●撤去作業
依頼に応じた咎人達は、町に到着するとそれぞれの活動を始める。
高柳 京四郎(ma0078)はアサルトコア飛行ブースターを稼働することで『FF-03Q』を宙に飛ばし、町全体を見渡していた。
「瓦礫がかなり散乱しているな……」
機体の中から瓦礫の大まかな位置を確認した京四郎は、作業場所を決めていく。
「俺はこっちの撤去に回ろうか」
京四郎は物資コンテナ近くに『FF-03Q』を着地させると、その周囲にある瓦礫から撤去し始める。
京四郎の操作で『FF-03Q』は大きめの瓦礫を抱えては町南東部にある廃棄場へと移動し、瓦礫を置いていく。
「この位置に瓦礫があると、炊き出し会場へも行きにくいだろうしな」
この他にも京四郎は『FF-03Q』を縦横に動かし、町北西部に設置された炊き出し現場への通路を確保するため、邪魔になる瓦礫をその場より運び出していた。
町の北東部では『ヴァナディース・マルデル』を駆る東江 武蔵(ma0410)が瓦礫の撤去を始めている。
「クエント公国当主の依頼か。成功させねば……」
機体の中で武蔵はそう意気込むと、その操作に従い『ヴァナディース・マルデル』が瓦礫の正面に立つ。
『デカいのは運びやすいよう、瓦礫はある程度壊したいんだが』
ここで武蔵は通信術式を介し、ヒー・リショナー(mz0073)へと確認を取る。
『現存する建物に被害を与えるようなことでなければ問題ない』
やや遅れてヒーより条件付きで瓦礫の破壊を認めるとの回答が届き、武蔵は周辺の状況を確認してから『ヴァナディース・マルデル』の拳で瓦礫を打ち砕く。
『了解だ。その近くで破壊行為が憚られるのであればその一帯では行わない』
通信術式を介し、ヒーに向け承諾の意を返した武蔵は運びやすい大きさとなった瓦礫を廃棄場へと移送していく。
「頑張ってお手伝いするよ!」
シトロン(ma0285)は『ヴァナディース・マルデル』の中で気合を切れる。
シトロンが最優先で片づけたい対象は、町北東部に散乱する瓦礫の群れになる。
その近くには物資コンテナを送り出すための仮置き場があるため、その周囲にある瓦礫を撤去できれば輸送もスムーズに進むだろう。
――後方支援も大事だよね。
そのような方針のもと、シトロンは瓦礫撤去にまい進する。
シトロンの操作に従い、『ヴァナディース・マルデル』は手ごろな大きさの瓦礫を掴み上げた。
「マルデル、発進! いっぱい運ぶよー!」
シトロンの掛け声とともに機体は廃棄場へと走る。
廃棄場に到着したところで抱えていた瓦礫を降ろすと、シトロンは次の瓦礫へと『ヴァナディース・マルデル』を向かわせる。
町の南西方向では、『アルテュール・パラディン』を駆るシアン(ma0076)が瓦礫の撤去作業を行っていた。
「後方支援だって重要な仕事だ」
シアンは依頼の内容説明を聞いた時から、今回の作業が意義のあるものだと考えていた。
「役に立てるように全力を尽くすよ」
シアンは後方支援など地味だが重要な作業が好みのようだ。
「これは片付け甲斐がありそうだ」
シアンは眼前に横たわる瓦礫に向けてフォゾンセイバーを斬り下ろし、断ち割っていく。
「他に働いている人もいるだろうし、運搬はぶつかったり妨げになったりしないように飛行してやろうか」
シアンはジェットドライブを起動し、一時的に機体の移動力と回避性能を高めた状態で、『アルテュール・パラディン』に小さくなった瓦礫を抱えさせると、試作型巨神機飛行ブースターを稼働することで宙に機体を飛ばし、廃棄場へと向かわせる。
この頃には町の北東部に散らばる瓦礫のうち、道路を塞いでいたものについては武蔵やシトロンの『ヴァナディース・マルデル』がある程度撤去を終わらせていた。
『こっちはだいたい片付いたからもう運べるよ!』
シトロンは通信術式を介し、物資を運搬する役を担う仲間達に現状を報告する。
●運搬作業
シトロンからの連絡を受け、咎人達は物資の運搬作業を開始した。
「先日の支援要請を受託して参りました」
ゼロワン・フォックス(ma0129)はFF-02『マックファイター』の召喚が完了したところで、周囲にいる兵士達から物資コンテナの届け先を一通り聞いていた。
そして機体の中へと滑り込んだゼロワンは、動作確認を行う。
「FF-02・マックファイターの起動完了。運搬作業を開始」
問題ないと判断したゼロワンは、機体の中より物資コンテナの数や位置を把握する。
「物資コンテナを確認。出力調整、拾得を行います」
自身の行動を復唱したゼロワンは、機体を操作して物資コンテナの一つを掴み上げる。
「バランサーに影響なし、このまま運搬地点へと移動します」
問題ないと判断したゼロワンは、外部スピーカーを介して周囲の兵士達に作業開始を告げた。
『早速運搬作業に入ります』
そのままゼロワンは物資コンテナを安全に運ぶため、慎重に『マックファイター』を動かす。
「何事も準備や後片付けが一番重要で大変、って感じっすからね」
『フィランギ・オーブ』を駆る白玉 纒(ma0300)は、この場での作業が重要なものだと理解している。
「四足だから馬車馬のよう働く~ってくらいの気持ちで頑張るっす!」
