(シン……イン……継ぐモノ……何を……?)
鈴(ma0771)は、思考を巡らせる。
アールフォーの拠点に攻め寄せたセンチュリオンは、子供の居場所を探していた。
この拠点において子供とは、胤以外に考えられない。
では、何故センチュリオンが胤の身柄を求めるのか。
その答えを、咎人側で持ち合わせていない。
(いや、後にしよう……)
思考の海に答えがないと気付いた鈴は、纏わり付く考えを振り払う。
分かりきっているのは、胤をセンチュリオンの手に渡してはいけない事。
胤はリトルメックに連れられて拠点となっているシェルターの中へ戻った。つまり、センチュリオンをシェルターの中へ侵入させなければ良い。鈴は、シェルター入り口周辺の机などを持ち出してバリケードを構築していく。
センチュリオンの前では無力かもしれないが、刹那の間でも足を止められればそれで良い。
「それにしても、でかいクラゲですねぇ……」
同じくシェルターの入口に陣取っていた夕凪 沙良(ma0598)は、センチュリオンの奥へ視線を送る。
そこにはクラゲのような姿の大型鉄騎が、触手を蠢かせていた。
今まで遭遇してきたセンチュリオンの中でも、クラゲが異質な事はすぐに分かる。
(しゃべるという事はそれなりに知能もありそうですが……)
沙良が特に気になったのは、あのクラゲが会話可能である点だ。
今までの鉄騎は言葉を発する事があった。しかしそれは変異体同様、言葉に似た音を発しているに過ぎない。センチュリオン自身がその言葉を意図して口にしている訳ではなかった。
だが、あのクラゲは違う。明らかにこちらの言葉に反応して、返答している。つまり、明確な会話が成立しているのだ。
「何かしらの情報を引き出せるかもしれぬのう」
鈴もクラゲについては興味を持っていた。
会話が可能であるのなら、会話の中で新たなる情報を入手できるかもしれない。
しかしそれは、あくまでもクラゲに一定レベルでの交渉を持つ意志があればの話だ。
「ですが……話し合いには応じてくれそうもない様子ですね」
沙良の目には、クラゲがこちらの会話に今すぐ乗ってくる気配はない。
シェルターの入口に穴を開けたビーム攻撃。クラゲは既にシェルターへ攻撃を行っている。言い換えれば、力による胤の収奪を狙っている。力を行使すれば、胤の身柄は簡単に抑えられると考えているのだ。
その状態で交渉しても、センチュリオン側は鼻で笑うか、恫喝してくるのが定石だ。
「詳細は後じゃな……わらわも出る」
鈴は高い集中力で霊力を収束させた後、マジックアローで手前にいたセンチュリオンを狙い撃つ。
敵の情報を探っている間も、センチュリオンはシェルターに向けて動き出している。まずはあの行軍を止めなければ話にならない。
その考えは沙良も同様であった。
「さて、始めます」
沙良の命を受け、ローレライ・透狐は宙へ浮かび上がる。
眼下にセンチュリオンの群れを置き、ローレライ・透狐が風の流れに乗る。
その間も沙良は鈴を支援する為、後方からSR-ルーセントでセンチュリオンの頭部を照準に収める。
敵の狙いも分からない。
それどころか、防衛対象が何者かも分からない。
ただ、二人の脳裏には決意があった。
決して、あのクラゲに胤を渡さない――と。
●
「ヒャッハー、雑魚どもは皆殺しだー」
シェルター前に犇めくセンチュリオンの群れ。
地獄の降下兵であるラファル・A・Y(ma0513)からすれば、まさに待ち望んだ戦場でる。
くうていのバトルスーツに身を包み、空へ浮かぶラファル。
少しばかり離れた地面には、センチュリオンが落下してくるのを待ち受けている。
「主役の登場が待ちきれねぇんだろ? 分かってる。今から御褒美をくれてやる。季節外れのハロウィンだ」
ラファルは機体を翻す。両手に握られるのは、二挺のSMG-ウルティマ。
銃口は既にセンチュリオン達に向けられていた。
「オラオラ! お菓子代わりの弾丸だ! 好きなだけ食ってけ!」
エアリアルバーストで多数のセンチュリオンを標的に選び、次々と弾丸の雨を降らせていく。
センチュリオンも触手を伸ばして反撃を試みるが、地上はセンチュリオンで溢れている状況。遠くからの触手は届かない。
一方、足元近くにいたセンチュリオンも触手を伸ばしてくる。
だが、ラファルは素早く体を入れ替え、SMG-ウルティマの銃口を向ける。
「ディキシイを聞かせてやるぜー」
撃ち込まれる弾丸。
くうていのバトルスーツ越しに伝わってくる振動。
そして、仄かに鼻腔をくすぐる火薬の香り。
足元で転がるセンチュリオンが悲鳴にも似た音を奏でている。
ラファルは、改めてここで戦場に帰ってきたのを実感していた。
「クラゲか何か知らねぇが、まあ俺に任せておけばいちころだぜー」
触手を撃ち抜いたセンチュリオンに向けて、ラファルはその周囲を巻き込むようにSMG-ウルティマの雨を降らせる。
敵の数は多い。だが、ラファルにとってそれは絶対的有利の理由にはならない。
一方、地上では金路(ma1384)が縞瑪瑙の羅宇煙管から煙を立ち上らせていた。
「考えなんざ人それぞれだからな。なんやかんや言ったって仕方ねぇ。が、子一人守るってんなら協力はするぜ」
口から紫煙を吐き出しながら、改めて視線を上げる。
視界には多数のセンチュリオン。
いつ見ても気色の悪い鉄人形。
胤の身柄を要求する辺り、何かしらの意図があるのだろう。
それは金路にも分からない。センチュリオンにはセンチュリオンの事情があるのだろう。
その事を今すぐ追求する気はない。だが、病弱で動くにも一苦労している子供を力で奪おうというのはいただけない。
「生憎わしもさっさと見捨てるって考えにはならねぇ爺なんでな」
金路は縞瑪瑙の羅宇煙管を振るう。
燃え尽きたタバコの葉が、季節から飛び出してくる。
寄ってたかって子供を掠おうとする。
どんな事情があろうとも、それを見過ごすなんて金路にはできなかった。
「!」
金路に触手を伸ばすセンチュリオン。
このまま捉えて動きを縛るつもりだ。
だが、金路は触手に合わせて紅葉羽二重傘を振るった。
勢いと共に方向を逸らせた触手。その間に金路はセンチュリオンとの間合いを詰めた。
「あの子が生きたいのか、逝きたいのかはわしも知らん。だが、その答えはあの子の口から聞きたいのでな」
金路は、紅葉羽二重傘を振り抜いた。
体の軸が揺れ、触手は誰もいない地面を叩く。
金路の脳裏に浮かぶのは、先程アールフォーとヨミの会話。
ヨミは『生きるというのは、『生きたい』と『願う』ことにございます。願わぬ者は例え命あれども屍に等しい』と言い切っていた。その事にアールフォーは怒り心頭であったが、金路はヨミがそのような価値観である事を知っている。ヨミはそういう考えの一族で育っているのだ。その価値観を否定する気はまったくない。
だが、できるならあの子の願望を直接聞きたいとも考えていた。
「悪いな。こいつはちょっとばかり八つ当たりだ」
地面に転がされたセンチュリオンの前に、金路は紅葉羽二重傘を肩に乗せて見栄を張った。
●
更級 暁都(ma0383)は、センチュリオンと対峙する。
曙光と暁光の鍔が小さくなり、暁都の頬を風がそっと触れる。
張り詰めた空気。センチュリオンが動く度に、その体から金属特有に軋みが聞こえる。
戦場。暁都はそんな欲の渦巻く場に居ながら、無表情を貫いている。
「数が多ければ減らせば良いだけのこと」
誰に聞かれる事無く、小声で呟く。
今まで巡った戦場でも、暁都は生き抜いてきた。
敵の数が如何に多くとも、その戦況を何度もひっくり返してきた。
「一気に、攻めます」
自らの技術と二本の愛刀。そして、気高き双頭の蒼き鷹がセンチュリオンとの間合いを詰める。
下駄の歯が地面を蹴り、地面に歯形を残して行く。
センチュリオンも触手を振るって暁都へ向けて叩き付ける。だが、触手は暁都の捉える事無く、下駄の歯が残された地面をかき乱すだけであった。
「疾きこと風の如く、徐かなること林の如く、侵掠すること火の如く……」
暁都は、地面を大きく踏み込んだ。
同時に暁光が円の軌跡を描きながら、センチュリオンの体に食い込んだ。
センチュリオンは反撃する為に触手を引き戻そうとする。だが、それよりも早く、触手へ曙光を振り落とした。
刃は触手へと食い込み、刀身の重みで深々と食い込んだ。
「動かざること山の如し。無形剣豪剣技、風林火山」
暁都は曙光を引き抜く。
既に触手は溶け出し、砂へとこぼれ落ちている。
センチュリオンも抗おうとするが、触手は既に自由が利かない。
ただ、その場で崩れ落ちていくだけであった。
センチュリオンを倒した暁都であるが、その戦いは未だ終わらない。
「……!」
後方から別のセンチュリオンが迫る。
軽やかな足取りで砂を蹴った後、装備した刀を振り上げる。
奇襲にも見える攻撃であるが、暁都は自分が戦場にいる事を知っている。戦場では何処から攻撃が来るか分からない。特に今回のような乱戦になれば、四方から敵の刃が飛んでくる。
暁都は予期していたかのように曙光で刀を受け流す。
軌道を変えられた刀は、誰もいない宙へと向かう。
センチュリオンも刀を引き戻そうと試みるが、既に体は勢いに乗った後。止める事はできない。
その間に暁都は、残る暁光でガラ空きとなった触手の根元を斬る。
「一体たりとも侵入させません」
見事な反撃を決めた暁都。足元で溶けていくセンチュリオンを見る事無く、次なる敵へと視線を向けた。
「こういった騎乗物は好きになれんが、長丁場に丁度いい」
駆動装甲「黒渦」に乗り込んだ氷雨 絃也(ma0452)は、改めてセンチュリオンの動きに注視していた。
センチュリオンの先陣はシェルターに向かって進軍。シェルターを守ろうとする咎人は、その入口を堅めながらセンチュリオンを迎撃していた。集団で押し寄せる人海戦術を試みるセンチュリオン側に対して、咎人達は自らに課した責務を果たそうとしている。
センチュリオン側の数は多いが、咎人側はシェルター防衛に多くの戦力を割り振っている。
その防衛力は高いとみて間違いない。
「さて、こっちもやれるだけやってみるか」
絃也も見守るだけではいけない。
黒渦の背面から黒い炎を噴射して、センチュリオンの中を突き進む。
黒渦は装甲そのものの防御力で戦闘をサポートする特殊なパワードスーツだ。そこから黒渦で囮になる事で仲間の支援を試みようとしていた。
センチュリオンが絃也を見つけ、直様に触手を振るう。
遠心力を付けて振るわれた触手が黒渦に衝突。激しい衝撃を受けるが、絃也のダメージは想像よりも低い。
これなら、やれそうだ。
「これは、お返しだ」
絃也は華剣「流歌」で反撃を試みる。
無理に倒す必要はない。敵の注意を惹きつける事が目的だ。牽制に使えれば十分。
そう考えながら、花の彫刻があしらわれた細身の剣を振るっていく。
(敵の数は多いが、確実に数は減っている。問題があるとすれば……あれか)
触手をはね除けた絃也が見つめたのは、センチュリオンの奥。
群衆となったセンチュリオンの背後で鎮座するクラゲ型の大型鉄騎。
既に数名の咎人がクラゲを止めるべく攻撃を仕掛けているが、ここから見ても大型なのは一目で分かるサイズだ。現時点で決定的なダメージを与えられているかは分からない。
