水面うつ茅花流しの旅路かな
ことね桃
Twitter
シナリオ形態
イベント
難易度
Easy
判定方法
カジュアル
参加制限
総合600以上
オプション
参加料金
50SC
参加人数
10人~24人
優先抽選
30SC
報酬
80 EXP
2000 GOLD
4 FAVOR
相談期間
3日
抽選締切
2021/06/24 10:30
プレイング締切
2021/06/27 10:30
リプレイ完成予定
2021/07/13
関連シナリオ
-
  1. オープニング
  2. -
  3. -
  4. 結果
  5. リプレイ


「休暇をとるなら長閑なところでと思っていましたが、まさかこんなにいい時間を過ごせるなんて……ラッキーなのですっ」
 湖畔でタープやテントを設置し、万端の状態で釣りを堪能していた相澤 椛(ma0277)は魚でいっぱいになったバケツを持ち上げると……ふと、天地がひっくり返った。
「きゃんっ!」
 雨の日ならではの泥濘、ツイていない。魚が湖へ戻る姿を見送る椛へフリーデリーケこと、フリーデが手を伸ばした。
「大丈夫か?」
「あ、あはは……またドジっちゃいました。でも大丈夫! さっき釣ったお魚でお料理してるんです。皆さんにご馳走したくて……」
 少女らしく可憐な笑みを浮かべ、両の拳をぎゅっと握る椛。その様にフリーデは安堵した。
 たしかにタープの下に備えた鍋から湯気が立ち昇っている。
「そうか、椛は優しい娘なのだな。きっと皆も喜ぶだろう」
 今日が椛と皆にとって良き日になるように。そう言ってフリーデは去っていく。
 ――だが、彼女は知らない。椛が真心こめて創った手料理が何なのかを。
 それは光を返さぬ暗黒物質。かつて新鮮だった魚と野菜は椛の『ドジっ娘』という謎の力により奇妙な進化を遂げていた。
 さて、今日の犠牲者は誰になるのだろうか……?




