なくしものはなんですか? 第一部 遭遇編
月宵
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シナリオ形態
ショート
難易度
Normal
判定方法
エキスパート
参加制限
総合600以上
オプション
  • ハーフ
参加料金
50 SC
参加人数
3人~6人
優先抽選
50 SC
報酬
200 EXP
5,000 GOLD
10 FAVOR
相談期間
3日
抽選締切
2021/06/16 10:30
プレイング締切
2021/06/19 10:30
リプレイ完成予定
2021/06/30
関連シナリオ
-
  1. オープニング
  2. 相談掲示板
  3. -
  4. 結果
  5. リプレイ
 今にも飛び出そうとするアルベリヒを御伽 泉李(ma0917)が呼び止める。彼としては、自分の後ろでアルベリヒ (mz0060)に解読を行って欲しかった。
「できねぇか?」
 アルベリヒは首を横に振るう。
「ある程度接近しないと、読み慣れない文字は、細部までは読み取れない」
 先程馬車の中で、泉李はマイナ・ミンター(ma0717)と共に、アルベリヒの身の上を聞いていた。
「……すまない」
「覚えが有んなら記憶に関係ねぇなんて事ねぇだろ……護ってやるよ」
 自分は忘れなかった。だが、そこまでしても、忘却してしまう存在もいることはわかっている。彼はそんなアルベリヒを護りたい、と思ったのだ。自分を護りたいと考えた者達もそうしたらのだから。

  思い出した結果、何がアルベリヒにあろうとも、泉李は責任ごとおっ被ると決めた。

「マイナさんに、ソテルさんも一緒だし、これは心強いな」
 腰に備えたベルトに装着したランタンを灯しながら高柳 京四郎(ma0078)は言う。
「紅焔寺さんも、テンペストでの一件以来だな……また今回もよろしく」
「…………」
 紅焔寺 静希(ma0811)彼女からの返答はない。ただ無表情で、明かりの確保の為に、スティック照明を地面にばら蒔くばかりだ。
 
「イルダーナフくんだりに来て、またこれだぜッ!!」
 如月 朱烙(ma0627)は頭を指で掻きむしりつつ肩を落とす。チラリと簒奪者に目を向ける。向こうからもこちらを視認出来ている筈なのに、わざわざ襲いかからず、相変わらず『僕はダレ?』を続けている。
 その『生き様』はまるで、自分達の末路すら思わせる。
 
「あの「彼」でしょうか。簒奪者にしては不自然な点が多いです」
 マイナは口元に手をあて思案する。考えることが多すぎる。何故、アルベリヒはナイフを取り出した? あの首飾りは魔道具かなにか? 何よりこの簒奪者、貧弱な被害と色々と見合っていない。
「ナイフは武器を受け止めるためだ。それ以上の意味はない」
 アルベリヒが、どうやら疑問を一つ解決した模様。
 マイナとしては、もっと彼から聞きたいことは多いが、先ずは目の前の事柄から終わらせることにしよう。
 咎人全てとは言わないが、咎人は記憶を求めるもの、アルベリヒのそれをマイナには止められやしない。
『彼』も咎人でなくとも知りたいようだし、と彼女は心の中で付け加える。

「夜はいいですね、草木も眠れば星の輝きがよく見える」
 疑問視だらけの下界に帯びる陰鬱とした空気など、夜空を悠々と浮かぶソテル(ma0693)にはどこ吹く風、だ。今回の依頼、この方はっきり言ってしまえば興味はない。
 この名前すら、所詮は呼び名。
 一般的なヒトのように産みの親が名付けたものではない。この場にいる全員に、自分の退屈な過去を10億年ずつ、ケーキナイフで切り分けてもいい、なんて思っているくらいだ。
 なぜ固執するのか、ただ不思議。そんな彼女の動機は街道の夜空を眺める。後は、普段世話になっている京四郎とマイナかいるから、楽しい。それだけだった。

●刹那の解読

 じょうくうにてソテルがカンテラを携えて皆の頭上を照らし、マイナは守護結界を展開し、新たな展開の為の呪文を唱える。

 「僕はダレ?」
 
 歩く、刃を振るう、歩く。簒奪者の行動が独り言以外にはそれしかない。
 そこに新たな足音が三種。静希、朱烙、そして京四郎だ。
「如月さん、御伽さん、フォロー頼む……まずは突っ込ませてもらう!」
 最初に突出したのは京四郎。前面に立てば月光のオーラを身に纏い、光刃の一撃が走る。
 
 ガッ
 次いで、間髪入れずボウガンを構えて、射ち放つ。
 キンッ
「これは……」
 京四郎はあまりの攻撃の手応えの無さに息を飲む。だがそれ以上に、簒奪者が防御も回避の素振りすらも見せていないことに驚いた。まるで、防ぐと言う動作すら知らないようだ。
 
「さぁて、心機一転頑張りますかね」
 その傍ら動くは朱烙。京四郎の攻撃の行方を眺め、彼女は金剛の煌めきを放つ。
「か、かってぇなぁ!!」
 ダイヤモンドよりも硬く思わせる鋼のシールドの衝撃に手が震え、朱烙はニィと口の端を歪めて笑う。
 