厄介なのは遠距離からのビーム攻撃だろう。既にシェルターのシャッターを一撃で破壊している。あれを連発されれば、シェルターに甚大な被害が及ぶかもしれない。
「胤さえ捕まえれば、後はどうでも良いって事か」
あのクラゲを自由にさせてはいけない。
同時にセンチュリオンをシェルターへ入れらてはいけない。
絃也はその絶対条件の中で、センチュリオンの目を惹き付ける役目を担う。
覚悟を改めて決めた絃也。流歌の刀身に炎を纏わせる。
「まだまだこれからだ。切り札を切るのは」
振り下ろされた流歌。風を斬り、煽られた炎。
その炎がセンチュリオン達を巻き込んでいく。
シェルターへは決して行かせない。絃也は、センチュリオンの群れの中で大きく立ち回り始めた。
●
絃也がセンチュリオン達へ挑む頃。
別方向から動き出す者達がいた。
加えたタバコ型菓子が、口の中にココアの香りを充満させる。
戦場という欲求と欲望に塗れた場所の中で、唯一憩いを感じさせてくれる。
「やれやれ、攻められてる以上止めないとな」
麻生 遊夜(ma0279)は、口からタバコ型菓子をそっと外す。
見立てでは、センチュリオンが今すぐシェルターへ突入する状況ではない。
もし、仮にそのような展開になるとするならば後方で待機するクラゲ型大型鉄騎が動き出した後だ。特に触手を収束させた大型レーザーを放たれれば、シェルターを防衛する咎人達にも被害が及ぶ。
何としてもあのクラゲを足止めしなければ。
「ついでに聞きに行くか」
「……ん、どうせ相対するしね……今までの経験上、喋らないと思うけど」
傍らにいる鈴鳴 響(ma0317)は、クラゲからあまり情報を得られないと考えているようだ。
会話は確かに可能のようだが、咎人をどのように見るかは分からない。
見下してくれれば何か出すかもしれないが、警戒すれば押し黙る事も考えられる。
「まあ、何にしてもあのクラゲのところへ行かないとな!」
遊夜は砕けぬ矜持の右腕と折れぬ信念の左腕に精霊の力を宿す。
ここからセンチュリオンの群れをどうやって抜けるのか。
決まっている――押し通ればいい。
「おら、麻生組のお通りだ! 当たると痛ぇぞ!」
遊夜は手薄になっているとみたセンチュリオンの群れを押し返し、強引に体を滑り込ませる。
その背後を響が追随。伸ばされた触手を両手で押し退けながら、センチュリオンの群れを突破していく。
抜けた先にはセンチュリオンよりも遙かに巨大なクラゲが、触手を動かしながら鎮座している。
それはまるで、そこが玉座であるかのように」
「…………アーカーシャ……否、違うな…………客人か」
「随分なご挨拶だなぁ、おい……アンタの目的を教えて貰えんかね?」
明らかに不機嫌そうなクラゲ。
それを敢えて無視した遊夜は、目的を問いかけた。
「…………」
「そっちの情報がない以上、話さんなら全力で邪魔することになるぞ」
「…………」
遊夜が脅しを込めて強めに出るが、クラゲは声一つ発しない。
このような駆け引きは理解できないのだろうか。
否、沈黙する事で余計な情報を与えないようにしているかもしれない。
「だんまりか。まあいい。その腹ん中に溜め込んだもん、吐き出させるだけだ」
そこへ響がクラゲへ問いかける。
「……ん、目的は、子供?」
「……そうだ」
響の問いかけに対して、クラゲは一言だけ返した。
肯定。やはり、胤が狙いなのは間違いなさそうだ。
「……ん、何故?」
響は再び問いかけるが、クラゲは再び押し黙った。
クラゲの意図が推し量れない。
だが、胤が目的というのならばやる事は変わらない。
「……ん、やめないなら……仕方ない、ボク達の全力で……邪魔してあげる」
「おら!」
遊夜がクラゲへチェーンロックを試みる。
オーラが鎖への変質してクラゲを拘束する。
その場で動けなくなるクラゲ。だが、クラゲから伸びる触手は自由のまま。ビーム攻撃を四方へ放つ。
「……ん」
「我が信念と矜持の楯は堅牢なり! この程度じゃ倒れてやれんなぁ!」
響の前へ立ちはだかり、盾となる遊夜。
ビームが単体で命中するが、遊夜の体を貫く事はなかった。
どうやら、ビームを収束させる事で威力が上がるタイプの攻撃らしい。
その間に響が次の一手を打つ準備を整えていた。
「……ん、貴方には……贈り物をあげる、いっぱい……いっぱい、ね」
クラゲに虹色の光が降り注ぐ。
その光が異常を与える事を、クラゲはすぐに気付いたようだ。
「!」
「……ん、逃がさないよ……ふふっ、うふふ……さぁ、遊ぼう?」
響の七煌移相で強引に弱点を付与されるクラゲ。
それでも声を上げないのは、余裕の表れなのか。
「こっからが勝負だ、クラゲの。我慢比べと意向じゃないか」
遊夜はタイマンダイブを発動する。
クラゲを前に、遊夜は覚悟を決めるのであった。
●
「シオラン殿の旧知という事は古代人か」
仲間が危険に及ばないよう、後方からとこしえの星を使っていた天魔(ma0247)。
その傍らでは最後方まで下げられたシオランの姿があった。
あのクラゲはシオランの名を口にした。ならば、あのクラゲはシオラン同様に古代人、もしくはその関係者だと考えられる。
「そうなる、な」
シオランはその推理をあっさり肯定した。
だが、シオランはクラゲについて何も知らない様子だ。
一方で、天魔はクラゲが古代人と考えれば胤を求める理由が見えてきた。
「成程、胤殿を求めるわけだな」
「どういう意味じゃ?」
「恐らく胤殿は天儀の魂だ。環境が再生し始めたので現れたのだろう」
天魔は胤が天儀の魂だと考えた。
そうであるならば、いくつかの疑問は氷解する。
環境汚染が激しい天儀で、何故生きていられるのか。
そして、胤の体が病に冒されている理由。
それは、天儀が汚染されているからと考えれば理解できる。最近調子が良いのも、咎人達が神霊樹を植樹しているからだ。
「しかし、それは状況証拠でしかない。そのレベルでは推論に過ぎん」
「そうだろうな。だが、星の意思が人の形をとる事はままあるのだ。私は数例知っている」
天魔の記憶には似た事例が浮かんでいた。
今回もそれと同様かは不明だが、胤が天儀の魂である可能性を否定はできないはずだ。
「それにアールフォー殿が強力なオートマトンとなっている理由もわかる」
「む。それは、彼が最新のオートマトンだからではないのかね?」
話を聞いていた教授が問いかけてきた。
「古い新しいはあくまでも機体スペックの差に過ぎない。だが、私はあのクラゲはアールフォー殿の実力を見誤っていると考える。もし、クラゲからみてもアールフォー殿が強い力を保持していると認めるならば、単なるスペック論では片付けられない」
「ふむ。推論として聞きたいが、アールフォーは何らかの理由で力が増していると考えているのかね?」
「そうだ。そしてアールフォー殿は恐らく星の守護者に認定されたのだろうな」
星の守護者。
つまり、胤を守る者としてアールフォーが認められている。星の力を与えられた事で高出力の攻撃が可能となっていると天魔は考えていた。
「それもまだ確証がない話じゃ。じゃが、一考には値するのう」
天魔の説をシオランは否定しなかった。
正確には肯定も否定もできない。あまりに情報が少ないからだ。
胤も人間を恐れている。今も怯えてリトルメックと共にシェルターの奥から顔を出さない。おそらく今会いに行っても門前払いになるだろう。もう少し胤と交流を深め、説の裏付けをする必要がある。
「その為にも、胤をあのクラゲへ渡す訳にはいかんな」
天魔は絶対領域を展開する。
クラゲが胤を使って何をするつもりなのか。
それはまだ分からないが、おそらく天儀にとって良くない話と見るべきだ。
本当に天儀の事を考えるなら、胤を強引に連れて行く必要はない。アールフォー達を説得すればいい。それをしなかった時点で、あのクラゲとは敵対する道しか残されていない。
「この説が正しいかを見極める為にも、センチュリオンに胤を渡さん」
●
「オラオラオラオラ!」
ラファルが上空からSMG-ウルティマによる弾丸の雨を降らせ続ける。
前衛が足を止めれば、必ず後方に影響が出る。進軍を乱せば、それだけ地上の咎人が攻撃する機会を得られる。
途中、休憩を挟みながらもラファルはセンチュリオンを次々と撃破していく。
「やれやれ。それでもまだ諦めずに進軍するのか」
地上ではシェルターの入口に近づいた金路を押し返している。
センチュリオンの数は確実に減っている以上、今はシェルターへの侵入を阻むべきと考えていたからだ。
そして、同じ事を高柳 京四郎(ma0078)も先読みしていた。
「大物狙いと行きたいところだが……今回は中に入れない方が肝要か」
京四郎は、他の咎人と呼吸を合わせる。
金路が打撃を与えたセンチュリオンに極光弾を放つ。
光の波動がセンチュリオンへ直撃。その体は、後方へ倒れ込んで地面へと転がる。
「感謝するぞ、高柳」
「いや、気にしなくてもいい。次が来るぞ」
金路の言葉に京四郎は軽く応える。
こうしている間にもラファルがセンチュリオンを追撃している。
地獄の降下兵らしく、多数の敵を前にしても臆する気配は一切無い。
そんな中、京四郎はふと思い出す。
(そう言えば、天儀に来てからはほぼずっと鏡花水月を使っていたな)
この天儀を訪れ、開拓と戦い続きだった京四郎。
そんな中で自らの戦い方が一貫して同じだった事に気付いた。
だが、別の戦い方ができない訳じゃない。
そう考えたからこそ、京四郎は別の戦い方を試みる。
「言っておくが、俺の花鳥蒼月は素のままでも強い」
「高柳、そちらへ行ったぞ」
金路の言葉に反応して顔を上げる京四郎。
見れば、ラファルから何発も銃弾を受けたセンチュリオンが複数体接近していた。
「逃がすかぁぁぁ!」
逃れようとするセンチュリオンだが、目の前にいる京四郎も逃がす気はなかった。
「身を以ってそれを実感するんだな、有象無象のガラクタ達……!」
京四郎は神剣「天羽々斬」を抜刀。燃え盛る熱きオーラを身に纏いながら、天羽々斬を前方へ突き出した。
そして、回転をしながらセンチュリオン達を迎撃する。
普段ならばステップ斬撃や触手で回避するのだろうが、既にラファルから追われている状況。
センチュリオン達に京四郎の鬼焔斬舞を回避する暇はない。
「……!」
鬼焔斬舞に巻き込まれるセンチュリオン達。
バラバラになった機械の体は地面にバラ撒かれ、砂の上へと落下していく。
その様子を一瞥した京四郎。戦況は間違いなく咎人優勢と言っても良いだろう。
「見事だな、高柳」
「…………」
金路の労いに、京四郎は沈黙を守った。
その異変に金路が気付く。
「どうした?」
「いや……ヨミのあの様子が気になってな」
鬼焔斬舞の回転が終わった時、遠目にヨミらしき姿が飛び込んできた。
その姿で戦う前に交わしていたヨミとアールフォーの会話を思い出していた。
「あれか。あの様な価値観だ。言って直るようなものでもないだろう」
「……ああ」
京四郎はそう返したが、その内心は別の事を考えていた。
ヨミの言葉と、あの様子。
何か――変な事を考えていなければ良いのだが。
その考えが種となり、京四郎の心に不安を広がってしまうのだった。
●
