狩那
ここの妖怪には向いているということですが……。
???
おや、まあ。これはまた切りがいのありそうな。
狩那
ああ、なるほど。それなら私がというのも納得です。
髪切り
その様子だと話は通っているのかな。私の望みは
狩那
「その髪を切らせろ」、ですよね。
この格好からなら、たくさん切れますよね。
髪切り
まあそうなのだが。しかし望んでおいてなんだが、いいのかね?
狩那
ええ。別に拘ってこうしているわけではないので。
髪切り
……まあ、確かにそのようでもあるね。
彼女は、別の者に髪を切られるという経験も体験済みなので、事実、特に抵抗があるわけでも無かった。
狩那
それに咎人ですから。帰還すれば再生可能です。
髪切り
なるほど。では存分にやらせていただこう。
何とも奇妙な空間だった。今映る景色はどうなっているかというと「夜の街道」である。そこにぽつんと現れた椅子に腰かけて、髪を切られるというのだ。
狩那
夜中に道を歩いている人が、髪を切られるという怪異、でしたか。
狩那
暗いですけど、大丈夫なんですか?
髪切り
私の目なら何も問題ないね。
狩那
なるほど、そうですよね。
狩那
綺麗にしますか? それとも好きに行きますか?
髪切り
この状態だと整えてみたくなるねえ。
と言ってもまだまだ長いうちは、中々にバッサバッサと豪快に切られている。
狩那
以前にもこうやって誰かしらの髪を?
髪切り
こうやって、というのが、今のように座ってじっくりと、
というなら中々ないね。
髪切り
元来は私は、夜道に、気付かれぬ間に元結からスッ……とね。
狩那
ほほう。それもやってみます?
髪切り
ふむ、見てみたいというなら、どおれ。
狩那
……。
狩那
……?
髪切り
結び髪なら、もう切り落としたよ。
狩那
──見事なものですね。確かに、全く気づきませんでした。
指摘されるまで切られたことに気付かない。伝承にたがわぬ能力だ。
そうして髪の長さがセミロング程になってくると、鋏の動きもより、毛先を梳いていくような慎重なものに変わっていく。
髪切り
もっと短くしてしまうかね? それも似合いそうだ。
狩那
こちらも無理を頼む身ですからお好きにどうぞ。
あ、結構切るのは久々かもです。
髪切り
初めてというわけではないわけか。
それでは切らせてもらおうかな。
この体験を、髪切りという怪異の事を、活動弁士としてならどう語ろうか。
動かずされるがままになる間、彼女はそんなことを考えて過ごす。
髪切り
如何かね?
狩那
随分と、すっきりと切ってくださるんですね。
後ろ髪を結構短くされ、結果的にそう落ち着いた感じだ。
髪切り
何、私も女性の髪をただ滅茶苦茶にしたいわけでもないのさ。
窮屈そうにしている方を見るとつい、ね。
髪切り
最近はモダンに憧れながらも踏んぎれない人も多く、
ついお節介も増やしたくなるのだが。
髪切り
……しかし、今は目立つと危険だと言うしねえ。
狩那
成程。手出ししたい機会は多い、けど同時に自重を求められてフラストレーションがたまってた感じですか。
髪切り
心ゆくまで髪を切らせてもらって満足したよ。
こちらも約束は守ろう。
狩那
ありがとうございます。