全長2㎞のFBは、幻影のようなものといっても相当な威圧感だ。インソムニアの攻略戦という大型目標への攻撃に慣れたSALFにとってもそれは変わらない。
FB本体はもちろん、大量に展開されるニア・ヴォイドらは脅威だし、何よりこの戦いは『地球の浸食を抑え込むためのもの』である。
友軍もまた大量に投入されているが、拡散するように展開する超多勢の敵を抑え込む為にも戦力を使わねばならず、状況を維持するだけで手いっぱいだ。つまり、やはりFBそのものを破壊する鍵は、咎人が握っていることになる。
「本艦で攻撃部隊を核に送り届ける。各位、補佐と護衛を頼む。皆に歌姫と聖母の加護があらんことを。サンタマリア発進」
そんな中、真っ先にFBへ向かって出発するのは三糸 一久(ma0052)のキャリアー、FS-10『サンタマリア』だ。今回の作戦で彼らについての解説を外すことはできない。
キャリアーは咎人やユニットを複数格納することができる。この戦場には他にもキャリアーが存在するが、このサンタマリアの特徴はより多くの協力者を搭載しているという点にある。もちろん、チーム【ドン・キホーテ】が勢ぞろいしているのはそうだが、そうではない者も乗り込んでいるとなると、やはりこの戦場の中心地はサンタマリアということになるだろう。
サンタマリアの甲板には【ドン・キホーテ】の仲間たちが展開している。もちろん、高速移動する大型の物体の上にしっかり立って戦うのは大変なのだが、これに対しても対策は行っている。効果アイテムやスキルを使い、甲板上の咎人とサンタマリアの位置情報を同期しているのだ。
同期される以上はチョコチョコ動き回る融通は利かないが、不動の岩の上にいるにも等しい状況であり、これならばキャリアー上での高速戦闘にデメリットは生じない。
また、キャリアーは元々移動性能に優れるが、『ターンドリフト』の使用、そのターンドリフトへエリーゼ(ma1080)によるの特殊兵装『補助弾薬壱型』での回復、グリード(ma1015)『グラビティキック』など、素早くFBに接近できる工夫も評価できる。
これらの目論見は一通り上手くいっているが、逆に言うと『上手くいきすぎ』ていた。どういうことかというと、全戦力中、FBへの接近速度がぶっちぎり最速である。あんまりにも早すぎると孤立気味となり、結果として多くのニア・ヴォイドの、そしてFBの攻撃目標として定められてしまうことになる。
上記の理由でFBに速攻で接近することは叶わないが、彼らの評価を下げる理由にはならない。【ドン・キホーテ】だけではなく、多くの仲間を協力者として引き連れている彼らは、敵のド真ん中で包囲されてもそれに対応できる戦闘力を有しているからだ。
これは結果的には強い駒が突出し、敵の注目を引いているという状況であり、決して悪い状態ではない。追従する咎人達はその分動きやすくなるし、敵が密集するなら攻撃も仕掛けやすくなる。第三者が援護しやすい形でもある。
ともあれ、FBとの戦いはこのような状況から開始する運びとなった。
「こんな大舞台で歌えるなんて……! アイドル冥利に尽きるね~! 皆~! あたし達についてきてね! それじゃ一曲目はっじまるよ~!」
星空 雪花(ma1479)はサンタマリアの甲板で歌う。もちろん、ただ歌うだけではない。乗っているキャリアーやその周辺に強化を施すためだ。高い服飾を生かし『星河一天』『絶対領域』などを使用していく。射程は5と短く自由に動き回れる状況ではないため、味方は「強化を浴びに行く」必要があるが、足元にあるサンタマリアは常に対象になる。
「ユナちゃんのライブ、こんな風に見れるとはなあ。嬉しいぞ。そんじゃ張り切って応援ぞ! サイリウムも持ってきた」
「鼓舞と士気の高揚ならこれほどの適任もきっといないしな……」
navi(ma1483)は『エターナリティ』で雪花の周囲を飛び回りながらサイリウムを振る。鞍馬 雪斗(ma1433)はマネージャーとして【死穢】を展開する。キャリアーの甲板など、安全な場所ではないことは言うまでもない。雪花が防御性能を高めているとはいえ、多くの敵が集中すれば危険はある。そこをサポートするのが二人の仕事だ。
「うおおおお! バトルシップとアイドルライブは切っても切れない関係だ!」
「そうなのかい?」
「え! ご存じ……ないのですか?」
FF-03Xに搭乗するグリードは『サンダーストーム』を放つ。広い範囲を攻撃可能で、一気に小型ヴォイドを蹴散らすことに成功した。
「三糸は艦長だ。臨時で俺が機体班の指揮を執る。文句は後で聞く」
あくまでも【ドン・キホーテ】の狙いはFBコアの破壊だ。道中で力を使い果たすことは出来ない。ある程度セーブしながら、邪魔者を排除する必要がある。
「また会えてうれしいが有りますよ。サンタマリア。皆さんの進路はいちごが切り開くが有ります」
そんな中、サンタマリアの艦首に立つのは宇木 いちご(ma0800)のFF-03Xだ。
彼女は明確に道中の敵を倒し、仲間の為に道を切り開くことを目的としている。故にこの時点で全力を使い果たすつもりだ。『エクスレムオーバー』状態で、『ラプチャーレイ』を放つ。
「粛清ろりかみ、もといグロリアス・エクスレム! ビーム!」
ガネットではないので技名を叫ぶ必要はないのだが、威力に関しては十分すぎる。小型のヴォイドなどは一撃で蒸発だ。
「行くぞ。ボリスラフ。仲間を守る。グランドフォールを展開する」
トリガー(ma1381)もまた、仲間の道中を守る人員の一人だ。ボリスラフ・ブレイクにて『グランドフォール』を展開。大幅にダメージの軽減に貢献できる。
こうした防御強化によりサンタマリアはちょっとやそっとの攻撃でダメージを受けることはなかったが、FB本体からの攻撃、『オメガフレイム』は別だ。直撃すれば誰でも大ダメージは免れられない。だが、オメガフレイムは攻撃範囲が広いからこそ、リアクションで対応しやすい攻撃でもある。エリーゼが『ディストーション』でまずは相殺する。
他にも攻撃無効化手段を備えているメンバーはいるが、ディストーションは魔法攻撃限定の無効化だ。直接近接攻撃をされた時などに備えるなら、まずはディストーションからだろう。
再び戦況に立ち返る。
サンタマリアは大型ユニットである。サイズが大きなキャラクターは、小さなキャラクターを移動時に吹き飛ばすことができる。これによりサイズ1程度なら正直無視も可能だ。
しかしこのサイズ1でも複数体が密集していたり、サイズ2と混ざっている、或いはサイズ3で占有スクエアを持つ場合は明確に移動を妨害され始める。また、無視してハネちゃおうにも、そのまま甲板にくっついて残ったりされても邪魔である。やはりニア・ヴォイド対策は必要なのだ。
「それでは露払いといきましょう。私はニア・ヴォイドを撃ち落とします」
アウラ・セラビア(ma0747)は月光に乗り、『ファルコン・スナイプ』でヴォイドを狙う。特殊兵装『プラズマシューター』でサンタマリアに群がる敵を撃ち落としていく。
「いまだに簒奪者とハーベスターの違いがわかりにくいのですが。どちらも倒すべき相手であることは確かでしょうね」
敵の注目が集中しているからこそ、比較的安全に狙撃が可能だ。
