オープニング
●犠牲
咎人と簒奪者の戦いは、悠久の彼方より続いている。
片や世界を滅ぼそうとし、片やそれを阻止せんと抗う。それが無数の異世界・並行世界の分だけ起こるのだから終わろうはずもない。
だからこそ、連綿と続く戦いの中には悲劇も起こるわけで……。
「もうダメだ……遺憾ながらこの世界を放棄する! 総員撤退!」
「待ってください、散り散りになってるんですよ!? 負傷した者だっています、イデアゲートまで辿り着けないやつも出てきますって!」
「それでもだ! 粘って未帰還者を増やすのとどっちがいい!?」
「ぐっ……!」
紅く染まった空。引き裂かれる大地。山は爆発し、海からは津波が押し寄せる。
簒奪者の介入により特異点を破壊され、崩壊の道を辿った世界……咎人が敗北した世界。
中国四川省を最終決戦場としたこの並行世界での戦いでは、死を厭わぬ簒奪者の群れに咎人たちが各個撃破されてしまったのだった。
通常、咎人は世界の崩壊に巻き込まれたとしても死に戻りするため大した痛手にはならないが、その前に深手を負っていたとしたら話は別。
死にかけているところにオーバーキルの破滅をその身で味わえば、心かイデア体のどちらかに深刻な傷を受け、そのまま消滅してしまうこともある。
特に敗北したこの戦場では、全員を回収して撤退することは不可能に近い……!
「あ……ぁ……か、体、が……動かない……。助けて……見捨てないで……」
シャオ・メイリンは咎人として何度も世界を救ってきたが、敗北したのはこの時が初めてだった。
傷つき倒れたことは何度もあるが、最終的には勝利してきたのに……今回はどうにもならなかったのだ。
刃物で致命傷を受けた体では歩くこともできず、イデア通信として聞こえてくる撤退の指示に従えない。世界の滅びとともに命を散らす以外に結末はない。
怖い。怖い。怖い。あれだけ頑張ってきたのに、第二の人生まで無残に終わってしまうのか。
そんなのは嫌だ……許せない。いざという時に助けてくれないなんて、これでは咎人も簒奪者と同じ使い捨ての駒ではないか。
「……呪っ……て、やる……流刑街も……守護神……も……!」
可憐な唇から精一杯の呪詛を吐きつつ……メイリンは大地より吹き出したマグマに飲み込まれ、終わりを迎えたのだった―――
●変容
天獄界に浮島が現れるのは日常のことであり、特に珍しいことではない。
それらは滅びた世界の欠片であり、中には咎人たちが激戦を繰り広げてもなお救えなかった場所ということもある。
だが今回出現した浮島は、その中でも極めつけと言うほどの異様さを放っていた。
「……なに……ここ……」
トレジャーハンターのカグヤ・パロマージュはいつものように調査隊にくっついていったが、その浮島に転移した途端、恐ろしいまでの悪寒にその身を貫かれた。
赤い。赤い。赤い。目に入る全てが赤い。
木も、山も、湖も、建物も……いや、空気そのものが赤いのか?
まるで何かに恨まれているような……世界そのものが怒っているような感覚。それは他の調査隊員も同じようで、彼らでさえも踏み出すことを躊躇し呻いてしまうほどだ。
あちこちにある破壊と戦いの傷跡。これはかつて、守護神側と邪神側が戦った世界の欠片……?
「すんすん……何この臭い。唐辛子か何か……?」
不意に漂い始める刺激臭。鼻や喉の奥がヒリつくような……唾液さえも辛くするような、薬味の臭い。
その時、カグヤたちは視線の先に信じられないものを見る。
人の形をした煮えたぎるマグマ。二足歩行するそれが、灼熱の飛沫を飛ばしながらゆっくりと歩いてくるではないか。
何かのモンスター!? しかし火山地帯でもなさそうなこの場所でマグマ系の怪物などありえるのか!?
とりあえず知的生命体ではないはず……それだけを心の拠り所として、調査隊やカグヤは武器を構え迎撃体制をとった。
尚も接近する人型マグマ。歩く度に大地を焼き、赤黒い足跡を刻んでいく。
そして調査隊の一人が斬りかかった時……『それ』は喋った。
「トガビト……ユルサナイ……」
『っ!?』
「ノロウ……シュゴシン……ルケイガイ……ハカイスル……」
「えっ、何!? どういうこと!?」
喋るということは知的生命体なのではないか? いやそれ以前に、咎人や天獄界のことを知っている!?
