●迎撃
『ドラゴン1、CAP(戦闘空中哨戒)開始。敵機発見次第位置を知らせる』
クエント公国内にある湖北西より進出した伊藤 毅(ma0538)はBD-01PT『フィーニクス』の中より通信術式を介して僚機に告げると、湖北東方面へと機体を飛ばす。
やがて『フィーニクス』に搭載された機器越しに、毅は敵と思しき巨神機群を視認した。
『エネミータリホー(敵を目視で確認)、ドラゴン1エンゲイジ』
敵の数と動きを捉えた毅は通信術式を介して周囲の僚機へと報告し、自身は『フィーニクス』を東に進ませる。
毅からの連絡を受け、同じ北西方面からザウラク=L・M・A(ma0640)の駆る『アルテュール・パラディン』も東へとひた走る。
「ふむ。何隊か知らんが、来るなら殴らん理由がないぞ?」
機体の中でザウラクはそう呟き、今回の敵に当たる『ゼラー』隊のもとへ『パラディン』を向かわせる。
「ジャイアントパンダくんを召喚するのとは大分、感覚が変わるのッ」
その一方、南西方面より進出したカナタ・ハテナ(ma0325)は、『ヴァナディース・マルデル』の中で操作を確認する。
「巨神機での戦闘は初めてじゃが……まあ、なんとかなるかの?」
カナタは機体に搭載された外部スピーカーを通し、ポルタ・A・クエント(mz0139)の搭乗する『ケトス』に問いかける。
『ポルタどんは、その機体、大分慣れてるのかの?』
『そうですね。ある程度コツは掴むことができました』
ポルタも機体の外部スピーカーを介し、戦闘に支障はない旨をカナタに伝えた。
『護衛に着かせてもらうよ』
ここで『蒼月の騎士』を駆る高柳 京四郎(ma0078)が、ポルタ機の護衛を申し出る。
『俺等咎人の機体は破壊されても基本天獄界に戻ればすぐ直るけど、この世界のものはそうはいかないからな……』
いま京四郎が搭乗する『蒼月の騎士』は 京四郎専用機としてカスタマイズされた機体で、機体全体を濃い蒼色に染め上げ、生身での戦闘スタイルをそのまま機体に反映できるよう様々な調整や改修が施されている。
そして湖の南側からも、モルディウス(ma0098)の駆る『ケトス』と更級 暁斗(ma0383)の駆る『高機動型ケトス』がそれぞれ機体を水中へと沈め、水面下を移動する。
「ふんどしパイロット再び。ポルタ嬢も慣れたやろうし、もう遠慮はいるまい」
機体の中で褌姿を見せたモルディウスはそう言いつつ、視線は湖より先にいる敵巨神機部隊へと向けられる。
「なんやあいつら、少数で切り込むとは相当な自信家やなぁ?」
モルディウスが視認した敵巨神機部隊『ゼラー』はトルピオン型が1体、ウォードス型が3体の合計4機。
「それ相応の腕前か、或いは機体にでも根拠があるんやろう」
――油断はできんが……さて、どうなることかね。
モルディウスと同じく水中を進む暁斗は、通信術式を介しヒー・リショナー(mz0073)と連絡を取る。
『ヒーさん、ポルタさんの護衛をお願いします』
『承知した』
短いやり取りの後、暁斗は機体の中で独り言ちる。
「ズロイが関わっているとしたら、これで何度目でしょう……」
簒奪者ズロイ(mz063)が関与する事件は割と多い。
「ズロイの目論見は未だにわかりませんね。何がしたいのでしょうか」
そう言いながら暁斗はジェリーシェルのカウントを終わらせて起動し、機体表面にジェル状のコーティングを施すことで水中での戦闘に備える。
そして湖の東側を走る道路上でも動きがあった。
『敵機の接近を確認、これより迎撃する』
麻生 遊夜(ma0279)はグランドウォードス・黒剛の中から通信術式を介し、僚機と連絡を取り合う。
既に遊夜はタンクフォームを起動し、鈴鳴 響(ma0317)の駆るヴァナディース・黒曜を牽引していた。
遊夜のグランドウォードス・黒剛は、その名の通り機体全体が黒色に塗装され、装甲をさらに増加しコーティングすることで耐久性をさらに向上させるなど、遊夜専用機として独自の改修が施されている。
『響、攻撃は任せたぞ』
『……ん、任せて』
敵機との接触が近づく中、通信術式を介して遊夜と響はやり取りを続けている。
『……ユーヤがいるなら、ボクは攻撃だけに……集中出来る』
響の乗るヴァナディース・黒曜は黒曜石のような色と光沢を放つ機体に仕上がり、白銀の手甲と脚甲を取り付けるなど響専用機として独自の改修が成されている。
「さて……敵は4機ですか。どう動いたものやら」
遊夜や響と同じ方角より『リリィ』を飛翔させた夕凪 沙良(ma0598)は、機体の中で思案する。
沙良が今乗る『リリィ』は白を基調に青紫をサブカラーとするカラーリングが施され、機体脚部の換装や全身へのブースター及びスラスターの増設など、機動性を重視した改修が施されている。
「私の新しい愛機・ガルガリンの実験台になっていただきましょう」
そして茨木 魅琴(ma0812)も『ガルガリン』の中よりCAM飛行ブースターを稼働すると、機体は地面を蹴って宙へと駆け上がる。
すでに『ゼラー隊』の姿は咎人達の多くが捕捉し、魅琴もその目で敵巨神機達の姿を視認した。
「敵側も統率が乱れ始めているようですね。ならば手加減無用です」
魅琴は巨神機以外に敵の姿がないことにも気づき、出撃前にヒーから聞いた『敵の独断で動いた可能性』が濃厚だと判断する。
敵側も咎人達の接近に気づいたのか、敵トルピオンの外部スピーカーより、ガラの悪そうな声が響き渡る。
『俺達は「ゼラー」隊だ。本物の戦争を教えに来たぜ!』
敵巨神機部隊『ゼラー』の長ホセ・ゼラーは名乗りと共に、咎人達への戦意をあらわにした。
●湖北側
ザウラクも『パラディン』の外部スピーカーを通じ、名乗りを返す。
『ゼラー隊な。俺はザウラクと言う。宜しく……は、せんでいいか』
後半部分にザウラクは本音を滲ませる。
『俺はそこまで強くないので、上手くすれば殺せるかもしれんが……』
外部スピーカーより漏れたザウラクの声を弱音と思ったのか、ウォードスは『パラディン』へと銃器を撃ち放つ。
既にフォゾンフィールドを起動し、『パラディン』に展開する神秘障壁の出力を一時的に強化したザウラクは、そのままバーストタックルを起動してさらに障壁を高め、ウォードスの銃撃を受け流すと機体を走らせ、肩口からウォードスに衝突した。