「シーカーオープン、ロックオン、ドラゴン1、FOX2」
伊藤 毅(ma0538)はフィーニクスに搭乗し、『プロトディメントレーザー』を放つ。そのままガンズ・レイを掃射しつつ、サンタマリアの甲板に降り立った。
ヴォイドらはただの的ではなく当然攻撃もしてくる。これに対し、一時的にサンタマリアに接近すれば防御スキル等の恩恵を受けることが出来た。
「障害となる大型目標を優先して攻撃する」
自在に変形し再飛行が可能なフィーニクスが再び上空へ舞い上がる。
「あれがFB……あれを倒せばこの戦いも終わる……?」
高機動型ネルガルを飛行させる夕凪 沙良(ma0598)は遠巻きに見えている巨大な敵を見据える。大きすぎて距離感が狂いそうだが、ともあれ、倒すべき目標としては分かりやすすぎるほどだ。
「よし、周りの雑魚を落として味方の道でも作りますか」
ネルガルが二丁のバトルライフルを構える。『スナイプポイント』を発動すると、交互にライフルのトリガーを引いていく。
巨神機が空を飛ぶようになったのはここ最近の話だが、異世界でもその力は健在だ。高い威力で次々に敵を屠っていると、FBから無数の赤い光線が放たれる。
一度上空に舞い上がり、そして雨のように降り注ぐ弾幕。咎人だけではなく友軍全体への攻撃となる、大規模レーザー攻撃だ。スピンするように回避する。幸い、この攻撃の威力はさほどではない。まったく無視できるレベルでもないが、毎回シールドブレイクさせられるような威力でもなさそうだ。尤も、削られるは削られるので、身を守れるのならその方が良い。トリガーのグランドフォールはサンタマリアを守る上で有用だ。
「でけぇ図体だがあれで不完全とはねぇ……おっかねぇもんだ。ま、主役は若ぇのに譲って。わしは小物をやるぜ」
金路(ma1384)はムスビサマHGを召喚。『語彙消失光線』を放ち、直線状のヴォイドを一掃していく。BSも有益だが、地味に射程が長いのも長所である。
「図体がでけぇのは流石に一発じゃ仕留められんか。だが、要は退かしちまえばいいんだろう? まとめて頼むぜ、ムスビの嬢ちゃん」
サンタマリアに真向から接近する大型ヴォイドを『運命の赤い糸』が縛り付ける。ムスビサマが腕を振るうと、その巨体が大きく横にずれこんだ。
「ひっかける小物なら目移りするほどあらぁな」
ここは力を抑えつつ突破するというのが大事だ。単に退かしてしまうというのはいい対応だろう。そんな中、ここに全力を集中する咎人たちもいる。
「【泰山】、ニア・ヴォイド襲撃します。全員、突撃してください」
神島 辰美(ma0053)の号令で攻撃を開始するのは【泰山】の仲間たちだ。
こうした大きな作戦では常連となってきた彼らだが、今回もいい仕事をしている。彼らは自称するとおり決してエース集団ではないが、十分な装備と人数を揃え、エースには出来ない仕事をカバーしてくれている。エースが『エースの仕事に専念できるようにする』というのはとても大事なことだ。もう少し自己評価が高くてもいいと思うが、それはさておき。
「どれだけ数が多くても、倒していくうちに減っていくものです」
飛行ブースターを装着したトルピオンの『ブレイズシューター』は、空中で使う方が範囲の広がりがいい。小型の敵を一掃するのに向いている。
FBからのレーザー照射も、シールドがあるので比較的安定して耐えられるのは巨神機の強みだろう。
「押忍! 東江 武蔵、ヴァナディース・マルデルで推して参る!」
東江 武蔵(ma0410)のヴァナディースが巨神剣で果敢にヴォイドに斬りかかっていく。流川 華月(ma1292)のウェルウォードスもそれに続き、二人は『フォールブレイド』を放つ。
「おまえら全員、地獄行きぃ! ビッグアックスグリングリーン!」
とにかく突っ込んで攻撃するだけだが、近接威力は十分だ。大型のヴォイドにも通用する攻撃が出来ている。
「それにしてもすげえ数だな……これ全部やっちまっていいんだよな?」
「ああ。いかに数が多かろうと、倒していけば減っていくものだ。いくぞ!」
こうした仲間たちの戦いに続き、後方や側面からSALFキャリアー部隊による艦砲射撃が行われる。
前述の通り、敵は突出したサンタマリアに群がっている。友軍も忙しい中ではあるが、援護がしやすいフォーメーションが産まれていたのだ。
「こちらSALF艦隊、旗艦レヴィアタン。諸君らの活躍で敵の布陣に穴が出来た。これよりその穴を広げる為、援護を開始する!」
「伊達に半年準備してたわけじゃねぇからな! お前ら、咎人だけに働かせるなよ! 地球を守るのはSALFの仕事だ!」
エディウス・ベルナーとユーゴ・ノイエンドルフの言う通り、SALFの戦力はかなり頼りになる。複数のキャリアーがサンタマリアと艦隊を組んだほか、レヴィアタンも別ルートからFBに攻撃を仕掛けている。これで敵の攻撃は多少分散されるはずだ。
「左右からSALFが追い込みをかけてくれている。突破口が開けそうだ……魅朱、次はあの辺……一掃できるか?」
「いいよ。あまぎ……あっちのクラゲ、お刺身にしてしまいましょうか……」
魅朱(ma0599)を『キャリー&シュート』で運ぶ唯塚 あまぎ(ma0059)は真向から敵の密集地帯に飛び込んでいく。
「行くぞ……!」
あまぎは『鏡映・多重閃光』を発動。次々に幻影が出現し、広範囲の敵を殲滅していく。そんな中、魅朱は大型の敵へ降下し、『ローズストラングル』を交えた連続攻撃を放つ。妖艶刀「朱鬼」に自らの血を纏わせ、放たれる無数の斬撃。『死への渇望』が巨大なクラゲを肉片に変えた。
「お刺身の出来上がり……」
「……お腹を壊しそうな刺身だな」
二人は高い戦闘力で邪魔な敵を一掃していく。これにより、サンタマリアはニア・ヴォイドの包囲網を突破することに成功した。
多くのニア・ヴォイドが殲滅されその数が減ったことにより、いよいよ一行はFBに接近しようとしていた。近づけば近づくほどその巨大さは圧巻である。
さて、ここからの作戦はコアを破壊しFBを撃破するというものになる。そこで邪魔になるのがFBの腕だ。FBには複数の腕があり、当然それは攻撃だけではなくガードにも使用できる。
不用意に近づいたSALFキャリアーがパンチされてまるでオモチャのようにぶっ飛んでいくのを目撃すれば、迂闊に接近するのが危険であることは誰にでもわかるだろう。それに近づけば近づくほど、レーザーによる弾幕も激しくなってきている。また、ヴォイドの発生源もFBなのだから、新たに発生した敵も襲ってくる。
「まるで地平と戦っている様な気分になりますね。大きい」
氷雨 累(ma0467)はここまで小山内・小鳥(ma0062)のキャリアーFS-10に搭載されてきた。サンタマリアほど目立っていなかったので、ここまでの損傷はほとんどない。
「コアに直行できないのなら、まずは削りから入りましょう。僕たちは邪魔なレーザー砲台を破壊します」
「味方機各機出撃……準備ですー。カタパルトフィールド……射出!」
「絶刀・氷天華、行きます!」
