オープニング
●盟約
妖鉄界ヤルダバオトでは、デミウルゴスと名乗る機械生命体との戦いが続いている。
邪神の手先である簒奪者はデミウルゴスと協力し、特異点を探し出し世界崩壊のために動いている……というのが天獄界の見解だ。
しかし不夜城の方針はそれぞれで大きく異なり、城主によっては簒奪者と協力どころか積極的に排除しようとする者までいる。
それがここ、ブライムの不夜城と呼ばれる場所でのことである。
「放せこのっ……! なんなんだよいったい!?」
板前姿の簒奪者……つい最近咎人達によって捕らえられ、鉄騎に身柄を引き渡された男である。
男性のみを紫色の肌にする病気にする能力を持つが、機械である鉄騎やデミウルゴスには通用するはずもない。
屈強な鉄騎に両脇を固められ引きずられていく様は、まるで捕まった宇宙人のようだった。
『……』
不夜城の主、ブライム=デミウルゴスは無表情のモノアイで簒奪者を見つめたまま、玉座に座して動かない。
沈黙の豪将などと呼ばれているだけあって、ペラペラ喋ったりはしてくれないのだ。
「なんとか言えよ! ゼハイル=デミウルゴスとは話が付いてるんだ! これは明らかな盟約違反だぞ!」
『あー、申し訳ないんですけどね、うちの不夜城はゼハイル様のところとは指揮系統が違うんですよ。一個の王国って言うんですか?』
いきり立つ簒奪者を見かねた秘書官ロボットのマイズが、主に代わって状況を説明する。
不夜城はそれぞれ独立しており上下はない。他所の不夜城との契約なんぞ知ったことじゃないし、我らの地に勝手に踏み入り勝手な工作をしたそちらに非がある、と。
「はぁ!? まだ字の氏族を制圧できてないならあんたの土地じゃないだろ! こっちだって色々あるところをそっちの顔を立てて静かに事を進めてたってのに……全部台無しだ! どうしてくれる!」
『これはまた恩着せがましい。字の氏族との戦いに勝手に介入しておいて顔を立てたなんて、よくも恥ずかしげもなく言えますね。戦いに横槍を入れることはヤルダバオトでは絶対禁止のルールでしょう? 知らないんですか?』
「……は? お前らこの世界の戦争のルール守って戦ってるのか? 馬っ鹿じゃないのか、何の意味があるんだよ! 奪え、殺せ、滅ぼせが俺たち簒奪者とお前らデミウルゴスとの共通点であり歩み寄る理由だろうが! それとも、字の氏族と咎人、簒奪者に他の不夜城まで相手にして勝てるつもりか、たかが一つの不夜城が!」
その言葉はマイズにとっても痛いところだった。マイズ自身が思っていることでもあったのだ。
確かにブライムは強いが、先日咎人に迎撃され逃げ戻った事実もある。
その際に得た戦闘エネルギーで強化してはいるが、これ以上敵を作るのは上手くない。
しかし、ブライムは黙ったまま立ち上がり……ゆっくりと簒奪者の前に立つ。
「何だよ? 今更協力してくれって言ったって遅―――」
ぐしゃっ。
まるで紙細工でも潰すかのように、ブライムは簒奪者に掌を叩きつけ血の花を咲かせた。
死んだことすら知覚できないような、迅速かつ圧倒的な死を与えられ、哀れな簒奪者はそのまま消滅した。
『えぇ……沸点低すぎません? ブライム様……』
『……』
ブライムは黙ったまま玉座に戻り、また座して語らなくなってしまった。
その様子にマイズは『これはこの土地は簒奪者にも目の敵にされるなぁ』と、自分たちだけでなく字の氏族にも同情を禁じえなかったという。
●暴風注意
さて、不夜城でそんなやり取りがあったことなど知る由もない字の氏族たちは、次々と現れる鉄騎の対処に加え簒奪者らしき連中への対応に追われていた。
鉄騎ならまだ氏族だけで倒せるが、簒奪者はかなり厳しい。咎人の協力がないと被害が大きくなりすぎる。
長であるアヤメやショウブならいい戦いができるかも知れないが、自分たちの長を軽々に死地に送り出すのは正直避けたい。
そんなある日、連城にある報告が入った。
「竜巻を纏った少女……? それはやはり簒奪者ですか?」
「おそらくは。少なくともデミウルゴスの手の者ではないでしょう。何せ鉄騎にも見境なく襲いかかっておりましたので」
伝令から報告書を受け取ったアヤメは、つらつらと読んでから眉を寄せる。
黒い竜巻を纏っているので正確な姿は分からないが、影と声から若い少女ではないかと目されているらしい。
嗜虐的な声を出し、壊れろ壊れろと人や物、鉄騎にも襲いかかる狂犬のような存在。
