月山三楽・壱
葛ノ葉スバル
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シナリオ形態
ショート
難易度
Hard
判定方法
エキスパート
参加制限
総合1000以上
オプション
  • 危険
参加料金
100 SC
参加人数
4人~8人
優先抽選
50 SC
報酬
500 EXP
10,000 GOLD
10 FAVOR
懐地界ワールドロールで参加すると +50 EXP
相談期間
3日
抽選締切
2023/10/11 10:30
プレイング締切
2023/10/14 10:30
リプレイ完成予定
2023/10/31
関連シナリオ
  1. オープニング
  2. 相談掲示板
  3. -
  4. 結果
  5. リプレイ

 繊魄。
 朧々として不確かだ。掴みどころがない。
 あてどもない、月山三楽の身の上を思わせる。

「そう、虚しいな……お互いさね」

 雲の濃淡にしたがって、光の増したり減じたりする月が、わずかに呼吸をしている。
 吹き抜ける風が、頬を切るように冷たい。
 三楽のマントが、せわしなくはためくと同時に、落人の怨霊は、ゆっくりとこちらに振り返った。

「何故に我が前にはだかるのか、強者共……」

 怨霊はその無念を口から吹き出すが如く、黒い澱をその身に纏わせていた。
 雲のほころびから、光を覗かせる月は、灯りとするには不確かすぎた。
 月山が袂から光を投げる。
 すると、天上に光が留まり、周囲を照らした。
 
「虚しいな……お前らもか?」
「咎人だって、決して正義ではないんだ」
 と、シアン(ma0076) が、うつむいて応じる。
 その顔は制帽に隠れてうかがい知れない。
 だが、しばらく考え込むと、

「やあ、よく会うね。別に嬉しくはないけど」

 と、顔を変え、殺気立って言葉にした。

「そうか……だが、斬る……今回ばかりはな……」
「久し振りだな、月山。怨霊を使って何をするつもりだ」

 更級 暁都(ma0383)が、刀の柄に手をかけて言葉を返す。

「知らねぇよ、更級 暁都。お前には知ることすら出来ない」

「妖というより、あれは霊ではありませんか?」
 マイナ・ミンター(ma0717)は、幽霊が怖い令嬢である。
 
「俺の名は……、わからぬ。だが俺は……、お前たちを斬るが定め」
「名もなき兵士が、名乗りを上げる程もないだろうさ……」
 と、三楽はそれに応え、ひとりごちる。

「ボク達は妖怪さんの敵じゃないんだけどなあ」
 シトロン(ma0285)は困った様子で、声を上げる。
 どうやら、今回は勝手が違うようだ。妖怪も全てが全て、友好的ではないらしい。
「問答無用」
「戦いたいなら仕方ないや。斬り合いはできないけど頑張るね!」

 その乾いた声の響きに、シトロンは困惑した調子で後方へと走った。
「月山の居合は侮れません。対応できるよう、身構えてください。撃退するには、月山の手の内を知ることです。今後のためにも」
 皆を護るように暁都は、三楽と対峙する。
「相手の強さはいかほどでしょうね……」
 と、夕凪 沙良(ma0598)が、目を細めて敵の強さを確かめるようにうかがった。

 
 敵の攻撃が来る。
 シアンは、【祈灯具】手鏡で先手を取ろうとした。
 しかし先んじたのは三楽であった。
 怨霊は、五行に構える。五行とは、中段構え、上段構え、下段構え、八相構え、脇構えの、五種の構えを指す。最も有効に、攻撃と防御に備える最適解と言える。
 三楽が惜しくも指をくわえるのは、

(私もこのタイミングで、なにか出来れば……)
 
 ということ。

 暁都は、『神降ろしの舞』を舞った。イデアを取り込んで、技の発動を早めるライトだ。
 廃城に緩やかに裾をなびかせて、舞が終了すると同時にカウントが短縮される。
 『琥珀石の守護』が即座に発動する。
 それは、先手を取られたことにより、おそらくは次の相手の攻撃で、誰かがシールドブレイクしてしまうだろうという懸念からだったのかもしれない。
 小山内・小鳥(ma0062)はシアンに『祝詞』を付与する。
「穢れへの攻撃……出来ない人はいますかねー?」
 マイナは、おもむろに手にした武器を収め、女神アルビオンに祈る。皆が崩折れることがないように、闘い抜くことが出来るようにと月天に向かって。その効果は、ロングアクションのカウントを減らすもの。
 伊吹 瑠那(ma0278)は『咲き乱れる花鳥』を展開する。蕾に開く前のオーガスタは、マイナの『祈願の暁』によって、華々しく咲いた。
 沙良は、『静の構え』を使用する。別名「蒼の構え」とも呼ばれるそれは、奇しくも三楽の居合術に似ていた。
『……』
 紅焔寺 静希(ma0811)は、無表情無感動であった。呻きさえ一切言葉を発さず何とも思わないほどに壊れている。
 静希は、『死活の陣』を構える。一歩も動かぬことで、身を護ろうというライトである。
 
