オープニング

●お化け屋敷島にゾンビ
「ゾンビ工場にゾンビが出るんだけど！」
　とJJ(じぇいじぇい)ことジャスティ・ジャッジ(mz0144)が、広場に集まっている咎人達に言った。
　赤みがかった茶髪と陽が当たると金色に見える緑の瞳が特徴的な人間種の青年咎人のJJは、本名こそやたら正義感に溢れているが、本人は別にそこまで正義に固執はしない。人並みの正義感と自分の中のルールみたいなものに従う、基本陽気でお気楽な性格をしていた。
　普段は頼まれればイベント準備の手伝いから異世界での事前調査までこなす『何でも屋』みたいなことをしており、今回はこれまでもJJが手伝って来たお化け屋敷島に関することだった。
　『お化け屋敷島』というのは天獄界に数ある浮遊島の一つであり、日本家屋やら廃病院やら墓地やら、お化け屋敷や肝試しにうってつけな物件が多い島故に、ある神官が積極的にそれら建物や環境を活かしリノベーション、もはやお化け屋敷というかホラー島という方がしっくりくる感じに変化した島だ。
　JJはいつもその手伝いに駆り出され、島のホラー化に貢献しているのだった。
　事前に体験した咎人達の意見も取り入れつつ、恐怖を満喫した後は屋台グルメも楽しめるということもあって、一年通してそこそこの利用者がいるという。
　今回もJJはその島で新しいお化け屋敷――ゾンビ工場――のびっくりポイントなどを作る手伝いをしている最中に、何か困った事態になったということだろう。
　まあつらつらと説明したが、結局いつもの流れだ！

　――という訳で何度目かのこの入りパターンに、JJを前にした咎人があえてスルーしていると。
「ゾンビ工場にゾンビが出るんだけど！」
　お約束でJJがもう一度同じセリフを言った。
　やっぱりそうですか。
「うん。まあ、ゾンビ工場って言ってるんだから、ゾンビ出るよね？　そりゃあ」
「そーなんだけど、ゾンビがガチやねんて！　まあキミらも実際に来て見てみてよ！」
　JJは待ってましたとばかりに若干呆れ気味な咎人達を引っ張って、お化け屋敷島へと連れて行くのだった。

●ゾンビ廃工場
　去年肝試しをやった墓場やお社のある林を過ぎ、赤い桜のある場所とはまた違う場所に、どんよりとした空気を纏う寂れ切った廃工場があった。
　何の工場なのかは分からないが、それなりに広くて大きい。古さを感じる簡素な建物で、外壁は錆や泥、カビなどで汚れ、窓も中が見えないくらいに汚れてひび割れていたり、ご丁寧に血糊で汚されている所もあった。
「うわぁ……」
　いかにもすぎる外観に顔をしかめる咎人達。
「今回はここをちょっとした迷路に改造して、怖い感じにディスプレイされた部屋を通りつつゴールを目指してもらう趣向なんだけどさ」
　とJJが新しい施設の説明を始める。
「前の廃病院とか肝試しとちょっと雰囲気違くない？」
　鋭い指摘に、JJはビシッとその咎人を指さした。
「そう！　今回は洋モノをイメージしてて、今までより血なまぐさい感じになってるんだ。中はグロい精肉工場で、次の部屋のドアかなーと思って開けたら豚頭のゾンビ殺人鬼が飛び出して来るとか、通路を曲がったらギャルゾンビが凶悪なネイル突き刺そうとしてくるとか、そういうヤツ。だいたい道間違えると色んなゾンビがびっくりさせて来る仕掛けだよ」
「うわぁ……いかにもだね」
「そう！　――なんだけど、この中にマジなゾンビエネミーが何体も混じっちゃって」
「はあ！？」
　JJはてへ☆と舌を出してお茶目に笑う。
「どーやったらエネミーが混じるんだよ！？　ワザとやってんじゃないの！？」
「わざとじゃないって！　そこは断じて！　最初は外に出現したヤツらだったんだけど、追ってるうちにこの中に入っちゃってさ。居心地いいのか出て来なくなっちゃったんだよね。この中に一人で入ってゾンビ探すのもめんどくｓ――ガフンゲフンゴフン！　んん、せっかくだからキミらが入って楽しみながらエネミー退治もしてくれればいいかなーと思って！　頼むよ！」
　両手を合わせてのJJのお願いポーズに、咎人達はお互いに顔を見合わせる。
　この流れは毎度お馴染みの流れだった。
「エネミーはそんなに強くないから、お願い！」
「でも、この廃工場の中にはゾンビの仕掛けがあるんだろ？　エネミーもゾンビなら見分けつかなくない？　エネミーと間違えて全部壊しちゃってもいいの？」
「それは困るけど、エネミーはこっちが離れても追っかけて来るから分かるよ！　仕掛けのゾンビは単なる作り物だからそもそも追って来たりできない。あ、そうそう、エネミー退治してくれたら、工場裏に作った休憩所の屋台で例のごとく色々食べてもらっていいよ！　今回は冷やし中華とかフルーツサンド用意したから！　ってことで、おなしゃす！」

　再三のJJのお願いに、咎人達はそれぞれ廃工場へ突入するかどうか思案するのだった。