強烈な竜巻のせいで弓矢や字術などの遠距離攻撃は効かず、近づこうにも弾き飛ばされて無意味と、氏族だけではどうしようもないらしい。
何度も何度も咎人を呼び立てて協力を仰ぐのは心苦しいが、放っておけば被害は増えるばかり。
アヤメは個人である前に長。氏族のためなら、心寄せる憧れの存在だろうと使えるものは使わなくてはならない。
「……わかりました、後の対処はわたくしが請け負います。現地には『被害状況を調べ、治療と家屋の再建に専念なさい』と伝えて頂戴」
「はっ!」
伝令兵が謁見の間を出ていくと、アヤメは一人ため息を吐いた。
ヤルダバオトでも有数の使い手であると自負していた自分やショウブが、咎人や簒奪者の前では子供扱い。上には上がいるものだとやるせなくもなる。
どこまでやれるか。どこまで伸びるか。最後にそうやって自分を追い込んだのは、いつのことだったか……。
「……ショウブに家督を譲って……なんて、流石に我儘が過ぎるわよね……」
きっとショウブは長になることなど嫌がるだろう。それにあれは自由であって初めて力を出せる子だ。
アヤメは自分の弱い心を振り払い、咎人への連絡を行うのだった―――
妖鉄界ヤルダバオトでは、デミウルゴスと名乗る機械生命体との戦いが続いている。
邪神の手先である簒奪者はデミウルゴスと協力し、特異点を探し出し世界崩壊のために動いている……というのが天獄界の見解だ。
しかし不夜城の方針はそれぞれで大きく異なり、城主によっては簒奪者と協力どころか積極的に排除しようとする者までいる。
それがここ、ブライムの不夜城と呼ばれる場所でのことである。
「放せこのっ……! なんなんだよいったい!?」
板前姿の簒奪者……つい最近咎人達によって捕らえられ、鉄騎に身柄を引き渡された男である。
男性のみを紫色の肌にする病気にする能力を持つが、機械である鉄騎やデミウルゴスには通用するはずもない。
屈強な鉄騎に両脇を固められ引きずられていく様は、まるで捕まった宇宙人のようだった。
『……』
不夜城の主、ブライム=デミウルゴスは無表情のモノアイで簒奪者を見つめたまま、玉座に座して動かない。
沈黙の豪将などと呼ばれているだけあって、ペラペラ喋ったりはしてくれないのだ。
「なんとか言えよ! ゼハイル=デミウルゴスとは話が付いてるんだ! これは明らかな盟約違反だぞ!」
『あー、申し訳ないんですけどね、うちの不夜城はゼハイル様のところとは指揮系統が違うんですよ。一個の王国って言うんですか?』
いきり立つ簒奪者を見かねた秘書官ロボットのマイズが、主に代わって状況を説明する。
不夜城はそれぞれ独立しており上下はない。他所の不夜城との契約なんぞ知ったことじゃないし、我らの地に勝手に踏み入り勝手な工作をしたそちらに非がある、と。
「はぁ!? まだ字の氏族を制圧できてないならあんたの土地じゃないだろ! こっちだって色々あるところをそっちの顔を立てて静かに事を進めてたってのに……全部台無しだ! どうしてくれる!」
『これはまた恩着せがましい。字の氏族との戦いに勝手に介入しておいて顔を立てたなんて、よくも恥ずかしげもなく言えますね。戦いに横槍を入れることはヤルダバオトでは絶対禁止のルールでしょう? 知らないんですか?』
「……は? お前らこの世界の戦争のルール守って戦ってるのか? 馬っ鹿じゃないのか、何の意味があるんだよ! 奪え、殺せ、滅ぼせが俺たち簒奪者とお前らデミウルゴスとの共通点であり歩み寄る理由だろうが! それとも、字の氏族と咎人、簒奪者に他の不夜城まで相手にして勝てるつもりか、たかが一つの不夜城が!」
その言葉はマイズにとっても痛いところだった。マイズ自身が思っていることでもあったのだ。
確かにブライムは強いが、先日咎人に迎撃され逃げ戻った事実もある。
その際に得た戦闘エネルギーで強化してはいるが、これ以上敵を作るのは上手くない。
しかし、ブライムは黙ったまま立ち上がり……ゆっくりと簒奪者の前に立つ。
「何だよ? 今更協力してくれって言ったって遅―――」
ぐしゃっ。
まるで紙細工でも潰すかのように、ブライムは簒奪者に掌を叩きつけ血の花を咲かせた。
死んだことすら知覚できないような、迅速かつ圧倒的な死を与えられ、哀れな簒奪者はそのまま消滅した。
『えぇ……沸点低すぎません? ブライム様……』
『……』