「雨の風情は心地好い。雨やみの夕空も見られたら良いのう」
 藍紗(ma0229)は和傘を手に白いうなじを傾けると、ゆらゆら揺れる水面に目を細めた。
 湖にはこの島の先住者たる魚達の姿が見える――雨天の中、鈍くながらも輝く鱗に彼女は「ふふ」と笑みを浮かべた。
 そのような義姉のたおやかさに紅緒(ma0215)が羨望のまなざしを向ける。
「あたしも藍紗みたいにしっとりと振る舞えたらいいんだけどね。……難しい。あ、銀火は水に落ちないでね? あたしも気を付けるけど」
 ふと紅緒は湖に手を伸ばす銀火(ma0736)に気づくや、彼女のもとへ駆け寄り――小さく悲鳴を上げた。泥に踵を滑らせたのだ。
 その刹那、銀火が紅緒へ片目を瞑る。
「紅緒よう、水ん中あ落っこちんじゃねえぞう? 助けるけどよう?」
「……わかった。あ、ありがと」
 紅緒は少しばかり跳ねっかえりの気質があるのか、頬を紅潮させて顔を背けた。その娘らしさが愛らしく、藍紗は口元へ手を当ててころころと笑う。
「紅緒も銀火も、燥いで水に落ちぬ様にの。……銀火は構わぬが」
「む、ワタシは構わんのかぁ? ま、こんぐれえの雨なら気にならねえ。山ん中で暮らしてたからよう、懐かしい感じだあ」
 銀火はそう言いながらちゃぽちゃぽと指先で湖面を掻いた。その様に――白い子犬の姿をした幼子が、歩み寄る。
「おねえさん、なにしてるの?」
「ん……あんたはたしか、すてらっちう娘っこか。めんこい毛玉みてえな娘っこだなあ? ワタシは銀火だあ。雨ん日は魚が不用心になるからよう、獲りやすくなるんだぞう」
「おさかな!? ぎんかはおさかなさんとれるの!?」
「一応はなぁ。……獲ったら藍紗に怒られっからやめとくけどもよう」
 ちら、と藍紗に視線を送る銀火。すると藍紗は紅緒を連れて、しなやかに腰を落とした。
「すてらは愛らしいのう、綿毛が如くじゃ。藍紗じゃ、良しなにの。……そしてこちらは紅緒。私の義妹にあたる娘じゃ」
「初めまして、紅緒よ。よろしくね。今日は雨の雰囲気もいいけど、虹が見られたらいいなって思って来たの。ねぇ、虹を見たら、その日が特別になったっていう気がしない?」
 快活な紅緒と淑やかな藍紗は好対照な義姉妹だ。
 けれどふたり……そして銀火の面持ちは揃って優しく、ステラがたまらず笑みを浮かべる。
「わぁ、おねえさんたちやさしいのね! すてらもね、にじがみられたらいいなっておもってたの! おうたでみんなのこころにもにじをかけられたらって!」
 なんという無邪気さか。
 紅緒が目を輝かせて「抱っこしていい?」と尋ねると、ステラは快諾し、紅緒の腕の中でちんまりと収まった。
「すてらって歌を歌う茶屋娘みたいな子なのよね? 普段どうしてるの?」
 紅緒がこう尋ねれば、普段の働きぶりを楽しげに伝えるステラ。
 そこで藍紗は「なるほど、歌うたいか。それならば些かばかり力になれよう」と呟くと、唄を吟じた。
 ――雨やみに 虹の浮橋 翔け越えて 居ゆけや星よ 果てにかがやけ。
「あいしゃ、きれいなこえなの。それに、すてきなし……」
「すてらの願いが叶うようにという思いを篭めた歌じゃ。『星よ』は『ステラ』としてもよいかの。もし虹が見えぬならば『雨やみに虹の浮橋翔け越えて』を、『雨そそぐ天の叢雲打ち別けて』かの」
 つらつらと典雅な言葉を綴ってはステラに意味を教える藍紗。ステラは何度も頷き、覚えた言葉を何度も繰り返した。
「すてらが様々な事を乗り越え、歌姫として輝くという歌じゃ。空の星とすてら、果ては空の果て、夢の果て、二つの意を篭めた。よい歌の物種は見付かった日には……いずれ、聴かせておくれ」
 願いは確かにこの胸に。ステラは紅緒の腕の中で大きく頷くと、3人の温かな真心に深く感謝した。




 トイ・ルーマン(ma0629)は見事な枝張の樹の根元に辿り着くとレジャーシートで即席の雨除けを作り、携行食を頬張った。
 そこで遠巻きに自分を見つめる獣達を眺めながら――トイはほっと息を吐く。
(……わしが咎人に転生してからというもの、気の合う人らにも沢山会えたし、力もついた気する。戦は望むところやから苦では無い。……やが、最近少し疲れた……)
 彼は物怖じせずまっすぐに生きてきた。それでも重なり続ける戦は心に疲労に溜め込んでいる。
 だからトイは無人の地でゆるりと体をくつろがせ、深く呼吸を繰り返す。心の泥を吐き出すように……。
「な、お前ら……食べかけで悪いがメシ食うか? わしはもう、要らんねん。ほれ、好きに持っていき」
 彼は何ともなしに、手元に残った携行食を千切っては投げる。すると獣達は屈託なくついばみ始めた。
 普段なら獲物となるはずの彼らが今日は不思議と可愛らしく見える。
「わしもまだまだや……。眠い……。お前ら、後で起こし……」
 瞼が重くなる一方だというのに、体の力が抜けて……樹の幹にとさ、と身を預ける。どこか懐かしさを覚える背中の――ぬくもり。
 雨音と自然の息遣いの中でトイは安らぎに包まれ、目を閉じた。