わけがわからず混乱するカグヤたちに構わずどんどん接近してくる人型マグマ。しかしその声に聞き覚えがある者が、調査隊の中にいた。
「まさか……お前、メイリンか!? シャオ・メイリン!?」
「知り合いなの!?」
「咎人だよ! 何十年前だったかな……テンペストと似た、滅びた世界で未帰還になった女の子だ!」
「トガビト……トガビト……アァァァァァァッ!」
「まずい、総員撤退! 転移後イデアゲートも一旦作動不能にする! でないと流刑街に来るぞ!」
不確定要素が多すぎる。そう判断した調査隊のリーダーが叫び、咎人たちは一も二もなくイデアゲートに飛び込んだ。
かつて破れた戦場に取り残された咎人の思念? そんな事がありえるのか?
「パロマージュ!」
「あ……は、はいっ!」
憤りなのか、哀れみなのか……自分でもよくわからない感情に翻弄されながらも、カグヤも浮島から脱出したのだった―――
咎人と簒奪者の戦いは、悠久の彼方より続いている。
片や世界を滅ぼそうとし、片やそれを阻止せんと抗う。それが無数の異世界・並行世界の分だけ起こるのだから終わろうはずもない。
だからこそ、連綿と続く戦いの中には悲劇も起こるわけで……。
「もうダメだ……遺憾ながらこの世界を放棄する! 総員撤退!」
「待ってください、散り散りになってるんですよ!? 負傷した者だっています、イデアゲートまで辿り着けないやつも出てきますって!」
「それでもだ! 粘って未帰還者を増やすのとどっちがいい!?」
「ぐっ……!」
紅く染まった空。引き裂かれる大地。山は爆発し、海からは津波が押し寄せる。
簒奪者の介入により特異点を破壊され、崩壊の道を辿った世界……咎人が敗北した世界。
中国四川省を最終決戦場としたこの並行世界での戦いでは、死を厭わぬ簒奪者の群れに咎人たちが各個撃破されてしまったのだった。
通常、咎人は世界の崩壊に巻き込まれたとしても死に戻りするため大した痛手にはならないが、その前に深手を負っていたとしたら話は別。
死にかけているところにオーバーキルの破滅をその身で味わえば、心かイデア体のどちらかに深刻な傷を受け、そのまま消滅してしまうこともある。
特に敗北したこの戦場では、全員を回収して撤退することは不可能に近い……!
「あ……ぁ……か、体、が……動かない……。助けて……見捨てないで……」
シャオ・メイリンは咎人として何度も世界を救ってきたが、敗北したのはこの時が初めてだった。
傷つき倒れたことは何度もあるが、最終的には勝利してきたのに……今回はどうにもならなかったのだ。
刃物で致命傷を受けた体では歩くこともできず、イデア通信として聞こえてくる撤退の指示に従えない。世界の滅びとともに命を散らす以外に結末はない。
怖い。怖い。怖い。あれだけ頑張ってきたのに、第二の人生まで無残に終わってしまうのか。
そんなのは嫌だ……許せない。いざという時に助けてくれないなんて、これでは咎人も簒奪者と同じ使い捨ての駒ではないか。
「……呪っ……て、やる……流刑街も……守護神……も……!」
可憐な唇から精一杯の呪詛を吐きつつ……メイリンは大地より吹き出したマグマに飲み込まれ、終わりを迎えたのだった―――
●変容
天獄界に浮島が現れるのは日常のことであり、特に珍しいことではない。
それらは滅びた世界の欠片であり、中には咎人たちが激戦を繰り広げてもなお救えなかった場所ということもある。
だが今回出現した浮島は、その中でも極めつけと言うほどの異様さを放っていた。
「……なに……ここ……」
トレジャーハンターのカグヤ・パロマージュはいつものように調査隊にくっついていったが、その浮島に転移した途端、恐ろしいまでの悪寒にその身を貫かれた。
赤い。赤い。赤い。目に入る全てが赤い。
木も、山も、湖も、建物も……いや、空気そのものが赤いのか?
まるで何かに恨まれているような……世界そのものが怒っているような感覚。それは他の調査隊員も同じようで、彼らでさえも踏み出すことを躊躇し呻いてしまうほどだ。
あちこちにある破壊と戦いの傷跡。これはかつて、守護神側と邪神側が戦った世界の欠片……?
「すんすん……何この臭い。唐辛子か何か……?」
不意に漂い始める刺激臭。鼻や喉の奥がヒリつくような……唾液さえも辛くするような、薬味の臭い。
その時、カグヤたちは視線の先に信じられないものを見る。
