パーフェクトワールド
近藤豊
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シナリオ形態
ショート
難易度
Easy
判定方法
エキスパート
参加制限
総合900以上
オプション
参加料金
100 SC
参加人数
5人~16人
優先抽選
50 SC
報酬
600 EXP
12,000 GOLD
12 FAVOR
相談期間
5日
抽選締切
2022/09/09 10:30
プレイング締切
2022/09/14 10:30
リプレイ完成予定
2022/09/27
関連シナリオ
-
  1. オープニング
  2. 相談掲示板
  3. -
  4. 結果
  5. リプレイ
「あっちに逃げて! 落ち着いて行動を!」
 シアン(ma0076)が、逃げ惑う人々に声を掛けていく。
 ツインフィールズ創立記念式典会場は、招かれざる客を前に混乱を極めていた。
 クリーチャーの襲撃に逃げる場所を見いだせず、走り出す者達。
 彼らの存在が更なる混乱を引き起こし、会場をパニックへと誘う。
 その間にも警察はクリーチャーを食い止めようと動くが、被害は広がるばかりだ。
「きゃっ!」
「く、来るな!」
 転んだ女性を助け起こそうと、近くで逃げていた男性が駆け寄る。
 しかし、同時にクリーチャーのスケルトンスライムが、粘着質な下半身を揺り動かしながら接近する。
 状況を把握したシアンは、乱鳥を発動する。
「……!」
「き、消えた!?」
 驚く二人。
 消えたのではない。スライムはシアンの近くにいた警察官と場所を入れ替えたのだ。
「こ、ここは?」
「移動させた。振り返らずにまっすぐ逃げて! それから、そこの警察官。今だけでも良い。市民を守るために協力して欲しい」
「!」
 警察官からすれば、シアンの能力で何かされたのは間違いない。
 しかし、シアンが市民の守る事を訴えた為に警察官は見て見ぬ振りをしてくれた。
「分かった。お前も死ぬなよ」
「……ああ」
 祈ってくれるのはありがたい。だが、残念ながら死ねないんだ。
 そんな事を口にしそうになるシアン。
 こうしている間にも転移させられたスライムがターゲットをシアンへと切り替えた。
 シアンは、セツの破魔弓に矢を番える。
「死ねないからこそ、今助けられる生命より優先すべきことなんて無いよ」
 逃げ惑う市民を一人でも救う。
 それがシアンが抱いている行動原理だ。
 

「な、なんなんだ!?」
「これ、映画じゃないのよね?」
 口々に不安な声を漏らす人々。
 彼らからすれば、記念式典に参加して町の創立を祝いたかっただけだ。
 だが、突如現れたクリーチャーの襲撃でそれは呆気なく破壊される。
 咎人や警察が対クリーチャーで動き出してはいるが、中にはどうすれば良いか迷う者達も多数存在していた。
「そうですわ。彼らが護衛についてくれるように、話して参りましょうか」
 マイナ・ミンター(ma0717)は、そんな彼らの中にいた。
 式典会場にパーティドレスを着用して参加した記念式典。このような結果を招くとは予想できなかった。
 この場に留まれば危険である以上、早く避難をしよう。ちょうど、近くに友愛騎士団の者がいる。彼らに話し掛ければきっと安心だ。
「だ、大丈夫なのかしら」
 マイナの行動に不安を覚える女性。
 無理もない。周りでは多数の人が傷付いている最中なのだから。
 それに対してマリエル(ma0991)が、そっと近づく。
「今は、信じて下さい。安全に逃げる術があるはずです」
「ええ……」
 マリエルの言葉で女性は首を縦に振った。
 だが、安心したという表情ではなさそうだ。
 その間にもマイナは友愛騎士団の一人に近づいていく。
「あの、私達は避難するので守って……」
 そう言い掛けたマイナ。
 だが、言い切るよりも早く騎士団員は右手に握られた警棒を振り下ろす。
 警棒は空を斬る。しかし、それ以上のインパクトが観客へ与えられる。
「きゃーー!」
「な、なんで友愛騎士団が!?」
「彼らはランディ議員の支持者じゃないのか?」
 口々に恐怖に染められた不安を漏らす。
 それは守ってくれるべき相手が、攻撃を仕掛けてきた絶望にも似ている。
「あーれー、ご無体な。あなたがたは、早く逃げてくださいませ」
 マイナは参加者へそう呼び掛ける。
 それを受けてマリエルが一団へ避難を促した。
「おちついて避難をお願いします。守りますから。落ち着いて」
「でも、あの方は……」
「お嬢様は大丈夫です。まずは御身を大事に」
 そう促された女性は、マイナから目を背けるように前の者へ続いて走り去っていく。
 
 マリエルが現場へ戻った時には、マイナは一人で佇んでいた。
「お嬢様。皆様、無事に避難完了致しました」
「それで、騎士団への心象は?」
「悪化は明白。距離を取ろうとされる方もいらっしゃいます」
 マリエルの報告に、マイナは自身の策が成功した事を感じ取った。
 友愛騎士団の一部がクリーチャーである事は、はっきりしている。そして、彼らは近づけば咎人にも攻撃を仕掛けてくる事は分かっている。それを利用してマイナは市民を演じて騎士団が攻撃を仕掛ける構図を観客へ見せつけたのだ。
「やれやれ、酷い目に遭いました。最近、お芝居ばかりしていますね」
「……すいません。ありがとうございます」
 マイナの姿を見つけた記者のハナ・コムラサキが近づいてきた。
 式典会場でランディ・スタンリッジ議員を追い詰めるつもりが、追い詰めきれなかったのだ。今回のマイナの行動は、図らずもハナの失敗を穴埋めする形となっていた。
「敵に時間を与えすぎたのは失敗でした。それにウェンディゴの登場も」
「血脈。それが鍵なのでしょうか?」
 マリエルの言葉にマイナは黙っていた。
 クリーチャー同士の戦いが現時点で発生している以上、何かが起こっているのは間違いない。だが、問題は鍵が一つではない事だ。
「鍵はそれだけではありません。レイムディアーもそうでしょう。そして、それを知る者が少なくとも二名は存在します」
 マイナは思い浮かべる。
 一人は、式典を襲撃したウェンディゴ。
 もう一人は、この式典会場を後にした男だ。
 