キャリアーの『カタパルトフィールド』で射出された累の絶刀・氷天華。それにフィリア・フラテルニテ(ma0193)の天照・火輪、透夜(ma0306)のガネットが続く。この三機は小鳥のFS-10によってここまで運ばれてきたのだ。
「どこまでお力になれるか分かりませんが、私も尽力致します」
「所詮コピーのハリボテ。オリジナルを封印できたのだからやれるさ」
友軍の配置はコア周辺に偏っている。その分、こちらは手薄だ。回り込むようにして三機はFBの下方から接近していく。
「アクティブ・シールドを展開します!」
あわせ、鎮守礼装『八咫鏡』により味方へのレーザー攻撃を受け止めていくフィリア。累と透夜は『ガネットファング』で複数の砲台をロックオンしていく。
「「行けっ! ガネットファング!」」
重ねたガネットファングが砲台を破壊する。どうやら砲台自体はさほど頑丈ではないらしい。
「敵迎撃部隊が接近中ですー……」
小鳥のFS-10が艦載レーザーキャノンを発射し、ヴォイドを迎撃する。威力はアサルトコアほどではないが、圧倒的な射程によりかなり後方からでも戦闘に参加できる。前衛を狙う敵にも『防衛射撃』でカバー可能だ。
レーザー砲台に攻撃を仕掛ける彼らに対し差し向けられたヴォイドたち。そこへクリムゾンウェストから召喚された飛竜とハンター舞台が駆けつける。小回りの利く機動力を生かし、レーザー砲台の破壊に協力するようだ。しかしそこへ、FBの拳が繰り出される。瞬間、激しい衝撃が広域を吹き飛ばした。
「ただのパンチでこの威力、恐れ入るね」
機体に少なくないダメージだ。一撃で落とされるほどではないが、二、三回直撃すれば怪しい。そして腕はまた次の攻撃を仕掛けようと振り上げられている。
「一時退却……ですー! 危険な機体は……修理しますので戻って来てくださいねー」
「別の方向から再アプローチしましょう」
キャリアーは『艦載修理』が可能だ。機体を収容すると、パンチから逃れるように最大出力でキャリアーを発進させる。
(またあれと戦うことになるとはね……。嫌な因縁だ)
シアン(ma0076)はヴァナディース・マルデルで飛行しながら巨神の横顔を睨む。
「最近は異世界を自分のいいようにしようとする奴らばかりで嫌になってきましたね。せめて自分の世界で完結してろってんですよ」
「最近は理解し難いことばかりだよ」
同じくヴァナディースに搭乗するサヴィーノ・パルヴィス(ma0665)の言葉に頷き、二人はFBに接近する。狙いは守りが厚いコア部分ではなく、その守りを担っている腕部分だ。二機は一気に腕に接近し、その腕を切り刻む。
「捉えた! 一気に畳み掛けましょう!」
二機の威力は十分すぎるが、FBの『盾』でもある腕が一瞬で破壊されることはなかった。振り払うように反撃すると、再び激しい衝撃が走る。それを『アクロバット』でかわし、二機は再び拳に刃を突き立てた。
「十分戦えている……か。本当に抜け殻じみてるね。生前に戦った時はもっと強かった筈だ。よし、さっさとぶっ壊してしまおう」
腕破壊は今となっては作戦を成功させるうえで重要な要素だ。故に他にも腕を狙うものがいる。
「小さくなっているらしいが、普通にデカいな………首はどこだ?」
羽鳴 雪花(ma0345)は一応首を探してみる。あるっちゃあるが、下から見上げると崖のようで、よくわからなかった。
「召喚での戦闘が出来なくとも、やりようはいくらでもある!」
ケセランパサランに乗った雪花は『紫電一閃』を発動。FBの腕に接近し、通常攻撃を放つ。そこから『旋空連牙・累』、『旋空連牙・絶』をチェーンし畳みかけていく。
「こちら【泰山】、暁 大和。微力ながら腕部破壊を支援させてもらう」
暁 大和(ma1428)は『突撃射撃』で身を守りつつ、トルピオンにて腕への攻撃に参加する。同じく秋原 真咲(ma0239)もトルピオンで『ブレイズシューター』を放つ。
「な、なにアレ……封魔界大規模で相手したバエルよりでっか……! でも負けないよ! ボク頑張る!」
二人は【泰山】が支援の為に捻出してくれた人員だ。また、真咲は『ギガナノマシン』も搭載。最も前で戦うシアンとサヴィーノを回復した。
「支援、ありがとうございます」
「どういたしまして! ボクはボクに出来ることを頑張るよ!」
さすがにシアン、サヴィーノほどの破壊力はないが、味方がいるというのは心強いものだ。改めて二人は戦闘に気を入れる。
「空のお散歩がてらと参りましょう。いきますよマリエル、六花さん」
マイナ・ミンター(ma0717)はマリエル(ma0991)と橘・六花(ma0201)を引き連れ腕部破壊に乗り出す。
「イエス、ユア、マジェスティ。思うままに、お嬢様」
「楽しむにはちょっと殺風景だけど、ね。じゃ、少しは見晴らしをよくしてやろうかしら」
腕に集中する攻撃に対し、FBも対応力を集中させてくる。複数の腕が次々に繰り出されると、六花は『逢魔神銀』にて拳を受け止める。マリエルは『並び立つ二輪草』を使用し、攻撃役のを支援する。
「月は盈ちたり。――霊極装「真月」、展開。お覚悟、召されませ」
業魔麒麟剣を構え、『ゲイルダイバー』を発動。邪魔な小型ヴォイドを蹴散らし、一息にFBの腕に一撃を突き立てた。遅れ、霊極装による衝撃が更に腕を切り刻む。これによりFBの腕は破壊に至った。
人数と手間がかかったと言えばそうかもしれないが、このメンバーで十分に安定して『破壊できる』ことはわかった。結論としては、この腕破壊が安定しているということはこの作戦においてとても重要なことだった。敵の守りを削る効果は、単にピンポイントリジェクションフィールドを削る以上の有益さがあったのだ。
レーザー砲台への攻撃と腕部への攻撃、これらが効果を発揮したことにより、ようやくまともにコアに接近する準備が整ってきた。とはいえ、まだ残っている腕による防御やヴォイドによる肉壁が存在している。
「ナイトギアなら空もフィールドも関係ない。一気に削ぎ落とす。その巨体ごと纏めて滅びろ! サンダーストームッ!!」
愛機ディザスターにより強襲を仕掛けるのはフリッツ・レーバ(ma0316)だ。コアに攻撃を通したいが、雑魚を蹴散らし腕を削るに留まった。更に『マジックサークル』を発動し、手数も稼いで敵を減らしていく。
「おーほっほっほっ、御免あそばせ。親愛を込めてアナと呼んでくださいまし」
FBからの返事はないが、アナルデール・ウンディーニ(ma0116)は『ラプチャーレイ』を放つ。間に敵がいようが腕があろうが貫通する光線だ。コアにも1ヒットとなる。
「核に展開されているフィールドは雑に攻撃するだけでは破壊できませんわ。ターゲットを集中し、一斉攻撃をする必要があります」
「そうなのか?」
「そうですわ。まずは一斉攻撃の準備を整えますわよ、オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ」
「ふむ……? わかった! とにかく敵を減らせばいいのだな! 行くぞ!」
いつも我武者羅に突撃する二人だが、アナルデールは意外と冷静に戦況を把握できている。『プロトディメントレーザー』で敵を次々に真っ二つにし、自在に空を舞う。
「お前たちのお陰で射線が通った。あの邪魔な腕は我が受け持とう。タイミングを合わせるのだ!
