オープニング
流刑街の最下層。
青空の陽が届かなくとも通りの空気は爽やかに晴れ渡り、夜空の光が届かなくとも通りの街灯は濃淡に朧煌めく。
“私を忘れないで”と花言葉を伴う勿忘通りには、お洒落で可愛らしく、神秘的で素敵な店がたくさんある。雑貨店、ランジェリーショップ、パティスリー、洋服店――。本日はその隣に位置する店、青薔薇と黒を基調とした店内が人気のカフェ『Blanche』に焦点を当てよう。
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「Non! 味のアクセントが足りない。こちらのプティングは舌触りが駄目だ。きめ細やかさが全く足りていないじゃないか」
ゴシック調をコンセプトに設計、デザイン、施工された店内の一角の席に腰をかけるのは、この店のオーナーであるファルセット(mz0034)だ。円形タイプのテーブルにはロイヤルブルーのテーブルクロスが敷かれており、その上には幾つものスイーツが据えられている。だが、それはまだ試作品の段階のようで、最終チェック――つまり、オーナーの“舌”がOKを通さない限り、お披露目はされないのだ。
斜めに被った黒ハットのブリムを細い指先で押し上げ、切れ長の双眸を上目に、ファルセットは横で立ち並ぶパティシエやパティシエール達を一瞥するように視線を走らせた。
「私は初夏をイメージした美しいスイーツと伝えたはずだよ。ここに並べられたのは只の――」
カタン、カラカラ。
その時、店の扉に掛けられた本日休業のプレートが、ファルセットの言葉を遮るように乾いた音を立てた。張り詰める空気が漂う店内をずかずかと我が物顔で進んできたのは、『Pomme』のオーナー、ジルバ(mz0027)だ。朝から缶詰めになって新作スイーツの開発に勤しむファルセットの様子を見に来たのだろう。
「――おっと、まだやってたのかよ。もう日が暮れるぜ? 今日はその辺にしといたらどうだ?」
彼はすっかり萎縮してしまったパティシエ達に「お疲れさん」と労いの言葉をかけてやると、下がっていいと視線で促した。それについてファルセットが何かを言うわけでもなければ、テーブルを彩る数々の試作品が、腹を空かせたジルバの口へ消えていく様子にも、眉一つ動かさずに只眺めているだけであった。
時折、相槌を打つように声を漏らしていたジルバの口が、ナプキンで拭われる。
「ごっそさん」
「口に合ったかい?」
「まあ、そうだな。甘くねぇスイーツも食ってみてぇもんだが」
「“まあ”?」
「何だよ」
「平らげておいてよく言うじゃないか」
「一流のパティシエらが作ったんだろ? 味はよかったぜ、彩りも綺麗だったしよ。只、まあ、評論家でもなんでもねぇオレの口からしてみりゃあそんくらいってことだな」
遠慮する間柄でもない為、率直にそう言いながらジルバが腰を掛けると、ファルセットは「ああ、嗚呼……」と失望するように溜息をつく。
「そうだ。只普通に美味しい、それだけだ。只ありふれて美しい、それだけだ。わかるかい? ジルバ。ああ、嗚呼……! なんて嘆かわしい」
先程よりも深くついた息を背もたれに引きながら、お手上げと言ったように両手を挙げた。
「要は、どんだけ味が美味くても見てくれがよくても、お前が納得するもんが出てこねぇってことだろ?」
返答の代わりに、ファルセットは広げた右手の平の人差し指を、ぴっ、と、ジルバへ向ける。
「確か、期間限定のメニューを考えてるんだよな」
「ああ、初夏をイメージしたスイーツをね。あわよくばドリンクもと考えていたんだが、どうやら先行きが怪しいようだ」
「お前のコンセプトは?」
「? 今更何を。美だ。この店に存在するものは全てそれに基づいている」
「それだけじゃねぇだろ。珍しくお抱えのパティシエらを困らせてんだ。言えよ、何がしっくりこねぇんだ?」
見透かした紫水晶の双眸が、物思いに伏せるファルセットを静かに据える。
「そうだね……言うなれば、感動と感激の違いかな」
「あ?」
「思いがけずそうしてもらえた時の、心の揺さぶりだ。余所から与えられる感情だよ。他人からの親切や思いやり、優しさ――感動を越える感激。以前、君が洋服店の依頼で募ったことがあっただろう? 過去の世界を語ってもらうあれだ」
「ああ」
「実に美しかった。物語は形を成し、見る者の視野を変える」