「ランディ!! テメェ、一人で逃げるのか!! 市民を見捨てて!!」
 リダ・クルツ(ma1076)は、激昂していた。
 記念式典会場が悲鳴と雑踏に包まれる中、リダが叫ぶ。
 頭では理解している。要人、しかも議員という肩書きの人間が現場で率先して指揮を執るのか。ましてや、ここはクリーチャーが襲撃を仕掛けた現場だ。要人だからこそ、周囲が率先して逃がそうとする。
 だが、リダはそれでも感情として納得できない。
「友愛騎士団が守れると信じているなら、残って指揮しやがれ!!」
 再び叫ぶリダ。
 しかし、その声はランディへ届かない。
 何がニューツインフィールズ計画だ。何が生まれ変わる安全な町だ。
 今、ここで人々が苦しんでいるというのに。
「……やっぱ、自分から動くしかないよな」
 叫んで落ち着いたのか、リダはゆっくり立ち上がる。
 今、自分が何をできるのか。何を為すべきなのか。
 その答えは、既にリダの中にある。
「そろそろいいかな」
 山神 水音(ma0290)が、リダへ声を掛ける。
 既にスライムとの交戦を開始していた水音だが、敢えてリダの感情を放置していた。
 あのまま戦っていても、感情に流されて守れる者も守れなくなる。
 それなら、いっそ感情を曝け出せば良い。
 その為に水音は少しの間だけ、この場を一人でスライムを相手にしていたのだ。
「ああ。俺達が助けなきゃな」
「そう。僕は誰の命も犠牲にさせない事、それが僕がやりたい事だよ」
 水音はきらきらパーティクルを発動。
 周辺のスライムの注目を自分自身へと引き寄せる。
 確かに警察も騎士団もスライムを止めるべく奮戦している。しかし、それは一部だ。警察は組織を守る為に動き、騎士団は本能のままに暴れるだけ。市民を助けようと考えるのは、咎人と一握りの人達。
 その中には、リダや水音も含まれている。
「お客さんは殺到だ。人気者だな」
「……冗談」
 水音は『灰は灰に、塵は塵に』で無理矢理能力を引き出した。
 道理を越えた憑依術が、自らを蝕んでいく。
 危険な技だが、ここで使わなければ逃げ回る市民を助けられない。
「僕は虹之欠片。守るべき煌きがある限りこの輝きは曇りはしないよ」
 水音は地を駆ける者で接近した後、猛る嵐の牙の連撃を放つ。
 最前線にいたスライム達がまとめて衝撃を受けて退いた。
 その隙にリダがターコイズウォーターでスライムを狙い撃つ。
「お前らに食らわせるべき人間などいない……」
 放たれる青緑色の弾丸が、スライムの体を穿つ。
 二人は壁になる。
 市民達の身を案じ、危険から守る為に。
 

 リダと水音がクリーチャーと交戦する頃。
 ランディを追跡していた者がいる。
 その者は、ランディの足元を狙って魔法攻撃を放っていた。
「……!」
「狙撃か!」
 足を止めるランディ。周囲の護衛が警戒を強める。
 ここで狙撃犯――天魔(ma0247)が姿を見せる。黒衣に白い翼の男。護衛役の者達からすれば、映画から抜け出した役者に見えるだろう。だが、ここは現実。奇妙な狙撃犯を放置する訳にはいかない。
「議員に警官諸君、動くな。次は当てる。議員と少し話したいだけだ」
 そう言いながら、天魔はサンクチュアリを展開。
 時間経過で解除される結界だが、僅かでも会話が時間を稼げればいい。
 天魔はゆっくりと歩み出る。
「貴様!」
 天魔の言葉を無視するように、数名の護衛が拳銃を抜いて銃口を向ける。
 しかし、ランディは落ち着いた様子で護衛役を制する。
「いいでしょう。話を聞きましょう」
「秘書のエディ……。彼の目的がこの世界の破壊だと知っているかね、議員?」
 天魔は敢えてストレートに問いかけた。
 簒奪者は世界の破壊を目論んでいる。特異点に干渉して世界の破滅させる。その簒奪者であるエディが議員秘書としてランディの傍にいる。この事実をランディは知っているのだろうか。
「それと彼も私も異世界人だ。信じられないかね? そもそも私の羽やエディの転移は異常だと思わないか?」
 現時点で異世界の存在を知っているのはアンダーソンファミリーとその関係者だ。
 市民の多くは異世界を知らない。その点についてもランディに迫る必要がある。
 しかし、その天魔の追求に対してランディは予想外の答えを見せる。
「知っていましたが、それが何か?」
「知っていた、だと?」
「ええ。その上で、エディさんとは協力関係にあります。謂わば、ビジネスパートナーです」
「世界の破滅を知っていて、その上で協力とはな」
「そこに認識の差があります。破滅とは何か? 創造と破壊は一体です。創造があるからこそ、破壊がある。その逆も然り。私はこの犯罪蔓延る町を再生するには、それぐらいの『荒治療』が必要だと考えています」
 荒治療。
 世界を危機に晒してでも、ランディは町を生まれ変わられるという。
「そもそも、この町の現状が破滅的でしょう。マフィアが闊歩して犯罪の温床と化しています。私はニューツインフィールズ計画で各所に監視カメラを設置して犯罪を抑止します。そして警察機構を強化して犯罪を未然に防ぎます。私からすれば、今の町の方が破滅的です」
「舐めているぞ、世界の破滅を」
「話を戻しましょう。エディさんは協力関係にあるのは事実です。言い換えればビジネスパートナー。」
「ビジネスパートナーか。良いようだな。だが、エディが裏切ったらどうする? もし、お前を騙していたら?」
 天魔は語気を強めた。
 それはランディと天魔の間に、乖離とも呼べる認識の差があった。
 世界の破滅とは何か。それが見えていない中で話している状況では、ランディが理解する事は難しいだろう。
 そもそも、世界の破滅がランディにとって損得の面から被害となるのかも怪しい。
「ニューツインフィールズ計画。議会の賛成多数が無ければ法案は通らないのだろう?」
「はい。その為の努力をしています。まだ法案をまとめている段階ですが、通して見せますよ」
 ランディが言っているのは議会工作の事だろう。
 多数派工作が成功すれば、法案が提出されて可決されてしまう。そうなればニューツインフィールズ計画は施行してしまうのは時間の問題だ。
 だが、天魔がそれ以上に気がかりなのはランディが口にしたその後の言葉だった、
「その為に万全の策を講じているのですから」
「……何?」
 天魔が、問いかける。
 だが、それよりも早く護衛がランディとの間に体を滑り込ませる。
「議員。そろそろクリーチャーが追って来ます。早くお車へ!」
「時間のようです。失礼しますよ」
 ランディの言葉。
 確かに時間だ。サンクチュアリの効果も切れる頃合いだ。
 だが、天魔は最後に一言――伝えるべき言葉を口にする。
「待て。これは警告だ。君が今後もエデイと協力関係を続けるなら世界を守る為私は君を殺す。いいな警告したぞ」
「…………」
 天魔を一瞥したランディは、そのまま護衛に連れられて立ち去ってしまった。
 事態は予想以上に複雑で厄介だ。
 そう、感じた瞬間だった。
 