コアをカバーするように配置されている腕。それに対し、友軍として参戦する赤龍メイルストロムが攻撃を仕掛けるようだ。十分にチャージした、最大出力のドラゴンブレス。その一撃により、コアを守っていた腕が粉砕された。
「目標露出! キマイラ着弾後、トライデント起動。各位衝撃に備えよ」
いよいよサンタマリアがコアに向かって動き出す。これに伴い、周囲で戦っていた機体もサンタマリアに着艦した。
「突撃!」
特殊兵装『キマイラ』が放たれ、続けて特殊兵装『トライデント』が起動する。トライデントによる突撃は邪魔になる敵がいないことが条件となる。それが達成された今、コアまでの突撃は確実なものとなった。船首に搭載されたビーム・ラムがFBのコアに激突し、激しい衝撃が走る。さすがのFBもこれには巨体を揺らした。
「各機発艦。本艦は盾になる。艦首レーザー砲起動。掃射開始」
この突撃は単なる攻撃としての価値よりも、多くの友軍を一気に懐まで運ぶという運搬効果の価値が高い。移動力の高いキャリアーが味方を引き連れて移動する。これで事足りるなら、味方は行動権を消費せず、ロングアクションのカウントなどもすべて揃え、即座に最大攻撃に移ることができる。これは絶大な効果があった。
無論、この攻撃の成功には周辺の敵の掃討や腕、レーザー砲台の破壊があってこそであることは言うまでもない。
「これまた鉄板となっておりますな。絶対心理の時計を発動。皆様、ご武運を。本機は此処までであります。いえ死にませぬが」
『絶対真理の時計』は使うと術者は消える。BOX-D型(ma0284)のセリフはそういう意味であるが、この強化も密集したより多くの仲間に届けることができる。
「状況が良く分からんけど、とりあえず大判振舞いだー!」
【ドン・キホーテ】ではないが、一緒に乗せてもらってきた青柳 翼(ma0224)がネルガルによる『全弾発射』を放つ。当然ながら雑魚ヴォイドがどんどんここに集まってくるので、その処理も兼ねていた。同じく乗せてもらったケイウス(ma0700)もFF-01で出撃する。
「運んでもらってありがとう一久、行ってくるよ!」
特殊兵装『プラズマシューター』でコアを攻撃するのは、ピンポイントリジェクションフィールドの破壊を狙ってのことだ。一斉攻撃で障壁を破壊出来ればより大きなダメージを与えやすくなるだろう。
トリス・マリアンデール(ma0751)のS-01でここまでやってきたチーム【春風】もそれに続く。
「これよりFBコアに向けて突入します! カタパルト発進どうぞ!」
トリスは攻撃的な構成ではないが、『リペアシューター』による支援が可能だ。10体同時に付与できるので、隊員以外の咎人もまとめて一気に回復できる。
夕凪 春花(ma0916)は高機動型ネルガルにて『フォゾンエンハンサー』を加えた『全弾発射』を繰り出す。
「これを破壊すれば終わりなのは分かり易いですね!」
「こんな中身の無いものを持ち出されても困るんですよ。撃ち抜け!」
アルティナ(ma0144)心力突出杭『須佐之男』をコアに叩きつけた。これによりピンポイントリジェクションフィールドの破壊に成功する。
「核の守りが消えた! 今だよ!」
「ブースター出力、飛行戦闘に最適化。出撃します」
同じく乗せてもらってきたゼロワン・フォックス(ma0129)がマックファイターにて『ブリッツ&フリック』を放つ。対甲ナックルでガツンガツンとコアを叩くが、これがなかなか壊れない。
「フィールドが消失しても相当な硬度です」
「それもだけど、上っ、上~!」
ケイウスが指さす頭上、FBの新たな腕が振り下ろされている。ゼロワンは跳躍し、その拳を『クロスカウンター』ではじき返した。
「えーっ、すごい!? ありがとう!」
「恐縮です」
フィールドがなくなってもFBは健在……いや、むしろここから本番ということだろう。追い詰めてはいるが、FBの反撃は激しさを増していく。『オメガフレイム』はFBのコア部から放たれるので、これだけ近づいていると全員直撃必須だ。
「こちらへの必殺技は悪手ですわ。それ、神別れの歌!」
零距離砲撃をマリィ=オネット(ma0016)が『神別れの歌』で防御する。視界全てが光で覆われてあまりにも眩しすぎたが、とにかく無事だ。
「さあ、ご奉仕の時間ですわ! 見ていてください一久様!」
神別れの歌は攻撃の無効化も強力だが、無効化した威力を味方に付与できるという効果もある。対象になったサンタマリアが艦載レーザーキャノンを放つと、FBコアに明確に亀裂が入った。
「FBの核に新世界の創造を張っておいたよー、ここが狙い時だよー」
ALICE(ma0784)の支援を受け、カナタ・ハテナ(ma0325)のダンテが煉獄鎌を振るう。
「前世で見た時よりもかなり弱体化しとる感じじゃな。これならなんとかなりそうじゃの♪」
なんとなく、コアに亀裂が入った時からFBの存在が希薄になったように感じられた。まるで風船に穴が開いたような、全体がしぼんでしまったような感覚だ。続けて『オーラブレイド』を繰り出し、コアを削り取った。
「もう一押しだ。お前ら、仕事をするぞ」
グリードのFF-03Xがインフェルノバレルを連射するのを合図に、ドン・キホーテによる攻撃も加速する。怒涛の猛攻を受けコアの亀裂はどんどん広がっていき、最後には粉々に砕け散った。すると、それを合図にFB全体にノイズが掛ったような、『現実感』が薄まったような感覚が広がっていき、ボロボロと巨体が崩壊を始めた。それに伴い、大量に出現していたヴォイドも、『地球』を侵食する奇妙な風景も、何もかもが幻のように消え去って行った。
「目標の消滅を確認。……我々の勝利だね。さあ皆で家に帰ろう」
一久はそう締めくくると、サンタマリアを旋回させた。
(執筆:ハイブリッドヘブン運営)
FB本体はもちろん、大量に展開されるニア・ヴォイドらは脅威だし、何よりこの戦いは『地球の浸食を抑え込むためのもの』である。
友軍もまた大量に投入されているが、拡散するように展開する超多勢の敵を抑え込む為にも戦力を使わねばならず、状況を維持するだけで手いっぱいだ。つまり、やはりFBそのものを破壊する鍵は、咎人が握っていることになる。
「本艦で攻撃部隊を核に送り届ける。各位、補佐と護衛を頼む。皆に歌姫と聖母の加護があらんことを。サンタマリア発進」
そんな中、真っ先にFBへ向かって出発するのは三糸 一久(ma0052)のキャリアー、FS-10『サンタマリア』だ。今回の作戦で彼らについての解説を外すことはできない。
キャリアーは咎人やユニットを複数格納することができる。この戦場には他にもキャリアーが存在するが、このサンタマリアの特徴はより多くの協力者を搭載しているという点にある。もちろん、チーム【ドン・キホーテ】が勢ぞろいしているのはそうだが、そうではない者も乗り込んでいるとなると、やはりこの戦場の中心地はサンタマリアということになるだろう。