 極楽 鳥花(ma0455)は西の山に踏み入ると、深緑の匂いに目を細めた。
(山歩きは……不思議と慣れておる気がする。足取りも危うげなく、花の色や香りも好ましい。我輩は生前、山と人里を行き来しておったのかの……おや、あれは)
 その時、鳥花の前でステラが元気よく走り回っていた。どうやら虫を追っているようだ。
「ステラ、あまり走ると危ないぞ。ぬかるんでおるし。走りたくなる気持ちはわかるがの、今は穏やかにこの景色を楽しもうぞ」
「わぁ! ちょうかにあえて、すてらとてもうれしいの。いっぱいおしゃべりしましょ!」
 そこで鳥花は荷物から紅茶とレモンの蜂蜜漬けを出すと、即席の茶会に興じた。
 ステラは無邪気に鳥花の膝に座り、レモンを頬張りながら鳥花のカップに紅茶を注ぐ。
「ちょうか、きょうはたくさんあそんでくれてありがと!」
「ああ、これぐらいならいつでも……と、とと友達……じゃし? い……いや、何でも。ぼっちには刺激の強い言葉なんじゃ」
「むー、ちょうかはすてらのおともだち。もう、おひとりさまじゃないのよ!」
「……左様か。それでは近々、また店に寄らせてもらうとするかの。友達ならば頼ってもらうのも楽しみのひとつじゃしな」
 ――思えば再会した瞬間に空虚感などとうに消えていた。これがきっと『友達』というものなのだろう。



 ヤナギ・エイヴァリー(ma0816)は見知った顔の咎人に会うなり、赤い髪の奥で揺れる金の瞳をそっと伏せた。
「……アンタは此処に、いや、雨に、何を感じる? 俺……は、分からない。忘れられないのに思い出せないンだ」
 その問いに相手は少し困ったように微笑む。それに気づいたヤナギは自嘲的に笑い、濡れそぼった前髪を掻き上げた。
「嗚呼……忘れてた。此処は何処もずっと雨なンだっけか……。俺は雨に苦手意識を持ってる……理由はわかンねえけどな。ただ。何処に行っても雨は俺達に付き纏うってワケだ……。煙草、良いか?」
 手にはすっかり馴染んだ紙煙草。相手が頷くと、彼はオイルライターで火を灯した。
「なぁ……雨の日の煙草の煙は青く見えるンだゼ……?」
 その顏には苦みの伴う笑み。いや、不器用な哀切が先んじていたかもしれない。
 それでも――目の前に佇む咎人はヤナギへ傘を差し出す。その瞳には静謐な優しさがあった。雨は体を冷やしてしまうから、と。
 そんな目の前の麗しい咎人にヤナギが抱くものは苦くて辛くて、甘い感情。それはまるで、自分の内面を満たす柔らかな紫煙……。
 ヤナギは『彼女』の傘のもと、ふくよかな香りを吐き出す。湿気で立ち上る煙はたしかに青く――ゆっくりと空へ消えていった。




 フリーデが散策に興じていた頃、アルマ(ma0638)子犬のように元気に駆け寄ってきた。
「わぅっ。フリーデさん! おひとりです? ……なんだかさむそーです?」
「そうだな、初夏の流刑街に比べると些かな」
「それでは、かさをおだしするです。でも、ぼくにはだいぶおーきすぎるです?」
 アルマは身長50センチの精霊種。そんな彼の帽子から人間種用の雨傘が魔法のように出てくるとなれば、フリーデは驚くばかり。
「……か、感謝する」
「わふふ、おやくにたててうれしーですっ。あ、それとですねっ! ぷるぷるするより、ぼくをだっこするとあったかいですよー?」
「それなら傘は私が持とう。お前とならば互いに濡れることもあるまい」
「わふふふ、ぼく、フリーデさんすきです! やさしーですっ!」
「……それにしても何故お前は私にここまで親切にしてくれるのだ?」
「それはですね、わふふ……」
 アルマはいたずらっ子のように無邪気に微笑む。
 ――と、その時。野鳥が大木から急に飛び立った。アルマが無意識に身を竦める。
「どうした?」
「わふっ! おっきなとりさんだと、つれていかれてしまうです。ぼく、むかし……っ」
 震えるアルマに気づいたフリーデは彼をすぐさま包み込むように抱えた。「お前は私が守ってやる」と、温かな声で呟きながら。




