オープニング
人同士の、血みどろの戦いが繰り広げられる戦場――とある世界、簒奪者により崩壊が確定された古の昔。
「兄上を離せ、化け物っ!」
聖槍の乙女と謳われた年若い鎧姿の姫騎士が、その手に大いなる力持つ聖槍を持ちて、切っ先を突き付ける。
『あらぁ、こんなのにまだ拘ってるのかしらぁ?
もう雄としての精も、魂の奥深き髄まですすり取られた、こんながらくたにぃ、くふふっ、あはははははぁ!』
「貴様ぁあああっ!!」
簒奪者、その存在を知った時には全てが遅きに逸していた。大戦の流れは押し留められず、世界は加速度的に国と国がつぶし合う戦国を超えた地獄へと変わり果てていた。
人々から慈愛は、秩序は失われ、強者が弱者を食い物にし、弱者はより弱者たる者たちを蹂躙し、奪い、殺し始めた。
たった一人残った肉親、家族である最愛の兄を心の支えに戦い抜けてきた姫騎士にとって、彼こそがこの破滅を齎す引き金となる様、操られ続けた傀儡だった等と到底受け入れられるものではなかった。
だが、それでも真実は残酷なまでに彼女の前に突き付けられて。
『ふふ、これがそんなに欲しければぁ、返してあげてもいいのよぉ?
その代わりぃ、貴女の手にあるその聖槍を、こちらに渡しなさいなぁ……くふ。
世界の創生に関わった神が遺した、支柱たる神器、そしてそれを手にする乙女。
……さあ、貴女は兄とそれと、どちらを選ぶのかしらぁ?』
特異点、それはその瞬間が、『特定の何か』が訪れるまで決して崩される事はない、無敵の存在。
その為に世界が動き、それを守り続ける世界法則。
だがそれが人であった場合、その『機会』へと誘導する事はそう難しくはない。この世界の場合は、特異点たる本人に魂の底から選択させればよかっただけだ。
破滅踊り狂う滅亡の瀬戸際に【世界か、それとも最愛の兄か』と。その結末は――
●
「あらぁ、もう調整は馴染んだのぉ?」
『……(こくり)』
軽装のグリーブを床に鳴らし歩いて来る人影に、別の影が言葉を掛ける。
薄手のボディスーツに急所各部を守るガーダー程度の防具を身に着けた、黒い槍を持った少女は、小脇に抱えていたフルフェイスを被り、声に主に頷きを返した。
黒槍(こくそう)、聖樹界にてそう呼ばれている意志なき簒奪者の一人である。
ここは彼女らが異世界へと渡る為の、ゲートの幾つかを管理する広場であり、似たような場所は他にも幾つも存在する。
その中央には、見上げるほどに巨大な山のような存在が蹲り、規則的に緩やかな微動を……寝息を立てていた。
「そう、今回は戦闘プログラムの改良の為に、多少過去まで記憶を戻しちゃったからぁ、心配してたのよぉ。
じゃあはい、ゲートは開いたわよぉ、いってらっしゃいなぁ」
『………』
言葉もなく、ただ命令の為に動き続けるだけの人形に堕ちたかつての乙女。
それを見送った20代前半くらいの妖艶な美女は、退屈そうに視線だけを向けてゲートを閉じようとして――。
「うん、母様?
イルダーナフなんてぇ、前に十分観光したじゃない?
ん~、咎人達の干渉で、面白くなりそう……かぁ」
独り言のように見えて、彼女の中には【母様】と呼ぶ確かな存在が念話によって言葉を送り込んできている。視線が向けられるのは、広場に蹲る巨大な何か。
頭部を見れば三角の耳があり、頬には髭があり、尾は――13本。
ただし一本だけが半ばから先が消失しており、断面は光り輝く粒子を渦巻かせていた。
遥かな昔、世界の守護獣でありながらそれを『もう見飽きた』の一言で見放し、滅亡に至るまでを観測する事で最後の好奇心を満たし、消えようとした古き土地神の一柱。
だがその怠惰にして、好奇心の塊のような獣神を邪神は気に入り、配下へと引き込む。
そうして彼女、大尾妖【青眼白毛十三尾の猫又】はここで延々と惰眠を貪り、夢を見続けている。
異世界に放った分霊が、文化を、文明を、観覧し、体験し、味わう事で送られてくる観光の夢を。
本体である彼女と念話を交わしている女こそが、その分霊。
【13本目にして12の娘、十三姫(くしひめ)】と名乗っている。
「……だったら母様、さっきの子を使って、まずは様子見をするのは如何かしらぁ?」
言いながらも、何処か愉しそうにゲートへと視線を向ける十三姫の視線には、ただひたすら好奇心だけに煌めいて。
●
――時は、ロンデニオン城塞にて魔王軍との先端が開かれる、一週間ほど前。
魔王軍の侵攻を観測する斥候部隊が留まる隠し砦に、咎人達の一行は物資運搬の護衛依頼を受けて同行していた。
「今回の任務も、皆さんがいてくれるお陰で頼もしいです」
そう言ってにこやかに、共に騎乗して並びながらあなた達に語り掛けてくるのは、魔法騎士団所属のセルグリット・ロータス。
護衛小隊の隊長として抜擢されていた彼は、かつて故郷の村を襲われた時、咎人と共に撃退したものの犠牲者の家族や親しかった知人たちから責められていた青年だった。
あの後も騎士団で戦乱の中を生き抜き、村の生存者達とも多少の和解を見ながら、以前よりより少しばかりの成長を見せている様だった。
しかし、砦に到着し、僅かな休息を取り始めた頃合いに騒動は起きる。