その一撃でシールドを削られたウォードスへとザウラクはドリルランスの刺突を連続で繰り出し、一撃目でシールドを打ち破り、2撃目でその機体を穿つ。
『敵機、砲火集中で落とせそうや、手隙は協力頼むで!』
モルディウスは通信術式を介し周囲の僚機に集中攻撃を要請すると、呼応した魅琴の『ガルガリン』が小型ミサイルランチャーを残る敵群に向ける。
「血気盛んなだけでは勝てませんよ」
ミサイルランチャーの最大射程より魅琴はマルチシューターを起動し、小型ミサイル状イデアが複数射出される。
魅琴があわせて起動した高速演算によって、高度な演算装置で対象の動きを予測した一射は敵群へと命中すると爆発を巻き起こし、効果範囲内にいたウォードス達はそのシールドを大きく抉りとられた。
「軍人なら頭で動きなさい」
さらに魅琴は敵ウォードスの1体へとミサイルランチャーを再び撃ち放ち、ウォードスへ突き刺さった一撃がシールドをさらに削る。
『支援攻撃了解、デンジャークローズ』
毅の『フィーニクス』が高度を下げて同じ敵ウォードスへと襲いかかる。
毅の操作に従い、ツインライフル「フェニックス」が立て続けに撃ち放たれると、それまで咎人達の攻撃を受け、大幅に減じていたシールドがついに打ち破られた。
さらに毅は「フェニックス」による射撃を続け、シールドを失ったウォードスの身に弾痕を刻む。
『散開しろ!』
トルピオンの中よりホセが無線へと叫び、ウォードス達はばらばらに動き出す。
そんなウォードス達を、湖の中より暁斗が捕捉しようと動く。
「高機動型ケトスの力、如何ほどのものか試してみましょう」
既に暁斗はジェリーシェルへのカウントを終わらせて起動し、機体の表面にフォゾンで構築したジェル状のコーティングを施していた。
(隠れて戦うのは性に合いませんが……)
ジェリーシェルの効果がある内に、ジェットドライブを起動した暁斗は水中での機動性を得ると、ウォードスへと接近していく。
そのまま暁斗は機体を水面に浮上させるとブレイズシューターを起動し、魔力によって収束させた火炎弾が撃ち放たれる。
狙われた2体のうち1体は既に効果範囲内より離れていたが、残る1体のウォードスへと命中すると爆発が巻き起こり、機体を包み込む。
その一撃で回復したばかりのシールドを再び削られたウォードスは忙しなく周囲を見渡す中、暁斗はビッグキャノンより砲弾状イデアを射出してウォードスへと撃ち込み、そのシールドをさらに削りとる。
『不意打ちなんて舐めたマネしやがって!』
「水中に隠れての射撃は卑怯とは言わせません。これも戦法です」
ウォードスの外部スピーカーから響く罵声を聞き、暁斗は無表情のまま一蹴する。
「ポルタ嬢にはかかわった義理もあるし、何よりこいつら気に食わん」
モルディウスはそう言いながらフォゾンフィールドへのカウントを終わらせて起動し、魔力を巨神双銃「パラレルレイン」へと収束させると、暁斗が攻撃したウォードスへと連続で撃ち放つ。
「パラレルレイン」より閃き飛んだレーザー状イデアが連続でウォードスへと命中し、シールドを打ち破る。
続くモルディウスからの攻撃がウォードスの身を穿ち、その生命を削っていった。
●南側
その間にも南下した敵ウォードスには、遊夜の『黒剛』と響の『黒曜』が連携して相手取る。
『おぅ、アンタらがゼラー隊だな。悪いがここが終点だ、諦めてくれ』
『……ん、いらっしゃい。……初めまして、そしてさようなら……かな?』
機体の中で遊夜は唇の端を上げ、響は小首を傾げて敵機を『歓迎』すると、ウォードスは地面を蹴立てて遊夜達のもとへ迫る。
『よほど自信があるようだ。実際強いようだが独断専行は感心せんな』
『……ん、慢心なら好都合。……ボク達の事、刻んであげよう?』
通信術式を介し、遊夜とやり取りを交わしていた響は笑みをこぼし、遊夜と共にウォードスを迎え撃つ。
まず遊夜はナイトフォームを起動して攻撃に回していた魔力を防御に集中させると、響の『黒曜』を庇う。
『我が信念と矜持の楯は堅牢なり! さぁ、俺を突破して見せろ!』
外部スピーカーを介し遊夜が敵ウォードスを一喝すると共に、ナイトフォームの効果で敵の攻撃を自分へと変更させる。
そのまま遊夜はスラッシュガードを起動すると巨神槍「ランゼニティ」が翻り、打ち込まれたビッグアックスを火花と共に防ぎ止める。
続けて遊夜はフォールブレイドを起動し、グランドウォードス・黒剛が回転しながらウォードスへと飛び込むと、「ランゼニティ」が真横へ振りぬかれ、ウォードスのシールドを削り取る。
「……ん、ユーヤでも……黒曜には耐えられない」
遊夜に合わせる形で響もサイドキックを起動し、『黒曜』をウォードスの側面に飛び込ませて蹴撃を見舞う。
叩き込まれた一撃でシールドを破砕した響は間髪入れずギガブレイクを起動し、突き出された巨神突撃槍がウォードスの機体を穿ち、損傷を負わせる。
「……ん。貴方達じゃ余計に……ね」
そして響はソードスラストへのカウントを終わらせて起動し、瞬間的に加速したヴァナディース・黒曜はウォードスを巨神突撃槍でさらに穿つ。
素早く抜き取り、再び刺す。さらに引き抜いて突き刺し、もう一度繰り戻した巨神突撃槍が再び吹き伸びてウォードスを抉る。
立て続けに突き通されたウォードスは生命を大きく削り取られ、体勢を崩す。
そんな遊夜や響たちの頭上へと『リリィ』を到達させた沙良は、機体の中より素早く現況を確認する。
「こいつら遊んでいる……?」
沙良の視点では、敵が本気で動いていないように見えた。
「どうやらこちらを舐めてかかっているみたいね」
沙良はシールドを失ったウォードスに向けソニックファイアを起動する。
「それじゃあ相応の報いをあげましょうかね」
『リリィ』の握るツインライフル「フェニックス」より連続射撃が撃ち放たれ、連続で撃ち抜かれたウォードスは生命をさらに削られていく。
弾着を確認した沙良は「フェニックス」へのリロードを行い、再装填を済ませた。
●ホセ機動く
「俺様は一番手柄になりそうな奴を狙うとしよう」
味方の苦戦をよそに、ホセはトルピオンの中から周囲を見渡し、ある機体に目をつける。
そえはカナタの『マルデル』や京四郎の『蒼月の騎士』、そしてヒーの『トルピオン』に護衛された巨神機『ケトス』だった。
「あれか」