 ――移動する車内にて。
「……君、先程の男についてだが。言っている事を聞いたね?」
「はい」
「私を殺す。つまり、私への殺害予告だ。それに逸れたとはいえ、足元を狙撃された。これは殺害未遂だ」
 ランディは早口で捲し立てる。
 事実を並べているだけではあるが、その裏には何かしらの感情が含まれているように見える。
「そ、そうなります」
「現職議員に対する殺害予告と殺人未遂。これは警察へ報告を上げる必要があるのではないかね?」

 後日、天魔は二級犯罪者として指名手配される事となる。
 

「わぉん! エディさん、なんだかぶっそーなふんいきです!?」
 ランディの秘書であるエディ・ジャクソン(mz0067)の姿を発見したアルマ(ma0638)であるが、いつもと雰囲気が違うエディに気が付いた。
 いつもなら飄々としながら、トーンフォレストで逃げるエディ。
 だが、今日はトーンフォレストから友愛騎士団を呼び出してスライムとの戦闘を促している。さらに時折警察にも指示を出してスライムの対処を要請している。まるでいつものエディとは別人だ。
「……ん? ああ、子犬の。今日は少々余裕がありません。遊ぶならあちらのウェンディゴ君とお願いします」
「……! わふぅ! エディさんにしょーかいされたですっ!」
 アルマと視線を合わせなかったエディであったが、スライムと戦う友愛騎士団の向こうに仮面の男を視認する。
 あの人となら遊べる。そう考えたアルマは、喜び勇んで駆け寄っていく。
 そのアルマと入れ違いに、エディの元を訪れたのは水無瀬 遮那(ma0103)だ。
「……似非読者。久し振り、だねぇ? 今度はオルメタ、で一体、何を企んでいるんだ!」
「あなたですか。企むとは心外な。簒奪者なのですから、やる事は一つでしょう」
 煩わしいという感情を露わにするエディ。
 だが、遮那は構わず好戦的な態度を崩さない。
 近づこうとする友愛騎士団員もいたが、視線で威嚇して足を止めたところを見れば中身はマフィアか。
「それより良いのですか? 今は明確な攻撃目標とされるウェンディゴ君が暴れていますが」
「……言われなくても、するさ」
「義経さま、エディさまの思惑を止めるためここを乗り切りましょう」
 不機嫌そうな遮那に対して川澄 静(ma0164)が励ます。
 正直、エディに指示されているようで気分が悪い。何かを企んでいると考えるからこそ、エディの誘導に従いたくは無い。
 だが、今の目の前で逃げ惑う市民を見ればそうも言っていられない。
「静! ……纏めていく、よ!」
「はい! まずは、市民の救助を優先します」
 逃げ惑う市民達に向かって走る静。
 バラバラに逃げていては護衛も困難の為、何人かに集まってもらう必要がある。
 しかし、それは同時にスライムのターゲットになりやすくもある。
「!」
 静の元へ何人か集まる事を察知したスライムが、一斉に襲い掛かって来る。
「……この死弾は何処までも追っていく、ぞ」
「やれやれ。敵味方が協力して戦う展開は、もう少し後の方が燃えるのですがね」
 静に集まるスライムに向けて、遮那は追跡する死弾を発射。
 追撃する弾丸が、近づくスライムに突き刺さる。
 更にエディが開いたトーンフォレストから現れた友愛騎士団員が、警棒でスライムを殴り飛ばす。打撃では充分な威力は与えられないかもしれないが、静が転移するには十分な時間を稼げる。
「皆さま、あちらへっ!」
 静はホーリーストリングで市民を転移させる。
 
 ――。
 突然風景が変わって焦る市民達。だが、スライムの姿が見えなくなった事で安堵する。
 市民達は危機を脱した。
 だが、静の方は浮かない顔つきだ。
「義経さま。戻るまでご無事で」
 転移した事で遮那はエディと残される事になる。
 状況が変われば友愛騎士団がエディを取り囲む可能性も捨てきれない。
 早く、遮那の元へ戻らなければ――。
 

「同志! 肩を並べてこのクリーチャーを撃退するぞ! なぁ!」
「おい、喋るなって言われてるだろ!」
 友愛騎士団に変装したマルコム・レーナルト(ma0971)が、仲間から怒鳴られる。
 わざわざ友愛騎士団へ変装する意味。それはある目的の為、そして、それを実現する為には、ある人物の協力が不可欠となっている。
(ハナちゃん。近くにいるよね?)
 そっと茂みに視線を移すマルコム。
 そこには記者のハナが身を潜めていた。
 気配を察したマルコムは、小さく頷くと前へと向き直る。
「いけね。そうだった」
「分かったら黙ってろよ」
 仲間に叱責された風を装うマルコム。
 しかし、友愛騎士団が喋るなと命じられているのは何故か。
 その理由にマルコムは予想を立ててみる。
(クリーチャーが混じっているから。それが露見してはマズい。そんなところか)
 そう考えながら、マルコムは練っていた計画を実行に移す。
 マルコムは別の友愛騎士団へ近づいていく。
 周囲はクリーチャーに襲われ、市民が逃げ惑う最中。
 事件とも言うべき状況を引き起こす。
「……!」
 近づいたマルコムを友愛騎士団員が、突如警棒で殴り付けてきたのだ。
 逃げ惑う者。警察や元マフィアの騎士団員。
 彼らの目にも留まるよう、マルコムは大げさに騒ぐ。
「なぜ仲間の俺を……!」
 その最中にも騎士団員の警棒が何度も振り下ろされる。
 その間にもマルコムは、少々わざとらしさを持たせながら叫んでみせる。
「スタンリッジ議員! どういうことだ! こんなの聞いてないぞ!」
 周囲が異変に気付き始めた頃合いを見計らい、マルコムは反撃を試みる。
 振り下ろされる警棒に合わせ、右フック。一撃で動きを止めた隙にキルドライブ。
 懐へ飛び込んだ後、マルコムは騎士団員に向けて連撃を放つ。明確に騎士団員の体に誇大する幻想で強化された攻撃が何度も突き刺さる。
 後方から地面へ倒れ込む騎士団員。その姿は黒い靄となって消えていく。
「おい! こいつ、消えたぞ!」
「何だコレ!」
 騒ぐ市民。
 そのタイミングに合わせて茂みからハナが飛び出した。
「わ、私は知ってめす。こ、これ、これは、クリーチャーだー」
(……演技苦手だったんだね、ハナちゃん)
 明らかに棒読みセリフのハナ。
 セリフは辿々しく、途中で噛んでしまっている。
 少々不安が残るマルコムであったが、これこそマルコムの狙いであった。
 友愛騎士団の中にクリーチャーがいる。それを露見させる際、一社のメディアで報じただけでは潰されてしまう。しかし、衆人環視の中で騎士団員が倒されて黒い靄として消えたらどうなるか。明らかに人間ではない相手だと知らしめる事ができる。
「え!?」
「何だって?」
「じゃあ、騎士団の中にクリーチャーがいるのか?」
「に、逃げろ! ここも危ないぞ!」
 市民達は蜘蛛の子を散らすように逃げ惑い始める。
 最初よりも更に混乱を引き起こしたような状況となる。
「あの、マルコムさん。これで良かったのでしょうか?」
 心配そうなハナであるが、マスクの下でマルコムは自信を持って答える。
「大丈夫。これで騎士団にも大きなダメージになるはずだ」