「そういえば、もう雨の多寡に、気を揉まなくていいのですよね」
 林道をゆくマイナ・ミンター(ma0717)はふと、傘の外へ手を伸ばすと手のひらを叩く小さな雨粒に目を細めた。
 そんな主へ側付のマリエル(ma0991)がほう、と感慨深げに息を吐いた。
「お嬢様は常に領地の事を考えていらっしゃったのですね」
「農作物の豊凶ももちろんですが、私の父の領地は山合いでしたから。長雨が続けば、災害もありましたから。雨は重大事だったのです」
 マイナは生前、貴族の娘として領土と民を豊かにするべく学びの日々を送っていた。そのため食用の植物に造詣が深く、今もハーブやキノコを熱心に観察・採取している。
 一方、マリエルは主へ雨傘を差しかけながら、植物を採取用のバスケットへ丁寧に詰め込んでいった。
 主が集めたものは一本の草であろうとも丁重に扱わねば……それが、従者の心得。
 と、その時。マイナが嬉しそうな顔で振り返った。手には採取したばかりのハーブが握られている。
「マリエル。このハーブの香り、素敵だと思いませんか? もし味が良ければハーブティーに。飲料向きでなければポプリにして香袋にするのは如何かしら」
「素敵なアイデアだと思います。香りはヒトの心を癒す大切な因子ですから。それに、私もその香りを……殊に優しいと感じました」
 するとマイナは淑女らしい気品あふれる顔に少女めいた笑みを浮かべ、マリエルの髪へ開花したハーブを挿した。
 マイナのサーコートの胸にもハーブの花がコサージュのように飾り付けられている。
「ふふ、あなたもそう思ってくれるのなら嬉しいです。お似合いですよ、その香りも無垢な白の花弁も。これで、お揃いです」
「お嬢様……っ、そんな……勿体ないです……」
 マリエルは顔の火照りを感じつつ、慌てて周囲を見回した。――すると丁度雨宿りに見合う洞窟があるではないか。
「お嬢様、雨が強くなって参りましたから、あちらで休憩いたしましょう。昼食にも丁度良い時間ですし」
「ああ、そうですね。それではお茶にしましょう、マリエル。料理の方は期待していますよ」
「はい、お任せを。今日はよいお魚が入りましたのでパイ包みを」
 普段とは少し異なる野趣漂う空間で、いつも通りの穏やかな時間を共に過ごす。
 ……これが今のふたりにとっての温かな、幸せ。




 高柳 京四郎(ma0078)は散策の途中、偶然出会ったステラに声をかけると彼女と共に岩へ腰を下ろした。
「ステラさんはまるで森の精霊さんみたいだな……俺は高柳京四郎、よろしくな。それにしても奇遇だねぇ、俺も流刑街で喫茶店の店主をやってるんだよ」
 流刑街で喫茶店稼業に励むステラにとって、様々な世界を旅する京四郎の話はまるで長編の物語のように心惹かれるもの。
 彼女はすぐに京四郎に打ち解け、満面の笑みで耳を傾ける。
 そんな中、つい彼に甘えたくなったステラが最近の悩みを口にすると……京四郎は敢えてのんびりと返事をした。
「んー……俺の所は仲良い知人が数人手伝ってくれてるなぁ。ステラさんも無理強いしない程度に誰かに頼んでみたらどうかな?」
「たのんでみるの? すてらのおてつだいおねがいしたら、めいわくだって、きらわれないかな……?」
「ステラさんも今までの出逢いでわかっているはずだよ。気の良い咎人は多いし……何より、相手にとっても良い楽しみや気分転換になるかもしれないしね」
 勇気を出して声をかけてみる。
 それもまた仲間づくりに繋がるだろうと京四郎は微笑み、ステラの背を優しく撫でた。
 そんな彼の優しさに……ステラは「ありがとう」と顔を赤らめる。
 尊敬する人がまたひとり増えた……嬉しい、瞬間だった。




