寂しんぼのクッキーネコちゃん。
月宵
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シナリオ形態
ショート
難易度
Very Easy
判定方法
カジュアル
参加制限
総合600以上
オプション
参加料金
100 SC
参加人数
3人~6人
優先抽選
50 SC
報酬
200 EXP
5,000 GOLD
10 FAVOR
相談期間
3日
抽選締切
2021/06/07 10:30
プレイング締切
2021/06/10 10:30
リプレイ完成予定
2021/06/22
関連シナリオ
-
  1. オープニング
  2. -
  3. -
  4. 結果
  5. リプレイ

「クッキーネコちゃぁん。おねえちゃんがきたぜ~」

 バチコーン
 フギャーー!
 如月 朱烙(ma0627)がクッキーネコを見付けて飛び付こうとすれば、逃げられて水槽に足を引っかけスッ転ぶ。
「おい、気を付けてくれ? 俺は水槽は直せるが、カラクリまでは出来ないぞ」
「ネコぢゃぁぁん……」
 サキチがあきれ果てた様子で朱烙にため息をこぼす。

「ネコチャンカワイイネ、カワイイネコチャンネコチャンカワイイネコチャンカワイイ」
 ここにもう一人、いやもう一匹の狂人。黒い猫耳カチューシャに、喉仏を隠すためのスカーフを首に巻いた六道煉龍(ma0646)……ちゃん、だ。
 ズイっと、水槽の中を覗き込む、化けネ……ではなく、煉龍。当たり前の如く、クッキーネコは震えている。

「猫ちゃんってどうして可愛いのだろう、猫ちゃんだからだ」
 そんな猫狂人達から、離れた位置で見守る影が二つ。シア・ショコロール(ma0522)と白花 琥珀(ma0119)だった。

 ねんどを三種類に分けてを捏ねながら、クッキーネコの造形を観察するようにそっと眺めるシア。
「仕草まで、本当に猫だなぁ」
 本来なら、先生が怒るほどの児童のガヤガヤが、きっとこの場所を支配していたことだろう。がらん、とした室内。幼い命が犠牲になるのは、何度見ても辛い。後、何回自分はこんな光景を見るのだろう、と考えてしまう。
「猫は正義です」
 動くクッキーにメルヘンさを感じて、ほわほわと言う琥珀の台詞に今は、と考えをシアは思い直す。
「そのとおり猫は正義です」
 彼もまた、猫信者であった。

 ところ変わって、こちらは園外の庭。今の今まで世話されてきたであろう庭園をマイナ・ミンター(ma0717)が回っている。目利きを用いて、無害そうなハーブや、植物を摘んでいる。

 そんな彼女の様子を見守る高柳 京四郎(ma0078)にも、クッキーネコの声は此方まで聴こえてくる。
「さすがに一匹では可哀想だし……何か作って入れてあげようか」
 京四郎の経営する喫茶店、その店員がマイナと言った間柄である。こんな緩やかな時間は滅多にない。とりとめのない話をするには、良い機会だと京四郎は考えていた。

「ミンターさん、こんな本で良いかい?」
 ミヨシがマイナへと本を渡してくる。どうやら彼女が動物を成型したいが、資料がないと困っていたと先程聞いていたのだ。
「ありがとうございます……これは絵本?」
 受け取ったそれはページ数は少なく、薄く、表紙に描かれた動物も写実的なものでなく、簡易的なイラストだ。児童書の一つなのだろう。
「部屋調べてたら出てきた。後でオレにも貸してくれな」


●こねこねタイム
 こうして全員がそれぞれの準備を終えて、いよいよネコちゃんのお友達作りに入る。
 ネコちゃんの友達には、やっぱりネコ、と言うことでシアは自分の家族である、たんば、もだま、ちゃぼ、に似た猫を三匹見事に作っていく。

「お友達に可愛い猫ちゃんを、煉龍ちゃんがつくってあげるからね! ネコチャンカワイイ……」
 呪文なのか、呪言なのか良くわからない台詞を唱えながら、煉龍もまた猫を作っていく。鼻唄まじらせ、まるっこい小さなボールもお隣に。これでネコちゃんと遊ぶためだ。
「六道さんも猫大好きだよねぇ、頬がゆるんでる」
「それはお互い様じゃんか」