人の形をした煮えたぎるマグマ。二足歩行するそれが、灼熱の飛沫を飛ばしながらゆっくりと歩いてくるではないか。
何かのモンスター!? しかし火山地帯でもなさそうなこの場所でマグマ系の怪物などありえるのか!?
とりあえず知的生命体ではないはず……それだけを心の拠り所として、調査隊やカグヤは武器を構え迎撃体制をとった。
尚も接近する人型マグマ。歩く度に大地を焼き、赤黒い足跡を刻んでいく。
そして調査隊の一人が斬りかかった時……『それ』は喋った。
「トガビト……ユルサナイ……」
『っ!?』
「ノロウ……シュゴシン……ルケイガイ……ハカイスル……」
「えっ、何!? どういうこと!?」
喋るということは知的生命体なのではないか? いやそれ以前に、咎人や天獄界のことを知っている!?
わけがわからず混乱するカグヤたちに構わずどんどん接近してくる人型マグマ。しかしその声に聞き覚えがある者が、調査隊の中にいた。
「まさか……お前、メイリンか!? シャオ・メイリン!?」
「知り合いなの!?」
「咎人だよ! 何十年前だったかな……テンペストと似た、滅びた世界で未帰還になった女の子だ!」
「トガビト……トガビト……アァァァァァァッ!」
「まずい、総員撤退! 転移後イデアゲートも一旦作動不能にする! でないと流刑街に来るぞ!」
不確定要素が多すぎる。そう判断した調査隊のリーダーが叫び、咎人たちは一も二もなくイデアゲートに飛び込んだ。
かつて破れた戦場に取り残された咎人の思念? そんな事がありえるのか?
「パロマージュ!」
「あ……は、はいっ!」
憤りなのか、哀れみなのか……自分でもよくわからない感情に翻弄されながらも、カグヤも浮島から脱出したのだった―――
成功条件
| 条件1 | シャオ・メイリンの撃破 |
|---|---|
| 条件2 | - |
| 条件3 | - |
大成功条件
| 条件1 | シャオ・メイリンを救う(手段問わず) |
|---|---|
| 条件2 | - |
| 条件3 | - |
解 説
・天獄界エンブリオに出現した、とある浮島が舞台です。
・その浮島に出現する、人型マグマに変容したシャオ・メイリンという咎人を撃破するのが目的です。
・メイリンはその魂やイデア体を完全に変容させており、最早人の姿、人の心は殆ど残っておりません。
・自分を見捨てた咎人、守護神、流刑街等、天獄界に関する全てを憎んでいるようです。
・メイリンの体はマグマと同化し、消えない憎悪がマグマを燃やし続けています。常時超高温の灼熱状態なので、攻撃にも防御にも工夫が必要でしょう。
・メイリンが世界の欠片に影響を及ぼしているのか、その浮島の風景は何もかもが赤く染まっており、メイリンの近くでは薬味のような刺激臭がします。
・話によると浮島は中国四川省の一部であるとのことで、湖や山などもある自然豊かな場所といった雰囲気だそうです。
・アイディア及びプレイング次第ですが、メイリンを人として助けることができる可能性はゼロではありません。
マスターより
皆さんこんにちは。正義の味方だって負の感情はあると思っている西川一純です(何)
戦いである以上、咎人側がいつも勝利とは限りません。
皆さんの先輩の中には敗北し、人知れず消えていった咎人も居るのです。
そんな人々が納得していなかったとしたら。見捨てられたことを恨んでいたとしたら。
恐ろしいほどの偶然で再び天獄界に舞い戻ったシャオ・メイリンに対し、皆さんはどう接するのでしょうか―――
関連NPC
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- カグヤ・パロマージュ(mz0057)
- 人間種|女
参加キャラクター
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- 不破 雫(ma0276)
- 人間種|女
-

- フリッツ・レーバ(ma0316)
- 剛力種|女
-

- 小山内・小鳥(ma0062)
- 獣人種|女
-

- ラファル・A・Y(ma0513)
- 機械種|女
-

- 氷雨 累(ma0467)
- 人間種|男
-

- フィリア・フラテルニテ(ma0193)
- 神魔種|女
-

- ウガツ ヒョウヤ(ma1134)
- 精霊種|男
- リプレイ公開中