「明らかに面倒な状況なんだよなぁ」
 計画を潰すなら、このままウェンディゴに頑張って貰ってエディ諸共ランディギンを排除してもらった方が楽だ。
 だが。そう心で呟いて頭を振る。
 さすがにそれを実行させれば、ツインフィールズへの被害が大きくなる。ウェンディゴはツインフィールズを破壊したがっている。自由にさせれば、市民への被害は拡大していく。
 麻生 遊夜(ma0279)は、その事実に気付いて首を軽く回す。
 確かに面倒だ。所詮咎人は異世界の人間。つまり余所者だ。
 しかし、遊夜に市民を見捨てる選択肢はない。彼らが苦しむなら、面倒なんて言う暇は一切ない。
「仕方ない、難しいことは後で考えるか……今は奴らを止めないとなぁ」
 遊夜は、歩き出す。
 視線の先には騒動の元凶であるウェンディゴ。
 そして、その前に立つファリフの姿があった。
「え?」
 ファリフはウェンディゴへ聞き返した。
 少し呆れた様子のウェンディゴ。
 再びその口を開く。
「もう一度問います。血脈であるあなたは、この町をどうしたいのですかか?」
 血脈。
 教会でシスターと客が口にしているのを耳にした事がある。
 一体、何なんだと思っていた。しかし、ウェンディゴは自分が血脈だと断言している。
「どういう事?」
「あなたの祖先はこの地に住む者。それもこの地に住まう正当な住民です。それを……」
 苦々しげな言葉。
 ファリフには、何故ウェンディゴがそのような態度を取るのか理解できなかった。
「改めて聞きます。あなたは、どうされるつもりなのですか? この町を……」
「待ってよ! 何を言っているのかさっぱり分からないよ」
 叫ぶファリフ。
 次々と突き付けられる言葉に、ファリフは困惑する。
 それでも構わないとウェンディゴは言葉を続ける。
「決めるのです。それによって私はあなたの味方となりましょう。共に……」
「焦るなよ。女性を追い込むなんて真似、するもんじゃない」
 ファリフを守るように、遊夜が立つ。
 邪魔が入ったとばかりにウェンディゴが語気を荒げる。
「大事な話の最中です。邪魔をするなら許しません」
「こっちも大事な話があるんだよ、ドサンピン」
 ウェンディゴが地面へ手を翳す。
 それに応じる形で、広場の地面に敷き詰められた石が宙に浮く。そして、遊夜に向かって飛来。遊夜は砕けぬ矜持の右腕を振り抜いた。右腕に衝突した石が、空中で派手に砕け散る。
「派手な幕開けというところかしら。麻生さん、防御はお願いしても?」
「ああ」
 遊夜の背後から、如月 朱烙(ma0627)が姿を見せる。
 鞘から抜き放たれた宗家相伝 西洋真剣 紫電改が、鈍い光を放つ。
 エディに一言だけ言ってやりたかったが、その間にウェンディゴがスライムを大量召還すれば、市民に危険が及ぶ。早々にウェンディゴを片付けなければならない。
「随分と余裕そうですね。勝つつもりなのでしょうか?」
「当然でしょう。ヴェンティゴ、此処で終わらせるわ」
 朱烙は、紫電改を正眼に構える。
 向けられた切っ先が、殺気を放ち始める。身構えるウェンディゴ。
 緊張する勇気の中、朱烙は眼前に立つ怪人へと意識を集中させていく。

「ファリフとやら」
 ファリフを呼び止める声。
 そこには神慶 誠就(ma1209)の姿があった。
「あなたは?」
「初見だが、失礼するぞ」
 誠就は、ファリフに視線を合わせるように屈み込んだ。
 なるべくファリフと同じ高さで伝えるべき事。
 それは、誠就の身の上話であった。
「我も、天界から聖父に追放され、見放された……」
「え?」
「だが、何時か天界をこの手にしたやる事を誓っておるのだ! それは単なる復讐ではない。天こそが、我の還るべき場所なのだ」
 誠就は己の中に抱えていた想いを吐露する。
 自分が抱えてきたそれをファリフに吐き出す事で、ファリフに気付いて欲しいと考えたのだ。
「ファリフ。汝が還りたい場所は何処だ? 護りたい場所は何処なのか?」
「えーと……教会と、孤児院のみんなかな」
「ならば、それを一番大事にするのだ。そのような場所こそ、何があっても守り抜かねばならん」
 興奮しながらファリフへ叫びかける誠就。
 いつしか、ファリフの肩を強く握り締めていた。
「挫けそうになったら、思い出せ! 強く思い出せ! 小さな孤児院を! シスターを! 子供達を」
「……あ、あのっ!」
 ここでファリフが大きな声で誠就呼び掛けた。
 ようやく、誠就の荒ぶりが抑えられる。
「なんだ?」
「言葉はありがたいんだけど……何が何やら分からないよ」
 ここに来て、誠就はファリフがウェンディゴからの問いかけを理解しきれていない事に気付いた。
 そもそも、何故ファリフがウェンディゴに『この町をどうしたいのか?』と問いかけた意味を理解していない。血脈と呼ばれるのか何なのか分かっていないのだ。誠就が強く感情に訴えかける形で説得しても、理解しきれていないファリフには難しいだろう。
 だが、誠就の言葉は決して無駄になっていない。
「でも、そうだよね。この町をどうしたいかって言われたら、自分の居場所にいる人達を思い浮かべますよね」
「うむ。そうだ。迷う時があれば、その場所を守る事を考えるのだ。我もついておるぞ。汝と共に戦うと誓おう」
 ファリフの笑顔に、誠就は強く頷いた。
 ファリフがこの町を、この町の人達を守るというのなら誠就は戦い抜こうと誓う。
 自身が天界に還るその日まで――。
 

