春よいらっしゃーい!
江戸崎竜胆
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シナリオ形態
ショート
難易度
Very Easy
判定方法
カジュアル
参加制限
総合600以上
オプション
参加料金
100 SC
参加人数
3人~6人
優先抽選
50 SC
報酬
0 EXP
0 GOLD
0 FAVOR
相談期間
3日
抽選締切
2023/03/15 10:30
プレイング締切
2023/03/18 10:30
リプレイ完成予定
2023/03/30
関連シナリオ
-
  1. オープニング
  2. -
  3. -
  4. 結果
  5. リプレイ
 合コン、それは戦場。
『カジュアルな服装でお越し下さい』
 と書いていても、それを守るものは居なかった。ホテルの大ホールを貸し切ると言う時点で、『そこそこお洒落して来い』と言う暗黙の了解が出来ている。目にも華やかな服装をした男女がパーティー会場に花にも負けじと着飾っていた。老いも若きも出会いを求める人々で溢れ返って、春爛漫と言った感じだ。
 その中でも一際目を引く三人組が居た。スーツを着た青年の歩夢(ma0694)が、幼馴染の雀舟 雪(ma0675)と優夜(ma0725)を連れて、会場の
入り口でバッジをどれにするか迷っている。
「バッジはこの二人と雰囲気を楽しみに来たんだが、他者お断りってつもりもないので……どれ選べばいいんだろ?」
 困惑する歩夢に「フリートークはいかがでしょうか?」とスタッフが声を掛けてくる。合コンとは言っても、パーティーのご馳走目当てで来るご近所さんも居なくはない。そもそもそう言った偉いご近所さんのご厚意で会場を貸し切っているのだ。そう言う人の為に雑談しながら歓談出来るようにとのバッジがある。素直に三人ともそれを付けて会場に入ってくる。
 は、と会場の人目を惹くのは雀舟 雪の和装姿だ。季節に合わせた桜柄の江戸小紋。地落ちと言われる手法を用いた物で、桜の花弁がはらはらと舞い散る様を描いた薄紅の着物だった。お洒落着に近い小紋の中でも、柄が小さく格式が高い江戸小紋は紋を入れれば略礼装としても選ばれる。パーティーに合わせて柔らか過ぎず固過ぎず、丁度良い具合の着物の作法を心得た着こなしだった。
 優夜もその華やかさでは負けていない。細身の体にフィットする刺繍の入った白いドレスを纏い、神魔種の見目を存分に引き立てている。未だ少女の危うさが残るところがあるが、華々しい女性らしさも出てきている、アンバランスな今だけの魅力と言うべきか。
 それに加えて、女性二人をエスコートする歩夢の体格の良さが、小柄と言える女性陣との差を際立たせる。未だ若い青年と言える歳ながら、鍛え上げられた肉体はスーツの上からでも分かる程。身長は飛び抜けて高く、小柄な雀舟 雪とは頭二つ以上違うのではないだろうか。
 そんなに目立つ三人が、年相応に物珍しそうに合コン会場を見て回る。
「合コン。話には聞いてたけどこんな感じなのね」
「俺のいた時代だとこういうのはなかったから新鮮だなあ。まあこっちきてある程度経ってるし、全く知識がないわけじゃないけど」
「歩夢と雪の幼馴染二人同伴なので、なんか違う……って気も……」
「まあ、俺は両手に花だな」
 と、優夜と歩夢が話しているのに、雀舟 雪はジュースを貰い控えめに二人の話を聞いていた。
「雪、これ美味しいわよ。どう?」
 フルーツとサンドイッチを摘まんでいた優夜が雀舟 雪の元に切り分けられた物を何個か皿に載せて持って行く。雀舟 雪は皿を貰ってピックで摘まみながら、少しずつジュースを飲んでいる。余り表情が動かないし、「ありがとう」と小さく優夜に言う声は、抑揚は少ないが温かい視線で感謝の念を伝える。
 そのまま優夜は少し別の男性陣と話していたりもした。猫の獣人種の紳士に「レディと、あちらの小さなレディにも」と満開のミモザの花を貰って帰ってきた。
「はい、雪にもだって」
 ミモザの花はふわふわと黄色い花を、今を盛りと咲かせていた。小さくカットされた花を優夜は髪に差し、雀舟 雪の髪にも差してやる。文字通り社交界の花と言える姿ではあるが、この幼馴染達には合コンは未だ早いようで。
(生まれた世界も同じ、来た時期も同じの運命共同体みたいな二人。ちょっと雰囲気を味わってみたいのできてみたけれど……新しい出会いも歓迎はするのだけれども、やはり二人と一緒なのが落ち着く)