サンタマリアの甲板には【ドン・キホーテ】の仲間たちが展開している。もちろん、高速移動する大型の物体の上にしっかり立って戦うのは大変なのだが、これに対しても対策は行っている。効果アイテムやスキルを使い、甲板上の咎人とサンタマリアの位置情報を同期しているのだ。
同期される以上はチョコチョコ動き回る融通は利かないが、不動の岩の上にいるにも等しい状況であり、これならばキャリアー上での高速戦闘にデメリットは生じない。
また、キャリアーは元々移動性能に優れるが、『ターンドリフト』の使用、そのターンドリフトへエリーゼ(ma1080)によるの特殊兵装『補助弾薬壱型』での回復、グリード(ma1015)『グラビティキック』など、素早くFBに接近できる工夫も評価できる。
これらの目論見は一通り上手くいっているが、逆に言うと『上手くいきすぎ』ていた。どういうことかというと、全戦力中、FBへの接近速度がぶっちぎり最速である。あんまりにも早すぎると孤立気味となり、結果として多くのニア・ヴォイドの、そしてFBの攻撃目標として定められてしまうことになる。
上記の理由でFBに速攻で接近することは叶わないが、彼らの評価を下げる理由にはならない。【ドン・キホーテ】だけではなく、多くの仲間を協力者として引き連れている彼らは、敵のド真ん中で包囲されてもそれに対応できる戦闘力を有しているからだ。
これは結果的には強い駒が突出し、敵の注目を引いているという状況であり、決して悪い状態ではない。追従する咎人達はその分動きやすくなるし、敵が密集するなら攻撃も仕掛けやすくなる。第三者が援護しやすい形でもある。
ともあれ、FBとの戦いはこのような状況から開始する運びとなった。
「こんな大舞台で歌えるなんて……! アイドル冥利に尽きるね~! 皆~! あたし達についてきてね! それじゃ一曲目はっじまるよ~!」
星空 雪花(ma1479)はサンタマリアの甲板で歌う。もちろん、ただ歌うだけではない。乗っているキャリアーやその周辺に強化を施すためだ。高い服飾を生かし『星河一天』『絶対領域』などを使用していく。射程は5と短く自由に動き回れる状況ではないため、味方は「強化を浴びに行く」必要があるが、足元にあるサンタマリアは常に対象になる。
「ユナちゃんのライブ、こんな風に見れるとはなあ。嬉しいぞ。そんじゃ張り切って応援ぞ! サイリウムも持ってきた」
「鼓舞と士気の高揚ならこれほどの適任もきっといないしな……」
navi(ma1483)は『エターナリティ』で雪花の周囲を飛び回りながらサイリウムを振る。鞍馬 雪斗(ma1433)はマネージャーとして【死穢】を展開する。キャリアーの甲板など、安全な場所ではないことは言うまでもない。雪花が防御性能を高めているとはいえ、多くの敵が集中すれば危険はある。そこをサポートするのが二人の仕事だ。
「うおおおお! バトルシップとアイドルライブは切っても切れない関係だ!」
「そうなのかい?」
「え! ご存じ……ないのですか?」
FF-03Xに搭乗するグリードは『サンダーストーム』を放つ。広い範囲を攻撃可能で、一気に小型ヴォイドを蹴散らすことに成功した。
「三糸は艦長だ。臨時で俺が機体班の指揮を執る。文句は後で聞く」
あくまでも【ドン・キホーテ】の狙いはFBコアの破壊だ。道中で力を使い果たすことは出来ない。ある程度セーブしながら、邪魔者を排除する必要がある。
「また会えてうれしいが有りますよ。サンタマリア。皆さんの進路はいちごが切り開くが有ります」
そんな中、サンタマリアの艦首に立つのは宇木 いちご(ma0800)のFF-03Xだ。
彼女は明確に道中の敵を倒し、仲間の為に道を切り開くことを目的としている。故にこの時点で全力を使い果たすつもりだ。『エクスレムオーバー』状態で、『ラプチャーレイ』を放つ。
「粛清ろりかみ、もといグロリアス・エクスレム! ビーム!」
ガネットではないので技名を叫ぶ必要はないのだが、威力に関しては十分すぎる。小型のヴォイドなどは一撃で蒸発だ。
「行くぞ。ボリスラフ。仲間を守る。グランドフォールを展開する」
トリガー(ma1381)もまた、仲間の道中を守る人員の一人だ。ボリスラフ・ブレイクにて『グランドフォール』を展開。大幅にダメージの軽減に貢献できる。
こうした防御強化によりサンタマリアはちょっとやそっとの攻撃でダメージを受けることはなかったが、FB本体からの攻撃、『オメガフレイム』は別だ。直撃すれば誰でも大ダメージは免れられない。だが、オメガフレイムは攻撃範囲が広いからこそ、リアクションで対応しやすい攻撃でもある。エリーゼが『ディストーション』でまずは相殺する。
他にも攻撃無効化手段を備えているメンバーはいるが、ディストーションは魔法攻撃限定の無効化だ。直接近接攻撃をされた時などに備えるなら、まずはディストーションからだろう。
再び戦況に立ち返る。
サンタマリアは大型ユニットである。サイズが大きなキャラクターは、小さなキャラクターを移動時に吹き飛ばすことができる。これによりサイズ1程度なら正直無視も可能だ。
しかしこのサイズ1でも複数体が密集していたり、サイズ2と混ざっている、或いはサイズ3で占有スクエアを持つ場合は明確に移動を妨害され始める。また、無視してハネちゃおうにも、そのまま甲板にくっついて残ったりされても邪魔である。やはりニア・ヴォイド対策は必要なのだ。
「それでは露払いといきましょう。私はニア・ヴォイドを撃ち落とします」
アウラ・セラビア(ma0747)は月光に乗り、『ファルコン・スナイプ』でヴォイドを狙う。特殊兵装『プラズマシューター』でサンタマリアに群がる敵を撃ち落としていく。
「いまだに簒奪者とハーベスターの違いがわかりにくいのですが。どちらも倒すべき相手であることは確かでしょうね」
敵の注目が集中しているからこそ、比較的安全に狙撃が可能だ。
「シーカーオープン、ロックオン、ドラゴン1、FOX2」
伊藤 毅(ma0538)はフィーニクスに搭乗し、『プロトディメントレーザー』を放つ。そのままガンズ・レイを掃射しつつ、サンタマリアの甲板に降り立った。
ヴォイドらはただの的ではなく当然攻撃もしてくる。これに対し、一時的にサンタマリアに接近すれば防御スキル等の恩恵を受けることが出来た。
「障害となる大型目標を優先して攻撃する」
自在に変形し再飛行が可能なフィーニクスが再び上空へ舞い上がる。
「あれがFB……あれを倒せばこの戦いも終わる……?」
高機動型ネルガルを飛行させる夕凪 沙良(ma0598)は遠巻きに見えている巨大な敵を見据える。大きすぎて距離感が狂いそうだが、ともあれ、倒すべき目標としては分かりやすすぎるほどだ。