纒の動かす『フィランギ・オーブ』は、センサー部分の保護やユニットの追加の他、機体には橙色のカラーリングが施されているなど、纒の愛機として様々な改修が施されている。
「では……はいよー、フィランギ!」
纒は掛け声とともに物資コンテナを機体に抱えさせ、周囲にいる兵士達と外部スピーカーを介して声をかけ、危険がないよう配慮しながら物資コンテナを必要な場所へと搬送する。
「私は巨神機で補給物資の搬送をお手伝いしますね」
そして川澄 静(ma0164)の駆る『ヴァナディース・マルデル』も、物資コンテナの運搬作業に加わっていた。
通信術式を介し、シトロンから北東側の道がひらかれたことを知った静は、北東に届ける物資コンテナを機体に運ばせる。
「シトロンさまの邪魔にならないように、慎重に運びましょう」
静はフォゾンフロートを起動することで、搭載されたフロートユニットにより『ヴァナディース・マルデル』が浮遊すると、シトロンや他の仲間達が行っている作業を邪魔しないよう心がけ、その隙間を縫うように『ヴァナディース・マルデル』は進んでいく。
このとき静は北東側への搬送作業が難しい場合は、自身も瓦礫撤去作業に加わるつもりでいたが、現状では問題なく撤去作業は進んでいるようだ。
そのまま静は北東側にある仮置き場へとコンテナを置く。
「士気が上がるのなら、少し飛行してアピールするのもよいかな……?」
静は続けてプリズムウォールを起動し、魔法による光の壁を瓦礫と物資コンテナの置かれた道の間に形成すると、次の行動を思案していた。
●炊き出し
そして町の北西部に集まった咎人達も、炊き出しに向けた準備を進めている。
「らみでぇす☆ よろしくおねがいしまぁす♪」
花屋敷・らみ(ma1044)は調理に携わる兵士達1人1人に挨拶していく。
「他の人員は足りてそうだな……。ふむ、なら今回は炊き出しに回るか」
麻生 遊夜(ma0279)は瓦礫撤去や物資搬送を他の仲間に任せ、自身は料理作成に回る。
「……ん、お片付けも楽しそうだけど……食べるのも大事だから、ね」
遊夜に随伴する鈴鳴 響(ma0317)も遊夜を手助けするため、遊夜と共に調理を行うつもりだ。
「やはりカレーだろう、大量に作るなら煮込み料理が一番だからなぁ」
遊夜は使用できる食材とその量からカレーに決めたようだ。
「……ん。豚汁とかでも良いけど……カレーが美味しいし、得意だものね」
響も遊夜の案に賛意を示し、共にカレーの調理を始めた。
「鍋にぶち込むまでが大変だが……ま、腕の見せどころかね?」
「……ん、いっぱい皮剥いて……切らなきゃだもの、ね」
遊夜は不敵な笑みと共に料理スキルをフル活用し、響も遊夜の後に続き、家事スキルを駆使して食材の山と『格闘』し始める。
(牛肉、ジャガイモ、人参、玉ねぎと定番の食材を切って鍋にぶち込んだらコトコト煮込んでアク取りを)
遊夜が料理スキルを駆使して調理しているのは肉やタマネギ、人参、ジャガイモなど多数。
(ユーヤに追従してお肉やジャガイモ、玉ねぎとか切ったり鍋に張り付いて灰汁を丁寧に取ったり)
響も家事スキルを駆使して皮むきや食材を細かくする作業を手掛け、下処理の済んだ食材から鍋に投じていく。
「遊夜さん、響さんと協力してお料理しまぁす♪」
らみは遊夜や響の作業を手伝いながら、カレーとは別の料理を作るつもりでいる。
「ハヤシとカレーで驚くことがあったら楽しいかなって☆」
らみの作る料理と遊夜や響が作る料理は共通する食材が多いので、途中までは調理の過程も似た部分が多い。
「共通の食材をたくさん切っちゃいまぁす!」
らみは料理スキルや家事スキルを駆使して、目の前にある食材をそれぞれの料理に使われる具材へと変えていく。
(花屋敷さんはハヤシを作るらしいが鍋や食材は流用できるから問題なかろう)
遊夜もそうした理由から、らみと共同で作業を行っていた。
途中からは煮込んでいる具材を各料理へと振り分け、遊夜と響、そしてらみはそれぞれ料理の完成を目指す。
遊夜は秘伝のカレーレシピやカレーライスの素も使うことで、カレーの完成度をさらに高められるよう動いていた。
「すまん響、鍋見といてくれ。トッピングを今の内に作っとくからよ」
そして遊夜は響に後を託し、カレーにトッピングするものも並行して作り始める。
「……ん、ボクにお任せ……適度に灰汁を、取るのがコツ」
請け負った響も秘伝のカレーレシピを駆使することで、鼻歌混じりに丁寧な作業を心掛ける。
(ユーヤの作るカレーが家庭の味。最も美味しい)
響はその信念のもと、作業の合間を上手く使い、持参したトロピカルフルーツの詰め合わせを駆使してジュースも作成していく。
「良し良し、良い感じだ。ここで我が家秘伝の隠し味、と」
遊夜は秘伝のチョコレートレシピを活用した『隠し味』を投入する。
(あとは秘伝レシピのカレーの素と隠し味としてカレー用に配合した秘伝レシピのチョコの素を入れて完成だな)
遊夜の表情は、何か企んでいるような笑みを形成していた。
「……ん、入れると入れないじゃ大違い……皆も気にいるはず」
それを見ていた響も含み笑いを浮かべている。
(あとは麻生家秘伝のカレールゥと隠し味のチョコを入れたら完成!)