獰猛な笑みを浮かべたホセはトルピオンを南西方向へと走らせ、急速にポルタ機のもとへ迫る。
「おっとクイーンを取りたいならまずこのナイトを破ってもらおうか」
既に京四郎はナイトフォームを起動し、攻撃に回していた魔力を防御に集中させていた。
続けて京四郎はプリズムウォールを起動することで魔法による光の壁を顕現し、ポルタ機を包む。
ホセ機は大砲より火炎弾を放つが、ナイトフォームによって『青色の騎士』が代わりにホセの一撃を受け止め、爆発に包まれる。
『大丈夫ですか!?』
後ろにいたポルタ機より外部スピーカーを介し案じる声が届く。
『問題ない。大丈夫だ』
京四郎は外部スピーカーを介して無事なことを伝える。
そのまま京四郎はブレイズシューターを起動し、魔力で収束した火炎弾を放つと、ホセ機へと着弾するなり爆発が巻き起こる。
京四郎はさらにフォゾンヒートガトリングよりエネルギーを纏わせた弾丸状イデアを射出すると、そのままホセ機へ命中させ、先の爆発に続き、ホセ機のシールドをさらに削り取った。
「そろそろカナタも仕掛けていくかの」
カナタはホセ機と『蒼月の騎士』との交戦を観察しながら、フォゾンエンハンサーのカウントを終わらせて起動し、魔力を巨神突撃槍へと収束させる。
なおダブルアタックは2つの武器それぞれの攻撃種別を用いた攻撃ができるものの、もう片方の武器で同じ種別の攻撃はできず、両方とも同じ攻撃種別のみの場合は片方の武器での一回しか攻撃できない。
このためカナタは通常攻撃を複数回当てる形へとやり方を変更していた。
そのままカナタはサイドキックを起動し、巨神機浮遊ブースターの効果で地形の影響をうけなくなった『マルデル』をホセ機の側面へと回り込ませ、蹴撃を叩き込む。
その一撃でシールドを破ったカナタは続けて巨神突撃槍を突き通し、ホセ機に損傷を与えると、カナタの操作で『マルデル』の巨神突撃槍が連続でホセ機へと突き刺さり、その生命をさらに削っていく。
●西側は撃破
『追ってくると思ったぞ。お前、自信がありそうだったからな』
ザウラクは『パラディン』を後退させながら、ウォードスの誘引を続ける。
既にウォードスのパイロットは装甲解除を起動し、機体の外部装甲をパージしていた。
ここで毅の『フィーニクス』と魅琴の『ガルガリン』がそれぞれ上空より挟撃をかける。
『レーダーロック』
ここで毅がウォードスの捕捉に入ると、ウォードスも毅の接近に気づいたのか銃器を『フィーニクス』へと向けた。
「一枚かませて貰おうか」
それを見たザウラクは、毅がちょうど射程内にいることを確認してからタンクフォームを起動して、毅への攻撃を自身が乗る『パラディン』へと変更させる。
直後ウォードスより発射された一射が『パラディン』へと命中し、ダメージを与えた。
『援護感謝する』
通信術式を介し、毅はザウラクへと短く礼を述べると、そのままウォードスへと「フェニックス」の一射が閃き飛んだ。
『ライフル、ライフル』
毅の『フィーニクス』より撃ちだされた火線がウォードスの機体に火花を散らし、続けて放たれた一射がさらにその身を抉り取る。
「まんまと挑発に乗るのは器が知れますよ」
魅琴は効果範囲内に僚機がいないことを確認してからマテリアルライフルを起動し、紫色の光線めいた一射を撃ち放つ。
魅琴は高速演算をあわせて起動することでウォードスの動きを予測し、放たれた一射は効果的な一撃と化してウォードスを貫き、さらに損傷を蓄積させた。
「調教してあげましょう」
魅琴からの攻撃は続き、小型ミサイルランチャーより放たれたミサイル状イデアがウォードスへと食らいつき、その生命へと威力を炸裂させる。
「悪くない状況だ」
それまでウォードスの誘引を続けていたザウラクも、フォールブレイドを起動して『パラディン』をウォードスへと躍り込ませる。
回転しながら『パラディン』がウォードスの懐へと飛び込み、ドリルランスが真横に振りぬかれて周囲を薙ぎ払う。
その一撃で胴を裂かれたウォードスがよろめきを見せると、ザウラクはさらにドリルランスを繰り出し、ウォードスの身へと突き刺した。
やがて空と地上の2方面より攻められ続けたウォードスはその場に倒れ、沈黙した。
●水上戦
湖からの攻撃を受けたウォードスは、暁斗の『高機動型ケトス』やモルディウスの『ケトス』がいる水中へと乗り込んできた。
(水中での戦いは今回初めてですが、やってみせます。負けられません)
暁斗はフォゾンエンハンサーへのカウントを終わらせて起動すると、ビッグキャノンに魔力を収束させることで一時的に威力を向上させ、そのまま撃ち放つ。
砲弾状イデアが水中を貫き、そのままウォードスに命中すると回復したシールドを削り取り、着弾音が水中を震わせる。
「1機たりとも逃しはしません」
暁斗の攻撃はさらに続き、再びビッグキャノンの一撃がウォードスに叩きつけられ、再びシールドを打ち破った。
「……考えなしに湖に踏み込んで来たんや」
ウォードスのシールドブレイクに乗じ、モルディウスは追撃をかける。
「もう逃がさんよ?」
モルディウスは再びフォゾンエンハンサーへのカウントを終わらせて発動し、魔力を「パラレルレイン」に収束させると、連続で引き金を引く。
『ケトス』より立て続けに放たれた砲弾状イデアは、次々とウォードスの身へと叩き込まれ、一撃受けるごとにウォードスの機体が水中で揺れ、生命を削られていく。
「じょ、冗談じゃねえ!」
ここでウォードスを操る隊員は装甲解除を起動すると、回復したばかりのシールドと引き換えに生命を回復し、地面のある方向へと機体を走らせる。
『いま敵はそっちに行ったで』
モルディウスが通信術式を介して敵の動向を伝える。
やがてウォードスの機体が水面を割って地上へと躍り出るが、既に沙良の『リリィ』が上空で待ち構えていた。
「ここで格の違いを見せつけてあげましょうかね」
既に沙良はプロトディメントレーザーへのカウントを続けていたが、射程内に敵ウォード以外いないことを確認すると、カウントを終わらせる。
直後『リリィ』はウォードスに向けて突き進み、すれちがいざまに放たれたレーザー状イデアがウォードスを撃ち抜くと、そのまま『リリィ』はウォードスとすれ違い、再び上空へと駆け上がる。
『私は素人じゃない、スペシャリストよ』
(……あれ? この言葉……言い覚えが……なんででしょう……?)