「よし、周りの雑魚を落として味方の道でも作りますか」
ネルガルが二丁のバトルライフルを構える。『スナイプポイント』を発動すると、交互にライフルのトリガーを引いていく。
巨神機が空を飛ぶようになったのはここ最近の話だが、異世界でもその力は健在だ。高い威力で次々に敵を屠っていると、FBから無数の赤い光線が放たれる。
一度上空に舞い上がり、そして雨のように降り注ぐ弾幕。咎人だけではなく友軍全体への攻撃となる、大規模レーザー攻撃だ。スピンするように回避する。幸い、この攻撃の威力はさほどではない。まったく無視できるレベルでもないが、毎回シールドブレイクさせられるような威力でもなさそうだ。尤も、削られるは削られるので、身を守れるのならその方が良い。トリガーのグランドフォールはサンタマリアを守る上で有用だ。
「でけぇ図体だがあれで不完全とはねぇ……おっかねぇもんだ。ま、主役は若ぇのに譲って。わしは小物をやるぜ」
金路(ma1384)はムスビサマHGを召喚。『語彙消失光線』を放ち、直線状のヴォイドを一掃していく。BSも有益だが、地味に射程が長いのも長所である。
「図体がでけぇのは流石に一発じゃ仕留められんか。だが、要は退かしちまえばいいんだろう? まとめて頼むぜ、ムスビの嬢ちゃん」
サンタマリアに真向から接近する大型ヴォイドを『運命の赤い糸』が縛り付ける。ムスビサマが腕を振るうと、その巨体が大きく横にずれこんだ。
「ひっかける小物なら目移りするほどあらぁな」
ここは力を抑えつつ突破するというのが大事だ。単に退かしてしまうというのはいい対応だろう。そんな中、ここに全力を集中する咎人たちもいる。
「【泰山】、ニア・ヴォイド襲撃します。全員、突撃してください」
神島 辰美(ma0053)の号令で攻撃を開始するのは【泰山】の仲間たちだ。
こうした大きな作戦では常連となってきた彼らだが、今回もいい仕事をしている。彼らは自称するとおり決してエース集団ではないが、十分な装備と人数を揃え、エースには出来ない仕事をカバーしてくれている。エースが『エースの仕事に専念できるようにする』というのはとても大事なことだ。もう少し自己評価が高くてもいいと思うが、それはさておき。
「どれだけ数が多くても、倒していくうちに減っていくものです」
飛行ブースターを装着したトルピオンの『ブレイズシューター』は、空中で使う方が範囲の広がりがいい。小型の敵を一掃するのに向いている。
FBからのレーザー照射も、シールドがあるので比較的安定して耐えられるのは巨神機の強みだろう。
「押忍! 東江 武蔵、ヴァナディース・マルデルで推して参る!」
東江 武蔵(ma0410)のヴァナディースが巨神剣で果敢にヴォイドに斬りかかっていく。流川 華月(ma1292)のウェルウォードスもそれに続き、二人は『フォールブレイド』を放つ。
「おまえら全員、地獄行きぃ! ビッグアックスグリングリーン!」
とにかく突っ込んで攻撃するだけだが、近接威力は十分だ。大型のヴォイドにも通用する攻撃が出来ている。
「それにしてもすげえ数だな……これ全部やっちまっていいんだよな?」
「ああ。いかに数が多かろうと、倒していけば減っていくものだ。いくぞ!」
こうした仲間たちの戦いに続き、後方や側面からSALFキャリアー部隊による艦砲射撃が行われる。
前述の通り、敵は突出したサンタマリアに群がっている。友軍も忙しい中ではあるが、援護がしやすいフォーメーションが産まれていたのだ。
「こちらSALF艦隊、旗艦レヴィアタン。諸君らの活躍で敵の布陣に穴が出来た。これよりその穴を広げる為、援護を開始する!」
「伊達に半年準備してたわけじゃねぇからな! お前ら、咎人だけに働かせるなよ! 地球を守るのはSALFの仕事だ!」
エディウス・ベルナーとユーゴ・ノイエンドルフの言う通り、SALFの戦力はかなり頼りになる。複数のキャリアーがサンタマリアと艦隊を組んだほか、レヴィアタンも別ルートからFBに攻撃を仕掛けている。これで敵の攻撃は多少分散されるはずだ。
「左右からSALFが追い込みをかけてくれている。突破口が開けそうだ……魅朱、次はあの辺……一掃できるか?」
「いいよ。あまぎ……あっちのクラゲ、お刺身にしてしまいましょうか……」
魅朱(ma0599)を『キャリー&シュート』で運ぶ唯塚 あまぎ(ma0059)は真向から敵の密集地帯に飛び込んでいく。
「行くぞ……!」
あまぎは『鏡映・多重閃光』を発動。次々に幻影が出現し、広範囲の敵を殲滅していく。そんな中、魅朱は大型の敵へ降下し、『ローズストラングル』を交えた連続攻撃を放つ。妖艶刀「朱鬼」に自らの血を纏わせ、放たれる無数の斬撃。『死への渇望』が巨大なクラゲを肉片に変えた。
「お刺身の出来上がり……」
「……お腹を壊しそうな刺身だな」
二人は高い戦闘力で邪魔な敵を一掃していく。これにより、サンタマリアはニア・ヴォイドの包囲網を突破することに成功した。
多くのニア・ヴォイドが殲滅されその数が減ったことにより、いよいよ一行はFBに接近しようとしていた。近づけば近づくほどその巨大さは圧巻である。
さて、ここからの作戦はコアを破壊しFBを撃破するというものになる。そこで邪魔になるのがFBの腕だ。FBには複数の腕があり、当然それは攻撃だけではなくガードにも使用できる。
不用意に近づいたSALFキャリアーがパンチされてまるでオモチャのようにぶっ飛んでいくのを目撃すれば、迂闊に接近するのが危険であることは誰にでもわかるだろう。それに近づけば近づくほど、レーザーによる弾幕も激しくなってきている。また、ヴォイドの発生源もFBなのだから、新たに発生した敵も襲ってくる。
「まるで地平と戦っている様な気分になりますね。大きい」
氷雨 累(ma0467)はここまで小山内・小鳥(ma0062)のキャリアーFS-10に搭載されてきた。サンタマリアほど目立っていなかったので、ここまでの損傷はほとんどない。
「コアに直行できないのなら、まずは削りから入りましょう。僕たちは邪魔なレーザー砲台を破壊します」
「味方機各機出撃……準備ですー。カタパルトフィールド……射出!」
「絶刀・氷天華、行きます!」
キャリアーの『カタパルトフィールド』で射出された累の絶刀・氷天華。それにフィリア・フラテルニテ(ma0193)の天照・火輪、透夜(ma0306)のガネットが続く。この三機は小鳥のFS-10によってここまで運ばれてきたのだ。
「どこまでお力になれるか分かりませんが、私も尽力致します」
「所詮コピーのハリボテ。オリジナルを封印できたのだからやれるさ」
友軍の配置はコア周辺に偏っている。その分、こちらは手薄だ。回り込むようにして三機はFBの下方から接近していく。