ふんす、と響は気合を入れて持参した麻生家式カレーや秘伝のチョコレートレシピ、チョコレートの素などを活用して仕上げを行う。
一方らみの料理も順調に進んでいる。
「玉ねぎとかお肉とか。もちろんごはんもたくさん炊きまぁす」
らみの家事スキル、料理スキルが煮込まれた具材を料理へと変えていく。
なお米は天獄界より持ち込んだものを使用している。
「ルーにはソース。トマトケチャップ……」
らみは使用する調味料や材料の名を挙げながら、様々なものを鍋に投入する。
「ワインもちょっと。じっくりコトコト煮込みまぁす☆」
丁寧な作業の末、らみも料理を完成させていった。
●撤去完了
町の各方面で行われている瓦礫撤去作業により、町に残る瓦礫は順次撤去されていく。
「炊き出し場への行き来も円滑に行えるようにしておこう」
京四郎は『FF-03Q』を操作し、道を塞いでいる瓦礫の撤去に邁進していた。
「大体こんなものか。まだだいぶ大きい瓦礫もあるな」
京四郎は機体の中より現状を確認すると、残る瓦礫へと『FF-03Q』を向かわせる。
「……生身は無理でも魔導アーマーで運びやすいくらいにはしておくかな」
廃棄場への搬送を終えた京四郎は、今後のことも考慮して瓦礫の細分化を行い始める。
斬艦刀「破軍」が振るわれるごとに瓦礫は断ち割られ、その大きさも小さくなっていく。
「FF-03Qを平和利用するっていうのも、感慨深いものがあるな……」
処分しやすい大きさまで瓦礫を細かくした京四郎は、『FF-03Q』の中で独り言ちる。
北東部でも武蔵とシトロンの操作で『ヴァナディース・マルデル』2体がそれぞれ瓦礫撤去を進めていた。
「運べないくらい大きいやつは、武器とか拳で砕いて」
シトロンは周囲に人がいないことを確認したうえで、『ヴァナディース・マルデル』の握る巨神斧「グレイシャー」を瓦礫へと振り下ろし、斜めに断ち切る。
「運べるくらいの大きさにするよ」
なおもシトロンの操作で「グレイシャー」が持ち上がると再び落下し、真下にあった瓦礫を打ち砕いた。
「瓦礫はマルデルの腕で抱えて走って、地道に運んでいくよ」
シトロンは機体の中より今いる場所と廃棄場の間を視認し、人の有無を確認する。
『ヒトとぶつかりそうなら飛行して運ぶようにするね』
シトロンは念のため通信術式を介し、町の北東側から東南にかけて人の出入りがないか仲間達に確認を取ったうえで、『ヴァナディース・マルデル』に瓦礫を抱えさせ、そのまま廃棄場へと向かわせる。
「これで少しは前線が楽になるかなあ」
廃棄場に到着したシトロンは、機体を操作して瓦礫を降ろすと次の場所へと向かう。
『早くお仕事終わったら他の組のお手伝いに行くね』
通信術式を介し、自身の方針を仲間達に伝えたシトロンは、撤去作業にまい進する。
そして南西部では、シアンの『アルテュール・パラディン』が町の南側にある瓦礫の撤去を半分以上終わらせていた。
「巨大な瓦礫はフォゾンセイバーで焼き切って小さくするね」
シアンの操作に従い、『アルテュール・パラディン』のフォゾンセイバーが瓦礫を切り払い、砕けた瓦礫はさらに周囲へと散らばっていく。
細かくなったところでシアンは『アルテュール・パラディン』に瓦礫を抱え込ませ、試作型巨神機飛行ブースターによって廃棄場へと飛翔させる。
シアンの作業が進むに従い町の南側は更地へと戻り、『アルテュール・パラディン』が南側に残る最後の瓦礫を廃棄場まで持ち込んだところでシアンは機体の中より通信術式を開く。
『手が空いたけど、他に手伝えることはあるかな?』
シアンが通信術式を介し、ヒーに残っている作業がないか確認する。
『休んでいる暇があるなら働きたいからね』
シアンは今できることを最優先で行い、少しでも後方支援に貢献する意向を伝えていた。
やがてシアンや咎人達の作業により、町の中にあった瓦礫は全て廃棄場へ集めることができた
「瓦礫撤去が終わったらスッキリしたな……腹減ってきた」
武蔵は『ヴァナディース・マルデル』の中より更地の広がる場所を眺めていたが、ふと空腹を覚えたらしい。
そのまま武蔵は機体から降りると、今度は炊き出しの支援に回った。
●搬送も完了
物資コンテナを運ぶルートも全てひらけたことで、搬送に従事する咎人達も作業を進めていく。
「炊き出しの邪魔にならないよう、注意しながら移動致しましょう」
ゼロワンは引き続き丁重な運搬を心掛け、『マックファイター』の操作を慎重に行う。
コンテナの中身や周囲の状況にも配慮したゼロワンの運搬は、迅速な搬送ではないものの、安全重視という面では優れていた。
「余ったコンテナがあれば、同様に運搬を」
機体の中よりゼロワンはその場に残る物資コンテナを確認すると、それぞれの送り先へと運ぶ。
「今回のことはアサルトコアの支援運用法として、記録させて頂きます」
ゼロワンは今回の搬送作業も含め、アサルトコアの運用に多様性を見いだすためなのか、記録を取ることも忘れない。
「ポルタさまたちのお手伝いをいたしましょう」
静も北東側への荷を中心に、物資コンテナの搬送を続けている。
通信術式を介し、ヒーや周囲の仲間達との連絡を取った静は、空を飛行しても問題ないと確認したうえで、試作型巨神機飛行ブースターを稼働する。