機体の中で呟いた自身の言葉に沙良は疑問を抱いたものの、続けて「フェニックス」の一射をウォードスへと撃ち込み、さらにその生命を削っていく。
なおもウォードスは銃器を振りかざして抗戦したが、暁斗やモルディウス、そして沙良達に押し包まれ、打ち倒された。
●南東と対ホセ
そして湖の南東側でも、遊夜の『黒剛』と響の『黒曜』は片方が盾、もう片方が刃となってウォードスを追い詰めていた。
「おっと、逃がさんぞ!」
遊夜はタンクフォームを起動して、響の駆る『黒曜』へと向けられた攻撃を自身の『黒剛』に変更させると、続けてライトバッシュを起動して「ランゼニティ」に魔力を込め、攻撃を打ち払う。
『ここまでやってきた落とし前は付けんとな!』
叫びと共に「ランゼニティ」が突き通され、刺突を受けたウォードスはそのシールドを削られる。
「……ん、逃がさないよ」
既にソードスラストへのカウントを終わらせ、再び起動した響は連続攻撃が可能な状態へと機体性能を向上させる。
(こちらは陸・空・水中。そしてポルタさんの援護と隙はなし)
既に仲間との通信術式を介し、戦況を把握していた響は続けてサイドキックを起動して『黒曜』を走らせ、遊夜とは別方向から蹴撃を叩き込み、そのシールドを破砕した。
『……ふふっ、うふふ……さぁ、遊ぼう?』
響が笑みと共にギガブレイクを起動すると、巨神突撃槍がウォードスへと突き刺さる。
さらに響は巨神突撃槍を引き抜くと、ソードスラストによる4連撃を続けざまに浴びせかけ、ウォードスの生命を一気に削り取る。
既に損傷を蓄積させていたウォードスは、操縦する隊員が装甲解除を起動するよりも前に生命が尽きて倒れ、動かなくなった。
『……ま、こんなもんだろう。響もお疲れさんだ、よく頑張ったな』
ウォードスの撃破を確認した遊夜は通信術式を介し、響を労った。
『……ん、ユーヤもお疲れ様。……あとはあの人達がどう動くか、かな?』
響も遊夜にねぎらいの言葉で応じると、『黒曜』の頭部を西側へと向ける。
響が見据えた方角では、京四郎やカナタ達とホセ機を押し返しつつあった。
「仕方ねえな」
本能で不利を悟ったホセは装甲解除を使い、外部装甲をパージして機体の生命を回復させると退却に転じる。
「今が好機か……ここからは攻めに出るとしようか」
それを見た京四郎はスナイプポイントを起動し、専用アンカーにより『蒼月の騎士』を固定すると、続けてブレイズシューターを起動し、魔力で収縮した火炎弾状イデアを撃ち放つ。
閃き飛んだ火炎弾状イデアはホセ機に命中すると爆発を巻き起こし、その威力を炸裂させる。
さらに京四郎はフォゾンヒートガトリングの一射をホセ機へと浴びせ、その損傷を蓄積させていく。
「そう簡単には逃がさぬのじゃ」
ここでカナタの『ヴァナディース・マルデル』がサイドキックを起動し、ホセのトルピオンへと突きかかる。
既にカナタはカウントを終え、起動したフォゾンエンハンサーによって魔力を巨神突撃槍に収束させていた。
一気にホセ機へと肉薄した『マルデル』が蹴撃を叩きつけ、ホセ機の生命を削る。
「その首おいて行って貰うのじゃ」
カナタは呟きと共に巨神突撃槍の連撃が繰り出され、立て続けに刺突を浴びたホセ機は生命が尽きて倒れ、動かなくなった。
「ポルタさんもヒーさんも、他の皆も無事なようだな……」
ホセ機の撃破を確認した京四郎は、撃破された味方がいないことに安堵の表情を見せた。
●撃退
撃破された機体より這い出してきたホセ達が両手を挙げ、投降の意思を見せると、突如湖の北東方面より多数の戦車群がなだれ込んできた。
戦車達は咎人達の射程外で停止すると、その中の1両から初老の男が現れる。
男――簒奪者ズロイは拡声器めいた機器を抱え、もう片方の手に白旗を掲げていた。
『私は帝国軍部隊に味方するズロイと申します』
機器を介して拡大されたズロイの音声が周囲に響き渡る。
「あれが帝国軍の……」
ポルタはズロイと直に顔を合わせるのは今回が初めてだった。
『こちらに戦闘の意思はありません。そこで転がっている者達を回収次第、速やかに退くことをお約束します』
ズロイの申し出に対し咎人達はポルタと相談の上、これを受けることにした。
『あー……まぁ、いい。連れて行ってしまってくれ』
ザウラクは『パラディン』の外部スピーカーを介して許可を出す。
『退くなら追わないし邪魔もしない。別段、殺したい訳じゃないしな』
ザウラクからの回答に、ズロイは戦車の上で恭しく頭を下げる。
『ご厚情、感謝いたします』
咎人達が見守る中ズロイは戦車群を動かして手早くゼラー隊を回収し、退いていく。
『敵の撤退を確認、ミッションオーバー、RTB』
「ズロイさんは本当苦労性だな」
撤退完了を見届けた毅が通信術式を介して僚機に報告すると、遊夜も機体の中で苦笑する。
「やれやれ、終わったか。せっかくやし、湖で軽く水浴びでもくかねぇ♪」
モルディウスは機体の中で息を吐くと、先程まで戦場だった湖へと目を向ける。
「皆さん。今回は防戦へのご尽力、本当にありがとうございました」
ポルタは咎人達へ防戦の礼を述べると周囲に展開していた味方部隊を呼び寄せ、慌ただしく戦後処理に移る。
ゼラー隊の『暴走』に端を発した今回の戦いは、咎人達による完勝で幕を閉じた。
『ドラゴン1、CAP(戦闘空中哨戒)開始。敵機発見次第位置を知らせる』
クエント公国内にある湖北西より進出した伊藤 毅(ma0538)はBD-01PT『フィーニクス』の中より通信術式を介して僚機に告げると、湖北東方面へと機体を飛ばす。
やがて『フィーニクス』に搭載された機器越しに、毅は敵と思しき巨神機群を視認した。
『エネミータリホー(敵を目視で確認)、ドラゴン1エンゲイジ』
敵の数と動きを捉えた毅は通信術式を介して周囲の僚機へと報告し、自身は『フィーニクス』を東に進ませる。
毅からの連絡を受け、同じ北西方面からザウラク=L・M・A(ma0640)の駆る『アルテュール・パラディン』も東へとひた走る。
「ふむ。何隊か知らんが、来るなら殴らん理由がないぞ?」