「ヨミちゃん、こないだも一緒に戦ったし、もう友達になるか?!」
「友達?」
鐵夜行(ma0206)の言葉に、ヨミは首を傾げた。
こうしている間にもセンチュリオンを斬り伏せているのだが、鐵夜行が何を言っているのか分からない様子だ。
「え? 友達じゃなかった……いえ、なかったでしょうか?」
慌てて言い直す鐵夜行。
しかし、ヨミの考えはまったく別のものであった。
「友達になって何になるのでしょう?」
「え?」
「友達になれば、強者を教えてくれるのでしょうか? それとも友達になれば斬り合いに応じてくれるのでしょうか? 正直、友達を作る意味が分かりません。強くなれば、勝手に弱き者が従ってくれるでしょう?」
ヨミからすれば、友達を作る意図が分からない様子だ。
共闘すれば良いのかもしれないが、それは単なる協力であり友達とは呼べない。
「殿下。お話は後程。今はあれを退けねばなりません」
二人のやり取りに割って入るマイナ・ミンター(ma0717)。
翼竜「ディアマンテ」に乗って上空から大声で声を掛ける。
ヨミに関する友達の定義は気になるところだが、今はシェルターを襲撃するクラゲを退治しなければならない。
センチュリオンの群れを抜けた一行を待ち受けていたのは、巨大な体を揺らすクラゲの姿であった。
「…………」
登場にもクラゲは沈黙を守っている。
驚く事も怒る事もせず。先行していた遊夜と響が交戦しているが、それに対しても最低限の言葉を発するのみだ。
そんな中、素早く動いたのはマイナだった。
「――月は盈ちたり。マリエル、この戦場に華を咲かせましょう」
「イエス、ユア、マジェスティ。思うままに、お嬢様」
マイナは秘めたる霊力を解放。
その傍らでマリエル(ma0991)がエリアデコードを発動する。
「敵はあのクラゲ……さぞ、良い時間を過ごせそうですね。ふふふふふふ」
微笑みを讃えたヨミは、一足飛びでクラゲへと向かって行く。
それに追随する一行。
「オレが背負うのは必勝の星! 見よや不退転の意思! 破 軍 星!!」
鐵夜行が破軍星でヨミに追随。
その後方からマリエルをディアマンテに乗せたマイナが追い掛ける。
(……早いって、ヨミちゃん)
鐵夜行も追い掛けるが、ヨミはかなり素早い。
既に刀の柄に手を掛けている。
「良いのですか? そのように手を伸ばしていて」
ヨミがクラゲの触手に向かって抜刀。
同時に刃が触手へぶち当たる。
「!」
広がる衝突音。
それに続けとばかりにマイナがディアマンテを触手へ接近させる。
「はっ!」
マイナが業魔麒麟剣を振るう。
再び衝突音が鳴り響く。だが、触手に出来た傷は、瞬く間に修復されてしまった。
「うわっ!」
鐵夜行も鬼鎧「滅龍光破・魂型」に乗って変換霊力硬質爪で攻撃してみたものの、すぐに傷は塞がってしまう。
諦めずに何度か攻撃を繰り返してみたが、しばらくすれば元に戻ってしまう。
「お嬢様」
「単なるセンチュリオンではないと予想していました。この修復を何とかしなければ……」
「ふふふふ。いいですね……いいですね」
恍惚とした表情でヨミはクラゲの触手を見つめていた。
マリエルはヨミの表情に怪しさを感じ、思わず警戒を強めてしまう。
「殿下。何が良いのでしょう?」
「久し振りに斬り甲斐のある存在が現れました。これです。これで無ければなりません。強い方が生き残り、弱い方が死に絶える。それこそがこの世界で唯一の不文律です」
「ヨミちゃん、このクラゲは傷を修復しちゃうみたいだよ? 倒せるの?」
鐵夜行も思わず問いかける。
それに対してヨミは全く臆する様子も無く答えた。
「傷が治る? でしたら、修復が間に合わない程、斬って差し上げれば良いだけです。傷付く以上、修復に力を削いでいるのですから、斬り続ければ勝手に倒れてくれるでしょう」
それは、ヨミが好きなだけ斬り続けられる証。
それだけではない。こうしている間にもクラゲは三人に向けてビームを放射している。
回避しながらクラゲへ何度も攻撃を繰り返さなければならない。
簡単な話でもないのだが、ヨミの顔には歓喜が浮かぶだけであった。
「お嬢様」
「マリエル、殿下の仰る通りです。隙を見てクラゲに最大の攻撃を試みます。支援をお願いします」
「御意」
マイナも覚悟を決めたようだ。
うまく能力を一点に集中できれば良いのだが。
「ヨミちゃんがそういうなら、こっちも頑張るよ! 友達だしね!」
「……だからその友達に意味はあるのでしょうか?」
鐵夜行の言葉に、ヨミは変わぬ返答をするのであった。
●
(胤君を狙ってる……? あのクラゲ、彼の事を知ってるのでしょうか)
白花 琥珀(ma0119)は、クラゲから離れた場所に陣取っていた。
姉と慕う川澄 静(ma0164)とアールフォーの姿もそこにあった。
琥珀が懸念していたのは、突如現れたクラゲが胤の事を既に知っていた事だ。
先日出現したセンチュリオンが先陣であり、情報収集であるならば胤の存在がシェルターにある事を突き止めた可能性もある。だが、わざわざ胤を狙う意味までは分からない。少なくとも何らかの意図を持って胤に接触しようとしているのは間違いない。
「コハ、支援お願いしますね」
「はい、静姉様」
「アールフォーさま、貴方が思う様に動けるように周りの敵を排除いたします。胤くんを守りましょう!」
静は琥珀に挨拶をした後、アールフォーにそう告げた。
二人は胤を守ろうとするアールフォーを後方から支援するつもりでいた。アールフォーが遠距離でクラゲを狙えば、必ずセンチュリオンが妨害してくる。その妨害を可能な限り阻止する事が、課題となる。
「そうか。礼は言っておく」
「胤君を渡さないのは当然として、可能なら会話で情報を引き出しましょう。胤君の体調の手がかりになるかもしれません」
「コハ、お待ちなさい。会話は簡単ではないかもしれません」
琥珀の申し出に対して静が口を挟む。
実はクラゲに対して既に何人かの咎人が問いかけているが、反応が芳しくないようだ。時折返答はするものの、沈黙を貫く事が多いらしい。
「機会を窺うべきです。敵方は油断しております。アールフォーさまが高出力の攻撃を仕掛ける事で、揺さぶりを掛けられるかもしれません」
あのクラゲはアールフォーを旧式と侮っていた。
だが、静はアールフォーの力はクラゲが考えるよりも遙かに上だと考える。もし、クラゲの予想をアールフォーが上回る事ができれば、クラゲは必ず反応する。
「コハ、舞を」
「はい」
琥珀は静に命じられるまま、琥珀石の祝歌舞を舞った。
幸運を引き寄せ、魔を払う琥珀石の祝福。周囲の敵の力を削ぎ、味方の力を高める。アールフォーの攻撃を高める為にも、可能な限り支援を行わなければ。
「アールフォーさま。ここでお力をお使い下さい」
「分かった。胤の為にも」
静が魔王弾でセンチュリオンを撃破する裏で、アールフォーがAOP-M4A1『ラートリー』の準備に入る。
長い銃身はどうしても目立つ。それはクラゲの目にも留まったようだ。
「……それは……試作の銃、か……」
(試作? やはり何かをご存じのようですね)
クラゲの言葉を琥珀は聞き逃さなかった。
予想通り、クラゲは重要な何かを知っている。そして、知っているが故に更にこちらを侮ってくれる。
「……それで、僕を……撃つ? ……その程度では……止められない……」
クラゲが喋り出す。
それはアールフォーのラートリーの威力を知っており、その威力であれば大したダメージにはならないと考えるから。
敵の余裕。それでもアールフォーは心を揺さぶられない。
「なら、受けてみるがいい。胤は決して渡さない!」
撃ち出される鉄塊が電磁の力を受けて飛来する。
強烈なスピードを持った鉄塊は、クラゲの触手に命中。傷を付けるどころか、貫く事に成功。
宙を舞う触手。その威力にクラゲの声に驚嘆が混じる。
「……馬鹿、な……その兵器に……そのような、威力は……なかった……」
貫かれた触手は修復される様子はなかった。
どうやら、一定以上のダメージを与えれば修復は行えないようだ。
だが、それよりもこの状況について静は冷静に分析していた。
(アールフォーさまは旧式のオートマトンでありながら、この強さ……。アールフォーさまにも何か秘密がありそうですね)
●
「いかにも異星からの使者……っぽいですねぇ、クラゲ型」
紅雨(ma1464)は、遠くにいるクラゲを視界に収めながら魔法弾を発射する。
黒翼の魔符で攻撃を仕掛けていたセンチュリオン。魔法弾を触手で受け止めきれず、胴体に突き刺さる。
咎人は防衛戦に注力した為、センチュリオンの減少は早い。クラゲが何らかの命令を下していれば戦況が変わったかもしれないが、ヨミやアールフォーを擁して攻撃を仕掛けている事でその暇もないようだ。
(イスルギ君がセンチュリオンの拠点を潰したって聞いていましたが。あんな大きなクラゲが現れたという事は、敵の拠点は残っているのでしょうね)
突出したセンチュリオンを魔法の鎖で捉える。
先日もかなりのセンチュリオンを撃破した上、イスルギ、ライオウ、無銘がセンチュリオンの拠点を破壊している。
UFOの外見で内部調査も行ったらしいが、その後でこれだけの軍勢がシェルターを襲撃。更に、大型鉄騎のクラゲまで登場したのであれば、別の拠点が存在すると考えるのが自然だ。
「一つだけじゃないとは思ってました。ですが、厄介な相手ですね」
「はい。ただの雑兵にしては明確な敵意を感じますね」
機動装甲服S型で上空から狙撃していた茨木 魅琴(ma0812)。
DMR-カシオペアによるマルチショットで先陣を遠距離狙撃。更に位置を変えて超巨大レールガンを用いて、センチュリオンをまとめて射撃を仕掛ける。敵の数が多い事から命中率が多少落ちても何の障害にもならなかった。
むしろ、魅琴が気になったのはセンチュリオンの異様な雰囲気にあった。
「あの触手は確かに奇妙です。それ以上に薄弱な意志の中にあって命令に従おうとするセンチュリオン。異質な空気を感じます」
「それですが、おそらくあのクラゲの存在が大きいと思われます」
「つまり、あのクラゲが指揮官でしょうか?」
紅雨の言葉に魅琴は問いかけた。
センチュリオンの軍勢と咎人が交戦した事は何度かある。その際、センチュリオンは戦術などを用いず、力任せの戦法を取るだけであった。
今回もそれに近い。センチュリオンはシェルターの入口に向けて攻め寄せている。
だが、その動きは単なるロボットというよりも手駒に近い。魅琴はセンチュリオンを攻撃しながら、その動きに違和感を感じていたのだ。
「断言はできません。それに指揮というのも語弊があるかもしれません」
「どういう事でしょう?」
「あくまでも感覚的なお話ですが……言うなれば、盾であり、駒というところでしょうか」
紅雨は以前戦った者の感覚を、敢えて言葉にした。
センチュリオンがただ命令に従うだけならシェルターの入口へ突き進めばいい。
だが、時折クラゲに向かって戻るセンチュリオンがいる。アールフォーを攻撃しているようにも見えるが、あれはクラゲに呼び戻されているようだ。では、クラゲが指揮を執っているのかと言われれば懐疑的だ。動かし方がかなり雑だ。言うなれば、使い潰しても構わない玩具を無理矢理動かしているような感覚だ。
