オープニング
『名を忘却せし女神官』さんの訓練場。そこで約1年の教官代理ボランティアを経て実務教官となった後輩、タチバナ・ミサキ── この日は彼女が初めて訓練生たちを連れて引率任務に当たる日であり、クルトも先輩としてこれに同行していたからだ。
基礎訓練課程を終えた訓練生たちを浮遊島へと連れて行き、咎人としての任務を体験させる疑似任務訓練。訓練生たちは、現地由来の危険生物や敵性存在がいる同地で探索や長距離行軍を行い、実際に自分たちで計画を立て、不測の事態に対処する──その経験を積ませる為の訓練だ。
「分かっているとは思いますが、ミサキさん。非常時を除いて、僕は一切、口も手も出しません。ミサキさんが上手く教導してあげてくださいね」
「わ、分かっているよ、クルトく……先輩。大丈夫大丈夫……前世では園児たちを連れてお散歩してたし」
人という字を手の平に三度書いて呑み込んで(←用途間違い)、訓練生たちの前へと出ていくミサキせんせ。大剣の収まった鞘の石突金物を正面でキンッと地面に突きつつ、生徒たちへと呼び掛ける。
「おいーっす! おはよう、ヤローども。今日は皆が待ちに待った楽しい楽しい遠足です。内容は単純至極。制限時間内に目的地まで行って目標物を持ち帰る。ただし! この浮遊島には元世界由来のキメラという化け物が出るので、上手く排除するなり迂回するなりして、『任務』を達成して帰還すること。お家に帰るまでが遠足です」
……訓練自体は特に問題なく進行していッた。今季の訓練生たちは優秀らしく、特にミサキさんの助言も必要ともせず、無事に目的地へと辿り着いた。戦闘も危なげなくこなし、目的物(ミサキさんが用意したうさぎのぬいぐるみ)を回収して帰路につく。
「な、何もすることがない……助言をすることすらないよ、クルトくん」
「まあ、今季の訓練生には、女神官さんの下での再訓練を望んだ実戦経験者が交じっているらしいから……彼らがリーダーを務めているのかもしれませんね」
「うぅ、教官としての威厳ん……」
異変はその夜── 夜営の最中に発生した。
最初に気付いたのは、交代で見張りに当たっていた訓練生たち。彼らのざわめきに気付いて目を覚ましたクルトが何事かと訊ねる為にテントを出て……赤く染まった夜に言葉を失った。
──天頂に、血の様に真っ赤に染まった『月』があった。それが写した赤い光が、クルトたちが夜営する森の端を──野を、木々をあかくあかく照らしていた。
いや、ソレは本当に空に『あった』ものか……或いは、それは夜空に空いた『穴』のようにも見えた。
夜空の真ん中に空いた、闇よりも昏い昏い虚ろなあな……………………そのあなのなかから、なにかがぽろりとこぼれでた。涙の様に。吐しゃ物の様に。或いは飛び交う蠅の様に。
「ミサキさん。皆を」
クルトが呼びかけた時には、既にミサキは訓練生たちに総員起こしを掛けていた。パニックを起こし掛ける訓練生たちの尻を蹴飛ばし、すぐに装備の着用と整列をするよう命令を発する。
流石、とクルトは口の端を綻ばせた。このような時はやるべきことをはっきり口に出してやる方がいい。やるべきことが与えられれば、とりあえず人はそれに従う。ショックから立ち直るまでの時間が稼げる。
その間にクルトはテントに戻ると、装備を整えながら長距離通信術式でクラリッサを呼び出した。彼女も既に起きていた。
「状況は? 何か判明してますか?」
「アルビオンの魔女がこの天獄界に侵入したようね。あの『紅キ月』を通じて邪神勢力が多数、侵攻中」
「訓練場は? 無事ですか? 女神官さんは?」
「リアお姉さまは無事……まだ寝てる。ここはまだ攻撃を受けていない。いなk……もとい、流刑街からは離れた森の中だから。……連中の多くは神殿に向かっているみたい。それとは別に、何かを探しているような動きも……」
クルトはクラリッサに礼を言うと、殊更急いだ様子を見せずにテントの外へ出た。表では既に訓練生たちが整列を終えていた。やはり今季の訓練生たちは優秀だ。
空を見上げる。先程まで飛び交う蠅の群れの様に見えていた何かの正体が、この時点ではだいぶ大きく見え始めていた。
それは何やら空を飛ぶ魔獣の様に見えた。不定形……いや、有翼の獣の様な? それらが数匹、特に編隊等は組まず、何かを探す様にバラバラに……この浮遊島上空にもやって来て、三々五々降下を始める。
「ミサキせんせは訓練生たちを連れて森へ。そちらの方が空からは見つかりづらい。森を抜けてゲートに向かい、そこから本島へと帰還します。その後の事は……とりあえず、女神官さんとクラリッサさんと合流してから考えましょう」
二人の名を出すと、訓練生たちはどこかホッとしたような顔をした。クルトも苦笑する。どうやら今季も女神官さんたちの悪名、もとい強さの洗礼は正しく受け継がれているようだ。
「よし。では、移動を開始する。可能な限り音は立てるな」
赤い月光の差し込む影絵の森を行く一行…… 時折聞こえて来る奇怪な鳴き声はどんな獣が上げたものか……
クルトが右拳を上げて、手信号で後続に停止を命じる。……獣の様な咆哮と森の木々が倒れる音。我々の行く手で何かが暴れているようだ。
「偵察に行く。ミサキせんせはこの場で皆を……」
「私も行きます」
「しかし……」
「一人じゃ『シールド』も割れないかもしれないでしょう? 皆の事はモビーに任せるわ」
モビーとは先に言及した『実戦経験のある訓練生』たちのリーダー。彼なら大丈夫か。
クルトが先行し、ミサキが後に続く。彼らが到着した時、その『戦闘』は終わっていた。どうやら、この浮遊島由来のキメラを、『赤イ月』由来のキメラが襲撃し、倒したところだったようだ。
数は1。クルトは威力偵察も兼ねてこれを倒すことにした。