機体の中でザウラクはそう呟き、今回の敵に当たる『ゼラー』隊のもとへ『パラディン』を向かわせる。
「ジャイアントパンダくんを召喚するのとは大分、感覚が変わるのッ」
その一方、南西方面より進出したカナタ・ハテナ(ma0325)は、『ヴァナディース・マルデル』の中で操作を確認する。
「巨神機での戦闘は初めてじゃが……まあ、なんとかなるかの?」
カナタは機体に搭載された外部スピーカーを通し、ポルタ・A・クエント(mz0139)の搭乗する『ケトス』に問いかける。
『ポルタどんは、その機体、大分慣れてるのかの?』
『そうですね。ある程度コツは掴むことができました』
ポルタも機体の外部スピーカーを介し、戦闘に支障はない旨をカナタに伝えた。
『護衛に着かせてもらうよ』
ここで『蒼月の騎士』を駆る高柳 京四郎(ma0078)が、ポルタ機の護衛を申し出る。
『俺等咎人の機体は破壊されても基本天獄界に戻ればすぐ直るけど、この世界のものはそうはいかないからな……』
いま京四郎が搭乗する『蒼月の騎士』は 京四郎専用機としてカスタマイズされた機体で、機体全体を濃い蒼色に染め上げ、生身での戦闘スタイルをそのまま機体に反映できるよう様々な調整や改修が施されている。
そして湖の南側からも、モルディウス(ma0098)の駆る『ケトス』と更級 暁斗(ma0383)の駆る『高機動型ケトス』がそれぞれ機体を水中へと沈め、水面下を移動する。
「ふんどしパイロット再び。ポルタ嬢も慣れたやろうし、もう遠慮はいるまい」
機体の中で褌姿を見せたモルディウスはそう言いつつ、視線は湖より先にいる敵巨神機部隊へと向けられる。
「なんやあいつら、少数で切り込むとは相当な自信家やなぁ?」
モルディウスが視認した敵巨神機部隊『ゼラー』はトルピオン型が1体、ウォードス型が3体の合計4機。
「それ相応の腕前か、或いは機体にでも根拠があるんやろう」
――油断はできんが……さて、どうなることかね。
モルディウスと同じく水中を進む暁斗は、通信術式を介しヒー・リショナー(mz0073)と連絡を取る。
『ヒーさん、ポルタさんの護衛をお願いします』
『承知した』
短いやり取りの後、暁斗は機体の中で独り言ちる。
「ズロイが関わっているとしたら、これで何度目でしょう……」
簒奪者ズロイ(mz063)が関与する事件は割と多い。
「ズロイの目論見は未だにわかりませんね。何がしたいのでしょうか」
そう言いながら暁斗はジェリーシェルのカウントを終わらせて起動し、機体表面にジェル状のコーティングを施すことで水中での戦闘に備える。
そして湖の東側を走る道路上でも動きがあった。
『敵機の接近を確認、これより迎撃する』
麻生 遊夜(ma0279)はグランドウォードス・黒剛の中から通信術式を介し、僚機と連絡を取り合う。
既に遊夜はタンクフォームを起動し、鈴鳴 響(ma0317)の駆るヴァナディース・黒曜を牽引していた。
遊夜のグランドウォードス・黒剛は、その名の通り機体全体が黒色に塗装され、装甲をさらに増加しコーティングすることで耐久性をさらに向上させるなど、遊夜専用機として独自の改修が施されている。
『響、攻撃は任せたぞ』
『……ん、任せて』
敵機との接触が近づく中、通信術式を介して遊夜と響はやり取りを続けている。
『……ユーヤがいるなら、ボクは攻撃だけに……集中出来る』
響の乗るヴァナディース・黒曜は黒曜石のような色と光沢を放つ機体に仕上がり、白銀の手甲と脚甲を取り付けるなど響専用機として独自の改修が成されている。
「さて……敵は4機ですか。どう動いたものやら」
遊夜や響と同じ方角より『リリィ』を飛翔させた夕凪 沙良(ma0598)は、機体の中で思案する。
沙良が今乗る『リリィ』は白を基調に青紫をサブカラーとするカラーリングが施され、機体脚部の換装や全身へのブースター及びスラスターの増設など、機動性を重視した改修が施されている。
「私の新しい愛機・ガルガリンの実験台になっていただきましょう」
そして茨木 魅琴(ma0812)も『ガルガリン』の中よりCAM飛行ブースターを稼働すると、機体は地面を蹴って宙へと駆け上がる。
すでに『ゼラー隊』の姿は咎人達の多くが捕捉し、魅琴もその目で敵巨神機達の姿を視認した。
「敵側も統率が乱れ始めているようですね。ならば手加減無用です」
魅琴は巨神機以外に敵の姿がないことにも気づき、出撃前にヒーから聞いた『敵の独断で動いた可能性』が濃厚だと判断する。
敵側も咎人達の接近に気づいたのか、敵トルピオンの外部スピーカーより、ガラの悪そうな声が響き渡る。
『俺達は「ゼラー」隊だ。本物の戦争を教えに来たぜ!』
敵巨神機部隊『ゼラー』の長ホセ・ゼラーは名乗りと共に、咎人達への戦意をあらわにした。
●湖北側
ザウラクも『パラディン』の外部スピーカーを通じ、名乗りを返す。
『ゼラー隊な。俺はザウラクと言う。宜しく……は、せんでいいか』
後半部分にザウラクは本音を滲ませる。
『俺はそこまで強くないので、上手くすれば殺せるかもしれんが……』
外部スピーカーより漏れたザウラクの声を弱音と思ったのか、ウォードスは『パラディン』へと銃器を撃ち放つ。
既にフォゾンフィールドを起動し、『パラディン』に展開する神秘障壁の出力を一時的に強化したザウラクは、そのままバーストタックルを起動してさらに障壁を高め、ウォードスの銃撃を受け流すと機体を走らせ、肩口からウォードスに衝突した。
その一撃でシールドを削られたウォードスへとザウラクはドリルランスの刺突を連続で繰り出し、一撃目でシールドを打ち破り、2撃目でその機体を穿つ。
『敵機、砲火集中で落とせそうや、手隙は協力頼むで!』
モルディウスは通信術式を介し周囲の僚機に集中攻撃を要請すると、呼応した魅琴の『ガルガリン』が小型ミサイルランチャーを残る敵群に向ける。
「血気盛んなだけでは勝てませんよ」
ミサイルランチャーの最大射程より魅琴はマルチシューターを起動し、小型ミサイル状イデアが複数射出される。