その直後、『ヴァナディース・マルデル』は物資コンテナを抱えた状態から宙に駆け上がり、北東方向へと飛び渡る。
仮置き場に到着した『ヴァナディース・マルデル』は、抱えていた物資コンテナを降ろし、搬送は無事に終わる。
「これで最後です。……無事にすべて運び終えましたね」
機体の中から静は搬送状況を確認し、ようやく一息つく。
通信術式を介し、瓦礫撤去もあと少しで完了するとの連絡を受けた静は、炊き出しが行われている北勢方面に向かう。
●実食
遊夜が作成したカレー用のトッピングは、ソーセージや揚げ物などボリュームのあるものが多い。
「それとフルーツ絞ってジュースでも作るかな」
調理をほぼ完了させた遊夜は、響の行うジュース作りに自身も加わり、料理スキルも駆使して持参したトロピカルフルーツの詰め合わせをジュースへと加工していく。
そして遊夜や響のカレーが完成し、住民達へ提供できる状態になった。
「カレーと言えばこれらがないと話にならんからな、さぁ食ってくれ」
遊夜が炊き出しを待っていた人達に声をかけると、同じくハヤシライスを完成させたらみも、人々の案内を始める。
「カレーとハヤシの鍋に並んでもらいまぁす」
らみが最初の人達を誘導すると、人々は遊夜とらみの作成した料理の前に並んでいく。
「ハヤシなら、らみがよそいまぁす☆」
自分のところに来た人達へと、らみは笑顔を見せながら料理の提供を続ける。
「……ん、ジュースもある……しぼりたてだから、美味しいよ?」
一方遊夜や響もカレーの提供を順次行い、響は礼儀作法スキルや八方美人スキルも駆使しながら、しぼりたてのジュースも一緒に提供する等、遊夜をサポートしていた。
この頃には他の場所で作業にあたっていた咎人達も、食事場所へと合流し始めていた。
「料理をもらっていない人はいないか? いたらすぐ持ってくるから待ってろ」
武蔵はその場にいる人達へと積極的に声をかけ、既に並んでいる人達の動きも考慮しながら配膳を手伝う。
遊夜や響、そしてらみの話では、作成した料理は多めに作られたため全員に配り終える前に無くなるという事態にはならないようだ。
(配り漏れがないように、と)
武蔵は食事場所と配給場所を往復し、漏れがないよう動く。
「うあぁ~……さすがに疲れたっす、お腹減ったっす」
纒もコンテナ輸送を終えたところで機体より降り、今は食事を待つ列に並んでいた。
やがて全員に食事が行き渡り、一斉に食事を始める。
どこからともなく『ふおお』ともつかない声が漏れた。
続いて住民達の握るスプーンが忙しなく動き出し、作成されたカレーやハヤシライスがものすごい勢いで食されていく。
この町で暮らす住民達は米に慣れていなかったが、美味の前では問題ないようだ。
「片付いたら次は再建っすからね。まだまだお仕事は続くっす」
今後のことも見据えながら、纒は自身の料理に手を付ける。
なお纒はカレーとハヤシライスの両方を楽しむため、2度並ぶ手間をかけた上で、それぞれの量を少なめにして両方を確保していた。
遊夜と響の作成したカレーは、隠し味を加えることでコクが深く、辛さもマイルドになる一方でほんのりとした甘みが加わり食べやすく、そして美味に仕上がっていた。
らみの作成したハヤシライスもじっくりと煮込まれていて、具材はスプーンで容易に裂けるほど柔らかく、深いコクとまろやかな味わいが特徴の美味に仕上がっている。
一緒に加えられたバターがコクをより引き出し、ケチャップやソースがさっぱりとした酸味を形成して程よいアクセントになっていた。
(食べ過ぎないよう注意するっす)
纒は内心そう心がけながら、カレーやハヤシライスを味わっていた。
「帝国軍の侵攻を受けて大変だったんじゃないか? 大丈夫か?」
武蔵は近くで食事をとる人達にも積極的に声をかけ、話を聞いていた。
「ポルタさま、私たちもお食事をいただきましょう」
静は依頼人のポルタ・A・クエント(mz0139)が休憩に入ったところで食事に誘い、この場まで連れてきていた。
そしてポルタと共に自身の食事も確保した静は、そのまま食事を楽しみ始める。
「特別サービスでぇ、踊っちゃいまぁす☆」
料理が行き渡り、住民達がある程度食事をとって落ち着いたのを見計らっていたらみは、住民達の見える位置からパフォーマンスを始めた。
「初ワンダーステラーなのでミニスカサンタコスでぇす♪」
らみは笑顔と共に、舞踊スキルを駆使して自身の舞踊を披露する。
「疲れた人にはヒールとリフレッシュをサービスしちゃいまぁす♪」
自身の中でリズムに合わせて舞い、らみは該当する人がいないか住民達に声をかける。
――ガンバってみんなを癒やしまぁすっ。
なおヒールやリフレッシュⅡが必要となる人はこの場にいなかったものの、らみの気持ちは住民達に十分伝わった。
●全て完了しました
住民達は咎人達の提供した食事を平らげ、その心も落ち着かせることができた。
そして瓦礫撤去や物資搬送も滞りなく完了したところで、ポルタは咎人達への依頼を完了扱いとした。
「今回のご助力、本当にありがとうございます」
ポルタは咎人達1人1人に頭を下げ、感謝を伝えていく。
この後もポルタ達は奪還できた町で後方支援を担うことになるが、咎人達の助力によって大部分が改善できたので、ポルタ達がクエント公国に帰還できる日もそう遠くないだろう。