森の中、風下から回り込む。前世のクルトは冒険に出るまで故郷の山で狩人をしており、神威ほど絶対的なものではないが隠密行動には慣れていた。
だが、音も立てず、視界にも入らなかったにも係わらず。何か静電気の様なピリッとした感覚を得たと同時に、キメラがグリンとこちらを向いた。
吼え声と共に放たれる雷撃── クルトは木を盾代わりにして一気に距離を詰めていく。放たれる放電の近接防御。それを『シールド』で防ぎながらクルトが大剣によるあほみたいな連撃と連発クリティカルで相手の『シールド』を割り、そこへ飛び込んで来たミサキが敵本体へと斬りつけて……
──2分後。二人はようやく手負いのキメラ一匹を退治を終えた。
「まいったな。こいつ、1対1なら俺より強いぞ」
「私が加わって2対1なら優勢を取れるって感じだったね。らんちぇすたーのほうそく的に?」
クルトはやれやれと息を吐いた。
本島までの道のりはまだまだ長い。
成功条件
条件1 | 半数以上の訓練生&全NPCを連れてゲートから本島へ脱出 |
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条件2 | - |
条件3 | - |
大成功条件
条件1 | ただの一人も脱落させずに、一定時間内に島からの脱出を達成 |
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条件2 | - |
条件3 | - |
解 説
※このシナリオの時系列は、大規模作戦『レインボウティアーズ』第2フェーズ『天獄界防衛戦』開始時辺りです。が、クラスやスキル等の時系列的な矛盾は気にしないでいいです
1.状況
背景はOP本文の通り。PCたちは、OP本文後にクルトたちと合流する咎人たちの一人
クルトたちと協力し、ミサキが率いる訓練生たちを無事に本島へと続くゲートまで辿り着かせてあげてください
柏木分類『戦術系』(目的達成が最優先。敵の存在も障害の一つに過ぎない)です
2.舞台
天獄界のとある浮遊島。森の中→渡河点→ゲート前、と移動
『森の中』
遮蔽物:多
空を飛ぶ赤月キメラからは見つかり難い
むしろ地上の現地由来キメラ(弱)をどうやりすごすか(戦闘は空から見つかり易く)
『渡河点』
遮蔽物:無
徒歩で渡河中に何か空を飛ぶ赤月キメラ(サイズ2)2体に見つかる
地上に降りて来ず、上から電撃雷撃
『ゲート前』
遮蔽物:無
地上になんか複数の赤月キメラ(サイズ2が5体、サイズ3が1体)が屯している
排除するか、強行突破か、それとも……
3.赤イ月の『キメラ』(柏木版)
赤い有翼の魔獣といった外見
身体能力に優れ、戦闘能力も高い。雷系のスキルを使う。雷属性無効
○の○が○○。『○○○○』も○い(機会は一度のみ)
『雷撃』:高威力直線範囲溜め攻撃。射程20。BS『痺れ』付与
『放電』:自己中心範囲3攻撃。R機会射撃可。移動か攻撃キャンセル効果(どちらにRするかによる)
『纏雷』:自己強化(特に回避と『シールド』)。雷属性付与。攻撃にBS『痺れ』効果付与。移動=瞬間移動化。攻撃時、対象の回避・防御半減
『召雷』:毎ラウンド・ファーストアクションタイミングに、範囲内の全てを対象に雷が複数発(ランダム回数×ランダム目標)落ちるZOCを展開。結構痛い
『帯電』:早期警戒能力。一定範囲内に入った対象を察知。イニシアチブ有利
4.NPC
(『マスターより』へ)
マスターより
(『解説』から)
4.NPC
クルト
実力はだいたいPCと同じくらい
全ての攻撃に剛力種シールド特効を乗せた手数攻勢重視か
剛力クリティカルと剛力ド根性で致命を避るタイプの壁役か
なお、両立も出来る模様(
相性の良いクラスやスキルがあれば(チラ
ミサキ
人間種。大剣使い。メガロリスト
クルトたちと比べれば実力は落ちるが、赤月キメラとも戦える力はある
チクチク攻撃(一撃離脱)は正義ですか?
訓練生たち
基礎訓練は終えたが、赤月キメラ相手は無理無茶無謀
モビーたち
聖樹界の草原国。森林要塞戦で2度全滅した元モブ咎人たち
パーティの半数が心を折られて再起不能。残る4人が一から再訓練を受講中
実力はミサキ並
参加キャラクター
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- 川澄 静(ma0164)
- 精霊種|女
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- アナルデール・ウンディーニ(ma0116)
- 人間種|女
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- 小山内・小鳥(ma0062)
- 獣人種|女
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- 透夜(ma0306)
- 機械種|男
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- 氷雨 累(ma0467)
- 人間種|男
-
- フィリア・フラテルニテ(ma0193)
- 神魔種|女
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- 麻生 遊夜(ma0279)
- 機械種|男
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- 鈴鳴 響(ma0317)
- 神魔種|女
-
- ラファル・A・Y(ma0513)
- 機械種|女
-
- 紅雨(ma1464)
- 異能種|男
- リプレイ公開中