(考えているな。何処で暴れさせれば混乱するのか、それを抑えてクリーチャーを動かしたか)
 市民を襲うスライムに向けて灰塵へと至る刃を振り下ろす高柳 京四郎(ma0078)。
 神降ろしの舞を発動した京四郎は市民を襲うスライムを中心に撃破している。だが、戦う中でスライムが出現したポイントは市民を包囲殲滅するというよりも混乱させて現場の統制を阻害する事を狙っているように見えるのだ。
 ここで、京四郎の脳裏に一つの可能性が浮かぶ。
「……市民の虐殺が目的じゃないのか?」
「何か気付かれましたか?」
 京四郎の姿を見かけたマイナが、近くまで駆け寄ってきた。
 京四郎が思案している様子から、何かに気付いたと感じたようだ。
「ああ。もしかしたら、ウェンディゴの目的は市民の虐殺じゃないのかもしれない」
「それは奇妙ですね。町の破壊を唱えているウェンディゴが、そのような行動を取るのは意外です」
 京四郎の言葉にマイナも首を傾げる。
 もし、現場にいる市民を殺す事が目的ならば包囲すればいい。
 しかし、ウェンディゴはスライムを市民と市民の間に出現させている。バラバラに市民を逃走させる事で現場を混乱させたいようにみえる。
 だとしたら、その目的は何か。
「血脈。確か、ウェンディゴはランディ議員の事をそう言ってたな」
「はい。それにファリフさんの事もそのように呼称されておりました」
 いつの間にかマリナの背後にマリエルの姿があった。
 どうやら逃げる市民を誘導し終えて、マイナの元へ戻ってきたようだ。
「まさか、血脈とは……」
「文字通り、何らかの血を継ぐ者という意味だろうな。話によればファリフをこの地に住む正当な住民とも言ったらしい。だとするなら、ランディ議員もそうだろう。そう考えれば、もう一つの仮説が生まれるな」
「ええ。条件は分かりませんが、実にややこしい仮説が私も浮かびました」
 マイナと京四郎に浮かんだ仮説。
 それはあまりにも奇妙だが、実現すれば戦況を変えうるものだ。
 我慢しきれない様子のマリエルが、マイナに問いかける。
「お嬢様、その仮説とは如何なるものでしょうか」
「血脈であれば『クリーチャー』を使役できるかもしれません。ランディさんがクリーチャーを友愛騎士団として手駒にできたのもそれでしょう」
「だが、問題は残ってる。どうすれば使役できるのか? それにスライムと友愛騎士団が戦っている状況から考えれば、クリーチャー同士で争っているのは何故だ?」
 一つの可能性が生じたものの、まだまだ京四郎達を悩ませる謎が存在するようだ。
 

「こちらに避難してください。落ち着いて移動してください」
 表情一つ変える事無く、更級 暁斗(ma0383)は市民を誘導していく。
 本来であればウェンディゴを少しでも早く倒すべきなのだろうが、逃げ惑う市民を無視する訳にもいかない。
 警察でも一部が救援に動いているようだが、正直間に合っていない。
 身を挺して市民を守ろうとする者もいるが、オルメタの警察ではどうしても対クリーチャーでは人海戦術を余儀なくされる。
 そしてそれは、警察官側にも被害が拡大していく事を意味している。
「うわっ!」
 警察官の口から悲鳴が漏れる。
 暁斗は、その声を耳にして体を翻す。一足飛びにスライムへ近づくと、滝昇の切っ先を返して刃を斬り上げる。
 スライムは暁斗の一撃を受けて後退。警察官の追撃を阻む事ができた。
「無理をしないで下さい」
「だが、市民が……」
「それでもあなたが死んで良い理由にはなりません」
「…………」
 警察官は渋々頷くと他の市民を助けるべく立ち去った。
 あのような警官ばかりでない事は知っているが、理想の為に死んで良いはずがない。
 そして、暁斗は向き直る。
「すべての元凶はウェンディゴですか」
 創立記念式典をぶち壊した張本人は、既に咎人と交戦を開始している。
 可能なら、ウェンディゴを守る為に蠢くスライムを排除したいのだが――。
「そろそろ増援が来てくれないかな? さすがに数が多いと、厳しくなるんだけど」
 水音が灰被リノ時計塔でスライム達に魔法攻撃を叩き込む。
 リダの話では警察側も救援に動いており、時間を稼げば準備を整えた警察が訪れるはずだ。そうなれば負傷する警官の数は激減していくのだが、肝心の救援が来る気配は未だにない。
「何やってんだよ、マットさん」
 迫るスライムへターコイズウォーターを放って撃退するリダ。
 マットが遅延するとすれば、警察側で何らかのトラブルがある事だ。警察署長とあまり反りが合わないマットが、何かやらかしたか?
 歯噛みするリダ。警察にはそのような事をしている時間では無いだろう。
「警察は何をやっているんだ。なあ、一緒にこのヒト達を避難させてくれよ! 今も逃げている人達が多くいるというのに」
 嘆くリダ。
 その間も水音が猛る嵐の牙でスライムに連続攻撃を仕掛ける。二人がスライムを駆除しているものの、スライムが減っていく気配はない。
「やはり、ウェンディゴを何とかしなければ……ん? あれは?」
 暁斗の視界に一台のパトカーがやってくる。
 かなり無茶な運転だ。タイヤを滑らせている様は、蛇行か迷走か。
 しかし、猛スピードでこちらへやってくる。
「無茶な運転は止めてくださいよ、捜査官!」
「馬鹿野郎! これが緊急事態じゃなくて何なんだ!」
 部下と口喧嘩しながらパトカーを降りてきたのは、捜査官のマット・マートンであった。
「マットさん」
「すまない、遅れた。今から遅れを取り戻す。まずは市民の避難を優先する」
 リダの言葉にマットは応えるように動き出す。
 部下に市民の救援を指示しながら、自身もハンドガンを片手に動き出す。聞けば、警察の準備に手間取っていたらしい。間もなくこの場に警察の増援が大挙して押し寄せるようだ。
「悪いが、もうしばらく頑張ってくれ。が、あいつを止めなきゃならないんだろうな」
「そうみたい。今もクリーチャーを召喚してるみたいだよ」
 マットのため息に、水音も合わせるように目を細める。
 市民救助が最優先だが、事態を収束させる為にはウェンディゴを何とかしなければならないだろう。
「皆さん、ここはお任せします。僕はウェンディゴとの戦いを支援してきます」
 暁斗は足早にウェンディゴのいる方向へと走っていく。
 少しでも早くこの事態を対処する為に。
 