「アクティブ・シールドを展開します!」
あわせ、鎮守礼装『八咫鏡』により味方へのレーザー攻撃を受け止めていくフィリア。累と透夜は『ガネットファング』で複数の砲台をロックオンしていく。
「「行けっ! ガネットファング!」」
重ねたガネットファングが砲台を破壊する。どうやら砲台自体はさほど頑丈ではないらしい。
「敵迎撃部隊が接近中ですー……」
小鳥のFS-10が艦載レーザーキャノンを発射し、ヴォイドを迎撃する。威力はアサルトコアほどではないが、圧倒的な射程によりかなり後方からでも戦闘に参加できる。前衛を狙う敵にも『防衛射撃』でカバー可能だ。
レーザー砲台に攻撃を仕掛ける彼らに対し差し向けられたヴォイドたち。そこへクリムゾンウェストから召喚された飛竜とハンター舞台が駆けつける。小回りの利く機動力を生かし、レーザー砲台の破壊に協力するようだ。しかしそこへ、FBの拳が繰り出される。瞬間、激しい衝撃が広域を吹き飛ばした。
「ただのパンチでこの威力、恐れ入るね」
機体に少なくないダメージだ。一撃で落とされるほどではないが、二、三回直撃すれば怪しい。そして腕はまた次の攻撃を仕掛けようと振り上げられている。
「一時退却……ですー! 危険な機体は……修理しますので戻って来てくださいねー」
「別の方向から再アプローチしましょう」
キャリアーは『艦載修理』が可能だ。機体を収容すると、パンチから逃れるように最大出力でキャリアーを発進させる。
(またあれと戦うことになるとはね……。嫌な因縁だ)
シアン(ma0076)はヴァナディース・マルデルで飛行しながら巨神の横顔を睨む。
「最近は異世界を自分のいいようにしようとする奴らばかりで嫌になってきましたね。せめて自分の世界で完結してろってんですよ」
「最近は理解し難いことばかりだよ」
同じくヴァナディースに搭乗するサヴィーノ・パルヴィス(ma0665)の言葉に頷き、二人はFBに接近する。狙いは守りが厚いコア部分ではなく、その守りを担っている腕部分だ。二機は一気に腕に接近し、その腕を切り刻む。
「捉えた! 一気に畳み掛けましょう!」
二機の威力は十分すぎるが、FBの『盾』でもある腕が一瞬で破壊されることはなかった。振り払うように反撃すると、再び激しい衝撃が走る。それを『アクロバット』でかわし、二機は再び拳に刃を突き立てた。
「十分戦えている……か。本当に抜け殻じみてるね。生前に戦った時はもっと強かった筈だ。よし、さっさとぶっ壊してしまおう」
腕破壊は今となっては作戦を成功させるうえで重要な要素だ。故に他にも腕を狙うものがいる。
「小さくなっているらしいが、普通にデカいな………首はどこだ?」
羽鳴 雪花(ma0345)は一応首を探してみる。あるっちゃあるが、下から見上げると崖のようで、よくわからなかった。
「召喚での戦闘が出来なくとも、やりようはいくらでもある!」
ケセランパサランに乗った雪花は『紫電一閃』を発動。FBの腕に接近し、通常攻撃を放つ。そこから『旋空連牙・累』、『旋空連牙・絶』をチェーンし畳みかけていく。
「こちら【泰山】、暁 大和。微力ながら腕部破壊を支援させてもらう」
暁 大和(ma1428)は『突撃射撃』で身を守りつつ、トルピオンにて腕への攻撃に参加する。同じく秋原 真咲(ma0239)もトルピオンで『ブレイズシューター』を放つ。
「な、なにアレ……封魔界大規模で相手したバエルよりでっか……! でも負けないよ! ボク頑張る!」
二人は【泰山】が支援の為に捻出してくれた人員だ。また、真咲は『ギガナノマシン』も搭載。最も前で戦うシアンとサヴィーノを回復した。
「支援、ありがとうございます」
「どういたしまして! ボクはボクに出来ることを頑張るよ!」
さすがにシアン、サヴィーノほどの破壊力はないが、味方がいるというのは心強いものだ。改めて二人は戦闘に気を入れる。
「空のお散歩がてらと参りましょう。いきますよマリエル、六花さん」
マイナ・ミンター(ma0717)はマリエル(ma0991)と橘・六花(ma0201)を引き連れ腕部破壊に乗り出す。
「イエス、ユア、マジェスティ。思うままに、お嬢様」
「楽しむにはちょっと殺風景だけど、ね。じゃ、少しは見晴らしをよくしてやろうかしら」
腕に集中する攻撃に対し、FBも対応力を集中させてくる。複数の腕が次々に繰り出されると、六花は『逢魔神銀』にて拳を受け止める。マリエルは『並び立つ二輪草』を使用し、攻撃役のを支援する。
「月は盈ちたり。――霊極装「真月」、展開。お覚悟、召されませ」
業魔麒麟剣を構え、『ゲイルダイバー』を発動。邪魔な小型ヴォイドを蹴散らし、一息にFBの腕に一撃を突き立てた。遅れ、霊極装による衝撃が更に腕を切り刻む。これによりFBの腕は破壊に至った。
人数と手間がかかったと言えばそうかもしれないが、このメンバーで十分に安定して『破壊できる』ことはわかった。結論としては、この腕破壊が安定しているということはこの作戦においてとても重要なことだった。敵の守りを削る効果は、単にピンポイントリジェクションフィールドを削る以上の有益さがあったのだ。
レーザー砲台への攻撃と腕部への攻撃、これらが効果を発揮したことにより、ようやくまともにコアに接近する準備が整ってきた。とはいえ、まだ残っている腕による防御やヴォイドによる肉壁が存在している。
「ナイトギアなら空もフィールドも関係ない。一気に削ぎ落とす。その巨体ごと纏めて滅びろ! サンダーストームッ!!」
愛機ディザスターにより強襲を仕掛けるのはフリッツ・レーバ(ma0316)だ。コアに攻撃を通したいが、雑魚を蹴散らし腕を削るに留まった。更に『マジックサークル』を発動し、手数も稼いで敵を減らしていく。
「おーほっほっほっ、御免あそばせ。親愛を込めてアナと呼んでくださいまし」
FBからの返事はないが、アナルデール・ウンディーニ(ma0116)は『ラプチャーレイ』を放つ。間に敵がいようが腕があろうが貫通する光線だ。コアにも1ヒットとなる。
「核に展開されているフィールドは雑に攻撃するだけでは破壊できませんわ。ターゲットを集中し、一斉攻撃をする必要があります」
「そうなのか?」
「そうですわ。まずは一斉攻撃の準備を整えますわよ、オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ」
「ふむ……? わかった! とにかく敵を減らせばいいのだな! 行くぞ!」
いつも我武者羅に突撃する二人だが、アナルデールは意外と冷静に戦況を把握できている。『プロトディメントレーザー』で敵を次々に真っ二つにし、自在に空を舞う。
「お前たちのお陰で射線が通った。あの邪魔な腕は我が受け持とう。タイミングを合わせるのだ!