 緑色の傘がくるくる回りながら軽快に山を登る。その隣には一回り大きい黒の傘がしゃなり、しゃなりと――。
 緑の傘の持ち主シトロン(ma0285)はレインコートの裾を揺らしながら、隣を歩く七掛 二夜(ma0071)へにっこりと笑った。
「一緒に来てくれてありがとう、二夜お姉ちゃん! 雨の日って、静かで落ち着くよね」
「シトロンちゃんこそ、お誘いありがとう。雨のお出かけ楽しみです。ふむ……。しとしとと、とても気持ちの良い降り方ですよね」
 ふたりは姉妹のように連れ添い、山道で出会う花や動物達に頬を緩ませる。
 そこで二夜は足元で跳ねる水滴さえも慈しむように見つめ、一歩一歩地を踏みしめた。
「山に登るのなんて久しぶりです。若木の匂いも良いものです」
 するとシトロンが嬉しそうに頷く。
「それ、すっごくわかる! ボクも木の匂い、好き。ほっこりして、心を明るくしてくれる気がするもん」
「そう、シトロンちゃんもこの山の空気を好ましいと感じているのですね。……良かった」
 二夜の笑みには安堵の色があった。彼女にとってシトロンは愛らしい、妹のような存在。
 シトロンにとって二夜は優しくも凛とした……姉のような存在。
 互いに共感できるものが多いのならそれはまた、幸せだろうと考えていたのだ。
 だが二夜は射しこむ光を求め、天を仰ぐ。ささやかな願いを込めて。
「ところで雨を見上げる時間も良いですが……夕方は晴れてくれるといいですね。この時期ならまだ日は高いですから、虹が見えるかもしれません」
「虹……いいね! ボク、二夜お姉ちゃんと一緒に見てみたいな。雨上がりまでいっぱいお喋りして、色んな風景を見て……」
 シトロンはどうやら二夜と共にいる時間が一番の楽しみのようだ。
 それが嬉しくて、二夜は鞄から瀟洒な小瓶を取り出す。
「そう言えば、幾つか飴玉を持ってきたのですけど……いかがです?」
「わ、綺麗な飴! 貰っていいの? ありがとう!」
 ころん。シトロンの愛らしい口に檸檬色の飴が運ばれる。
 一方、二夜は器用に包み紙に紐で細工を施すと――緑の傘へそれをぶら下げた。
「あ、てるてる坊主だ。かわいい!」
「山頂に着くまでに晴れますように……ね?」
 小さな小さなてるてる坊主は黒い傘にもぶら下がる。くるくるくる、しゃなりしゃなり……仲良しの傘は揺れながら山道を歩んでいく。




 テオ・デュークロー(ma0639)は最近使い始めたエゲリア製のカメラを手に、雨の島を散策していた。
(カメラ……か。これは上手く使えたら便利そうだ。それに植物とか景色とか……雨の日の蜘蛛の巣って綺麗だよな。上手く映せるかは分からんが動物にも挑戦しよう)
 しかし動物の撮影は思いのほか、難しい。
 一旦休憩しようと腰を下ろしたその時、白い毛玉がテオの前で「てお、きょうはしゃしんかさんなのね!」と笑った。
「よ、ステラ。……最近忙しそうだったな」
「うふふ、ておとみんなのおかげでおきゃくさんがにこにこしてくれるの。ありがとう!」
 大きな目を輝かせてテオの足に抱き着くステラ。そこでテオは以前のように腰を落とすと、彼女に優しく問いかけた。
「ところで前に作ったカート……えっと……ころころの調子はどうだ?」
「すごいのよ! ておのころころ、なんでもばびゅーんってはこんでくれるのよ! すてら、いつもぴかぴかにみがいてる!」
 どうやらテオのサービングカートはステラの良き相棒になったようだ。安堵したテオは深く頷き、提案する。
「そうだ、ステラ、少し一緒に歩かないか? この島で見つけた『素敵』を写真にしよう」
 もちろん答えは元気いっぱいの「うん!」。ふたりは雨音の中、足取り軽く山道を進んでいく……。




