オープニング

●ズロイ発見
　ヒー・リショナー(mz0073)は神殿の各活動を手伝いながら、ある簒奪者の行方を追い続けていた。
　簒奪者の名は蒐集衆の１人、ズロイ(mz0073)。
　ズロイは大規模作戦『神々の黄昏』において、空想界パンデモニウムに乗り込んだ咎人達を圧倒的な物量で迎え撃ち、最後まで戦い続けた。
　最終的には配下の従魔達と共に行方をくらませていたものの、恐らく消滅することなくどこかの世界へ逃げたと思われる。
　ズロイ自身はそこまで強くもないが、『軍』と呼べるほど膨大な数の従魔達を生成し、指揮する能力が脅威だった。
　ただその追跡も、そのズロイ当人から連絡が届いたことで解決する。
　――天獄界との間で話し合いを行いたい。こちらに天獄界と敵対する意思はない。
　正確には人幻界の中でも東京と呼ばれる範囲で暮らす人々が、様々な伝手を駆使してズロイの意向を天獄界まで伝えてきた。
　ヒーは神官と相談の上で人幻界へ向かい、情報で指定された場所へと向かう。
「ご無沙汰しております」
　そしてヒーはある建物内の一室で、簒奪者ズロイと幾度目かの邂逅を果たした。

●本題
　警戒するヒーにズロイは着席を促し、自身もテーブルを挟んで向かい合う。
　ヒーはズロイの現状を詳しく聞くことにした。
「人幻界を逃亡先に選んだ理由は？」
「一番生き延びる確率が高いのが人幻界だった。それだけです」
　ズロイの言い分としては、自身の生存確率を上げるためだったようだ。
　既にズロイは非合法のリサイクル業を営み始めていると、『今』の立ち位置を語りだす。
　いまズロイがいる場所も『東京』の範囲に含まれるが、この一帯も過去ズロイの従魔達によって被害を受けていた。
　そのことからズロイへの反発感情を抱く住民達もいるのは確かだ。
　ただ東京に残っている人達は故郷愛が強い者や、ここで生き延びたいという意志の強い人が多く、多少気に入らないところがあっても異世界人だろうと簒奪者であろうと、利用できるものは利用するという逞しさがあった。
　実際ズロイの従魔化能力は動かなくなった冷蔵庫などの家電製品を再び使えるようにしたり、きれいな飲み水を提供するのに必要な機械を稼働状態にしたりするなど、受け入れた場合の実利が非常に大きかった。
　このため住民達はズロイや従魔たちが持つ負の部分も認めつつ、その活動を受け入れ始めている。
「通常の人間たちではシャットアウトの駆除は困難です。だから私が『即時』対処できるようにしました」
　さらにズロイは自身の従魔達を広範囲に展開し、独自のシャットアウト警戒網を敷くなどの対策を講じてきた。
　世界武装を駆使する咎人達と異なり、ズロイや従魔達に『理』を超える力はない。
　シャットアウトへのダメージは常に軽減され続けているが、ズロイや従魔達はその『数』で威力をカバーする。
　いくら従魔が撃破されても他の従魔達が数に任せた乱打でシャットアウトの生命を削り取り、屠ってきたようだ。
「そこまで住民達に肩入れするのは何故だ？」
　ヒーはズロイが住民達や世界を守る理由がわからない。
「この世界――正確には私がいる一帯で暮らす住民達は無償で助けてもらうことを当然視せず、まずは自分達の力で解決しようと努力しているからです」
　どうやらズロイは東京で暮らす住民達の逞しさや意志の強さに好感をもったらしい。
「私から見れば、助ける側が助けるか否か決めていいと言える人間達は貴重です。寿命以外で死なせるのは惜しい」
　だから彼らだけで対処できないシャットアウトを率先して排除している、と。
（そう言えば、気に入った相手には過剰なほど便宜を図っていたな）
　ヒーはズロイの答えを聞き、そのことを思い出す。
　闇掟界ではマフィアの家族を匿い、封魔界ではユウキ達帝国軍部隊に戦力と財宝を提供し、懐地界では妖怪達の一部や社会から見捨てられた人々を救う真似もしていた。
　その一方で、ズロイは世界を滅ぼすために様々な悪事も働くなど矛盾した行動をとっていたが、ズロイの中では両立しているようだ。
　だからヒーは最も重要な点を確認する。
「君はこの人幻界を滅ぼすつもりか？」
「私自身は世界を滅ぼすつもりなどありません。私には何の得もないからです」
　これまで世界滅亡に加担したのは、邪神からの指示に従ったからにすぎないとズロイは言った。
「その言葉、信用していいのかな？」
「私を何だと思っているのです？　人間ですか？」
　毒を含んだ切り返しの後、ズロイはヒーに本来の用件を切り出す。
「そのシャットアウト掃討に協力してもらいたいのですが、可能でしょうか？」
　ズロイは地図を取り出し、現状をヒーに説明する。
　地図の場所は人々が暮らす街から離れているものの、今までより多くのシャットアウトが出現しているため、放置するのは危険だとズロイは判断したらしい。
　既にズロイは現場にいるシャットアウトに従魔達を差し向け、その数や大まかな能力を把握したという。
「後のことを考えますと貴方がた咎人がシャットアウトを倒し、人々を救ったという実績があった方が良いと判断した次第です」
「後のこととは？」
「私が消滅したあとです」
　ズロイはヒーを呼び出した本当の理由について、そう打ち明けた。
「私がいなくなれば、従魔達を使っての作業は不可能になります。そうなる前に貴方がたや現地の住民達が代替案を出さないと大変なことになるでしょうね」
　話を聞く限り、ズロイはそこまで自身の生存に拘っていないようにも見受けられる。
「ただ現地の住民達に不便や我慢を強いることや、私個人や私が手掛けてきたへの悪評を蒸し返すような真似は、住民達の手ひどい反発と咎人達への不信に繋がりますのでお勧めしません」
　ズロイはそのように釘をさす。
　その後ズロイとのやり取りを続けたヒーは、一度この話を天獄界へ持ち帰るとズロイに告げる。
「こちらも根回しは進めておきましょう」
　自身は資金提供に留め、今回天獄界とのコンタクトをとった現地の顔役達が依頼人となる形に話をまとめるとズロイは約束した。
　その後天獄界へ戻ったヒーから報告を受けた神官は、シャットアウト退治の依頼を咎人達に斡旋できるよう動き出す。

●まとめ
　今回の話を短くまとめると以下の通り。
　１。ズロイは人幻界に逃げ込んでいたよ。
　２。ズロイは人幻界の『東京』で住民達の暮らしに貢献し、広範囲に渡って現れるシャットアウトを潰し続けているから、今ズロイを倒すのは得策ではないよ。
　３。今回は目の前にいるシャットアウトを一定数以上撃破すれば目標達成になるよ。
　４。現地住民達への根回しや避難誘導、現場周囲の封鎖は完了しているから、咎人の皆様が対処する必要はないよ。
　５。ズロイに対しより詳細な話を聞き出してもいいけど、やるならシャットアウト退治後のほうがいいよ。