 若干顔を赤く擦りむきながら、舌打ちをしてから朱烙がねんどの元に戻ってきた。漸く発狂期間を過ぎたらしい。
「しゃあねえ、仲間から創ってやっか」
 頭をポリポリかきつつ、猫の胴体を造り始める。目標は幼少期に見た覚えがある、マンチカンと言う短足な猫。だがあの何とも言えない愛くるしさは、やはり天が与えたもうた賜物らしく。
 朱烙の小麦ねんどには宿らなかった。
「ほらー、出来たぜネコちゃぁん」
 ぬっ、と出来上がった『ただの短足猫』をクッキーネコに見せると、早速水槽に入れようとした。
「おい、焼かないと動かないぞ」
「おっと、そうだった。待っててなークッキーネコちゃぁん」
 そう言ってから、朱烙は天板に作品を乗せておいた。
「次は……母上でも創るか……」

 同じ友達としてネコを作る三人に対し、全く別なものを作る面子がいた。
「猫さんの形難しいですシアさん……!」
「気持ち、大切なのは気持ちだよ!」
 ぽてりと立てずに寝っ転がるネコの傍ら、こちらは円錐に頭と思わしき肌色の球が乗っかって笑顔が描いている。円錐は先程のスモッグの水色である。どうやら、琥珀はネコと遊ぶ子供達を作っているようだ。思い出を叶えることが出来なかった、児童達の想いを少しでも昇華出来るように……

「できました。まいにゃん第一号、完成です。……何を、笑うのです」
 丸い二つのお団子が体と頭。底に足と思わしき丸。猫耳は頭上にしっかり付いてるし、間違いなく生き物なのだろう。
 彼女は思う。
 長い年月、この猫は寂しい思いをしてきたのだろう。明日幸せになるはずのまま、時に凍らされていたのだ。時を動かす。その参加した結果がコレである。京四郎が教えてくれていたにも関わらず、コレである。
 
「うん、上手く出来たね……マイナさんらしくて、良いな、って思う。俺も粘土の動物達が出来上がったところ」
「京四郎さん、こっち見てお話しましょう?」
 そんな京四郎の手元を、改めてマイナは眺める。簡略化し、デフォルメされてはいるが、それが兎や、鳥だと言うのが一目でわかる逸品である。
「流石です。これならきっと、猫も喜びますね」
「ちょっと、馬が難しい……四つ足を立たせるのはなかなか苦労しそうだな」
 京四郎の頭一つ越えた悩みに圧倒されつつも、マイナは自分を奮い立たせ、新たなまいにゃん達の製造を始めるのであった。

 皆がねんどを捏ね終えると、天板の上で少しだけ乾かす必要があるらしく、その間に各自で別のことをする。
 
 誰よりも先に作品を完成させ、部屋を出たのはシア。目標の両開きの扉を見つけ、両手で勢い良く押し開ける。彼の口元が期待に、にんまりと動く。
 目標の場所、調理室を見つけた。しかもかなり本格的、業務用ガスオーブンに、めんぼう、粉ふるい、何でもごされと言いたげだ。
 シアはシャツの腕を捲る。

「さて、ひさびさに全力でねこ茶屋スイーツを作るとしますか!」

 話は再び遊戯室。何やら水槽の前で屈む怪しい黒猫と、ミヨシが一人。
「良いか? 驚かさないようにそっとだからな」
「わかってるよ、ネコちゃん、ボールだよー。そーれ、コロコロコロ〜♪」
 煉龍が先程作ったボールを、とてととて、と歩くクッキーネコの手前までそっと転がす。

 にぃ………?
 クッキーネコが目の前の丸に気付く、恐る恐る手を伸ばし、てし、と叩く。やがて、害がないものだとわかると、てしてしの回数が増え、やがてゴロゴロとボールを転がし、遊び始める。
 家しか周りに何もなかったクッキーネコの世界に新たな一歩が生まれた瞬間だ。
「「よっし!」」
 ミヨシとサキチが互いに顔を合わせて小さくガッツポーズ。
「遊んでねぇで、作業しやがれ」
 サキチに小突かれるのは当たり前であった。