「わー、広い湖……気持ちがいいですね。雨の音が心地良いです」
 白花 琥珀(ma0119)はシア・ショコロール(ma0522)とともに湖畔へ到着すると、馬を降りて湖面の傍で腰を下ろした。
 囁くように響き渡る水の音……無数の円環を描く水面に琥珀は手を伸ばし、冷たい水に目を細めた。
「シアさん、誘ってくださってありがとうございます♪ 雨の水面、好きなんですよー……波紋が幾重にもなって綺麗……」
 雨合羽を纏った華奢な背は無垢な少女のようでなんとも愛おしい。
 揃いの雨合羽を纏うシアは、彼女が湖に転ぶことのないよう気遣いながら膝をついた。
「波紋って、いくつも折り重なると綺麗ですよね。戦闘では大嫌いな雨も、平穏な時は癒しになるから不思議です」
「ええ。賑やかな雨音と一緒に揺れる水ってまるで無邪気な子供のようで。……あ、かたつむり。可愛い」
 街の中で傘をさしての散歩とは異なる、ありのままの自然の中を大切な人と共に楽しむ小さな旅。
 けれどその旅路でふいにシアが手綱を引くと、琥珀に僅かに物憂げなまなざしを投げかけた。雨脚が一時、強くなる。
 ふたりは大きな広葉樹の下に身を隠し、二頭の馬をタオルで拭った。
 そこで琥珀の愛馬・楓の毛並みをシアが整えていると……彼の濡れた額を琥珀のハンカチがそっと撫でる。
「琥珀、さん?」
「シアさんの前髪……濡れていましたから。風邪をひかないようにって、思いまして」
 思わず手を伸ばしてしまいました……と頬を染めて恥じらう琥珀にシアは一瞬目を瞬かせるも、ふっと、笑った。
「それではハンカチのお礼に最高のアフタヌーンをご馳走しましょう」
 シアはレジャーシートに琥珀を座らせると、早速ダッチ珈琲を淹れ、手際よくシフォンケーキとワッフルを焼いた。
 そして焼きたての菓子にホイップクリームを添えれば、緑の地が優雅な茶会の場へと変わる。
「さ、濃いめの珈琲と甘いスイーツ。最高の組み合わせをどうぞ」
「わぁ、シアさんの珈琲とスイーツ大好きですよ♪ いただきまーす」
「はい、いただかれまーす」
 ほど良い熱が残る焼き菓子と、口当たりの良いさわやかな珈琲。それを美しい風景の中で大切な人と味わえるなど、なんという贅沢か。
「甘くて美味しいですー♪ 濃い目の珈琲も合いますね。幸せー♪」
 屈託のない『可愛いひと』にシアは少し大人びた笑みを向けつつ、グラスを傾ける。
 今日一番の幸せはやはり琥珀を喜ばせられたこと、これに尽きるだろう。




 ステラが山の中腹まで登ったところで、彼女は不思議なふたり連れを目にした。
 それは鳥……の被り物をした妖精こと梵天(ma0721)と、どこか茫とした表情の久志利(ma0369)。
 ふたりは気ままに雨宿りをしながら空を仰いでいる。
「あーめあーめ ふーれふーれ でも、ニジも見てみたい……」
 ぽややんとした調子で誰に言うでもなく呟く久志利。どうやら彼女は機嫌が良さそうだ。
 ……と、そこで梵天がステラの存在に気づく。小柄な自分の半分にも満たない幼い精霊に梵天は目を瞬かせた。
「おや、わしより小さいものをはじめて見たのじゃ。妹のようなのじゃ。わしは梵天、おぬしの名は?」
「すてら! ぼんてんはとがびとさん? そちらのおねえさんも?」
 この問いかけに久志利はこく、と小さく頷いた。
「……ん。久志利は久志利。今日はぼんてんと宝探しの冒険。知り合いもいるけど、今日はぼんてんと二人で」
「うむ。久志利と共にお宝さがしと虹見物なのじゃ」
 梵天は世話好きらしい。
 今まで久志利が自然から聞き取ったこの島の話や、自身が巨木の上に舞い上がり島の全景を見たものを丁寧に教えてくれた。
 当然ステラは大喜び。
「わぁ、ふたりがそろうとなんでもできちゃうのね。すごいの! ……ところで、おたからってなぁに?」
 すると梵天は僅かに俯き、逡巡する。
「お宝が何かは、わしもよく分からん。じゃが、すごいものじゃ」
 一方、久志利は瞳を僅かに細めてこう答えた。
「お宝さがしをするけど何がお宝かはよく分からない。ただ……何か面白いものが見付かったらいいと、思う。それにしてもステラとぼんてん、ちょっと似てる。姉妹みたい」
 くすくす、と微笑む久志利はこの出会いを愉快なものと捉えたようだ。
「……何にしても……今はニジ、かな。風がさっき話してた。今日は陽の力が強いから晴れるかもって。雨は好きだけど、ニジも見てみたい」
 久志利はそう話しながら過去を振り返る。かつてキレイな橋みたいなものを見た覚えがあるのだ……でも、それは朧気な記憶。
 ふと憂いを帯びた久志利に梵天は「うむ、いずれ答えが見えるじゃろ……特に見晴らしの良い場所に行けばな」と励ましながら、ステラにも小さな手を差し伸べる。
 その時、梵天の手にもっと小さな手が乗せられた。この先にきっと大切な宝物が待っているから!