魅琴があわせて起動した高速演算によって、高度な演算装置で対象の動きを予測した一射は敵群へと命中すると爆発を巻き起こし、効果範囲内にいたウォードス達はそのシールドを大きく抉りとられた。
「軍人なら頭で動きなさい」
さらに魅琴は敵ウォードスの1体へとミサイルランチャーを再び撃ち放ち、ウォードスへ突き刺さった一撃がシールドをさらに削る。
『支援攻撃了解、デンジャークローズ』
毅の『フィーニクス』が高度を下げて同じ敵ウォードスへと襲いかかる。
毅の操作に従い、ツインライフル「フェニックス」が立て続けに撃ち放たれると、それまで咎人達の攻撃を受け、大幅に減じていたシールドがついに打ち破られた。
さらに毅は「フェニックス」による射撃を続け、シールドを失ったウォードスの身に弾痕を刻む。
『散開しろ!』
トルピオンの中よりホセが無線へと叫び、ウォードス達はばらばらに動き出す。
そんなウォードス達を、湖の中より暁斗が捕捉しようと動く。
「高機動型ケトスの力、如何ほどのものか試してみましょう」
既に暁斗はジェリーシェルへのカウントを終わらせて起動し、機体の表面にフォゾンで構築したジェル状のコーティングを施していた。
(隠れて戦うのは性に合いませんが……)
ジェリーシェルの効果がある内に、ジェットドライブを起動した暁斗は水中での機動性を得ると、ウォードスへと接近していく。
そのまま暁斗は機体を水面に浮上させるとブレイズシューターを起動し、魔力によって収束させた火炎弾が撃ち放たれる。
狙われた2体のうち1体は既に効果範囲内より離れていたが、残る1体のウォードスへと命中すると爆発が巻き起こり、機体を包み込む。
その一撃で回復したばかりのシールドを再び削られたウォードスは忙しなく周囲を見渡す中、暁斗はビッグキャノンより砲弾状イデアを射出してウォードスへと撃ち込み、そのシールドをさらに削りとる。
『不意打ちなんて舐めたマネしやがって!』
「水中に隠れての射撃は卑怯とは言わせません。これも戦法です」
ウォードスの外部スピーカーから響く罵声を聞き、暁斗は無表情のまま一蹴する。
「ポルタ嬢にはかかわった義理もあるし、何よりこいつら気に食わん」
モルディウスはそう言いながらフォゾンフィールドへのカウントを終わらせて起動し、魔力を巨神双銃「パラレルレイン」へと収束させると、暁斗が攻撃したウォードスへと連続で撃ち放つ。
「パラレルレイン」より閃き飛んだレーザー状イデアが連続でウォードスへと命中し、シールドを打ち破る。
続くモルディウスからの攻撃がウォードスの身を穿ち、その生命を削っていった。
●南側
その間にも南下した敵ウォードスには、遊夜の『黒剛』と響の『黒曜』が連携して相手取る。
『おぅ、アンタらがゼラー隊だな。悪いがここが終点だ、諦めてくれ』
『……ん、いらっしゃい。……初めまして、そしてさようなら……かな?』
機体の中で遊夜は唇の端を上げ、響は小首を傾げて敵機を『歓迎』すると、ウォードスは地面を蹴立てて遊夜達のもとへ迫る。
『よほど自信があるようだ。実際強いようだが独断専行は感心せんな』
『……ん、慢心なら好都合。……ボク達の事、刻んであげよう?』
通信術式を介し、遊夜とやり取りを交わしていた響は笑みをこぼし、遊夜と共にウォードスを迎え撃つ。
まず遊夜はナイトフォームを起動して攻撃に回していた魔力を防御に集中させると、響の『黒曜』を庇う。
『我が信念と矜持の楯は堅牢なり! さぁ、俺を突破して見せろ!』
外部スピーカーを介し遊夜が敵ウォードスを一喝すると共に、ナイトフォームの効果で敵の攻撃を自分へと変更させる。
そのまま遊夜はスラッシュガードを起動すると巨神槍「ランゼニティ」が翻り、打ち込まれたビッグアックスを火花と共に防ぎ止める。
続けて遊夜はフォールブレイドを起動し、グランドウォードス・黒剛が回転しながらウォードスへと飛び込むと、「ランゼニティ」が真横へ振りぬかれ、ウォードスのシールドを削り取る。
「……ん、ユーヤでも……黒曜には耐えられない」
遊夜に合わせる形で響もサイドキックを起動し、『黒曜』をウォードスの側面に飛び込ませて蹴撃を見舞う。
叩き込まれた一撃でシールドを破砕した響は間髪入れずギガブレイクを起動し、突き出された巨神突撃槍がウォードスの機体を穿ち、損傷を負わせる。
「……ん。貴方達じゃ余計に……ね」
そして響はソードスラストへのカウントを終わらせて起動し、瞬間的に加速したヴァナディース・黒曜はウォードスを巨神突撃槍でさらに穿つ。
素早く抜き取り、再び刺す。さらに引き抜いて突き刺し、もう一度繰り戻した巨神突撃槍が再び吹き伸びてウォードスを抉る。
立て続けに突き通されたウォードスは生命を大きく削り取られ、体勢を崩す。
そんな遊夜や響たちの頭上へと『リリィ』を到達させた沙良は、機体の中より素早く現況を確認する。
「こいつら遊んでいる……?」
沙良の視点では、敵が本気で動いていないように見えた。
「どうやらこちらを舐めてかかっているみたいね」
沙良はシールドを失ったウォードスに向けソニックファイアを起動する。
「それじゃあ相応の報いをあげましょうかね」
『リリィ』の握るツインライフル「フェニックス」より連続射撃が撃ち放たれ、連続で撃ち抜かれたウォードスは生命をさらに削られていく。
弾着を確認した沙良は「フェニックス」へのリロードを行い、再装填を済ませた。
●ホセ機動く
「俺様は一番手柄になりそうな奴を狙うとしよう」
味方の苦戦をよそに、ホセはトルピオンの中から周囲を見渡し、ある機体に目をつける。
そえはカナタの『マルデル』や京四郎の『蒼月の騎士』、そしてヒーの『トルピオン』に護衛された巨神機『ケトス』だった。
「あれか」
獰猛な笑みを浮かべたホセはトルピオンを南西方向へと走らせ、急速にポルタ機のもとへ迫る。
「おっとクイーンを取りたいならまずこのナイトを破ってもらおうか」
既に京四郎はナイトフォームを起動し、攻撃に回していた魔力を防御に集中させていた。