 怨霊は、鬨の声を発し、『諸行無常』に斬ってかかった。
 静謐そのものの殺気はおそらく一般人であれば、斬られたことすら感覚としてとらえられないだろうととも。
 上段から音もなく大気を斬る様に断ち落とし、返す刀でもって、すりあげる様に刀を返す。
 対手とされたのは沙良であった。

「さて、近接はかなり久しぶりですがうまくいくでしょうかねぇ?」

 と、彼女はシールドで受ける。
 『静の構え』によって、最終ダメージは二分の一になる。

「私で相手になるならいいのですがねぇ……」
 
 続けざま、脇から凄まじい速さで走り寄った、三楽の一の太刀が入った。

「……殺ったらァッ!!」
「流石に手ごわい……!」

 それは、琥珀色の結界に阻まれる。シールドブレイクはそれによって一度だけ無効化される。
 だが、月山は手加減を知らない。
 二の太刀が、さらにシールドを割った。そこに護るように重ねがけされる暁都の『緊急障壁Ⅱ』。
 沙良の本体には、傷ひとつつかず、再び無効化されたシールドブレイクと、回復に三楽は激昂した。

「この技、アメフラシの宅でも見たな……もう一枚は、更級 暁都ッ!」


 シアンは、簒奪者を排除対象として見なしていた。だから、そちらは無視。
 重要なのは、落人の怨霊の方である。

「なるべくであるなら、あなたを咎人と簒奪者との戦いには巻き込みたくはないのだけれど」
「笑止!」

 否定されてもなお、妖怪に対して守るべきものであるという態度を崩そうとしない。

「ああえっと、きみの事情はわからないけれど……。荒魂になられてしまうのは都合が悪くて。すまないね」

 シアンは、『緑光の恵み』を使用した。優しく包み込むような緑色の光。それは地面を照らして、まるで新緑の中のように優しげにさんざめくライトが展開される。
 これにて、咎人たちは、カウントの短縮と穢れを祓う能力を同時に得た。
「後方からの援護は久しぶりですが……頑張りますよー」
 小鳥は、遠距離射撃を行なうも、一度弓をしまった。
 味方を有利にし、敵を不利にするZOCを展開する。闇の力を得た小鳥はそこに暗黒たる神殿を築く。
 落人の怨霊は、微動だにしない。
 あやかしの価値観として、この驚天動地の様変わりは、普通なのかも知れない。
 「それならば」とマイナは片手を上げる。

「虚空の法よ、彼の者の力を無に帰しなさい――虚無理論」

 『虚無理論』、目的、意義、真理など本質的な価値がないと主張する。
 五行の構えは、もう使えない。また、これによって、怨霊はファーストアクションを封印された。

 落人の怨霊の向こう側では、三楽が瑠那と付かず離れずの距離を保っていた。
「血に飢えた顔だな、ならばちょうどいい。生憎私も、敵を斬り続けねば呼吸も儘ならぬ身でな」

 三楽は地に唾を飛ばす。
 白い花びらが舞う。この花吹雪はライトなのだ。魔法と近接攻撃を組み合わせた攻撃は、妖しく鮮やかに瑠那を際立てた。そこから咲いた美しき『咲乱』は華々しく、三楽のシールドを割った。
「ぐっ、うがっ!!」

 衝撃に三楽は突っ伏した。シールドの割れる、ド派でな音がした。
 追随するものはいなかった。
 シトロンが様子見のために、落人の怨霊に『幻影弾』を放つ。
 『緑光の恵み』により、穢れに直接繋がるダメージは強力ではあったが、彼女にも感触があった通り、祓い清めるとまでとはいかないようであった。