『て、敵襲だー!! ギャッ!?』
偽装された入り口にて、門番を務めていた兵の警告と断末魔が響き渡る。
「!! 皆さん、行きましょう!」
騎士セルグリットは、あなた達にそう声をかけて天幕から飛び出す。
だが、疾風の如く迫る敵影を見て悲鳴を上げてしまう。
「あの姿はっ、まさか黒そっ!? ぐぁっ!」
初撃を何とか剣で逸らすものの吹き飛ばされた彼を庇い、武具を手に敵と相対する咎人達。
敵もまた、既に魔法騎士は眼中になく、強者たる故に自身の呼び水となった咎人達にのみ殺意を向けて。
そんな状況を、砦からかなり高い上空より見下ろす一つの存在。
簒奪者としての気配を可能な限り抑える隠形結界に身を包み、眼下の砦で始まったばかりの戦闘を観察していた。
「あらあらぁ、やっと見つけたと思ったら……戻って早速なんて、元気な子ねぇ。
ま、丁度いいわぁ、咎人もいるみたいだしぃ……少しは面白い見世物になるかしらぁ?」
成功条件
| 条件1 | 黒槍の撃退 |
|---|---|
| 条件2 | - |
| 条件3 | - |
大成功条件
| 条件1 | 黒槍の討伐 |
|---|---|
| 条件2 | - |
| 条件3 | - |
解 説
戦場は森の中の、小さな隠し砦。
木々に囲まれたちょっとした岩場で、藪の様に偽装された獣除けの柵で囲まれた場所(縦横20スクエア)。
砦内は狭く足元も不安定な為、騎乗のままで戦うと命中及び回避にペナルティ(三割減)。
黒槍は咎人の強者たる気配を嗅ぎつけて襲撃してきました。既に斥候部隊は散開して身を潜めながら砦の外を囲んでいます。
つまり隠し砦の斥候部隊、実は咎人のとばっちり受けただけというね?(言わない限り気付きませんが)
彼らの実力では天地がひっくり返ろうと敵いませんので、せめて逃亡の阻止くらいはと言う所ですが、実際には無理です。
セルグリット君は久々登場ですが、彼の実力ではどうやっても敵わない処か、咎人達の邪魔になるのを自覚している為、部下と共に外の囲みに参加する心算。
要請されれば支援(遠距離魔法攻撃・防御BUFF魔法)しますが、標的になると普通にワンラウンドキルされますのでご注意を。
●NPC戦力(判断基準)
セルグリット・ロータス:総合力750程度
部下三名:総合力650程度
斥候部隊の皆さん:平均400程度
●敵戦力
簒奪者“黒槍”:総合力不明
前回含め合計5死済み。
戦闘手段は前回を参照。
マスターより
猫又の分霊は色んな世界に観光としてちょろちょろしている為、天獄界にも発見、遭遇情報は存在します。ただまともに敵対した事がないので外見情報くらいしかない。
なお、ちょっかい出した咎人もいますがのらりくらりと逃げられ、本来の戦闘様式すら未知数。
OPに居る簒奪者は口調から彼女と分かるかも知れませんが、あの頃はたまたまクライマックスに立ち寄ったので、最後に面白半分で【特異点】を思いっきり煽るだけの為に参戦したという立場で、実は滅び去った世界に実害は特に与えていなかったりします。
行動原理は好奇心が最優先な、世界を渡り歩く迷惑観光客的な存在と思えば、大体あってるクマー。
参加キャラクター
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- レジオール・V=ミシュリエル(ma0715)
- 剛力種|女
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- ザウラク=L・M・A(ma0640)
- 機械種|男
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- マイナ・ミンター(ma0717)
- 人間種|女
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- 火存 歌女(ma0388)
- 機械種|女
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- 夕凪 沙良(ma0598)
- 獣人種|女
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- 川澄 静(ma0164)
- 精霊種|女
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- ケイウス(ma0700)
- 神魔種|男
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- 葉山 結梨(ma1030)
- 人間種|女
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- リナリア・レンギン(ma0974)
- 人間種|女
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- フリッツ・レーバ(ma0316)
- 剛力種|女
- リプレイ公開中