「雑魚は時間を稼ぐのが役目ですよ。主人公たる強靱なスライムなら別ですが」
 エディが友愛騎士団へスライム駆除を命じる。
 中身は元マフィアなのだろう。巧みな動きでスライムへ攻撃を集中させる。
「……エディ……もっと、そいつらを……出せ」
 遮那はエディに友愛騎士団の召還を打診する。
 マルチショットでスライムを撃破していくが、スライムの一掃する事は難しい。
 遮那もマルチショットと近接攻撃で応戦しているが、エディはそもそも直接的にダメージを与えられる術がない。トーンフォレストはあくまでもゲートに過ぎない。そこから呼び出されている友愛騎士団員がスライムに対処しているのだ。
「構いませんが、増やせばクリーチャーも混じりますよ? そうなればクリーチャーはあなたへ襲い掛かります」
「……!」
 エディの言葉で遮那へ配慮していた事に気付く。
 エディがこの場にいるのはランディが逃走する時間を稼ぐ事。エディからすれば遮那は目的を果たすためにちょうど良い主人公だ。わざわざクリーチャーの友愛騎士団員を召還して襲わせる必要は無い。遮那も隙をみてエディに一撃を入れようか考えていたが、避けておいて正解のようだ。
「……だとするなら……少々、マズいな」
 遮那も苦々しげに呟く。
 先程からスライムの出現頻度が上がっている。
 市民の避難は進んでいるが、市民が避難すると同時にスライムを増えている。ウェンディゴの仕業だと思うが、しわ寄せは遮那の方にももたらされている。それに対してエディは慌てた様子は無さそうだ。
「問題ありません。主人公であれば窮地を救う仲間が現れる者です」
「義経さま!」
 遮那の元へ駆け寄る静。
 市民の誘導を終えて戻ってきたようだ。
「静!」
「ご安心を。今より立ち塞がる者を、足止め致します」
 静はスライム達へ支配者の楔を撃ち込んでいく。
 楔を撃ち込まれたスライムは、一瞬体を震わせる。そして、明らかに能力が低下していると分かる。
「主人公達が作り出した隙です。今こそ、活用しましょう」
 エディが友愛騎士団員へ総攻撃を指示。
 楔を打たれたスライム達が、次々とを消えていく。
「……静……感謝する」
「義経さま」
「二人で盛り上がっているところで恐縮ですが、時間です。こちらは退散しますよ」
 見つめ合う遮那と静。
 その傍らでエディは踵を返す。
「……待て、エディ……」
「何か?」
 遮那に呼び止められたエディは足を止める。
 振り返る事なく、声だけが響く。
 遮那は共にスライムと戦った奇妙な戦友へ怒気を向ける。
「……次は……必ず、仕留める」
「主人公らしいセリフです。その調子ですよ」
 遮那の一言を、エディはあざ笑った。
 

「悪夢の残影、何を惑わすか。如月流第十六宗家、如月朱烙。とく参る」
 朱烙が花弁と共にウェンディゴへ詰め寄った。
 紫電改の間合いに入ると同時に、ウェンディゴへ刃を向ける。
 ウェンディゴはこれに対処する為、地面より石の塊を現出させた。
「随分と直線的な攻撃ですね。それだけで勝利できるとでも?」
 岩を宙に浮かせ、飛ばすウェンディゴ。
 飛んでいく先は朱烙――ではなく、その後方にいた少女だった。
「ファリフ!」
 思わず振り返る朱烙。
 ファリフは押し寄せるスライムと戦っている。
 もし、朱烙がファリフの元へ向かえばその隙をウェンディゴが狙ってくる。
 一方、朱烙がウェンディゴを狙えば、ファリフが岩で負傷する恐れもある。
「貴様!」
「…………」
 怒声を上げる朱烙だが、ウェンディゴは何も言わない。
 視線はファリフへ向けたままだ。
 飛来する岩。だが、その岩はファリフへ届く前に砕け散った。
「二度も同じ手を。しかも、随分とダサい真似をしてくれるな」
 遊夜の折れぬ信念の左腕が岩と衝突。岩は左腕に負けてボロボロに崩れてしまったのだ。
 ファリフを狙えば、遊夜が立ち塞がる。
 ウェンディゴはそれを確かめたようだ。
「やはり、お前達を倒さねば血脈と話す事は困難か」
「倒す? 無駄無駄無駄ぁですわ!」
 アナルデール・ウンディーニ(ma0116)が、二本の魔具「アニミズム」を手に現れる。
 地を駆けるもので途中のスライムや友愛騎士団をスルー。一目散にウェンディゴを目指していた。
 アナルデールは、余裕ある態度を見せながらウェンディゴへ断言する。
「先に言っておきますわ。わたくしはウェンディゴ様の言い分に興味はありませんの。あなたが何を考え、何をしようと関係ありません。無駄ですわ」
「…………」
「もっと言ってしまえば、消えた議員様もそこにいたエディ様も等しく興味はありません。わたくしが興味ある事は、この町を滅ぼそうとするウェンディゴ様を浮世から墓場へ送迎して差し上げる事ですわ」
 アナルデールの目的は実にシンプルだ。
 ウェンディゴが如何なる言い訳をしようとも、この町に害を為すなら容赦なく叩き潰す。
 二本のアニミズムが、唸りを上げてウェンディゴの仮面を叩き割る事になる。
「邪魔をするなら、あなたも敵です」
「最初から敵だと申し上げているでしょう? 人の話も聞かないとは。本当に無駄な時間ですわ」
 アナルデールは間合いを詰め、アニミズムのを振り下ろす。
 ウェンディゴは近くにあった石のベンチを引き寄せて受け止める。
 睨み合う両者。
 ウェンディゴと対峙する者は確実に増えていく。
 