 そう、優夜は感じていた。これまでのこと、これからのこと、こう言う場にきてどう思うのか、ぽつり、ぽつり、とりとめもなく歩夢と話してみたりした。
 歩夢も気心しれた相手と居る訳なので、自然と思い出話やら、此処や他の世界に対する感想の話になっていく。
 三人の思い出話と未来の事を語る二人を見て、雀舟 雪は少しだけ違う意見を持っていた。
(……変わらないというけれど二人とも雰囲気が変わったと思うわ。優は可愛らしい美人になったし、歩は……大人っぽくなった気がするかしら)
 雀舟 雪は口には出さないが、薄っすらある記憶と比較するとそう感じた。感じてしまった。
 これから『変わっていく』と話している時になんだか寂しさが全身を包んで。
 寂しさと『離れたくない』と言う気持ちが身体を突き抜けていくような気がして。
 雀舟 雪は、気が付いたら幼馴染二人の服装のそれぞれの裾を摘まんでいた。小さな指が布の端を摘まんで震えている。は、と気付くと手を離してなんでもないかの様に振る舞う。
「……いや。これは……その……何でもないわ。……気の……気の迷いよ」
 冷静を装いつつも、しどろもどろで二人に言い訳をしたが二人はどう感じただろうか。雀舟 雪は気になって仕方がなかった。
(まだまだ私も子供というこということなのかしら。恥ずかしい……)
 歩夢は雀舟 雪に袖を掴まれて、どうかしたかと少し驚いたが、なんだか可愛いな、と幼馴染を見ていた。
 優夜は裾を掴んできたその手を、包む様に握って微笑み「雪、踊らない?」と誘って、雀舟 雪の手を引いて、慣れないダンスをたどたどしくも楽しく踊る。社交ダンスなんてその場に居る人達も余り慣れないダンスだろう。皆、格式ばったダンスではなく、思い思いに体を動かしている。
「変わることがあっても、変わらない事もあるわ。雪」
(……こんな気持ちでも変化を否定してるわけじゃないのだけどね)
 簡単なワルツのステップも上手く出来ない未熟さ。もどかしさ。それすらも楽しいから。
「そうね。例え変わっても、絆は変わらずに……より深くしたいわ」
 雀舟 雪が心の底から願っている事を口にした。相変わらず平坦な口調だったが、声に籠っている熱は本物だった。
 歩夢が雀舟 雪が優夜に連れられてダンスしてるのを眺めている。帰ってきた女性陣二人を迎えると、優夜とバトンタッチして雀舟 雪声に「次は私と踊ってくれるかい、お姫様?」と声を掛けて、今度はその二人で踊り始める。やはりステップ以前に、身長差がある二人では組むのすら難しく、ダンスに慣れている社交的な大人組からは浮いている。
 頑張って踊って帰ってきたところで、今度は、歩夢は優夜に「ありがとな。俺ともいいか?」と手を差し出して、ダンスホールへと飛び出していく。拙いながらも少しずつ様になっていくダンスに、周囲の目も温かい。
「どう変わっても私達は一緒よ。ね?歩夢」
「ああ、そうだな」
「それだけはきっと変わらない。だってこんなに楽しいんだもの」
 結局こけそうになって、笑って。それに釣られて皆が笑って。今度はクラシックに飽きたのか、DJに交代してビートを刻み始める。二人は雀舟 雪も引きずり込んで、体を揺らしてダンスのリズムに乗る。ワルツより体の底から熱量が湧いて来る。汗が噴き出て、本能的な体の動きになっていく。
 気が付くと18時。どうやら、此処からは大人の時間の様だ。
 アルコールを振る舞う時間になると、「お酒は……まだ早いからやめとこう?」と優夜が言い出し、年齢的なものもあり帰宅する事になった。歩夢を中央に雀舟 雪と優夜が挟んで、悪戯っぽく腕を組んだりじゃれ合ったりしながら帰っていく。遠目に見ると、仔犬がじゃれ合っている様でまだまだ大人には程遠い。だが、子供の時代は終わりを告げている、そんな三人だった。子供のままでは居られない、変化を受け入れ未来を切り開く、それに戸惑いを隠せないながらも進んでいく。
「新しい出会いをつって、結局いつものメンツでつるむ感じになったが……良かったよ」
 帰っていく三人の頭上で、ミモザの花がふわふわ揺れる。
 ミモザの花言葉は『感謝』、そして『友情』。
 どうか、変わっても変わらない感謝と友情をこの先も――

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