神から託された土地に難民が勝手に居ついてる」というトラブルはあちこちで発生している。
ならば違法状態を長引かせて罪をその分重くし、「緊急時下だったからやむを得ない」という言い抜けも苦しくなるころに発覚、となるよりは、早めに筋を通しておくべきだろう、と。
そうしてフェディスは当初の予定通り、「罪の清算が必要であれば自分一人に」という主張と共に女神教団に出頭した。
……で、どうなったか。
状況を確認に来た教団員に、住民たちはフェディスから受けた恩と情状酌量を滔々と訴え、またその住民たちのモラルも調査に来た者は知ることとなった。
先に言った通り、世界に今難民は大量に発生しており各地で問題が起きている。そこに今、ここに居る住民たちを離散させるような沙汰を取るのが果たして得策か。
検討の結果女神教団は、この土地をこのまま、フェディスを領主とした自治領として認めるよう関係各国に触れを出す形を取った。
土地の管理は勿論、所有する国の法律に依るものではあるが、最初に話した、アルビオンに広く根付いた宗教観によって、女神教団は「土地問題の解決」においては特に強い干渉力を持つ。
各地の領主は「女神から預かった土地である」ということに自負を持つ、ということは逆に言えば、廃村にした、というのは「女神から預かってる土地を管理できてない」という負い目にもなる。咎められこそしないものの、女神教団から「こうやって区画整理をしろ」と言われると逆らい難いわけだ。
まあその他説明しようとすれば色々あるのだが要するに。
フェディスたちの暮らす土地は正式に各国に認められるものとなり、これにより各種機関から復興支援も入ることとなった。罪については、落ち着いてから割賦での賠償、といった形で検討していく、という話し合いもきちんとしたものとして進められていくことになる。
領地に名を付けろ、と言われたフェディスは、少し考えた後に聖剣の名から「デュランダール自治領」とした。この剣は勇者ローランが「自身の力に溺れ、また勇者としての責に囚われすぎたために大切なものを見失った」自戒の為に手元に残したもの、フェディスもまたそれを教訓としていくという決意の表れである。
……そんな形となって。わりあい近い距離にある土地に責任を持つ者同士となったわけで、しこりを放置しておくと後々どんどん面倒になりそうだから、ということで、一度非公式にこうして兄妹で顔を合わせることにしたわけだ。
「まあ、お前からしたら非常にやりにくいだろうし、何なら腹立たしいのも分かるんだが」
「……恨む筋で言うなら、そちらにあることくらい分かっていますよ」
どう言ってやればいいものか、というフェディスに、イルギッタは拗ねたように顔を逸らす。
イルギッタからすれば、フェディスを見ると、負い目……いや、自己嫌悪を強く感じずにはいられない。
いっそ自分たちの土地も立場も奪い取って、はた目にも清々しく復讐でもしてくれればよかったのに。
刻印に惑わされなければ明らかに兄の方が優秀であると露見して立場を追われるという可能性は……自分の空回りでしかなかった立ち回りとは全然無関係な形で霧散してしまって。
依然劣等感を抱いたまま、本来兄がやるべきだった立場を継がねばならない、ということをどう受け止めろというのだ。
「──巨神機は好きか。イルギッタ」
「……はい?」
「天獄界に救援に行ったとき、上空に居た巨神機はお前じゃないのか。兄の欲目かもしれないが……美しい操縦だと、思った」
「……そんなもの、これからどれほど意味があるかもわからないじゃないですか」
急に何の話だ、と戸惑いながらも、浮かぶ羞恥のような想いは先ほどまでとは別の色合いのものに思えて、イルギッタは口ごもる。
「何だろうな、一度、義務感から重ねていた努力から離れてみて、気付いたんだ。神格が無い分、色々なものが人並み以上でなければならないと思う中……剣術だけは、ただ、好きだった。誰かと結果を比べることに拘らずとも。そのことが、俺の中で大きな支えになっていたと、思う」
「……。分かり、ません。私には……」
「まあそうだな。これも人によるか。まあもし役に立てば、くらいのアドバイスだ。……つまりその、お前にも、お前の幸せを見つけてほしいと願っている」
「……」
何も言えなかった。まだどの面下げて妹だと思えばいいか分からないのだから、兄みたいなことしないでほしい。
「……いい加減、本題に入りませんか」
だから、そんな風に話を逸らすしかできなかった。
「ああ。そうだな」
フェディスもそんなイルギッタを受け止めて、そうして互いの近況を軽く確かめて、それぞれの暮らす地へと帰っていった。
●
とまあ、封魔界での後日談としてはこんなところである。
あなたがもし、一度すべてが落ち着いたところで彼らを訪ねてみるというなら、まあそんな近況であるという、そんな話だ。
成功条件
条件1 | 封魔界を訪問する |
---|---|
条件2 | - |
条件3 | - |
大成功条件
条件1 | 良い思い出を作る |
---|---|
条件2 | - |
条件3 | - |
解 説
そんなわけでエンディングフェイズ、封魔界の兄妹編です。
エンディングロールで主人公が訪れてるグラフィックと共に「〇〇はその後~」的なテロップが流れてるみたいなあれでしょうか。
まあいつまでも「難民」「不法占拠」でふわふわしてるのもあれなのでこんな形で落ち着きましたよ、と。
色々書きましたが、趣旨としては彼らの元を訪れての勝利の報告&お祝いの回です。
フェディスに会うなら避難してる廃村もといデュランダール領、イルギッタに会うならブラウリング領ですね。
ここに他のNPCが来る理由はないか……? 連れてきてもいいけど。
あ、リッキィか。まあつまり凪池のNPCであれば言えば出てきます。
マスターより
凪池です。
兄妹の件も含めてそう言えばここだけ結構未解決問題あったなみたいな感じで長くなりましたが、エンディング世界周遊イベント第三弾です。
しかしまあ、自分の存在意義にお悩みのイルギッタ嬢ですが、メタ的に考えるとうちが出したNPCで一番プレイヤーの皆さんのお役に立ったの集魔障壁を持ち込んだ彼女ではなかろうかという気がしたりもしている。まあメタな話なんで勿論キャラ的には彼女が咎人に教えたというわけでもないんですが。
まあそう思えばなんやかんやハッピーエンドっぽくなってるのも許せないかな的な。
そんなわけで封魔界のエンディングはこうなりました。よろしくお願いします。
参加キャラクター
-
- シアン(ma0076)
- 人間種|男
-
- シトロン(ma0285)
- 異能種|女
-
- ケイウス(ma0700)
- 神魔種|男
-
- 麻生 遊夜(ma0279)
- 機械種|男
-
- 川澄 静(ma0164)
- 精霊種|女
-
- 鈴鳴 響(ma0317)
- 神魔種|女
- リプレイ公開中