「駒、ですか」
そう言いながら、魅琴は再び宙へ上がる。
そして、超巨大レールガンをクラゲに向けて照準を合わせる。
センチュリオンが減っている以上、後方からでもクラゲを狙って支援をしておく。あのクラゲの隙にすれば、哀れな玩具は次々と現れる事になる。壊れる事を定めとするセンチュリオン。そのような存在、研究者としてどう見るべきなのだろうか。
「!」
魅琴は超巨大レールガンの引き金を絞る。
センチュリオンを貫きながら、クラゲの触手に向かって放たれた弾丸。
触手をも貫き、遠くの地面へ刺さったのが照準越しに見える。
クラゲも別方向からの狙撃に気付いたようだ。
「……小癪な……」
今度は魅琴へ向けてクラゲがビーム攻撃。
収束されていない攻撃ではあるが、多数のビームが魅琴に向けて放たれている。
「一旦地上へ」
紅雨に促される形で魅琴は地上へと降りる。
先程まで魅琴がいた場所に次々とビームが飛んでくる。
(あのクラゲ。ただの鉄騎ではないようです)
紅雨の傍らで、魅琴は次の狙撃チャンスを待っていた。
●
(やはりアールフォーはただのオートマトンではない、か)
シェルターの入口で天魔が考察を続けていた。
クラゲへ放ったラートリーは、クラゲ自身も驚嘆する威力。何かしらの力が隠されている証左とみていた。
一方、センチュリオン自体への考察を行う者もいた。
「変異化対策でデミウルゴス技術を使って魂を鉄機に移したが、変異化は逃れられず、あんな融合みたいな感じになったとか」
透夜(ma0306)は、鬼鎧「滅龍光破・剣型」を走らせてセンチュリオンを別方向へ誘引していた。
センチュリオンは傍目からみれば鉄騎やオートマトンであるが、最大の特徴は触手である。
しかし、透夜が着目したのは変異体の特性も兼ね備えている点だ。デミウルゴスも用いる技術で魂を鉄騎へ移したものの、変異化の影響を逃れられず、あのような状況になったのではないかと考察していたのだ。
「クラゲみたいに記憶と意志を持ったままになったとか……魂の力が足りないなら、別の場所から持ってきているんじゃないか」
透夜はクラゲも同様の状況と考えた。
だが、考えてみれば咎人と会話が成立している。言葉は少ないが、コミュニケーションが出来る以上は変異体とは異なる。
では、何かしらの力を別の場所から持ってきたのだろうか。センチュリオンがクラゲに命じられたような動きをする事も、そうだとするなら納得はできる。
「気になるのは、胤か。胤も同じ様に何かしらの力で補っているが、今は生命維持が精一杯みたいな感じだとか」
透夜はセンチュリオンを誘導し終えたと判断。
踵を返して双頭の蒼き鷹での攻撃を開始する。咎人と別方向から攻撃する事で十字砲火を狙ったのだ。
既にセンチュリオンの数も少なくなっている。透夜が別方向から攻撃を仕掛けても何とか対処はできる。
センチュリオンと同時に気になったのは胤の存在だ。胤だけは天儀においても異質だ。生命が生存するには過酷な天儀で、病弱なれど生存している者。生きられるのはアールフォーやリトルメックのようなオートマトンのような存在だけと考えていた。
では、胤も何か外部から力で補っているのだろうか。だとするなら、何故あそこまで弱っているのだろうか。
(まだ情報が少ないか)
透夜はその場で回転。集まるセンチュリオンを一気に薙ぎ払う。
透夜の推測は全部が外れているとは思っていない。
ただ、判断するにはあまりに情報が不足している。鍵を握るのは、あのクラゲ。そして、胤。
いずれも直接コンタクトを試みて簡単に情報を引き出せるとは思えない。
「今は、この戦いを何とか乗り越えるのが優先か。他の咎人の考えも参考にしたいところだ」
透夜は自らにそう言い聞かせながら、滅龍光破・剣型を走らせる。
駆け抜けると同時にセンチュリオンへ複数の斬撃を叩き込む。
倒すべきセンチュリオンはまだまだ残ってる。透夜は一呼吸置いた後、再びセンチュリオンへ挑むのであった。
●
「皆、無理だけはしないようにね……いつも通り行こう」
「うん、雪斗くんも一緒にいてくれてありがとね! 頼りにしてるよ!」
戦いも大詰めを感じさせる中、鞍馬 雪斗(ma1433)は星空 雪花(ma1479)を気遣っていた。
神導で自らを強化し、仲間と共にシェルターの入口に陣取る。これより後方へ敵を逃がせば、胤へ被害が及ぶ可能性もある。
謂わば、雪斗達が立っているのが最終防衛ラインと言っても過言ではない。
「センチュリオンだったか、明確な敵っても面倒だな……」
「祈願の暁だゾイ。カウント減るからうまく使ってね。イエイ」
navi(ma1483)は、軍用魔導アーマー「BGG」に騎乗。上空から女神アルビオンへ祈る。
最後まで諦めず、誰も倒れる事なく戦い抜けるように。
それはnaviが仲間を想っての願い。
センチュリオンの数は減っているが、油断すれば守るべきモノが守れずに終わる。それだけは避けなければならなかった。
「ナヴィちゃんの想いの光、使わせてもらうね!」
naviの願いを受けた雪花が、ReSTAの引き金を絞る。
ReSTAもまた大切な人を守り、戦い抜く覚悟を決めた証。
ここからセンチュリオンを通さないと決めた以上、雪花は銃口をセンチュリオンへ向け続ける。
(いい加減、攻撃じゃなくて、あたしは歌を届けたいんだけどね……)
雪花は内心、そのような事も考えている。
自らを想煌の星華で強化しながら挑んでいるが、本当に届けたい想いは別の方法だ。
naviが祈りを届けるように、雪花も歌を届けたい。
願う内容は同じでも、手段の違うがもどかしい。
「やれやれ。センチュリオンが意志疎通できない以上、力で倒すしかないのが厄介だな」
CLEARQUEENに乗り、上空からハウリングで仲間を守るリダ・クルツ(ma1076)。
逐次、仲間を後方から支援しているが、戦い続きで疲弊し始めている事に気付いていた。
何か息抜きするべきだと考えるが、敵の猛攻は未だに続いている。フラストレーションに繋がる理由も、敵の意図が見えてこない事に起因いているのかもしれない。
だからこそ、リダは仲間をしっかりと支える覚悟を決める。
「星空さん、届かせてくれ、星の輝き!」
「分かったよ、リダくん!」
リダはⅡによるマルチショット。
複数のセンチュリオンに霊力が込められた符束が衝突する。
それに合わせて雪花が放ったReSTAの攻撃が突き刺さる。
連続での攻撃を受け、狙われたセンチュリオンが次々と地面へ倒れ込んでいく。
(そうだ………いつかここでも歌えるように、ね)
雪斗は、雪花へそっとシールドアップを付与する。
雪斗も雪花の想いを知っている。だが、それは敢えて口には出さない。
言えば、雪花は頑張ってしまう。天儀を来訪し、開拓者ギルトを設立して石の氏族を歌で励ましてきた。
その裏ではセンチュリオンと戦闘。今もこれだけ頑張っている。目標があれば目指すのは当然かもしれないが、全力で常に走り続けられる程、強くはなれない。
だから、雪斗は口に出さず、雪花を支える事にした。
「雪斗くん、ありがとう!」
シールドアップの感謝を述べながら、雪花はキラキラと煌めく満天の星空を作り出す。
この戦いは、敵を倒すだけじゃない。如何にこの防衛ラインを維持するか。
雪斗やnavi、リダが仲間を支援し続けるのも、防衛ラインを維持する為だ。
同時に雪花も仲間を気遣っていた。傷付く仲間を雪斗がヒールしているが、人海戦術で押し切られる恐れもまだ残っている。
雪花はその状況を受け、仲間の回復を一気に図る。
(雪花さん、また……)
雪斗は、雪花がまた頑張っている事に気付いた。
誰よりも精一杯身を削って努力してしまう。そんな雪花だからこそ、雪斗は支えたくなってしまうのだ。
「ここまでされたら、もうちょっと体を張らないとな。センチュリオンがあのクラゲの子分で、胤を奪うってんなら!」
「ロックオンしたゾ。ミサイル発射、着弾今!」
リダとnaviも仲間達の為に奮戦する。
もう少し。防衛ラインを維持すれば、この戦いの終焉も見えてくる――。
●
「いきなり襲ってくるような無礼者の求めに応じる気はないよ」
シアン(ma0076)は、クラゲの触手に向けてアイシクルエッジを放つ。
触手を氷の結晶が傷付けると、傷は早くも修復を開始する。
それでも構わずシアンは前に出て白桜剣「セレジェイラ」の一撃を加える。斬られた触手が地面へ転がり、のた打ち回っている。
「……僕の……邪魔、するな」
(人語が話せるなら、こいつにも魂がある? 古代人かな)
戦いの中でもシアンは冷静だった。
触手を収束させたサウザンドウェーブを撃たせないよう、ひたすら自己強化しながら攻撃を継続。その間にクラゲの反応を見続けていた。クラゲは明確に意志がある。それだけではなく、こちらの言葉にしっかり反応する。沈黙が長い事から知能が低いのかとも考えたが、これは口数が少ないだけと判断した。
「……いい加減……失せろ……」
クラゲは複数の触手からビームを拡散される。
狙いを絞るのではなく、四方へ撒き散らす事で咎人側の行動を阻害するつもりのようだ。
「詳しいことは分からんが 攻撃をやめろ! ビームを撃つなぁぁ」
スポットワープで転移した躑躅(ma0256)が、至近距離から双頭の蒼き鷹で斬りつける。
触手は攻撃すれば修復するが、無限に修復する訳ではない。体力が高い相手と考え、何度も斬り続ければいい。
躑躅も徹底して攻撃を続けていた。シェルターから注意を逸らす意味でも、クラゲと対峙する。その甲斐もあってセンチュリオンの数は仲間によって殲滅する手前まできていた。
「……小癪な……」
触手に張り付く躑躅を振り払うように触手を暴れさせるクラゲ。
触手が地面へ叩き付けられる度に、地面は小刻みに揺れる。
躑躅も危険を感じたのか、少し距離を置いた。
「効いているって考えていいのかな」
「それで正解だよ」
躑躅に答えるように鮮花閃光でその身を光に変えるシアン。
別の触手を狙って何度も斬撃を叩き込む。
ビームと触手が襲ってくる状況だが、狙う触手を変える事でクラゲの思考を混乱させる。シェルターの防御に戦力を回した事から、このクラゲを撃破するのは困難だ。だが、クラゲを撃退する事は十分に可能だ。
(クラゲはシオランさんと胤君を知っているけど、シオランさんは胤君を知らない様子だよね……? どういうことだろう)
「……おのれ、シオラン……かような者を……」
「!」
シアンがシオランの事を考えていると同時に、クラゲがシオランの名を口にした。
やはり、クラゲはシオランは間違いなく知っている。
「知ってるの?」
「…………」
躑躅は敢えてクラゲへシオランを知っているか問いかけた。
クラゲは、ここで沈黙。交流する気が無い? 否、どちらかと言えば答える事で情報を引き出されるのを嫌った気配がある。
決して頭が悪い存在ではないようだ。
だが、ここで咎人側も想定外の動きが起こる。
「シオランさん!」
シアンの後方からシオランが姿を見せたのだ。
躑躅は反射的にシオランを守るように傍らまで走り寄る。
「危ないよ」
「すまんのう。どうしてもワシの名を知っていたのが気になってな」
(……? シオランさんもクラゲを知らない?)