 ぼろぼろになった、錦の旗が風に揺れている。落人の怨霊の月代が、ざんばらになってばさばさと音を立てるのを、人は聞いていた。

 イニシアチブタイミングに小鳥は『暗黒神殿』を行使する。これによって、落人の怨霊はメインアクションの行動権を剥奪される。

「行動権を奪えると……よいのですがー」

 暁都は居合の構えを取ると同時に、瞬間移動を行う。その素早さに、三楽は思わず足を引いた。
 刀で対応することができないのは、先の戦いで身をもって知っている。
 そこに決まるは、『烈日の構え』である。相手の防御と回避を困難にするその剣戟を、三楽はシールドにダメージを負うまま、身を引いて逃げた。
 シアンは、シトロンに舞台装置のような爛漫の『スポットライト』を当てる。
 様々な色彩が、混ざりゆくこの廃城で、シトロンだけが明るく描き出される。
 小鳥は『ピジョンリペア』を沙良へと展開した。前衛で傷つく仲間をもう見たくないから。
 マイナは、時を遡るように過去を肯定する『次元非行』を実行する。『プロットイン』と『緑光の恵み』を得ての展開である。次の防御へ繋げるために、マイナは天へと祈る。そのライトは、リアクションスキルを三度実行させ、スキルのスピードを上げるというもの。
 沙良は、自らの姿を霞と変え、三楽の横に、瞬時に移動を完了させた。次の攻撃へと仕掛ける体勢を取る。『霞渡』使用中は、攻撃判定を実行することは出来ない。
 静希は『静の構え』をとる。蒼い霊力のオーラが身体から立ち上る。先程、沙良が使用したのと同じ居合術の構えである。

 さて、咎人たちの先手は出揃った。

「すみません。しばらくの間、支援できません。お許しを」

 暁都は三楽に向き直った。
 暁都は、イデアを取り込んで高速に回す、『神降ろしの舞』からの、一切の無駄のない動きからの抜刀の構えを取る。

「これは僕の宣戦布告だ。更級心刀流換骨奪胎奥義……暴風無塵」

 それは、渾身の斬撃。自身の腰を回転軸にし、捻りの力を最大限に活かした、ダイナミックな動き。
 天に月はない。だが、ここにある。紅の刃の軌道。激しく燃え盛る焔はあとから寄せくる波のように、切り裂かれた無常を残し、ただひとつ残るのは、シールドが割られた三楽のみ。

(やべぇ、何も出来ねえ……)

 三楽は、衝撃を受け、もつれるようにして転げた。
 身を起こす――気力はない。
 シアンは、『プロットイン』を付与し、カウントを削った、『真言弾』を怨霊に向けて発射する。
 またも、怨霊の瘴気が消えた。
 
 令嬢たるマイナは、カツカツと歩み寄りながら述べる。
 人の主、為政者として貴族令嬢が言えるあらん限りの言葉だった。

「西洋史で革命以外で『民が騎士以上の階級を討った』というのはあまり聞きませんね? 武士は二主に仕えることを好しとしないと聞きますが、その汚名は本人ではなく、領主が彼の能力を使い切り、民に向かって雪ぐもの。その無念。この戦いで晴らし、民に仕えなさい」

「――もはや、忠義立てなどは無用。平安の世であればまだしも、武士はただ死物狂いで、斬り、食い、散りゆくが定めでござる!」

 マイナはため息をついた。
 こうも価値観の違うものだろうか。
 三楽もため息をつかざるを得なかった。
 どうしてこうも、人斬りは同じことばかり考えるのか。

 その言葉に、皆があっけにとられた。
 一呼吸あった。
 瑠那は、流れるような所作で、三楽の一歩先を行く。
 そこからの爆発的な連続攻撃の解放は、三楽の腹をえぐった。

「生命の鼓動を断つ手応えこそ修羅の真骨頂。貴様もそうだろう?」
「……ちっ、オメェにゃ、関係ねえよ」

 三楽は、ボロボロになりながらも、減らず口を叩いた。
 もう、足には力が入らなかった。

(だが、まだ……いける。まだ、やれる)

 三楽はガタガタと震えている足に力をかけた。

「怨霊さんはあんまり穢れの影響を受けた感じじゃないね。妖怪によって穢れの影響が大きかったり小さかったりするのかな?」

 と、シトロンはこの状況を見て、ため息をつく。

「ボクの必殺技、いっくよー!」

『二重詠唱』からの『幻影弾』そして、『幻影弾Ⅱ』。
 十二の幻影を散らした、覇級の魔法がそれぞれの属性を持って四色に煌めく。

「穢れを祓えるスキルがなくなる前に早く終わらせないとね」

 そうして、その凄まじい威力に、落人の怨霊の穢れが完全に祓われた。
 男は立っている。
 そして、崩れ落ちるようにして膝をついた。
 その悪意は減ったものの、その男の根本は変わらないらしかった。

「……いつか、六道で会おう」

 そう言い残して、ふっと消えた――。

「使えねえ……、もっと強くなきゃ、使い物になんねぇ」

 三楽は土埃にまみれながらも考えている。
 このまま、逃げるべきか? 戦うべきか?
 彼女は思考を巡らせた。

(私が、こんなに弱いのは何故だ? あいつらは、何故あんなにも強い?)