続けて京四郎はプリズムウォールを起動することで魔法による光の壁を顕現し、ポルタ機を包む。
ホセ機は大砲より火炎弾を放つが、ナイトフォームによって『青色の騎士』が代わりにホセの一撃を受け止め、爆発に包まれる。
『大丈夫ですか!?』
後ろにいたポルタ機より外部スピーカーを介し案じる声が届く。
『問題ない。大丈夫だ』
京四郎は外部スピーカーを介して無事なことを伝える。
そのまま京四郎はブレイズシューターを起動し、魔力で収束した火炎弾を放つと、ホセ機へと着弾するなり爆発が巻き起こる。
京四郎はさらにフォゾンヒートガトリングよりエネルギーを纏わせた弾丸状イデアを射出すると、そのままホセ機へ命中させ、先の爆発に続き、ホセ機のシールドをさらに削り取った。
「そろそろカナタも仕掛けていくかの」
カナタはホセ機と『蒼月の騎士』との交戦を観察しながら、フォゾンエンハンサーのカウントを終わらせて起動し、魔力を巨神突撃槍へと収束させる。
なおダブルアタックは2つの武器それぞれの攻撃種別を用いた攻撃ができるものの、もう片方の武器で同じ種別の攻撃はできず、両方とも同じ攻撃種別のみの場合は片方の武器での一回しか攻撃できない。
このためカナタは通常攻撃を複数回当てる形へとやり方を変更していた。
そのままカナタはサイドキックを起動し、巨神機浮遊ブースターの効果で地形の影響をうけなくなった『マルデル』をホセ機の側面へと回り込ませ、蹴撃を叩き込む。
その一撃でシールドを破ったカナタは続けて巨神突撃槍を突き通し、ホセ機に損傷を与えると、カナタの操作で『マルデル』の巨神突撃槍が連続でホセ機へと突き刺さり、その生命をさらに削っていく。
●西側は撃破
『追ってくると思ったぞ。お前、自信がありそうだったからな』
ザウラクは『パラディン』を後退させながら、ウォードスの誘引を続ける。
既にウォードスのパイロットは装甲解除を起動し、機体の外部装甲をパージしていた。
ここで毅の『フィーニクス』と魅琴の『ガルガリン』がそれぞれ上空より挟撃をかける。
『レーダーロック』
ここで毅がウォードスの捕捉に入ると、ウォードスも毅の接近に気づいたのか銃器を『フィーニクス』へと向けた。
「一枚かませて貰おうか」
それを見たザウラクは、毅がちょうど射程内にいることを確認してからタンクフォームを起動して、毅への攻撃を自身が乗る『パラディン』へと変更させる。
直後ウォードスより発射された一射が『パラディン』へと命中し、ダメージを与えた。
『援護感謝する』
通信術式を介し、毅はザウラクへと短く礼を述べると、そのままウォードスへと「フェニックス」の一射が閃き飛んだ。
『ライフル、ライフル』
毅の『フィーニクス』より撃ちだされた火線がウォードスの機体に火花を散らし、続けて放たれた一射がさらにその身を抉り取る。
「まんまと挑発に乗るのは器が知れますよ」
魅琴は効果範囲内に僚機がいないことを確認してからマテリアルライフルを起動し、紫色の光線めいた一射を撃ち放つ。
魅琴は高速演算をあわせて起動することでウォードスの動きを予測し、放たれた一射は効果的な一撃と化してウォードスを貫き、さらに損傷を蓄積させた。
「調教してあげましょう」
魅琴からの攻撃は続き、小型ミサイルランチャーより放たれたミサイル状イデアがウォードスへと食らいつき、その生命へと威力を炸裂させる。
「悪くない状況だ」
それまでウォードスの誘引を続けていたザウラクも、フォールブレイドを起動して『パラディン』をウォードスへと躍り込ませる。
回転しながら『パラディン』がウォードスの懐へと飛び込み、ドリルランスが真横に振りぬかれて周囲を薙ぎ払う。
その一撃で胴を裂かれたウォードスがよろめきを見せると、ザウラクはさらにドリルランスを繰り出し、ウォードスの身へと突き刺した。
やがて空と地上の2方面より攻められ続けたウォードスはその場に倒れ、沈黙した。
●水上戦
湖からの攻撃を受けたウォードスは、暁斗の『高機動型ケトス』やモルディウスの『ケトス』がいる水中へと乗り込んできた。
(水中での戦いは今回初めてですが、やってみせます。負けられません)
暁斗はフォゾンエンハンサーへのカウントを終わらせて起動すると、ビッグキャノンに魔力を収束させることで一時的に威力を向上させ、そのまま撃ち放つ。
砲弾状イデアが水中を貫き、そのままウォードスに命中すると回復したシールドを削り取り、着弾音が水中を震わせる。
「1機たりとも逃しはしません」
暁斗の攻撃はさらに続き、再びビッグキャノンの一撃がウォードスに叩きつけられ、再びシールドを打ち破った。
「……考えなしに湖に踏み込んで来たんや」
ウォードスのシールドブレイクに乗じ、モルディウスは追撃をかける。
「もう逃がさんよ?」
モルディウスは再びフォゾンエンハンサーへのカウントを終わらせて発動し、魔力を「パラレルレイン」に収束させると、連続で引き金を引く。
『ケトス』より立て続けに放たれた砲弾状イデアは、次々とウォードスの身へと叩き込まれ、一撃受けるごとにウォードスの機体が水中で揺れ、生命を削られていく。
「じょ、冗談じゃねえ!」
ここでウォードスを操る隊員は装甲解除を起動すると、回復したばかりのシールドと引き換えに生命を回復し、地面のある方向へと機体を走らせる。
『いま敵はそっちに行ったで』
モルディウスが通信術式を介して敵の動向を伝える。
やがてウォードスの機体が水面を割って地上へと躍り出るが、既に沙良の『リリィ』が上空で待ち構えていた。
「ここで格の違いを見せつけてあげましょうかね」
既に沙良はプロトディメントレーザーへのカウントを続けていたが、射程内に敵ウォード以外いないことを確認すると、カウントを終わらせる。
直後『リリィ』はウォードスに向けて突き進み、すれちがいざまに放たれたレーザー状イデアがウォードスを撃ち抜くと、そのまま『リリィ』はウォードスとすれ違い、再び上空へと駆け上がる。
『私は素人じゃない、スペシャリストよ』
(……あれ? この言葉……言い覚えが……なんででしょう……?)