シオランの言葉からシアンは首を傾げる。
この言い回しはシオランがクラゲを知らないような言い方だ。
では、一方的にクラゲがシオランを知っているというのか。
「……シオラン……」
「悪いが、ワシはおぬしの事を知らん。思い返してみるが、クラゲの機械は記憶にない。おぬしは何者なんじゃ?」
シオランの言葉。
それはクラゲにどのように伝わったのか。
シアンにも躑躅にも分からない。
しばしの沈黙の後、クラゲは宙へ浮き上がった。
「……我は……我らは……アーク」
「何!? アークじゃと!」
息を飲むシオラン。
その間にクラゲは踵を返すと後方のエンジンを点火して上空へと向かって飛び去っていく。
そこに残されたのは、大量のセンチュリオンの残骸。そして、風に舞う砂埃だけであった。
(執筆:近藤豊)
鈴(ma0771)は、思考を巡らせる。
アールフォーの拠点に攻め寄せたセンチュリオンは、子供の居場所を探していた。
この拠点において子供とは、胤以外に考えられない。
では、何故センチュリオンが胤の身柄を求めるのか。
その答えを、咎人側で持ち合わせていない。
(いや、後にしよう……)
思考の海に答えがないと気付いた鈴は、纏わり付く考えを振り払う。
分かりきっているのは、胤をセンチュリオンの手に渡してはいけない事。
胤はリトルメックに連れられて拠点となっているシェルターの中へ戻った。つまり、センチュリオンをシェルターの中へ侵入させなければ良い。鈴は、シェルター入り口周辺の机などを持ち出してバリケードを構築していく。
センチュリオンの前では無力かもしれないが、刹那の間でも足を止められればそれで良い。
「それにしても、でかいクラゲですねぇ……」
同じくシェルターの入口に陣取っていた夕凪 沙良(ma0598)は、センチュリオンの奥へ視線を送る。
そこにはクラゲのような姿の大型鉄騎が、触手を蠢かせていた。
今まで遭遇してきたセンチュリオンの中でも、クラゲが異質な事はすぐに分かる。
(しゃべるという事はそれなりに知能もありそうですが……)
沙良が特に気になったのは、あのクラゲが会話可能である点だ。
今までの鉄騎は言葉を発する事があった。しかしそれは変異体同様、言葉に似た音を発しているに過ぎない。センチュリオン自身がその言葉を意図して口にしている訳ではなかった。
だが、あのクラゲは違う。明らかにこちらの言葉に反応して、返答している。つまり、明確な会話が成立しているのだ。
「何かしらの情報を引き出せるかもしれぬのう」
鈴もクラゲについては興味を持っていた。
会話が可能であるのなら、会話の中で新たなる情報を入手できるかもしれない。
しかしそれは、あくまでもクラゲに一定レベルでの交渉を持つ意志があればの話だ。
「ですが……話し合いには応じてくれそうもない様子ですね」
沙良の目には、クラゲがこちらの会話に今すぐ乗ってくる気配はない。
シェルターの入口に穴を開けたビーム攻撃。クラゲは既にシェルターへ攻撃を行っている。言い換えれば、力による胤の収奪を狙っている。力を行使すれば、胤の身柄は簡単に抑えられると考えているのだ。
その状態で交渉しても、センチュリオン側は鼻で笑うか、恫喝してくるのが定石だ。
「詳細は後じゃな……わらわも出る」
鈴は高い集中力で霊力を収束させた後、マジックアローで手前にいたセンチュリオンを狙い撃つ。
敵の情報を探っている間も、センチュリオンはシェルターに向けて動き出している。まずはあの行軍を止めなければ話にならない。
その考えは沙良も同様であった。
「さて、始めます」
沙良の命を受け、ローレライ・透狐は宙へ浮かび上がる。
眼下にセンチュリオンの群れを置き、ローレライ・透狐が風の流れに乗る。
その間も沙良は鈴を支援する為、後方からSR-ルーセントでセンチュリオンの頭部を照準に収める。
敵の狙いも分からない。
それどころか、防衛対象が何者かも分からない。
ただ、二人の脳裏には決意があった。
決して、あのクラゲに胤を渡さない――と。
●
「ヒャッハー、雑魚どもは皆殺しだー」
シェルター前に犇めくセンチュリオンの群れ。
地獄の降下兵であるラファル・A・Y(ma0513)からすれば、まさに待ち望んだ戦場でる。
くうていのバトルスーツに身を包み、空へ浮かぶラファル。
少しばかり離れた地面には、センチュリオンが落下してくるのを待ち受けている。
「主役の登場が待ちきれねぇんだろ? 分かってる。今から御褒美をくれてやる。季節外れのハロウィンだ」
ラファルは機体を翻す。両手に握られるのは、二挺のSMG-ウルティマ。
銃口は既にセンチュリオン達に向けられていた。
「オラオラ! お菓子代わりの弾丸だ! 好きなだけ食ってけ!」
エアリアルバーストで多数のセンチュリオンを標的に選び、次々と弾丸の雨を降らせていく。
センチュリオンも触手を伸ばして反撃を試みるが、地上はセンチュリオンで溢れている状況。遠くからの触手は届かない。
一方、足元近くにいたセンチュリオンも触手を伸ばしてくる。
だが、ラファルは素早く体を入れ替え、SMG-ウルティマの銃口を向ける。
「ディキシイを聞かせてやるぜー」
撃ち込まれる弾丸。
くうていのバトルスーツ越しに伝わってくる振動。
そして、仄かに鼻腔をくすぐる火薬の香り。
足元で転がるセンチュリオンが悲鳴にも似た音を奏でている。
ラファルは、改めてここで戦場に帰ってきたのを実感していた。
「クラゲか何か知らねぇが、まあ俺に任せておけばいちころだぜー」
触手を撃ち抜いたセンチュリオンに向けて、ラファルはその周囲を巻き込むようにSMG-ウルティマの雨を降らせる。
敵の数は多い。だが、ラファルにとってそれは絶対的有利の理由にはならない。
一方、地上では金路(ma1384)が縞瑪瑙の羅宇煙管から煙を立ち上らせていた。
「考えなんざ人それぞれだからな。なんやかんや言ったって仕方ねぇ。が、子一人守るってんなら協力はするぜ」
口から紫煙を吐き出しながら、改めて視線を上げる。
視界には多数のセンチュリオン。
いつ見ても気色の悪い鉄人形。
胤の身柄を要求する辺り、何かしらの意図があるのだろう。
それは金路にも分からない。センチュリオンにはセンチュリオンの事情があるのだろう。
その事を今すぐ追求する気はない。だが、病弱で動くにも一苦労している子供を力で奪おうというのはいただけない。
「生憎わしもさっさと見捨てるって考えにはならねぇ爺なんでな」
金路は縞瑪瑙の羅宇煙管を振るう。
燃え尽きたタバコの葉が、季節から飛び出してくる。
寄ってたかって子供を掠おうとする。
どんな事情があろうとも、それを見過ごすなんて金路にはできなかった。
「!」
金路に触手を伸ばすセンチュリオン。
このまま捉えて動きを縛るつもりだ。
だが、金路は触手に合わせて紅葉羽二重傘を振るった。
勢いと共に方向を逸らせた触手。その間に金路はセンチュリオンとの間合いを詰めた。
「あの子が生きたいのか、逝きたいのかはわしも知らん。だが、その答えはあの子の口から聞きたいのでな」
金路は、紅葉羽二重傘を振り抜いた。
体の軸が揺れ、触手は誰もいない地面を叩く。
金路の脳裏に浮かぶのは、先程アールフォーとヨミの会話。
ヨミは『生きるというのは、『生きたい』と『願う』ことにございます。願わぬ者は例え命あれども屍に等しい』と言い切っていた。その事にアールフォーは怒り心頭であったが、金路はヨミがそのような価値観である事を知っている。ヨミはそういう考えの一族で育っているのだ。その価値観を否定する気はまったくない。
だが、できるならあの子の願望を直接聞きたいとも考えていた。
「悪いな。こいつはちょっとばかり八つ当たりだ」
地面に転がされたセンチュリオンの前に、金路は紅葉羽二重傘を肩に乗せて見栄を張った。
●
更級 暁都(ma0383)は、センチュリオンと対峙する。
曙光と暁光の鍔が小さくなり、暁都の頬を風がそっと触れる。
張り詰めた空気。センチュリオンが動く度に、その体から金属特有に軋みが聞こえる。
戦場。暁都はそんな欲の渦巻く場に居ながら、無表情を貫いている。
「数が多ければ減らせば良いだけのこと」
誰に聞かれる事無く、小声で呟く。
今まで巡った戦場でも、暁都は生き抜いてきた。
敵の数が如何に多くとも、その戦況を何度もひっくり返してきた。
「一気に、攻めます」
自らの技術と二本の愛刀。そして、気高き双頭の蒼き鷹がセンチュリオンとの間合いを詰める。
下駄の歯が地面を蹴り、地面に歯形を残して行く。
センチュリオンも触手を振るって暁都へ向けて叩き付ける。だが、触手は暁都の捉える事無く、下駄の歯が残された地面をかき乱すだけであった。
「疾きこと風の如く、徐かなること林の如く、侵掠すること火の如く……」
暁都は、地面を大きく踏み込んだ。
同時に暁光が円の軌跡を描きながら、センチュリオンの体に食い込んだ。
センチュリオンは反撃する為に触手を引き戻そうとする。だが、それよりも早く、触手へ曙光を振り落とした。
刃は触手へと食い込み、刀身の重みで深々と食い込んだ。
「動かざること山の如し。無形剣豪剣技、風林火山」
暁都は曙光を引き抜く。
既に触手は溶け出し、砂へとこぼれ落ちている。
センチュリオンも抗おうとするが、触手は既に自由が利かない。
ただ、その場で崩れ落ちていくだけであった。
センチュリオンを倒した暁都であるが、その戦いは未だ終わらない。
「……!」
後方から別のセンチュリオンが迫る。
軽やかな足取りで砂を蹴った後、装備した刀を振り上げる。
奇襲にも見える攻撃であるが、暁都は自分が戦場にいる事を知っている。戦場では何処から攻撃が来るか分からない。特に今回のような乱戦になれば、四方から敵の刃が飛んでくる。
暁都は予期していたかのように曙光で刀を受け流す。
軌道を変えられた刀は、誰もいない宙へと向かう。
センチュリオンも刀を引き戻そうと試みるが、既に体は勢いに乗った後。止める事はできない。
その間に暁都は、残る暁光でガラ空きとなった触手の根元を斬る。
「一体たりとも侵入させません」
見事な反撃を決めた暁都。足元で溶けていくセンチュリオンを見る事無く、次なる敵へと視線を向けた。
「こういった騎乗物は好きになれんが、長丁場に丁度いい」
駆動装甲「黒渦」に乗り込んだ氷雨 絃也(ma0452)は、改めてセンチュリオンの動きに注視していた。
センチュリオンの先陣はシェルターに向かって進軍。シェルターを守ろうとする咎人は、その入口を堅めながらセンチュリオンを迎撃していた。集団で押し寄せる人海戦術を試みるセンチュリオン側に対して、咎人達は自らに課した責務を果たそうとしている。
センチュリオン側の数は多いが、咎人側はシェルター防衛に多くの戦力を割り振っている。
その防衛力は高いとみて間違いない。
「さて、こっちもやれるだけやってみるか」
絃也も見守るだけではいけない。
黒渦の背面から黒い炎を噴射して、センチュリオンの中を突き進む。
黒渦は装甲そのものの防御力で戦闘をサポートする特殊なパワードスーツだ。そこから黒渦で囮になる事で仲間の支援を試みようとしていた。
センチュリオンが絃也を見つけ、直様に触手を振るう。
遠心力を付けて振るわれた触手が黒渦に衝突。激しい衝撃を受けるが、絃也のダメージは想像よりも低い。
これなら、やれそうだ。
「これは、お返しだ」
絃也は華剣「流歌」で反撃を試みる。
無理に倒す必要はない。敵の注意を惹きつける事が目的だ。牽制に使えれば十分。
そう考えながら、花の彫刻があしらわれた細身の剣を振るっていく。