 ここは西の山の山頂、ほど近く。草薙胡桃(ma0042)は白地に撫子柄が描かれた番傘を手に、虹を題材にした歌を口ずさんだ。
 それは傘を揺らす雨のよう優しく美しく、魅朱(ma0599)の頬に可憐な朱を帯びさせる。
「私……雨の日、好きなの……。しとしと、ぴっちゃん……音が、楽しい……。胡桃の歌も雨の調子にぴったり……好き」
「ありがと。雨音って、まるで歌みたいって思う、の。とても素敵、よね」
 くすっと笑う胡桃。実は彼女の傘は魅朱から借りたもの。魅朱は白地に紫陽花柄の番傘を差しており、胡桃と並んで歩く姿は何とも雅やかだ。
 そんなふたりは木々の合間から見える雲海に気づくと、無意識にため息をついた。
「わ……これが、雲の海……? 龍が吐いた息みたい……。乗れるかな……?」
 コートが濡れるのも構わず、茂みを掻き分け雲海を見下ろす魅朱。
 咄嗟に胡桃は魅朱の華奢な肩を支えながら微笑んだ。
「気を、つけて。浮遊島から落ちると、命の危険があると、いうわ。もっとも……魅朱が落ちてしまったら、必ず、私が助ける、けど。あぁ……どの世界、でも、見事なもの、ね……この雲の海、は」
 雨の日だというのに眼下に広がる雲は純白で、魅朱の言う通り龍の吐息が吹き上げられているように見える。
 もしあの雲を掴むことができるのなら……魅朱は胡桃を羨ましそうに見つめた。
「私も、胡桃のような綺麗な翼があればなぁ……。雲で綿菓子作ったり……虹を搾ってジュースにしたり……」
「魅朱、それはちょっと」
「……出来ないよね……? うん……ちょっと、夢見てた……」
 どうやら魅朱は小腹が空いたようだ。細腰に手を添えつつ、恥じらいながら胡桃をちらりと見る。
「ふふ、それでは雨宿りしながら、ティータイムね。リクエストに応えて、チェリージャムをたっぷり使ったマフィンを持ってきた、わ」
「ありがとう……。嬉しい……。あ、ところで……胡桃は最近、どんな依頼へ行ったの……? 私は友人達と花火、したよ……。花火……はじめてで、ドキドキした……」
「え? 私の最近の依頼? ……お酒を飲む事があった、のだけど。その……スキンシップ魔に、なってしまったみたい……」
「スキン……シップ、魔……? なぁに、それ……?」
「そ、それは……今はそれよりも、マフィン。ふふっ。楽しみにしていて、ね」
 胡桃は言葉を濁しながらも頬を緩ませ、魅朱の手を引いていく。
 これから何を話そうか。
 それに……楽しい時間を過ごすうちに雨が晴れて、魅朱が望む風景を一緒に観られるかもしれない。
 今はそれが楽しみで仕方がなかった。