 スキンシップも作業じゃないかー、とブーブー言いつつもしぶしぶ煉龍は席に戻った。
 するとサキチは琥珀の傍らまで足を伸ばす。彼女はと言えば、猫用のアスレチックに、と手のひらでねんどを伸ばして丸太を作っているようだ。
「確か、子供のねんどを造っていたよな。少しだけ測らせてくれねぇかな?」
「測るですか? 構いませんよ」
 軽く感謝を述べれば、サキチはL字型の定規を取り出し人形の採寸を取り始めた。
(一体何をしているのでしょうか?)
 琥珀は不思議そうに首をかしげた。

「でき……た……」
 ねんどベラをそっと置き、額の汗を朱烙が拭う。彼女の会心の一作、その名は母上、だ。
 等身大の上半身、生前の朱烙の記憶に残る母上の面影を反映させた……らしいのだが……
「…………」
 傍らで見ていた煉龍はその『あんまり』の出来に絶句していた。猫のお友達ではない、これはもう猫避けである。
 ほろり、朱烙の頬をこぼれる涙。
「ぐすっ……母上、ははうえー!!」
「うぉ……そ、そうか」
 涙ダバーをし出した朱烙に、煉龍は茶化す事すら恐ろしくなった。どれだけ『キュビズムの塊』だろうと、彼女にとっては、大和撫子のそれなのだ。


 乾いたお友達を天板に乗せ、シアが待っている調理場へと琥珀が運んできた。そこでは、忙しそうにシアと京四郎があちらこちらと動いて、菓子の材料をかき混ぜていた。パラパラと菓子のレシピ本を捲る。
「高柳さん。粉、ふるい終わりましたよ」
「ありがとう。シアさんバターの戻しはこれくらいかな? マイナさん、生地をそろそろ冷蔵庫から取り出してくれないかな」
「はい。後は、伸ばして型抜きでよろしかったですね」
 後から来た京四郎とマイナも、シアを手伝っているようだ。その菓子のバリエーションと、手際のよさに琥珀は目を輝かせつつ圧倒される。
「さすがお上手ですねえ……お菓子作りといえばシアさんです♪」
 ふわりと笑いながら、両手を合わせる琥珀をシアが横目で確認すれば、待ってましたとばかりにガトーショコラのカップケーキの乗った皿を彼女に差し出した。
「味見にどうです?」
 目を輝かせて、琥珀は人目も憚らずカップケーキにかぶりつく。ケーキの中からとろけるガナッシュに、生地が合わさり、琥珀のほっぺもとろける。言葉がなくても、表情でシアにはお見通しだ。
「ちびっ子には、スイーツ。琥珀さんにも、スイーツ、でしょ」

 台の上にてめんぼうで伸ばしたクッキー生地。そこに花の型や、ハートの型を押し付け、マイナーが生地を抜こうとしている。しかし、型抜きに生地がくっついて、上手く抜けないようだ。
「前以て型に粉をまぶせば、外しやすくなるよ」
 そう言えば、京四郎は慣れた手付きで型抜きとクッキー生地の設置面に、薄力粉をまぶす。
「京四郎さん、もう作業は大丈夫でしょうか?」
「ああ、後は焼けるのを待っているよ」
 一段落したのか、マイナの傍らへと椅子を引き摺って運び、座って彼女の作業の様子を眺めていた。ここの調理場を見てわかることがある、この調理場はとても上等なもので、たくさんの料理が児童達にきっと振る舞われていたに違いないことを感じさせた。

「そういえば、此処は俺の居た世界に酷似してるけどマイナさんの居た世界にも、こういう託児所とかみたいなのは在ったんだろうか?」
 マイナは少しだけ手を止めて、一考してから唸る。
「あった、とは思いますが。父がその様な施設を経営していたかはちょっと……」
 順調にクッキーの型抜きを繰り返しつつ、二人は他愛のない会話を繰り広げる。一緒の時が多い二人だが、普段の依頼ではなかなか、こうは行かない。

 ドスン
 そんな和やかな時間を切り裂く、轟音が一つ。驚き京四郎の見る先には、朱烙と彼女の作った、母上。
「焼くならこれも頼むぜ!」
 色んな事象に驚愕したのか、目を丸くしたマイナは声が出ないようだ。

「無理だ。いくら、業務用のオーブンでも入らないし。中までは焼けないからな」
 ピシャーン!
 ここに朱烙、雷走りて、膝から崩れたり!!
 ヒシッ、まだ柔らかいそれを優しく抱きしめ彼女は叫ぶのだ……

 「は………ははう゛ぇ~~」

 ●箱庭に彩りを
 お菓子も一通り完成し、お友達達も焼き終わってから、冷ましながら。最後の仕上げに入っていた。
 琥珀が水槽の中、特に家の周りをクレヨンで緑に塗り潰す。
 
 ニィー……ミャォ?