咎人の皆様。今回は後方支援にご協力下さりありがとうございました。
依頼に応じた咎人達は、町に到着するとそれぞれの活動を始める。
高柳 京四郎(ma0078)はアサルトコア飛行ブースターを稼働することで『FF-03Q』を宙に飛ばし、町全体を見渡していた。
「瓦礫がかなり散乱しているな……」
機体の中から瓦礫の大まかな位置を確認した京四郎は、作業場所を決めていく。
「俺はこっちの撤去に回ろうか」
京四郎は物資コンテナ近くに『FF-03Q』を着地させると、その周囲にある瓦礫から撤去し始める。
京四郎の操作で『FF-03Q』は大きめの瓦礫を抱えては町南東部にある廃棄場へと移動し、瓦礫を置いていく。
「この位置に瓦礫があると、炊き出し会場へも行きにくいだろうしな」
この他にも京四郎は『FF-03Q』を縦横に動かし、町北西部に設置された炊き出し現場への通路を確保するため、邪魔になる瓦礫をその場より運び出していた。
町の北東部では『ヴァナディース・マルデル』を駆る東江 武蔵(ma0410)が瓦礫の撤去を始めている。
「クエント公国当主の依頼か。成功させねば……」
機体の中で武蔵はそう意気込むと、その操作に従い『ヴァナディース・マルデル』が瓦礫の正面に立つ。
『デカいのは運びやすいよう、瓦礫はある程度壊したいんだが』
ここで武蔵は通信術式を介し、ヒー・リショナー(mz0073)へと確認を取る。
『現存する建物に被害を与えるようなことでなければ問題ない』
やや遅れてヒーより条件付きで瓦礫の破壊を認めるとの回答が届き、武蔵は周辺の状況を確認してから『ヴァナディース・マルデル』の拳で瓦礫を打ち砕く。
『了解だ。その近くで破壊行為が憚られるのであればその一帯では行わない』
通信術式を介し、ヒーに向け承諾の意を返した武蔵は運びやすい大きさとなった瓦礫を廃棄場へと移送していく。
「頑張ってお手伝いするよ!」
シトロン(ma0285)は『ヴァナディース・マルデル』の中で気合を切れる。
シトロンが最優先で片づけたい対象は、町北東部に散乱する瓦礫の群れになる。
その近くには物資コンテナを送り出すための仮置き場があるため、その周囲にある瓦礫を撤去できれば輸送もスムーズに進むだろう。
――後方支援も大事だよね。
そのような方針のもと、シトロンは瓦礫撤去にまい進する。
シトロンの操作に従い、『ヴァナディース・マルデル』は手ごろな大きさの瓦礫を掴み上げた。
「マルデル、発進! いっぱい運ぶよー!」
シトロンの掛け声とともに機体は廃棄場へと走る。
廃棄場に到着したところで抱えていた瓦礫を降ろすと、シトロンは次の瓦礫へと『ヴァナディース・マルデル』を向かわせる。
町の南西方向では、『アルテュール・パラディン』を駆るシアン(ma0076)が瓦礫の撤去作業を行っていた。
「後方支援だって重要な仕事だ」
シアンは依頼の内容説明を聞いた時から、今回の作業が意義のあるものだと考えていた。
「役に立てるように全力を尽くすよ」
シアンは後方支援など地味だが重要な作業が好みのようだ。
「これは片付け甲斐がありそうだ」
シアンは眼前に横たわる瓦礫に向けてフォゾンセイバーを斬り下ろし、断ち割っていく。
「他に働いている人もいるだろうし、運搬はぶつかったり妨げになったりしないように飛行してやろうか」
シアンはジェットドライブを起動し、一時的に機体の移動力と回避性能を高めた状態で、『アルテュール・パラディン』に小さくなった瓦礫を抱えさせると、試作型巨神機飛行ブースターを稼働することで宙に機体を飛ばし、廃棄場へと向かわせる。
この頃には町の北東部に散らばる瓦礫のうち、道路を塞いでいたものについては武蔵やシトロンの『ヴァナディース・マルデル』がある程度撤去を終わらせていた。
『こっちはだいたい片付いたからもう運べるよ!』
シトロンは通信術式を介し、物資を運搬する役を担う仲間達に現状を報告する。
●運搬作業
シトロンからの連絡を受け、咎人達は物資の運搬作業を開始した。
「先日の支援要請を受託して参りました」
ゼロワン・フォックス(ma0129)はFF-02『マックファイター』の召喚が完了したところで、周囲にいる兵士達から物資コンテナの届け先を一通り聞いていた。
そして機体の中へと滑り込んだゼロワンは、動作確認を行う。
「FF-02・マックファイターの起動完了。運搬作業を開始」
問題ないと判断したゼロワンは、機体の中より物資コンテナの数や位置を把握する。
「物資コンテナを確認。出力調整、拾得を行います」
自身の行動を復唱したゼロワンは、機体を操作して物資コンテナの一つを掴み上げる。
「バランサーに影響なし、このまま運搬地点へと移動します」
問題ないと判断したゼロワンは、外部スピーカーを介して周囲の兵士達に作業開始を告げた。
『早速運搬作業に入ります』
そのままゼロワンは物資コンテナを安全に運ぶため、慎重に『マックファイター』を動かす。
「何事も準備や後片付けが一番重要で大変、って感じっすからね」
『フィランギ・オーブ』を駆る白玉 纒(ma0300)は、この場での作業が重要なものだと理解している。