コアをカバーするように配置されている腕。それに対し、友軍として参戦する赤龍メイルストロムが攻撃を仕掛けるようだ。十分にチャージした、最大出力のドラゴンブレス。その一撃により、コアを守っていた腕が粉砕された。
「目標露出! キマイラ着弾後、トライデント起動。各位衝撃に備えよ」
いよいよサンタマリアがコアに向かって動き出す。これに伴い、周囲で戦っていた機体もサンタマリアに着艦した。
「突撃!」
特殊兵装『キマイラ』が放たれ、続けて特殊兵装『トライデント』が起動する。トライデントによる突撃は邪魔になる敵がいないことが条件となる。それが達成された今、コアまでの突撃は確実なものとなった。船首に搭載されたビーム・ラムがFBのコアに激突し、激しい衝撃が走る。さすがのFBもこれには巨体を揺らした。
「各機発艦。本艦は盾になる。艦首レーザー砲起動。掃射開始」
この突撃は単なる攻撃としての価値よりも、多くの友軍を一気に懐まで運ぶという運搬効果の価値が高い。移動力の高いキャリアーが味方を引き連れて移動する。これで事足りるなら、味方は行動権を消費せず、ロングアクションのカウントなどもすべて揃え、即座に最大攻撃に移ることができる。これは絶大な効果があった。
無論、この攻撃の成功には周辺の敵の掃討や腕、レーザー砲台の破壊があってこそであることは言うまでもない。
「これまた鉄板となっておりますな。絶対心理の時計を発動。皆様、ご武運を。本機は此処までであります。いえ死にませぬが」
『絶対真理の時計』は使うと術者は消える。BOX-D型(ma0284)のセリフはそういう意味であるが、この強化も密集したより多くの仲間に届けることができる。
「状況が良く分からんけど、とりあえず大判振舞いだー!」
【ドン・キホーテ】ではないが、一緒に乗せてもらってきた青柳 翼(ma0224)がネルガルによる『全弾発射』を放つ。当然ながら雑魚ヴォイドがどんどんここに集まってくるので、その処理も兼ねていた。同じく乗せてもらったケイウス(ma0700)もFF-01で出撃する。
「運んでもらってありがとう一久、行ってくるよ!」
特殊兵装『プラズマシューター』でコアを攻撃するのは、ピンポイントリジェクションフィールドの破壊を狙ってのことだ。一斉攻撃で障壁を破壊出来ればより大きなダメージを与えやすくなるだろう。
トリス・マリアンデール(ma0751)のS-01でここまでやってきたチーム【春風】もそれに続く。
「これよりFBコアに向けて突入します! カタパルト発進どうぞ!」
トリスは攻撃的な構成ではないが、『リペアシューター』による支援が可能だ。10体同時に付与できるので、隊員以外の咎人もまとめて一気に回復できる。
夕凪 春花(ma0916)は高機動型ネルガルにて『フォゾンエンハンサー』を加えた『全弾発射』を繰り出す。
「これを破壊すれば終わりなのは分かり易いですね!」
「こんな中身の無いものを持ち出されても困るんですよ。撃ち抜け!」
アルティナ(ma0144)心力突出杭『須佐之男』をコアに叩きつけた。これによりピンポイントリジェクションフィールドの破壊に成功する。
「核の守りが消えた! 今だよ!」
「ブースター出力、飛行戦闘に最適化。出撃します」
同じく乗せてもらってきたゼロワン・フォックス(ma0129)がマックファイターにて『ブリッツ&フリック』を放つ。対甲ナックルでガツンガツンとコアを叩くが、これがなかなか壊れない。
「フィールドが消失しても相当な硬度です」
「それもだけど、上っ、上~!」
ケイウスが指さす頭上、FBの新たな腕が振り下ろされている。ゼロワンは跳躍し、その拳を『クロスカウンター』ではじき返した。
「えーっ、すごい!? ありがとう!」
「恐縮です」
フィールドがなくなってもFBは健在……いや、むしろここから本番ということだろう。追い詰めてはいるが、FBの反撃は激しさを増していく。『オメガフレイム』はFBのコア部から放たれるので、これだけ近づいていると全員直撃必須だ。
「こちらへの必殺技は悪手ですわ。それ、神別れの歌!」
零距離砲撃をマリィ=オネット(ma0016)が『神別れの歌』で防御する。視界全てが光で覆われてあまりにも眩しすぎたが、とにかく無事だ。
「さあ、ご奉仕の時間ですわ! 見ていてください一久様!」
神別れの歌は攻撃の無効化も強力だが、無効化した威力を味方に付与できるという効果もある。対象になったサンタマリアが艦載レーザーキャノンを放つと、FBコアに明確に亀裂が入った。
「FBの核に新世界の創造を張っておいたよー、ここが狙い時だよー」
ALICE(ma0784)の支援を受け、カナタ・ハテナ(ma0325)のダンテが煉獄鎌を振るう。
「前世で見た時よりもかなり弱体化しとる感じじゃな。これならなんとかなりそうじゃの♪」
なんとなく、コアに亀裂が入った時からFBの存在が希薄になったように感じられた。まるで風船に穴が開いたような、全体がしぼんでしまったような感覚だ。続けて『オーラブレイド』を繰り出し、コアを削り取った。
「もう一押しだ。お前ら、仕事をするぞ」
グリードのFF-03Xがインフェルノバレルを連射するのを合図に、ドン・キホーテによる攻撃も加速する。怒涛の猛攻を受けコアの亀裂はどんどん広がっていき、最後には粉々に砕け散った。すると、それを合図にFB全体にノイズが掛ったような、『現実感』が薄まったような感覚が広がっていき、ボロボロと巨体が崩壊を始めた。それに伴い、大量に出現していたヴォイドも、『地球』を侵食する奇妙な風景も、何もかもが幻のように消え去って行った。
「目標の消滅を確認。……我々の勝利だね。さあ皆で家に帰ろう」
一久はそう締めくくると、サンタマリアを旋回させた。
(執筆:ハイブリッドヘブン運営)