「ファリフさん」
「たぁ!」
 斧でスライムを打ち倒すファリフ。
 その傍らでは暁斗が滝昇でスライムを切り払う。
 確実にスライムを倒しているのだが、地面から雑草のように次々とスライムが滲み出てくる状況だ。
「これは……キリがないなぁ」
「ファリフさん、手を止める暇はありません。次が来ます」
「ええー」
 さすがにうんざりした様子のファリフ。
 しかし、暁斗もこのままでは押し切られる可能性を感じていた。警察の増援で状況は変わったものの、すべてを倒す事は困難だ。何とかしてスライムの出現を抑えられれば良いのだが――。
「ファリフさま」
 そこへ静が駆け寄ってきた。
 突然の登場に驚くファリフ。
「どうしたの? 何かあったの?」
「ファリフさま。クリーチャーに呼びかけて動きを止めたりできないでしょうか……?」
「え?」
「ウェンディゴさまはファリフさまを血脈とお呼びになられました。そして、ランディさまも血脈と……。
 ファリフさまも血脈なら、クリーチャーに呼び掛ける事ができるのではないでしょうか」
 静も京四郎達と同じ推測に至っていた。
 もし、血脈がクリーチャーに呼び掛けができるなら、今出現しているスライムを止められるかもしれない。
「で、でもどうやって?」
「分かりません。ですが、人と人を繋ぐのは心。クリーチャーに耳を傾けてみては?」
 静もクリーチャーに対してどうすれば呼び掛けられるかは分からない。
 だが、呼び掛けは心を通わせる事。クリーチャーを理解できれば、言葉が通じる可能性はある。
「耳を傾けるって……。そんなどうすれば?」
「ファリフ」
 暁斗がファリフの名前を呼んだ。
 振り返れば、今にも市民を襲おうとするスライムがいた。
 転んだのだろう。地面で横になる市民。周囲に警察はおらず、暁斗の位置からでは恐らく間に合わない。
 走るならファリフが一番近い。無意識に体を動かすファリフ。
「待って……!」
 その時、誠就の言葉が蘇る。
 
 『思い出せ! 強く思い出せ! 小さな孤児院を! シスターを! 子供達を』
 
 ――思い出せ。
 強く、思い出せ。
 還るべき場所を。
 守らなければならない存在を。
 
 それを実現するにはどうすればいい。その為には、何を為せばいい。
 走りながらスライムへ意識を集中させる。
 
 だが、そこからどうする?
 焦るファリフ。
 
 その時、ふと胸の辺りに温もりを感じる。
 これは、何――?
 
 理解できない。
 でも、決して冷たい物ではない。
 そしてその温もりが、自然とファリフの口から漏れ出した。

「止まって!」
 ファリフが叫ぶ。
 それを受け、スライムは振り下ろそうとしていた触手の動きを止めた。
「声が、通じた?」
 静が呟く。
 ファリフは振り返る事なく、そのまま言葉を続ける。
「みんな、帰って。この場から消えて」
 ファリフの言葉を受け、スライム達は次々と消えていく。
 そればかりではない。友愛騎士団の中にいたクリーチャーもその場から掻き消えていく。
 まるで始めから何もなかったかのように。
「ファリフさま!」
 駆け寄る静。
 興奮のあまりファリフの肩を掴む静。
 だが、ここで静は思わず声を漏らす。
「え」
 それは何故かファリフの瞳から涙が流れ出ていたのだ。
 熱を帯びた雫。
 その表情は、いつもの笑顔とはかけ離れていた。
「どうされました?」
 静は問いかける。
 それに対してファリフは、意外な答えを口にする。
「クリーチャーの声が聞こえたんだ。辛い、苦しい……そして、憎い、悔しいって」


「馬鹿な! 血脈を理解していなかったのではなかったのですか?」
 先程とは明らかに態度が異なるウェンディゴ。
 戦闘していた朱烙やアナルデールも何が起こったのか分からない。邪魔していたスライムが消え、ウェンディゴも何か苦しそうな様子だ。
 状況を理解できない二人。
 そんな中、空気を読まずに飛び込む咎人がいた。
「わふぅ! よろしーです。ぼくだってやるときはやりますです!」
 エディから紹介されたと思ってやってきたアルマ。
 外見からゆるキャラ系な雰囲気を放っているが、ぶちかます時には容赦しないタイプだ。
 新たなる闖入者に、ウェンディゴも苦々しげな様子だ。
「また新たなる来客ですか。この忙しい時に」
「きゅっ……」
 ウェンディゴを近くで見つけ、思わず一歩下がるアルマ。
 そして、考えを必死に振り払おうとしているのか頭を振っている。
「わぅぅ、たぶん『るいじじんぶつ』ってやつです!」
「意味の分からない事を」
「『るいじじんぶつ』さんとあそぶですー」
 アルマは早々に新世界の創造を発動。
 小規模の世界を作り上げ、ウェンディゴの体を包んでいく。
 強制的にウェンディゴへ弱点が上書きされる。
「くっ。なんだこれは!?」
「よろしいので? では、遠慮無く」
 いつの間にかウェンディゴへ近づいていたアナルデールが、ペインスパイク。
 受けていたダメージをウェンディゴへ呪いとしてたたき返す。
 さらにストレイキャットと共にアニミズムによる乱打を浴びせかける。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄ですわ」
「く、おのれ!」
 思わず攻撃を防ぐ為に両腕に岩を纏わせて腕を上げるウェンディゴ。
 それが隙になる事に気付いていない様子だ。
「わふぅ! ちゃんすはさいだいげんにいかすですー」
 アルマが後方から結合暴走。
 属性を結合させると共に暴走が発生。魔法の奔流がウェンディゴへともたらされる。
 強烈な一撃がウェンディゴの懐に生じる。後方へ転ぶウェンディゴ。
「マズいですね。ここは……」
 認識阻害でこの場から逃れようとするウェンディゴ。
 しかし、認識阻害で居場所の特定を誤魔化そうとしても、居場所が始めから分かっているなら認識阻害の発動初期を狙われる。
 能力が露見している相手ならば、それは大きな隙となる。
「闇を彷徨うモノ、煉獄の業火を豚共にッ! 鉄槌をッ!!」
 朱烙の一刀。
 立ち上がる瞬間を狙って、下段から斬り上げる形で胴体を斬る。
 認識阻害されたとしても、動く前なら本体はそこにある。
 朱烙は、そう信じて紫電改を振り抜いていた。
「如月流宗家の舞い、とくとご覧頂けて? 悪夢の残影、此処に散る」
「……まだ……終わりません……この町を、壊すまで……レイムディアーを、穢した……この恨みを晴らす、まで……」
 倒れたウェンディゴは、その言葉を残して地面へ吸い込まれるように消えていった。
 