 吉良川 鳴(ma0910)とその愛妻である吉良川 奏(ma0912)に久方ぶりの再会を果たした。
「お……ステラは、元気にしてた、かな?」
 鳴は挨拶をしながら、岩場を登る妻に手を差し出す。その手に遠慮することなく掴まり、難所を越える奏。そんなふたりの姿にステラが目を細めた。
「うふふ、きょうもなるとかなではなかよしさんね! すてら、ふたりがしあわせだとこころがぽかぽかしてげんきになるのよ!」
「ありがとう。ところでステラちゃん、歌のアイディアは湧いてきそう?」
 登山前にステラから今日の冒険の目的を聞いていた奏は、小さな体を抱き上げながらこう尋ねる。
 するとステラは「あのね……いっぱいありすぎて、おうたにするとすっごくながくなりそうなの」と呟いた。
 どうやら今まで数え切れないほどの『素敵』と出会ったらしい。
 そこで鳴がステラの頭を撫でた。前がしっかりと見えるように、願いを込めて。
「ステラなら、大丈夫。ちょっとしたきっかけで、想いは言葉に変わるもの、だよ? 伝えたいことはいつか、必ず、言葉になる」
「そうそう。音楽を思いっきり楽しもうよ! あ、鳴くん、ステラちゃん、あんなところに生き物がいるよ! それにあんな高い場所に花がいっぱい……綺麗だね!」
 鳴と奏は天真爛漫に振舞い、ステラを励ましながら山を登る。すると――突然視界が開け、ぐるりと山を見回せるポイントに出た。
「ここ、なんだか山全体がステージみたいだね! 晴れたらやまびこ効果で歌が反響して、舞台みたいになるんじゃないかな。ねえ、鳴くん?」
「ん。ここなら良い音響効果が期待できそう、かも。風景を見るなら、もう少し、山を登る必要があるかもしれないけれど。でも音ならここが一番、かな」
 鳴は妻の提案に快く頷くと、タブレットを起動させる。
「いつもの機材がないから、音はシンプル、だけど……」
 音楽アプリに即興のメロディを入力し、披露する鳴。その明るい音色に奏とステラが顔を見合わせ、笑う。
「もし私達の歌で空が晴れたら虹が見えるかも……私、虹を輝きを探していた気がするの。虹のように輝きたいって! ねえ、ステラちゃん。山でみんなで歌を歌ったら楽しいだろうね!」
「虹の輝き、か。それなら、奏がいつか輝けるように俺は応援する、よ。これから歌詞づくりもしてみようか? 3人、一緒で」
 今日も忘れられぬ歌ができそうだ。鳴、奏、ステラは顔を見合わせると深く頷きあった。




 佐藤 桜歌(ma0034)は吉良川夫妻とステラ達が見つけた自然の『舞台』に到着するや、「わぁ☆ ここは最高のステージだねっ☆」と満面の笑みで手を叩いた。
 雨天のもとでも桜歌はお気に入りの学生服風アイドル衣装を着用しており、いつでもライブの準備は万端といったところ。
 ステラ達が最終チェックを行う中で、桜歌は――この島の全てに向けて満面の笑顔で語りかける。
「あたしはアイドルの佐藤桜歌だよっ☆ 今日は雨だけど、あたしの歌と踊りで晴れにしちゃうよっ☆ それで、虹が出たらラッキーだねっ☆ 希望とか夢とかっぽいっ☆」
 山を歩く咎人達が彼女の底抜けに明るい声に思わず顔を上げる。
 桜歌はそこで軽やかにターンすると、爪先でリズムを刻みながら気ままなメロディに言葉を乗せた。
「しとしと雨で静かな時間を過ごすってのも大人っぽくてカッコいいけど、やっぱあたしは明るく楽しく元気よく行きたいねっ☆ 雨のステージでも歌って踊るよっ。アイドル的にねっ☆」
 ――この宣言から始まる、最高のライブ。
 いくつもの声が重なり合えば、いつしか雨は雲の割れ目から降り注ぐ光に吸い込まれるように止んで……虹が現れた。
 久志利がほんわりとした表情で、おもむろに天を指さす。
「ニジがおたからだったね、ぼんてん。どうやって取る?」
 すると梵天は「ふむ……ステラ、虹を掴んでみるかの?」と問うやステラを抱きかかえ、飛んだ。
「わぁ、おそらがちかいよ! ぼんてん!」
「ここならステラの声が虹に乗って皆に届くじゃろう」
 そんなふたりに吉良川夫妻がパフォーマンスの傍ら、手を振ってくれる。皆で一緒にひとつの舞台を作る――幸せ。
 ステラは空の上から「みんな、だいすき!」と笑いかけると、仲間達と共にもうひとつの宝物……大好きな歌を口ずさんだ。

ページ先頭へ

ページ先頭へ