オープニング

　人幻界は相変わらずの復興作業が続いている。
　野良ミニオンやエネミーが少なくなって、流通が回復してきているとはいえ、住む場所を失くした者も多く、未だに煉獄の拠点が機能しているのはその為だ。
　慣れてしまった共同生活――身寄りのない子供達はそれをよしとするし、もう家族同然であるから離れる方が難しい。
　そんな場所を一時は離れていた虎侍だが、今は戻ってきていた。
　正直言うと、戻るつもりはなかったのだが、約束を出されては仕方がない。
　破ってしまえばいいと思うものの、それが出来ないのは彼の性格ゆえだ。
「最近のとらじは前みたいに遊んでくれないからつまんない～」
　学校から帰ってきた少年の一人が虎侍に向かって舌を出す。
　けれど、彼はそれに張り合うつもりはない。
　なぜなら、きっとその方がいい。今までは限定された空間から出られなかったから、やむなく子供達の相手をする事で彼らのストレスを緩和させてきた。
　しかし、今は違う。自分が遊んでやらなくとも発散する場はいくらでもある。
「トラ、戻って来てくれて有難う」
　親友の辰稀が彼を見つけて声をかけた。
　戻ってきた彼は今、残っている者達が暮らす為の手伝いをしている。
　そして自分は適当にテントを張って、拠点の隅で寝泊まりしている。
「別に……人員足りてないなら、多少は手伝えるし。後、約束も守りたかったから、それで少し滞在してるだけだ。落ち着いた暁には、今度こそちゃんと出てくからな」
　虎侍が素っ気なくそう言い、作業を続ける。
「そんないい方しなくてもボクは怒ってないし、それに始めからトラの事頼りにしてるんだけどな～」
　そう言いつつ、辰稀が強引に虎侍の視界に割って入る。
　それを右に左に躱して、虎侍は彼とは視線を合わせないようにしているようだ。
(あぁ、もう強情だなぁ。まぁ、そこがトラのいい所でもあるんだけど、流石にここまでくるとこっちが気になっちゃうよね。昔みたいに笑えとは言わないけど、せめてその背負い癖を何とかしてあげたくなる)
　それに気付いていて辰稀は今後どうすればいいか思案する。
　そして、ふと思い浮かんだのはやはり『咎人』の存在だ。
　今まで彼を支えてくれた存在であるから、今回もきっと何とかしてくれる筈だ。
　何とかならなくとも、少しでも虎侍が楽しいと思える時間が増えれば、それでいい。
(トラはいっぱいいっぱい頑張ってきたもんね。もっと幸せにならなきゃ)
　虎侍を追うのをやめて、じぃーーと見つめ返し辰稀が二コリと笑う。
「あぁ？　何だよ、気持ちわりぃなぁ」
　それを見て虎侍はそう言い、そそくさとその場から離れていこうとした。
「ちょっ、親友に向かって今なんてったの。よーし、こうなったら」
　それを聞いて、辰稀が年甲斐もなく虎侍に飛びついて……。
　その不意打ちにバランスを取られて、どしゃっと地面に倒れ込む二人。更にはその様子を目撃した茶太郎までやってきて、にゃーにゃ―御飯の催促を始める。
「あぁ、もうなんだってんだよ……」
　虎侍がげんなりした顔で呟いた。