オープニング

●シナリオタイトル　：【薫】獣どもが夢の跡


●獣どもが夢の跡

　裸電球の灯りが、暗闇の中頼りなく揺れる。照らし出されるのは複数のパワードスーツだ。
　誇らしげに描かれているのは、ハクトウワシを模した紋章で……

「我々は人魚姫にはならない。人間は所詮人間、それ以外のものにはなれないのだから」

　そこに、深々とナイフが入れられた。鉄が軋む異音を立てながら、紋章が削り取られる。刃が欠けたナイフを笑って投げ捨て、男が声を上げる。

「もしそれ以外のものになろうとするならば、泡沫の夢のように消してやらなくては。そうだろう、諸君」

　頷くように、パワードスーツ達が身を屈める。誇りを奪われてなお、人のために尽くす機械たちが次々とカタパルトへ足を掛けていく。煙と共に機体が打ち出される先は……未だ復興ままならず、暗闇の中に沈む東京。常夜と呼ばれたエリア。

「人魚は不死身だというが……ならば、それすら滅する不死殺しの武器が必要だ。あくまで、人間の範疇で使える武器がな」

　隔壁が降りる。スクリューが水をかき混ぜる音が静かに響く。男の視線は、遠ざかっていく陸地の線を見つめる。熱に浮かされたような視線が、隔壁に閉ざされた。



●盗みの鉄則

『なぁ、アンタ。盗みの鉄則って、何か知ってるか？』

　煉獄の戦闘員が、目を見開いてじっと見つめる先。パワードスーツが手際よく何かを縛り上げていく。先程スタンロッドで殴られた灯籠坂　機魄、その人である。意識がない老人を袋に詰め込み、別のパワードスーツが声を上げる。

『拘束ボルト、完全に効果を発揮。義殻の行動、停止しています』

　床に倒れ込んでいるのは、義殻004……薫機である。咄嗟に抵抗しようとしたのだろう、未だ撤去されていない幾つかの固定武装が展開途中で固まっている。そして、脳を収める胸部装甲に突き立っているのは奇妙な機械だった。ガラス製シリンダーの中では絶え間なくスパークが舞い踊っており、それが義殻の行動を抑止しているのは明確である。

『よし、撤収……で、盗みの鉄則はたった３つ。見られず、残さず、素早く逃げる。それだけさ』

　首を裂かれ、自らの血に沈んだ戦闘員たちに手を振り。パワードスーツがブースターを吹かす。音もなく行われた凶行は、おそらくあと一歩で完遂されていただろう。
　素早く離脱するべく開かれたままの扉から姿を現したのは、複数人の咎人。手に握られている無線機を確認したパワードスーツが、ちらりと戦闘員たちの死体を確認する。

『ちっ、筒抜けだったか……突破しろ、相手をする必要はない』

　次々に得物を抜く咎人を前に、パワードスーツは構わず離脱を優先する。義殻か灯籠坂、どちらかを手に入れれば自分たちの勝ち。それまでに誰かが犠牲になるのは計算済みだ。

『簡単で、有利な話だ……何しろ逃げるだけなんだからな！』