「終わったのかな」
 シアンは、周囲を見回した。
 スライムの存在も消え、避難した市民も問題無さそうだ。警察の方に被害が発生しているようだが、シアンもできる範囲で最善を尽くしたつもりだ。
「警察の増援で形成が変わると考えていたけど、思わぬ展開になったな」
 シアンの視線の先にいるのはファリフだった。
 まさか、ファリフがクリーチャーと意志疎通できるとは思わなかった。
 だが、ファリフ自身も何が何だか分からないらしい。
「ボクもよく分からないんだよ。もう一度やれって言われても多分無理だよ」
「そうなんだ。クリーチャーがまた出たら追い返して貰えると思ったんだけど」
「無理無理。それに勘なんだけど、次は簡単に話を聞いて貰えないかも」
「どうして?」
「クリーチャーの声。本当に悲しそうだった。それにとても怒っていた」
 ファリフによれば、クリーチャーは悲しみと怒りを抱えていた。
 もし、その感情が増幅されていればファリフの声が届かない事も考えられる。
(確か、ウェンディゴもこの町に怒っていると聞いたな。もし、同じような怒りをクリーチャーも抱えているなら……)
 シアンの脳裏に浮かんだ推測。
 この町へ何らかの怒りを抱えているなら、町を守ろうとする以上、クリーチャーと戦う事は避けられない。
 今回はファリフの声を聞いたが、町を守ろうとすればクリーチャーは『声が聞こえても無視する』だろう。

「推測は当たっていたか。さて、本番を始めようか」
 ファリフを遠目に見つめていた京四郎は振り返る。
 そして、残された市民と警察に向けて京四郎は大声で呼び掛け始める。
「一応素性は明らかにしておこうかな。俺はマフィアから、今回の襲撃について話を聞いて助けに来た者だ。全てのマフィアがそうとは言えないが、街や市民が脅かされるのを良しとしないマフィアも居るって事は、この場を借りて伝えておく」
 京四郎がアピールしたかったのは、エディによって貶められたマフィアの評判を少しでも回復する事になった。
 友愛騎士団が歓迎された背景にはカークランドファミリーの横暴があったが、同時にエディの工作でマフィアに対する評価が落とされた事に起因する。それならば、少しでも評判を改善する事でマフィアが動きやすい環境を作れるかもしれないと考えたのだ。
「そうなのか。すべてのマフィアが同じじゃないか」
「でも、連中は来なかったじゃないか。彼らはマフィアじゃないんだろう?」
「警察にマークされているんだぞ。来られる訳無いだろう」
 市民達が口々にマフィアへの評価を話す。
 京四郎の行動はマルコムの工作と相まって、マフィアの印象が改善していく事になる。
 しかし、京四郎はまったく別の流れからある情報を入手する事になる。
「アンダーソンファミリーもこの町が生まれた頃から続くマフィアと聞く。この町を貶めるはずがないんじゃ」
 一人の老人がアンダーソンファミリーについて話している。
 京四郎はある言葉が引っかかった。
「今、『この町が生まれた頃から』と言ったのか?」
「うん? そうじゃ。アンダーソンファミリーはこの町が生まれた頃からあった。当時は自警団のような存在じゃったらしいがのう」
「自警団?」
「当時は開拓時代じゃったからのう。無法者なども多かったから、自然と自警団ができたのじゃろう」
 自警団。
 つまり、アンダーソンファミリーは開拓時代の自警団がベースとなっている。自警団が自ら勢力を拡大する為に悪事に手を染めた。それがマフィアへと繋がったのだろう。
「アンダーソンファミリーにも何か町の過去に関する資料が残っているんじゃないのか?」
 機会があれば調べるよう伝えて見るのも良いかもしれない。
 

「やれやれ。これで一段落か?」
「麻生さん、教会は禁煙だよ」
「ファリフさん、こいつはお菓子だ。タバコじゃない」
 教会のベンチに腰掛けて背もたれに体を投げ出す遊夜。
 ファリフも心配そうな顔で見ているが、少し前までウェンディゴと戦っていたのだから仕方ない。
 時間経過で市民は落ち着きを取り戻しているが、翌朝になれば大騒ぎになる。
「大変な事になりました。創立記念式典がクリーチャーに襲撃され、ランディ議員も暗殺未遂が発生。ウェンディゴは皆さんのおかげで倒されましたが、警察側も被害が甚大です。既に議会は警察組織の強化という話が出ているようです」
 ハナも今回の一件が大事になると感じていた。
 創立記念式典が襲われた事も大事だが、その最中に天魔がランディを襲撃したという話になっていた。
 この影響で天魔は指名手配。ウェンディゴが倒されたものの、市民を守る為には警察組織の更なる強化が必要という主張が議会で大きくなっていく。
「あの議員、やりやがったな」
「どういう事ですか?」
 リダの言葉にファリフが首を傾げている。
「俺達咎人に楔を撃ち込んだんだ。邪魔をすれば『指名手配させるぞ』ってな。天魔さんの行動は確かに派手だった。それを利用されたんだろう」
「それよりファリフさん。クリーチャーの声は聞こえないのか?」
「さっぱり。血脈だ何だと言われるけど、未だに実感ないよ」
 遊夜の問いかけに、ファリフは頭を振る。
 あれからファリフの力は目覚めない。仮に目覚めても次も使えるかは分からない。
 あまりあてにしない方が良さそうだ。
「それに……」
「それに?」
「なんで、クリーチャーから悲しさや怒りを感じたんだろう?」
「俺に聞かれてもなぁ」
「だよねー。ごめんね、役に立てなくて」
「いや、そんな事はないさ。ファリフさんが重要な人物である事には変わりないさ」
 そう言いながら、リダはマットの事を思い出していた。
 戦いの中、市民を必死で守って避難させていた姿。
 少しでもあのような警官が増えてくれれば良いのだが――。
 

 ――。
 
 ……――。

 ――ここは、何処だ?
 
 ようやくだ。

 ようやく、力が戻ってきた。
 
 長かった。

 おそらく、大きな力が消えた事が原因だろう。
 消えた理由が何かは分からないが……。
 
 今はそれより血脈を探さなければ。
 そして、伝えなければ。
 
 取り返しが付かなくなる前に――。

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