(敵の数は多いが、確実に数は減っている。問題があるとすれば……あれか)
触手をはね除けた絃也が見つめたのは、センチュリオンの奥。
群衆となったセンチュリオンの背後で鎮座するクラゲ型の大型鉄騎。
既に数名の咎人がクラゲを止めるべく攻撃を仕掛けているが、ここから見ても大型なのは一目で分かるサイズだ。現時点で決定的なダメージを与えられているかは分からない。
厄介なのは遠距離からのビーム攻撃だろう。既にシェルターのシャッターを一撃で破壊している。あれを連発されれば、シェルターに甚大な被害が及ぶかもしれない。
「胤さえ捕まえれば、後はどうでも良いって事か」
あのクラゲを自由にさせてはいけない。
同時にセンチュリオンをシェルターへ入れらてはいけない。
絃也はその絶対条件の中で、センチュリオンの目を惹き付ける役目を担う。
覚悟を改めて決めた絃也。流歌の刀身に炎を纏わせる。
「まだまだこれからだ。切り札を切るのは」
振り下ろされた流歌。風を斬り、煽られた炎。
その炎がセンチュリオン達を巻き込んでいく。
シェルターへは決して行かせない。絃也は、センチュリオンの群れの中で大きく立ち回り始めた。
●
絃也がセンチュリオン達へ挑む頃。
別方向から動き出す者達がいた。
加えたタバコ型菓子が、口の中にココアの香りを充満させる。
戦場という欲求と欲望に塗れた場所の中で、唯一憩いを感じさせてくれる。
「やれやれ、攻められてる以上止めないとな」
麻生 遊夜(ma0279)は、口からタバコ型菓子をそっと外す。
見立てでは、センチュリオンが今すぐシェルターへ突入する状況ではない。
もし、仮にそのような展開になるとするならば後方で待機するクラゲ型大型鉄騎が動き出した後だ。特に触手を収束させた大型レーザーを放たれれば、シェルターを防衛する咎人達にも被害が及ぶ。
何としてもあのクラゲを足止めしなければ。
「ついでに聞きに行くか」
「……ん、どうせ相対するしね……今までの経験上、喋らないと思うけど」
傍らにいる鈴鳴 響(ma0317)は、クラゲからあまり情報を得られないと考えているようだ。
会話は確かに可能のようだが、咎人をどのように見るかは分からない。
見下してくれれば何か出すかもしれないが、警戒すれば押し黙る事も考えられる。
「まあ、何にしてもあのクラゲのところへ行かないとな!」
遊夜は砕けぬ矜持の右腕と折れぬ信念の左腕に精霊の力を宿す。
ここからセンチュリオンの群れをどうやって抜けるのか。
決まっている――押し通ればいい。
「おら、麻生組のお通りだ! 当たると痛ぇぞ!」
遊夜は手薄になっているとみたセンチュリオンの群れを押し返し、強引に体を滑り込ませる。
その背後を響が追随。伸ばされた触手を両手で押し退けながら、センチュリオンの群れを突破していく。
抜けた先にはセンチュリオンよりも遙かに巨大なクラゲが、触手を動かしながら鎮座している。
それはまるで、そこが玉座であるかのように」
「…………アーカーシャ……否、違うな…………客人か」
「随分なご挨拶だなぁ、おい……アンタの目的を教えて貰えんかね?」
明らかに不機嫌そうなクラゲ。
それを敢えて無視した遊夜は、目的を問いかけた。
「…………」
「そっちの情報がない以上、話さんなら全力で邪魔することになるぞ」
「…………」
遊夜が脅しを込めて強めに出るが、クラゲは声一つ発しない。
このような駆け引きは理解できないのだろうか。
否、沈黙する事で余計な情報を与えないようにしているかもしれない。
「だんまりか。まあいい。その腹ん中に溜め込んだもん、吐き出させるだけだ」
そこへ響がクラゲへ問いかける。
「……ん、目的は、子供?」
「……そうだ」
響の問いかけに対して、クラゲは一言だけ返した。
肯定。やはり、胤が狙いなのは間違いなさそうだ。
「……ん、何故?」
響は再び問いかけるが、クラゲは再び押し黙った。
クラゲの意図が推し量れない。
だが、胤が目的というのならばやる事は変わらない。
「……ん、やめないなら……仕方ない、ボク達の全力で……邪魔してあげる」
「おら!」
遊夜がクラゲへチェーンロックを試みる。
オーラが鎖への変質してクラゲを拘束する。
その場で動けなくなるクラゲ。だが、クラゲから伸びる触手は自由のまま。ビーム攻撃を四方へ放つ。
「……ん」
「我が信念と矜持の楯は堅牢なり! この程度じゃ倒れてやれんなぁ!」
響の前へ立ちはだかり、盾となる遊夜。
ビームが単体で命中するが、遊夜の体を貫く事はなかった。
どうやら、ビームを収束させる事で威力が上がるタイプの攻撃らしい。
その間に響が次の一手を打つ準備を整えていた。
「……ん、貴方には……贈り物をあげる、いっぱい……いっぱい、ね」
クラゲに虹色の光が降り注ぐ。
その光が異常を与える事を、クラゲはすぐに気付いたようだ。
「!」
「……ん、逃がさないよ……ふふっ、うふふ……さぁ、遊ぼう?」
響の七煌移相で強引に弱点を付与されるクラゲ。
それでも声を上げないのは、余裕の表れなのか。
「こっからが勝負だ、クラゲの。我慢比べと意向じゃないか」
遊夜はタイマンダイブを発動する。
クラゲを前に、遊夜は覚悟を決めるのであった。
●
「シオラン殿の旧知という事は古代人か」
仲間が危険に及ばないよう、後方からとこしえの星を使っていた天魔(ma0247)。
その傍らでは最後方まで下げられたシオランの姿があった。
あのクラゲはシオランの名を口にした。ならば、あのクラゲはシオラン同様に古代人、もしくはその関係者だと考えられる。
「そうなる、な」
シオランはその推理をあっさり肯定した。
だが、シオランはクラゲについて何も知らない様子だ。
一方で、天魔はクラゲが古代人と考えれば胤を求める理由が見えてきた。
「成程、胤殿を求めるわけだな」
「どういう意味じゃ?」
「恐らく胤殿は天儀の魂だ。環境が再生し始めたので現れたのだろう」
天魔は胤が天儀の魂だと考えた。
そうであるならば、いくつかの疑問は氷解する。
環境汚染が激しい天儀で、何故生きていられるのか。
そして、胤の体が病に冒されている理由。
それは、天儀が汚染されているからと考えれば理解できる。最近調子が良いのも、咎人達が神霊樹を植樹しているからだ。
「しかし、それは状況証拠でしかない。そのレベルでは推論に過ぎん」
「そうだろうな。だが、星の意思が人の形をとる事はままあるのだ。私は数例知っている」
天魔の記憶には似た事例が浮かんでいた。
今回もそれと同様かは不明だが、胤が天儀の魂である可能性を否定はできないはずだ。
「それにアールフォー殿が強力なオートマトンとなっている理由もわかる」
「む。それは、彼が最新のオートマトンだからではないのかね?」
話を聞いていた教授が問いかけてきた。
「古い新しいはあくまでも機体スペックの差に過ぎない。だが、私はあのクラゲはアールフォー殿の実力を見誤っていると考える。もし、クラゲからみてもアールフォー殿が強い力を保持していると認めるならば、単なるスペック論では片付けられない」
「ふむ。推論として聞きたいが、アールフォーは何らかの理由で力が増していると考えているのかね?」
「そうだ。そしてアールフォー殿は恐らく星の守護者に認定されたのだろうな」
星の守護者。
つまり、胤を守る者としてアールフォーが認められている。星の力を与えられた事で高出力の攻撃が可能となっていると天魔は考えていた。
「それもまだ確証がない話じゃ。じゃが、一考には値するのう」
天魔の説をシオランは否定しなかった。
正確には肯定も否定もできない。あまりに情報が少ないからだ。
胤も人間を恐れている。今も怯えてリトルメックと共にシェルターの奥から顔を出さない。おそらく今会いに行っても門前払いになるだろう。もう少し胤と交流を深め、説の裏付けをする必要がある。
「その為にも、胤をあのクラゲへ渡す訳にはいかんな」
天魔は絶対領域を展開する。
クラゲが胤を使って何をするつもりなのか。
それはまだ分からないが、おそらく天儀にとって良くない話と見るべきだ。
本当に天儀の事を考えるなら、胤を強引に連れて行く必要はない。アールフォー達を説得すればいい。それをしなかった時点で、あのクラゲとは敵対する道しか残されていない。
「この説が正しいかを見極める為にも、センチュリオンに胤を渡さん」
●
「オラオラオラオラ!」
ラファルが上空からSMG-ウルティマによる弾丸の雨を降らせ続ける。
前衛が足を止めれば、必ず後方に影響が出る。進軍を乱せば、それだけ地上の咎人が攻撃する機会を得られる。
途中、休憩を挟みながらもラファルはセンチュリオンを次々と撃破していく。
「やれやれ。それでもまだ諦めずに進軍するのか」
地上ではシェルターの入口に近づいた金路を押し返している。
センチュリオンの数は確実に減っている以上、今はシェルターへの侵入を阻むべきと考えていたからだ。
そして、同じ事を高柳 京四郎(ma0078)も先読みしていた。
「大物狙いと行きたいところだが……今回は中に入れない方が肝要か」
京四郎は、他の咎人と呼吸を合わせる。
金路が打撃を与えたセンチュリオンに極光弾を放つ。
光の波動がセンチュリオンへ直撃。その体は、後方へ倒れ込んで地面へと転がる。
「感謝するぞ、高柳」
「いや、気にしなくてもいい。次が来るぞ」
金路の言葉に京四郎は軽く応える。
こうしている間にもラファルがセンチュリオンを追撃している。
地獄の降下兵らしく、多数の敵を前にしても臆する気配は一切無い。
そんな中、京四郎はふと思い出す。
(そう言えば、天儀に来てからはほぼずっと鏡花水月を使っていたな)
この天儀を訪れ、開拓と戦い続きだった京四郎。
そんな中で自らの戦い方が一貫して同じだった事に気付いた。
だが、別の戦い方ができない訳じゃない。
そう考えたからこそ、京四郎は別の戦い方を試みる。
「言っておくが、俺の花鳥蒼月は素のままでも強い」
「高柳、そちらへ行ったぞ」
金路の言葉に反応して顔を上げる京四郎。
見れば、ラファルから何発も銃弾を受けたセンチュリオンが複数体接近していた。
「逃がすかぁぁぁ!」
逃れようとするセンチュリオンだが、目の前にいる京四郎も逃がす気はなかった。
「身を以ってそれを実感するんだな、有象無象のガラクタ達……!」
京四郎は神剣「天羽々斬」を抜刀。燃え盛る熱きオーラを身に纏いながら、天羽々斬を前方へ突き出した。
そして、回転をしながらセンチュリオン達を迎撃する。
普段ならばステップ斬撃や触手で回避するのだろうが、既にラファルから追われている状況。
センチュリオン達に京四郎の鬼焔斬舞を回避する暇はない。
「……!」
鬼焔斬舞に巻き込まれるセンチュリオン達。
バラバラになった機械の体は地面にバラ撒かれ、砂の上へと落下していく。
その様子を一瞥した京四郎。戦況は間違いなく咎人優勢と言っても良いだろう。
「見事だな、高柳」
「…………」
金路の労いに、京四郎は沈黙を守った。
その異変に金路が気付く。
「どうした?」
「いや……ヨミのあの様子が気になってな」
鬼焔斬舞の回転が終わった時、遠目にヨミらしき姿が飛び込んできた。
その姿で戦う前に交わしていたヨミとアールフォーの会話を思い出していた。
「あれか。あの様な価値観だ。言って直るようなものでもないだろう」
「……ああ」
京四郎はそう返したが、その内心は別の事を考えていた。
ヨミの言葉と、あの様子。
何か――変な事を考えていなければ良いのだが。
その考えが種となり、京四郎の心に不安を広がってしまうのだった。
●
「ヨミちゃん、こないだも一緒に戦ったし、もう友達になるか?!」