ブライムは黙ったまま玉座に戻り、また座して語らなくなってしまった。
その様子にマイズは『これはこの土地は簒奪者にも目の敵にされるなぁ』と、自分たちだけでなく字の氏族にも同情を禁じえなかったという。
●暴風注意
さて、不夜城でそんなやり取りがあったことなど知る由もない字の氏族たちは、次々と現れる鉄騎の対処に加え簒奪者らしき連中への対応に追われていた。
鉄騎ならまだ氏族だけで倒せるが、簒奪者はかなり厳しい。咎人の協力がないと被害が大きくなりすぎる。
長であるアヤメやショウブならいい戦いができるかも知れないが、自分たちの長を軽々に死地に送り出すのは正直避けたい。
そんなある日、連城にある報告が入った。
「竜巻を纏った少女……? それはやはり簒奪者ですか?」
「おそらくは。少なくともデミウルゴスの手の者ではないでしょう。何せ鉄騎にも見境なく襲いかかっておりましたので」
伝令から報告書を受け取ったアヤメは、つらつらと読んでから眉を寄せる。
黒い竜巻を纏っているので正確な姿は分からないが、影と声から若い少女ではないかと目されているらしい。
嗜虐的な声を出し、壊れろ壊れろと人や物、鉄騎にも襲いかかる狂犬のような存在。
強烈な竜巻のせいで弓矢や字術などの遠距離攻撃は効かず、近づこうにも弾き飛ばされて無意味と、氏族だけではどうしようもないらしい。
何度も何度も咎人を呼び立てて協力を仰ぐのは心苦しいが、放っておけば被害は増えるばかり。
アヤメは個人である前に長。氏族のためなら、心寄せる憧れの存在だろうと使えるものは使わなくてはならない。
「……わかりました、後の対処はわたくしが請け負います。現地には『被害状況を調べ、治療と家屋の再建に専念なさい』と伝えて頂戴」
「はっ!」
伝令兵が謁見の間を出ていくと、アヤメは一人ため息を吐いた。
ヤルダバオトでも有数の使い手であると自負していた自分やショウブが、咎人や簒奪者の前では子供扱い。上には上がいるものだとやるせなくもなる。
どこまでやれるか。どこまで伸びるか。最後にそうやって自分を追い込んだのは、いつのことだったか……。
「……ショウブに家督を譲って……なんて、流石に我儘が過ぎるわよね……」
きっとショウブは長になることなど嫌がるだろう。それにあれは自由であって初めて力を出せる子だ。
アヤメは自分の弱い心を振り払い、咎人への連絡を行うのだった―――
成功条件
条件1 | 簒奪者の撃破 |
---|---|
条件2 | - |
条件3 | - |
大成功条件
条件1 | 簒奪者の消滅 |
---|---|
条件2 | - |
条件3 | - |
解 説
・妖鉄界ヤルダバオト、字の氏族の領内にある平原が舞台です。
・そこに現れた簒奪者を撃破するのが目的です。
・その簒奪者は常に黒い竜巻を身に纏い、人も建物も関係なく壊して回っています。
・鉄騎にも襲いかかっており、皆さんが到着するまでは鉄騎と簒奪者の戦いが発生します。
・姿は確認されていませんが、竜巻の中に見えるシルエットと声から若い少女であろうと推察されています。
・竜巻は魔法だろうが銃だろうが遠距離攻撃を弾き、接近しても体ごと弾き飛ばすほどの風力です。まずは竜巻をどうにかしないとまともな戦闘になりません。
・単純な簒奪者撃破依頼です。敵の増援などもないので簒奪者に対処することだけ考えていただければOKです。
マスターより
皆さんこんにちは。ブライムくん何考えてんのと思っている西川一純です(お前がかよ)
侵略行為を行うなら敵や対処する事柄は少ないほうがいいに決まっています。それでもブライムは簒奪者を認めません。
彼が望むのは戦いであり死や滅びではありません。そういう意味ではまだ咎人のほうが付き合いやすいのでしょう。
兎に角、字の氏族のためにも今は荒れ狂う暴風娘を撃破してください―――
参加キャラクター
-
- 不破 雫(ma0276)
- 人間種|女
-
- 小山内・小鳥(ma0062)
- 獣人種|女
-
- ラファル・A・Y(ma0513)
- 機械種|女
-
- ハル・エスペラント(ma0579)
- 剛力種|女
-
- 雪切・刀也(ma0506)
- 剛力種|男
-
- フリッツ・レーバ(ma0316)
- 剛力種|女
-
- 氷雨 累(ma0467)
- 人間種|男
-
- フィリア・フラテルニテ(ma0193)
- 神魔種|女
- リプレイ公開中