 静希の撒いた照明の中に、彼女の姿が朧気に浮かぶ。携えたトライデント。地を駆ける衝動を柄に込めて幅跳びの要領で跳躍。紅の旋律が、夜闇に描かれる。
 そのまま落下の勢いに、更に回転を合わせ、無防備な簒奪者の頭上に唐竹割りの鉄槌を落とす。
「僕はダレ?」
 衝撃は伝わったのか、簒奪者は地に伏す。だが、身体には掠り傷すらない。
「……大……地に……キ……スし……ろb……a……by……」
 同時に伸びてくる鎖が簒奪者を絡めとり、泉李の前へと引き寄せられる。
「邪魔はさせねぇよ」
 紫の眼光を鋭くし殺気を見せるも、簒奪者は気にも止めないどころか、目線が遭うこともない。
 アルベリヒのペンライトが簒奪者の胸元へと向く。相変わらず相手は眩しさに瞼を痙攣させることもない。
「思ったより少ない……友、か? とすれば、これが名前に」
 片手でメモ帳を親指で器用に捲るアルベリヒ。集中していた為か、目の前に偶発的に振るわれた刃に気付かない。
 だが、直ぐ側にいた泉李は身をていしてシールドで受け止める。そして、二撃目の刃も泉李は受ける。虚しいほどに、蚊ほども衝撃がない。
「アンタが誰を、何を求めてたのか知んねぇけど……哀れだと思うよ……」
 簒奪者に腕が伸びる。京四郎が簒奪者を捨て身で羽交い締めにしているせいだ。
「WhoamIか……壊れただけかもだが……問おう。お前の目的は何だ」
「僕はダレ?」
 相変わらずの京四郎の無茶苦茶に、朱烙は阿阿と笑う。だが、そんな彼を援護するのが、自分の役目だ。

「幸福と愛の宝石よ。この者達に癒しの慈雨を」
 マイナが街道一帯に降らせた光の雨。彼女は仲間ではなく、簒奪者を確認する。このスキルはシールドに影響なく、体力のみに作用する。
「効果はあるような、ないようなですね」
 相手が無傷故に判別はつかなかった。
 再び簒奪者が動く。その剣は今度は静希へと向かう。彼女は常の鉄面皮と変わらず、槍で止めればそのまま鍔迫り合いに持っていく。
 後はやる。そう京四郎へと視線を強く向ければ、彼もまた理解したのか簒奪者から腕をほどく。
「イ、ル……そうか、そう言うことなのか」
(本当にこんなことがあるとはな……)
 
 解読を終えたか、アルベリヒが簒奪者から離れる。
「で、解析して欲しい情報は手に入ったか?」
 泉李の言葉に応えるよう、アルベリヒは味方全員に告げる。
 
「誰でも良い伝えてくれ。簒奪者の名前は『イル』だ」
 
 一番早く反応したのは、問答を繰り返していた京四郎だった。簒奪者へ改めて向き直りこう告げる。
 
「僕はダ──」
「お前の名前は『イル』さん、だ!」
(何でさん付け!?)
 
 京四郎の言葉は、まるでパスワードでもあったのか簒奪者は彼に顔を向ける。
「僕は……イル。僕はダレ?」
「高柳! 今、名乗ったぞ?」
 驚く朱烙。何かを確信したアルベリヒ。
 だが、簒奪者イルの攻撃は何も変わらない。
 静希、ソテル、京四郎が同時に攻撃をイルへと放つ。
 頭上より光の奔流が降り注ぎ。槍の穂先による袈裟斬りが一閃。水流を纏ったボウガンの一撃。
 全てを相変わらずイルのシールドは受け止める。
 
 ……が、小さな変化をアルベリヒとマイナは見逃さなかった。
「アルベリヒさん、今、一瞬ですがヒビが……」
 マイナが言う通り。あれほどまでに全てを拒絶していたシールドが一瞬だけ本当に微かなヒビが入ったのだ。
 だが、それも一瞬あっという間に戻ってしまう。
「撤退だ。今の俺達にイルは絶対倒せない」
 アルベリヒは武器をしまう。だがその口調には、何か確信めいたものが混ざる。諦めではなく、確信が。
 全員が応とすれば、撤退の準備を始める。とは言っても、イルが今のところ追ってくる様子もないので、マイナが結界を解除し、念のためにソテルがマッドハンドを地上に施す。
 
 とその前に、とソテルは翼を器用に旋回させながらイルの背後に回り、何と首飾りを外して見せたのだ。
 どうやら、敵意がないとシールドは発生しないらしい。
 
「ハハハ、なんつーか大胆な奴だぜ」
「走るぞ」
 こうして、全員は無事馬車に戻ることに成功した。
 なお、ソテルが首飾りを持ち出したのは『キラキラ集めのため』でなく、あくまでも『確認』である。

●煮え切らない真相
 一仕事を終えた朱烙が車窓に向けて煙草の煙を燻らせる。結局、簒奪者イルを倒すことは敵わなかった。
 ソテルはイルから外した首飾りを目の前に晒す。金属性で錆びていて、中に何かしらが入っていたのだろうが、殆んど朽ちてわからない。この世界にあるもの、とは思いにくかった。
 わかるのは、年期が入っていると言うことだけだ。
「……首飾りを持ち帰ってから鑑定するのではいけませんか」
 アルベリヒが無理だ、と言い切る。簒奪者もまた、イデアで構成されている。それは装備品も同じく。だからこそ、世界を離れれば持ち主の元に帰るのだ。咎人と同じように。
 残念と、ソテルは首飾りと一時の時間を過ごすことにした。

「その首飾り曰く付きらしいな。アルベリヒさんの世界の物なのか?」
 京四郎の一言にアルベリヒは首を横に振る。
「だが、俺はこの文字を知っている。この文字があった世界は────」


 天獄界エンブリオだ。

 第二部に続く。

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