 クッキーネコも漸く大きなヒトに慣れてきたのは、家の傍らは離れずともボール片手に掴んで興味津々に眺めている。次にアスレチック代わりの丸太を琥珀が入れていれば、サキチが何かを一抱え持ってきて家の隣に置いた。それは、家よりも縦長い小屋であった。
「子ども達にも家が必要だからな」
「サキチさんが作ったんですか?」
 昔取った杵柄、サキチはそう言ってから小屋を固定し始める。
 同じく水槽の中を装飾するのはマイナ。庭で取ってきた花を冠にし、彩るようにそっと水槽に置く。絵に描かれた琥珀のクレヨンの花と一緒に水槽の中に咲き乱れる。
 マイナがクッキーネコに向き直ると、白い花を一輪ネコの元へ。

 ニィー?
「この花の名前を与えましょう。いつまでも寂しい猫では可哀想です」
 エルデ。『大切な思い出』の花言葉を司る花の名をもじり、マイナはネコに与えた。
 ……ミィヤァ
 意味は理解してなくとも、与えられた何かにクッキーネコ──いいや、エルデは小さく鳴いた。
 やがて、水槽の装飾は完成し、いよいよお友達を全員で一斉に手放した。

 鳥は羽ばたき、兎は跳ねて、馬は走り、子供達はわらわらと規則性もなく動き始め、猫達はエルデの元へと馳せ参じ……まいにゃん達は転がる。
「すごい……ネコチャン動いてるぞ」
 擬似的とは言え、まさに今見た光景は生命の息吹そのものなのだ。きっと、本来聞こえたのは咎人の感嘆ではなく、子供の歓声だったのだろう。そう考えてしまうと、琥珀の心臓が少しだけキュっとしてしまう。

「見てくださいよ、母上。あれがマンチカンですよー」
 椅子に座って、片膝に母上を乗せた朱烙がキャッキャッと笑う。いつもとは違う言葉遣いは、母上を前にしての子どもがえりの結果なのだろうか。

 クッキーを口に食みながら、京四郎は遊具室にある家を眺める。恐らく自分の予想が当たってたならば、この先に広がるのはあの水槽の中の光景だ。
 彼は迷うことなく、ノブを掴み扉を開いた。
「お先にー! 待ってろ、ねこちゅあああん!!」
 一番乗りとばかりに、煉龍が家の中へと入っていくことに、京四郎はやれやれと苦笑いを浮かべるのであった。

●忘れられない思い出を
 煉龍が開けた扉の先に、室内は待っていなかった。代わりに視界に訪れたのは、猫としての実寸大のエルデが猫又(煉龍)を見上げていた。
「猫ちゃんをすーはークッキー猫ちゃん吸い。すーはー」
 次に入ってきたのは琥珀。
「わー! 猫さんが目の前に! 可愛い……!」
 しかし、琥珀は煉龍のようにネコ達に近寄ったりはしない。彼らが慣れるまで、そこにいるつもりだ。
 やがて、琥珀の用意したアスレチックに一匹のネコが飛び乗って、彼女を眺める。するとほんわりと笑み彼女は言う。
「私ともお友達になってくれませんか?」

 マイナは残しておいたハーブの装飾で、家を飾り始める。繁る緑の蔓と花は、茶色の家にはとても似合っている。
(このハーブで後で、皆にお茶を振る舞いましょうか)
 その様子を不思議そうに、ねんどの子供達がマイナを囲むように眺めている。
「もう少し待ってくださいね」
 肩に鳥を乗せながら、京四郎が呟く。
「そういえばマイナさんは子供に優しいよね……と言うかよく護っている事が多いというか」
「かも知れません、彼らは大事な未来の担い手ですし。護ることは当然ではないでしょうか」
 微笑する彼女の言葉の強さに、思わず京四郎は小さくだが口にしてしまう、すごいな、と。
「?」
「誰か、猫ちゃんとの写真撮ってくれないか」
 カメラを掲げる煉龍に、良いねーと近付きながら言うミヨシ。
「六道さん写真撮るんですか? いいですね!後でまた見せて下さいね」
「京四郎さんも行きましょう。私も持ってきているんです」
 そう言ってカメラを取り出すマイナ。実は後々に現像してから、室内に残された写真立てや、アルバムに残すつもりだったのだ。遺された想いに、少しでも報いと祈りがあるように……