「なるほどな。それに似たことを食いもんでやりてぇってことか」
「スイーツだ。真似事と言われるのは些か不本意だがね。趣向を凝らすには徹底しなければ」
「なら、頼る毛色を変えてみたらどうだ?」
「君のようにかい?」
「あん時お前もいただろ。結末は?」
「Tres bien」
頬を傾けた角度で覗く片方の瑠璃が、光を帯びてジルバを捉えた。
「提案したからには君にも協力してもらうよ」
「いつ」
「明日だ。善は急げというだろう」
「んじゃ、櫻にも声かけとくわ」
「櫻? 彼は甘いものが苦手では?」
「甘いもんだけがスイーツじゃねぇだろ?」
「なるほど」
ファルセットは美しく組んでいた長い脚を下ろし、椅子から立ち上がると――
「美と舌鼓、ストーリーを込めたスイーツを提供――か。ん、いいね」
ブリムを指先で、つい、と、撫で、口の端を上げた。
成功条件
| 条件1 | 初夏、美、舌鼓、物語性を兼ね備えたスイーツメニューの開発 |
|---|---|
| 条件2 | - |
| 条件3 | - |
大成功条件
| 条件1 | スイーツとは別に、初夏のドリンクメニューを誰かが一品でも開発 |
|---|---|
| 条件2 | - |
| 条件3 | - |
解 説
舞台は流刑街の最下層にあるカフェ『Blanche』
店内は青薔薇と黒を基調としています。
今回の依頼とは直接関係はありませんが、カフェにはドレスコードがあり、白色のものを身に着けていないと(服や装飾など)店に入れませんが、身に着けていなくとも店側が男性には白いハンカチーフ、女性には白薔薇のピンブローチを渡す仕様になっている為、それを身に着ければ入店可能。
テーマは初夏。
コンセプトは美、舌鼓、物語性。
それらを兼ね備えた期間限定スイーツの商品開発のお手伝いが今回の依頼です。
甘いメニューにするか甘くないメニューにするかは自由。
一人で考え作るも、複数で一つのメニューを考え作るも、考えたメニューをパティシエに作ってもらうも、自由です。NPCにアドバイスを求めることも出来ますが、殆ど聞き役になります。
調理場はカフェの厨房。広いので、全員が一度に作れます。大抵の材料はあります。
試作品の味見はファルセット、ジルバが行います。
櫻は甘いものが苦手な為、甘くないスイーツしか味見はしません。
>NPC
ジルバ:
洋服店『Pomme』のオーナー兼デザイナー。
ファルセット:
カフェ『Blanche』のオーナー。洋服店『Pomme』のパタンナー兼モデルでもある。男装の麗人。
櫻:
ジルバがオーナーの雑貨店の店主。今すぐ辞めたい。
※菓子作りが得意なPCが有利ということはありません。
マスターより
お世話になっております。愁水です。
初夏は太陽の陽射しが日に日に強さを増してくる季節ですが、瑞々しいスイーツが一番美味しく感じる時期でもあります。当方は。
OPでもファルが言っておりますが、只美味しく只美しいスイーツでは依頼を成功に導けません。皆様の発想、楽しみにしております。
又、示し合わせが必要の際はお手数をおかけしますが、コミュ等でよろしくお願い致します。
皆様のご参加、心よりお待ちしております。
関連NPC
参加キャラクター
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- リムナンテス(ma0406)
- 神魔種|女
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- 鈴(ma0771)
- 神魔種|女
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- 魅朱(ma0599)
- 剛力種|女
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- ルナール・レルム(ma0312)
- 機械種|男
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- 草薙胡桃(ma0042)
- 神魔種|女
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- 空木(ma0831)
- 異能種|女
- リプレイ公開中