 根本的に違う、何かが。
 そう、あの能力一つ取ってしてもそうだ。あれは、なんだ?
 今まで不思議だった。何故あいつらがこんな力を使えるのか。

 三楽は一つだけ、思い違いをしていた。
 力ではないのだ。そう、ただ単純な抜刀術では勝てないのだ。
 ならば、何か力が欲しい。
 呼びかけに答えるなら、答えて欲しい。
 ――そうして彼女は、「ライト能力」に気づいた。

「如法暗夜ァ!!」

 全ては闇に呑まれる。
 一切合切が、見えざる力によって暗く閉ざされる。
 空間が軋み、叫びを上げ、人ならざる力の奔流に突如さらされた咎人たちは後ずさった。
 三楽の体内にライトがみなぎり、体内を回り、渦を巻く。

 それは、一ラウンド中、対象一人を完全に無力化する力。

「一心派無限流抜刀術・荒覇吐」

 それは、抜刀と言うより、言うなれば飯綱落とし。天駆け。斬り上げながらの跳躍と、空中からの落下スピードを加算しての攻撃。

 静希に攻撃が入るが、マイナは瞬間、『再生修復Ⅱ』を詠唱する。

「再生修復――何を狙ったかわかりませんが私の方が早いですか?」

 敵の強襲に驚いたマイナであったが、やるべきことはやったつもりだった。
 咎人たちの目は皆、三楽を見ていた。

 三楽は動いた。
 怒りを持って、マイナに飛び掛からんばかりに、後方まで走り込み、そこからの抜刀。
 一瞬であった。
 
「一心派無限流抜刀術・翁」
「私を狙うとは……。これは罰と思いなさい」

 これも一瞬の出来事であったのだが、マイナは抜刀術を食らうことなく、消失した。
 『現界剥離』である。
 三楽は驚くこともなく、自身も姿を消し、またわずかかばかり遠くに姿を現した。

 後はもう、三楽と咎人との戦いが残るばかりである。
 暁都は、再び居合の構えを取った。

(それはもう、知っている)
 
 月山は思った。
 だが、そう易々と見極められるものではない。
 刹那の結び。
 刃は鞘走り、鋼鉄は熱によって火花を散らし、三楽のシールドにダメージを与える。
 シアンは、『プロットイン』を付与し、うつむいて呟く。

「どうせ、殺し合うしか道はないんだ……お前とは」

 続けざま、『真言弾』と黒戒の鉤爪が、三楽の身体を攻撃に晒した。
 立っている、まだ立っている。
 不思議なくらい、三楽には気力がみなぎっていた。
 沙良は鞘に納めた刃に、自らの霊力を注ぎ込み、『煉滅閃』のカウントに入る。
 瑠那が、白花を舞わせて、その中を突撃してくる中、三楽は自身の身体の消失を感じていた。

(目が……見えねえ……)

 そこからの『咲乱』の開花で花が散る。シールドが割れる。
 残りわずかだった、三楽のライフを削ったのは、シトロンの『幻影弾』だった。


 三楽が消えていく。

「……チッ……また殺られた」

 黒に飲まれていく、三楽が呟く。

「次は全力で行く」

 と、暁都が宣誓布告すると、
 
「ははは!」

 と三楽は、痰混じりに笑った。


 さあ、もう荒城には、はじまりと同じ様に、落人の怨霊が立っているだけであった。
 
 マイナは、その霊の生き様を思うにつけ、それは本当に忠義であったのかと問うた。

「伺いましょう、落人が持つのは強者と戦わず果てられぬ後悔か、ただ力持たぬ民に狩られた怨みか」
「俺などは、ただの怨念にすぎない。灯火の前に折しも風雨が落ちたというだけのこと。俺は、この城で敗れ、自害した。それだけよ」
「戦場で果て、鬼となった者、ですか。戦いで果てることができるなら、私の怖い幽霊ではありませんね」
 と、マイナは述べた。
 
「いきなり戦いになってしまって申し訳ない」

 と、シアンは頭を下げる。

「俺は、馴れ合いはせん。さらば……」

 落人は、少し苦笑いしたかのように、頭をかいた。

「……あの簒奪者、これからも邪魔をして来そうだね」

 と、シアンはどこか清々しげに月を見上げた。
 荒城の兵、新月に吠ゆる。



 永遠ごとき水底にて、三楽は苦悩していた。
 次も、水だ。
 そう、あてどもないあの流れに、また身を砕くことになるのだ。
 ぽちゃん、と音がした。
 嫌な音だ。
 なんて嫌な音だ。
 三楽は、

(次は私は殺らねえ……)

 と呟いて、目蓋を閉じた。

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