 こうして撮影会が始まった。煉龍を同じ猫と思った猫達も居たのか近付いてくるのもいる。
「猫ちゃん遊んでて可愛いね。撮るよーネコチャンカワイイ楽しいの? 可愛い」
 パシャ、パシャ、パシャ、とミヨシがシャッター音をさせるのも気にせず、煉龍はネコを愛でる。
 芝生に似せた床を駆け回るねんどの子供とおいかけっこする京四郎を、マイナは撮影する。
「ほらほら、追い付いちゃいますよ?」
(これはマイナさんの役目じゃないのか?)

 近付いてきたマンチカンを抱き上げながら、琥珀は周囲を眺めていた。どこもかしこも甘い砂糖の匂いと楽しげな声が聴こえてくる。
「子供達がいたら喜んだでしょうにね……見せてあげたかったです」
 とても楽しい、でもいつまでもここに居られはしない。終わりの時間が近付いてくる。
 にゃー、とシアの作った三匹の猫が琥珀の脚にすり寄る。
 きゅっとする心を癒すように、優しく猫達を撫でる。今はただ、安らかにと祈るのみだ。


 水槽の外にいた自分達がエルデとお友達を驚かさない為。サキチ、シア、朱烙は中庭に出ていた。シアは全員が家から出てきた時のため、作った焼菓子の準備をし、朱烙は花壇の縁に座りながら一服。
 傍らにはお持ち帰り予定の母上の胸像。焼くことはできなかったが、今から自分の洋館へのお出迎えは楽しみだ。

 チョコドーナツに、ブラウニー、それからさっき味見して貰ったガトーショコラのカップケーキと金属バットに整列させてシアは机に置く。
 
「ミヨシさんとサキチさんにはこちらを」
 そう言ってから彼は、スモッグに似せた巾着袋を手渡す。中にはお土産用のクッキーが入っている。
「良いのか? ありがとう」
 サキチはミヨシの分も受け取り、懐の中にしまった。
 シアの耳にエルデの鳴き声が聴こえる。けどそれは、この島で最初に聴いたあの寂しげな声ではない。様々な種の声が入り雑じる、エルデの弾む鳴き声。

「永遠に彷徨う魂と、どちらが幸せなのかわからないな」
「それは、そうだろ。わかるのは本人だけだ」
 咥えた煙草をシアに当たらない様に吐き出しながら、朱烙が応える。シアが言ったのは、果たしてエルデのことなのか、それとも咎人のことなのだろうか。だが、と更に朱烙は付け加える。
「あいつらは楽しそうだ。顔見ればわかるぜ」
「……そうですね」
 同じくサキチも頷く。来れるならば、また様子を見に来よう、と彼は二人に言うのだった。

●楽しい時間は過ぎ去りて
 水槽内部を満喫し、そろそろ腹ごなしに巨人に戻る頃。琥珀がキョロキョロとアタリを見回す。
「六道さんは何処に?」
 さっきまで、ネコチャン連呼して追いかけていた筈の煉龍の姿はない。また、先に扉に帰った様子もない。
 すると京四郎がいつの間にかサキチの作った小屋の戸が開いていることに気付く、中に足を踏み入れれば、先程の疑問は即座に解決した。
「居たよ、三人とも」
 マイナ、ミヨシ、琥珀も小屋を覗く。すると……

「あらあら、風邪をひいちゃいますよ」
 寝そべるまいにゃん達に混ざった形で寝息をたてる煉龍がそこにいた。だらしなく寝そべる黒猫の胸元には、エルデの姿もある。
 「猫ちゃん……一緒に寝よう。おやすみ猫ちゃ……ん」


 パシャ
 
 
 
 

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