機体の中で呟いた自身の言葉に沙良は疑問を抱いたものの、続けて「フェニックス」の一射をウォードスへと撃ち込み、さらにその生命を削っていく。
なおもウォードスは銃器を振りかざして抗戦したが、暁斗やモルディウス、そして沙良達に押し包まれ、打ち倒された。
●南東と対ホセ
そして湖の南東側でも、遊夜の『黒剛』と響の『黒曜』は片方が盾、もう片方が刃となってウォードスを追い詰めていた。
「おっと、逃がさんぞ!」
遊夜はタンクフォームを起動して、響の駆る『黒曜』へと向けられた攻撃を自身の『黒剛』に変更させると、続けてライトバッシュを起動して「ランゼニティ」に魔力を込め、攻撃を打ち払う。
『ここまでやってきた落とし前は付けんとな!』
叫びと共に「ランゼニティ」が突き通され、刺突を受けたウォードスはそのシールドを削られる。
「……ん、逃がさないよ」
既にソードスラストへのカウントを終わらせ、再び起動した響は連続攻撃が可能な状態へと機体性能を向上させる。
(こちらは陸・空・水中。そしてポルタさんの援護と隙はなし)
既に仲間との通信術式を介し、戦況を把握していた響は続けてサイドキックを起動して『黒曜』を走らせ、遊夜とは別方向から蹴撃を叩き込み、そのシールドを破砕した。
『……ふふっ、うふふ……さぁ、遊ぼう?』
響が笑みと共にギガブレイクを起動すると、巨神突撃槍がウォードスへと突き刺さる。
さらに響は巨神突撃槍を引き抜くと、ソードスラストによる4連撃を続けざまに浴びせかけ、ウォードスの生命を一気に削り取る。
既に損傷を蓄積させていたウォードスは、操縦する隊員が装甲解除を起動するよりも前に生命が尽きて倒れ、動かなくなった。
『……ま、こんなもんだろう。響もお疲れさんだ、よく頑張ったな』
ウォードスの撃破を確認した遊夜は通信術式を介し、響を労った。
『……ん、ユーヤもお疲れ様。……あとはあの人達がどう動くか、かな?』
響も遊夜にねぎらいの言葉で応じると、『黒曜』の頭部を西側へと向ける。
響が見据えた方角では、京四郎やカナタ達とホセ機を押し返しつつあった。
「仕方ねえな」
本能で不利を悟ったホセは装甲解除を使い、外部装甲をパージして機体の生命を回復させると退却に転じる。
「今が好機か……ここからは攻めに出るとしようか」
それを見た京四郎はスナイプポイントを起動し、専用アンカーにより『蒼月の騎士』を固定すると、続けてブレイズシューターを起動し、魔力で収縮した火炎弾状イデアを撃ち放つ。
閃き飛んだ火炎弾状イデアはホセ機に命中すると爆発を巻き起こし、その威力を炸裂させる。
さらに京四郎はフォゾンヒートガトリングの一射をホセ機へと浴びせ、その損傷を蓄積させていく。
「そう簡単には逃がさぬのじゃ」
ここでカナタの『ヴァナディース・マルデル』がサイドキックを起動し、ホセのトルピオンへと突きかかる。
既にカナタはカウントを終え、起動したフォゾンエンハンサーによって魔力を巨神突撃槍に収束させていた。
一気にホセ機へと肉薄した『マルデル』が蹴撃を叩きつけ、ホセ機の生命を削る。
「その首おいて行って貰うのじゃ」
カナタは呟きと共に巨神突撃槍の連撃が繰り出され、立て続けに刺突を浴びたホセ機は生命が尽きて倒れ、動かなくなった。
「ポルタさんもヒーさんも、他の皆も無事なようだな……」
ホセ機の撃破を確認した京四郎は、撃破された味方がいないことに安堵の表情を見せた。
●撃退
撃破された機体より這い出してきたホセ達が両手を挙げ、投降の意思を見せると、突如湖の北東方面より多数の戦車群がなだれ込んできた。
戦車達は咎人達の射程外で停止すると、その中の1両から初老の男が現れる。
男――簒奪者ズロイは拡声器めいた機器を抱え、もう片方の手に白旗を掲げていた。
『私は帝国軍部隊に味方するズロイと申します』
機器を介して拡大されたズロイの音声が周囲に響き渡る。
「あれが帝国軍の……」
ポルタはズロイと直に顔を合わせるのは今回が初めてだった。
『こちらに戦闘の意思はありません。そこで転がっている者達を回収次第、速やかに退くことをお約束します』
ズロイの申し出に対し咎人達はポルタと相談の上、これを受けることにした。
『あー……まぁ、いい。連れて行ってしまってくれ』
ザウラクは『パラディン』の外部スピーカーを介して許可を出す。
『退くなら追わないし邪魔もしない。別段、殺したい訳じゃないしな』
ザウラクからの回答に、ズロイは戦車の上で恭しく頭を下げる。
『ご厚情、感謝いたします』
咎人達が見守る中ズロイは戦車群を動かして手早くゼラー隊を回収し、退いていく。
『敵の撤退を確認、ミッションオーバー、RTB』
「ズロイさんは本当苦労性だな」
撤退完了を見届けた毅が通信術式を介して僚機に報告すると、遊夜も機体の中で苦笑する。
「やれやれ、終わったか。せっかくやし、湖で軽く水浴びでもくかねぇ♪」
モルディウスは機体の中で息を吐くと、先程まで戦場だった湖へと目を向ける。
「皆さん。今回は防戦へのご尽力、本当にありがとうございました」
ポルタは咎人達へ防戦の礼を述べると周囲に展開していた味方部隊を呼び寄せ、慌ただしく戦後処理に移る。
ゼラー隊の『暴走』に端を発した今回の戦いは、咎人達による完勝で幕を閉じた。