「友達?」
鐵夜行(ma0206)の言葉に、ヨミは首を傾げた。
こうしている間にもセンチュリオンを斬り伏せているのだが、鐵夜行が何を言っているのか分からない様子だ。
「え? 友達じゃなかった……いえ、なかったでしょうか?」
慌てて言い直す鐵夜行。
しかし、ヨミの考えはまったく別のものであった。
「友達になって何になるのでしょう?」
「え?」
「友達になれば、強者を教えてくれるのでしょうか? それとも友達になれば斬り合いに応じてくれるのでしょうか? 正直、友達を作る意味が分かりません。強くなれば、勝手に弱き者が従ってくれるでしょう?」
ヨミからすれば、友達を作る意図が分からない様子だ。
共闘すれば良いのかもしれないが、それは単なる協力であり友達とは呼べない。
「殿下。お話は後程。今はあれを退けねばなりません」
二人のやり取りに割って入るマイナ・ミンター(ma0717)。
翼竜「ディアマンテ」に乗って上空から大声で声を掛ける。
ヨミに関する友達の定義は気になるところだが、今はシェルターを襲撃するクラゲを退治しなければならない。
センチュリオンの群れを抜けた一行を待ち受けていたのは、巨大な体を揺らすクラゲの姿であった。
「…………」
登場にもクラゲは沈黙を守っている。
驚く事も怒る事もせず。先行していた遊夜と響が交戦しているが、それに対しても最低限の言葉を発するのみだ。
そんな中、素早く動いたのはマイナだった。
「――月は盈ちたり。マリエル、この戦場に華を咲かせましょう」
「イエス、ユア、マジェスティ。思うままに、お嬢様」
マイナは秘めたる霊力を解放。
その傍らでマリエル(ma0991)がエリアデコードを発動する。
「敵はあのクラゲ……さぞ、良い時間を過ごせそうですね。ふふふふふふ」
微笑みを讃えたヨミは、一足飛びでクラゲへと向かって行く。
それに追随する一行。
「オレが背負うのは必勝の星! 見よや不退転の意思! 破 軍 星!!」
鐵夜行が破軍星でヨミに追随。
その後方からマリエルをディアマンテに乗せたマイナが追い掛ける。
(……早いって、ヨミちゃん)
鐵夜行も追い掛けるが、ヨミはかなり素早い。
既に刀の柄に手を掛けている。
「良いのですか? そのように手を伸ばしていて」
ヨミがクラゲの触手に向かって抜刀。
同時に刃が触手へぶち当たる。
「!」
広がる衝突音。
それに続けとばかりにマイナがディアマンテを触手へ接近させる。
「はっ!」
マイナが業魔麒麟剣を振るう。
再び衝突音が鳴り響く。だが、触手に出来た傷は、瞬く間に修復されてしまった。
「うわっ!」
鐵夜行も鬼鎧「滅龍光破・魂型」に乗って変換霊力硬質爪で攻撃してみたものの、すぐに傷は塞がってしまう。
諦めずに何度か攻撃を繰り返してみたが、しばらくすれば元に戻ってしまう。
「お嬢様」
「単なるセンチュリオンではないと予想していました。この修復を何とかしなければ……」
「ふふふふ。いいですね……いいですね」
恍惚とした表情でヨミはクラゲの触手を見つめていた。
マリエルはヨミの表情に怪しさを感じ、思わず警戒を強めてしまう。
「殿下。何が良いのでしょう?」
「久し振りに斬り甲斐のある存在が現れました。これです。これで無ければなりません。強い方が生き残り、弱い方が死に絶える。それこそがこの世界で唯一の不文律です」
「ヨミちゃん、このクラゲは傷を修復しちゃうみたいだよ? 倒せるの?」
鐵夜行も思わず問いかける。
それに対してヨミは全く臆する様子も無く答えた。
「傷が治る? でしたら、修復が間に合わない程、斬って差し上げれば良いだけです。傷付く以上、修復に力を削いでいるのですから、斬り続ければ勝手に倒れてくれるでしょう」
それは、ヨミが好きなだけ斬り続けられる証。
それだけではない。こうしている間にもクラゲは三人に向けてビームを放射している。
回避しながらクラゲへ何度も攻撃を繰り返さなければならない。
簡単な話でもないのだが、ヨミの顔には歓喜が浮かぶだけであった。
「お嬢様」
「マリエル、殿下の仰る通りです。隙を見てクラゲに最大の攻撃を試みます。支援をお願いします」
「御意」
マイナも覚悟を決めたようだ。
うまく能力を一点に集中できれば良いのだが。
「ヨミちゃんがそういうなら、こっちも頑張るよ! 友達だしね!」
「……だからその友達に意味はあるのでしょうか?」
鐵夜行の言葉に、ヨミは変わぬ返答をするのであった。
●
(胤君を狙ってる……? あのクラゲ、彼の事を知ってるのでしょうか)
白花 琥珀(ma0119)は、クラゲから離れた場所に陣取っていた。
姉と慕う川澄 静(ma0164)とアールフォーの姿もそこにあった。
琥珀が懸念していたのは、突如現れたクラゲが胤の事を既に知っていた事だ。
先日出現したセンチュリオンが先陣であり、情報収集であるならば胤の存在がシェルターにある事を突き止めた可能性もある。だが、わざわざ胤を狙う意味までは分からない。少なくとも何らかの意図を持って胤に接触しようとしているのは間違いない。
「コハ、支援お願いしますね」
「はい、静姉様」
「アールフォーさま、貴方が思う様に動けるように周りの敵を排除いたします。胤くんを守りましょう!」
静は琥珀に挨拶をした後、アールフォーにそう告げた。
二人は胤を守ろうとするアールフォーを後方から支援するつもりでいた。アールフォーが遠距離でクラゲを狙えば、必ずセンチュリオンが妨害してくる。その妨害を可能な限り阻止する事が、課題となる。
「そうか。礼は言っておく」
「胤君を渡さないのは当然として、可能なら会話で情報を引き出しましょう。胤君の体調の手がかりになるかもしれません」
「コハ、お待ちなさい。会話は簡単ではないかもしれません」
琥珀の申し出に対して静が口を挟む。
実はクラゲに対して既に何人かの咎人が問いかけているが、反応が芳しくないようだ。時折返答はするものの、沈黙を貫く事が多いらしい。
「機会を窺うべきです。敵方は油断しております。アールフォーさまが高出力の攻撃を仕掛ける事で、揺さぶりを掛けられるかもしれません」
あのクラゲはアールフォーを旧式と侮っていた。
だが、静はアールフォーの力はクラゲが考えるよりも遙かに上だと考える。もし、クラゲの予想をアールフォーが上回る事ができれば、クラゲは必ず反応する。
「コハ、舞を」
「はい」
琥珀は静に命じられるまま、琥珀石の祝歌舞を舞った。
幸運を引き寄せ、魔を払う琥珀石の祝福。周囲の敵の力を削ぎ、味方の力を高める。アールフォーの攻撃を高める為にも、可能な限り支援を行わなければ。
「アールフォーさま。ここでお力をお使い下さい」
「分かった。胤の為にも」
静が魔王弾でセンチュリオンを撃破する裏で、アールフォーがAOP-M4A1『ラートリー』の準備に入る。
長い銃身はどうしても目立つ。それはクラゲの目にも留まったようだ。
「……それは……試作の銃、か……」
(試作? やはり何かをご存じのようですね)
クラゲの言葉を琥珀は聞き逃さなかった。
予想通り、クラゲは重要な何かを知っている。そして、知っているが故に更にこちらを侮ってくれる。
「……それで、僕を……撃つ? ……その程度では……止められない……」
クラゲが喋り出す。
それはアールフォーのラートリーの威力を知っており、その威力であれば大したダメージにはならないと考えるから。
敵の余裕。それでもアールフォーは心を揺さぶられない。
「なら、受けてみるがいい。胤は決して渡さない!」
撃ち出される鉄塊が電磁の力を受けて飛来する。
強烈なスピードを持った鉄塊は、クラゲの触手に命中。傷を付けるどころか、貫く事に成功。
宙を舞う触手。その威力にクラゲの声に驚嘆が混じる。
「……馬鹿、な……その兵器に……そのような、威力は……なかった……」
貫かれた触手は修復される様子はなかった。
どうやら、一定以上のダメージを与えれば修復は行えないようだ。
だが、それよりもこの状況について静は冷静に分析していた。
(アールフォーさまは旧式のオートマトンでありながら、この強さ……。アールフォーさまにも何か秘密がありそうですね)
●
「いかにも異星からの使者……っぽいですねぇ、クラゲ型」
紅雨(ma1464)は、遠くにいるクラゲを視界に収めながら魔法弾を発射する。
黒翼の魔符で攻撃を仕掛けていたセンチュリオン。魔法弾を触手で受け止めきれず、胴体に突き刺さる。
咎人は防衛戦に注力した為、センチュリオンの減少は早い。クラゲが何らかの命令を下していれば戦況が変わったかもしれないが、ヨミやアールフォーを擁して攻撃を仕掛けている事でその暇もないようだ。
(イスルギ君がセンチュリオンの拠点を潰したって聞いていましたが。あんな大きなクラゲが現れたという事は、敵の拠点は残っているのでしょうね)
突出したセンチュリオンを魔法の鎖で捉える。
先日もかなりのセンチュリオンを撃破した上、イスルギ、ライオウ、無銘がセンチュリオンの拠点を破壊している。
UFOの外見で内部調査も行ったらしいが、その後でこれだけの軍勢がシェルターを襲撃。更に、大型鉄騎のクラゲまで登場したのであれば、別の拠点が存在すると考えるのが自然だ。
「一つだけじゃないとは思ってました。ですが、厄介な相手ですね」
「はい。ただの雑兵にしては明確な敵意を感じますね」
機動装甲服S型で上空から狙撃していた茨木 魅琴(ma0812)。
DMR-カシオペアによるマルチショットで先陣を遠距離狙撃。更に位置を変えて超巨大レールガンを用いて、センチュリオンをまとめて射撃を仕掛ける。敵の数が多い事から命中率が多少落ちても何の障害にもならなかった。
むしろ、魅琴が気になったのはセンチュリオンの異様な雰囲気にあった。
「あの触手は確かに奇妙です。それ以上に薄弱な意志の中にあって命令に従おうとするセンチュリオン。異質な空気を感じます」
「それですが、おそらくあのクラゲの存在が大きいと思われます」
「つまり、あのクラゲが指揮官でしょうか?」
紅雨の言葉に魅琴は問いかけた。
センチュリオンの軍勢と咎人が交戦した事は何度かある。その際、センチュリオンは戦術などを用いず、力任せの戦法を取るだけであった。
今回もそれに近い。センチュリオンはシェルターの入口に向けて攻め寄せている。
だが、その動きは単なるロボットというよりも手駒に近い。魅琴はセンチュリオンを攻撃しながら、その動きに違和感を感じていたのだ。
「断言はできません。それに指揮というのも語弊があるかもしれません」
「どういう事でしょう?」
「あくまでも感覚的なお話ですが……言うなれば、盾であり、駒というところでしょうか」
紅雨は以前戦った者の感覚を、敢えて言葉にした。
センチュリオンがただ命令に従うだけならシェルターの入口へ突き進めばいい。
だが、時折クラゲに向かって戻るセンチュリオンがいる。アールフォーを攻撃しているようにも見えるが、あれはクラゲに呼び戻されているようだ。では、クラゲが指揮を執っているのかと言われれば懐疑的だ。動かし方がかなり雑だ。言うなれば、使い潰しても構わない玩具を無理矢理動かしているような感覚だ。
「駒、ですか」
そう言いながら、魅琴は再び宙へ上がる。
そして、超巨大レールガンをクラゲに向けて照準を合わせる。
センチュリオンが減っている以上、後方からでもクラゲを狙って支援をしておく。あのクラゲの隙にすれば、哀れな玩具は次々と現れる事になる。壊れる事を定めとするセンチュリオン。そのような存在、研究者としてどう見るべきなのだろうか。
「!」