「四足だから馬車馬のよう働く~ってくらいの気持ちで頑張るっす!」
纒の動かす『フィランギ・オーブ』は、センサー部分の保護やユニットの追加の他、機体には橙色のカラーリングが施されているなど、纒の愛機として様々な改修が施されている。
「では……はいよー、フィランギ!」
纒は掛け声とともに物資コンテナを機体に抱えさせ、周囲にいる兵士達と外部スピーカーを介して声をかけ、危険がないよう配慮しながら物資コンテナを必要な場所へと搬送する。
「私は巨神機で補給物資の搬送をお手伝いしますね」
そして川澄 静(ma0164)の駆る『ヴァナディース・マルデル』も、物資コンテナの運搬作業に加わっていた。
通信術式を介し、シトロンから北東側の道がひらかれたことを知った静は、北東に届ける物資コンテナを機体に運ばせる。
「シトロンさまの邪魔にならないように、慎重に運びましょう」
静はフォゾンフロートを起動することで、搭載されたフロートユニットにより『ヴァナディース・マルデル』が浮遊すると、シトロンや他の仲間達が行っている作業を邪魔しないよう心がけ、その隙間を縫うように『ヴァナディース・マルデル』は進んでいく。
このとき静は北東側への搬送作業が難しい場合は、自身も瓦礫撤去作業に加わるつもりでいたが、現状では問題なく撤去作業は進んでいるようだ。
そのまま静は北東側にある仮置き場へとコンテナを置く。
「士気が上がるのなら、少し飛行してアピールするのもよいかな……?」
静は続けてプリズムウォールを起動し、魔法による光の壁を瓦礫と物資コンテナの置かれた道の間に形成すると、次の行動を思案していた。
●炊き出し
そして町の北西部に集まった咎人達も、炊き出しに向けた準備を進めている。
「らみでぇす☆ よろしくおねがいしまぁす♪」
花屋敷・らみ(ma1044)は調理に携わる兵士達1人1人に挨拶していく。
「他の人員は足りてそうだな……。ふむ、なら今回は炊き出しに回るか」
麻生 遊夜(ma0279)は瓦礫撤去や物資搬送を他の仲間に任せ、自身は料理作成に回る。
「……ん、お片付けも楽しそうだけど……食べるのも大事だから、ね」
遊夜に随伴する鈴鳴 響(ma0317)も遊夜を手助けするため、遊夜と共に調理を行うつもりだ。
「やはりカレーだろう、大量に作るなら煮込み料理が一番だからなぁ」
遊夜は使用できる食材とその量からカレーに決めたようだ。
「……ん。豚汁とかでも良いけど……カレーが美味しいし、得意だものね」
響も遊夜の案に賛意を示し、共にカレーの調理を始めた。
「鍋にぶち込むまでが大変だが……ま、腕の見せどころかね?」
「……ん、いっぱい皮剥いて……切らなきゃだもの、ね」
遊夜は不敵な笑みと共に料理スキルをフル活用し、響も遊夜の後に続き、家事スキルを駆使して食材の山と『格闘』し始める。
(牛肉、ジャガイモ、人参、玉ねぎと定番の食材を切って鍋にぶち込んだらコトコト煮込んでアク取りを)
遊夜が料理スキルを駆使して調理しているのは肉やタマネギ、人参、ジャガイモなど多数。
(ユーヤに追従してお肉やジャガイモ、玉ねぎとか切ったり鍋に張り付いて灰汁を丁寧に取ったり)
響も家事スキルを駆使して皮むきや食材を細かくする作業を手掛け、下処理の済んだ食材から鍋に投じていく。
「遊夜さん、響さんと協力してお料理しまぁす♪」
らみは遊夜や響の作業を手伝いながら、カレーとは別の料理を作るつもりでいる。
「ハヤシとカレーで驚くことがあったら楽しいかなって☆」
らみの作る料理と遊夜や響が作る料理は共通する食材が多いので、途中までは調理の過程も似た部分が多い。
「共通の食材をたくさん切っちゃいまぁす!」
らみは料理スキルや家事スキルを駆使して、目の前にある食材をそれぞれの料理に使われる具材へと変えていく。
(花屋敷さんはハヤシを作るらしいが鍋や食材は流用できるから問題なかろう)
遊夜もそうした理由から、らみと共同で作業を行っていた。
途中からは煮込んでいる具材を各料理へと振り分け、遊夜と響、そしてらみはそれぞれ料理の完成を目指す。
遊夜は秘伝のカレーレシピやカレーライスの素も使うことで、カレーの完成度をさらに高められるよう動いていた。
「すまん響、鍋見といてくれ。トッピングを今の内に作っとくからよ」
そして遊夜は響に後を託し、カレーにトッピングするものも並行して作り始める。
「……ん、ボクにお任せ……適度に灰汁を、取るのがコツ」
請け負った響も秘伝のカレーレシピを駆使することで、鼻歌混じりに丁寧な作業を心掛ける。
(ユーヤの作るカレーが家庭の味。最も美味しい)
響はその信念のもと、作業の合間を上手く使い、持参したトロピカルフルーツの詰め合わせを駆使してジュースも作成していく。
「良し良し、良い感じだ。ここで我が家秘伝の隠し味、と」
遊夜は秘伝のチョコレートレシピを活用した『隠し味』を投入する。
(あとは秘伝レシピのカレーの素と隠し味としてカレー用に配合した秘伝レシピのチョコの素を入れて完成だな)
遊夜の表情は、何か企んでいるような笑みを形成していた。
「……ん、入れると入れないじゃ大違い……皆も気にいるはず」
それを見ていた響も含み笑いを浮かべている。
(あとは麻生家秘伝のカレールゥと隠し味のチョコを入れたら完成!)