魅琴は超巨大レールガンの引き金を絞る。
センチュリオンを貫きながら、クラゲの触手に向かって放たれた弾丸。
触手をも貫き、遠くの地面へ刺さったのが照準越しに見える。
クラゲも別方向からの狙撃に気付いたようだ。
「……小癪な……」
今度は魅琴へ向けてクラゲがビーム攻撃。
収束されていない攻撃ではあるが、多数のビームが魅琴に向けて放たれている。
「一旦地上へ」
紅雨に促される形で魅琴は地上へと降りる。
先程まで魅琴がいた場所に次々とビームが飛んでくる。
(あのクラゲ。ただの鉄騎ではないようです)
紅雨の傍らで、魅琴は次の狙撃チャンスを待っていた。
●
(やはりアールフォーはただのオートマトンではない、か)
シェルターの入口で天魔が考察を続けていた。
クラゲへ放ったラートリーは、クラゲ自身も驚嘆する威力。何かしらの力が隠されている証左とみていた。
一方、センチュリオン自体への考察を行う者もいた。
「変異化対策でデミウルゴス技術を使って魂を鉄機に移したが、変異化は逃れられず、あんな融合みたいな感じになったとか」
透夜(ma0306)は、鬼鎧「滅龍光破・剣型」を走らせてセンチュリオンを別方向へ誘引していた。
センチュリオンは傍目からみれば鉄騎やオートマトンであるが、最大の特徴は触手である。
しかし、透夜が着目したのは変異体の特性も兼ね備えている点だ。デミウルゴスも用いる技術で魂を鉄騎へ移したものの、変異化の影響を逃れられず、あのような状況になったのではないかと考察していたのだ。
「クラゲみたいに記憶と意志を持ったままになったとか……魂の力が足りないなら、別の場所から持ってきているんじゃないか」
透夜はクラゲも同様の状況と考えた。
だが、考えてみれば咎人と会話が成立している。言葉は少ないが、コミュニケーションが出来る以上は変異体とは異なる。
では、何かしらの力を別の場所から持ってきたのだろうか。センチュリオンがクラゲに命じられたような動きをする事も、そうだとするなら納得はできる。
「気になるのは、胤か。胤も同じ様に何かしらの力で補っているが、今は生命維持が精一杯みたいな感じだとか」
透夜はセンチュリオンを誘導し終えたと判断。
踵を返して双頭の蒼き鷹での攻撃を開始する。咎人と別方向から攻撃する事で十字砲火を狙ったのだ。
既にセンチュリオンの数も少なくなっている。透夜が別方向から攻撃を仕掛けても何とか対処はできる。
センチュリオンと同時に気になったのは胤の存在だ。胤だけは天儀においても異質だ。生命が生存するには過酷な天儀で、病弱なれど生存している者。生きられるのはアールフォーやリトルメックのようなオートマトンのような存在だけと考えていた。
では、胤も何か外部から力で補っているのだろうか。だとするなら、何故あそこまで弱っているのだろうか。
(まだ情報が少ないか)
透夜はその場で回転。集まるセンチュリオンを一気に薙ぎ払う。
透夜の推測は全部が外れているとは思っていない。
ただ、判断するにはあまりに情報が不足している。鍵を握るのは、あのクラゲ。そして、胤。
いずれも直接コンタクトを試みて簡単に情報を引き出せるとは思えない。
「今は、この戦いを何とか乗り越えるのが優先か。他の咎人の考えも参考にしたいところだ」
透夜は自らにそう言い聞かせながら、滅龍光破・剣型を走らせる。
駆け抜けると同時にセンチュリオンへ複数の斬撃を叩き込む。
倒すべきセンチュリオンはまだまだ残ってる。透夜は一呼吸置いた後、再びセンチュリオンへ挑むのであった。
●
「皆、無理だけはしないようにね……いつも通り行こう」
「うん、雪斗くんも一緒にいてくれてありがとね! 頼りにしてるよ!」
戦いも大詰めを感じさせる中、鞍馬 雪斗(ma1433)は星空 雪花(ma1479)を気遣っていた。
神導で自らを強化し、仲間と共にシェルターの入口に陣取る。これより後方へ敵を逃がせば、胤へ被害が及ぶ可能性もある。
謂わば、雪斗達が立っているのが最終防衛ラインと言っても過言ではない。
「センチュリオンだったか、明確な敵っても面倒だな……」
「祈願の暁だゾイ。カウント減るからうまく使ってね。イエイ」
navi(ma1483)は、軍用魔導アーマー「BGG」に騎乗。上空から女神アルビオンへ祈る。
最後まで諦めず、誰も倒れる事なく戦い抜けるように。
それはnaviが仲間を想っての願い。
センチュリオンの数は減っているが、油断すれば守るべきモノが守れずに終わる。それだけは避けなければならなかった。
「ナヴィちゃんの想いの光、使わせてもらうね!」
naviの願いを受けた雪花が、ReSTAの引き金を絞る。
ReSTAもまた大切な人を守り、戦い抜く覚悟を決めた証。
ここからセンチュリオンを通さないと決めた以上、雪花は銃口をセンチュリオンへ向け続ける。
(いい加減、攻撃じゃなくて、あたしは歌を届けたいんだけどね……)
雪花は内心、そのような事も考えている。
自らを想煌の星華で強化しながら挑んでいるが、本当に届けたい想いは別の方法だ。
naviが祈りを届けるように、雪花も歌を届けたい。
願う内容は同じでも、手段の違うがもどかしい。
「やれやれ。センチュリオンが意志疎通できない以上、力で倒すしかないのが厄介だな」
CLEARQUEENに乗り、上空からハウリングで仲間を守るリダ・クルツ(ma1076)。
逐次、仲間を後方から支援しているが、戦い続きで疲弊し始めている事に気付いていた。
何か息抜きするべきだと考えるが、敵の猛攻は未だに続いている。フラストレーションに繋がる理由も、敵の意図が見えてこない事に起因いているのかもしれない。
だからこそ、リダは仲間をしっかりと支える覚悟を決める。
「星空さん、届かせてくれ、星の輝き!」
「分かったよ、リダくん!」
リダはⅡによるマルチショット。
複数のセンチュリオンに霊力が込められた符束が衝突する。
それに合わせて雪花が放ったReSTAの攻撃が突き刺さる。
連続での攻撃を受け、狙われたセンチュリオンが次々と地面へ倒れ込んでいく。
(そうだ………いつかここでも歌えるように、ね)
雪斗は、雪花へそっとシールドアップを付与する。
雪斗も雪花の想いを知っている。だが、それは敢えて口には出さない。
言えば、雪花は頑張ってしまう。天儀を来訪し、開拓者ギルトを設立して石の氏族を歌で励ましてきた。
その裏ではセンチュリオンと戦闘。今もこれだけ頑張っている。目標があれば目指すのは当然かもしれないが、全力で常に走り続けられる程、強くはなれない。
だから、雪斗は口に出さず、雪花を支える事にした。
「雪斗くん、ありがとう!」
シールドアップの感謝を述べながら、雪花はキラキラと煌めく満天の星空を作り出す。
この戦いは、敵を倒すだけじゃない。如何にこの防衛ラインを維持するか。
雪斗やnavi、リダが仲間を支援し続けるのも、防衛ラインを維持する為だ。
同時に雪花も仲間を気遣っていた。傷付く仲間を雪斗がヒールしているが、人海戦術で押し切られる恐れもまだ残っている。
雪花はその状況を受け、仲間の回復を一気に図る。
(雪花さん、また……)
雪斗は、雪花がまた頑張っている事に気付いた。
誰よりも精一杯身を削って努力してしまう。そんな雪花だからこそ、雪斗は支えたくなってしまうのだ。
「ここまでされたら、もうちょっと体を張らないとな。センチュリオンがあのクラゲの子分で、胤を奪うってんなら!」
「ロックオンしたゾ。ミサイル発射、着弾今!」
リダとnaviも仲間達の為に奮戦する。
もう少し。防衛ラインを維持すれば、この戦いの終焉も見えてくる――。
●
「いきなり襲ってくるような無礼者の求めに応じる気はないよ」
シアン(ma0076)は、クラゲの触手に向けてアイシクルエッジを放つ。
触手を氷の結晶が傷付けると、傷は早くも修復を開始する。
それでも構わずシアンは前に出て白桜剣「セレジェイラ」の一撃を加える。斬られた触手が地面へ転がり、のた打ち回っている。
「……僕の……邪魔、するな」
(人語が話せるなら、こいつにも魂がある? 古代人かな)
戦いの中でもシアンは冷静だった。
触手を収束させたサウザンドウェーブを撃たせないよう、ひたすら自己強化しながら攻撃を継続。その間にクラゲの反応を見続けていた。クラゲは明確に意志がある。それだけではなく、こちらの言葉にしっかり反応する。沈黙が長い事から知能が低いのかとも考えたが、これは口数が少ないだけと判断した。
「……いい加減……失せろ……」
クラゲは複数の触手からビームを拡散される。
狙いを絞るのではなく、四方へ撒き散らす事で咎人側の行動を阻害するつもりのようだ。
「詳しいことは分からんが 攻撃をやめろ! ビームを撃つなぁぁ」
スポットワープで転移した躑躅(ma0256)が、至近距離から双頭の蒼き鷹で斬りつける。
触手は攻撃すれば修復するが、無限に修復する訳ではない。体力が高い相手と考え、何度も斬り続ければいい。
躑躅も徹底して攻撃を続けていた。シェルターから注意を逸らす意味でも、クラゲと対峙する。その甲斐もあってセンチュリオンの数は仲間によって殲滅する手前まできていた。
「……小癪な……」
触手に張り付く躑躅を振り払うように触手を暴れさせるクラゲ。
触手が地面へ叩き付けられる度に、地面は小刻みに揺れる。
躑躅も危険を感じたのか、少し距離を置いた。
「効いているって考えていいのかな」
「それで正解だよ」
躑躅に答えるように鮮花閃光でその身を光に変えるシアン。
別の触手を狙って何度も斬撃を叩き込む。
ビームと触手が襲ってくる状況だが、狙う触手を変える事でクラゲの思考を混乱させる。シェルターの防御に戦力を回した事から、このクラゲを撃破するのは困難だ。だが、クラゲを撃退する事は十分に可能だ。
(クラゲはシオランさんと胤君を知っているけど、シオランさんは胤君を知らない様子だよね……? どういうことだろう)
「……おのれ、シオラン……かような者を……」
「!」
シアンがシオランの事を考えていると同時に、クラゲがシオランの名を口にした。
やはり、クラゲはシオランは間違いなく知っている。
「知ってるの?」
「…………」
躑躅は敢えてクラゲへシオランを知っているか問いかけた。
クラゲは、ここで沈黙。交流する気が無い? 否、どちらかと言えば答える事で情報を引き出されるのを嫌った気配がある。
決して頭が悪い存在ではないようだ。
だが、ここで咎人側も想定外の動きが起こる。
「シオランさん!」
シアンの後方からシオランが姿を見せたのだ。
躑躅は反射的にシオランを守るように傍らまで走り寄る。
「危ないよ」
「すまんのう。どうしてもワシの名を知っていたのが気になってな」
(……? シオランさんもクラゲを知らない?)
シオランの言葉からシアンは首を傾げる。
この言い回しはシオランがクラゲを知らないような言い方だ。
では、一方的にクラゲがシオランを知っているというのか。
「……シオラン……」
「悪いが、ワシはおぬしの事を知らん。思い返してみるが、クラゲの機械は記憶にない。おぬしは何者なんじゃ?」
シオランの言葉。
それはクラゲにどのように伝わったのか。
シアンにも躑躅にも分からない。
しばしの沈黙の後、クラゲは宙へ浮き上がった。
「……我は……我らは……アーク」
「何!? アークじゃと!」
息を飲むシオラン。
その間にクラゲは踵を返すと後方のエンジンを点火して上空へと向かって飛び去っていく。
そこに残されたのは、大量のセンチュリオンの残骸。そして、風に舞う砂埃だけであった。
(執筆:近藤豊)