ふんす、と響は気合を入れて持参した麻生家式カレーや秘伝のチョコレートレシピ、チョコレートの素などを活用して仕上げを行う。
一方らみの料理も順調に進んでいる。
「玉ねぎとかお肉とか。もちろんごはんもたくさん炊きまぁす」
らみの家事スキル、料理スキルが煮込まれた具材を料理へと変えていく。
なお米は天獄界より持ち込んだものを使用している。
「ルーにはソース。トマトケチャップ……」
らみは使用する調味料や材料の名を挙げながら、様々なものを鍋に投入する。
「ワインもちょっと。じっくりコトコト煮込みまぁす☆」
丁寧な作業の末、らみも料理を完成させていった。
●撤去完了
町の各方面で行われている瓦礫撤去作業により、町に残る瓦礫は順次撤去されていく。
「炊き出し場への行き来も円滑に行えるようにしておこう」
京四郎は『FF-03Q』を操作し、道を塞いでいる瓦礫の撤去に邁進していた。
「大体こんなものか。まだだいぶ大きい瓦礫もあるな」
京四郎は機体の中より現状を確認すると、残る瓦礫へと『FF-03Q』を向かわせる。
「……生身は無理でも魔導アーマーで運びやすいくらいにはしておくかな」
廃棄場への搬送を終えた京四郎は、今後のことも考慮して瓦礫の細分化を行い始める。
斬艦刀「破軍」が振るわれるごとに瓦礫は断ち割られ、その大きさも小さくなっていく。
「FF-03Qを平和利用するっていうのも、感慨深いものがあるな……」
処分しやすい大きさまで瓦礫を細かくした京四郎は、『FF-03Q』の中で独り言ちる。
北東部でも武蔵とシトロンの操作で『ヴァナディース・マルデル』2体がそれぞれ瓦礫撤去を進めていた。
「運べないくらい大きいやつは、武器とか拳で砕いて」
シトロンは周囲に人がいないことを確認したうえで、『ヴァナディース・マルデル』の握る巨神斧「グレイシャー」を瓦礫へと振り下ろし、斜めに断ち切る。
「運べるくらいの大きさにするよ」
なおもシトロンの操作で「グレイシャー」が持ち上がると再び落下し、真下にあった瓦礫を打ち砕いた。
「瓦礫はマルデルの腕で抱えて走って、地道に運んでいくよ」
シトロンは機体の中より今いる場所と廃棄場の間を視認し、人の有無を確認する。
『ヒトとぶつかりそうなら飛行して運ぶようにするね』
シトロンは念のため通信術式を介し、町の北東側から東南にかけて人の出入りがないか仲間達に確認を取ったうえで、『ヴァナディース・マルデル』に瓦礫を抱えさせ、そのまま廃棄場へと向かわせる。
「これで少しは前線が楽になるかなあ」
廃棄場に到着したシトロンは、機体を操作して瓦礫を降ろすと次の場所へと向かう。
『早くお仕事終わったら他の組のお手伝いに行くね』
通信術式を介し、自身の方針を仲間達に伝えたシトロンは、撤去作業にまい進する。
そして南西部では、シアンの『アルテュール・パラディン』が町の南側にある瓦礫の撤去を半分以上終わらせていた。
「巨大な瓦礫はフォゾンセイバーで焼き切って小さくするね」
シアンの操作に従い、『アルテュール・パラディン』のフォゾンセイバーが瓦礫を切り払い、砕けた瓦礫はさらに周囲へと散らばっていく。
細かくなったところでシアンは『アルテュール・パラディン』に瓦礫を抱え込ませ、試作型巨神機飛行ブースターによって廃棄場へと飛翔させる。
シアンの作業が進むに従い町の南側は更地へと戻り、『アルテュール・パラディン』が南側に残る最後の瓦礫を廃棄場まで持ち込んだところでシアンは機体の中より通信術式を開く。
『手が空いたけど、他に手伝えることはあるかな?』
シアンが通信術式を介し、ヒーに残っている作業がないか確認する。
『休んでいる暇があるなら働きたいからね』
シアンは今できることを最優先で行い、少しでも後方支援に貢献する意向を伝えていた。
やがてシアンや咎人達の作業により、町の中にあった瓦礫は全て廃棄場へ集めることができた
「瓦礫撤去が終わったらスッキリしたな……腹減ってきた」
武蔵は『ヴァナディース・マルデル』の中より更地の広がる場所を眺めていたが、ふと空腹を覚えたらしい。
そのまま武蔵は機体から降りると、今度は炊き出しの支援に回った。
●搬送も完了
物資コンテナを運ぶルートも全てひらけたことで、搬送に従事する咎人達も作業を進めていく。
「炊き出しの邪魔にならないよう、注意しながら移動致しましょう」
ゼロワンは引き続き丁重な運搬を心掛け、『マックファイター』の操作を慎重に行う。
コンテナの中身や周囲の状況にも配慮したゼロワンの運搬は、迅速な搬送ではないものの、安全重視という面では優れていた。
「余ったコンテナがあれば、同様に運搬を」
機体の中よりゼロワンはその場に残る物資コンテナを確認すると、それぞれの送り先へと運ぶ。
「今回のことはアサルトコアの支援運用法として、記録させて頂きます」
ゼロワンは今回の搬送作業も含め、アサルトコアの運用に多様性を見いだすためなのか、記録を取ることも忘れない。
「ポルタさまたちのお手伝いをいたしましょう」
静も北東側への荷を中心に、物資コンテナの搬送を続けている。
通信術式を介し、ヒーや周囲の仲間達との連絡を取った静は、空を飛行しても問題ないと確認したうえで、試作型巨神機飛行ブースターを稼働する。
その直後、『ヴァナディース・マルデル』は物資コンテナを抱えた状態から宙に駆け上がり、北東方向へと飛び渡る。
仮置き場に到着した『ヴァナディース・マルデル』は、抱えていた物資コンテナを降ろし、搬送は無事に終わる。
「これで最後です。……無事にすべて運び終えましたね」
機体の中から静は搬送状況を確認し、ようやく一息つく。
通信術式を介し、瓦礫撤去もあと少しで完了するとの連絡を受けた静は、炊き出しが行われている北勢方面に向かう。
●実食
遊夜が作成したカレー用のトッピングは、ソーセージや揚げ物などボリュームのあるものが多い。
「それとフルーツ絞ってジュースでも作るかな」
調理をほぼ完了させた遊夜は、響の行うジュース作りに自身も加わり、料理スキルも駆使して持参したトロピカルフルーツの詰め合わせをジュースへと加工していく。
そして遊夜や響のカレーが完成し、住民達へ提供できる状態になった。
「カレーと言えばこれらがないと話にならんからな、さぁ食ってくれ」
遊夜が炊き出しを待っていた人達に声をかけると、同じくハヤシライスを完成させたらみも、人々の案内を始める。
「カレーとハヤシの鍋に並んでもらいまぁす」
らみが最初の人達を誘導すると、人々は遊夜とらみの作成した料理の前に並んでいく。
「ハヤシなら、らみがよそいまぁす☆」
自分のところに来た人達へと、らみは笑顔を見せながら料理の提供を続ける。
「……ん、ジュースもある……しぼりたてだから、美味しいよ?」
一方遊夜や響もカレーの提供を順次行い、響は礼儀作法スキルや八方美人スキルも駆使しながら、しぼりたてのジュースも一緒に提供する等、遊夜をサポートしていた。
この頃には他の場所で作業にあたっていた咎人達も、食事場所へと合流し始めていた。
「料理をもらっていない人はいないか? いたらすぐ持ってくるから待ってろ」
武蔵はその場にいる人達へと積極的に声をかけ、既に並んでいる人達の動きも考慮しながら配膳を手伝う。
遊夜や響、そしてらみの話では、作成した料理は多めに作られたため全員に配り終える前に無くなるという事態にはならないようだ。
(配り漏れがないように、と)
武蔵は食事場所と配給場所を往復し、漏れがないよう動く。
「うあぁ~……さすがに疲れたっす、お腹減ったっす」
纒もコンテナ輸送を終えたところで機体より降り、今は食事を待つ列に並んでいた。
やがて全員に食事が行き渡り、一斉に食事を始める。
どこからともなく『ふおお』ともつかない声が漏れた。
続いて住民達の握るスプーンが忙しなく動き出し、作成されたカレーやハヤシライスがものすごい勢いで食されていく。
この町で暮らす住民達は米に慣れていなかったが、美味の前では問題ないようだ。
「片付いたら次は再建っすからね。まだまだお仕事は続くっす」
今後のことも見据えながら、纒は自身の料理に手を付ける。
なお纒はカレーとハヤシライスの両方を楽しむため、2度並ぶ手間をかけた上で、それぞれの量を少なめにして両方を確保していた。
遊夜と響の作成したカレーは、隠し味を加えることでコクが深く、辛さもマイルドになる一方でほんのりとした甘みが加わり食べやすく、そして美味に仕上がっていた。
らみの作成したハヤシライスもじっくりと煮込まれていて、具材はスプーンで容易に裂けるほど柔らかく、深いコクとまろやかな味わいが特徴の美味に仕上がっている。
一緒に加えられたバターがコクをより引き出し、ケチャップやソースがさっぱりとした酸味を形成して程よいアクセントになっていた。
(食べ過ぎないよう注意するっす)
纒は内心そう心がけながら、カレーやハヤシライスを味わっていた。
「帝国軍の侵攻を受けて大変だったんじゃないか? 大丈夫か?」
武蔵は近くで食事をとる人達にも積極的に声をかけ、話を聞いていた。
「ポルタさま、私たちもお食事をいただきましょう」
静は依頼人のポルタ・A・クエント(mz0139)が休憩に入ったところで食事に誘い、この場まで連れてきていた。
そしてポルタと共に自身の食事も確保した静は、そのまま食事を楽しみ始める。
「特別サービスでぇ、踊っちゃいまぁす☆」
料理が行き渡り、住民達がある程度食事をとって落ち着いたのを見計らっていたらみは、住民達の見える位置からパフォーマンスを始めた。
「初ワンダーステラーなのでミニスカサンタコスでぇす♪」
らみは笑顔と共に、舞踊スキルを駆使して自身の舞踊を披露する。
「疲れた人にはヒールとリフレッシュをサービスしちゃいまぁす♪」
自身の中でリズムに合わせて舞い、らみは該当する人がいないか住民達に声をかける。
――ガンバってみんなを癒やしまぁすっ。
なおヒールやリフレッシュⅡが必要となる人はこの場にいなかったものの、らみの気持ちは住民達に十分伝わった。
●全て完了しました
住民達は咎人達の提供した食事を平らげ、その心も落ち着かせることができた。
そして瓦礫撤去や物資搬送も滞りなく完了したところで、ポルタは咎人達への依頼を完了扱いとした。
「今回のご助力、本当にありがとうございます」
ポルタは咎人達1人1人に頭を下げ、感謝を伝えていく。
この後もポルタ達は奪還できた町で後方支援を担うことになるが、咎人達の助力によって大部分が改善できたので、ポルタ達がクエント公国に帰還できる日もそう遠くないだろう。
咎人の皆様。今回は後方支援にご協力下さりありがとうございました。





